「ヒャッハー♥街についちゃったぁ♥」
「私の夫になってくれる人〜♥楽しみぃ♥」
「片っ端から男の子を捕らえろーーー!」
警戒塔の鐘が最初に鳴り響いてからおよそ30分後のことだった。
10万を超える魔物娘の大群がついにこの街の西側に到着してしまった。
歓喜と慾望に沸き立ちはしゃぐ魔物娘たちは、まるで張りつめた風船が大きな音をたててはじけ飛んでいくかのような凄まじい勢いで街の中に入っていった。
「おっとこーのこ♥」
「ジュルリッ‼、、、楽しみぃ♥」
「いやぁん♥どんどん捕まえちゃうんだからぁ♥」
ヒュヒュンッ‼ヒュヒュンッ‼
「え!?ええーーー!?!?な!なにこれぇ!?」
「いやぁぁぁん♥は、恥ずかしい!」
「でもぉ、、、癖になっちゃう♥」
そんな魔物娘たちが街に入った瞬間だった。
ものすごい速さで魔物娘の大群の先頭を行っていた3人のハーピィたちが、突如として亀甲縛りになり地面に寝かされていたのだ。
「なに!?」
「これは、、、亀甲縛り!?」
「何が起こったの!?」
ザワザワザワ
あまりの事態に魔物娘たちが困惑していると、、、
「ふぅー、あー!なんとか間に合ったか、、、」
それは魔物娘が街に到着してからほんの数分が過ぎた頃だった。
何人かの魔物娘たちの侵入を許してしまいながらも、この街最強の兵士であるダルニアンがついに到着した。
「なにあの人!?」
「、、、たくましい殿方♥」
「へぇあの大男、一瞬で魔物娘を亀甲縛りに縛り上げてしてしまったのね、、、」
「私も縛って欲しいかも♥」
ザワザワザワザワ
予想だにしない状況と突如現れた男に、10万を越える魔物娘たちはパニックになってざわついた。
「おい!そこを動くんじゃねぇぞ小娘どもっ!もしもロープが無くなってお前らを亀甲縛りに出来なくなっちまったら、、、この拳でっ!ゴキンッ‼ゴキンッ‼お前らを止めるしかなくなるんだから!
痛い目を見たくなければそこを動くな!」
ギロリッ‼
「ヒィ!?」
ビクッ!
まるで鬼や龍のような凄まじい形相でダルニアンは魔物娘の大群を睨み付けた。
魔物娘たちがその恐ろしさに思わずたじろいた。
(すごい!10万を越える魔物娘の大群を睨み付けただけで怯ませた!年中発情期の魔物娘たちがダルニアン教官の迫力に恐れおののいてる、、、)
近くにいた人間のコロンですらもその迫力に安心しながらも恐怖していた。
火の付いたダイナマイトと振りかざして牽制しているいるような感覚だった。安心感と不安感が混ざりあっていた。
そして魔物娘たちは動くことが出来なかった。
まるでダルニアンが睨みを聞かせている瞬間、時間が止まっているような感覚だった。
(まぁ、こんな威嚇で本当に魔物娘たちが止まる訳ねぇよな。もって数分ってところか、、、せめて一人でも多くこの街の住人避難させてくれよ、隊長さん。)
ダルニアンがそんなことを考えながら、魔物娘を睨み付けて止めていた。
そしてそれから数十秒ほどたった瞬間だった。
「、、、、、!!」
ビュンッ!!
「んぐっ!!」
ドガァンッ!!
ダルニアンの横方から突如何か小さくて茶色いものが凄まじい速さで跳んできた。
ダルニアンはそれを咄嗟に受け止めるも、その勢いに10mほどふっとばされてしまう。
「うわっ!?な、なんだ!?」
「、、、、、」
コロンがあたふたしていると、ダルニアンに飛んできた茶色い物体がむくりと起き上った。
「ふんっ!そこの大男、おぬしがあの見事な亀甲縛りをした犯人かのぅ?ほほぅ、、、それだけでかい図体をしておきながら、ずいぶんと芸達者な男よのぅ。」
そこには、、、まるで子供のようにちっちゃい魔物娘がいた。
「な、なんだ?子供の魔物娘!?」
頭に大きな2本の角を持ち、茶色い艶のある綺麗な髪、どくろの髪飾りで纏めたツインテール、幼いのにどこか大人びた澄まし顔、幼い少女の未発達で華奢な身体、水着のように恥部や胸の先端のみを隠した服、もふもふの毛の生えた獣の手足、小さな身体に似合わない巨大な鎌
なにより他の魔物娘からは感じることのないような、ただ者ではない凄まじいオーラ
そんな魔物娘がそこにはいた。
「きゃーっ!ヴァル様!ついにヴァル様が来てくださったわ!」
「今日も麗しいです!ヴァル様!」
「やーい!大男!あんたなんかヴァル様の魅力にメロメロになってしまうがいいわ!」
ヴァルと呼ばれた小さな魔物娘の登場に、他の魔物娘たちは沸き立ち黄色い歓声を送った。
それはまるで魔物娘たちが待ちわびていたヒーローが到着したかのようであった。
「ヴァル?、、、おいガキ!お前がこの魔物娘どものリーダーか?」
ダルニアンはヴァルと呼ばれた魔物娘を睨み付けて、まばたきひとつすることなく注視しながら聞いた。
「ふんっ!
そうでありそうでもなし、と言ったところじゃな。我は3人いるリーダーのうちの1人じゃ。
サバト教団の教祖であり種族はバフォメット、名をヴァル・ヴァージンと言う。そこのでかい男よ、よーく覚えておくのじゃぞ。」
ヴァルと名乗った魔物娘は、手にもった大釜を立て幼女のぺったんこの胸を精一杯張って、えらく自慢気に答えた。
「こんなちっちゃい娘が10万を越える魔物娘の大群のリーダーだって言うのか、、、」
「見た目に惑わされんな。このガキ、後ろに控えてる魔物娘10万人よりも厄介な化け物だぞ。」
コロンの無警戒な呟きにダルニアンは警告を入れた。
「え!?そ、そんなにですか!?いくら魔物娘と言えども、こんなにちっちゃい娘が、、、
ちっちゃくて、可憐で、美しくて、、、か、可愛い!な、なんて可愛いんだ!こんな可愛い女の子!今まで見たことがない!
ああ、産まれてきてくれてありがとう!愛らしく美しく可憐なるヴァル様!」
「気をしっかり持たねぇか!!!」
「はっ!、、、僕は何を!、、、」
「魅了魔法(チャーム)だろうよ。そこのヴァルってやつがさっきからずっと甘ったるい綿菓子みてぇな魔力を垂れ流してやがる。
気張ってないとすぐにやられるぞ。」
一筋の汗を流しながら、ダルニアンは答えた。
「ほほぅ。そこまで戦闘能力特化と言うわけでもないんじゃな。冷静な判断能力と洞察力を持っておるじゃないかのぅ。くくくっ!」
ペロッ‼
ヴァルはそんなダルニアンを見て、舌舐めずりをひとつして笑った。
「あの大男、、、ヴァル様の魅了魔法を受けてなんともないの!?」
「信じられない!そんな男いるはずないわ!」
「ちょっと素敵かも♥」
後ろの魔物娘の大群からは、驚愕の声がザワザワと聞こえてきた。
そんな声を背中で受けながら、ヴァルは少々意地の悪そうなどこか嬉しそうな、そんな笑顔を浮かべて手に持った大鎌を構えた。
「くくっ!我の魅了魔法が通じんとはな、そんな男は何年ぶりかのぅ!
は!?、、、もしや!!!でかい男!そなたは、、、ソッチ系の人間なのか!?」
「ええ♥ソッチ系なんですか♥」
「言われてみれば、確かに、、、」
「じゃあそっちの若い兵士さんは恋人!?」
「な、なんだって!?教官、、、俺をそんな目で!?」
「ぶち殺すぞ!!テメェら!!!!」
ダルニアンは怒号を響かせた。
「ふふっ!まぁ良いわ!どんな男でも!たとえソッチの気があっても!皆等しくロリコンのお兄ちゃんに変えてしまう魔物娘、それが我の通り名よ!さぁでかい男よ!覚悟して、、、」
ビュンッ!
「!!」
ヴァルが消えた。
そしてダルニアンの目の前に現れた。
「我が大鎌の餌食になるがよい!」
ザッ!クゥゥゥッ!
「なに!?うぐっ!!!、、、、、」
ガシッ‼
一瞬の事だった。
ヴァルが目に見えない程の速さで動いたと思ったその瞬間だった。
ヴァルの構えていた巨大な鎌が、グッサリとダルニアンのわき腹に突き刺さっていた。
「だ、ダルニアン教官!あぁ!教官の脇腹に大鎌がグッサリと突き刺さってる!
、、、いや!違う!あれは!」
「捕まえたぞ!チビ!」
ガシッ‼
「なにっ!?」
わき腹に突き刺さった大鎌をダルニアンは離さないように握った。そしてそれを伝ってヴァルの小さな腕を片腕で握って抑え込んだ。
そしてもう片方の腕で腰に引っ掛けていたロープを用意した。
「そうか!ダルニアン教官はあのバフォメットを捕まえる為に大鎌をわざと受けたんだ!
そうすれば、あのバフォメットのヴァルを、、、教官の亀甲縛りで縛り上げることができる!」
コロンの言葉通り、ダルニアンがヴァルを亀甲縛りにしようとした。
、、、その時だった。
「!!っぐ!?」
バッ!
一瞬だがダルニアンの手元が狂ってしまった。
その一瞬の隙をついてヴァルはロープからさっと逃げだし、再び距離を取った。
シュルシュル‼
「おお!危ないところだったのぅ、、、危うく我も亀甲縛りに縛り上げられてしまうところじゃったぞ!
くくっ!お前さんの手元が狂ってくれたようで助かったぞぃ!」
「ちっ!」
「ダルニアン教官の手元が狂っただって!?そうか!教官の脇腹に大鎌がつき刺さったその痛みで手元を狂わせてしまったのか!!
、、、あれ?」
ダルニアンは顔を赤くして、息をあらげ、なにか苦しそうな表情を浮かべていた。
しかし、大鎌の刃が深々と刺さっていたはずの脇腹からは血が一滴も流れ落ちていなかった。
「教官の脇腹から血が一滴も流れ落ちてこない?どう言うことなんだ?刺さってなかったのか?でもダルニアン教官は苦しそうにしてる、、、
いったい何が起こってるんだ!?」
「、、、その大鎌、魔界銀製か?厄介だな、、、」
「ふん!ただの魔界銀ではないぞ。
純度の高い最高クラスの魔界銀に我の特別な魔力を練り込んだ究極の特製鎌じゃ。まるで蕩けてしまいそうなほど気持ちいいじゃろ♥
しかしのぅ、我が自慢の大鎌をあれだけ深々と喰らっておいて未だに正気を保っていられるとは、、、普通の男ならばかすっただけで色欲に狂ってしまう代物じゃぞ?
やはりそなたは恐ろしい男じゃな!」
鋭く黒光りする大鎌を見せつけて、ヴァルは言った。
そんなヴァルの笑顔は、今までのどんな顔よりもどこか楽しそうな嬉しそうな顔をしていた。
「これは、、、数年ぶりに我も本気を出さなければならんようじゃのぅ!くくくっ!」
ニヤリッ‼
ビュンッ!
一陣の風が吹き荒れた。
その瞬間、ヴァルは消えた。
「!!バフォメットが消えた!いやっ、、、違う!物凄い速さで、目に求まらないほどの凄まじい速さで飛び回っているんだ!」
「んぐぐっ!!」
ザシュ!ザシュ!ザシュ!
「ダルニアン教官!」
「ほれほれほれほれぇ!!!どこまで耐えられるか見物じゃな!!!主が理性を失って色欲に狂ってしまうまで我は止まらんぞぉ!!!ほれほれほれほれぇ!!!」
ザシュ!ザシュ!ザシュ!
「、、、、、ちぃ!」
ダルニアンの周囲のみを、暴風がビュンビュンと吹き荒れた。そしてダルニアンの岩石のような肌に、赤い傷痕をどんどんも作っていった。
その傷口には血の一滴も垂れることはなく、傷は一瞬で消えていくものだった。しかし消えることのない激しく暴力的な心地のよさと、切傷よりも痛いほどの欲情の興奮をダルニアンにじわしわと刻み込んでいった。
(落ち着け、、、相手の武器は大鎌だ、あいつのあんな小さな身体では決して使いやすい武器なはずは無い。どんなに熟練した扱いをしていても、必ずどこかにスキは出来る。
それにどんなに速い速度で動き回っていても切りつける時には必ず俺の近くに寄ってこなければならない、、、
ならば!チャンスはその時だ!)
しかしこの街最強の男、ダルニアンはまだ諦めていなかった。
(風の流れを身体で感じ取って、目線は全方向を注視して、そして相手の行動の一手先を読みきるんだ、、、)
ザシュ!
「そこだ!!!」
ガシッ‼
「なんじゃとっ!?」
目にも止まらないほどの超高速で動くヴァルの動きを、完全に読み切ったダルニアンは、自分が大鎌で斬りつけられた瞬間にその大鎌を掴むことに成功した。
大鎌を掴まれたことに驚いたヴァルは、その後のことに反応することが出来なかった。そのままダルニアンはヴァルの小さな手首の部分を握った。
そしてそのまま
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
ドガァンッ!!
「にぎゃっ!」
ダルニアンはヴァルの手首を握ったまま、思い切り地面に向かって振りかぶって、ヴァルを石畳になっている地面に叩きつけた。
石畳に思いきり叩きつけられたヴァルは、そのまま地面から1メートルほど跳ね返ってしまう。
「だぁぁぁああああああああ!!!!!」
ゲシィィィッ!!
「むぎゃぁぁぁぁ!!!」
ドッガァラァァァン‼‼‼
さらにダルニアンは、地面に叩きつけられて跳ね返ったヴァルに向かって、その丸太のように太い足で力いっぱいの蹴りをぶち込んだ!
蹴りをぶち込まれたヴァルはそのままふっとび、石で造られた街の建物をまるでボウリングのようにドカンドカンと薙ぎ倒していった。
「ヴァルさまぁぁぁ!!!」
「うそ、、、ヴァル様が!?」
「やった!リーダーの一人をぶっ飛ばした!流石ダルニアン教官だ!」
「、、、はぁ、はぁ、、、くっ」
ドサッ‼
瓦礫の山が一瞬で作られた。
魔物娘たちは目の前の出来事にただただ驚愕し、立ちすくんでいた。
コロンは尊敬する男の勝利に声を上げて喜んだ。
ダルニアンは片足をついて深呼吸をし、息を整えた。ヴァルによって刻み込まれた快楽からくる心臓の高鳴りと股間の衝動をなんとか落ち着かせた。
バギャァァァン‼‼
「!!ちっ!」
「えぇ!!」
積みあがった家5軒分ほどある大量の瓦礫を吹っ飛ばして、その中からヴァルがゆっくりと歩いてきた。蹴りを入れて吹っ飛ばした張本人であるダルニアンのほうに向かって歩き出した。
「ヴァル様!」
「良かったぁ!生きてたぁ!」
魔物娘たちの歓声を受けながら、ヴァルは無表情のままゆっくりとゆっくりと歩き続けた。
2mを超える大男にフルスイングで石畳の地面に叩きつけられ、熊をも一撃で薙ぎ倒す全力の蹴りをもろに受けて、石造りの建物をいくつも薙ぎ倒して大量の瓦礫の下敷きになり、その中から出てきたヴァルの幼く美しい珠のような柔肌には、、、
一切の傷一つついてはいなかった。
「くっ!あのバフォメット、まだ生きてんのかよ!いや!それどころか、、、傷ひとつなしかよ!」
「、、、、、ちっ!」
身構えるダルニアンとビビりまくるコロンの数メートル手前で立ち止まったヴァルは、ゆっくりとその綺麗な顔を上げて、二人を一睨みした。
そして、、、
「決めたぞ!」
突然大声を上げた。
そしてダルニアンを指さして、、、
「そこの大男!ダルニアンと言ったな!」
「ああ!?」
「ふんっ!ダルニアン!そなたを!我がヴァル・ヴァージンの!お兄さまに宣言する!!」
「、、、、、ああっ!?」