孤独と貴方とオレと尻尾
活気のあるジパングのとある街の中心から東、立派な木々の生えた山。その頂上からは街を一望できる場所があるという。 ここに足が向いたのは街の全貌を見たかったからかもしれない。歴史の教科書に出てきそうな風景を、ドラマで再現されそうな光景を、既に消え失せてしまった昔のような景色をながめたかったからかもしれない。 罅のない整った石段を登る。既に数百段も上っているがまだまだ頂上は見えない。その先に何があるかはわからない。だが目的は上のものではなく下の景色なんだ、わからなくてもいいだろう。 ようやく終わりが見えてきた頂上へと着く寸前、上に何があるかはまだわからない位置で立ち止まる。街を一望するには十分な高さまで登ったので振り返る。そこに広がっているだろう景色へと目を向けようとして― 「―どちらさまですか」 声をかけられた。 まるでガラスの鈴を転がしたような透き通った声色に途中まで振り返った体を戻す。すると視線の先に、石段の頂上に居たのは一人の女性だった。 「あ…」 当然だが、始めてみる顔と姿。ややつり目でありながらもどこか柔らかな視線を向けてくる金色の瞳。すっと通った鼻筋に柔らかそうな薄桃色の唇、それからきめの細かい肌。体の線のわかりにくい着物姿でも隠せない大きな胸。 ―そして、頭の上で揺れ動く三角形の耳と臀部から生える九本の尻尾。 「…えっと」 「…あの、初めまして」 一陣の風が吹く。彼女の狐色の長髪と同じ色をした尻尾が静かに揺れた。 |
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