読切小説
[TOP]
子守とあんたとオレと子作り
靴越しに伝わってきたのはアスファルトの硬さではなく柔らかな土の感触だった。
鼻腔をくすぐってくるのは緑の匂い。
空から差し込む日の光はこの葉に遮られまるで幻想的な光のカーテン。
右を見ても左を見ても前も後ろも全てが木。
立派にそびえ立つ高い木々の間から爽やかな風が吹き抜ける。
うん、なんとも心地いい。

ここは森だ。

誰の手を借りることなく自然のままに育った立派な木々がいくつも生える森の真っ只中。
父親の実家はここのように木々が生い茂った山々に囲まれているのでこれに近いものは幾度と目にしてきた。それゆえこんな木しかないところでもまず迷うことはないだろうが…とりあえず。

「…ここ、どこだよ」

オレの声は森の中に虚しく響いた。




あのままじっとしているというのも森の中では危険だろう。ここは初めて来た場所なんだから何がいるかわかったもんじゃない。狼とか猪とかいたら危険どころじゃないだろうし。
とにかく雨がしのげそうな、夜寝ることが出来るような場所を探そう。
そこから食料になりそうな果物でもとっていけば死ぬってことはなさそうだ。
もともと小さい頃は山の中にある父親の実家で暮らしていたからかこのぐらいの森なら遭難する危険は低いだろうし。

「……ん?」

果物を探していたら何かが聞こえてきた。
…物音?いや、甲高くて耳に触るこの声は…人の声?
それもただの人の声じゃない。何度も間を開けて喚くように上がるこの声は―


―………泣き声?





茂みの中から除くとそこにいたのは一人の人。線の細い体のライン、胸の部分が膨らみ、絶妙なバランスのクビレがあることから女性であることがわかる。
ただ…それが人だといっていいのかはわからない。
彼女の背中が見えるが後ろ姿からして人間とは言い難いものだった。
まず頭。茶色で太陽の光を反射する短めの髪。その中から生えるように伸びる二本の…何か。
次に背中。右上右下左上左下の合計四ヶ所から生えている、透き通った薄い…羽?
そしてお尻。そこには丸く膨らんだ黒と黄色のライン状の模様のあるそれの先端には鋭く尖った針が生えていた。
その姿を何かと問われればこう答えるしかないだろう。



『蜂』



蜂の姿だった。
森の中で蜂の姿とは……最近は変なコスプレが流行ってるのかな?
傍らには細長い棒が…いや、先端が尖っているそれはまるで槍だ。
全体的に危険。それもいろんな意味で。
しかし注目するところはそこだけじゃない。
彼女は腕の中に何かを大切そうに抱え込んでいた。それを揺らすように体が上下しているのだがそこから甲高い声が聞こえる。
この距離では聞き間違うことのない、赤子の泣き声が。

「あーもう!なんで泣き止まないのよー!」

様子を見るからに腕の中に抱えている赤子は彼女の子供なのだろうか?
見た感じ年上だがそれほど上というわけでもないだろう彼女、だがあのぐらいで子供がいてもなんらおかしいものはないか。おかしいのは格好だけで。

「泣き止んでよ〜!!」

泣き出しそうな横顔を木の幹から隠れ見ているのだがすごいいたたまれない。
助けるべきだろうか?
いや、しかし傍になんでか知らないが槍がある。獲物を見つけたらすぐさま刺し貫けるぐらいに鋭い槍が。
他にも蜂の腹である膨らんだ先端、同じくらいに尖った針。
どちらも共に刺されたらひとたまりもないだろう。
…助けるべきじゃないよな。変に刺激してぶすりと刺されたらシャレにもならないし。
ここは悪いけど…そっと離れて…。



「もう!あたしが泣きたいくらいなのに〜!!!」
「………」












「あ〜よしよし」

両腕で抱えた赤子をあやすようにオレは体を左右に揺らした。それでも赤子は泣き止む素振りは見せてくれない。オレの肩からは心配そうに先ほどの女性が覗き込んでいる。
ああ…なんでこうなってるんだか。
思わず天を仰ぎたくなったがなんとか堪えて赤子のことに集中する。

「…大丈夫なの?」

オレの肩から覗き込んでくる女性は自分で泣かしたからかあやし方がわからないからかおっかなビックリな様子だ。触れたくてもビクビクして触れられない。きっと子供慣れしていないのだろう。
ただどうしてか…両手が自由になったからか傍に置いてあった槍を握っていた。しかもさりげなく、いつでも刺せるように穂先をオレの背に向けて。
さらに言えば逃げられないように片方の手はオレの肩を掴んでいた。こんな状態では槍を避けることなんて叶わないというのに。
怖い。結構怖い。すごい怖い。
なんで蜂みたいな姿をした女性に槍を突きつけられないといけないんだ。
ため息を付きたいのを我慢して赤子をあやし続ける。おむつは湿ってるわけじゃないし、ぐずってるのとはちょっと違うこの様子。別にオレが怖いとかそういうのなら母親だろう彼女が抱きかかえていた時に泣いてるはずないし。
…ならやっぱりあれかな。

「あ〜お姉さんさ」
「うん、何?」







「…おっぱい出せる?」







一瞬空気が固まった。自分自身もっと別の言い方をすればいいと思ったが目の前の女性は母親なんだからこれくらいなれているだろうと勝手に答えをだす。
と思ったらみるみるうちに顔が赤く染まっていく。そのまま手がわなわなと震えだして彼女は大声で怒鳴ってきた。

だ、出せるわけないでしょ!何言ってるの!?
「は?お姉さんの子供なんでしょ?」
「違うわよ!この子はお母さんに頼まれたあたしの妹なんだからっ!第一あたしはまだしょ―」
「―…しょ?」
「〜っ!言わせないでよっ!!」
「危なっ!!」

一瞬脇腹に向かって槍が突き出される。間一髪体を逸らして避けるが先端が学ランを掠った。
危ない。この女性、本当に危険だ。
だからといって赤子を抱きかかえているこんな状態じゃ離れるに離れられないのだけど。
オレは彼女を見つめて先ほどの言葉を思い返し、小さく息を吐いた。

「…出せないんだ」
「だから出せるわけ無いって言ってるでしょっ!!」
「…じゃ、代わりのものは?ミルクはある?」
「…これなら、あるけど」

そう言って露出が多い衣装のどこからか取り出したのはジャム瓶のような物体と木で出来たスプーン。ガラスでできていて中には黄金色の何かが入っている。これは…蜂蜜だろうか?
…ん?蜂蜜?

「…ミルクは?」
「ここら辺じゃホルスタウロスのミルクは手に入りづらいの。だからハニービーが作るロイヤルゼリーを貰って食べさせてるのよ」
「…ほるす、たうろす?」

それにハニービー?聞きなれない言葉に一瞬首をかしげた。
ハニービーというと…言葉の響きからして蜂のことだよな。
ついでに腕の中に抱いた赤子を見てみた。抱いた時にハッキリと見えた頭から生える二本の触覚。服で隠れて見えるが背中には羽があるように膨らみ、臀部からはこの女性と同じように蜂のような腹がある。
ここまで来てコスプレなんて言えるわけもない。

「じゃ、お姉さんもハニービー?」
「違うわ。確かに一見似てるかもしれないけど違うわよ」
「んじゃ、何さ」
「ホーネット。あたしはホーネットのメリッサよ」

ホーネット。
響きからしてハニービーとはなんか違う、危険な感じがする。
なんかこう…ミツバチとスズメバチみたいな?
…それって…危険、だよな。
ミツバチとスズメバチじゃどちらが危険かなんて考えるまでもない。

「貴方、名前は?」
「あ、ああ。オレは黒崎。黒崎ゆうた」
「ユウタ…そう、ユウタっていうのね」

一度小さく転がすようにオレの名を呟いた女性は―メリッサは嬉しそうに微笑んだ。
その笑みが捕食者特有の愉悦に浸った笑みに見えたのは…気のせいだと思いたい。
っていうか笑ったまま槍を向けないで欲しい。滅茶苦茶怖い。
そんなことを考えながらメリッサにロイヤルゼリーの入った瓶の蓋を取るように促す。彼女はそれに気づいて蓋を開けてスプーンと一緒にオレに差し出してきた。
…うん?

「…両手塞がってるんだけど?」
「でもあたしじゃ失敗しそうだから…」
「手馴れる人だってはじめは失敗してるんだよ。ほら」
「…」

腕の中の赤子をメリッサに差し出す。代わりにオレは彼女の手から瓶とスプーンを受け取った。柔らかく慎重に、びくびくと震える手でメリッサは受け取る。そこまでビビってたら子供落とすのではないか、そんな風に思えるほど震えている。
空腹でぐずっていた赤子はメリッサの腕に抱かれる。上下に揺らしあやしているのだろうがメリッサは体が固まってる。
それだけじゃない。メリッサの腕に抱かれた途端赤子が急に喚き、泣き出した。

「…」
「…」
「泣き出したんだけど…」
「…あ、うん」
「…何で?」
「…」

それはこっちのセリフだと言いたい。
なぜなら今度はメリッサが泣きそうな顔になっていた。ついでに言うと声がかすれて目には涙が溜まっていた。







「…手馴れてるのね」
「まぁね。うちの母方の親戚が子沢山なんだよ。それで多少は見て慣れてるってぐらいだけど」

そう言って腕に近くの木に二人して座り込んで抱いた赤子を撫でる。
先ほどロイヤルゼリーを与え終わり、もどさないように背中をさすり、落ち着いたのか疲れてしまったのかそれとも満腹になったからか眠ってしまった。
…こうして見ると可愛いんだよな。
頭に触覚が生えていようが背中に羽があろうがお尻に大きな蜂の腹があろうが赤子であることに変わりない。
安らかに寝息をたてる姿は人間となんら変わりないもの。
この子が成長したらきっとメリッサのような美人になるのだろう。

「それじゃあ、あとは頼むわ。お姉さんなんだろ?妹の面倒ぐらい見れるようになりなよ」

オレは腕に抱いた赤子を起こさないように静かに渡した。お腹も膨れればそうそう起きることもないはず。これならオレが離れても平気そうだ。それにオレはこれからここがどこなのか確認するのと、眠ることが出来そうな場所を探しておかないと。こんな知らない場所にいきなり来てしまった以上食事と水の確保もしないといけないし。
そんなことを考えていたらついっと学ランの袖を引かれた。

「…うん?どうかした?」
「…来てよ」
「……んん?」

その言葉にオレは首をかしげた。
来い?それはつまり、メリッサの家まで行かなければ行かないということか。そんな、なんで?家に行けば当然母親がいるだろうしそれ以前にこんな初対面の男を連れて行くって結構危ないことじゃないのだろうか。

「えっと…」
「だから、ついて来てって言ってるのよ。あたし一人じゃこの子の面倒見切れないもの」
「…いや、メリッサの妹だろ。将来は子供もつかもしれないんだから今のうちに慣れとかないと」
「それでも、あたし一人じゃまだ無理なの…ねぇ、だから、手伝ってよ…」
「いや、家に帰ればお母さんがいるんだろ?」
「お母さんはきっとお父さんの相手で忙しいから無理なの」
「…」
「…お願いよ」

そりゃ…まぁ今さっきのを見てたらそうかもしれない。先ほどはこの子と一緒になって泣き出しそうになってたんだし、このまま放っておいて泣かれた時には今度こそメリッサまで泣くかもしれない。
メリッサは縋るような目でオレを見るのだがその姿がちょっとくる。年上だろう彼女にそこまで頼られるのは嬉しいし、縋り付く姿は可愛らしく見えた。
ただ問題なのは―

「―………………じゃ、槍を向けるのやめてくれ」

それはもうお願いじゃなくて脅迫だから。







「…よし、寝付いた」

先ほどここへ来る途中にぐずりだした赤子をあやしてようやく眠りにつかせた。
ご飯も食べてたしおしめが濡れてるわけじゃないし、これでもう大丈夫だろう。

「子育てって大変なのね…」
「そりゃ…」

そういったのはオレの隣に座るメリッサ。
疲れたようにため息をつくがそれでも興味深そうに自分の妹の顔を覗き込んでいる。

「ふふ、ぐっすり寝ちゃって」

小さな声でそう言って頬を指でつついた。眠りは深いのか起きる気配はない。これならしばらく離れることになっても平気だろう。

「…ねぇ、ユウタ」
「ん?」
「赤ん坊ってちょっと大変なところもあるけどこうして見ると可愛いわね」
「そりゃ」

オレの腕の中で眠っているメリッサの妹。それを覗き込む彼女。抱えているのはオレでありそんなことをすれば当然距離は縮まる。
そして、その光景は傍から見てどんなものなのか。
男が抱いた赤子の顔を覗き込む女。
それはまるで子供を育む夫婦の姿であって…。
って何を考えているんだオレは。そりゃ確かに傍目から見れば夫婦の姿に見えなくもないけどオレとメリッサはそんな関係じゃないし。そもそもさっき会ったばっかだし。
そんなふうに悩み悶えているとよしっと小さく呟いたメリッサがオレの隣から立ち上がった。

「その子も寝たから別室に寝かせてくるわね」
「あ、それならオレが連れてくけど?」
「大丈夫。ここまでしてもらってるんだから。それに部屋がどこだか知らないでしょ」
「…まぁ」

ここの家…というよりも巣に入って驚いたことは思っていた以上に広い空間だったということだ。外見はメリッサに運ばれて来た時に見たまるで蜂の巣のような形をしていたが中は外見以上の広さがあり、部屋数もまた豊富。メリッサについて行かなければ迷いに迷っていたことだろう。
…それにこの巣に入った途端に感じたねっとりと舐めるような視線を送ってきた他のホーネット達に何かをされるかもしれない。
あれってメリッサの姉妹なんだよな…なんていうか、随分とご両親は頑張ってるというか、それともホーネットって子沢山なのかな。蜂ってあんなに子沢山だったっけ。
でもその中で男性らしき姿が一人も見当たらなかったのは…どうしてだろうか。
メリッサはそのまま妹を抱きかかえ部屋を出て行ってしまった。あとに取り残されたのはオレ一人。
それも、よりによって女性の部屋で、メリッサの部屋で。

「…」

先程まで赤子の相手をしていたとはいえ横目で確認していた部屋の中。
天井には窪んだ部分が有りそこには球体上の光る何かが部屋を照らしている。…電灯か、それに近いものかな?他にも六角形であるハニカム構造の壁には女の子らしく可愛らしい置物がいくつか。壁にはメリッサが片手に持っていた槍が立てかけられていて傍には防具らしき篭手もある。
女の子らしいけど…オレの知ってる女の子とちょっと違うな。
っていうか蜂である以上だいぶ違う。あんな槍物騒すぎるだろ。
そんな部屋できっと一番高価だろうものがオレの座っているもの。メリッサが毎日眠っているだろうベッドだ。手触りは優しく押し込めば力を込めた分だけ沈み込む。掛け布団だって薄くも冬は体温を逃さないように、夏は涼しく過ごせるようにと作られているんだろう。ぽんと叩くとメリッサの近くで香ったいい匂いが鼻腔をくすぐってくる。
女性の部屋でベッドの上で待たされているというこの状況、正直どうしてればいいんだろう。
…そわそわする。落ち着かない。
女性の部屋に上がることが初めてではないしベッドに上がることも経験はある。だが初対面なのに部屋まで通すっていうのはどうなんだろう。
ふうっと小さく息を吐いて一旦考えるのをやめる。
そして別のこと、オレがここにいることを考え始める。
そもそもどうしてここに居るのだろうか。
もともと学校帰り、買い物帰りだったはずなのに。アスファルトの地面を踏んで特に目立つ建物のない街を歩いてた、そのはずだ。
原因不明でここに来てしまった以上、きっと戻れない。
さらに言うとここから出られるかさえ怪しい。
この巣の入口、あれは天井にあると言っていい。この部屋を出た大広間らしき空間は人間一人じゃ絶対に届かない高さがあった。ここと同じようにハニカム構造の壁だから上手く手足をかければ登れるだろうが…絶対に見つかる。
他のホーネットの数、一度見ただけでも両手以上の数だった。それ以上あるのが部屋の数。
多分、まだたくさんいるはずだ。
そんな中で逃げ出してみても逃げられるはずがない。もしも戦うというのならば話は別…いや、女性に手出しはできないな。それに皆美女美少女揃いだったし傷つけるのが忍びない。


―なら、どうする?


そもそもメリッサは何でオレを連れてきた?
子守のため…でいいのだろうか。
人食とかしないよね?パッと見人間の姿してるんだし、人を食べたりしないよね。
…………槍持ってたけど。
そんなことを考えていたとき、いきなりドアが開いた。

「お待たせ」
「いや、言うほど待ってないよ」
「そう、良かった」

そのままメリッサは当然と言わんばかりにオレの隣に座った。さりげなく聞こえた物音は、この部屋唯一の脱出口であるドアに鍵がかかったものだろうか。その音とメリッサがいきなり隣にきたことによりオレは彼女と少し距離を空ける。

「ねぇ、ユウタ」

隣に座ったメリッサは開いた距離を縮めようと体を寄せてきた。隣にいるというのに肩が触れ、ついた手の近くに彼女の手が置かれる。女性らしい柔らかさと絹のような滑らかな手触り、それから優しい温かさが伝わってきた。

「…何?」
「子供を育てるのって大変かな」
「そりゃ大変だろうけどさ、それでもいいもんだと思うよ。自分の子供なんだし」
「そうよね…あたし達の子供だもんね…」
「…うん?」

なんだか今の言葉おかしかったような、違和感があったような…。
そんな風に思っているとメリッサがぐっと顔を寄せてきた。頬を撫でる甘い花のような吐息がくすぐったく、目の前のメリッサに思わずドキリと心臓が高鳴る。

「なら、ユウタは子供欲しい?」
「まぁ、欲しいっちゃ欲しい。でもまだ高校生じゃ早いけどさ」

…なんだかこれもまた変だ。
違和感というかなんというか…このあとの言葉が予想できそうな発言だった。

「…」
「…メリッサ?」
「……なら、さ―



―あたしと子作り、しよ?」



「いや、無理」

即答だった。もう気持ちがいいくらいの早さだった。

「何でよっ!?」
「そもそもオレらの関係はなんだよ?初対面だぞ!会ってまだ数時間しか経ってないんだぞ!?」
「それがなによ、あたしのお母さんなんてお父さん見つけて三分後には繋がってたのに」
「どういう常識してんだよっ!?」

そうは言っているもののオレは後ろに逃げることしかできない。そんなことをすれば当然ベッドに上がってしまう形になるし、メリッサはオレの上に覆い被さるように迫ってくる。
徐々に埋まっていく距離。
埋まるたびに強くなる、花のように甘くて森のように爽やかな香り。

「ちょっと、本当に待った…」

そんなこといったところでメリッサは止まってくれない。ゆっくりとでも確実に距離を詰めてくる。ぎしりと音を立てて沈むベッドはあまりに柔らかく逃げれば逃げるほど身動きがしづらくなってくる。
そして手に枕と思しきものが触れた。自然に手が止まり逃げられる限界を悟る。

「ユウタは…」

メリッサは止まったオレの上にゆっくり身を寄せ覆いかぶさってくる。かろうじてベッドに手を付いているので倒されることはないが彼女の体が触れ合わさった。
すぐ目の前に彼女の顔がある。茶色の短髪にすっと通った鼻、白い肌に切れ長で凛とした目。ひょこひょこ動いて可愛らしい触覚。艶やかな桜色の唇にまたオレの名を載せる。

「ユウタは、あたしじゃ嫌?」
「…嫌ってわけじゃないけど」
「なら…なんでダメなの?」

潤んだ瞳がオレを映し出す。
頬が朱に染まっているのは興奮か、恥じらいによるものかわからない。じっと見つめているとそのまま頷いてしまいそうになる不思議な魅力があった。もともと相手はとんでもない美女なんだ、本当なら頷いてしまっても仕方ないといえよう。それでもなんとか耐えてオレは口を開いた。

「そういうことは…もっと大切な奴とか、好きになった奴にしろよ…初対面の相手にそんなこと求めたら騙されるかもしれないんだぞ?」
「それじゃあユウタはあたしを騙すの?」
「…いや、そんなことしないけど」
「なら、いいじゃない」
「…いやいやいや」

だからっていいわけじゃないだろ。そう言おうとしたその時には鼻先が触れるほど近くにメリッサの顔があった。彼女の吐いた息が頬を撫でる。甘い、花のような香りがさらに強くなる。

「キス、していい?」

いきなりしてきた質問の内容に一瞬理解が遅れた。

「…え?キス?」
「うん…」

恥ずかしそうに頬を朱に染め頷くメリッサ。聞いてはいるがここでオレが拒否してもきっと彼女はそのまましてくるかもしれない。ここまでして止まってくれるほどお淑やかな女性じゃないのだろう。それに、少しだけ……いや、オレもまた頷いてしまいそうになっていた。色香に惑わされたからじゃなくて、彼女の口にした言葉に迷ってしまった。



―子供。



欲しいかと聞かれれば欲しい。十八歳でそんなこと夢見るのもどうかと思うがそれでも憧れることぐらいあった。あった、から…頷いてしまうのも仕方ないのかもしれない。

「…ああ」

その言葉に嬉しそうに笑を浮かべたメリッサはオレの頬に手を添えた。こちらからも応えるように肩に手を置く。そしてどちらともなくゆっくりと顔を寄せ、唇を近づけた。

「…んっ」

初めて伝わる柔らかな感触。
しかし感じたのは一瞬だけ、すぐさま二人して離してしまう。

「柔らかい…」
「…なんか、恥ずかしい」
「ふふ、そうね♪」

コツンと額を合わせてメリッサは笑った。
ここまでした以上もう戻ることなんてできないだろう。もとよりもう戻るつもりもないが。もっと近くに、もっと深くまで口付けるために肩に置いた手をのぼらせ首筋に添えた。メリッサもそれを分かってか腕を伸ばして抱きしめてくる。唇とは違う柔らかく暖かな感触が学ラン越しでもハッキリと伝わった。

「…もう一回、していい?」

その言葉にオレは自分から唇を重ねた。軽く何度も離しては何度も重ね合わせる。吸いつかれ、啄んで、押し付けられて、貪られて。
そうしているうちにメリッサは唇の隙間からぬるりと湿ったモノが這い出てくる。オレの唇をちろりと舐めたかと思えばそのまま隙間をかき分けて口内へと侵入してきた。こちらから舐めて、吸い付くたびに頭の中が痺れるような甘さに犯されていく。
舌、だろうか…。
それを認識する前に本能は体を突き動かしていた。

「んんっ♪れろ、んちゅ♪ちゅ、んん〜♪」
「ん、んん…んむっ」

唾液を啜り、舌で舐り合い、唇を押し付け合って何度も互いを求め合う。
しかしお互いはさらに先を求めていた。
メリッサの手がオレの体をまさぐり這い回る。学ランのボタンが指に触れた途端にそれをすぐさま外しにかかってきた。それだけでは止まらず下に着込んだワイシャツも同じように外していく。
だがこちらも健全な高校男児、ただ黙ってされているわけにもいかない。恐る恐るだがしっかりと、メリッサの身を包んでいる衣服を丁寧に脱がしていく。服というか水着に近い布を取り払い、オレのほうも衣服すべてを脱がされた。
自然、触れ合う肌と肌。遮るものなく交じり合う互いの温度。

「んん…温かい♪」

メリッサはオレの体に体を押し付けてきた。肌の重なる面積が増え胸が押し付けられる。
柔らかい。
ただこうやって肌を重ねているだけでも心地いい。一糸まとわぬ女性、それも美女と体を合わせているからこそ興奮しているのだが、それでもじっくりとこの温かさを堪能したいと思う心があった。

「体…結構鍛えてるのね」

そう言ってメリッサは胸板に手を添え手のひらで感触を確かめるように撫で回す。むず痒くって擽ったい手の動きは確実にオレを高ぶらせていた。
それはメリッサもまた同じ。
オレからも動かした手が首を、肩を、腕を、胸を、腰を、足を撫でるたびに小さく声を漏らしては肌に赤みを増していく。まるで酒に酔ったかのように表情も蕩け息も徐々に荒くなってきて目も潤んできていた。
間近で見る女の顔はあまりにも魅力的。朱に染まった頬も艶やかに光る唇も、求めるように向けられたその目も何もかもが。
その姿がもっと見たい。
その姿をもっと乱れさせたい。
青い欲望はこの程度で止まることもなくオレは突き動かされるままにメリッサの胸を揉んだ。

「あうっ♪」

突然のことに漏れた声は驚きながらも性的な悦びを含んだもの。そのまま強すぎず痛みを与えることなく撫でるように胸に触れる。時折硬くなった先端をいじることも忘れずに。

「はぁ、ああ♪」

初めての感覚に体を震わすその様子が、快楽に乱れた女の姿がとても美しいと思った。もともと美女であることは違いないがそれでも、この姿だからこそ見える美というか、乱れているからこそ美しく見えるものがあった。
だからもっと見たいと思わせる。
さらに乱したいと欲してしまう。
オレは撫でる手をそのままにして乳房に吸い付いた。

「んぁっ♪やぁ、ああ♪」

結構大きめの胸に夢中になってしゃぶりつき、舌を尖らせては乳首を擦る。その度に彼女は震え、蕩けた声を唇の隙間から漏らす。反応してくれることは嬉しく乱れる姿はもっと見たい。それになんだか…いじめたくなってくる。
オレはメリッサの胸から口を離し、ギリギリ聞こえる声で囁いた。

「こんなに敏感だと…子供出来ておっぱいあげる時大変だな」
「ひゃっ♪赤ちゃんは…そんなやらしく吸わない、わよ…っ♪」
「それでも、敏感すぎるだろ」
「んん…やぁ、あ♪」

再び吸い付き乳首を舐めて攻める。その度にメリッサは息を荒くして、その刺激をもっと欲するようにオレの頭を掻き抱いた。
ただそれだけでも嬉しい。
求めているということがわかるからこそもっと応えたくなってくる。

「…可愛いよ」

ふと、なぜだか浮かんだ言葉が口から漏れていた。年上であるメリッサに対してそんな言葉は似合わないだろうけど、それでも乱れ蕩けた姿は美しくて可愛らしいと思ったからか。
オレの言葉を聞いたメリッサはさらに顔を赤らめた。その姿が、その顔が、もっと見たくて欲しくなる。先程までずっと渋っていたというのにだ。
なんだかんだでオレは単純なのかもしれない。

「ここ、こんなに硬くなってる」

ちょっと意地が悪いかもしれないがあえてメリッサの耳元で囁いた。もっと乱れる様を、恥じらっている姿を見せてもらいたい。そう思って口にしたのだがここで思わぬ反撃をもらうことになる。

「でも―」

メリッサは口元に笑みを浮かべて手を動かした。ぞくりと、股間から背筋へ快感が走り呼吸が一瞬止まる。見ればメリッサの白く細い指がオレのものに絡みついていた。ゆっくりとした愛撫はぎこちなくてもさらに硬度を増すには十分な刺激だった。

「ユウタのも硬くなってる」
「う…ぁ」
「早くあたしの入りたい?」
「…」
「うふっ♪」

小さく笑ってまた、唇を重ねる。今度はしっかり深くまで、二人で愛し合うように貪って。
それは一つの区切りであってさらに先を促しているように思えた。

「ね…早く、しよ…♪」

唇を離してそう言ったメリッサはオレの上に乗ってくる。ベッドについた手で倒れかかった体を支えたがするりと彼女の手足が体を抱きしめた。
自然、大切な部分が触れ合う。
ここが最後の一線。
ここまで来た以上止まることなんてできやしない。
オレはそのまま腰に力を入れて、メリッサも迎え入れるように腰を動かした。

「…ここ?」
「あぁ♪もう、少し…下、かも…んんっ♪」

互いに初めてだからこそ上手くできるはずもない。二、三度失敗して熱い蜜の溢れるそこを何度も擦ることになる。だがそれだけだというのに気持ちがいい。それはメリッサも同じようでゴツゴツした幹が充血した肉突起を何度も掠めるたびに体を震わせていた。

「あ、やぁ♪ちゃんと、いれてよぉ♪」
「ちょっと、待っ―」

言い終わる前にオレの先端はゆっくりとメリッサに食い込む。そこで止まることもできず剛直が初めての膣肉をかき分けながら突き進んだ。

「んぅっ♪あ、あああああああああああああっ♪」
「う、ぁ…っ」

入口で純潔の証を突き破る感触があった。そのまま続いてぷりっとした大きく白いお尻がオレの腰にぶつかり揺れる。初めて挿入する女性の、それも純潔の味は溶かされそうなほど熱く、蕩けるように気持ちいい。

「あ…♪はぁ、はぁ…ぁ、んん♪」

メリッサはオレの上で必死に息を継いだ。呼吸をするたびに彼女の女はきつく締め上げ密着度がさらに増していく。こんなの、童貞にはあまりにも辛く、気持ちよすぎて耐え切れるはずがない。

「はい…た…?」
「あ、ああ…」

純潔の証である一筋の赤い液体が結合部から滴った。ぎちぎちとくわえ込んで離さないメリッサの中にオレのすべてが埋まっている。
文字通り繋がりあった体と体。
それは甘い快楽以外に胸の奥を満たしていく、なんとも言えない心地よさがあった。

「そっかぁ…♪」

嬉しそうにそう言ったメリッサ。ぎゅっと体を抱きしめて、笑みを浮かべるその姿はなんとも愛おしくて胸が苦しくなる。多分、今オレ顔が真っ赤かもしれない。そんなことを思いながらもこちらからも腕をまわしてメリッサを抱き寄せた。
熱を纏ったメリッサの膣は動かずともしきりにオレのものを舐めあげてくる。それはまるで男を喜ばす術を知っているとでもいうように。

「大丈夫…?」
「うん…平気、だから…ね♪」

その先の言葉はもういらない。
これ以上交わす言葉は必要なかった。
互いに腰を動かし始める。最初はゆっくりと、互いの感触を味わい、確かめ合うように。
熱くとろけた姫肉の感触がオレの感覺を鋭くさせて限界以上の硬度と熱を持たせていく。
興奮で膨らんだ先端が何度も子宮口を押し上げる度にメリッサは蕩けた声を降らしてきた。
息をするのも忘れて腰を動かし快感に取り付かれるようにぶつけ合う。部屋には腰のぶつかり合う音が響くほどに激しく強く。
求めて、貪り、欲して、抱いて。

「あ、はぁぁあ……♪」
「く、ぁ…っ」

何度も腰を打ち付け合い、何度も唇を重ね合い、強烈な快楽が互いを高めていく。
耐えることなんて出来やしない。
堪えることなんて許されない。
甘く、温かい快感に限界が訪れた。

「もぅ…無理…っ!」
「うんっ♪んんっ♪いい、よっ♪いっぱい、あたしの中に、出して♪」

言葉とともに背中に回された腕と足がオレの体を強く抱きしめられる。引いた腰がさらに深くまで進み先端が子宮口に食い込んだとき、とうとう決壊した。たまらない熱を持った子種がメリッサの中へと流れ込んでいく。何度も脈打ちぶちまける感覚に彼女の体は何度も跳ね上がった。

「ああっ♪ん、ぁあああああああああああああああっ♪」

部屋に響いたメリッサの嬌声。その声に呼応するかのように何度も何度も精液が終わりなく注ぎ込まれ、満たしていく。

「ん…んぁ…はぁあ♪」

お互い体の震えが止まったころメリッサは少し体を離して繋がり合っている部分を見た。
ねっとりとした蜜でしとどに濡れ、隙間なくくわえ込んで繋がり合っている男と女の部分。それから膣内に溢れ出た子供の種。

「ん、ぁ…♪まだ、出てる…っ♪」

嬉しそうに蕩けた笑みをオレに向けてそう言った。

「これで…赤ちゃん、できるかな…?」
「…どうだろ」

普通に考えても出来ているかもしれないし、出来ていないかもしれない。そもそもこういうのはタイミングだって必要だし、相手が人間ではないホーネットという存在なのだから子供が容易にできるのかさえわからない。

「正直わかんない」
「なら…」

メリッサが繋がったまま体を動かした。対面座位の状態のまま腰を揺らして萎えないオレのものを刺激してくる。思わずうめき声を上げそうになったその時。

「―つぁっ!?」

快楽とは違う感覚が走った。
痛み。それも殴られるようなものではない、鋭刺されたかのような鋭い痛み。
注射の針を刺されたみたいに太腿から痛みが広がってきた。

「何、を…?」
「おまじない…子供がいっぱいできるようにって…」

にっこり笑うメリッサの背後でゆらりと揺れるものがあった。黒と黄色の縞がある膨らんだそれは、蜂の腹。先端にあるのは鋭く尖った針。
…もしかして毒を注射されたのだろうか?
と思っていたら刺された部分から痛みが引いて代わりに熱が広がり始める。
ぞわぞわと。
ぞくぞくと。
背筋を上り、体へ巡り、下腹部へと集中したと思えば疼くような熱へと変わった。
青い本能をさらに燃え上がらせるこれは。
男のサガをますます駆り立てるこれは。
獣のように理性を投げ出しメスを求めたくなるこれは。

「…媚薬?」
「媚薬じゃなくて…淫毒」

淫毒…初めて聞いたがオレも思っている以上の代物なんだろう。毒である分さらにタチが悪いし。

「これで、もっと精液出せるようになるから…もっと出して…♪ここが、ユウタの精液でいっぱいになるまで…♪赤ちゃん、できるまで…ね♪」

快楽に蕩けながらもオレに向けるその瞳は慈愛が溢れていた。瞳の先にはオレがいるがさらに先にいるのはオレだけじゃないだろう。きっとオレとメリッサと、オレ達の子供といる光景を見ている。一緒にいる未来が、オレとの子供がメリッサは欲しいんだ。
そして、オレもまた同じ。

「いっぱい、いっぱい…ユウタで埋めて…♪」
「ああ…っ」

頷き応え、再び体を交わす。
情欲に塗れながら、快楽を欲しながら。

子供のいる未来を夢見ながらオレとメリッサは何度も互いを求め合った。




―HAPPY END―
12/10/07 21:01更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということでホーネット図鑑世界編でした
家族単位で住む彼女たちならきっと子育て経験を積んでいるはず!
ということで今回は子育てするホーネットさんの話となりました
実はハニービーとホーネットで迷っていたんですけどこっちの方がらしいというか、いや、ハニービーでもいけたかもしれません
でも強気な女性が困ったり、甘くねだったりするのって、いいですよね
槍を向けられるのは恐ろしいですけどw


よく考えると毎度何処かへ飛ばされるか引き込んでくる主人公ですが
こんな状況、メリッサは地獄に仏とでもいうところでしょうか
ただし、一生逃がしてくれない仏でしたがw



それでは次回もよろしくお願いします!!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33