迷惑とお前とオレと当惑
「帰れ」
「まぁ、そう言わないでくれよ」
「帰れ」
「そっけないぞー?訪ねてきたのにそんな態度とるもんじゃないだろ?」
「帰れ」
「いや、帰れじゃなくてこっちだって用があってきてるんだからよ?」
「帰れ」
「なぁ、前みたいに飯食わせてくれよ」
「帰れ」
「頼む!お前以外頼れるやついないんだよ」
「帰れ」
「お前さっきっからそればっかだな。流石のあたしも傷つくぞ」
「帰れ」
「そんなに邪険にしないでくれよ。あたしとあんたの仲だろ」
「帰れ」
「…そんなに帰れって言うのならあたしだって穏やかに済まさないぞ?」
「帰れ」
「おーいー!帰れ以外にもなんか言ってくれよ!」
「消えろ」
「おうぅ、攻撃的になったな」
「…はぁ」
オレこと黒崎ゆうたは自宅の玄関先でドアを開けたまま大きくため息をついた。
目の前には女性がいるというのに、礼儀をもって接するべきなのにオレはそうしない。
なぜなら彼女にはそんなものは必要ないからだ。
彼女―緑色の肌に青い刺青をした人間ではない女性。
身長が平均的なオレよりも頭一つと高めの図体と夕焼けの赤い光をオレンジ色に反射する銀色でボサボサした腰まで伸ばされた長髪。
本来丸みを帯びている耳を生やすのが人間なのに彼女の耳はツンと尖っていてまるでおとぎ話に出てくるエルフや妖精の耳に見える。
そして額に生やしているのは角、鋭く尖った鬼のような二本の角が生えていた。
肌が明るい緑色、銀色の長髪に女性の中では高めな身長、極めつけは角。
そんな姿をどう人間だと言えるだろうか。
そんな人間の姿ではない彼女だが、それでも女性としてはかなりの美女だった。
豊かに実った二つの膨らみはボロボロになったTシャツを窮屈そうに押し上げ、その丸い全体がいやらしい形へと変わる。
引き締まった腹部にまた膨らんだ臀部。
下半身はジーンズを履いているのだが膝までしかなく、またダメージジーンズのように張り裂けていて隙間から見える肌が艶かしい。
大人の女というよりはスポーツをやっているような健康的な色気を振りまく女。
それが彼女、自らを『オーガ』と言ったジャンヌという女性だ。
オレと彼女の出会いなんてものはもう三週間ほど前になるだろうか。
あれは真夜中の公園、自宅へ帰る途中に近道をしようとしていたらそこでばったりとこの鬼ジャンヌと出くわした。
その時の姿は今よりもひどい。
ただの布切れを巻きつけただけの体一つで彼女は公園の道の中央で待ち構えていたのだから。
そこらに落ちていた布を体に巻きつけただけというようなファッションの欠片もないその姿。
今よりもずっと露出の多かったあれは一見すれば痴女の姿にも見えたはずだ。
だがそう見えなかったのはそんな格好をしていながらも堂々と胸を張ってオレの前に立ちはだかったからか。
そうしてかけられた今でもはっきり思い出せるガサツでドスの効いたジャンヌの一声は―
「おぉ?こんなところにいい男がいるじゃねーか♪」
以上、回想終了。
これがオレとジャンヌの出会いであり、馴れ初めであり、面倒事の始まりである。
ジャンヌは買い物帰りのオレをいきなり襲ってきた。
女性とはいえ、手は拳を握り締め、明らかな害意を抱いて向かってきた。
正直失礼極まりない。
そのあとにあったこともとんでもなく失礼極まりないこと。
だからこそオレはジャンヌに女性に対する礼儀をもって接しようとはしないし、邪険に扱うのも当然といえるだろう。
「なぁ、頼むよ、このとーり!」
そう言って両手を合わせて頭を下げてくる一匹のオーガ。
自分よりも身長が高く年齢的にも上だと言える彼女が頭を下げる姿は傍から見ていてなんと奇妙なことだろうか。
本来なら女性からの、それも美女からの頼みごとなら二つ返事でその頼みを受けるはずだったが相手が相手。
あんなことまでされていて容認できるほどオレは甘くないし、聖人君子をしているわけじゃない。
…だが、傍から見ていてどうだろう。
家の玄関先で高校生に頭を下げる年上の女性。
そしてその女性は日本人にはまずに見られないだろう銀色の長髪と尖った耳と大きな身長に緑色の肌をしている。
いくら服装がこの世界にあるものだとしても人の目につくことは間違いないだろう。
極めつけは、なんだかんだで美女。
豊かな胸の膨らみに完成されたプロポーションは男にとって見とれてしまうもの。
ゆえにこんなところでジャンヌに頭を下げられたままの姿を見られるのは好ましいことじゃなかった。
…仕方ないか。
「…ほら、来いよ」
ジャンヌに聞こえるように大げさにため息をつきながらもドアを開けて顎で入れと示す。
「おう♪悪いな♪」
そんなオレの態度を気にすることなく嬉しそうにそう言った。
基本的に自分にとって都合の悪いことは気にしないからな、こいつ。
何事もポジティブなんだよな。
ジャンヌが前に一度言ったことが本当なら…見たこともないような場所に放り出されてたというのに…。
「なんだかんだでユウタって優しくしてくれるよな」
「なんだよ、急に」
「いや、これがいわゆるツンデレってやつなんだろうなって思って」
「表出ろ」
家の中に入りもう慣れたと言わんばかりにスタスタと歩いては五つあるうちの一つの椅子に座った。
次いでキョロキョロと周りを気にし始めるジャンヌ。
どうしたのだろうか、なんて思わずともそれがなんでだかオレは分かっている。
「…今日は、あの女いないんだな」
「あやかのことか?今日は帰ってこないぞ」
「そうか…良かった」
オレの言葉を聞いて安堵のため息をつくジャンヌ。
粗暴で乱暴で、凶暴のオーガとは思えない怯えた姿に微笑ましいものを感じた。
「怖いのかよ?」
「ありゃ怖いってもんじゃないだろ…」
「ま、お前にとっちゃそうだろうな」
くつくつ笑うオレに対してジャンヌはいじけた様に唇を尖らせた。
オーガとしてのプライドが怖いと思うのを許しはしないのだろうが、それでもあれは規格外なのだろう。
そりゃそうだ、初めてジャンヌがあやかと会ったときあやかはすぐ近くにあったフライパンを投げつけてたんだから。
それもオレが使っていた、火に熱せられていた熱々のフライパンを。
流石のジャンヌも驚いていたが問題はそのあとだった。
ナイフ、フォーク、包丁、鍋、沸騰した味噌汁に凍らせておいたペットボトルをひと振り。
極めつけは窓を開けてそこから家の前のアスファルトへ思い切り叩きつけたこと。
流石のオーガといえどあの攻撃にはタジタジだった。
初対面の相手にあそこまでの全力攻撃は普通ならできるものじゃないというのに。
でもまぁ、いきなり自宅に全身緑色の鬼が入ってきたらそうなるのも仕方ないのかもしれないか。
オレも初めて襲われたときジャンヌが女性でなかったのならそれ相応のことはするつもりだったし。
「いないんだよな…」
ジャンヌは先ほど伝えた事実をもう一度、意味ありげに繰り返した。
顔には初めて会った時に見た笑みを貼り付けて。
…嫌な予感がする。
最初の時のようなあの嫌な予感がする。
これは早めに潰しておいたほうが良さそうだ。
「飯食い終わったらシャワーでも浴びてこいよ。片付けしておくから」
食器を手にしたオレの言葉にジャンヌは驚いたような表情を浮かべた。
…どうしたのだろうか。
それほどおかしなことをオレは口にしただろうか?
「シャワー浴びてこいって…積極的だな」
「そういう意味で言ったんじゃねーよ」
食器の片付けを終えたオレはそのままの姿で風呂場にいた。
前には白くて小さな椅子に座る緑色の鬼。
見えるのは後ろからでは体を埋め尽くほどに見える多い銀色の長髪だった。
ボサボサで手入れをしていないのがありありとわかるそんな髪の毛。
そこへシャンプーを両手に伸ばしたオレがわしゃわしゃとかき混ぜるように洗っていく。
…なんで洗ってるんだ、オレは。
前回も前々回もそのまた前だってこうしていたのだが…何してるんだろう、オレ。
これだけの量の髪の毛を一人で洗うことは大変そうだから手伝ってる…だっけ。
「ん〜ふ〜ん〜♪」
こいつはこいつで鼻歌なんて歌っちゃって…いい気なもんだ。
風呂場にはオレがジャンヌの髪の毛を洗う音と彼女の鼻歌だけが響く。
それを遮るものなんて何もない。
それも当然、この家に今いるのはオレと、このジャンヌだけなのだから。
両親出張、姉ちゃん大学、我が麗しの暴君様は友達のところ。
とすればなんともナイスなタイミングでジャンヌは訪れたように見えるが実はオレが呼んだだけ。
なんだかんだでこのオーガをこんな世の中で一人野放しにしてたら色々と問題があるだろう。
常識が全く違うこの女性を放っておいたら何をするかわからない。
以前たまたま見かけたときは不良の集団全員を跪かせて財布を献上されてたし…。
「お前さ、これからどうするんだよ」
「んん?」
「うちに来る時以外お前どこで寝てるんだよ。それにお前、そんな姿じゃ目立つだろ」
ジャンヌが身につけていたのは黒地のTシャツに短めのジーンズ。
どちらともボロボロになってしまっていたがそれは紛れもないこの世界のもの。
というか、オレが着ていたものだ。
初めて出会ったあの時の姿、そこらのぼろ布を体に巻きつけただけという挑発的でがさつな格好をやめさせるために渡したオレのお古。
あげたときはそれほど着ていなかったから新品同様とはいかずとも傷も穴も無かった。
それがたった数週間であの有様。
「一体何をすりゃ服あそこまでボロボロにできるんだよ…」
一着しかなかったとは言え何をしていたのか…検討は付くけど。
「いや、変な奴らに絡まれたから返り討ちにした」
「…やっぱりか」
「まぁ、全然楽勝だったけどな!」
「…そりゃオーガに敵うやつなんてそういないだろ」
オレは一度、ジャンヌが片手でバイクを持ち上げていたのを見たことがある。
流石に車とまではいかなくともあのとんでもなく重たい鉄の塊をたった一本の腕で持ち上げることができる。
両手だったら突っ込んでくる車を止めることもできるかもしれない。
そんな女性がそこらの不良やチンピラ共に遅れを取ることもないだろう…それでも絡まれたら無傷で済むというわけもないか。
「でもそんな目立つようなことして平気なのかよ?警察とかいるんだぞ?」
「警察?」
「そ。捕まえられるぞ?」
「あー…自警団みたいなもんか?」
「…多分そうじゃねーの?」
自警団なんて随分と古い言い方というか、変わった言い方というか…。
本当にこいつはどんな世界にいたんだろう。
…想像できない
「へへ、自警団くらいなら軽くのしてやれるぜ」
「何得意げに言ってるんだよ、馬鹿」
「わっぷ!」
慌てるジャンヌをそのままにオレは洗面器から風呂の湯を掬ってそのままかけた。
ざばぁと銀色の髪から飛び散って泡立てられたシャンプーが流れていく。
風呂場の照明で滴る雫が、その髪の毛が無骨な彼女に似合わないくらい綺麗にキラキラと輝いた。
「いきなり何するんだよ!」
「はい、こっちを向かない」
「なんだよおい!」
こちらを振り向こうとするジャンヌの肩を掴んで無理やり前を向かせる。
流石に正面から彼女を見るわけにはいかない。
風呂場なのだから当然ジャンヌはオレの服を着ていない一糸まとわぬ姿である。
いくら無作法なオーガでも女性であることに変わりない。
肩から覗き込めばふっくらとした豊かな胸が目に入ってくる。
曇った鏡に湯をぶちまければジャンヌの裸体がそのまま映ってしまうことだろう。
まったく、悩ましい。
それなのになんでオレはこうして一緒に風呂場にいるんだろうか…。
「なんだよ…『今更』かよ?」
その言葉に一瞬オレの動きを止めた。
そう、今更である。
「……………うるせ」
「へっへっへ♪」
「…」
言い返すことができなくて何だか悔しくて、オレはもう一度ジャンヌに頭から湯をぶちまけた。
風呂から上がり、オレもシャワーを浴びてソファーにでも座ってテレビでも見ようかななんてそう思いリビングのドアを開けた次の瞬間。
オレの体はソファーに叩きつけられていた。
「っ!?」
決して柔らかいとは言い切れない五人がけのソファーでは衝撃を殺しきれるはずもなく反動が体に返ってくる。
肺の中の空気を全て吐き出し、鈍い痛みに顔をしかめている間にずっしりと何かが上に跨ってきた。
柔らかく、温かく、それでいい匂いがするそれは紛れもない女性の体。
ジャンヌの体。
さらにオレの両腕をたった一本の腕で押さえ込んでいる。
たった一本、女性の細腕だとは思えないほどの鬼の力。
傷つけようとはしなくも抵抗できないようにととんでもない馬鹿力を込めてくる。
「て、めっ!何すんだ!!」
「へへ、そう言うなよ」
そう言って笑みを浮かべたジャンヌは間違いなく初めて会ったあの時と同じ顔をしている。
初めて襲いかかってきたあの笑みを浮かべて。
「別にいいだろ?なんだかんだで毎回してるんだからよ」
「お前にヤられるとオレの自尊心減るんだよ!」
「じゃ増やせばいいだろ?」
「自尊心はそう増えるもんじゃないんだよ!」
「ゴタゴタうるせーよ、ほら」
「っ!」
ぐっと、ある一部をジャンヌの手のひらに包まれた。
荒々しいのに柔らかい感触がそれを蹂躙するように撫で回す。
その刺激に、その行為に、オレの体は正直に反応した。
「口でなんだかんだ言ってる割にはもう硬いじゃねえか♪」
「…っ!」
「期待してるんだろ?」
いやらしく撫で回される手の平を強く押し上げる男の証。
ジャンヌに言われずとも気づいている、自分の体なのだから当然だ。
それでもその事実を正面から受け止められない自分がいる。
受け入れがたいと拒んでいる自分がいる。
そんなオレをさらに崩していくかのようにジャンヌは片手を取って、導かれる。
オレが渡した寝巻きのズボンの下へと潜っていき、指先に何かが触れた。
「!」
「へへへ…♪」
くちゅりと、熱くて粘質な液体の感触が指の腹に伝わる。
その感覚がなんだかわからないほどオレも経験のない子供ではない。
「最近ユウタの顔見るたびにこうなるんだよ。どうしてくれるんだ、責任取れよ♪」
「何楽しそうに言ってるんだよっ!」
荒げたオレの声なんてジャンヌには届いていない。
それは最初の時と同じ。
オレの言葉を一言も聞くことなく襲いかかってきたあの時と変わらない。
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたジャンヌは抵抗できないオレの体からさっさと寝巻きを取り払ってしまう。
同じようにオレに隙を与えることなく自分の着ていた衣服も脱ぎ捨てた。
部屋の明かりに照らされる緑色の体。
少し体を動かしただけで揺れる大きな胸に艶かしい体のライン。
先ほど髪を洗った時に使ったシャンプーとは違う甘い香りが鼻腔をくすぐる。
異形な二本の角があろうが耳が尖っていようがジャンヌの魅力は損なわれない。
銀色の髪の毛が光で輝くさまはこう神々しいとさえ思える程だ。
どうしてこんな人じゃない姿なのに美しいんだろうか。
…ってオレは何を考えてるんだ。
互いに一糸まとわぬ姿となり、上と下で重なり合う体と体。
そんな状況を人間の力でどうやっても打破することなんて出来やしない。
オレはとうとう抵抗する力を抜いた。
「おっと、どうした?いつもみたく抵抗しないのかよ?」
「…別に」
「へっへっへ、それなら好きにヤらせてもらうぜ♪」
その言葉とともにすぐさまオレのもの何かに包み込まれた。
「んんっ♪」
「くぅっ!」
燃えるように熱く、疼くような熱を持ったそこ。
粘液が絡みついてはキツくちぎられるかと思うほど強い力で締め付けてくる。
今まで何度も味わったその感覚は変わらずオレを翻弄してくる。
「くぁ…はぁぁあ♪」
根元まで全て飲み込んだジャンヌは満足そうにため息をついた。
頬は朱に染まりながらうっとりとした笑みを浮かべている。
普段の乱暴で粗末な彼女からは考えられない女の表情はオレを狂わせ惑わせる。
「相変わらずユウタのはいいな♪あたしにぴったりだ♪」
「…あ、そ」
素っ気なく返してオレはそっぽを向いた。
未だに両手はジャンヌに掴まれたまま。
こんな状態ではろくな抵抗はできやしない。
出来ることといえば見とれないように…いや、ジャンヌが調子に乗らないようにすることぐらい。
もっとも、ジャンヌにとってオレの抵抗全てが彼女を喜ばせる要因となっているのだが…。
「なんだよおい、素っ気ないぞ?」
なんて口にしながらジャンヌの顔が一気に近づいた。
ゆっくりと唇の隙間からねっとり湿った舌が伸びて頬をべろりと舐め取っていく。
まるで猫のようでもあったが、それは鼠を捉えた猫の仕草。
獲物を捕まえ、抵抗できなくしてゆっくり捕食していくことを見せつけ、感じさせる行為。
きっとジャンヌは捕食者としての愉悦に浸っていることだろう。
そして、捕食は始まる。
「ほ、らぁっ♪」
「うぁっ!」
ジャンヌが激しく腰を上下に動かした。
優しさなんてものは存在しない、相手を思いやるつもりは微塵もない暴力的な交わり。
それこそオーガとの交合であり、この女の好むセックスである。
腰が一方的に打ち付けられてオレ達以外誰もいない家に肉のぶつかり合う音が響き渡る。
緑の肌をした美女の裸体がオレの上で動き、それに合わせて大きな乳房が上下に揺れる。
魅力的で見ているだけでも興奮を覚える姿。
だがそれだけでは止まらずにぬるぬるに湿った彼女の膣内はキツく搾り取るように締め上げては絡んできた。
はじめの方はこの感覚に何度翻弄されて一方的に絞られたことか。
「ほらほらほら、どうしたっ♪ユウタも動けよっ♪」
腰を打ち付けるたびに下のソファが反発してジャンヌの動きを加速させる。
ただでさえ抗いがたい快楽だというのに…っ!
だけどオレもただこの快楽を甘んじて受け入れているばかりじゃない。
初めて会った日から続いてくるこの強姦まがいな行為を一方的に享受しているわけじゃない!
「そらよっ!」
「おわっ!?」
一瞬の隙をついてジャンヌの足を払いに掛かった。
下がソファであるから倒れたところで痛くもないし心配は無用。
バランスを崩して後ろに倒れ込んだジャンヌの上から今度はオレから覆いかぶさる。
抵抗できないように払った両足を引っつかんで、ジャンヌの顔の横に引き上げて。
女性の大切な部分をさらけ出し、自由を奪うというなんとも恥ずかしい姿で。
「は!舐めんなんよ!オレがいつまでたっても受身ばっかじゃねぇんだよ!」
そう言ってオレは体重をかけてジャンヌの奥まで貫いた。
さっきより深く、もっと激しく!
「はぁっ♪」
一瞬だけ唇の間から漏れたジャンヌの甘い嬌声。
荒々しくていつも攻めてくるくせに自分が攻められると弱い。
その証拠に彼女が浮かべている表情は快楽に負けまいと耐えている顔だ。
眉を潜めて唇を噛んで耐えるジャンヌは勝気な普段とは全く違う。
いつもの姿からは予想できないその姿はとてもいやらしくて、魅力がありすぎる。
―だからだろう、その姿がもっと見たいと思ってしまうのは。
―だからなんだ、もっとオレの手で乱れさせたいと思うのは。
「くぅっ♪なんだよ…っ♪随分今日は…積極的、じゃないか、ぁあっ♪」
「うるせっ」
自分の中で湧き上がった気持ちを悟られまいとさらに腰の動きを激しくした。
掻き出される蜜はオレのものに絡み、溢れ出したものは瑞々しいジャンヌの臀部を伝いソファーへ滴る。
より一層濃くなるメスの匂い。
この家で広いリビングという空間だというのに濃密に感じるその香りにクラクラする。
腰をぶつけるたびにジャンヌの体は揺れ、二つの大きな胸も上下に揺れた。
差し入れるたびに肉襞が離すまいと絡みつき、抜けばカリに引っかかって目の前が真っ白になるほどの気持ちよさを叩きつけてくる。
ああ、くそ…なんでこんなに気持ちいいんだよ…っ!
これが体を重ねるということなのか、それとも相手がジャンヌだからということなのか。
そんなことジャンヌ相手にしかしたことがないのでわからない。
何度も何度もジャンヌの膣に男根を打ち込んでいく。
その度に感じる暴力的な快感を歯を食いしばって耐え抜こうとするも限界は近づいてきた。
「あぁっ♪…んん、ぁんっ♪もっと、激しく、ぅっ♪こいよ…んんっ♪」
「感じてるくせに何強がってるんだよ…っ!!」
甘く蕩けてその声に反応してか、何度も突き入れては叩き込まれる会館によってか、ジャンヌと体を重ねているという事実からか、滾っていた欲望がが流れ出そうとするのがわかる。
まずい、このままじゃ…っ!
そう思って一気に腰を引き自身を抜こうとしたその時だった。
掴んでいたジャンヌの足がオレの手から離れ、一瞬で腰に回る。
抱きしめるように、離すことのないように。
「っ!!」
オーガが本気になればオレのような人間一人ろくな抵抗なんて出来やしない。
それは本気で抱きつかれた今もまた同じことだった。
逃げられない快楽にとうとう欲望がはじけ飛ぶ。
どくどくと流れ込んでいく精液は何にも遮られることなくジャンヌの膣内へと注がれていった。
「ぁああっ♪くぅううううううううううう♪」
「うぁ……っ!!」
腰を引こうにも回された足はそれを許さず抱きしめる。
体を離そうにも抱きつかれた腕はそれを遮る。
拒絶を示そうにも、心がそれを拒んでくる。
ビクビクと互いの体が震え絶頂のタイミングが重なった。
ジャンヌはさらに強烈な締めつけで精液を搾り取ろうと律動する。
その度に精液は子宮目指して吐き出され、膣壁をオレで染め上げていく。
長く続いた放出を終え、体から力が抜けてそのまま倒れこんだ。
ジャンヌの上から覆いかぶさるようにゆっくりと。
彼女はそれを拒もうとはせずにむしろ抱きしめ直して迎えいれた。
「はぁあ♪…すっげー気持ちいいな…♪」
嬉しそうに笑みを浮かべて小さく囁いたジャンヌ。
今までも上から見下ろされ貪られ、そのあとはそれでもそのあとは嬉しそうに笑みを浮かべる。
その笑みだけでもオレの中の何かを満たしていき、何かを壊していく。
満たされる?
そんなはずがないだろうに。
壊していく?
一体何を壊すと言うんだ…。
「…こんの、馬鹿」
自分で抱いた気持ちを振り切るためにオレはそんな言葉を口にした。
「むぅ?」
「何がむぅだ。まったく…中で出しちゃまずいって毎回言ってるだろ、この馬鹿」
「なんだよ、中の方がお互い気持ちいいだろ」
「ゴムもしてないんだぞ?」
「あんなもの使う意味あるのか?こっちの方が断然気持ちいいのに」
「子供出来ないように使ってるんだよ。もし出来たらどうするんだよ」
「ユウタの子供か?それならいいな」
「っ!!」
ああ、と思う。
この馬鹿はどこまで馬鹿なんだ。
なんでそんなことを嬉しそうに言えるんだ。
真っ直ぐにオレを見つめてハッキリと言えるんだ。
この、馬鹿。
オレはジャンヌのそういうところが―
「へへ、まだまだ硬いな♪」
「!」
ジャンヌは互いが重なり合った部分を見つめながらそう言った。
その瞳に宿るのは期待であり、その声色に孕ませたのは本能の欲求。
まだまだ収まりのつかない欲望をわかりやすくオレに示していた。
このまま放っておけば下にいながらもジャンヌはすぐにオレに跨って激しく交わり合うことになるだろう。
まってく…。
「…場所、かえるぞ」
「お?」
「リビングでなんてできるかよ。匂いついたら弁解できねえよ」
一家団欒とする場所で淫靡な匂いがこびりつく、そんなことになるのは是非とも避けたい。
ただでさえ家には女の匂いに敏感な暴君様がいるというのだからバレたらその時は…。
「部屋、行くぞ」
ジャンヌから自身を引き抜き服を引っつかんでリビングのドアを開けた。
しかしおかしなことにジャンヌはオレのあとをついてこようとはしない
いや、ソファから起き上がろうともしない。
「…何やってるんだよ?」
「いや、悪い…腰砕けた」
「…は?」
「ユウタがあんな激しくしてくるとは思わなくてよ、いやぁ驚いた」
「それでもオレを襲いに来たオーガかよ…ダサいな」
「うるせぇ」
「…まったく」
頭を掻きながらオレはジャンヌの体の下に腕を差し入れた。
彼女の体を傷つけないようにゆっくり、そして抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこで。
「おっ!」
「じっとしてろよ?変に暴れたら階段から落とすからな」
「…何げにユウタもあの女と似てるよな」
「双子なんで」
いつものような会話を口にしながらもジャンヌはへへへと笑って腕を首へと回してくる。
そんなことをされずとも落とすことはないだろうが特に気にするべきことでもない。
長身でオレを襲いに着ているオーガをお姫様抱っこで運ぶなんて何してるんだろうな、オレは。
思わずため息をつきそうになるも心のどこかでこの状況を楽しんでいるオレがいたのは…気づかないフリをしておこう。
朝日もまだ登らない暗闇の中でオレは目を覚ました。
眠い眼をこすりながら起き上がると肌寒く感じる体に違和感を覚える。
見れば、裸。
昨日着ていた寝巻きとバスタオルが一枚ベッドの傍に乱雑に投げ捨てられている。
そして、ベッドの方に目を向ける。
オレのすぐ隣、安らかに寝息を立てて眠る一人の女性がそこにはいた。
「…」
荒々しくて、粗暴で、乱暴で、横暴で滅茶苦茶なオーガのジャンヌ。
なんだかんだで今回もまたこうして共に寝てしまった。
回数を数えてみれば既に二桁になっていることだろう。
また、だ。
「…はぁ」
オレはその事実に疲れたように小さく息を吐き出した。
何をしてるんだろうな、オレは。
嫌々言ってるくせにもう何度こうして隣でジャンヌが寝たことだろうか。
何度こうして体を重ねたことだろうか。
口ではああも言ってるが結局のところオレはなんなのか。
「…」
―多分、好きなんだろうな…こいつのこと。
滅茶苦茶な出会い方をしても、破滅的な付き合いをしていても、結局オレはこのオーガのことを好いているのかもしれない。
ただ単に放っておけないということもあるだろうが。
「まったく…」
苦笑しつつもジャンヌの隣に潜り込む。
雀も鳴かないこんな時間帯、朝まではまだまだ余裕があるし、もう少し寝ていても構わないだろう。
「気持ちよさそうに寝やがって…」
すぐ目の前でだらしなく口を開けて眠るジャンヌを見てそう言った。
しかし眠りが深いのかこれといった反応は返ってこない。
これなら多少いたずらしても起きることはないだろうし、誤魔化しも効くことだろう。
そう思ってオレはジャンヌの頬に手を添えた、その時だった。
「ん、へへ…あたしの、勝ちだぞ…ユウ…タ…」
「!」
「…ん、ん……」
…寝言か。
びっくりさせるなよ。
ほっと胸を撫で下ろして彼女の頬から自分の手を引いた。
青い刺青の入った美女の顔。
思うがままに惰眠を貪る鬼女。
とても荒々しい性格をしているのにそれがどこか羨ましく、好ましい。
粗暴だから、乱暴だから、裏がない。
バカみたいに真っ直ぐにオレを求めてくるからこそ、オレもまた彼女を求めているのだろか…。
「…バカバカしい」
そんな恥ずかしくなること考えてられるかって言うんだ。
もうこんなこと考えるのは止めだ。
このあとの朝飯はいつものようにオレが作るんだ、その時間までもう少し寝かせてもらおう。
オレはそのまま瞼を閉じてジャンヌの傍で眠りについた。
さりげなく肩に回された手をそっと握り込んで。
―HAPPY END―
「まぁ、そう言わないでくれよ」
「帰れ」
「そっけないぞー?訪ねてきたのにそんな態度とるもんじゃないだろ?」
「帰れ」
「いや、帰れじゃなくてこっちだって用があってきてるんだからよ?」
「帰れ」
「なぁ、前みたいに飯食わせてくれよ」
「帰れ」
「頼む!お前以外頼れるやついないんだよ」
「帰れ」
「お前さっきっからそればっかだな。流石のあたしも傷つくぞ」
「帰れ」
「そんなに邪険にしないでくれよ。あたしとあんたの仲だろ」
「帰れ」
「…そんなに帰れって言うのならあたしだって穏やかに済まさないぞ?」
「帰れ」
「おーいー!帰れ以外にもなんか言ってくれよ!」
「消えろ」
「おうぅ、攻撃的になったな」
「…はぁ」
オレこと黒崎ゆうたは自宅の玄関先でドアを開けたまま大きくため息をついた。
目の前には女性がいるというのに、礼儀をもって接するべきなのにオレはそうしない。
なぜなら彼女にはそんなものは必要ないからだ。
彼女―緑色の肌に青い刺青をした人間ではない女性。
身長が平均的なオレよりも頭一つと高めの図体と夕焼けの赤い光をオレンジ色に反射する銀色でボサボサした腰まで伸ばされた長髪。
本来丸みを帯びている耳を生やすのが人間なのに彼女の耳はツンと尖っていてまるでおとぎ話に出てくるエルフや妖精の耳に見える。
そして額に生やしているのは角、鋭く尖った鬼のような二本の角が生えていた。
肌が明るい緑色、銀色の長髪に女性の中では高めな身長、極めつけは角。
そんな姿をどう人間だと言えるだろうか。
そんな人間の姿ではない彼女だが、それでも女性としてはかなりの美女だった。
豊かに実った二つの膨らみはボロボロになったTシャツを窮屈そうに押し上げ、その丸い全体がいやらしい形へと変わる。
引き締まった腹部にまた膨らんだ臀部。
下半身はジーンズを履いているのだが膝までしかなく、またダメージジーンズのように張り裂けていて隙間から見える肌が艶かしい。
大人の女というよりはスポーツをやっているような健康的な色気を振りまく女。
それが彼女、自らを『オーガ』と言ったジャンヌという女性だ。
オレと彼女の出会いなんてものはもう三週間ほど前になるだろうか。
あれは真夜中の公園、自宅へ帰る途中に近道をしようとしていたらそこでばったりとこの鬼ジャンヌと出くわした。
その時の姿は今よりもひどい。
ただの布切れを巻きつけただけの体一つで彼女は公園の道の中央で待ち構えていたのだから。
そこらに落ちていた布を体に巻きつけただけというようなファッションの欠片もないその姿。
今よりもずっと露出の多かったあれは一見すれば痴女の姿にも見えたはずだ。
だがそう見えなかったのはそんな格好をしていながらも堂々と胸を張ってオレの前に立ちはだかったからか。
そうしてかけられた今でもはっきり思い出せるガサツでドスの効いたジャンヌの一声は―
「おぉ?こんなところにいい男がいるじゃねーか♪」
以上、回想終了。
これがオレとジャンヌの出会いであり、馴れ初めであり、面倒事の始まりである。
ジャンヌは買い物帰りのオレをいきなり襲ってきた。
女性とはいえ、手は拳を握り締め、明らかな害意を抱いて向かってきた。
正直失礼極まりない。
そのあとにあったこともとんでもなく失礼極まりないこと。
だからこそオレはジャンヌに女性に対する礼儀をもって接しようとはしないし、邪険に扱うのも当然といえるだろう。
「なぁ、頼むよ、このとーり!」
そう言って両手を合わせて頭を下げてくる一匹のオーガ。
自分よりも身長が高く年齢的にも上だと言える彼女が頭を下げる姿は傍から見ていてなんと奇妙なことだろうか。
本来なら女性からの、それも美女からの頼みごとなら二つ返事でその頼みを受けるはずだったが相手が相手。
あんなことまでされていて容認できるほどオレは甘くないし、聖人君子をしているわけじゃない。
…だが、傍から見ていてどうだろう。
家の玄関先で高校生に頭を下げる年上の女性。
そしてその女性は日本人にはまずに見られないだろう銀色の長髪と尖った耳と大きな身長に緑色の肌をしている。
いくら服装がこの世界にあるものだとしても人の目につくことは間違いないだろう。
極めつけは、なんだかんだで美女。
豊かな胸の膨らみに完成されたプロポーションは男にとって見とれてしまうもの。
ゆえにこんなところでジャンヌに頭を下げられたままの姿を見られるのは好ましいことじゃなかった。
…仕方ないか。
「…ほら、来いよ」
ジャンヌに聞こえるように大げさにため息をつきながらもドアを開けて顎で入れと示す。
「おう♪悪いな♪」
そんなオレの態度を気にすることなく嬉しそうにそう言った。
基本的に自分にとって都合の悪いことは気にしないからな、こいつ。
何事もポジティブなんだよな。
ジャンヌが前に一度言ったことが本当なら…見たこともないような場所に放り出されてたというのに…。
「なんだかんだでユウタって優しくしてくれるよな」
「なんだよ、急に」
「いや、これがいわゆるツンデレってやつなんだろうなって思って」
「表出ろ」
家の中に入りもう慣れたと言わんばかりにスタスタと歩いては五つあるうちの一つの椅子に座った。
次いでキョロキョロと周りを気にし始めるジャンヌ。
どうしたのだろうか、なんて思わずともそれがなんでだかオレは分かっている。
「…今日は、あの女いないんだな」
「あやかのことか?今日は帰ってこないぞ」
「そうか…良かった」
オレの言葉を聞いて安堵のため息をつくジャンヌ。
粗暴で乱暴で、凶暴のオーガとは思えない怯えた姿に微笑ましいものを感じた。
「怖いのかよ?」
「ありゃ怖いってもんじゃないだろ…」
「ま、お前にとっちゃそうだろうな」
くつくつ笑うオレに対してジャンヌはいじけた様に唇を尖らせた。
オーガとしてのプライドが怖いと思うのを許しはしないのだろうが、それでもあれは規格外なのだろう。
そりゃそうだ、初めてジャンヌがあやかと会ったときあやかはすぐ近くにあったフライパンを投げつけてたんだから。
それもオレが使っていた、火に熱せられていた熱々のフライパンを。
流石のジャンヌも驚いていたが問題はそのあとだった。
ナイフ、フォーク、包丁、鍋、沸騰した味噌汁に凍らせておいたペットボトルをひと振り。
極めつけは窓を開けてそこから家の前のアスファルトへ思い切り叩きつけたこと。
流石のオーガといえどあの攻撃にはタジタジだった。
初対面の相手にあそこまでの全力攻撃は普通ならできるものじゃないというのに。
でもまぁ、いきなり自宅に全身緑色の鬼が入ってきたらそうなるのも仕方ないのかもしれないか。
オレも初めて襲われたときジャンヌが女性でなかったのならそれ相応のことはするつもりだったし。
「いないんだよな…」
ジャンヌは先ほど伝えた事実をもう一度、意味ありげに繰り返した。
顔には初めて会った時に見た笑みを貼り付けて。
…嫌な予感がする。
最初の時のようなあの嫌な予感がする。
これは早めに潰しておいたほうが良さそうだ。
「飯食い終わったらシャワーでも浴びてこいよ。片付けしておくから」
食器を手にしたオレの言葉にジャンヌは驚いたような表情を浮かべた。
…どうしたのだろうか。
それほどおかしなことをオレは口にしただろうか?
「シャワー浴びてこいって…積極的だな」
「そういう意味で言ったんじゃねーよ」
食器の片付けを終えたオレはそのままの姿で風呂場にいた。
前には白くて小さな椅子に座る緑色の鬼。
見えるのは後ろからでは体を埋め尽くほどに見える多い銀色の長髪だった。
ボサボサで手入れをしていないのがありありとわかるそんな髪の毛。
そこへシャンプーを両手に伸ばしたオレがわしゃわしゃとかき混ぜるように洗っていく。
…なんで洗ってるんだ、オレは。
前回も前々回もそのまた前だってこうしていたのだが…何してるんだろう、オレ。
これだけの量の髪の毛を一人で洗うことは大変そうだから手伝ってる…だっけ。
「ん〜ふ〜ん〜♪」
こいつはこいつで鼻歌なんて歌っちゃって…いい気なもんだ。
風呂場にはオレがジャンヌの髪の毛を洗う音と彼女の鼻歌だけが響く。
それを遮るものなんて何もない。
それも当然、この家に今いるのはオレと、このジャンヌだけなのだから。
両親出張、姉ちゃん大学、我が麗しの暴君様は友達のところ。
とすればなんともナイスなタイミングでジャンヌは訪れたように見えるが実はオレが呼んだだけ。
なんだかんだでこのオーガをこんな世の中で一人野放しにしてたら色々と問題があるだろう。
常識が全く違うこの女性を放っておいたら何をするかわからない。
以前たまたま見かけたときは不良の集団全員を跪かせて財布を献上されてたし…。
「お前さ、これからどうするんだよ」
「んん?」
「うちに来る時以外お前どこで寝てるんだよ。それにお前、そんな姿じゃ目立つだろ」
ジャンヌが身につけていたのは黒地のTシャツに短めのジーンズ。
どちらともボロボロになってしまっていたがそれは紛れもないこの世界のもの。
というか、オレが着ていたものだ。
初めて出会ったあの時の姿、そこらのぼろ布を体に巻きつけただけという挑発的でがさつな格好をやめさせるために渡したオレのお古。
あげたときはそれほど着ていなかったから新品同様とはいかずとも傷も穴も無かった。
それがたった数週間であの有様。
「一体何をすりゃ服あそこまでボロボロにできるんだよ…」
一着しかなかったとは言え何をしていたのか…検討は付くけど。
「いや、変な奴らに絡まれたから返り討ちにした」
「…やっぱりか」
「まぁ、全然楽勝だったけどな!」
「…そりゃオーガに敵うやつなんてそういないだろ」
オレは一度、ジャンヌが片手でバイクを持ち上げていたのを見たことがある。
流石に車とまではいかなくともあのとんでもなく重たい鉄の塊をたった一本の腕で持ち上げることができる。
両手だったら突っ込んでくる車を止めることもできるかもしれない。
そんな女性がそこらの不良やチンピラ共に遅れを取ることもないだろう…それでも絡まれたら無傷で済むというわけもないか。
「でもそんな目立つようなことして平気なのかよ?警察とかいるんだぞ?」
「警察?」
「そ。捕まえられるぞ?」
「あー…自警団みたいなもんか?」
「…多分そうじゃねーの?」
自警団なんて随分と古い言い方というか、変わった言い方というか…。
本当にこいつはどんな世界にいたんだろう。
…想像できない
「へへ、自警団くらいなら軽くのしてやれるぜ」
「何得意げに言ってるんだよ、馬鹿」
「わっぷ!」
慌てるジャンヌをそのままにオレは洗面器から風呂の湯を掬ってそのままかけた。
ざばぁと銀色の髪から飛び散って泡立てられたシャンプーが流れていく。
風呂場の照明で滴る雫が、その髪の毛が無骨な彼女に似合わないくらい綺麗にキラキラと輝いた。
「いきなり何するんだよ!」
「はい、こっちを向かない」
「なんだよおい!」
こちらを振り向こうとするジャンヌの肩を掴んで無理やり前を向かせる。
流石に正面から彼女を見るわけにはいかない。
風呂場なのだから当然ジャンヌはオレの服を着ていない一糸まとわぬ姿である。
いくら無作法なオーガでも女性であることに変わりない。
肩から覗き込めばふっくらとした豊かな胸が目に入ってくる。
曇った鏡に湯をぶちまければジャンヌの裸体がそのまま映ってしまうことだろう。
まったく、悩ましい。
それなのになんでオレはこうして一緒に風呂場にいるんだろうか…。
「なんだよ…『今更』かよ?」
その言葉に一瞬オレの動きを止めた。
そう、今更である。
「……………うるせ」
「へっへっへ♪」
「…」
言い返すことができなくて何だか悔しくて、オレはもう一度ジャンヌに頭から湯をぶちまけた。
風呂から上がり、オレもシャワーを浴びてソファーにでも座ってテレビでも見ようかななんてそう思いリビングのドアを開けた次の瞬間。
オレの体はソファーに叩きつけられていた。
「っ!?」
決して柔らかいとは言い切れない五人がけのソファーでは衝撃を殺しきれるはずもなく反動が体に返ってくる。
肺の中の空気を全て吐き出し、鈍い痛みに顔をしかめている間にずっしりと何かが上に跨ってきた。
柔らかく、温かく、それでいい匂いがするそれは紛れもない女性の体。
ジャンヌの体。
さらにオレの両腕をたった一本の腕で押さえ込んでいる。
たった一本、女性の細腕だとは思えないほどの鬼の力。
傷つけようとはしなくも抵抗できないようにととんでもない馬鹿力を込めてくる。
「て、めっ!何すんだ!!」
「へへ、そう言うなよ」
そう言って笑みを浮かべたジャンヌは間違いなく初めて会ったあの時と同じ顔をしている。
初めて襲いかかってきたあの笑みを浮かべて。
「別にいいだろ?なんだかんだで毎回してるんだからよ」
「お前にヤられるとオレの自尊心減るんだよ!」
「じゃ増やせばいいだろ?」
「自尊心はそう増えるもんじゃないんだよ!」
「ゴタゴタうるせーよ、ほら」
「っ!」
ぐっと、ある一部をジャンヌの手のひらに包まれた。
荒々しいのに柔らかい感触がそれを蹂躙するように撫で回す。
その刺激に、その行為に、オレの体は正直に反応した。
「口でなんだかんだ言ってる割にはもう硬いじゃねえか♪」
「…っ!」
「期待してるんだろ?」
いやらしく撫で回される手の平を強く押し上げる男の証。
ジャンヌに言われずとも気づいている、自分の体なのだから当然だ。
それでもその事実を正面から受け止められない自分がいる。
受け入れがたいと拒んでいる自分がいる。
そんなオレをさらに崩していくかのようにジャンヌは片手を取って、導かれる。
オレが渡した寝巻きのズボンの下へと潜っていき、指先に何かが触れた。
「!」
「へへへ…♪」
くちゅりと、熱くて粘質な液体の感触が指の腹に伝わる。
その感覚がなんだかわからないほどオレも経験のない子供ではない。
「最近ユウタの顔見るたびにこうなるんだよ。どうしてくれるんだ、責任取れよ♪」
「何楽しそうに言ってるんだよっ!」
荒げたオレの声なんてジャンヌには届いていない。
それは最初の時と同じ。
オレの言葉を一言も聞くことなく襲いかかってきたあの時と変わらない。
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたジャンヌは抵抗できないオレの体からさっさと寝巻きを取り払ってしまう。
同じようにオレに隙を与えることなく自分の着ていた衣服も脱ぎ捨てた。
部屋の明かりに照らされる緑色の体。
少し体を動かしただけで揺れる大きな胸に艶かしい体のライン。
先ほど髪を洗った時に使ったシャンプーとは違う甘い香りが鼻腔をくすぐる。
異形な二本の角があろうが耳が尖っていようがジャンヌの魅力は損なわれない。
銀色の髪の毛が光で輝くさまはこう神々しいとさえ思える程だ。
どうしてこんな人じゃない姿なのに美しいんだろうか。
…ってオレは何を考えてるんだ。
互いに一糸まとわぬ姿となり、上と下で重なり合う体と体。
そんな状況を人間の力でどうやっても打破することなんて出来やしない。
オレはとうとう抵抗する力を抜いた。
「おっと、どうした?いつもみたく抵抗しないのかよ?」
「…別に」
「へっへっへ、それなら好きにヤらせてもらうぜ♪」
その言葉とともにすぐさまオレのもの何かに包み込まれた。
「んんっ♪」
「くぅっ!」
燃えるように熱く、疼くような熱を持ったそこ。
粘液が絡みついてはキツくちぎられるかと思うほど強い力で締め付けてくる。
今まで何度も味わったその感覚は変わらずオレを翻弄してくる。
「くぁ…はぁぁあ♪」
根元まで全て飲み込んだジャンヌは満足そうにため息をついた。
頬は朱に染まりながらうっとりとした笑みを浮かべている。
普段の乱暴で粗末な彼女からは考えられない女の表情はオレを狂わせ惑わせる。
「相変わらずユウタのはいいな♪あたしにぴったりだ♪」
「…あ、そ」
素っ気なく返してオレはそっぽを向いた。
未だに両手はジャンヌに掴まれたまま。
こんな状態ではろくな抵抗はできやしない。
出来ることといえば見とれないように…いや、ジャンヌが調子に乗らないようにすることぐらい。
もっとも、ジャンヌにとってオレの抵抗全てが彼女を喜ばせる要因となっているのだが…。
「なんだよおい、素っ気ないぞ?」
なんて口にしながらジャンヌの顔が一気に近づいた。
ゆっくりと唇の隙間からねっとり湿った舌が伸びて頬をべろりと舐め取っていく。
まるで猫のようでもあったが、それは鼠を捉えた猫の仕草。
獲物を捕まえ、抵抗できなくしてゆっくり捕食していくことを見せつけ、感じさせる行為。
きっとジャンヌは捕食者としての愉悦に浸っていることだろう。
そして、捕食は始まる。
「ほ、らぁっ♪」
「うぁっ!」
ジャンヌが激しく腰を上下に動かした。
優しさなんてものは存在しない、相手を思いやるつもりは微塵もない暴力的な交わり。
それこそオーガとの交合であり、この女の好むセックスである。
腰が一方的に打ち付けられてオレ達以外誰もいない家に肉のぶつかり合う音が響き渡る。
緑の肌をした美女の裸体がオレの上で動き、それに合わせて大きな乳房が上下に揺れる。
魅力的で見ているだけでも興奮を覚える姿。
だがそれだけでは止まらずにぬるぬるに湿った彼女の膣内はキツく搾り取るように締め上げては絡んできた。
はじめの方はこの感覚に何度翻弄されて一方的に絞られたことか。
「ほらほらほら、どうしたっ♪ユウタも動けよっ♪」
腰を打ち付けるたびに下のソファが反発してジャンヌの動きを加速させる。
ただでさえ抗いがたい快楽だというのに…っ!
だけどオレもただこの快楽を甘んじて受け入れているばかりじゃない。
初めて会った日から続いてくるこの強姦まがいな行為を一方的に享受しているわけじゃない!
「そらよっ!」
「おわっ!?」
一瞬の隙をついてジャンヌの足を払いに掛かった。
下がソファであるから倒れたところで痛くもないし心配は無用。
バランスを崩して後ろに倒れ込んだジャンヌの上から今度はオレから覆いかぶさる。
抵抗できないように払った両足を引っつかんで、ジャンヌの顔の横に引き上げて。
女性の大切な部分をさらけ出し、自由を奪うというなんとも恥ずかしい姿で。
「は!舐めんなんよ!オレがいつまでたっても受身ばっかじゃねぇんだよ!」
そう言ってオレは体重をかけてジャンヌの奥まで貫いた。
さっきより深く、もっと激しく!
「はぁっ♪」
一瞬だけ唇の間から漏れたジャンヌの甘い嬌声。
荒々しくていつも攻めてくるくせに自分が攻められると弱い。
その証拠に彼女が浮かべている表情は快楽に負けまいと耐えている顔だ。
眉を潜めて唇を噛んで耐えるジャンヌは勝気な普段とは全く違う。
いつもの姿からは予想できないその姿はとてもいやらしくて、魅力がありすぎる。
―だからだろう、その姿がもっと見たいと思ってしまうのは。
―だからなんだ、もっとオレの手で乱れさせたいと思うのは。
「くぅっ♪なんだよ…っ♪随分今日は…積極的、じゃないか、ぁあっ♪」
「うるせっ」
自分の中で湧き上がった気持ちを悟られまいとさらに腰の動きを激しくした。
掻き出される蜜はオレのものに絡み、溢れ出したものは瑞々しいジャンヌの臀部を伝いソファーへ滴る。
より一層濃くなるメスの匂い。
この家で広いリビングという空間だというのに濃密に感じるその香りにクラクラする。
腰をぶつけるたびにジャンヌの体は揺れ、二つの大きな胸も上下に揺れた。
差し入れるたびに肉襞が離すまいと絡みつき、抜けばカリに引っかかって目の前が真っ白になるほどの気持ちよさを叩きつけてくる。
ああ、くそ…なんでこんなに気持ちいいんだよ…っ!
これが体を重ねるということなのか、それとも相手がジャンヌだからということなのか。
そんなことジャンヌ相手にしかしたことがないのでわからない。
何度も何度もジャンヌの膣に男根を打ち込んでいく。
その度に感じる暴力的な快感を歯を食いしばって耐え抜こうとするも限界は近づいてきた。
「あぁっ♪…んん、ぁんっ♪もっと、激しく、ぅっ♪こいよ…んんっ♪」
「感じてるくせに何強がってるんだよ…っ!!」
甘く蕩けてその声に反応してか、何度も突き入れては叩き込まれる会館によってか、ジャンヌと体を重ねているという事実からか、滾っていた欲望がが流れ出そうとするのがわかる。
まずい、このままじゃ…っ!
そう思って一気に腰を引き自身を抜こうとしたその時だった。
掴んでいたジャンヌの足がオレの手から離れ、一瞬で腰に回る。
抱きしめるように、離すことのないように。
「っ!!」
オーガが本気になればオレのような人間一人ろくな抵抗なんて出来やしない。
それは本気で抱きつかれた今もまた同じことだった。
逃げられない快楽にとうとう欲望がはじけ飛ぶ。
どくどくと流れ込んでいく精液は何にも遮られることなくジャンヌの膣内へと注がれていった。
「ぁああっ♪くぅううううううううううう♪」
「うぁ……っ!!」
腰を引こうにも回された足はそれを許さず抱きしめる。
体を離そうにも抱きつかれた腕はそれを遮る。
拒絶を示そうにも、心がそれを拒んでくる。
ビクビクと互いの体が震え絶頂のタイミングが重なった。
ジャンヌはさらに強烈な締めつけで精液を搾り取ろうと律動する。
その度に精液は子宮目指して吐き出され、膣壁をオレで染め上げていく。
長く続いた放出を終え、体から力が抜けてそのまま倒れこんだ。
ジャンヌの上から覆いかぶさるようにゆっくりと。
彼女はそれを拒もうとはせずにむしろ抱きしめ直して迎えいれた。
「はぁあ♪…すっげー気持ちいいな…♪」
嬉しそうに笑みを浮かべて小さく囁いたジャンヌ。
今までも上から見下ろされ貪られ、そのあとはそれでもそのあとは嬉しそうに笑みを浮かべる。
その笑みだけでもオレの中の何かを満たしていき、何かを壊していく。
満たされる?
そんなはずがないだろうに。
壊していく?
一体何を壊すと言うんだ…。
「…こんの、馬鹿」
自分で抱いた気持ちを振り切るためにオレはそんな言葉を口にした。
「むぅ?」
「何がむぅだ。まったく…中で出しちゃまずいって毎回言ってるだろ、この馬鹿」
「なんだよ、中の方がお互い気持ちいいだろ」
「ゴムもしてないんだぞ?」
「あんなもの使う意味あるのか?こっちの方が断然気持ちいいのに」
「子供出来ないように使ってるんだよ。もし出来たらどうするんだよ」
「ユウタの子供か?それならいいな」
「っ!!」
ああ、と思う。
この馬鹿はどこまで馬鹿なんだ。
なんでそんなことを嬉しそうに言えるんだ。
真っ直ぐにオレを見つめてハッキリと言えるんだ。
この、馬鹿。
オレはジャンヌのそういうところが―
「へへ、まだまだ硬いな♪」
「!」
ジャンヌは互いが重なり合った部分を見つめながらそう言った。
その瞳に宿るのは期待であり、その声色に孕ませたのは本能の欲求。
まだまだ収まりのつかない欲望をわかりやすくオレに示していた。
このまま放っておけば下にいながらもジャンヌはすぐにオレに跨って激しく交わり合うことになるだろう。
まってく…。
「…場所、かえるぞ」
「お?」
「リビングでなんてできるかよ。匂いついたら弁解できねえよ」
一家団欒とする場所で淫靡な匂いがこびりつく、そんなことになるのは是非とも避けたい。
ただでさえ家には女の匂いに敏感な暴君様がいるというのだからバレたらその時は…。
「部屋、行くぞ」
ジャンヌから自身を引き抜き服を引っつかんでリビングのドアを開けた。
しかしおかしなことにジャンヌはオレのあとをついてこようとはしない
いや、ソファから起き上がろうともしない。
「…何やってるんだよ?」
「いや、悪い…腰砕けた」
「…は?」
「ユウタがあんな激しくしてくるとは思わなくてよ、いやぁ驚いた」
「それでもオレを襲いに来たオーガかよ…ダサいな」
「うるせぇ」
「…まったく」
頭を掻きながらオレはジャンヌの体の下に腕を差し入れた。
彼女の体を傷つけないようにゆっくり、そして抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこで。
「おっ!」
「じっとしてろよ?変に暴れたら階段から落とすからな」
「…何げにユウタもあの女と似てるよな」
「双子なんで」
いつものような会話を口にしながらもジャンヌはへへへと笑って腕を首へと回してくる。
そんなことをされずとも落とすことはないだろうが特に気にするべきことでもない。
長身でオレを襲いに着ているオーガをお姫様抱っこで運ぶなんて何してるんだろうな、オレは。
思わずため息をつきそうになるも心のどこかでこの状況を楽しんでいるオレがいたのは…気づかないフリをしておこう。
朝日もまだ登らない暗闇の中でオレは目を覚ました。
眠い眼をこすりながら起き上がると肌寒く感じる体に違和感を覚える。
見れば、裸。
昨日着ていた寝巻きとバスタオルが一枚ベッドの傍に乱雑に投げ捨てられている。
そして、ベッドの方に目を向ける。
オレのすぐ隣、安らかに寝息を立てて眠る一人の女性がそこにはいた。
「…」
荒々しくて、粗暴で、乱暴で、横暴で滅茶苦茶なオーガのジャンヌ。
なんだかんだで今回もまたこうして共に寝てしまった。
回数を数えてみれば既に二桁になっていることだろう。
また、だ。
「…はぁ」
オレはその事実に疲れたように小さく息を吐き出した。
何をしてるんだろうな、オレは。
嫌々言ってるくせにもう何度こうして隣でジャンヌが寝たことだろうか。
何度こうして体を重ねたことだろうか。
口ではああも言ってるが結局のところオレはなんなのか。
「…」
―多分、好きなんだろうな…こいつのこと。
滅茶苦茶な出会い方をしても、破滅的な付き合いをしていても、結局オレはこのオーガのことを好いているのかもしれない。
ただ単に放っておけないということもあるだろうが。
「まったく…」
苦笑しつつもジャンヌの隣に潜り込む。
雀も鳴かないこんな時間帯、朝まではまだまだ余裕があるし、もう少し寝ていても構わないだろう。
「気持ちよさそうに寝やがって…」
すぐ目の前でだらしなく口を開けて眠るジャンヌを見てそう言った。
しかし眠りが深いのかこれといった反応は返ってこない。
これなら多少いたずらしても起きることはないだろうし、誤魔化しも効くことだろう。
そう思ってオレはジャンヌの頬に手を添えた、その時だった。
「ん、へへ…あたしの、勝ちだぞ…ユウ…タ…」
「!」
「…ん、ん……」
…寝言か。
びっくりさせるなよ。
ほっと胸を撫で下ろして彼女の頬から自分の手を引いた。
青い刺青の入った美女の顔。
思うがままに惰眠を貪る鬼女。
とても荒々しい性格をしているのにそれがどこか羨ましく、好ましい。
粗暴だから、乱暴だから、裏がない。
バカみたいに真っ直ぐにオレを求めてくるからこそ、オレもまた彼女を求めているのだろか…。
「…バカバカしい」
そんな恥ずかしくなること考えてられるかって言うんだ。
もうこんなこと考えるのは止めだ。
このあとの朝飯はいつものようにオレが作るんだ、その時間までもう少し寝かせてもらおう。
オレはそのまま瞼を閉じてジャンヌの傍で眠りについた。
さりげなく肩に回された手をそっと握り込んで。
―HAPPY END―
12/07/16 20:39更新 / ノワール・B・シュヴァルツ