読切小説
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密室と貴方とオレと誤算
「―っと、以上だ」

遠くまで聞こえそうな、凛とした威厳ある声に動かしていたペンを止め、書き上げた数字を見つめる。聞き逃したものがないかを確かめたら今度は空いた部分に計算式を書いていく。
足して、掛けて、引いたら割って、また足して。答えが出れば再びペンを走らせて今度は別の計算式を作り、答えを導く。そうすると先程と同じ答えが出た。

「はい、出来ましたよ。先輩、口で言ってくから書き写してくれますか?」
「ああ」
「んじゃ、上から―」

今出た数字を先輩に伝えると彼女は頭に生やした犬のような三角形の耳をぴくぴく動かしながら紙に書き写していく。流れるような動作でペンを走らせる彼女の顔をオレは眺めた。
切れ長で凛とした目元に瑞々しくも通った威厳のある声を発する唇。すっとした鼻筋にオレのいたところではそう見られない、キメ細かい褐色肌、さらには黒曜石のように艶やかな長い黒髪。黄金でできた髪飾りや天秤、さらには剣を腰に携える女性。
ただし、人間にしてはちょっとおかしなところもある。
砂漠には似つかわしくない露出の多い姿もさることながら、頭に生やした髪の毛と同色の犬のような耳や臀部に生えるこれまた犬のような尻尾。そして両手両足は肉球までついた犬のもの。凛々しく綺麗な顔とのギャップがまたたまらない彼女はどこかエキゾチックで魅惑的な雰囲気を漂わせながらも指導者として全てを統率する威厳ある女性だった。
それがオレの先輩であるアヌビスのシェヌ。
全てを伝え終えると彼女はスラスラとオレには読めない文字を紙に書いていく。隣に置かれていた紙の束は既に先輩の持っているものが最後であり、これでオレの今やるべきことはなくなった。あとは先輩が書き写し終わり、紙を別室に運んで仕舞えば今日の仕事は終了だ。
ほぅっとため息にも似たものを吐き出し、ガラスのない窓の外へと視線を投げる。そこにあるのは緑に覆われた大地に厳しい灼熱の日差し。さらにはるか先にはテレビや写真でしか見ることのできなかったいくつもの砂丘。どれもこれも高校に通っていた頃には、あの世界では直接見ることのなかったものばかりだ。
勉学に追われ、家事に追われ、忙しい毎日を送っていた日々と違い今では随分と落ち着いた毎日を送っている。勉強の代わりに仕事をこなすこととなったがそれでも充実した日々だ。
もう一度ため息をついて計算式の書かれた紙をまとめる。すると先輩がペンを動かしながら言った。

「本当にユウタは計算が早いな。これなら予定の時刻よりも早く仕事を終わらせられるぞ」
「理系にとって数学できることは必須ですからね」
「…?理系?」
「あ、いえ、こっちの話です」

昼食後から計算し、書き続けていたおかげで窓の外からは夕日の光が差し込んでいる。赤い光に照らされるアヌビスを眺めていると彼女はペンを置いて立ち上がった。今まで書いていた紙まとめ、隣の書類の束の上に積み上げる。

「よし。後はこれを仕舞えばいいだろう」
「運ぶだけなら手伝いますよ」

横に積まれた資料や書類の束を目にしてオレは立ち上がる。女性一人で運ばせるにはあまりにも量が多すぎる。先輩が人間ではないアヌビスであって、オレの常識が一切通用しない存在だとしても女性に重い物を運ばせるわけにはいかない。

「む。そうか?なら頼むぞ」
「お安い御用です」

書類の束を抱えて先輩の後を歩いていく。石畳のような床に神殿のような柱、壁に掛けられた松明などはまるで映画のセットのような、それでも現実で間違いない遺跡内。いい加減慣れてきたが、未だに歩くだけでもワクワクする。壁の隙間から刃が飛び出したり、足元がいきなり抜けたり、色の違う石畳を踏んだら岩が転がってきたりとゲームみたいな仕掛けが施されていそうで退屈しない。最もここらにそんな仕掛けはないと知っているのだけど。
そんな遺跡内を進んでいると先輩はふと思い出したように言った。

「そういえばリンクスはどうした?この時間帯ならまだ門番をしてるはずだが?」

それはここの遺跡の門番をしている女性の名前。先輩同様褐色肌で露出の多い服を着た可愛らしい人なのだが、先輩同様に人間ではない。あの有名なスフィンクスの魔物らしい。

「寝てましたよ」
「…」

オレの言葉に呆れたように先輩はため息をついた。
先輩と違って付き合いやすい性格なのだが困ったことにちょっとサボり癖がある。彼女もまたオレにとって先輩なのだが…サボってることは正直に報告しないといけない。隠せばオレまで仕置をうけることになるのだから…。

「まったくあのダメ猫は。仕方ないが門まで起こしにいくぞ」
「いえ、部屋で寝てます」

その一言に先輩の尻尾の毛が一気に逆立った。

「………ユウタ、調理室でこの前商人から買い取ったあの香辛野菜を持ってこい」
「香味野菜って…まさか、山葵?」
「ああ。ちゃんと摺り下ろしておけ」
「…せめて玉ねぎにしませんか?」
「仕事に出ようとする意志も見られない寝坊助を起こすんだ。優しく起こす道理はないだろう?」
「…」

数分後、遺跡内に女性の壮絶な悲鳴が響き渡ることとなった。










リンクスを刺激的に起こして門の前に立たせた後、ロウソク一本の燭台を手にした先輩の後を付いていくと階段を下って暗い道を進んだ先の部屋についた。木で作られた脆そうなドアを彼女が開け、続くようにオレも中へと入っていく。一歩足を踏み入れただけでもまるで図書館の中のような、いくつも束ねられ積み上げられた紙の匂いが鼻をついた。

「ほら、ここに置いてくれ」

先輩の示す棚に抱えていた資料を押し込む。あまり誰も触れていないのか押し込んだだけで舞う埃に顔をしかめながらも次々と別の資料も同じように仕舞っていった。
払い落とすように両手を叩き、先輩の方を向くと彼女は満足そうに頷いた。

「これで終わりですか?」
「ああ。今日中にやらねばならんのはこれぐらいだ。このあとは七時半から夕餉で、その二時間後には湯浴みができるようになる。ユウタの前に私やリンクスが済ませるからきっかり二時間に来るんだぞ?」

先輩がそう言い振り返った次の瞬間、がちゃりとドアが勝手に閉まった。

「…?」

ただ閉まっただけではなく、続いて鉄でも落とされたかのような重い音がドア越しに聞こえてくる。まるで、ドアを開かないようにする閂を掛けられたような音だ。
試しにドアを引っ張ってみるがびくともしない。逆に押して見てもぴくりとも動かない。たった一枚の薄い木の板のはずなのにまるで巨大な岩のようだった。

「にゃはははは〜♪引っかかったにゃあ♪」

ドア越しに聞こえる嬉しそうな甲高い声。聞き覚えのあるその声は先程遺跡内に盛大に響いた声と同じ、リンクスのものだった。

「普段もひどいことしてるけど今日のは一段とひどかったにゃんっ!いっつもいっつもあんなことばっかしてあたしが黙ってると思ったのかにゃんっ?!あたしだって怒るときは怒るんだにゃんっ!!」

普段からサボり癖のある彼女にとって先輩に怒られることは日常茶飯事なこと。説教とかお仕置きされる姿を見ることは珍しくない。サボっているのだから当然なのだが、どうやら先ほどのでとうとう切れたらしい。
爆睡中の鼻に摺り下ろした山葵。リンクスでなくとも怒るのは当然だろう。逆に先輩にやろうものなら日光が容赦なく降り注ぐ灼熱の砂漠に埋められるかもしれない。

「シェヌ!今日はそこで一日頭を冷やすがいいにゃんっ!」

…オレは?

「にゃはははぁ〜♪」

そのままドア越しの声は遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。
先ほどの言動からしてまさかリンクスはオレがいることをわかってないのだろうか。先輩一人を閉じ込めてしてやったと喜んでいるんじゃないのか。
やってくれたな…あのメス猫…っ!!

「…先輩、どうしますか?」

振り返って先輩の方を見ると彼女は俯きながらゆっくりとドアに近づいた。押しても引いても動かないのを確かめると今度は犬のような両手でたたき出す。それでも開かないとわかるとガタガタと震えだした。

「…先輩?」
「わふぅっ!」
「あ、ちょ…」

普段の理知的で凛とした威厳ある姿は欠片もない、犬のように喚きながらがりがりとドアを引っ掻く先輩。流石に爪を痛めてしまいそうなので羽交い絞めにして離すとじたばた暴れだした。
普段一分一秒単位で計画を立てて行動する先輩にとって思い通りにならなかったり、予想外なことが起きたりするといつもこうなってしまう。以前も先輩と一緒に経理の仕事をしていたとき、彼女の計算にミスを見つけ報告したらこうなった。目を回してわふぅわふぅ言って犬みたいに走り回る。見てる側としては面白いけどちょっと困る先輩の悪い癖だ。

「先輩、落ち着きましょうね」
「きゃいんっ!」
「きゃいんまでいきますか…」

アヌビスというのだから先輩も根本的には犬のところがあるのだろう。だが犬なんて飼っていたことないからどういう扱いをすればいいのかわからない。仕方なく抱きしめて落ち着くまで頭を撫でておく。

「わぉん…」

そのまま撫で続けると落ち着いたのか徐々に力を抜いてぐったりと倒れ込んでくる先輩。柔らかな体の感触や甘く魅惑的な香りにどきまぎしつつ、彼女の尻尾が左右に揺れ動くのが見えた。逃げ出そうとしないのだから嫌がっているわけではないだろう。
さて、どうするか。今日はもうやることはなく、部屋に戻って寝ればいいだけだ。急ぎの用はないし、今すぐここから出ていかないといけない理由もない。
だが、ずっとここにいるわけにもいかない。ナイスタイミングなことに明日オレと先輩は休日だ。もしも仕事があるのなら出てこないオレらを不審に思って探してくれたかもしれないが、休みなのだからそんなことはないだろう。さらにはあのリンクスのことだ、先輩を閉じ込めたことを忘れてしまってもおかしくない。一日以上、ここに閉じ込められるのは…辛すぎる。

「先輩、ちょっと離れて」

撫でていた先輩を引き離し、オレは助走をつけて両足でドアに蹴りを入れた。

「―っ!」

だが感じたのは鋼鉄の板でも蹴ったような異常な硬さ。見た目は木で出来ているのだから容易く蹴破れたはずなのに、オレは勢いを失って床に倒れる。すぐさま起き上がってドアに触れてみるが手のひらに感じるのは古ぼけた木の感触だけ。金属の硬さには遠く及ばないものだった。

「なんで…!?」
「…ここのドアは特別なんだ」

先程半狂乱になってわふぅわふぅ言っていた先輩が平静を取り戻したのか困ったように言った。犬みたいに吠える姿は何度か見たがこんな表情をする彼女を見るのは珍しい。

「魔法を掛けてそう簡単に破れないようにしてある。どれほど強力な魔法をぶつけられようと、どれほど強い衝撃だろうと壊れることはまずない」

計画性ある理知的で生真面目な先輩が苦虫を噛み潰したような顔をする。してやられた、と言いたげに。普段の姿を知っているからこそ、その表情が今置かれている状況がどれほど深刻なのかを理解する。

「こんなとこのドアってそんな厳重にしとくもんですか?」
「最重要資料や書類を保管しておく場所なんだ。そう簡単に開けられるドアにしておくわけ無いだろう?」
「…そりゃ、そうですね」

なら、仕方ないか。だが、それではこのドアをぶち破って出ることなんて出来やしない。別の通路でもあるのなら出られる可能性があるだろうが、来る途中に階段を下りたのと、ここに来るまで窓がひとつも見当たらないところをみると地下と考えていいだろう。他の脱出口がありそうには思えない。

「一応聞いておきたいんですが…このドア以外に出られるところは?」
「重要な書類が塊であるのに二つ三つも作るわけ無いだろう」
「ですかー…」

ダメもとで聞いてみたがやはり無理らしく、オレはため息を付いて天井を仰ぎ見た。





いかに地下とは言えここは砂漠。周りは緑に囲まれていても夜はかなり冷える。その冷気は地下であるこの部屋にも容赦なく届く。先輩やオレに宛てがわれた部屋には熱や寒さを緩和する魔法がかかっているらしいが、ここはそうでないらしい。
普段から学ランやワイシャツを着込んでいるオレにとってこの暑い気候は厳しいものがある。その分逆に寒いのには多少なりとも耐えられるだろう。だが先輩はそうじゃない。布の薄い服に露出の多いデザイン。犬のような手足であっても肌寒いことに違いない。その証拠に肩が震えていた。

「先輩、寒いんですか?」
「別に、この程度平気だ…」
「肩震えるのにですか?」
「わふっ!?」

見透かされたことに慌ててあたふたする先輩。普段の姿と比べるとギャップがあってこれまた可愛らしいのだが本人が困るのであまり言わないことにしよう。
しかし、こんなところに閉じ込めるなんてリンクスもやってくれるじゃないか。ここまで冷えることを知っててやったつもりはないだろうが、わかってたら最悪だ。どっちにしろここを出たら先輩からの辛い辛いお仕置きを受けることは免れないだろう。
だが、まずはこの一夜をどう過ごすかだ。こんな寒いところに一夜い続けるのはできないことじゃないが、ロウソクの火だけでは温まることなんてできるわけがない。それに、あんまり大きな火にすればこの部屋の資料に着火する恐れがある。ただでさえ砂漠気候は乾燥するのだからこれ以上火をつけるのは危険だろう。
そんな中でいくら人間ではないアヌビスである先輩とは言え、女性が肌を冷やすのはいただけない。
…仕方ないか。

「先輩」

一声かけてから彼女の肩に学ランを羽織わせる。一瞬「きゃわんっ!?」と犬みたいな悲鳴をあげたのはとりあえず聞かなかったことにして彼女から離れた。

「わ、わふぅ…」
「とりあえず着ててくださいよ。その格好じゃ寒いでしょ?」
「…わん」
「……とりあえず言葉話せるとこまでも戻ってきてもらえませんかね?」

わんだのきゃわんだのわふぅって何を言ってるのかわかるわけない。もしも彼女がリンクスのような猫だったらにゃあにゃあ鳴かれても尻尾や耳でなんとか理解できただろう。でも飼ったことのない犬は無理。
先輩を見ると恥ずかしそうにこちらをチラチラ見ては尻尾が左右に揺れる。

「…くぅん」
「…」
「……あぉん」
「…えっと、なんて言いたいんですか?」
「…あ、ありがとうな」
「あ、戻ったんですか」
「少し、落ち着いた」

そう言って壁際に座り込み、羽織った学ランを引き上げる。ロウソクの揺れ動く炎が先輩の滑らかな肌を、細く華奢で、それでも綺麗な体の線を艶やかに浮かび上がらせた。普段日の下でほぼ毎日見ているが揺らぐ陰影が灯るとまた魅力的だ。
先輩に限らずリンクスも、彼女の部下であるマミーの皆も、それからオレも仕える存在であるファラオのあの女性もまた美人。男性なんてオレ以外にいないのは困るが、周りが美人だらけというのも嬉しくもあるがちょっと困る。
二人きりで密室に閉じ込められる状況の方がもっと困るけど…。

「どう、するか…」

小さく呟いたところでいい案なんて思い浮かばない。最悪ここで夜を明かすことになってしまうだろう。冷えるができないことではない。埃っぽく、下は遺跡内の床同様に石でできた硬いものだとしても一晩だけならそこまで苦にはならないだろう。
ならせめて寒さ凌ぎになるようなものはないかとそこらを見回したその時だった。

「…くしゅっ」

舞った埃で思わずくしゃみが出てしまった。やはりこんな埃っぽい地下室に長居するのは体にも良くないか。
そんな風に考えていると先輩が遠慮がちに声をかけてきた。

「…ユウタ、私に案がある」
「ん…はい?」
「このままでは服を渡したユウタの方が寒いだろう」
「…いや、あの」

気遣ってくれる優しさは純粋に嬉しいがそもそもオレは寒くてくしゃみしたわけじゃない。これだけ埃の積もった部屋ではくしゃみの一つや二つはしてしまうのも無理ないし、アレルギーなら止まらなくなるかもしれない。だが先輩はそれを勘違いしている。

「だからといって私が返すのでは意味がない。それにもし返したとしてユウタは受け取るか?」
「いや、先輩…あのですね」
「だろう?なら大きな火をともせないこの場所で、互いに体を冷やさずにすむ案があるんだ」

学ランは先輩の体を冷やさないようにと渡したのに返されちゃ意味がない。だけど、それは勘違いだというのだが彼女はオレの言葉を聞いてくれようとはしなかった。

「ユウタ、こっちに来い」
「先輩」
「来い」
「…」

有無を言わせぬその口調に仕方なく彼女の傍に歩み寄っていく。そして彼女の案とやらを聞き入れて気づけばオレは座り込み、ドアを背にして―



―先輩と抱き合っていた。



男性として年齢平均的な身長のオレとアヌビスである先輩の身長は同じくらい。それなのに後ろから抱きしめるにはちょっと不都合があるという。仮にどちらかの身長が上回っていたのなら包み込むように温めることができただろうが、それはそれで包み込む側が冷えてしまう。それはいけない、そんなのは却下だ。
ということで先輩が提案したのはお互いを抱きしめる格好をとることだった。確かにこれなら背中はちょっと寒いが触れ合う肌が暖かいし、密着している分お互いを温めることができる。身長が同じくらいでも難なくできるし、これ以上の火を必要としない。
なんと素晴らしい案なのだろうか。

「あんたはバカですか」
「きゃわんっ!?」

あまりの素晴らしさに頭が痛い。
抱き合うまで気づかなかったオレもバカだけど。
先輩は理知的で計画的で、いわゆる出来る女という言葉がお似合いの女性だと思っていたのに。クールビューティー、そんな女性だと思っていたのに。

「な、なぜだっ!何が変だと言うんだ!!」
「全部ですよ」
「せ、先輩として部下の体調管理は当然のことだ!風邪をひかれては次の仕事での支障が出るしユウタも大変だろう?」
「そりゃ風邪はひきたくないですけど…でも抱き合うっていうのは…」
「何で拒否するのだっ!せっかくの厚意を貴様は無下にするのか!私を抱きしめられないというのか!?」
「いや、発想が飛躍しすぎなんですよ」

互いを抱きしめて暖をとるというのはこの寒く暗い部屋の中では最良の選択だろう。だが最善とは言えない選択だ。

「リンクスは膝の上に乗せているのにか!」
「あれはリンクスがじゃれついてくるからです」
「部下のマミーたちの包帯を替えてるとも聞いたぞ!」
「手足だけです」
「商人のゴブリンとも仲良くしてるとマミーたちが噂してるんだぞ!」
「相手は子供じゃないですか!」

それでも先輩は早口にまくし立ててくる。ロウソク一本ではよく見えないが、多分顔を真っ赤にさせているかもしれない。
これ以上抵抗したらマミーの呪いが飛んできそうだ。今まで体感したことはなかったがリンクスが何度か受けてるところを見てきた。呪いというのだし、リンクスが悶絶する姿からしてよくないものであるあれを受けたいとは思わない。
彼女も善意で、しかもオレのためにやってくれているんだ。やっていることはあれだとしても厚意を無下にするのはいただけない。彼女はオレにとっての先輩でもあるのだし。
…なら、仕方ないか。

「わかりました…」
「ふんっ。素直に肯いておけばいいんだ」

そういうわけでおずおずと先輩の体を抱きしめた、今の状況。普段なら絶対にない距離まで体を寄せ合い、肌が触れ合う。彼女のまわした腕が、足がワイシャツ越しでもその感触と体温をはっきりと伝えてきた。確かにこれは温かい。寒気を感じるこの室内では先輩の柔らかさと優しい温かさにほっとする。
だけど。

「…」
「…」

気まずい。非常に気まずい。
よく知った相手ならこんな状況でも別に意識することもなかったかもしれない。リンクスのような気兼ねしない性格だったり、ゴブリンである商人のあの子ならまた別だが、先輩とは親しくてもこんなことをできる仲ではない。
胡座をかいたオレの足の上に座る先輩も同じ気持ちなのか何も言わない。どんな表情をうかべているかは一本のロウソクの明かりだけでは判断できなかった。
先輩とは密着するほど抱き合ってるわけじゃないがもう少しでそうなりそうな位置だ。甘い香りが鼻腔をくすぐり、女体の感触に浮き足立ってしまう。気持ちを紛らわせるために逃げるように身を捩って後退する。だが、先輩はそれすらも許してくれなかった。

「…おい、ユウタ。隙間を開けるな。寒くなるだろう」
「え、ちょ…っと…!」

抱きしめる腕の力を強め、隙間がないように体を密着させてくる先輩。さっきまでなら手足と腰が触れるだけで先輩の控えめな胸はギリギリ触れることはなかったが、強く抱きしめられたことで柔らかなものが胸板に押し付けられる。

「〜…っ!」

掠れた悲鳴をなんとか押しとどめるが先輩へまわした腕が宙を踊る。暴れはしなかったものの抱き返すことなどできず硬直してしまった。
この状況でいろいろと意識してしまうのは仕方ない。肉球の感触がくすぐったく、抱きしめるように体へまわされた足の感触にドキドキする。その上ちょうど先輩の腰が危ない部分に乗っているし、控えめでも存在感を持った二つの膨らみがしっかりとわかる。
それだけではなく、耳元では悩ましげな熱い吐息に背筋が震える。密着したことで自然と肩に先輩の顔が乗り、少し顔を横に向けただけでも触れ合ってしまう状態だ。
いくら仕方ないとは言え健全な男子高校生にとってこの状況はあまりにも厳しい。理性をじりじりと焦がし、徐々に本能を炙り出されるような感覚はあまりにも耐え難い。
だけど、逆に考えてみたらどうだろうか…。
誰もいないこの部屋で、誰も来ないこの地下室で何をしようと邪魔するものはいない。例え、ここで押し倒して柔らかな褐色の四肢を抑えつけて貪るようにその唇を奪っても邪魔は入らな―

「―いやいやいやいや」

そんなことできるはずもない。周りには美女ばかりの遺跡内だというのに今に至るまで口説くこともできないオレにそんな度胸あるわけない。
結局のところオレができるのは誰かが来てくれるまでこの状態を維持し、悶々とし続けることしかない。嬉しくあるが悲しくもあり、でもまぁ、こんな美女と抱き合えるのならそれでもいいかと納得することにした。
だけど。

「…はぅ…ぁ…」
「……?」

抱きしめている先輩がそわそわしだした。足の上で落ち着き無く身を捩り、甘えるように体を擦りつけてはまわされた両手が背中を撫でるように動き回る。柔らかな肉球が、大きな犬の手が感触を確かめるように動くたびに背筋がぞくぞくした。

「せ、先輩…?」
「…」

何も言わずに先輩は行為を続ける。動くたびに胸板に押し付けられる慎ましやかな膨らみは肌の感覚を阻害する厚い生地の学ランではなく、ただ触れただけでも明確に反応できる薄い生地のワイシャツにはきつい。
気のせいか耳元で聞こえる息遣いがだんだん荒くなっている気がする。てっきりトイレでも行きたくてそわそわしてたのかと思ったがそれらしくない。さらには臀部から生える尻尾が千切れんばかりに振られている。

「先輩っ!」

今度はやや強めに彼女を呼んでみる。するとようやく気がついたのかはっとしてオレを見た。

「どうしたんですか、先輩」
「わんっ」
「あ、そっちですか…」
「…い、いや、なんでもない」
「…」

何事もなかったかのようにそっけなく言う先輩だが依然として尻尾はぶんぶん振りっぱなしで、手は撫で続けている。それどころかまるで駄々をこね甘える子供のように体を前後させてきた。

「…っ」

やってくる相手が子供だったらよかった。でも相手は大人、オレよりも年上のクールで大人な女性。そんな彼女が体を前後させ、その動きが腰へと伝わってくるのは当然なこと。彼女の女の部分とオレの男の部分が擦れ合う刺激に思わず声が漏れそうになった。

「先輩っ…あんまり体動かすのやめてもらえま―いぃっ!?」

突然首筋に這う湿った何か。まるでナメクジのように柔らかいそれは下から上へ、耳元へと登っていき、熱い風が撫でていく。こんな乾燥したところにナメクジなんているわけがない。
予想は出来た。でも事実だとは思えない。
クールで理知的で、リーダーシップのある凛とした先輩が…オレの首筋を舐めているなんて。
しかしオレの気持ちなどお構いなしに舌らしきものは変わらず舐めてくる。下から上へと撫でる様は味わうというよりもまるで愛撫のそれに近い。

「ん、ちゅっ♪」

首筋に吸い付く感覚にとうとう我慢できなくなった。

「ちょっ、とっ!!」

突き飛ばすつもりで先輩の体を押したのに彼女はまるでなんともないようにオレの体を抱きしめ続ける。アヌビスなんて言っても見た目は女性なのだから非力だと思っていたがやはり人間ではないだけあって力も上だ。痛みはないが絶対に離れないという絶妙な力でねじ伏せられてしまう。
離れようとしても離れられない。せいぜい出来たのは先輩と見つめ合う形になっただけ。

「…はぅん」

ロウソクの明かりでも艶やかに光る柔らかそうな唇からため息のように吐息が漏れる。切なげにこちらを見つめる潤んだ瞳にいつもの先輩のものではないことを理解した。
何も言わずに見つめてくる先輩。そのままでいると吸い込まれそうな、飲み込まれてしまいそうな雰囲気の中何とか踏ん張るも逃げ出すことはできやしない。

「はむっ♪」
「んむ…?」

そんな中、突然身に感じた何かに遅れて反応。暗がりだからわかりにくいが先輩の顔が先ほどよりも傍にあったことを怪訝に思い、さらに触れた何か感覚に疑問を抱く。
なんで、先輩はこんな恍惚とした表情を浮かべてるのか。
どうして、オレは柔らかなものに唇を塞がれてるのか。
しっとりと湿ったそれからはかすかな甘味を感じる。まるで蜜のような濃くて、だけどすっきりとした味わい。その甘さはクセになるような味で思わず啜ってみたくなる。
だけど、唇からだらだらと何かが滴った。
そして、唇を拭うように何かが撫でてきた。
先程首筋に感じたあの湿ったものと同じ、先輩の舌の感触だった。

「っ!?」

あまりにも何の脈絡もなく、あまりにも突然なキス。
それがキスだったのかもわからない。子供が甘えてすり寄る様な、犬が構ってほしいと顔を舐めるような、知らず知らずに自然と唇が触れ合ってしまっただけのようなキスだった。
あっけない、気づかずに終わってしまうファーストキス。
だけども二度目は比べ物にならないくらいに情熱的だった。

「れるっ…んむ♪…ちゅ、ぅ…はむ♪」

唇を割開き侵入してくる湿った柔らかいもの。ねっとりとした唾液を注ぎ、口内を遠慮なく舐め回してくる。逃げようにも後頭部に腕を回され逃げられず、体には足を回され離れることもできない。
ようやく唇を離した先輩は恍惚とした表情でこちらを見つめていた。ロウソクに照らされた上気した頬に一筋垂れた唾液の跡。濡れた唇を舌が舐め、まっすぐ視線を向ける彼女を見て出かかった言葉が詰まる。

「ダメ、なんだ…っ♪」

切なげに眉をひそめて甘い声で先輩は言った。小さな灯りに揺れる陰影が妖艶さを引き立て、思わず見とれてしまう。凛とした威厳ある統率者とは違う女の顔にオレは何も言えなかった。

「ユウタの匂いを嗅いでいると…下腹部が、切なくなるんだ…♪」

さっきからずっと密着していることにより先輩の甘い香りに頭がくらくらする。それなのに意識ははっきりとしていて、あろうことか彼女を心ゆくまで犯したいと思ってしまう。まるでメスの匂いに誘発され、発情してしまうオスのように。
その影響か、体には如実に表れていた。理性と反する様に固くなった男の部分に先輩は女の部分を擦りつける。服越しでも感じる柔らかい刺激を堪えるように床に爪を立てるがその程度じゃ誤魔化しきれない。

「はっ……はぁ…ぁ…っだめ、だ…ダメ、なんだっ♪もう…我慢、できそうにない…っ♪」

体を震わせて切なげな声をあげる先輩はゆっくりとオレのズボンへと手を伸ばした。爪をベルトにかけ、力任せに引っ張ると容易く切れてしまう。元々安物だったが丈夫さはそれなりにあったはずなのにだ。

「ちょ…っ!」

慌てて抵抗しようとするも再び唇を塞がれ、押さえつけられる。鍛えているはずなのに女性である先輩の力に抗えない。先程ベルトを千切ったのといい、やはり魔物というのは人間と体の作りが違うらしい。

「んんっ♪む、んちゅっ♪はむっ♪」

舐めて、吸って、離れてまた口付けて。
激しいキスを求めながらも先輩は器用にズボンを脱がし、下着さえも取り払っていく。すると彼女は自分の大切な部分に手を這わせた次の瞬間、ぶつりと布の切れる音がした。
薄暗くて何をしているのかわかりにくくても今からどうなるのかは予想がついた。もっともそんなことをする相手が先輩だというのは予想外だった。
オレを組み伏せ四つん這いになって腰を下ろしてくる。先端に熱く湿った柔らかなものが触れたと思ったら一気に包み込まれた。

「はぅぅぅぅんっ♪」
「ん…くぁっ!」

途端に感じるわずかな抵抗と燃えるような熱と、痛みのないきつい締め付け。容赦なく根元から先端まで舐められるような柔肉の感触は一人では絶対に得られない快感であり、経験のないオレにとってあまりにも耐え難いものだった。

「はぁ、ふ…ぁぁ……っ♪」

先輩はオレの上で懸命に息を継ぐ。呼吸するたびに肉壁がひとりでにすぼまって密着度合いがさらに増した。ひだひだがこれ以上ないほど硬くなったオレのものにまとまりついてはすくみ上がる。我慢なんて到底無理な感触に彼女の内奥でさらに反り返った。

「くふぅっ♪はぁぁっ♪ふ、ぁあああ…♪」

荒い息を吐きながら彼女の腰はいやらしい音を立てて動く。ねっとりとした愛液が絡み、柔らかな膣壁に擦れる感覚に耐えようと先輩の体を抱きしめた。それでも彼女は止まりそうにない。

「あぁっ♪すご、ぃっ…きもち、良すぎるっ♪」

二人しかいない部屋に交わる音が響く。もしも誰かが聞いていたならば赤面し、それでも情欲を誘うような淫らな音。それはオレと先輩も例外ではなくさらに興奮を掻き立てられる。その分だけオレは体を震わせて、先輩はとめどなく愛液を滴らせた。

「ふぁぁぁっ♪こ、れぇ…おかしくなるっ♪こんにゃに気持ちいいの、おかしくなりゅっ♪」

呂律も回らないほど激しく獣の交尾のように一心不乱に腰を打ち付ける先輩。マミー達を従え、完璧に仕事をこなし、従順に王に仕える無欠の指導者の姿は欠片もない発情したメスの姿。威厳も凛とした雰囲気も、クールで非の打ちどころのない計画的な性格もプライドもない、今の彼女にあるのは獣のような本能的な欲望のみ。
動くたびに漏れる甘い声。だらしなく開いた口に突き出された舌。真っ赤に染まった頬に涙に潤んだ瞳。オスを誘い、求める淫らなメスの姿。それはあまりにも魅力的で、湧き上がる欲望をさらに滾らせた。

「きゃんっ♪あ、ふぁああっ♪」

積極的に、貪欲に、強引に、だけど愛おしく。
舐めて、振って、吸っては、締め付けて、そして深くまで繋がって。
今までできなかったことを後悔するように激しく、今までしなかった分を取り戻すように淫らに先輩は噛みつくように唇に吸い付き、搾り取るように腰を動かす。
甘美な感覚に溺れ、自ら腰を振っていることなどどうでも良くなってきた。いつの間にか添えられた手の中に柔らかな膨らみがあるのも、積極的に舌を絡めて蜜のような甘い唾液を啜るのも、理性を捨ててしまった今となっては気にすることじゃない。
この快楽が欲しい。
彼女と得られる快感がたまらない。
理知的に振舞う先輩がオレと肌を重ねて悦んでいる。淫らに歪んだ笑みはあまりにも艶やかで、愛おしい。
野獣のように、本能的に。
獣物のように、赴くままに。
先輩を犯し、犯され、求め、求められる。
オレを愛おしげに読んでくれる声、情熱的に求められるキス、獣のようなセックスで高みへと押し上げられる。

「せんぱ、い…やば……っ!」
「や、はっ♪ぁあっ♪…くるっ♪なんか、きちゃぅ…っ♪」

本能的に下から強く打ち付け、彼女も同様に上から深くまで落とした。膣が根元まで飲み込み締め上げ、先端が子宮口に食い込む感覚に限界を迎えた。
遮るものはなにもなく、一滴も逃さないと言わんばかりに吸い付いて吐き出される子種を飲み込んでいく。両手両足で抱きしめられ、全てを包み込、まれている以上この快楽から逃げ場はない。
男として美女を悦ばす悦楽に。
オスとしてメスに種付けする快楽に。
悦び震え、染め上げるように注ぎ込んでいく。彼女の体に応えるように一滴も漏らさないように全てを押し込み、ぶちまけた。

「きゅうぅぅぅうんっ♪」

きつくきつく抱きしめて先輩は体を大きく震わせた。それに伴って膣内が収縮しこれでもかというほどさらに搾り取ってくる。その快楽に目の前が弾けてしまいそうだった。

「あ、はっ♪ぁぁあ♪お腹、熱ぅい…♪」

吐き出していた精液を全てを注ぎ終え、体全体を射精後の虚脱感と気だるさが襲う。それでも打ち止めになる気配はない。元々性欲お盛んな華の十代ということもあるが、腕の中にいるアヌビスの感触が、蒸れた甘い汗の香りが、未だに締め付ける腰が砕けそうになる快感がまた欲望を募らせる。
この程度ではまだ足らないと、これだけではまだ満たないと。

「先輩…もう一回、してもいいですか…?」
「んはぁ♪ユウタ、ぁ…♪」

質問に対して先輩は何度めかの口づけをしてきた。恥も理性もない本能だけで彼女はオレに応えてくれる。こちらも同じように激しく唇を吸い、互いに腰を打ち付け始める。
オレと先輩しかいない埃っぽい暗室に淫らな音と艶のある声が響く。誰にも邪魔されない密室で互いを求め、一晩中獣欲に溺れることとなった。


















あの日、地下で先輩と体を交えた一週間後の昼。オレは一人部屋のベッドで丸まっていた。
このあと仕事なのだがどうも今日は気が乗らない。別にいつもならただ普通に歩いていき、先輩の待っている部屋に入って彼女から言われた数字を計算していけばいい。はたまた彼女を隣に遺跡の周りを見回るぐらいでいい。普段からやってきたことだ。
だけど今日は訳が違った。
「…」

先程マミーの一人の包帯を変える手伝いをしたとき、聞いた話が耳から離れない。
最初からここにいたわけではないオレにとって未だ遺跡内を把握しきれていない。それゆえ時にはマミーやリンクスから聞かないといけないこともある。そんな中で先程尋ねてしまったのはあの地下室のこと。
世間話のつもりで笑いながら言ったつもりだったが怪訝そうな顔をして見つめてきたあのマミー。そして言った言葉は「それはおかしいと思います」の一言。
状況が状況だったからに冷静ではいられなかったがよく考えれば気づくはずだった。
この遺跡を統治するのは王であるあのファラオ様。その下で管理するのがアヌビスの先輩やスフィンクスのリンクスやマミーたち。誰もがこの遺跡のことは熟知しているがその中で一番理解しているのは統治者であるファラオ様か先輩のどちらかだろう。
そんな女性がもはや自宅といっていいこの遺跡内でヘマをするとは考えにくい。


あの先輩が自分の管理する遺跡内で閉じ込められるはずがない。


たとえ閂を落とされても、鍵をかけても先輩があのドアを開けられないはずがなかったんだ。その証拠がマミーの言った言葉。

「あの地下室のドアを作ったのはシェヌ様ですよ」

自分で作っておいて閉じ込められるわけがない。
作っておいたなら壊し方を知らないわけがない。
それでもオレと一緒に閉じ込められた意図とは何か。
決めていた予定を投げ出してまでオレと抱き合っていた真意とは何か。
極めつけはマミーの一言。

「シェヌ様はユウタさんが好きということですね♪」

楽しそうに言ったあの一言が忘れられない。
あの夜のことがあって今更それが間違いだとは思えない。
それはもうどうやっても疑いようのない事実なのだから。

「…どうするか」

そんなことを知ってしまって今更普段通りの顔に戻れない。あの日から先輩とは結構気まずい雰囲気なんだし。
でも、嫌というわけでもない。
元々先輩を嫌ってるわけじゃない。好きか嫌いかで問われたならば当然好きと答えられるくらいには。ただの上司と部下の関係ではなくてもう少し進みたいとも思っていたときはあったんだし。

「…仕方ないか」

なんだかんだ気まずいからと迷っていたら仕事に二分の遅刻。たった二分だけど計画性ある彼女のことだから口うるさく言われることとなるだろう。
でもまぁ、やっぱり嫌なものではない。
ベッドから身を起こし身なりを整える。いつものように学ランを羽織ると甘い香りが鼻腔をくすぐった。香水ではない、自然な香り。あの夜から染み付いた彼女の匂いはしばらく離れることはないだろう。
オレは怒鳴られるだろうと思って苦笑しつつ、先輩の待っている部屋を目指して部屋を出た。


―HAPPY END―
13/04/14 19:52更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということで今回は図鑑世界アヌビス編
予定外のこととなるとわふわふ犬になっちゃうシェヌ様でした
前回は猫先生ということで今回は前々から考えていたアヌビス先輩編です
彼女はファラオ編の時に出てきたあの先輩でした
地下室に閉じ込められたことは予想外でもそこから一気に仕掛ける姿は抜け目がありません

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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