連載小説
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後編
「お待ちどうさま」

上機嫌に九本の尻尾を揺らしていづなさんは膳に乗った料理を運んできた。それをオレの前に静かに置く。

「おぉ…」

思わず声が漏れてしまうほどの丁寧な、まるでお店で出てくるような綺麗な飾り付け。大根や人参を用いて花を象ったものまでこしらえ彩られている。丁寧なんてものではない、経験と技術の傑作だ。
ただ、欠点があるとすれば…どの皿にも油あげが乗っているという事か。その光景に父の実家でオレ達を世話してくれた玉藻姉の事を思い出す。
よく狐は油揚げが好きという。稲荷寿司があるほどだから稲荷にとっては大好物なのかもしれない。
まぁ玉藻姉も狐だと言えば狐だったし。あの女性お酒のつまみに油揚げ食べてるほどだったし。いづなさんも同じくらいに好きなのだろう。
おくれて彼女も自分の膳を運び、置いてはその前に座り込んだ。
部屋に灯された明かりの下で微笑むいづなさん。灯篭や蝋燭にしては明るすぎる。きっといづなさんの手によりものだろう。

「それではいただきましょうか」
「え、あ、はい」

二人して両手を合わせて一言。

「「いただきます」」

日本と変わらない食前のあいさつをして箸へと手を伸ばしだされた料理に手を付ける。
のだが。

「…」

近い。
ただ食事をするにしては近い。すぐ傍に、隣にいるのは近すぎるだろう。大きく膨らむ尻尾が背中を撫でるほどの距離にいる。少しだけ体を傾ければいづなさんの肩に頭を預けられるほどだ。
本来食事というのは向かい合ってするものではないのだろうか。それに隣に居なければいけない理由などない。だが、それでも彼女はオレから離れそうにもない。
いづなさんは箸を持つ手を止めオレが食べる姿をじっと眺めている。
…流石にこんな距離で見つめられれば気にせずにはいられない。

「いづなさん、どうかしましたか?」
「あ、ごめんなさい。手料理を食べて貰うのって初めてなので気になっちゃいまして…お口に合いましたか?」
「はい、とてもおいしいですよ」

口に入れたとたんに広がる味。薄味ながらも醤油やみりんの風味を感じる。
どの料理も料亭で出てくるような上等なものであり、調味料の使い方がいいだけではなく火の通し方、材料の切り方と細かなとこまで気を付けている。油揚げという存在をバリエーション豊かに振る舞えるのは多くの知識と確かな経験があるということだ。
自然と箸が進む。煮付けを味わいご飯をかき込む。それでも年頃の健全な男子高校生、この程度では腹は膨れない。

「ふふ♪ご飯粒ついてますよ」
「え?あ…」

あわててとろうと指で唇付近を拭おうとするとそれより先に手が伸びてきた。振り払うわけにもいかずそのままの姿勢を保つ。
細く白い指先が唇の端を撫でる。ただそれだけだがすぐ隣でそんなことをされれば距離は縮まり、自然と―

「…あ」
「っ…」


―すぐ傍までいづなさんの顔が迫っていた。


恥ずかしそうに頬を染め、それでもオレを見つめる二つの瞳。頭の上の耳が揺れ、桜色の唇の間から吐息が漏れる。優しい甘い香りに自然と瞼が閉じかけた。

―キス、したい。

そう思ってしまったのは彼女の仕草に惑わされたからか、はたまたそれがオレの本心だったからか。体を張なそうとは思えずただその瞳を見つめ続ける。

「ゆうた、さん…」
「いづなさ、ん」

瞼が閉じてどちらともなく顔が近づく。艶やかな唇を互いに重ねようとその部分だけを意識していたそのとき。
かたんっと、指先から落ちた箸の音に意識が現実へ戻ってきた。

「っ!」
「あ…」

慌てて体の位置を戻し食事へと意識を戻す。
何を、しているんだオレは。
何を、考えてるんだオレは。

惑わされるような感覚は彼女のせいか、はたまたオレの欲望か。

「い、いづなさん…料理、さめちゃいますよ」
「…そうですね」

視線を合わせないように、逃げるように箸に手を伸ばし料理を再び口へ運ぶ。そうして、どこかよそよそしくなりながらもオレといづなさんは食事を続けるのだった。





食事を終えた後は風呂。既に用意してあったらしく食器を片づけると先にどうぞと進められた。だがここはいづなさんの家。家主よりも先にはいるなど失礼きわまりない。故にいづなさんが出た後にオレは湯を貰うこととなる。

「…ぁああ」

木で作られた大きな風呂に方まで浸かる。両足を伸ばしても十分な広さがあるのはいづなさんの尻尾のためだろう。あの大きく九本もある尻尾でも浸かることができる風呂は人間にとってはあまりにも贅沢だ。
既に湯に浸かったいづなさんは寝室へと赴いている。きっと布団を敷いてオレのことを待っているに違いない。
元々ジパングの夜はなにもすることはない。日が昇れば起き、日が沈めば寝る生活が一般的だ。電灯のような明かりはないし、蝋燭ですらかなりの金額がするという。徹夜してまでする娯楽は読書ぐらいしかなく、ならさっさと寝てしまうのが一番だろう。

だがそれは一人の場合。

今はいづなさんがいる。

二人もいればすることなんていくらでもある。日が沈もうと彼女は闇を照らすことなど造作もない。それなら何でもできることだろう。

そして、男のオレと女のいづなさん。

「どうしよう…」

男と女の二人きりの夜。邪魔する者も気にすべき者も誰もいない。
そんな空間でこれから共に眠る。だが一人暮らしの女性の家に布団が二組もあるだろうか。

いや、もしかした再びいづなさんの尻尾にくるまることになるのかも。


「どう、するか…」

困ったように天井を仰ぎ、したたり落ちた水滴が額をぬらした。





風呂をでると体を拭くための手ぬぐいと寝間着用に用意してくれたのか着物がおいてあった。真っ白な記事であり紫色の模様が刻まれたそれは襦袢か、はたまた浴衣だろう。
せっかく用意して貰ったので着替えることとする。やや大きめでゆったりとした着心地のそれは不自然に穴が開いていた。

「…」

それも臀部に。結構大きな穴だ。
考えればわからなくはない。これはきっといづなさんの着ているものだろう。稲荷の彼女にとって普通の人間が着る服では尻尾を出すことができないのだから。

「…ってこれいづなさんのか」

改めて考えるとオレはいづなさんの服を着ていることになる。

「…」

考えるだけで変な気分になりそうだ。
だが寝間着の服を持ってきていないのだし仕方ない。学生服姿では寝るのに適してはいない。

「…仕方ないか」

他に手があるわけでもないのでこのままいいづなさんの元へと行くことにしよう。臀部の穴から下着が丸見えなのは…この際諦めるしかなさそうだ。





先ほど案内された部屋に訪れるとそこにはすでに準備を終えたいづなさんがいた。普段着込んでいる着物とはまた違う服は浴衣か襦袢だろうか。薄紫色のそれは側に置かれた灯篭の明かりで妖しく映り、開けた胸元が強調される。ぱたんっぱたんと、まるで誘うように九本の尻尾が畳を打ち揺れた。

「ゆうたさん、こちらへどうぞ」

名前を呼ばれ仕方なく傍へと足を進める。だがどう見てもオレの目に映るのは大きな一組の布団だけ。枕も一つなのは彼女が一人暮らし故のこと。
だがしかし、それではオレの眠る場はどうなるのだろう。

「えっと…いづなさん。オレはどこで寝ましょうか?」

二人並んで眠っても余裕がある大きさの布団だろうが、彼女の尻尾の寝心地が最高だろうが関係ない。わきまえるべきところはわきまえなければ。
だがいづなさんはオレの手をそっと握り込んだ。無言でもじもじとするのだが尻尾はオレの手足へ絡みついてくる。普段のように、それでも込められた力は普段以上に。

「ちょ、いづなさん…?」
「残念ですがここには布団は一組しかありません。狭いかもしれませんが我慢してください」

恥ずかしそうに答えるのだがその瞳はどことなく潤んでいた。
男女七才にて同衾せず。
年頃の男と女がみだりに接することはあまりいいことではない。
親しき仲にも礼儀あり。
オレといづなさんの関係は他人以上のものだがそれでも度が過ぎるのはだめだろう。同衾とは魅力的だがオレも譲れぬところがある。それに、先ほどの様な雰囲気にまた飲まれるのはいただけない。

「それとも」

絡みついた尻尾の一つが首筋を撫であげた。

「またこちらで眠りますか?」

妖しく揺れる九本の尻尾。昼間に味わった極楽のような感触。確かにもう一度味わいたくはあるが先ほどとは状況が違う。
正直今は全然眠くない。夕方から夜中まで眠りこけていたんだ、仕方ないことだろう。
そんな状態で普段以上に近づいて、彼女の体に抱かれたままで平静を保てるはずもない。
だが、それでも彼女はオレを離そうとはしてくれない。



「どちらが…よろしいですか?」



妖しく紡ぐたった一言。抗うことなどできやせず結局オレは彼女の尻尾に包ることとなった。布団の上にいづなさんが横になり、五本の尻尾が隙間なく横たわる。昼間に見せた尻尾布団の出来上がりだ。

「さぁ、ゆうたさん」

ぽんぽんと尻尾の上を叩いていづなさんはオレを呼んだ。
流石にここで拒否するのは失礼か。だが、今は夜だから昼とはまた状況が違うから…。
考え事をしているオレを催促するように両手に残った四本の尻尾が絡みついてきた。

「ゆうたさん」

切なげにかけられた声に拒む気力が削がれていく。
柔らかく絡みついた尻尾に逃げる意志が消えていく。
…仕方ない、か。

「えっと…失礼します」
「はい、どうぞ」

並んだ五本の尻尾に体を倒し、四本の尻尾が覆い被さってくる。
体を横に向けるとすぐ傍にいるいづなさん。その顔を見てふと思う。
よくよく考えるとこれは添い寝よりもずっと過激なものかもしれない。稲荷の尻尾は人間にない部分である故に想像できなかったが体の一部の上に相手を乗せるというのは膝枕や腕枕に近いものがある。

「…っ」

間近に見えるいづなさんの顔。昼間は眠くて気づかなかったが先ほど以上に近いのではないか。
拳一つぐらいしか開いてない隙間。互いが吐き出した息をすう、そんな位置。ふわりと香る甘い香りは石鹸だけではないだろう。
灯籠の光もすでに消えた暗がりでもいづなさんの顔がはっきり見えるのはオレが夜目がきくからか、障子越しの月明かりが明るいからか、はたまたいづなさんのせいなのか。

「ゆうた、さん」
「っ!」

突然延びてきた彼女の手がオレの手を掴んだ。指先を絡めては何度も握り込む。
以前にしたときのように、だけどあのとき以上にねちっこく。感触を楽しむのではなく、まるで互いが交わるかのように執拗に。

「…ぁ……はぁ……っ」

切なげに吐き出された息はどちらものだったか。ただ手を握っているだけなのに心音が激しさを増していく。

「…」
「…」

互いに無言。だが共に顔を赤く染めていることだろう。
それは羞恥か、照れか、興奮か。誤魔化すように身を捩ると背中に感じる尻尾がオレの体を締め上げた。いや、尻尾に体を引かれている。そのせいで距離が縮み、互いの隙間はもう拳半分ほどもなくなっていた。

「ゆうたさん……その」
「は、い…?」

柔らかそうな唇が恥ずかしげに言葉を紡ぐ。

「もう少し、そちらへ行ってもよろしいでしょうか…?」
「え…いや」

これ以上詰められる距離はない。詰めたとしても互いの体が密着するだけだ。
だがいづなさんはオレの返答を待たずに身を寄せてきた。

「んっ」
「う、ぁ…っ」

ふにっと胸板に押し付けられる柔らかな膨らみ。ふわりと香る甘い匂い。そしてオレよりもやや高い体温。

「いづなさん、近い…」

女体の感触に身を捩って逃げようとするが尻尾は変わらず締め付けて離さない。それどころかするりと抜けた手がオレの体に添えられていた。

「はしたないと思われるかもしれませんが…ゆうたさんといると…もっとゆうたさんを感じたくなるのです。人肌の温もりを覚えると一人の孤独が辛くなるもの…ゆうたさんが傍にいない時がどれだけ寂しいものかわかりますか?」
「それは…」
「ゆうたさんが帰った後の尻尾の残り香がどれだけ私を切なくさせるかわかりますか?」
「…」

オレには理解できない悩み事。それは彼女が神様と崇められている故のもの。誰もが敬う神様の領域へ踏み込む人間は普通いない。その手を取ることすら恐れ多い。実際オレがやっていた事なんて失礼きわまりない行為だ。


だからこそ、人肌の暖かさがなによりも染み込んでくる。


「こんなことただの私の我が儘です。もしかしたらゆうたさんに迷惑をかけているかもしれません。それでも、やめることはできないのです」

―届く言葉に安らいで。

―向く視線に落ち着いて。

―重なる肌に安堵して。

―他人の存在を求めて止まなくなる。

「ゆうたさんとあう前ならこんなこといつも通りでした。一人で眠って、一人で起きて、それで時折訪れる参拝者は私を神様と崇めるだけでそそくさと帰ってしまうことが普通でした」

そこで一度言葉を区切る。

「ですが」

重なったいづなさんの片手に力が込められた。

「もう一人でいる寂しさに耐えられそうにありません」

密接に触れあった体と体。

「迷惑をかけてごめんなさい」

ねだるように耳元で囁かれる声。

「自分勝手でごめんなさい」

二度と離さぬように絡まる尻尾。

「でも、今だけは…」

そして、囁かれた真っ直ぐな言葉。

「ゆうたさんの温もりを感じさせてください」

狐色の瞳に映るのはただオレ一人。求めるように延びる手が捕まえたいのはただオレ一人。離れることを許さず、傍で同じ時間を感じたい。孤独に嘆くのではなく、二人だということを実感したい。
それが九尾として崇められた稲荷の、いづなさんの願いだろう。

「…ずるいですよ」

そんなことを言われたら引き離すことなどできない。尻尾の拘束から無理矢理逃げられても離れたいとは思えなくなる。
寂しそうな表情は反則だ。
切なげな声色は卑怯だ。
手を伸ばして慰めたくなってくるし、甘えられるまま構ってあげたくなる。



だがそれ以上に男としての欲望を押さえられなくなる。



「オレだって男ですよ?それを…いづなさんみたいな美人と一緒の布団にいたら我慢できなくなるっていうのに…」

手を伸ばせば届く距離。腕を突き出さなくても彼女に触れられ、顔を寄せるだけで唇が重なる位置だ。力ずくで行為に及ぶこともできなくはないだろう。
欲望の火に理性を炙られ今にも千切れそうなのにそれでも彼女は離してくれない。むしろ、さらに距離を詰めようとする。体が触れるその位置まで。

「触りたい、ですか?」
「触るだけじゃ止まりませんよ。もっとその先までしたいですし…その、だから…体離しません?」

その言葉にくすりと笑われた。おかしそうに、だけど嬉しそうに。

「私はゆうたさんに触れていたいです。もっと肌を重ねて、貴方という存在を感じていたいんです」

襦袢から延びた足が絡み合い、細くてすべすべの肌がこすれた。

「手も足も、その体も唇も…全て」

尻尾の先が撫でていく。くすぐったくて身を捩ると両手が頬へと添えられた。

「だから」

鼻先が触れ合って視線が混じり合う。狐色の瞳が熱をはらんで向けられた。
誘っている、というよりも襲いかかろうとしている。獣の如く交わって欲望のままに求めるように。

「ゆうたさんを全身で感じたいです」
「…っ」

告白にも等しい言葉に頬が熱くなる。恥ずかしくて、顔を隠そうにも彼女の手が許してくれない。
絡みついた腕と尻尾。それだけではなくのばした足すら絡み合う。うるさいくらいに鼓動を刻む心臓は隠さずともばれているのだろう。

「ゆうた、さん…♪」

切なく、甘く、それでいて愛おしく呼ぶ声と共に瞼が閉じていく。どちらともなく顔を寄せ、オレといづなさんは唇を重ね合った。

「ん…っ♪」

唇に感じる筆舌しがたい柔らかさ。しっとり湿りほのかな甘みのするそれは触れているだけでも心地よく、興奮した心を高ぶらせる。
数秒して互いに唇を離す。まるで夢心地の口づけだが紛れもない現実だ。離れたいづなさんは確かめるように指先に指を添えるとにこりと笑った。

「ゆうたさんの唇、やっぱり柔らかいですね」
「…やっぱり?」

うっとりと紡がれた言葉にオレは首を傾げた。
やっぱりとはどういうことか。オレにとっては今のがファーストキスであり、いづなさんの体に唇が触れ合うことは一切なかったはずだ。いや、尻尾に顔を埋めたことはあったが。

「実はゆうたさんが眠っていたときに少し悪戯しちゃいました」

ぺろりと舌を出す。いづなさん。可愛い、じゃなくて。

「…いたずらって、何を?」
「こんなふうに」

いづなさんの手がオレの顔を挟み込むと彼女は唇で啄むように口づけを落としてくる。
瞼に、頬に、額に、鼻先に、そして唇に。

「っ…ぁっちょ、んっ…いづなさん…っ」

やめてとは言えないが、こんなことを眠っているときにして欲しくなかった。できれば起きているときにして欲しかったがそんなことをされたら顔をまともにみれなくなっただろう。

「ずるい、ですよ…本当に、ずるい人です…っ!」
「稲荷ですよ♪それに、ゆうたさんのせいでもあるんですから…私の尻尾で無防備に眠っているんですもの、悪戯だってしたくなりますよ…んっ♪」

再び唇を重ねてお互いの感触を味わう。それだけではなく手は体を撫で、九本の尻尾はそれぞれ腕に、足に、腰にと体中に巻きついてきた。痛みはないが離れることはまずできないだろう。

「ゆうたさん…っ♪」

離した唇から甘えるような声を出し、でいづなさんの両腕も伸びてきた。オレよりも細く華奢なそれは体の感触を確かめるように背中を撫でていく。

「脱がしますね」
「え、あ…」

気づけば手際よく服を脱がされ、彼女もまた脱いでいた。
暗がりでもはっきり見えるいづなさんの体。傷一つない滑らかな肌に女性らしさを表す大きな膨らみ。その先端には愛らしい桜色の突起がある。尻尾に抱きつかれているので全身は見られないがそれでも十分見惚れてしまうほど美しい。

「綺麗です、いづなさん」
「ありがとうございます♪ゆうたさんのお体も逞しくて素敵ですよ♪」

隙間なく密着した肌と肌。互いの体温が溶け合って混じりあっていく。
柔らかく温かい肌の感触ともふもふとした尻尾の感触。前後を違った柔らかさに挟まれる感覚は極上なものだった。

「触り、ますね?」
「はい…」

互いに掌で肌を撫でていく。爪を立てないように注意して、愛する様にゆっくりと。オレが肩を撫でるといづなさんは腕を撫で、足を撫でると脇腹を撫でられる。肌を刺激する優しい感触にお互い無言で身を任せる。
あるのはただ気持ちよくさせたいということ。
そして何より相手がいるという事実をもっと感じていたいこと。
その感触をただ求め、相手という存在を欲しがって、お互いに高ぶっていく。求めて止まない感情は抑えきれずに溢れだす。もっと欲しいと、まだ足りないと、お互いの手の動きが激しくなる。
撫でているといづなさんの手がオレの手を掴んである場所に押し付けられた。

「ぁっ」
「もっと、私を感じてください」

柔らかな二つの膨らみの間に押し付けられた掌には激しく鼓動を刻む心音が伝わってきた。
昂ぶっているのはお互い様。彼女のもまた興奮しているらしい。

「すごい興奮してますね」
「だって、こんなこと初めてなんですもの」
「…初めて?」

その言葉にオレは首をかしげるといづなさんは恥ずかしそうに両手をもじもじさせた。

「物心ついたころから私は神様としてあがめられる身でしたから、こんなに触れ合うこと自体初めてですよ。今までだって尻尾に抱きついてくる人も私の隣まで来る人もゆうたさんしかいませんでした」
「…っ」

ぞくりとする。
重なり合う絶世の美女の初めてとなる。これほど男として光栄なことはないだろう。もっともこちらも未経験故に恥を晒すことになるかもしれないが。

「だから、上手くできないかもしれませんが…」
「それはお互い様ですよ、いづなさん。オレもまぁ、その、初めてですから…ね」

恥ずかしげに小さく笑いあい、胸元の手をゆっくり動かし添える。手のひらから伝わる筆舌しがたい柔らかさ。和服越しにも見て取れた大きなそれを感触を確かめるように力を込めた。すると淫靡に形を変え、指がふわりと沈み込む。唇とは違う柔らかさに男としての本能が滾った。

「痛くないですか?」
「はい…ぁ、んっ♪」

堪えるように漏れる甘い声。力を入れすぎないように揉み解すと掌にやや硬くなったものを感じた。掌で隠れて見えないが確かな感触にオレは手を離す。
そして、口づけた。

「ぁあっ♪」

いづなさんの肩に手を添えて何度もそこを唇で挟み込む。手でやるよりもずっと優しく、それでいて愛おしく。
吸い付き、啜り、時には舐める。甘く噛んでは再び吸う。そうするといづなさんは息を荒くし体を震わせた。

「や、ぁあ♪ゆうたさん、そんなに吸っちゃ、ああっ♪」
「感じてくださいよ、いづなさん」

まるで果実を傷付けず味わうように何度も何度も舐めては啜った。ねっとりといやらしく舌を這わせて、執拗なまでに唇で撫でる。その刺激は強すぎるのかそれとも敏感なのか先ほどからいづなさんの体は震えっぱなしだ。
男として美女をよがらせているという事実が堪らない。故に、止まれない。
何よりいづなさんが感じてくれることが嬉しくて、もっと感じて欲しくなる。

「んんっ!?」

しかし、突然体に走った感覚に思わず口を離した。顔をあげれば悪戯に成功したような、嬉しそうないづなさんがこちらを見つめている。

「いづなさん、何を?」
「私ばかり感じさせてもらっては悪いですよ。それに私も、もっとゆうたさんを感じたいです♪」

その言葉と共にいきり立ったオレのものにいづなさんの指先が絡みついた。

「く、ぁ…っ」
「すごい、まるで鉄みたいに…これほど固くなるんですね」

興味深そうに眼を輝かせたいづなさんは何度も何度も撫でまわす。柔らかな掌は、白魚のような指先は、滑らかな肌の感触は快楽となって体に伝わってくる。一人でするのとは違う、相手がいるからこそ得られる感覚はあまりにも甘く、それでいて強烈だ。無意識なのか、たまた本能的なものなのか、いづなさんの手つきは絶頂へと押し上げるものだった。

「いづなさん、やめ…っ」
「ゆうたさんも私の事を感じてくださいね♪」
「いや、もう十分…っ!」

制止の声を聞かず悪戯狐は手の動きをやめようとはしない。先っぽを弄び、くすぐるように裏筋を撫でていく。上下に扱くようなことはしなくとも射精に至るには十分すぎるものだった。

歯を食いしばってなんとか耐えようにも彼女はオレの反応を楽しむように撫でまわす。その刺激に当然耐えられるはずもなく。

「…っ!」
「すごい膨らんで、固くなってきまし…あっ♪」

何度も体を震わせていづなさんの掌に精液を吐き出した。彼女はそれを零さぬように包み込み、最後の一滴まで受け止める。そして全てを吐き出し終えた後いづなさんは見せつけるように顔の前に持ってきた。

「すごい匂いがします。とっても濃くて…これが、ゆうたさんの匂いなんですね♪」

掌についた白濁液を恍惚とした表情で見ていた彼女は何を思ったのか突然それを舐め上げた。赤い舌が拭うように掬い取り、まるで蜂蜜でもついているかのように執拗に嘗め回す。

「あ、はぁ…すごい♪ゆうたさんの味がします…♪」

掌のついた精液を全て舐め終えたいづなさんはそう言った。

美しいのだが、いやらしい。

昼間に見ていた優しい顔とは一変して浮かべるその表情はあまりにも淫靡なものだ。頬を朱に染めた淫らな微笑みに思わず背筋がぞくりとする。一度出したことで落ち着くかと思ったが興奮は収まりそうにはない。
全てを舐め終えたいづなさんはさらに体を摺り寄せてきた。

「もっと感じたい…ゆうたさんが、もっと欲しいです♪」

一度射精してもまだ固さのあるオレのものに体を擦りつけてくる。しゃりっと肌とは違う陰毛の感触が裏筋から伝わりぞくりと体を震わせた。

「オレも、いづなさんが欲しくてたまりませんよ」
「はいっ♪私を、感じてください♪」

腰を押し付けいづなさんの肌を擦りあげる。彼女もまた腰を押し付け大切な部分を差し出す様に重ねた。

「あっ♪」
「ん」

一番敏感な部分を触れ合わせているだけだというのに蕩けるほど心地いい。熱く、ぬめりを帯びた粘液が絡みつき、快楽になり体に流れ込んでくる。
あと少し。腰を寄せて突き出すだけ。
遮るものは何もなく、あとは二人で重なり合うだけ。

「ゆうたさん…♪」

愛おしげに名を呼ぶいづなさんの尻尾に腰を引かれ、先っぽが軟肉に押し付けられた。濡れそぼったそこは今か今かとその瞬間を待ち望み、熱い粘液を滴らせる。

「いきますね」
「はい…来てください♪」

互いに頷きあい、腰を押し出す。途端に肌に吸い付いてくる熱く滾った柔らかな肉。隙間なく密着するだけではない、吸い込むように纏わりつく肉の感触に一瞬体の力が抜ける。

「はぁぁああ…っ♪」
「っ…」

甘く艶やかな声を漏らしいづなさんは抱きしめる手に力を込めた。それでも腰を止めることなく肉を掻き分け押し入っていく。柔らかな抵抗を感じつつもゆっくり腰を寄せ合っていく。
何かを突き破る様な感触を感じて一度動きを止めた。

「あ、ぁぁ♪…はぁ、ん……ぁ♪」
「痛く、ないですか…?」
「は、いぃ…っ♪」

暗がりでもわかるほど顔を真っ赤にさせていづなさんは頷いた。潤んだ瞳はまっすぐオレへ向けられて嬉しそうに微笑む。

―美しい。

その姿にそれしか浮かばない。淫らで、色っぽくて、いやらしくて、だけどもそれ以上に美しいと感じてしまう。

―それでいて、嬉しい。

いづなさんがオレを求めてくれることが、たった一人の男性として心から欲してくれることが。
尻尾の巻き付きがさらに強まり、抱きしめた腕を解いて手を重ねあう。さらには足を絡めあってオレといづなさんはさらに体を触れ合わせた。

「ゆうたさん…♪」
「ちゃんと、いますよ」

きつく、それでも優しくもみほぐす様に締め付けるいづなさんの膣内。無理やり快感を叩き込んでくるようなものではなく甘やかす様にうねったり、甘えるように蠢いてくる。その感覚に我慢することを忘れただみっともなく快楽に流されそうになる。

「はいっ♪しっかり感じます…ゆうたさんが、私の中にいるのを♪」

恍惚とした表情でいづなさんは下腹部を撫でた。ちょうどオレを飲み込んだあたりに手が置かれると伴って膣内が反応する様に締まった。

「あっ♪」
「んっ」

その感覚に互いの声が漏れ、恥ずかしげに笑いあう。

「ゆうたさんのが私の中で脈打ってますね」
「いづなさんの中が気持ちよすぎるんですよ」

額を重ねて、指先を絡めあい、肌を密着させる。全てを曝け出し繋がりあっているというのにどこか恥ずかしく、それでもまるで夢の中みたいに心地いい。
夢見心地とよく言ったものだと思う。
人外であっても絶世と言っても過言じゃない美女。そんな相手と体を重ねている。まるで夢の様な体験だがこれは紛れもない現実だ。
互いに布団に横になって向き合った状態では思うように動けない。それ故か、いづなさんの膣内の感触を敏感に伝わってくる。肉ひだ一つ一つが絡みつき、粘液が滴り、肉壁が隙間なく締め上げる。まるで離れたくないと言わんばかりにきつく、それでいて甘やかす様に柔らかに。

「いづなさん…」
「はい…♪」

名前を呼んだだけで何を言いたいのか理解したらしい。
ゆっくりと互いに腰を前後させる。激しくはできないが初体験なオレにとっては絶頂へ至るに十分すぎる刺激だ。

「あっ♪はっ♪ぁああっ♪」

僅かな動きで、それでも確実に絶頂へと登っていく。腰を突き出す度にいづなさんは体を震わせ甘い声を漏らした。
ゆっくりと擦られる膣肉は肉ひだの一つ一つが磨くように纏わりついて来る。腰を引こうとすれば強く締め付け、押し込めば優しく包まれる。ずっと傍に居て欲しいと言わんばかりの感触はいづなさんそのものだ。

「いづな、さんっ」
「はいっ♪あぁ♪ふ、ぁあっ♪」

獣欲だけではない感情。
本能だけではない気持ち。
喜びであり、温もりににたものが心を染め上げていく。
今までの孤独を埋めるように、独りの寂しさを満たす様に体を密着させ、固く手を握り合い互いに腰を動かしあう。激しさはなくとも互いに互いを絶頂へと押し上げていく。

「あぁああっ♪ゆうたさんっ♪ゆうた、さんっ♪」
「いづなさん、もう…っ!」

未経験者が長時間耐えられるはずがなくすぐさま絶頂の予感に体を震わせる。腰を引き抜くべきかと思ったが体を拘束する尻尾がそれを拒否する。それ以前に絡めた足が、まわった腕が、求める瞳が離れることを拒んでいる。
突き放すことはできなかった。いや、まずいとすら思えなかった。

「…っ!」

全身に鳥肌が浮かび、背筋に悪寒のような震えが走り爆発する。目の前が真っ白に染まっては何度も脈打ちいづなさんの膣内へ精液を流し込んでいく。それに応じるように彼女は締め付け吸い込むように脈動した。

「あっぁああああああああ……っ♪」

膣内に精液を吐き出される感覚で絶頂へと至ったのかいづなさんと共に互いに体を震わせる。
全てを吐き出し、絞られた後。心地良い脱力感に包まれながら結合部を見る。暗がりでわかりにくいがそれでもそこには交わりあった互いの体液が滴り落ちていた。

「すいません、中に」
「いいん…ぁ♪ですよ…」

謝ると彼女は自分の下腹部を撫でた。吐き出された精液の感触を愛おしそうに味わうように。

「だってゆうたさんが私を感じてくれたという証じゃないですか♪」

雄に種付けされるという感覚。一人では絶対に得られない快感。それ以上に胸を満たすのは相手がいるという事実。一人ではない、孤独ではないという実感にいづなさんはにこりと笑って囁いた。

「もっともっと、私の中に一杯出してくださいね♪」
「…ああ、もう」
「きゃっ!」

嬉しくて、恥ずかしくて、照れてしまってきっとすごく頬が緩んでるだろう。オレは誤魔化す様にいづなさんを無理やり抱き上げた。

「ゆうたさん?」
「こっちの方がもっとくっつけますよ」

尻尾の生えているいづなさんが下になれば尻尾を踏みつけてしまう。オレを乗せても痛がらなかったところを見るにそこまで辛くはないだろうが負担であることに違いない。それなら彼女が上になった方が言いだろう。
だが彼女はもじもじと恥ずかしそうに顔を伏せた。

「…重く、ないですか?」

その一言に思わず笑ってしまう。

「わ、笑わなくても…いいじゃないですか…っ」
「すいません。全然重くないですよ。むしろ、こうしていたいくらいです」

ここに居るという確かな感触が伝わってくる。それだけでもオレの心をどれだけ満たしてくれることか。
だからもっと欲しくなる。満ちるのはいづなさんだけではない。オレもまた、彼女という存在で満たされたくてたまらない。

「もっとこっちに来てください」
「あぁっ♪」

背中に腕を回し抱き寄せる。ただそれだけでも敏感ないづなさんは小さく声を漏らした。互いの体が密着する。先ほど以上に重なりあい、彼女のさらに奥へと飲み込まれた。

「んんっ♪」
「ぁっ」

全てがいづなさんの中に埋まり、周りとはまた違う柔らかいものに先端がぶつかった。きっとこれはいづなさんの一番奥であって子宮口なのだろう。

「ふ、ぁああ♪ゆうたさんが、一番、奥までぇ…っ♪」

うっとりとした表情で焦点が合わない目をしている。それでもしっかりと尻尾は絡みつき、膣内も離すまいと締め上げてくる。表面に細やかなひだは動き耐えがたい快感を与えてくれる。

「ゆうた、さんっ♪ゆ、うたさんっ♪」
「はいっ…いますよ、ここ、に…っ」

応じるように顔を寄せるといづなさんは吸い付き、唇が重なった。それは啄むようで、貪るように激しくなる。先ほどとよりもずっと強く求めてくる。
舌を伸ばせば彼女も伸ばし、絡み合う。にちゃにちゃと唾液が混じりいやらしい音を立てた。湿り気を帯びた柔らかい舌の感触は交わりとはまた違う快楽を生み、頭の中に染み込んでいく。

「ん…ちゅっ♪れろ…ん、む…っ♪」

いづなさんはオレの上に乗っているのだから自然重力に従って唾液が滴った。それを零さず舐めとっていくと彼女もまた求めるように唇を重ね啜ってくる。何度も何度も繰り返し、ようやく唇を離す頃にはどちらの唾液まみれになったのかわからないほどだ。

「ゆうた、さん…っ♪私を、感じてください♪」

愛おしげに名を呼んでいづなさんはオレの上でゆっくりと動く。上下ではなく、前後、左右に。わずかな隙間すら空くことを厭ってるかのように。
密着した体はまるで溶け合ってしまったかみたいに感じる。体温が混じり、匂いが混じり、汗も、感覚すらも溶けて一つになったみたいだ。

「それ、でぇ…♪もっと、私にゆうたさんを、ぉお♪感じさせて、くださいっ♪」

淫靡な水音が部屋に響く。淫らな香りが鼻孔をくすぐる。女体の感触が体に押し付けられ、口内には甘い味が広がっている。そしてオレの顔を真っ直ぐに見つめる、快楽に歪んだいづなさんの顔が見える。
五感全てを埋め尽くされ得るもの全てが快感に変わる。そして胸に募るのは目の前の女性に対する愛おしさのみ。

「いづなさんっ」
「はい…♪はいっ…♪」

必死に上ずった声で名を呼んで確かめ合う。それでも腰の動きは止まず柔肉に抱きしめられる感覚に呼吸が乱れた。
腰を押し付けると先端に吸い付いてくる子宮口。それは精液を求めるように吸い付いては、優しくそれでいて情熱的に膣内が締め上げる。甘やかして気づかぬうちに絶頂させるような穏やかな快感でありながら腰の動きはいやらしさと貪欲さを増していく。
体を走る快感に腰が跳ねあがりそうだ。あまりの気持ちよさに暴れそうな体を抑え込み求められるがままいづなさんに応じる。
抱きしめて、絡みついて、重なって、啜り上げて。
その感覚は体のどこから伝わってきたものかもわからないほどぐちゃぐちゃになっていた。

「ふぅ♪はぁぁああ…っ♪ぁ、ぁ、ぁあんっ♪」

淫らに腰を揺らすいづなさんとまた口づけを交わす。何度も何度も、まるで鳥のように啄んでは吸い、啜っては舌を絡めあう。
欲しいのは快楽じゃない。
埋めたいのは本能ではない。
求めたいのは温もりで。
感じたいのは存在だ。
何度も何度も口づけて、手を重ね、肌を密着させては腰を動かす。互いの感触を体に、頭に刻み込んではまた求める。
この程度では彼女の孤独はまだ埋まらない。だからもっと確かなものが欲しいんだ。手に触れられる全てが、体で感じられる全てが、傍に居るという証が。
そして、オレもまた欲しいんだ。この街で、傍に居てくれる存在が。甘えさせてくれる相手が。共に時間を過ごしてくれる大切な女性が。
結局のところオレもいづなさんと同じなのかもしれない。

「ゆうたさんっ♪ゆうた、さんっんん♪」

潤んだ瞳から涙がこぼれ、桜色の唇がオレの名を紡ぐ。激しさを増す腰の動きと快感に三度目の絶頂がすぐ迫っていた。

「いづな、さん…また出しますからっ!」
「はいっ♪感じさせてくださいっ♪ゆうたさんを、ぉ♪もっと、私に、感じさせ、てぇ♪」

尻尾の締め付けが強まり、同時に膣内もまた締め上げる。柔らかく甘やかすようないづなさんの感触に固く膨れ上がり、湧き上がる精液をためらうことなく吐き出した。

「あぁああああああああああああああっ♪」

熱く滾った精液が再びいづなさんの膣内に流れ込む。その感覚に彼女も果てたのか体を大きく震わせた。
何度も脈打ち奥へと流れる。肉壁が収縮しては精液をねだるように絞りとる。先端を吸い上げる子宮口は特に貪欲に、一滴も逃すまいと吸い付いた。
止まらない。
既に三度目だというのに次から次へと精液が昇ってくる。密着した状態では逃げ場もなくただ子宮へ漏らすことしかできない。それでもいづなさんは喜んで受け入れさらには搾り取ろうとすらしてくる。

「ぁあああ…♪んっ♪やぁああ、まだ、いっぱい出て…っ♪」

脈動は止まらない。吐き出される精液は止められない。そしていづなさんの動きも終わらない。
蕩けてしまいそうな快感は互いに溶け合ってしまったんじゃないかと思ったほど強烈だった。だが恐怖は欠片もない。実際、溶け合ってしまってもよかったのかもしれない。ずっといづなさんを感じられるのなら悪いことじゃないのだから。

「くぅぅ…んっ♪」
「ぁ…っ」

どれだけ長く続いたのだろう。時間の感覚すらなくなるほどの快感だった。互いに肩で息を整えて肌には玉の汗が滲んでいる。
だらしのない顔をして絶頂の余韻に浸る。体の力が抜けたのか手足に絡む尻尾もだらんと垂れ下がっていた。

「いづな、さん…」
「は、い…」

気怠くも心地よい疲労に包まれた状態でオレの上にいるいづなさんに囁いた。

「その…もっとしたいです」

恥ずかしながら健全な男子高校生はお盛んな年頃である。二度三度出しても相手が絶世の美女ならまだまだ満足には程遠い。
もっとしたい。今度は激しく、獣のように。
さらに欲しい。もっと密着して、溶け合うように。
まだ足りない。互いに抱きしめ、恋人のように。
ただ感じたい。
いづなさんという存在を、いつまでも。

「はいっ♪私もです♪」

照れたように笑いあい、額を重ねあう。啄むように口づけをしながらゆっくりと腰を前後させる。互いに手を重ね、足すらも絡ませて、二人で尻尾の中に包まれていく。
ちらりと尻尾の間から見えた部屋の中。障子越しに差し込む月明かりに悟る。
今夜は長い夜になると。










障子越しに差し込む光は明るみを帯びてきた。照らし出される白い肌に煌めくのは浮かんだ玉の汗。それから柔らかく光を反射する尻尾をみて今が朝だということに気が付いた。

「いづなさん、もう朝ですよ」
「ぁっ♪そう、みたいですね」

結局あれから一晩中繋がり、求め、重なり合っていたわけだ。それでもいまだにいづなさんの膣内には固さを保ったオレがいる。数えきれないほど吐き出した精液は彼女の愛液と混じりあい布団に染み込んでいた。
お互いもう何度目かわからない絶頂を迎え、脱力した体を共に布団へと倒した。さりげなくいづなさんの尻尾が下に潜り込み柔らかく受け止めてくれる。
鼻先が触れ合うほど近くにあるいづなさんの顔。顔を寄せればすぐにキスができそうな位置。投げ出された手を掴み恋人のように握りしめる。絡んだ指先で溶け合う体温が心地いい。

「いづな、さん?」
「…ダメですね」

ずっとオレを見つめていた彼女は困ったように笑みを浮かべてそう言った。

「こんなのはダメですよ、ゆうたさん」
「え?ダメって何がですか?」
「こんなに優しくされて、こんなに重なり合って、こんなに気持ちよくされたりしたら…もう私はダメなんです」

するりと絡みついていた尻尾がさらにきつく巻きついてきた。痛みはない。だが、引き寄せるように力が込められ体を引っ張られていく。
これ以上埋まる隙間などとうにない。既に重なっている以上オレといづなさんの体がさらに密着するだけだ。

「私は、ゆうたさんを離せなくなっちゃいます」
「え?」
「帰るなんて言わないでくださいね?」

諭す様に柔らかく、それでいて優しく笑いかけながらいづなさんは言った。



「もう二度と、離しませんから…ね♪」



その笑みにぞくりとした。
背筋を震わせた感覚は歓喜だったかはたまた恐怖だったか。理解するよりも先にいづなさんに抱きしめられる。昨晩から堪能した、ふわりと柔らかな胸に顔が埋まった。
続いて手足に巻きつく尻尾。回された腕や重ねた手。絡み合う足と密着した体。
相手は九尾の稲荷。温厚であっても人間とは格が違いすぎる存在だ。その気になれば人間一人容易く手中に収めることだろう。
だが、一応オレにはやることがある。
いづなさんの胸から顔を出し彼女を見上げる。

「でも一応同心の仕事があるんですが…」
「どれだけ嫌がってももう離しません。九尾の稲荷相手に歩み寄ってきたゆうたさんが悪いんですからね」

嬉しいような、困ったような感情を抱きつつもいづなさんは本気で言ってると理解できる。
神隠し。
あながち間違った表現でもないだろう。彼女はそれを実行できる力があり、オレの抵抗なんて意味もないのだから。

「ずっと、一緒ですからね…ゆうたさん♪」

どうやらオレは踏み込みすぎて抜け出せない領域まで落ちたらしい。人間一人、神様の領域に踏み込めばろくなことがない。
でもまぁ、一人孤独に苛まれるよりもこれほどの美女と二人でいられるというのならそれもまたありだろう。
一人ではないと教えてくれる。
二人であると確かめてくれる。
そんな大切な相手がずっといてくれるのならこの九本の尻尾に囚われるのも悪くない。

「まったく、仕方ないですね。いづなさん」

からから笑って抱き返す。それだけでもいづなさんは喜ぶように尻尾を締め付けてきた。
もう二度と抜け出せない優しい束縛。例え永久の時間が流れてもオレを離すことはしないのだろう。
オレを求めているという事実が嬉しくて、こちらも自然と笑みが零れる。傍に居るという事実を喜んでいづなさんもまた笑みを浮かべた。
そうしていづなさんはオレを求め、オレはいづなさんという存在に沈んでいくのだった。



―HAPPY END―
14/06/01 20:39更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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■作者メッセージ
ということで稲荷編これにて完結です
実はほかにもこの後の話をいくつか考えていたんですね。というのも

寝起きに昨夜の続きということでいちゃいちゃ
朝食を作る割烹着姿と尻尾に思わず抱きしめたらいちゃいちゃ
裏の畑で仕事をしていたら汗のにおいにムラムラしていちゃいちゃ
お風呂で九本の尻尾に体を洗われたりしていちゃいちゃ
尻尾を櫛でとかしていたら発情箇所を刺激してしまいいちゃいちゃ

といちゃいちゃエロエロしまくる予定でした
もしかしたら後で付け加えるかもしれません

次回は堕落ルートに戻ろうか、はたまたまたジパング編をやろうかと検討中です
ちなみにジパング編ではウシオニや雪女やアカオニやクノイチと書きたいことが沢山あって迷っています


ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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