読切小説
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凍てつく孤独に、温もりを
日々吹雪に見舞われる山にいるアタシはほぼ毎日山の景色を眺めていた。理由は単純。魔物ならば常識であり当然のこと。アタシたちの食事となる精を提供してくれる永遠の伴侶を見つけるためである。
だけどここは雪山。火山であっても雪が降り積もる冬の山。まず人が訪れることなどないし、仮に訪れたとしてもここにはアタシ以外にも沢山の魔物がいる。
ラーヴァゴーレム。それは魔物の中でも凶暴な部類にはいる存在だ。この雪山に住む魔物と比べればアタシは危険と扱われる。陽気で友好的なイエティや冷たくとも男性を必要とするグラキエス。遭難した人を導いてくれるゆきおんなに海辺には意地っ張りなセルキーもいる。その中でラーヴァゴーレムに嬉々として会いにくる人などまずいないだろう。
それでもアタシは今日も山を眺め続ける。

「…誰か来ないかなぁ」

普段と違って晴れた雪山の山頂でアタシは小さく呟いた。冷える外気はアタシの心を凍てつかせ精神をすり減らしていく。凶暴さなんてなりを潜めて考えは後ろ向きになってしまう。
このまま誰も来ないんじゃないかと。
ずっとアタシは一人じゃないのかと。
降り積もった雪に体を預けるようにアタシは倒れこんだ。溶岩から生まれたせいか雪はすぐに溶け白い蒸気を発して消える。その様を半目で眺めていると―

「―…ん?」

蒸気とは異なる煙が上がっているのを見つけた。真っ白な景色の中立ち上るそれは空へとのびて薄まり消える。だがはっきり瞳に映ったものは確かに蒸気とは違うものだった。
あれは…煙?
火を焚いた時に出るものだ。主に薪を燃やして出てくるそれはこの場所ではあまりにも珍しい。
というのもこの場所にいるのはほとんど魔物。もしくは既に夫持ちの魔物。魔物であればこの雪山に順応しているだろうから火を必要とはせず、また夫持ちの魔物ならば相手と共に体を温めあっているはずだ。相手を感じたいと願う魔物にとって火の熱はただの邪魔にしかならない。
なら、考えられる可能性は一つ。

「…もしかして」

あの煙の下にいるのは一人の人間だということ。いや、雪に慣れない魔物だという可能性も女性だということもありえなくはない。だが、誰がいることに間違いないし、男性である可能性もないわけじゃない。
なら、どうするかなんて悩む暇もない。

「行こう」

決断したアタシはすぐさまその場から立ち上がり煙の立ち上る場所へと向かって進んでいくのだった。








行きついた先にあったのは一つの山小屋だった。きっと登山してくる人のために作られただろうそれは一見ぼろく映るのだがよくよく見るとあちこちちゃんと手を込めて建てられている。もしかしたらジャイアントアントが建てたのかもしれない。
煙はこの山小屋から。屋根の上に飛び出した煙突からだ。
間違いない。ここには誰かがいる。
男性だろうか。女性だろうか。魔物だろうか。できることなら男性であってほしい。そう願ってアタシは目の前のドアをノックしようと手を出したその時。

「おわっ!」

空から降ってくる声に顔をあげると声以外にも真っ白な雪が降ってきた。きっと屋根の上に溜まり積もったものだろうそれは全て流れて真っ白な山を作る。
降り積もった雪の上に大きな山となる大量の雪。その頂に聳え立つのは二本の脚だった。

「…」

紛れもない人間の足。体の線はわかりにくいが見た目的に細身な方だろう。屋根の雪かきをして落ちてしまったのかもしれない。
じっと眺めていると二本の足がじたばたともがく。上半身が埋まったせいで呼吸がろくにできないのだろう。慌てて足を引っ張り上げた。

「ぶはぁっはぁ…ぁ…ぁ?」

逆さ状態になったその人と目があった。

純白な雪と対なすような、真っ暗な闇色の瞳。

見つめるとそのまま吸い込まれそうな不思議な瞳がアタシに向けられる。すると驚きの表情に変わり、次いで困った様な笑みに変わった。

「…あ、どうも」

真っ白な雪に塗れながらも笑みを浮かべるのは紛れもない一人の男性。
それがアタシと黒崎ユウタという男性の初めての出会いだった。









山小屋の中はあまりいいとは言えないものだった。それでも作りはしっかりとしているのか寒さは入ってくることはなく、暖炉もついている。これなら体が凍えることはないだろう。
暖炉の傍に置かれていた鍋の中身をユウタはカップへ移しアタシの前に差し出した。湯気の立つそれは雪とは違う白いもの。ほんのり香るまろやかな匂いはきっとミルクだろう。

「驚いたなぁ」

自己紹介を互いに終え、ユウタは自分の分のミルクを注ぐ。顔には先ほどとはまた違うどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら。

「こんな雪山なのにオレ以外にも人がいるなんてさ」
「…アタシ、ラーヴァゴーレムだよ?」

この姿を見れば誰もが理解できるはずだ。火山灰の様な髪の色に燃え盛る溶岩の様な肌の色に岩石のようなお腹や足先、溢れ滴るどろりとしたもの。どれも人間にはありえないものであり魔物であることを示すものだ。
凶暴と呼ばれるゴーレムのアタシ。紛れもない人外の存在。
だというのにユウタは構うことなく笑う。

「それでもさ。ここに来る人なんて商人の人以外にまずいないんだ。人じゃなくても話し相手になってくれりゃ誰でもいいよ」

ぱちりと弾ける暖炉の火。照らし出されたユウタの顔が寂しげに見えたのはきっと気のせいじゃないだろう。
こんな雪山の中、凍えるのは体だけじゃない。一人でいるのならなおさら冷えて固まることだろう。
アタシのように。

「…」

温かいミルクに口を付けながらユウタを眺めてみる。ここらではまず見られない黒髪に特徴的な黒い瞳。高級そうな黒い服と全身黒でまとめた姿。
それから、袖から伸びるコップを掴んだ手。アタシよりも小さなものではあるが指は太く力強さを感じさせるものだ。
そこにあるのはアタシと異なった体温。触れればきっと温かいことだろう。
その温もりが、欲しい。
本来ならそれよりも精を求めて襲い掛かる。それがラーヴァゴーレムだ。
だけど吹き荒れた雪と寒さは快楽よりも体温を求め、人肌を恋しくさせる。満たしたいのは欲望ではなくて温もりで、欲しいのは精ではあるが体温もだ。自分が一人じゃないという証を今は感じたい。
ミルクを半分ほど飲み干したユウタはカップを机に置いた。そこへとアタシは手を伸ばす。そしてその肌に指先が触れ合った。

「冷たっ」

初めて触れる男性の肌。アタシよりも固さのある指先はまるで氷のように冷たい。

「…どうかした?」
「手、冷たい…」
「そりゃこんな場所に居れば仕方ないさ」

冷たい指先を動かしてユウタは笑う。その動きが鈍いのは寒さのせいでかじかんでいるからだろう。その感覚は溶岩でできた体を持つアタシにはわからない。寒いと感じることはあっても高温のせいで手足が凍えることはないのだから。
でも。

「…んっ」

アタシは再びユウタの手を握りこんだ。
冷たくともそれが体温であることに違いない。アタシ以外の、それも男性の体温だ。ずっと求めて止まなかったものだ。
冷たくてもずっと握っていれば徐々に指先が温かくなってくる。きっとアタシの体で触れた部分が火照ってきているのだろう。

「…温かい」

ぽつりとユウタが呟いた。
その言葉を聞いただけで照れくさくなってしまう。今までそう言ってくれる人なんていなかったし、触れ合うことすら初めてのものだから嬉しくて嬉しくてたまらない。
雪で冷やされた心に熱が灯っていく。
一人で凍えた体が温まっていく。
だけど、まだ。
魔物として体を貪り快楽に浸りたいと喚く本能はまだまだ冷え固まったまま。凍りついた凶暴な性格が溶けだすのには時間と熱がかかるだろう。
だから今はこの体温を存分に欲する。一人でない感覚を心行くまで求める。
凍った情熱が溶けだすまでの間、手のひらから伝わってくる優しい熱を確かめるようにアタシは何度も何度もこの山小屋へと通うことになるのだった。










山小屋に通い詰めて幾日か経ったある日。山の天候は最悪なもので吹き荒れる雪の中をアタシは一人歩いていた。
溶岩で生まれたアタシとはいえこの雪には辟易する。高い体温は容赦なく奪われ冷え固まりそうだ。死ぬことはないだろうがそれでもつらいものはつらい。
足元の雪はアタシが通った瞬間に溶け、それでもすぐさま降り積もる。振り返ってみれば山頂からの道のりは全て真っ白な雪に埋もれていた。
右も左も上も下もわからないような白い闇の中。それでもアタシが迷わず山小屋へと迎えるのは魔物だからだろう。精の匂いと忘れられない体温。自分以外の体温は気づけば欲望の火種となっている。
欲しい欲しいと求めて止まない。それゆえ足は止まることなく山小屋へと向かい続ける。
もういっそのことユウタを攫ってしまおうかとも思ってしまう。その考えはアタシの中の凶暴性が溶けだしている紛れもない証拠だった。
そうしているうちに目的地に着く。ドアを三度叩くとゆっくりと開かれた。

「ああ、ヴァルム」

普段と変わらず笑みを浮かべて迎え入れてくれるユウタ。だけどその顔は白くあまり血色もよくはなさそうだ。
漏れた吐息は白く霧散する前に吹雪にかき消されていく。そんな中では人間の彼にはさぞつらいことだろう。
それでもユウタは笑みを浮かべてアタシを家へと招き入れてくれた。相変わらずの山小屋の中。だけど今日は普段よりも寒い。外が吹雪いているからというわけでもなさそうだった。
共に暖炉の前に椅子を持ってきていつものように座る。だけど灯った火は小さなもの。くべられた薪の量はあまりない。これではいつ消えるか分かったものじゃない。

「ユウタ。これだと火が消えるよ?」
「ん。あぁ、まぁそうだろうね」
「薪を継ぎ足さないの?」
「いや、量がね…」

困ったように頭をかいて親指で示した先にあったのは数えるぐらいしかない薪だった。

「この吹雪だから商人の人がしばらくこれないんだとさ。流石に外に出るわけにもいかないし節約しとかないとね」

そう言って彼は細く割った薪の一本を暖炉へ投げ入れた。小枝のように細いそれでは燃え移ってもしばらくして消えてしまうだろう。
あと数本しかない薪。これでは一日ももたないかもしれない。人間であるユウタにとって暖炉の火は必要不可欠。この吹雪の中で火がなければ凍えてしまう。いつものようにいれてくれたホットミルクでもその寒さはしのげない。
それでも暖炉の前で照らし出される彼の顔は笑みを浮かべている。自分を元気づけるためか、はたまたアタシを心配させまいとしてか。
だが、震えは誤魔化せない。声の調子はいつも通りだが自分を抱くようにして縮めた体はわずかながら震えていた。紛れもない寒さを感じている証拠だった。

「ユウタ…こっち来ない?」

アタシはユウタを誘うように手招きする。

「二人いるんだし、近くにいた方が温かいよ」
「…そだね」

小さく頷いたユウタは座っていた椅子を引きずって寄せてきた。木組みの椅子がぶつかり二つが一つになる。暖炉の前で私とユウタは体を寄せ合った。
肌が触れる。服越しであっても確かに感じる。アタシ以外の優しい体温。

「…温かい」

ほうっと小さくため息をついてユウタは言った。
当然だ。溶岩から生まれたアタシの体は人の肌には炎よりもずっと熱くて心地いいものとなる。薪をくべて保ち続けなければ消えてしまう火とは全く違うものだ。
ユウタは生地の厚い服を着ているがそんなことは関係なくアタシの熱は染み込んでいく。触れ合っているのは肩だけだがそれでも温かさを感じるには十分だろう。

「…」

無言で体を預けるユウタを眺めた。
そしてやっぱり不思議な人と思う。
初めて会った時といい、今もこうして無防備に体を預ける姿といい。アタシがラーヴァゴーレムだと知っても恐れないし、からから笑っているだけだ。
その笑みが凍てつくアタシに火をつけた。
吹き付ける雪のせいで冷たくなった心を温めた。
じわりと、下腹部に熱が灯る。体の中で一番高いだろうそれは徐々に全体に広がってくる。

そして、疼く。

魔物として、女として、その体を、精を、心を求めて止まなくなる。
優しい体温とアタシの熱で溶けあいたい。どろどろでぐちゃぐちゃに混ざり合いたい。なにもかもがわからなくなるくらいに交わりたい。

「ユウタ…」
「ん」

小さく呼ぶ声に彼は反応して閉じかかっていた瞼を開いた。どうやらアタシの隣で思わず眠りに落ちようとしていたらしい。無防備な姿をさらせるほどアタシを信用してくれているということだろうか。
だからこそ、また燃え上る。
その熱が、もっと欲しくなる。

「こうした方が、もっと温かいから…」

そう言ってアタシはゆっくりと体を動かす。彼の前、暖炉の炎を遮るように。そうしてアタシはユウタの上に跨った。
椅子に座った彼の上に座り込む。身長は同じほどだったからか今はユウタの頭がアタシの胸の前にあった。

「ヴェ、ルム…?」
「んっ」

ユウタの言葉を聞かずにその頭を抱きしめる。途端に伝わってくる少しひんやりとした体温。こんな環境であるからか炎にあたっていても思った以上に体は冷たく、それでもどこか心地いい。

「…どうしたの」
「こっちのほうが温かいよね?」
「そりゃ…そうだけどさ。でも」
「ユウタは嫌?」

アタシの声に身を捩っていたユウタは動きを止めた。顔がこちらを向き、闇色の瞳がアタシを捕らえる。

「こうされるのは、嫌?」
「…ん。嫌じゃないかな」

そう言って瞼を閉じるとアタシの背中に腕を回してきた。応えるように体を抱き寄せ、胸元に顔を埋める。
その行動は邪な感情は一切なかっただろう。アタシの体は炎よりもずっと熱く、それでいて心地いい体温をしている。ユウタにとってこの凍える雪山の中でアタシの体はさぞ気持ちのいいものだろう。
目的は温まるだけ。
そうだとしてもアタシを抱きしめてくれている。凶暴な魔物であっても優しく腕をまわしている。優しく割れ物を扱うかのような手つきや力加減は胸の奥を切なく締め付け下腹部の熱をさらに上げた。

―ああ、ダメだ…♪

凍えた体は溶けてしまう。冷えた心が燃えてしまう。
そうなれば現れるのはラーヴァゴーレムとしての本性。偽ることなどできない情熱的で凶暴な魔物の性質。それに抗う術をアタシは持っているわけがない。
だってアタシはその魔物だから。ラーヴァゴーレムなのだから。

「ユウタ」
「ん?」

顔を上げるユウタの頬に手を添える。ただそれだけでも彼は心地よさそうに目を細めた。

「何?」
「寒くない?」
「いや、ヴェルムのおかげで大分温まってきたよ」
「でもまだ寒いよね」
「…まぁ、そうかな」
「なら―」

鎌首もたげた魔物の心。あふれ出してくる魔物の欲望。抑えることなどできはせず、留めることなどなおできない。
一度ついた火は消えない。
一度流れた溶岩は止められない。



「―熱くしてあげる♪」



アタシはその唇に自分の唇を重ねた。

「ふむっ!?」

一瞬驚きに闇色の目が見開かれる。背中にまわった腕が震え体が強張る。だけども少ししてユウタは静かに瞼を閉じた。同様に腕には優しく力が籠りアタシのすることを受け入れようとしてくれる。
それが堪らなく嬉しくてアタシは強く顔を押し付けた。

「ん、む♪」

先ほどからアタシの胸に顔を押し付けていたからかとても熱い。それでいて柔らかな唇へ感触を確かめるように唇を重ねる。
何度も何度も啄むように。自分ではないユウタの感触を確かめるように。
だが既に溶けきった魔物の本性はこの程度では満足ない。もっと先が欲しくなりアタシの体を疼かせる。その疼きのままにアタシは舌を唇の間に差し込んだ。

「むっ!?」
「んちゅ…んん〜……れろぉ♪」

ねっとりとした唾液が舌を伝って落ちていく。一方的に注がれていくのだがユウタは抵抗することなく飲み込む。それどころかさらに求めるように舌を差し出した。
舌と舌が重なった。にちゃにちゃと卑猥な音を奏でお互いの唾液が混じりあう。
甘い。そう感じたのは先ほど彼が飲んでいたミルクのせいではないだろう。これはきっとユウタの味。ユウタの精の味だ。
その甘さはアタシを狂わせる。いや、ユウタの全てがアタシを狂わせた。

「ん、ちゅ…れろ♪……んむ♪」

口づけを交わしている最中にアタシはユウタの服を脱がしにかかる。高級そうな服についたボタンを全て外すと現れたのは真っ白な雪の様な服。薄くも上質そうな生地でできたそれも同様に脱がしていく。
そうして肌と肌が触れ合った。何も遮ることなく重なる部分は徐々に熱を帯びていく。

「あぁ…温かい♪」

唇を離し、端から滴る唾液をそのままにアタシはそう言った。
感じるのは指先と違う体温。それから強く脈打つ命の鼓動。紛れもないユウタがここに居てくれるという証に恍惚とした表情を浮かべていた。

「ねぇ、こうした方が温かいよね?」
「ああ、すごくいいよ…」

優しく紡がれたその言葉。重なる肌から感じる体温。高ぶっていることを教えてくれる心音にそっと抱き寄せてくれる二本の腕。
ユウタを感じるたびにアタシの中が疼いていく。体のある部分がどうしようもなく何かを求めて叫んでる。
アタシが上に跨っていたせいかそれとも先ほどの口づけのせいか、はたまた肌を重ねていたからかユウタの下腹部が膨らんでいた。そこから漂ってくる香りは魔物だからこそ分かる。アタシを女として、魔物として高ぶらせてくれる香りだ。

「でも…」

この先だと本能が告げている。この先に求めるものがあると言っている。
ならここで止まれるわけがない。一度溶けてしまったラーヴァゴーレムの本性はもう二度と止まれない。拒否されてもきっと一方的にしてしまうことだろう。

「もっともっと温かくしてあげるから♪」

返事の代わりにユウタは控えめなキスで応じてくれる。それがたまらず嬉しくて思わずその体を抱きしめた。





ズボンと下着を下ろしてもらい再びアタシはユウタの上に跨った。下半身を覆うものがなくなったからか先ほど以上の香りが鼻をつき、ぞわりと背筋が震えあがる。
見ればそこにあるのは独特な形をしたもの。初めて見るそれは蛇の頭のようにも見えた。アタシの体の中には見当たらない器官は眺めているだけでも下腹部がさらに熱くなる。
それでも魔物としての本能は理解していた。
どろりとアタシの女から粘液が滴った。それは噴出した溶岩のように垂れてはユウタの肌に落ちていく。

「ねぇ、ユウタ…♪」

真っ直ぐにユウタの瞳を見つめる。息は荒くなり体温も上がり、欲望の炎が宿った瞳はそれでも優しく見つめてくれる。

「もっと熱く、してあげる♪」
きっとアタシは笑ってる。それもとても淫らに笑ってる。そう自覚できる程魔物の本性はこの行為をずっと待ち望んでいた。
留まることなく滴る割れ目に燃え上る様な熱を持ったユウタを導く。何も入ったことのない滾る淫らな穴に先端が触れ合うとアタシは一気に腰を下ろした。

「ひゅ、あぁあああっ♪」
「う、ぁ…熱っ」

純潔を破って突き刺さる鉄のように固い棒。ごりごりと擦りあげては膣内を容赦なく割り開いていく。その感覚は感じるはずだった痛みよりもずっと強くアタシの体を塗りつぶした。
熱い…♪とても、燃えているかのように熱い…っ♪
アタシの中で強く脈打つユウタ自身。膣肉で締め上げて形を覚えようとうねり、そうするたびに二人して上ずった声を漏らす。お互いがお互いの感触に快楽を感じているみたいだ。
アタシを感じてくれている。その事実に思わず笑みが漏れる。

「はぁあ…♪ど、うかな…ユウタ、アタシの中、気持ち、いい…?」
「ああ…気持ちよすぎるし、熱、すぎ。これじゃあすぐに出そうだよ…」

呼吸を荒くし唇を噛んで耐えるように言葉を紡ぐ。その様子がとても愛しく思える。
だからこそ、もっと感じさせたいと思う。
だけども、もっと感じたいとも思ってる。
女として、魔物として、二つの感情はやがて本能へと到達する。
ユウタが欲しいという心。
オスが欲しいという欲望。
それは偽ることのできない、アタシの情熱だ。

「じゃぁ、出して…♪アタシの中に、いっぱい出して…♪」

そう囁くとアタシは腰を動かし始めた。上下すると淫らな水音が響き、膣壁にユウタが擦れると快楽を生み出してくる。
気持ちいい♪言葉で表現できないほどに気持ちいっ♪
だけど、違う。
これがアタシの欲しかったものではない。いや、確かにこの感触を、熱を求めてはいたがアタシが本当に求めているのはもっと先にあるものだ。
快楽の先の先、肉欲の向こう側、男と魔物、ユウタとアタシでしか到達できない壮絶なもの。女を悦ばせる男の証。メスということをわからせるオスの種。
それをアタシの本能は求めてる。求めるように腰の動きは徐々に加速する。

「はぁ♪あぁああっ♪…んむっ♪」
「んっ♪」

耐えるように呼吸をしていたその唇をアタシは自分の唇で塞いだ。上と下で体が繋がる。ユウタという存在を全身で感じる。アタシが一人じゃないという感覚が、ユウタがいてくれるという感触が何よりも胸を満たしていく。
快楽とは違う幸福感。孤独を消し去り温もりを与えてくれるそれはアタシの欲望をより一層激しいものへと変えていく。

「むぅっ♪んん…♪んむぅっ♪んんんっ♪」

叩きつけるように腰を動かす。何度も肉と肉のぶつかる音が響きねっとりとした愛液が飛び散ってはその度に子宮の奥までユウタに快楽を叩きつけられる。一人では絶対に得られない快楽にアタシは動きを止めることはできなかった。
だって、こんなに気持ちいいことなんてなかったから。
こんなに温かいことなんて感じたことがないから。
だから、もっと頂戴と強請ってしまう。
これじゃ足りないと欲張ってしまうんだ。
唇を離して彼を見る。ぐちゃぐちゃに蕩けたアタシの中が気持ちいいのかユウタは耐えるように顔を歪めた。それでも求めるように腰は動き、アタシを離さないように手を繋ぐ。大きさは違えど指と指は絡められその感覚に下腹部が疼いた。
嬉しい。アタシを離すまいとするその行為が、アタシを求めてくれるその心がアタシを悦ばせてくれる。そのせいで膣内は締まり、ユウタは上ずった声を漏らした。

「いいっ♪いい、よねっ♪ユウタもアタシの中、気持ちいいよねっ♪」
「…っ…っ!!」

応える余裕はないらしく、それでも頷いてくれるユウタ。それがまた嬉しくてアタシはまた唇を彼の唇に押し付けた。
アタシは貪欲に求めて止まらない。何度も果てているというのに体は熱を、快楽を、精液を、ユウタを欲している。

「あ、はぁ♪もっと擦ってぇ♪ぐちゃぐちゃにしてっ♪」

唇を離して淫らな言葉を紡ぐ。そうしていると下腹部から湧き上がる何かに気付いた。
ぞくりと、子宮で渦巻く感覚。それは壮大な快楽の予感。今までも感じていたが今度のはそれらの比にならないほどの絶頂だ。あまりの大きさに恐怖すら覚えてしまうのだが体は止まる気配を見せない。
膨れ上がった溶岩が爆発して吹き出す様に快楽は高みで弾けるのを待っている。熱く滾ったあるものを今か今かと求めてる。

「ユウタっ♪出して…せいえき、アタシの中に出して…っ♪」
「ヴァルムっ…!」

既に限界が近かったのか腰が強く押し付けられ手が押さえつけてくる。子宮口を押しつぶすユウタはぶるぶる震え、膨らんだ次の瞬間ユウタがアタシの中で弾けた。

「あああああああああああああああああああ♪熱いっ♪熱いよぉおおっ♪」

それと同時にアタシの中の快楽が爆発した。
アタシの中に流れ込んでくる精液。それは溶岩のように熱く噴火の如く激しいものだった。子宮の奥を何度も叩くたびに頭の中が真っ白に染まる。体は震え、涙が伝い、がくがくと腰が揺れた。射精のたびに絶頂へと押し上げられる。意識は子宮から感じる感触と熱の快感に塗りつぶされてしまう。

「ひゃぁああ♪すごいっ♪気持ちいいよぉおおっ♪」

子宮が一滴も漏らすまいと吸い付いた。それだけではなくもっと欲しいと強請るように蠢いた。それがユウタにとっても快楽となっているのか小さく呻く声がする。喜んでくれている、その事実がまた嬉しくてアタシは両手両足を使って体を抱きしめた。
満たされていく体の奥。女として大切な部分。そこに注がれた愛おしい男性の証。
これこそ魔物の欲望が、女の心が求めていたもの。アタシを悦ばせてくれる大切なものだ。

だけど、まだ…♪

絶頂の波が引いていく。壮絶だった快楽がゆっくりと沈んでいく。だけどもアタシの心はまだ満足していない。欲しいものを手に入れてももっと欲しいと思ってしまう。
この体温が欲しい。
彼の感触が欲しい。
ユウタの精液が欲しい。
ユウタを、感じていたい。
魔物らしい本能と淫らに歪んだ意識はそれしか考えられなくする。雪に凍えていたものが全て溶けきったラーヴァゴーレムが欲望に抗うことなどできやしない。
それにユウタもきっと同じだろう。アタシと交わった以上、灯ってしまった熱はそう簡単には引くはずがない。それにアタシの中では依然として固いまま脈を打っている。

「ユウタ…もっと、もっといっぱい出して♪アタシの中で、いっぱい出して♪」

強請るように抱きしめるとユウタは顔をあげる。射精したことで心地いい余韻に浸っていたのか緩んだ顔は小さく息を吐き出すと優しい笑みに変わる。

「まったく…仕方ないな」

そしてまた、口づける。
辺りの雪を溶かしそうなほど激しく、吹雪をものともしないほど情熱的に、荒い呼吸を整える暇もなくアタシたちは行為を続けるのだった。















「ほぅ…」

窓を吹き付ける雪が叩いていく。その光景を前に小さく息を吐き出した。これを見るのはもう何度目になるだろうかとふと考えてしまうが数えきれないほどだったのですぐにやめる。
既に消えてしまった暖炉の火。そのせいで部屋は寒く薄暗い。それでもオレの体が冷たくないのは今共に寝ころんで腕を回してくれる彼女のおかけだろう。
ベッドの中でこちらを向いて微笑む彼女を見た。
自分をラーヴァゴーレムと言ったヴァルム。確かにその体は人間のものではなくまるで溶岩を人の形にしたような姿をしていた。赤く燃える肌に黒く固まった岩の様な部分、火山灰の様な色をした髪の毛。
それでも誰が見てもわかるほどの美女。異形な姿であってもそれは覆せない事実だ。
ヴァルムはオレの体を撫でる。肩を、首筋を、とても愛おしげに。その度に伝わってくる異常な高さをもつ体温がこの山小屋では心地いい。

「ユウタの体、温かいよ」
「ヴァルムの方がずっと温かいって」

額を重ねて二人して小さく笑う。照れくさそうに、恥ずかしげに。
今はこうして笑っていられるがきっとオレもヴァルムも同じだったに違いない。
寂しさは冷たくて、孤独に凍てついていた。だからこそ誰かと話せるだけでもよかったし何より人肌が恋しくなった。
お互いに、お互いが欲しくなった。
肌を重ねて伝わってきた燃え上がる様な体温。溶かされてしまうんじゃないかと思ったほど強く、だけど同時に心地よさのある熱。一度味わえばもう二度と手放せない温もりは常識もモラルも全て消し飛ばした。
残したものは求める心、ただそれだけだ。

「ねぇユウタ。寒くなってきたからもっと、熱くなろう♪」
「ん。そだね…」

その声に応えるようにオレは彼女の手を握りしめた。これ以上ないほど身を寄せ合い肌と肌を重ね合わせる。そうして高ぶる欲望のままに何度目かになる口づけを交わし情事へと進んでいく。
欲望の中へと沈んでいく。快楽へと溺れていく。ヴァルムと共にオレはどこまでも落ちていく。
だけどそれでいいだろう。
オレは一人ではないのだから。
オレにはヴァルムがいてくれるのだから。



もう孤独に凍えることはないのだから。



―HAPPY END―
14/02/11 17:41更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということで今回は新しい魔物ラーヴァゴーレムさんでした
図鑑の最後の部分にあった雪山などでは凶暴性が薄れるということで男性の温もりを求めるヴァルムさんを書いてみました
雪山で一人でいればきっと孤独に耐えられなくなることでしょう
似た境遇な彼とヴァルムさん、その孤独を埋めるようにお互いを求めちゃってます!

実は主人公がいるこの雪山、以前グラキエスさんの話で書いたところと同じだったりします
今回はグラキエスさんに会えず一人山小屋を見つけたというところでした
そのうちこの雪山を舞台にしてイエティさんも書くかもしれません

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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