読切小説
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優しい手つきに、雷撃を
雨の日は嫌いだ。
空を飛ぶための翼は濡れ、羽は水を吸い、体は重くなり、思うように羽ばたくことができなくなる。それ以上に整えた翼が乱れてしまうことが嫌だ。
冷たい雫が頬に、首に、胸に、体全体に降り注ぐ中アタシはただ翼を広げて空を飛んでいた。雨水が染み込んだ羽は重くいつものように軽やかに飛ぶことができない。
それでも、時折空を輝かせる雷は好きだ。
暗い空を一瞬だが照らし、轟く光。その音と閃光は誰もが空を見上げずにいられない。
それはアタシと同じだから。
サンダーバード。
雷を身に纏い、空を飛ぶハーピーの一種。放電しては痺れるような快楽を与える。それがアタシだった。

「う〜…」

それでも雨は容赦なく降り注ぐ。唸ったところで雨水を防ぐものは何も持っていない。傘の一つでもあればマシだったかも、いや、そもそも飛んでいる最中に傘なんてさせないや。
羽から雫を飛び散らせながらもようやくアタシは目的地についた。
両翼を振るうと染み込んでいた雨水が地面を叩いた。じっとりと濡れてしまった翼は一人で乾かすには大変そうだ。
とりあえず水気を払ってアタシはつま先でドアをノックする。するとしばらくしてゆっくりドアが開いた。

「お帰り、エクレール」
「ただいま」

呆れたような声で出迎えてくれたのは一人のジパング人だった。
ジパング人特有の、この辺りではめったに見られない黒髪姿。纏っているのは見たこともない生地でできていて、だけどもそれがかなり上質なものだということは予想できるほどの服。そしてなにより目を引いたのは闇のように深く、黒い瞳。そこには見つめているだけでも吸い込まれそうな不思議な魅力があった。
黒崎ユウタ。
アタシが攫ってきた男性だ。
そしてここはアタシと彼の家。とは言っても誰も住んでいなかった廃屋を掃除し、住めるようにしたようなところだけど。

「随分とまぁ、濡れ鼠になって」

呆れたようにため息をつきながらも薄く笑みをうかべた彼はそっとアタシの頭にタオルをかぶせた。

「わっ」
「とりあえずシャワーいけよ。飯作っとくから」

ごしごしとアタシの頭をタオルで拭う。力強いのだけど柔らかな手つきでどこか心地よい。
アタシは頷いて脱衣所に駆けていった。





冷えた体を温めて出てくると空腹を刺激するいい香りが鼻腔をくすぐった。香りのする方を見ると先程とは違う、真っ白な服と黒いエプロンをまとったユウタが鍋の中身をかき混ぜていた。

「よし、できた」

お玉を鍋から引き上げ、エプロンを外し畳んでこちらを見るユウタ。アタシの姿を捉えた途端先程見せた呆れ顔になった。

「…なんつー乾かし方してんだよ」
「仕方ないじゃん。乾かすの難しいんだし」

ユウタの言葉にアタシは自分の翼を羽ばたかせた。既に水気はないものの乱雑に乾かしてきたからかぐしゃぐしゃになっている。頭も同様だった。
ユウタははぁっと疲れたようにため息をついてエプロンを置くと傍に置いてあったらしいブラシと櫛を手にとった。ぽんぽんと椅子の背を叩いてこっちを見る。座れと言いたいらしい。
アタシは小走りで駆けていき、椅子の上に座る。するとユウタの手が翼を持ち上げた。

「…綺麗な羽なんだからもっと丁寧に扱えよ」

呆れたようにユウタはそう言ったがそれでもアタシは嬉しかった。
綺麗な羽。
アタシの体で一番自慢できる部分を褒められることは嬉しい。雷の力を使えることよりも、空を飛べることよりも、呆れられても真っすぐに褒めてくれるその言葉が嬉しい。
思わず小さく電撃が弾けた。
一瞬ユウタの動きが止まるが電撃が収まると何事もなかったかのように手を伸ばしてくる。右の翼を包むように手に取るとテーブルに置いてあるブラシをとった。

「じっとしてろよ?」

ユウタの声にアタシは体重を椅子の背に預け、体から力を抜いた。それを確認した彼は頷き、ブラシをアタシの羽にブラシをかける。

「ん、ん…」

ゆっくりと柔らかな手つき。傷つけないように注意してくれる優しい気遣い。口ではなんだかんだ言ってもアタシを想ってくれるその心。くすぐったい感覚と気遣ってくれる優しさに嬉しくなる。
再び、体から漏電するほどに。

「おっと」

パチリっと青い火花が散る寸前ユウタはアタシから手を離した。
いきなり体温と心地よい感覚が消え去ったことによりアタシは後ろにいる彼を睨みつける。

「ちょっと、止めないでよ」
「危ないんだよ、エクレールは。パチパチやられたら感電しかねないんだぞ?」
「仕方ないじゃん、気持ちいいと出ちゃうんだから」
「…厄介だな、それ」
「別にいいでしょ?別に感電しても死ぬわけじゃないんだし」

その言葉にユウタは怪訝そうに眉をひそめた。そのまま小さくため息をついて羽へのブラッシングを再開する。
感電を避けるために離れたとは言えその手つきは先程となんらかわらない。優しく、柔らかく、心地いい感触のもの。魔物に関する知識のなかったユウタにとってアタシのような存在は恐怖の対象のハズなのだが彼は妙に肝が座っていた。

「雨、強かったか?」

その言葉に外を見る。窓の向こう側には未だに真っ暗な空が広がり、大粒の雨が降り注いでいる。

「んー」
「そっか」

両足をブラブラさせてそう答えるとユウタはどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。雨が嫌いなアタシとは逆にユウタは雨が好きらしい。でも、アタシも雨の日はこうして翼を整えてもらえるから少しは好きだ。

「ユウタは雨が好きなんだ?」
「まぁな。オレの生まれ育ったとこもやたら雨多かったし、オレ誕生日梅雨真っ最中だったし」

ジパングにはこの大陸と違って明確な四季の現れがあるという。花吹雪く春や日出る夏、実りある秋に白雪の舞う冬。それ以外でも長く雨が振り続ける梅雨というのがあるらしい。
ユウタはその季節の生まれ。ということは彼は間違いなくジパング人なのだろう。
どこから来たのかわからない。
どこで生まれたのか話さない。
ようやくわかったのは雨の季節に生まれたということぐらいだ。
しばらくするとブラッシングする手が止まった。

「っと、終わり」
「んん?もっとしてくれてもいいんじゃないの?」
「終わりだって言ったろ。そんなにして欲しきゃ乱してくるんだな」
「じゃ、今から外行ってくる」
「整えた意味なくなるだろ馬鹿」

小さくため息をついたユウタはアタシの頭の上に手を置いた。

「髪の毛もやるぞ?」
「んー」

アタシの返事にユウタは静かに髪留めをとっていく。そのままテーブルに置いてあった黒い櫛でアタシの髪の毛をとかしていった。
先程とはまた違う感覚。だけども先程同様に柔らかで優しい手つき。あまりにも気持ちよくて、心地よくて、このまま瞼を閉じれば眠れるんじゃないかというほどだ。
普段羽も髪の毛も全く気にしていないし手入れもしてない。空を飛ぶハーピーにとって髪型が崩れるのは仕方のないことだし、アタシは別に今まで気にすることもなかった。
だけど、こうして整えられるとよくわかる。誰かにされることがこれほどまでに気持ちいいなんて…いや、ユウタにされるからこんなに気持ちいいんだ。
そう思っているとまたパチリと火花が散った。

「っ」

ごくわずかなものだったけどユウタが顔をしかめたのがわかった。先程ので電撃が体に走ってしまったのだろう。見れば痺れを取るように手をぶらぶらさせていた。

「やっぱビリっとくるんだな」
「痛かった?」
「んー…痛いっていうより痺れる感じ」

それが当然だ。
人体への損傷はもとよりないし、痛みを与えるものではない。その代わり与えるのは電撃のような快楽で、あまりの強さに体が動かなくなってしまうほどのもの。指先とは言え痺れはしばらく抜けないだろうし、微弱だろうと快楽を感じているはずだ。

「気持ちよかった?」
「電気マッサージぐらいには」
「え?…電気まっさーじって何さ?」
「こっちの話」

まるでこれ以上離したくないというように彼はそっけなく言うとそのまま無言で櫛を動かし続けた。





「…っと、髪も終わりだな」
「んーっ!!」

ユウタの声にアタシは椅子から立ち上がって背中を伸ばす。まるで爆発したようだった翼と髪の毛はいつものように、いや、いつも以上に整えられていた。この状態は言葉にできないぐらいに気持ちがいい。快楽とはまた違う、スッキリとした気持ちよさだ。

「ありがと、ユウタ」
「どういたしまして」
「それじゃあお礼に、今度はアタシが気持ちよくしてあげるよ♪」

バチバチと一度触れれば快楽に痺れる強力な雷を発生させてユウタに近づく。これなら一瞬触れただけでも力は抜け、快感に飲まれて動けなくなるだろう。先ほどの指先だけしびれさせるようなものとは違う強力な雷だ。
目の前で放電するアタシを見てユウタは首を振った。

「遠慮しとく。飯できてるんだ、早く食べないと冷めるだろ?」
「何言ってんのさ。せっかくいいことしてあげるって言ってるのに」
「子供が何言ってんだ」

子供と言えるほどアタシとユウタは歳の差はないのだが、どうしてだかこういう雰囲気になるといつも彼は子供をあしらうような態度をとる。そっけないというよりも呆れたように。

「あんまり放電すんなよ。電化製品があったらショートしてるところだぞ」
「電化…せいひん…?」
「こっちの話」

再びそっけなく言うとユウタはアタシに背を向けてキッチンへと足を進める。既に出来上がった料理をさらに盛りつけ、テーブルに運んできた。湯気を立てて良い香りを漂わせる料理に忘れていた空腹を思い出す。
だけど。
空腹だけじゃ収まらない。作ってもらった料理を食べたところで埋められるのはお腹のみだ。
ずっと熱くなっていた、この下腹部の疼き。一人では抑えきれないこの欲望。どうしようもないくらいに乾いてしまうお腹の奥。そして、暴れだす魔物としての本能。
交わりたいと叫んでる。
繋がりたいと喚いてる。
それでもユウタにはいつものようにあしらわれる。紙一重で、後一歩でするりと抜けては逃げていく。傍にいても絶対に越えられない壁を作られているかのように。
それでも、その程度で抑えられるほどアタシの欲望はちっさいものじゃないとユウタは知らないんだ。
背中を向けて次の料理を運んでこようとするユウタに向かってアタシは雷を纏い、思い切り飛びかかった。
次の瞬間。

「きゃんっ!」

ばちんっと、瞼の裏で火花が散った。
額に打ち付けられた固くて細いもの。金属ではないだろうがそれで放たれた一撃はあまりにも早く、痛く、思わず纏っていた雷が弾けてしまった。
目の前には一瞬だけでも触れたはずなのに何事もなかったかのようにため息をつくジパング人の姿。涙目を凝らして見てみるとユウタが持っていたのは料理に使うための木で出来た菜箸だった。

「知らないんだろ。絶縁体の木には電気は流れないんだよ。そんなことやってないでさっさと飯にするぞ」

こんこんとアタシの頭を叩いて椅子にすわるユウタ。そこから対面の椅子に座るようにアタシに促して料理の乗った皿を置いていく。
何事もなかったかのように扱う姿にムッとする。もう一度飛びかかって襲ってやろうかと思うがそれを許してくれないのがこの男。試しに雷を纏っただけでも反撃のため菜箸をこちらに向けるに違いない。
仕方なくアタシは椅子に座り、出された料理に手を付けるのだった。





食事を終え、空いた食器をユウタが片付けている間アタシはすることがない。この隙に抱きついて雷を流してやろうかとも思ったが流石に仕事を邪魔するのは悪いから我慢する。
ふと窓の外を見てみた。未だに振り続ける雨にげんなりするが時折走る閃光と轟音にテンションが上がる。雨は嫌いだけどこの風景も悪くない。
そんな風に思っているといきなり部屋の明かりが消えた。

「ひゃっ!?」
「っ!」

一瞬で目の前が真っ暗になってしまった。何も見えない黒一色の空間。両腕を伸ばしても何があるのかすらわからない。
そんな中でもユウタは落ち着いた声で考え込んでいた。

「停電?ってここは電気通ってないし…ランプが壊れたか?」

この家の明かりはこの部屋の天井に吊り下げられてるランプのみだ。魔法の力が加わっているのでそう簡単に壊れることもないし、切れたらアタシが魔力を注ぎ込めばしばらくの間光り続けるという代物。
だけど、所詮ここにあったもの。人が長い間住まずに放置されていた場所のモノを使っていたのだから寿命が来てしまったのだろう。
今までずっとこれに頼っていたから他のランプなんてない。それでも夜でも月明かりが差し込むこの家ではランプなんてなくとも十分だった。
だが、今日は雨。月の光は雲に遮られ家の中を照らしてくれる光源はない。アタシが帯電して照らすというのもあるがユウタに襲いかかろうとしていると誤解され逃げられかねない。

「…どうする?」
「とりあえずブレーカー…じゃなかったな。明かりになるもの探さないと…」

そうは言っても家の中は真っ暗闇だ。ジパング人のユウタなんて黒髪も黒服も闇に溶け込んでしまいどこにいるのかもわからない。
試しに一歩進み出てみるとゴツンと硬い何かにぶつかった。

「あいたっ」
「おっと、大丈夫か?」

肩に回される腕らしきもの。触れた頬から伝わる布のような感触とかすかな鼓動。それから優しい体温にアタシは今ユウタにぶつかったことを知った。
とたんに頭の中に浮かぶ言葉。
暗闇。二人きり。密接。
…チャンス。
窓の外は月明かりなんてない雨模様。家の中は光は一切ない真っ暗闇だ。魔力の欠片も扱えない普通の人間であるユウタにとってこの暗闇では何も見えていないはず。
何をしようと、なにもできないはずだ。
…なら。
アタシは笑みを浮かべてユウタの服を引っつかんだ。ユウタとアタシを遮るものはなにもない。このまま雷を流し込めば彼は間違いなく感電する。
帯電しようものなら逃げられ、襲いかかろうとすれば菜箸で叩かれ、ことごとく止められてきたが密着した状態では防ぐことなんでできやしない。
アタシは力を込めて一気に雷を放出して―

「少し待ってろよ」

―ぽんっと頭の上に手が置かれた。

「ロウソクでも探してくるから」

そう一言残して手の温もりが消え失せた。掴んでいた服のも、今まで触れていた硬めな体の感触も。

「…ユウタ?」

窓ガラスに叩きつけられる水滴が嫌な音を立てる。騒がしく、どこか不気味な音。その正体がなんだか分かっていてもこんな暗闇では何も見えない。まるで暗闇の中に突き落とされた感覚だった。
でもアタシには雷がある。僅かなものでも閃光を迸らせば足元どころか部屋だって照らせるはずだ。別にロウソクを探す必要なんて最初からないのに。
そんな風に思っていると背中に何か冷たいものが垂れた。

「ひゃぅっ!?」

震え上がる体。ゾワゾワと悪寒にも似た感覚が背中を駆け上がってくる。
おそらく今のは水滴だろう。この家は人が住んでいたとはいえ、かなりの年月が経っているんだ、劣化して雨漏りしたところで何もおかしくない。
だけど、こんな暗闇の中。目の前も、自分の翼が届く範囲さえ十分に見えない空間内での水滴はアタシの心を一瞬で恐怖に染め上げた。
ぴちゃんぴちゃんと、今度は続けて同じ場所に水滴が落ちる。
雨漏りだと分かっていても、ここが普段から住まう場所だと理解していても体は震え、足が笑う。
怖い。ただの水でも、ただの暗闇でも、ただの雨音でも、全てが怖い。
まるで自分一人が暗闇に放り出されたような感覚にその場から一歩も動けなくなってしまった。

「ユ、ユウタ…」

震える声で呼んでみるも返事はない。聞こえるのは雨水の叩きつけられる音だけだ。

「ユウタ……」

もう一度呼んでみる。それでも返事はない。
ユウタがこのまま闇に溶けて消え失せてしまったんじゃないかと思えてしまう。
そんなことはない。絶対にない。そう言い切れるはずなのに今のアタシには不安で仕方なかった。
雷を纏って辺りを照らす。先程考えていたのにそれすらできないくらい体に力が入らない。不安が、恐怖が、孤独が、アタシから全てを奪い去ってしまった。

「ユ…」

もう言葉すら出ない。
どうしてだろう。今までこんなことなかったのに。
大雨なんて、暗闇なんて、気にすることなく羽ばたけた。そこに光がなくともアタシは照らせるし、雨粒に濡れた翼は重いがそれでも飛ぶことは容易だった。
何も恐れることはない。雷を操り、空を支配するサンダーバード、それがアタシなんだから。
アタシ、なんだから……。

「っと、呼んだか?」

いきなり後ろから聞こえた声にアタシは間髪いれずに抱きついた。いきなりだったからか反応できず、また拒否する素振りもなくユウタは受け止めてくれる。

「おわっ…エクレールって結構怖がりなんだな」

怖がりだと言われてもどうでもよかった。笑われたところで気にもしなかった。
この温かさがわずかに消えただけでも恐ろしくなる。暗闇が怖かったわけじゃなくて、ユウタがどこかに消えてしまったことが怖かった。
こんなこと今までなかったというのに。確実にユウタとの生活はアタシの中の何かを染められている気がする。それがなんだかわからないけど、悪い気持ちじゃなかった。
雨漏りの音に気づいたらしくユウタが上を見た。

「んー?…雨漏りか。こりゃ寝室まで濡れてなきゃいいけど」

台所からコップを持ち出し雨水の垂れる床へと置く。それから持ってきていた火のついたロウソクを片手に暗闇の中へと進みだそうとする。
そんなユウタを遮るようにアタシは足を絡めた。

「待って…」
「ん?」
「い、行かないで…」

なんて弱々しい声だったんだろう。以前のアタシならこんな声絶対に出さなかったのに。
それでもその声にユウタは反応して足を止めた。どんな表情をしているのかわからないがいつものように困ったような、呆れたような表情をしているに違いない。

「…まったく、仕方ないな」

口癖のように言葉を呟きアタシの腰を抱き上げ、そのまま進んでいった。





気づけばアタシは普段眠るベッドに横たわっていた。側には暗くてわかりにくいがユウタもいる。
どうしているのか、なんて聞かずともわかった。そんなことを聞いてユウタから離れたくもなかった。

「さっさと寝ろよ」

そう言って頭をゆっくりと撫でてくれる。扱いが子供と全く変わらず、普段のアタシなら文句の一つでも言って雷を食らわせていただろう。だというのに、今はこうされたかった。
ただ撫でられるだけでも嬉しくて、思わず雷が弾けた。

「くっ」
「あ…ごめん」
「いや」

一瞬顔を歪めたのがわかったけどそれでもユウタはアタシの体に触れたまま。子供を落ち着けるように撫で続けてくれる。自分自身が感電するとわかってるのにだ。
いつものユウタならアタシが雷を纏うと逃げるか触れずに抑える。菜箸を使ったように電撃の伝わらないものを用いて対抗するのが普段だ。
だというのに今は気にすることなく触れている。そこまでしてアタシの傍にいてくれることが嬉しい。雷を抑えようとしても感情が高ぶり、また迸ってしまう。

「っ…」
「ご、ごめんっ」
「…なに謝ってんだよ。普段は構わず襲いかかってくるくせに」

謝るアタシに対してユウタはからから笑った。

「…ねぇ、もっと抱きついていい?」
「いいけど、翼気をつけろよ」
「ん…」

頬に当たる硬い肉の感触。穏やかに脈打つ鼓動が聞こえ優しい温かさが伝わってくる。先程まで取り乱していたのが嘘のように心が落ち着いた。
だけど、これだけでは止まらない。近づいたことによりユウタの匂いがさらに香り、下腹部が熱を持ち始める。押さえ込んでいた雷ももうすぐ弾け迸ってしまいそうだった。
交わりたい。繋がりたい。キスしたい。エッチしたい。
本能のままに襲いかかるのが魔物だがそれを良しとしてくれないのが人間だ。その典型的な例が今目の前にいる存在。
襲いかかろうとすれば逃げ出して、無理やりしようとすれば押さえ込まれ、迫ろうものなら拒否される。
それでも今だけはこうして傍に居てくれた。

「ユウタ…」
「ん?」

優しく微笑みこちらを覗き込んでくるユウタ。いつもとはまた違った優しい姿にまた下腹部が熱を持ち、雷が弾けた。
パチパチと何度も閃光が迸り、ユウタの動きが鈍ってくる。自分が痺れていることがわかってないのか、それともわかった上でなお触れているのか。
そんな優しさが堪らないくらいに嬉しくて、そして我慢の限界だった。

「ユウ、タ…」

もう一度彼の名前を呼んで、アタシは耐えられずに唇を押し付けた。

「んむ♪」
「んっ!?」

甘い甘い口づけ。ただ唇を重ねているだけでも隙間から染み込むように広がってくる。
パチリパチリと迸る雷撃。微弱なものだけど確実にユウタに流れ込み、そしてアタシにも痺れを感じさせる。

「ん、ふ♪ふぁあ…むっ♪」

重なるたびにショートして何度も部屋が明るくなる。一瞬一瞬だけど見える愛しい男性の顔。見ているだけでも胸の奥がきゅっとして、また雷が迸る。
唇を離すと銀色のアーチがかかり、プツンと切れた。

「ん、はぁぁ…♪」

甘い甘いその感覚にうっとりしながらもアタシはユウタの体を仰向けにさせる。すると彼の表情が一瞬変わった。

「体が…?」

ようやくユウタは自分の体が自由に動かないことに気づいたらしい。先程からキスとともに微弱な雷を流し込んでいたのだがやっと効いてきたようだ。アタシも少し痺れるけど。
震える手をつき立ち上がろうとするユウタを制して彼の上に跨った。

「アタシが、してあげるから…♪」

何かを言いたげな顔をするがそれよりも先にアタシが唇を唇で押さえつけた。そのままユウタの服を脱がし、先程から自己主張する一部を引きずり出す。
熱く脈打つそれはアタシの雷でこれ以上ないくらいに膨らみ、固くなっていた。先ほどのキスでこれ以上ないくらいに濡れたアタシ。もう準備は必要ない。
アタシはゆっくりと腰を上げて先端を導くように支える。ユウタを見れば何か言いたげだけど体が動かないことに諦めたのか小さく息を吐いた。
そんないつもどおりの彼にアタシは笑みを浮かべて一気に腰を下ろす。

「んっ!」

腰と腰がぶつかった瞬間、雷の弾ける音が部屋に響いた。

「くぅ、ぅ…ぁ、はぁ……入った…♪」

体の中に入ってくる自分以外のもの。初めて感じる、埋め尽くされるような圧迫感。燃え上がるような熱に強く脈打つ存在。
繋がってる。その事実を体で感じ、思えず笑みが浮かんでしまう。それどころかまたバチリと雷が迸った。
痛みはないと言えば嘘になる。だけどもそれを上回る快楽が塗り替えし、体の奥から弾けてくる。
入れただけでも気持ちいいのに動いたらどうなってしまうのだろうか。キスだけでも雷は制御できずに漏電し、抱きしめられては迸っていたのだからそれ以上の刺激的な快楽を得るに違いない。
アタシはためらいなく腰を上げた。

「んんっ♪ぁ、ふぁっ♪」

声が漏れるのを防げない。漏電するのが止められない。膣内でユウタが擦れるたびに頭が真っ白になるような快楽が走り、体を雷が痺れさせる。
たった一往復。それだけでも子宮が熱く疼き、膣肉全体が奥へ奥へと誘うように蠕動するのがわかった。体の内側からも雷が弾けているんじゃないかというくらいに痺れてくる。

「ふ、ぁあああっ♪気持ちいいっ♪気持いいよっ♪」

押さえつけるように体を倒すと応えるように抱きとめられる。優しく、愛しく包むように回された腕が嬉しくて、また体が跳ねた。
肉は蕩け、にちゃにちゃといやらしい音を立てながら吸い付いていく。その感覚がたまらないのかユウタは眉をひそめ、歯を食いしばって耐えていた。
そんな表情見ているだけでも嬉しくなる。思わず雷が漏れ出すほどに。

「ひゃあっ♪」
「うぁっ!」

自分自身が制御できない。それどころか漏電してしまい体に痺れる快楽が迸った。
腰がぶつかるたびに乾いた音と雷の弾ける音が部屋に響く。つながった部分から走る快楽が痺れるように体を駆け巡り、漏電した雷に震えた。
固くこわばった先端がアタシの一番奥を押しあげ、何度も何度も膣壁を引っ掻く。その度頭の中が真っ白になるような感覚に陥り、中が絡みついていく。
それを振りほどくようにユウタは自身を引き抜き、さらに深くへと埋没させてくる。

「んんああっ♪うぅやぁっ♪あああああっ♪」

もう何も考えられなかった。言葉も喋れない程に激しい快感の中、それでもアタシ達は本能に従って体を突き動かす。
理性は弾け、快楽に痺れ、雷が走り、ユウタを感じて行為に沈む。
やがて何か大きなものが体の奥から押し寄せてきた。アタシの全てを焼き切ってしまいそうな強烈な快楽の予感。雷なんて比べ物にならないくらいに刺激的な快感の訪れ。

「ユウタっ♪ユウタぁっ♪イク、イっちゃうよぉお♪」

その言葉にユウタは頷き、アタシの腰を掴んで一気に腰を叩きつけた。体が跳ね上がり、浮かんだ汗のたまがはじけ飛ぶ。
刹那、一際大きな閃光が迸った。

「いくぅぅぅっ♪」

今までに感じたことのないほど強烈な雷が走り、頭の中が真っ白に染まっていく。それでも膣内のユウタがブルブル震えているのがわかり、信じられないほど硬くなったそこから熱い体液がぶちまけられた。

「はぁあああああああああああっ♪」

絶頂からさらに上へと押し上げられるような感覚。今までの行為が子供騙しに思えるほどのものが子宮から体を痙攣させた。
何度も脈打ち注がれる感覚に雷が止まらない。制御なんでできないくらいに轟いてはアタシとユウタの体を駆け巡った。

「や、ぁ…はぁ…ぁ…♪」

長い長い絶頂を経てようやく体に感覚が戻ってきた。あまりにも強烈だったため体が震えてうまく動かない。力の入らないままユウタの方へと倒れこむと彼は優しく抱きとめてくれる。
そっと頭を撫でる優しい手。絶頂後の余韻に浸る体にはそれすらも甘美なものでまたパチリと閃光が走った。

「んぁあ…ユウタぁ♪気持ちいいよぉ…♪」
「あ、ぁ…すごい、痺れた」

触れた胸から早鐘のように脈打つ鼓動を感じる。疲れたように苦笑するユウタはゆっくりとベッドから体を起こした。その際力の入らないアタシを落とさないように抱きしめながら。

「ユウタぁ♪もっとしよ…もっともっと、沢山、しよ…♪」

アタシは足を絡めてユウタを抱き返す。わずかな動きでもまだまだ硬い男性の証が擦れ、体を痺れさせる快楽を生み出す。だけど、足りない。先ほどの絶頂と比べれば天と地の差だ。
子宮に精液を注がれる感覚。絶頂へと押し上げられる快楽。あまりにも甘くて強烈な快感がもっと欲しい。
ユウタの精液が、欲しい。

「ユウタ、ユウタぁあ♪」

アタシは求めるように体をすり寄せて再び雷を迸らせるのだった。










「…うぁ、まだ痺れてる」

朝、いつものように起きて朝食を作ろうとして包丁を持つと自分の手が痺れていることに気づいた。どうやら昨日いつのまにか流し込まれていた雷で体がまだまだ回復していないらしい。
だからといって朝食を作らないわけにはいかない。かといってこのままで刃物を扱うのは危険だ。仕方ないので包丁を使わず軽めのサンドイッチでも作ろうと卵を取り出し水の入った鍋へと放り込んだ。

「…どうするか」

卵が茹で上がるまでに時間がかかる。とは言っても十数分、その間にできることなんて限られている。
昨夜の雨漏りの処理でもしようか。いや、それには時間がかかりすぎる。
ならば洗濯でも…さっき終わらせてたか。
ならオレの体をこんなのにした、まだ安眠の中にいる少女でも起こしてやろう。
そう思って未だ震える手を確かめるように握り、開きを繰り返しオレは寝室へと足を進めた。






「…まだ寝てるか」

ベッドに腰掛けて見下ろしたのは安らかに眠るサンダーバードの少女。昨夜乱れに乱れた面影はない、可愛らしい姿だ。
普段は荒々しく、猛々しく、襲いかかるような真似に出る危ない女の子だがこうしてじっくり見てみるとやっぱり綺麗だ。顔立ちは整っているし肌はきめ細かいし、将来は美女になること間違いないだろう。
そっと彼女の翼を撫でてみる。青く、黄色く、雷を模したかのような色合いをした綺麗な翼。髪の毛も同様であつり目なことも相まって一目見ただけでは気の強い女の子という印象を受ける。実際オレが初めて会ったときは「アンタを攫ってやる」なんて言って本当に攫われたっけ。可愛い女の子というよりもハイテンションな女子というところか。
だけどなんだかんだである、しおらしい部分。昨夜、一人にしたら今にも泣き出しそうになっていたことや情事中に求めてくる姿。普段凶暴性さえ見せる態度とは違う言動には流石にオレも戸惑った。
暗闇の中、縋るような目で見られて放っておけるわけない。そのせいで一線を越えることになってしまったのだけど。

「…まったく」

オレの気持ちなんて知らずに眠るエクレールを見て苦笑する。
昨夜は随分とやりたい放題やられてしまったんだ、今日はオレのお返しといこうか。雷よりもずっと刺激的な一日にしてやる。
そう思ってオレは朝日の差し込む窓を開けた。

「ほら、エクレール。朝だぞ」
「ん、ん〜…」





―HAPPY END―
13/05/12 22:02更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということで新しい魔物娘さんのサンダーバード編でした
荒々しく凶暴な性格をしたサンダーバードですが、それでもしおらしい部分があるはず!
今回はそんな感じでエクレールと主人公の二人を書かせていただきました
ああ、私もビリビリされたいですw

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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