読切小説
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オレの優しさ、貴方の憧れ
世の中にはおかしな物が多々あるものだと今はっきり身をもって実感した。
ここまで実感したことは生まれてこのかた何度かあったがこれはこれでまた新しい。

オレの目の前、すぐそこに行き倒れている人間がいる。

それもただの人間じゃない。
髪の毛の色が薄い金色。
染めて出るような痛んだ色ではない、自然で綺麗な色。
それを隠すために被っていたのか黒い大きな帽子が傍に置いてある。
顔はどのようなものかはうつ伏せになっているので見えないがそれでも背後しか見えないその体つきは目を見張るものがある。
うつ伏せだから体重がかかってしまい潰れる豊かな胸はオレよりも年上であろう彼女の年齢平均よりもずっと上だろう。
露出の激しい服装。
そこからみれるくびれた白い腹部。
近くに落ちたまるでマントのような黒く大きな布。
まぁ確かにここ最近は暑い日が続くから夜中になろうとそんな格好をおかしいとは思わない。
…いや、マントはちょっと風変わりだけど
一見すれば金髪の外国人の女性としか見受けられない彼女。
だが問題はそこにあった。

腰に長剣を携えていた。

レイピアとか、まるで漫画やゲームに出てきそうな剣。
持っていれば銃刀法違反で捕まることは間違いないだろうに。
一見普通に見えてそうではない倒れた女性を目の前にオレがすべきことはただ一つ。




「見なかったことにしよう」



そう言えればなんと楽だったことか。



「おい、そこの君待ってくれないか?」



その言葉が聞こえなかったらどれほど楽だったか。



「…」



見捨てられたらどれほど楽だったのか…。




「いやぁ、面目ない」
「いえいえ」
都合がいいことに今家にはオレを除いて誰もいない。
両親は互いに一週間の出張、姉ちゃんは大学の友達の家に泊まる、我が麗しき暴君(双子の姉)に至っては姉ちゃんと同じように友人の家に泊まるという。
本当に都合がいい。
その都合の良さを利用して一人でしかできないことをしようとしていたのに…まったく。
小さくため息を吐いてオレは目の前で椅子に座る彼女を見た。
先ほどとは違って正面から拝めることができる彼女の姿。
細い眉に長めの睫毛。
スラリとした鼻筋に白い頬。
血のように真っ赤で凛とした瞳に、同じく血のように赤い艶やかな唇。
誰がどうみても美人。
どこをどう見ようとも美女。
なんとも珍しい。
黒髪黒目の日本人が大勢いる国でこのような金髪赤目の美女を目にすることができるなんて。
それ以上にこんな風変わりな剣を携えているなんて。
…いわゆるコスプレだろうか?
「見覚えのない街にいきなり出たと思えば路銀も尽きてあまりの空腹に倒れてしまい、君に助けられるなんて。本当に助かった、ありがとう」
「いえいえ」
どこか引っかかるもののいい方。
古風で今時の女性らしくない堅苦しい性格なのだろうか。
それに先ほど言った、見覚えのない街という言葉。
どう言う意味なのだろうか。
「でもお姉さん、そんなもの持ってたら警察につかまりますよ」
一応変な女性でも一度家に招き入れてしまった以上、親切心から言わせてもらおう。
しかし彼女はオレの言葉に変わった反応を返す。
「いや、これがないと戦えないからな」
「…戦い?」



「そうだ、ヴァンパイアとの戦いだ」



「…」
あいたたたたた、この女性、痛い人か。
平然と何もおかしくないと言わんばかりの真面目顔でとんでもないことを言いきった。
これは…とんでもない女性を家に招き入れちゃったな。



「まぁ、そのヴァンパイアといっても母親なんだがな」



そう言ってちらりと一瞬だけ真っ赤な唇の隙間から鋭い八重歯が覗いた。
だがその発言…。
「…」
いてててて、とんでもないことを言っちゃったよこの女性。
ヴァンパイアが母親?
それはもうオレの予想をはるか斜め上に超えていった発言だ。
瞳が血のように赤く、八重歯が尖ってる。
それは伝承上のヴァンパイアの特徴そっくりだろう。
だが、そんな存在こんな科学あふれる現代にいないだろうに。
「…ってことはお姉さんもヴァンパイアなんだ」
はははと乾いた笑いでなんとかオレは反応を返すが彼女は真っ赤な瞳をオレに向けていやと否定の言葉を紡いだ。



「ヴァンパイアではなく、ダンピールだ。ダンピールのウルスラ・リモンチェッロ」






「母などいつも父を尻に敷いていたくせにいざという時はもじもじしてて何もしないからな。正直二十数年間同じ姿を見せつけられて私もその意地っ張りな性格を直してやりたいと思った次第だ」
「母親想いなんですね」
「それで私の、ジパングで言ういわゆる座右の銘は『思い立ったら即行動』だな。母のようにいつまでも傲慢でいじいじしてなどいられない」
「いいことだと思いますよ」
「母の娘であるがダンピールでもあるからな、正直母のような意地っ張りなヴァンパイアは見るにたえない」
「へぇ…。はい、どうぞ」
その言葉とともに先ほど用意していた夕食用のハンバーグをお皿に乗せて彼女の前に出した。
「おっと、食事まで出してもらってすまないな」
「いえいえ、そんな遠慮しないで」
なんて言いながらも正直この美女―ウルスラさんを前にオレは少なからず危機感を抱いていた。
この痛々しい女性、それも美女ときた上でダンピールと言った。
ダンピール。
それは確かヴァンパイアハンターだったっけ。
ヴァンパイアの映画でちらりと出てきたり、逆に主人公がダンピールの映画もあった。
ウルスラさんがそれだと自分を言うのだが…オレはそれを正直に信じるべきか。
だがもし彼女が本当にそうだとしても…なんというか思っているダンピールとは随分と違う。
いや、詳しく知っているわけでもないがウルスラさんは血みどろなものとは遠いものを感じた。
とりあえずその話はしないで食事としよう。
「それで…ここまで世話になったのにさらに厚かましいと思われるかもしれないが…」
「…泊めてくれとかですか?」
「そ、そうなんだ…行くあても路銀もなくなってしまってな…あ、だが私にできることならなんでもする!謝礼だって後で払わせてもらうから!」
「別にそんな気にしなくてもいいですよ」
からから笑いながらオレは自分の分のハンバーグを皿に乗せテーブルの上に置く。
こうして話しているとわかるのだが、自身をダンピールと言ったところを除けばウルスラさんはいい人(?)だ。
どこかの常識はずれと違ってちゃんと常識はあるし、礼節も弁えてる。
そして美女。
どこか人間離れした美貌を持つ女性とひとつ屋根のした、それも二人っきりというのは思春期な高校男児にはとても嬉しいもの。
それに都合がいいことにこの家にいるのはオレと彼女のみ。
誰も帰ってこないから一晩くらい問題ない。
「一晩くらいなら全然いいですよ」
「そうか!本当に済まない」
「はは、大丈夫ですって」
次いで今度はウルスラさんとオレの前にそれぞれ箸を置く。
ハンバーグを切り分けるためのナイフも忘れずに。
茶碗は…まだ残ってたオレの予備使うか。
そんなことを考えていたらウルスラさんはオレの方を見て何か悩みだした。
「…どうしたんですか?」
「いや、泊まらせてもらうのに敬語を使われるのはあれだなと思って」
「そんな、年上には敬うのは当然でしょう」
「だが苦労をかけているというのに敬われるのはいただけないだろう?」
「…」
痛いけどいい人なんだよなぁ。
「さん付けだっていらないぞ?」
「…いやでも」
「むしろ私が敬語を使わせてもらおうか」
「…仕方ないですね」
年上に敬語を使われるというのはなんかあれだ、なんか嫌だ。
いや、清楚なお姉さんが使うのならそれは嬉しいのだけど。
「ですね?」
「…仕方ないね、ウルスラ」
「ああ、それがいい」
そう言って微笑んだウルスラの顔は思わず見蕩れてしまうほど綺麗なもの。
普段黒髪の日本人ばかり目にしていたオレからすれば金髪美女の微笑みはとても魅力的。
しかもその笑みがオレに向けられているというのだ、自然と頬が熱くなる。
「…あ」
「ん?どうしたの?」
「いや…さらに厚かましいのだが…容赦して欲しい…」
「うん?するよ?」
「…フォークはないだろうか?」
「…ああ」
どうやらウルスラ、お箸を使えないらしい。
すぐさま彼女の手元へフォークを持ち出し、手渡して正面に座る。
五つある席のうち埋まっているのは二つのみ。
初めてあった美女との、それもダンピールと名乗る女性との食事。
それは奇妙奇天烈極まりないものだがどこか楽しくもあった。
「それじゃ、いただきます」
「ああ、いただきます」
両手を合わせ食事の礼をしてオレはハンバーグに箸をつけた。
ウルスラもナイフでハンバーグを切り分けて、そこでナイフの動きが一瞬止まる。
「…ちょっと聞いていいか?」
「ん?」
「このハンバーグは…何か教えてもらいたい」
「?今日のハンバーグはガーリック風味のやつだけど」
「ガーリック…にんにくか…」
その言葉を聞いてピンときた。
にんにくといえばヴァンパイアの苦手なもの。
そしてウルスラはヴァンパイアの母親がいるということで…。
「あれ、あ!そっか悪い。ヴァンパイアの血を継いでるから苦手なんだっけか。すぐ取り替えるから」
「い、いや。母ほど苦手というわけではない。平気だ。全然、平気だ」
「…無理してない?」
「無理など…してない」
「…」
ここで料理を下げて別のものを用意するといったところでウルスラがそれを申し受けないことなどこの数分のあいだにもうよくわかった。
礼儀正しいからこそ自分の言葉を曲げず、相手に迷惑をかけないようにする。
それはどこか誇りにも似ていてオレから言わせてみれば傲慢の欠片にも思えた。
ヴァンパイア母親がいるというのなら傲慢でプライドが高いところも似てしまうのだろう。
どこか、微笑ましい。



しかし本当の問題はウルスラが食事を終えたあとだった。



「…君は、体を鍛えているのか?」
「…何?いきなり藪から棒に」
「いや、体つきがいいからな。ちょっと口にしてみた」
「…まぁ鍛えてるけど」
「そうか、そうなのか…」
そう言いつつもどこかうっとり恍惚とした表情でオレを見つめてくるウルスラ。
数分前までは平然としていたというのにその顔には赤みが差してる。
まるでその姿はアルコールに酔ってしまったかのように見えなくもない。
まさか…やっぱりにんにくがまずかっただろうか。
いくらヴァンパイアハンターのダンピールといえど体質からして辛いだろうに、無理をして食べるのだから体が変になってもおかしくない。
ヴァンパイアほどではないにしろ、にんにくがもたらしたものは何かあるはずだ。
「…ウルスラ、大丈夫?」
「ん、ああ。全然平気だ。今なら母にも劣ることないぐらいに絶好調だ」
「…」
何が、なんて聞いてみたくなったがやめておこう。
なんだかまずい気がしてきたし。
「ふむ…剣でも振ってるのか?」
「振ってんのは拳。武術やってるから」
「武術、か…聞いたことはあるな…どれ、私が見てやろう」
「見てやろうって…」
「なに、私はヴァンパイアハンターだぞ?そこらの騎士顔負けの技量ぐらいもっているから安心しろ。安心して―



―服を脱げ」




全然大丈夫では無かった。




「いやいやいやいや!いきなり何言ってんの!?」
「どれほど筋肉がついているのか確認していやろうと思ってな」
「そんなのいいから!全然いいから!」
「先ほど言っただろう?私の座右の銘は『思い立ったら即行動』だと」
「何を思い立ってくれてるんだよ!」
「照れるな、私まで照れるだろう」
「照れるんなら恥じらえ!」
先程までとキャラが違う。
いや、根本的には同じなのだけどなんか違う!
いきなり脱げなんて発言、先ほどのウルスラなら絶対にしない。
これじゃあまるであの年中ニヤニヤしているどこかの師匠じゃないか!
「とにかくシャワーでも浴びてくれば!?そう、シャワー浴びれば少しは正気にもなるって!」
「シャワーを浴びて来いと?…随分と、大胆なことをいうのだな…♪」
頬を染めてそんなこと言われても…。
「じゃ、あれだ!もう寝たほうがいいって!」
「ベッドへ行こうと誘っているのか。…積極的だな…♪」
「違うわっ!」
「だが私は君のベッドの位置なんて知らないし、それ以上に―



―もう我慢できそうにないな」



「は?」
それは一瞬だった。
腕を包まれるように掴まれたかと思えば部屋の景色が一瞬途切れる。
次に目が捉えたのはこの部屋の天井で、同時に体は叩きつけられたように衝撃が伝わっていた。
「ぐぅ…っ!?」
ソファーに体を投げ飛ばされた。
女性の細腕で出せるような力ではなかったというのに成人男性に近い体重であるオレを軽々と投げた。
ぎしりと音を立てて体がソファーに沈む。
それだけでは止まらず続けざまにウルスラは押さえつけるように上から跨ってくる。
「っ!おい、こら、待てって!!」
「何を待つんだ?じゅるり」
「じゅるり!?」
ウルスラはオレに見せつけるように舌なめずりをした。
艶やかな唇をピンク色の舌がゆっくりと這うさまは捕食者のそれとなんらかわりない。
それを見て背筋が悪寒とも期待とも違う何かで震えた。
「筋肉が付きすぎず、バランスのとれた素晴らしい体つき。それに…いい首をしてるな。牙を突き刺しやすそうだ」
「っ!」
聞き間違いではない捕食者の一言。
ヴァンパイアの血を引いているからこその吸血。
ダンピールとはいえ母がヴァンパイア、血を食しないとは限らない。
ウルスラの言葉にオレは絶対に逃げないといけないことを確信した。
これ以上は身に危険が及ぶことだろう。
だがオレの体はウルスラが跨ってきたことにより自由が利かない。
両手は彼女の右手で二本とも押さえつけられていて引き抜こうにも異常なほど強い力で拘束されている。
今のオレはまな板上の鯉。
料理されるのか、そのまま食われるのか、殺生与奪の権を握っているのはウルスラ。
全ては彼女の手の中にある。
「ダ、ダンピールっていうのは血を吸うんだっけ…?」
「本当は吸いたいと思ったことは少ないが、母を見ていて何度か興味を持ったことはあるな。最も―



―ここまで欲しいと思ったことは君が初めてだ…っ♪」



ただ普通に接しているようで、ただどこにでもいるような人を助けていたつもりがウルスラの中の何かに引っかかってしまったようだ。
それは幸か、不幸なのかはわからない。
だが少なこともこの先にあるものはオレの予想を超えているもの。
今言えるのはそれだけだ。
「んっ」
「―っ!!」
いきなりウルスラの綺麗な顔が近づいたかと思えば次の瞬間首筋には痛みのようにはっきりとした、だがそれとは全く違う感覚が流れ込んできた。
それが牙を突き刺されたことだと気づくのには彼女が顔を離して唇の端についた赤い液体を舐めとった時だった。
「ん…あぁ♪」
オレの首筋から吸い取った命の素が女性に飲み込まれていく。
それは倒錯的であり、なぜか感動的でもある行為だった。
血を飲み込んだウルスラはまるで上質なワインを味わったかのようにうっとりとしていて頬に手を当てていた。
まだ口に残る血をしっかりと味わい尽くさんばかりに。
「あぁ…素晴らしい…♪」
そう呟いた。
しかし呟いたままで終わらない。
そしてそれはオレの体の方もだった。
先ほどの未曾有の感覚は体のとある部分に大きな変化をもたらしていた。
それは彼女が跨っている部分。ちょうどウルスラの真下になるところ。
男として大切な部分がなぜか大きくなっていた。
その感覚を跨ったウルスラが気づかないはずがない。
「ふむ?この硬いのは…なんだろうな♪」
顔に張り付いた笑みは優しい微笑みでも捕食者の余裕ある笑みでもない、いやらしい笑み。
それだけでは止まらずウルスラはゆっくりと腰を前後に動かした。
互の男と女としての大事なものが擦れ合うように。
実際服を越しているはずなのにその感覚はやけに生々しく、嫌でも体の奥へと伝わってくる。
「ん…ぁくっ」
「ふぅ…んん♪」
甘美な快楽の漏れ出す声。
オレはなんとか耐えようとする苦悶に近い声を、ウルスラは快楽に蕩けるような甘い声を。
普段はオレを含めた五人家族が居座る場で二人きり、絶対にしないようなことを美女とするというのはどこか背徳的だった。
「ん♪…硬いな、まるで剣のようだ…」
そう言ったウルスラはズボン越しのオレのものを一撫でする。
柔らかな指先がつつっと伝うその感覚は未経験者にとってはあまりにも大きな快楽となって伝わってくる。
それに歯を食いしばって耐えるのだが表情に出ていたのかウルスラは笑みを浮かべた。
「ああ…いい顔だな♪もっと見たくなるような、もっとしてあげたくなる顔だ♪」
「本当にまずいって…っ!」
しかしオレの言葉なんてなんのその、彼女は手早く上とズボンをするすると外しものを解放させた。
「っ!!」
「ほぅ…これが、か♪」
美女が男性の象徴を眺めてうっとりするというのは奇妙な感覚である、だが今この状況ではそれ以上に恥ずかしさがこみ上げてくる。
「ああ、君だけ裸というのは申し訳ないな。私もすぐに脱ごう」
もとから露出の多かったウルスラはすぐさま服を脱ぎ、それだけでなく脱がしたオレの服とまとめて離れたところへ投げた。
さらされる真珠のように白い肌。
豊かに実った大きな胸に、先端にある可愛らしい桜色の突起。
すらりとした腹部も、ほどよくついた柔らかそうな臀部も、スラリとした長い手足も全てがオレの目にさらされる。
これで邪魔なものは何一つない。
互いに一糸まとわぬ姿となった。
「あぁ、やはりな。素晴らしい体つきだ…♪」
片手はオレの体に添えられ柔らかな手のひらが表面を撫でていく。
ぞくぞくとする感触に身を捩るものの両手は未だにウルスラが押さえ込んだままだ。
互いに裸。
そして男と女。
ここまでくればさすがのオレだって気づくというもの。
「おい!ウルスラ!これはまずいだろっ!!」
「うん?何がまずいというんだ?」
「何がって…平然と言いやがって…」
おかしい、と違和感を抱いた。
先ほどの彼女ならここまでしただろうか?
うちへ招き入れたときのウルスラならここまで大胆にしただろうか?
今のウルスラはどこかおかしい。
大胆というか、積極的というか。
やはりにんにくがきていたのだろうか。
いや、それ以上になぜだろう。



血を吸って好色になったように見えるのは気のせいだろうか…?



「それなら謝礼の方だと思って受け取ってくれ」
「…オレはそういうは好きじゃないんだよ」
「そうか…なら一宿一飯の恩として」
「体で返すっていうのはいただけない」
「頑固だな。まるで私の母のようだ…そういうのを見ているとどうしてか―



―調教してやりたくなる…♪」



妖しく輝く真っ赤な瞳に、跨ったまま言われた言葉に思わず背筋が震えた。
どうやらオレの態度が気に食わなかったのか、ウルスラは優しくも恐ろしい笑みを浮かべて顔を近づけてきた。



近づけて、キスをしてきた。



「んっ!?」
「ん、むぅ♪」
押し付けられたしっとり柔らかな感触。
同時に香るウルスラの甘い花のような香りと、オレの血の風味。
なんとも不思議な味のするファーストキスだった。
しかしキスはそれだけでは終わらない。
「ん、む、ちゅっ♪りゅる…んん♪」
いきなり湿った唇とは違う柔らかなものが舐めてくる。
舐めてくるだけでは飽き足らず、オレの口内へと侵入までしてくる。
優しくも激しく。
ぎこちなくも強く。
彼女は思うがままに嬲り、啜り、舐って吸う。
先ほどの吸血とは違う、唇を吸う行為。
興奮と初めての行為に期待の混じった舌がねっとりと舐め絡まれる。
息苦しさを感じるがそれ以上に体の奥がじわじわと熱を沸き上がらせてきた。
頃合だろうと思ったのかウルスラは名残惜しげに唇を離す。
それでも表情はどこか満たされたように笑みを浮かべていた。
「ふぅ…ん♪いいものだな…これは」
そう言いながらもウルスラは腰を動かした。
にちゃりと音を立てて湿り気を感じるのは気のせいではない。
先程から押し付けられていたそこは既にしとどに濡れており、前戯の必要性は皆無。
それを確認したダンピールいやらしく笑みをオレに見せつけ腰を浮かせた。
つつっと、先程までくっついていた部分から糸が引くその光景はなんともいやらしい。
ソファーの上、オレの上に跨った彼女はすぐさま居たく張り詰めた怒張を手に取り角度を調節する。
「っ!!ウルスラ!おい、待てって…っ!」
抵抗は微々たるもの。
そんなもので彼女を止められるとは思っていないがこのまま受け入れるというのもいいわけがない。
だがやはりウルスラはオレの抵抗なんて笑って見ていた。
「待たない、いや…もう、待てないんだ…♪」
そうして彼女は腰を沈めた。
にちゃっと粘質な液体の音とともに先端がウルスラの中へと埋っていく。
「んん…っ♪」
蜜でびしょびしょの肉癖に挟まれるのは気持ちが良かった。
だがそれをただ一方的に甘受し続けるのはなんだか心苦しいものがある。
動けない以上仕方ないのだが。
…って、何受け入れているんだ、オレは。
そんなことを考えていたら予想外なものを感じる。



―バツンっという抵抗を突き破った感覚。



「っ!?」
「くぁああああっ!!」
経験はない、だがそれが彼女の純潔の証だというのはわかった。
その証拠に純潔を突き破られた感覚にウルスラは顔を歪めている。
先ほどの恍惚とした表情ではない、苦悶の混じったものだ。
「ウルスラ…まさか」
「ああ、そうだ…初めてだ…くぅ、思ったほど痛くは…ない、か…?」
そんなことを口にしても辛そうなことに変わりない。
辛そうな顔をする女性を前にオレも心配せざるおえなかった。
「大丈夫かよ、ウルスラ…」
「んん、…心配、してくれるのか…」
「そりゃ…」
いくら逆レイプまがいなことをしてきたとしても女性として扱うべきだろう。
ここまでされてはもう怒る気にはなれないし、こんな状態でできるのはせいぜい声をかけるだけ。
「…ふふ、やはり君は…優しいんだな」
その言葉とともにまるでお礼と言わんばかりに彼女はキスしてきた。
唇に触れるだけの、一瞬だけのむず痒いキス。
「大丈夫、これくらいなら、もう慣れた…ん」
ウルスラはそのまま、腰をゆっくりと動かす。
ただでさえ初めてでキツイ彼女の膣内はゆっくりと動くことで密着の度合いが増していく。
膣の中のひだひだが男根に絡みつき、きゅうと締まっては筆舌し難い快楽に翻弄される。
「ん、んん…♪」
痛みがないと言い切れないウルスラの表情は見ていて心痛いものがあるがそれでも徐々に表情が和らぎ、声が甘く蕩けてくる。
「ど、どうだ…?気持ち、いいか…?」
「あ、ああ…すごくいい…」
「そうか…♪」
オレの言葉にウルスラは気恥かしそうだが嬉しそうに笑みを浮かべる。
その笑みはとても優しくて、思わず胸が高鳴ってしまう。
こんな行為をしているのとは別のもののせいで。
「それじゃあ…動くぞ…?」
そうは言っても痛みがまだ残っているのか動きはぎこちない。
ゆっくり、キツイ膣を慣らしていくように腰を上下させる。
その際に豊かな胸が揺れ、金色の髪が部屋の明かりで輝くさまは淫らであり、同時に見蕩れるほど美しいものがる。
「ん、ん…♪ふぅ…ぁっ♪」
徐々に上下する腰の速度が上がってきた。
そして上がるたびに送り込まれる快楽の量もまた増加していく。
キツイ締めつけが何度も上下する感触は初めてのオレにはあまりにも耐え難い快楽だった。
「あ…ぁあっ♪ん、くぅ…んん♪」
蕩けた膣内をカリが引っ掻き回すのがよほど気持ちいいのかウルスラは破瓜を迎えたばかりの大切な部分を容赦なく抉る動きで翻弄してくる。
それとともに声もどんどん艶がかかっていき、痛みに耐える辛そうな声が消えていった。
膣内全体が男根の熱い息遣いで埋め尽くされている。
うねりにうねった肉の道は奥まで押し入った剛直の感触を確かめるように締め上げてきた。
まるで柔軟動物のように蠢いては絡みつき、確実にオレを高みへと押し上げていく。
「んくっあっあっ♪い、いいぞっ♪ん、んんぅ♪もっと、もっと私の中を、かき混ぜて…っ♪」
甘く蕩けた声が降り注ぎ、その言葉で興奮したのかオレの体は自然と腰を動かし始める。
最初の方は拒んでいたというのに体は正直だなんて、よくいったものだ。
ウルスラは腰を大きくグラインドさせ抉るように押し付けてくる。
にちゃにちゃといやらしい音が部屋に響き、結合部から溢れ出した液はソファーへと滴り落ちていく。
誰にも見られてることのない空間でウルスラは乱れに乱れ、腰を強く動かす。
気づけば彼女の腕はオレの拘束をやめ、胸板について腰を動かすための支えとなっていた。
その手をどかすことは容易なことだっただろう。
今の状態が普段通りだったのならば。
しかし与えらえる初めての快楽と引き換えと言わんばかりに力が抜けていく。
力を失い意識を失うときに感じるあの恐怖ではない、優しくも暖かな安心感を伴って。
抵抗ができないというのではない、体が抵抗するのを拒否している。
くねる腰の動き、キツく搾り取らんとしてくる膣壁、抗う摩擦を消して動きをなめらかに、より快感を増幅させる愛液。
そして、ずんと一気に腰が沈められた時に先端に感じる一番奥の感触。
子宮口の感触はまるでゴムのような硬さがあったが唇のように吸い付く様は貪欲になったウルスラ自身を表しているかのようだった。
初体験者がそんな感覚に耐えきれるはずがない。
二度、三度、四度その感触に翻弄されたとき限界は訪れた。
「ウルスラ…っ!もう…」
媚肉全体がうねり、体の内側がぞくぞくと波立つような感覚がある。
それに導かれるままに絶頂へと押し上げられるのだが、それはウルスラ自身にも言える事だった。
「んぅ♪うっ♪あぁあっ♪ああ、いい、ぞっ♪」
ウルスラはそう言ってさらに腰を激しく上下させる。
しかし、抜こうとする素振りは欠片も見せない。
その動きに、その姿にオレはすぐさま焦りを見せて体の動きを止めた。
「ウルスラっ!!」
止めたところで間に合わない。
押しのけたいが、出来やしない。
それでもかろうじて呼んだ彼女の名前。
それに反応したのかウルスラは止めと言わんばかりに腰を叩きつけ、ペニスを全て飲み込んだ。
当然逃がさないと言わんばかりに子宮口が先端に吸い付いてくる。
瞬間、下腹部でずっとマグマのように滾っていた欲望がウルスラの中で弾けた。


「くぅ、あぁあっ!!」


「あぁっ♪く、ん、んぁああああああああああああああぁぁっ♪」


まるで沸騰したミルクのように熱い体液が何にもせき止められることなくウルスラの子宮の中へとぶちまけられる。
それを止める術はないし、止めるのを許さないと言わんばかりに彼女の膣壁は絞り出すように蠢いた。
彼女の体が跳ね上がり、大きな胸が激しく揺れる。
ともに飛び散ったなめらかな肌に滲んでいた汗の粒が部屋の光に反射してまるで宝石のようにみえた。
「あぁ…あっ♪はぁ…♪」
オレと同じように絶頂に押し上げられていたウルスラは余韻に体を震わせながらも顔には微笑みを浮かべた。
満たされて自然となる、優しい笑みを。
「ん、ふぅ…♪とても、気持ちよかったぞ…♪」
そう言ってダンピールは照れながら、オレの唇に自分の唇を押し付けた。



















「意地っ張りな母を見て私は何度もじれったさを感じていた。なぜ素直になれないのか、どうしてただの一言も伝えることができないのか、見ているだけでこちらが歯がゆくなるような姿だった」
ウルスラはソファーに座るオレの隣で同じように座ってそう言った。
体には先ほどの余韻を残しながらも最低限隠すためにマントを羽織っているのだが女性の大切な部分から白濁液を垂れ流すその姿がなんとも痴女めいているというのは…言わないでおこう。
膝を抱き、どこか遠くを見つめながらも彼女は言葉を紡ぐ。
「だが…本当はそんな姿に憧れていたのかもしれない。なんだかんだで父のことが好きな母と、傲慢だがそんな母を愛した父、その二人の姿が私は何よりも好きで、そうなりたかったんだ」
「…」
「母とは違う、普通の恋をして、人間らしく恋人を作って…そうして、母たちのように仲の良い夫婦になりたいと思ってたんだな、私は…」
「…そんなこと話して許してもらえると思った?」
「…すまない」
「…………はぁ」
オレはウルスラの隣で大きくため息をついた。
先程まで未経験だった男が何の因果か処女に逆レイプされて童貞喪失なんて笑える話か。
今の今まで必死に理性を保って守り抜いた貞操をたった一夜で無理矢理に失ったというのは大きな傷となって心に刻まれる。
その相手が同じく初めてで美女だったことは嬉しいことなんだけど。
「…はぁ」
もう一度ため息をついたらウルスラがこちらに向かって頭を下げた。
金色の長い髪が柔らかく揺れる。
「本当に済まない」
「…もういいって」
流石にここまでしてしまった以上取り返しはつかない。
それにこんな美女に頭を下げさせて喜ぶような気をもっているわけでもない。
オレはウルスラが頭を下げるのをやめさせて正面に向き直る。
その瞬間に彼女の口から飛び出した言葉にオレは固まった。



「責任は取らせてもらう。結婚しよう!」



「ぶっ!!」
行為に及ぶ前の彼女だったなら絶対に言わなかったであろう言葉を平然と、頬をわずかに朱に染めているが恥じらうことなく言い切った。
人間の常識ならまず考えられない言葉。
だが今のウルスラは先ほどよりもどこか常識から傾いていた。
「なっ!何言ってんだよ!いきなり…。大体そういうことはもっと長く付き合ってから言うもんだろ…」
「だが既にここまでしてしまったし…私に責があるのだし…それに先程もいったが『思い立ったら即行動』が私の座右の銘だからな」
そんなこと言われてもそこで結婚に至る考えがわからない。
いったい彼女に何があったのか…なんてものは先ほど身をもって体験したが。
先ほどまでとかなり変わったと実感している。
「なら…私と付き合って欲しい…」
「…っ」
頬を染めて先ほどの発言とは違ってしおらしく恥じらう様子を見せるウルスラ。
元々人間には不釣合いな美貌が相まって非常に魅力的に映る。
それは今まで恋愛経験の無かった高校男児には抗うには難しいもの。
まっすぐ見つめる赤い瞳。
朱に染まった頬。
しっとり湿った唇。
そして、再び紡がれる言葉。



「私と、付き合ってくれないか?」



そんな美女を前に断れるはずがない。
ここまで正面から言ってくれる女性になびかないわけがない。
乙女の告白を前にオレは再びため息をついた。
ついて、小さく仕方ないと呟いて彼女の手を取る。



「こちらこそ」





精一杯高校生以上にカッコつけて。
オレは人生初めてダンピールと名乗った彼女の告白を受け止めた。






― HAPPY END ―








「で、いったいこれは何?帰ってきてみればどうして変な女がいるわけ」
「いや…その、実は言いにくいんだけど…」
「…この女性は?」
「オレの双子の姉」
「ああ、そうなのか…道理でどこか面影があるわけだ」
「…この女だれ?」
「ウルスラ。…昨日なんやかんやで倒れてたところを助けた」
「へぇ…お父さんたちがいないところで女連れ込むなんてやるようになったね?え?」
「…」
「……彼女、怒ってないか?」
「怒る?あたしが?なに言ってんだか。あーあ、昨日は疲れたなー」
「…」
「疲れすぎて甘いものたべたいなー。ケーキ食べたいなー、プリン食べたいなー、ティラミス食べたいなー」
「…」
「作れ」
「はい、只今…」
「…………まるで私の父と母みたいだな…」
12/06/13 23:12更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということでダンピールさんの話を書いてみました!
メロウ編もあるというのにちょっとすっぽかしてこちらを書いてみました
それと実はこれ、初めての読み切り作品なんでした

ダンピールさんはヴァンパイアの血を引いているのだから本家ほどではないにしろにんにくには弱いのかなーなんて思ってちょっと酔うぐらいになってみましたw
人間らしく真面目な彼女が後半では魔物らしい考えに…なんて感じにかけていればいいな、なんて思ってます



それではメロウ編でお会いしましょう!

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