わかめちゃん前編
俺はとある街に駐屯する兵士だった。
それなりに大きな街だが、特に名産品もない。世界的に有名な人もいない。
そんな平凡で地味だが、だからこそどこにでもあるような静かで平和な街だった。
そんな平和な街の兵士、仕事は忙しくない。むしろ暇だ。実践経験などほとんどなく、見張りと訓練に明け暮れる日々だった。
それゆえに、一部の市民からは「税金の無駄使い」「穀潰しの役立たず」等々の陰口を叩かれてはいた。
が、この俺「エヴァン」はそれで良いと思っていた。
そのような悪口が向けられるのはこの街が平和そのものだから、俺たちが動かなければならないような事件が起きないからだ。
そんな事件は無い方が良いに決まっている。
この街に危機が迫った時に、本当にヤバい事件が起こってしまった時に俺たちが動けば良い。
俺はそう思っていた。
そして数日前
そんなヤバい事件が起きた、この街に危機が迫って来ていた。
魔物娘の大群がこの街に襲ってきたのだ。
俺は思った。
「今こそ我々兵士が立ち上がるとき!この街の守人がこの街を守るときなのだ!」
しかし、俺の目の前に広がった光景に絶望した。
次々と戦いもせずに降伏していく兵士の仲間たち。
街を守るという兵士本来の使命を全く遂行する気の無い愚の骨頂と言うべき愚かな行為、そんなことを仲間の兵士がしているのだ。
「なぜだ、、、なぜだ!我々は兵士だ!この街を守るのが使命だ!!!
リンクリート!!!フアド!!!イーゴ!!!なぜだ!なぜ戦わない!!!」
俺の問いに対して仲間たちからは
「む、無理だ、、、魔物娘のあんな大群に、、、勝てるわけ無い、、、」
「そうそう!ムリムリ!諦め!とっとと降伏するぞ!」
「あの娘かわいい!犯されたい!セックスしたい!」
その戦わない意志を宣言されたとき、気がついてしまった。
俺たちは本当に役立たずだった事を
俺たちは本当に穀潰しだった事を
俺たちは本当に税金の無駄だった事を
それを理解してしまったとき
俺の頬から涙が零れ落ち
俺の手から剣が零れ落ちた
それからの事はよく覚えていない。
なんだか早々に魔物娘に捕まった気がする。
何だか凄く気持ち良かった気がする。
何度も何度も射精した気がする。
そんな時間がしばらく続いた気がする。
「、、、、、、、、!?」
どこだ?ここ?
なんだかよくわからない所で目が覚めた。
回りを見渡して見ると、、、何もない、本当に何もない部屋で寝ていたようだ。
窓から外を覗いてみると海が見える。カモメもくわーくわーと元気に鳴いている。
その窓から遠くを見てみると海の向こうに綺麗な砂浜が見える。
なんというか、こう、、、良い砂浜だ。グレートな砂浜だ。グレートな海だ。
どうやら俺は、船か何かにのって海上にいるようだ。
そしてもうひとつ、今の俺にはどうしても気になって仕方の無い事があった。
「、、、、、なんだ、この凄く良い匂い、、、」
どこからともなく凄く良い匂いがする。
なんというか、、、そう、美味しそうな匂いだ。
食欲を注がれるような、、、そんな匂いだ。
思えば、ずっと物を食べてない、、、、、気がする。
腹がペコペコだ。餓死しそうなくらい腹がすいている。
「はらへったな、、、、、!?」
改めて部屋を見渡して見ると、ベッドの近くに机がありその机の上にはパンとスープが用意されていた。
他にも水の入ったコップと桶、ハンドタオル等が置かれている。
近くにありすぎて逆に死角になっており、先程は気が付かなかった。
「、、、、、どういうことだ、、、なんでこんなところに?、、、あ、怪しいな、、、
でも腹へった、、、」
見た目はごく普通のバターロールパンとわかめとゴマのスープ、だが死にそうな程の空腹の俺には王宮の式典に出される最高級料理に見えてしまう。
目の前に大好きな餌があるのに、飼い主に「まて」を受けていて食べられない犬はこんな気分なんだろうか、、、
「、、、、、食べて良いのか、、、でも、少なくとも俺を殺す気は無いみたいだしな、、、」
思えばそうだ。
俺を殺す気でいるんなら食事を用意したり、ベッドに寝かせたりはしないだろう。
手錠と足枷をつけて牢屋にぶちこむはずだ。
それに魔物娘は年がら年中発情し、男を犯して精奴隷にするような種族だと聞いている。
だとすると、精奴隷にされるような事はあっても殺される可能性は薄いのではないか?
いや、、、そういった理由を抜きにしても兎に角腹が減っている。もう我慢の限界だ。
「ええい!食ってやる!!!」
俺は、どうにでもなれ!精神でパンに食らいついた。
美味い。
生地に練り込まれたバターの濃厚な甘しょっぱさが口いっぱいに広がる。
食感はしっとりふわふわで、口の中で溶けてしまっているようだ。
舌で弄べば弄ぶほど味がどんどん溢れてくる。
美味い。
死ぬほどの空腹も手伝って、こんなに美味しいパンは初めて食べたと思える程に感動的だった。
だが、、、
口でパンを一頻り楽しんだ後、それをゆっくりと飲み込もうとしたとき、、、
「、、、、、んぐぅ!」
エヴォエエエ!!!
パンを吐き出してしまった。
むせ返り、呼吸が荒くなる。唾液と鼻水と涙が止めどなく溢れ出てくる。
清掃の行き届いた床が一気に汚なく濡れてしまった。
「、、、、、」
少しだけ俺は途方にくれた。
おそらくだが、このパンが悪かった訳では無いと思う。
毒やなにか変なものも特に入っている様子は無かった。
原因があるのは俺の方だ。
しばらく物を食べていなかったからなのか、精神的なものが原因なのかは分からないが、今の俺は食べ物を受け付けない身体になってしまっている。
腹は減っているのに、、、こんなに美味しいパンを飲み込む事が出来ない。
なんとも惨めな気分になった。つい先程とは違う主旨の涙が出てきた。
「はぁ、、、どうしてこんなことに、、、」
そんなことを思っていると
ガチャリ
ドアが開いた。
俺は思わず身構えた。
いまだに靄がかかっている頭で気を引き締めて、フラフラの身体を奮い起たせる。
どんなやつが出てくるのか、、、
魔物娘の中でも最も知名度が高く、狡猾なサキュバスか?それとも残忍なデーモンか?
いや、ここは海と言うことはマーメイド系の魔物娘か?
警戒しながらドアの向こうにいるものを確認すると、、、そこには
「やっと目が覚めたようじゃな。」
顔がぐちゃぐちゃに散らかって、腰がボッキリと曲がったおじいちゃんが立っていた。
目玉は落っこちそうなほど飛び出ており、歯はガタガタで顔が歪んでいるようにも見える。
まるで不細工の化身のようなくらいの不細工だ。
こんな不細工は見たことがないくらい不細工だが、どうやらこいつは人間のようだ。
魔物娘はそのほとんどが男を惑わし魅了してしまうような非常に美しい容姿をしている。
こんな不細工が魔物娘ではすぐに淘汰されてしまうだろう。
それにこいつは男だし。
「あ、はい、、、あなたは?人間ですか?
俺を助けてくれたんですか?」
一瞬だが淡い期待を抱いて尋ねてみた。
悪夢が終わっていて欲しい。そんな淡い期待を抱いて尋ねてみた。
「助けた?何を言ってるんじゃ?
お前は奴隷として働いてもらうためにここに呼んだんじゃぞ?」
やっぱりそんなことはなかった。
たぶんこのじーさんは既に魔物娘の奴隷かなにか、、、兎に角魔物娘側の人間なんだろう。
「まぁなんじゃ、、、
昏睡状態のお前さんをずっと介抱していたと言えば、お前さんを助けたのはワシの助手じゃな。」
「はいはーーーい!!!あたち!あたち!あたちがたすけたーーー!!!」
なんだか元気な声が部屋中に響きわたったかと思ったら、いつの間にかじーさんの横に小さな女の子がいた。
小さな女の子と言っても、、、人間ではない。
見た目は10才に行かないくらいの幼い少女
薄くて綺麗なエメラルドグリーンの肌
全身が覆えるほどの長い髪を身体に巻き付けて胸や秘部を一応隠しているだけの裸同然のような格好をした魔物娘だ。
いや、ちがう、、、髪の毛じゃない、、、
海藻だ。
この少女の全身に巻き付いて身体を覆っている物は髪の毛ではない。海藻なんだ。
全身が湿り気を帯び、ぬるぬるしている。
どうやらこの少女は海藻の魔物娘のようだ。
「おお、いつの間にいたんじゃ、、、
紹介が遅れたがワシはこの研究所の博士じゃ。
そしてコイツはワシの助手であるフロウケルプ娘のワカメじゃ。
さっきも言ったようにお前さんを看病しとったのはコイツじゃからな。」
そういってじーさんはワカメと呼ばれたフロウケルプ娘の少女の頭を撫でた。
「あたちがたすけたんだよーーー!」
少女のペタんコな胸を張って自慢気にワカメは答えた。
「、、、ありがとう、」
俺が昏睡状態になった原因はお前ら魔物娘にあるんじゃないか、、、とも思ったが、それは言わないでとりあえず感謝の言葉だけは言っておく。
内心は凄く複雑だが、、、まぁ魔物娘だけのせいでも無いし、ここは大人の対応だ。
「あーあー!きーたなーい!せっかくの□マーニぼくじょうのパンなのにー!おいちーのに!」
そう言いながらワカメは自分の身体に生えている海藻をモップ変わりにして、俺が吐き出したパンをすくい床を掃除した。
汚なくないんだろうか?
その後鼻唄を歌いながらパタパタと走り去ってしまった。
床がきれいになった。あとぬるぬるになった。
ワカメが床を掃除している間にじーさんは俺をじっと見てくる。
「ふぅん、、、昏睡状態の時にどうやら拒食症のようなものを患ってしまったようじゃな。」
どうやら俺の事を診察してくれていたようだ。
流石に自分のことを博士というだけのことはあるが、たぶん誰でも分かることだろうけど。
「そこのスープを飲んでおけ。」
そういってパンと一緒にあったスープを指差した。
「今自分で俺の事を拒食症っていったんじゃ、、、」
「拒食症のようなもので、食欲があるんなら正確には違うぞ。いーから黙って飲まんか。」
どうやら正確には違うらしい。
それに食欲があるのは本当だ。腹はめちゃくちゃ減っている。餓死しろと言われたら餓死してしまいそうなくらい腹が減っている。
ワカメとゴマのスープは冷めてしまってはいるが、凄く美味そうだ。濃厚な匂いが鼻の奥に絡み付いて「このスープは美味しい!」と自己主張してくる。
先程のパンも吐き出してしまったが相当美味しかったしこれにも味は期待できる。いや、期待などではない。飲まなくてもこのスープは美味いと断言できる。
吐き出してしまうのを覚悟で俺は恐る恐るスープに口をつける。
スープのワカメとゴマと塩の濃厚な味が口いっぱいに広がる。そのまま喉の奥へと入り食道を通って胃へ落ちていく。
優しいスープが全身に広がっていく。冷めているのに暖かく感じてしまう。身体に栄養が行き届いていくのがわかる。
美味しい
優しい味
俺はベッドの上でしばらくスープの優しい美味しさに酔いしれた。
「♥」
「、、、、、!?」
気がつくと俺は、スープが入っていた空の皿を持ってボーッとしていた。
そして俺の目の前にはフロウケルプの少女ワカメの凄く嬉しそうな顔があった。
ベッドの上に乗り、俺の足の上に四つん這いになって俺の顔を覗き込んでいる。
裸同然の格好で四つん這いになっているものだから、少女の胸元がどうしても気になる体勢になってしまっている。
ましてや胸についているのは海藻のみ。
どうしても、、、視線を少しだけ下に移すだけでどうしても、、、その小さい胸が視線に入ってしまう。
「、、、ねぇねぇ!おいちかった!?」
「、、、え?」
「スープ!あたちのスープ!おしちかった!?」
ワカメは嬉しそうに俺に問いかけてきた。
その勢いで顔が吐息がかかるくらいに近づく。少し顔が動けばキスをしてしまいそうなくらいに近づく。
突然のことに俺は思わずドキッとしてしまう。
「あ、ああ、、、美味しかった、、、ん?このスープって、、、もしかして、お前の、、、」
嬉しそうにしているワカメに向かって逆に問いかけてしまう。
「あたちの!あたちのワカメ!ワカメのワカメ!」
そういうとワカメは自分のワカメをわさわさと揺らして自慢してきた。
「ほーれ、飲めたじゃろ?うまかったろ?」
近くには椅子に座っているじーさんがいた。
さも当然、というような若干偉そうな態度をとっている。
少し癪に障る。
「確かに飲めた、、、でもなんで、、、」
「あたちがそーいうふうにちたから!」
「ワカメがお前さんの水分でお前さんのために育てたワカメだったから、お前さんの体が受け付けたんじゃろ。」
意気揚々と語るワカメを差し置いて、じーさんが翻訳と解説を横から入れてくれる。
俺は少し言葉の意味が分からずキョトンとする。
「俺の水分で作ったって?」
「彼女たちフロウケルプは人間の汗や唾液や精液から水分を吸収して自分のワカメを育てるんじゃ。」
「こうやってねー!」
すりすり
「おわっ!」
ワカメは俺の着ていたシャツをたくし上げて、身体を滑り込ませ、俺の身体に密着させてきた。
それなりに大きな街だが、特に名産品もない。世界的に有名な人もいない。
そんな平凡で地味だが、だからこそどこにでもあるような静かで平和な街だった。
そんな平和な街の兵士、仕事は忙しくない。むしろ暇だ。実践経験などほとんどなく、見張りと訓練に明け暮れる日々だった。
それゆえに、一部の市民からは「税金の無駄使い」「穀潰しの役立たず」等々の陰口を叩かれてはいた。
が、この俺「エヴァン」はそれで良いと思っていた。
そのような悪口が向けられるのはこの街が平和そのものだから、俺たちが動かなければならないような事件が起きないからだ。
そんな事件は無い方が良いに決まっている。
この街に危機が迫った時に、本当にヤバい事件が起こってしまった時に俺たちが動けば良い。
俺はそう思っていた。
そして数日前
そんなヤバい事件が起きた、この街に危機が迫って来ていた。
魔物娘の大群がこの街に襲ってきたのだ。
俺は思った。
「今こそ我々兵士が立ち上がるとき!この街の守人がこの街を守るときなのだ!」
しかし、俺の目の前に広がった光景に絶望した。
次々と戦いもせずに降伏していく兵士の仲間たち。
街を守るという兵士本来の使命を全く遂行する気の無い愚の骨頂と言うべき愚かな行為、そんなことを仲間の兵士がしているのだ。
「なぜだ、、、なぜだ!我々は兵士だ!この街を守るのが使命だ!!!
リンクリート!!!フアド!!!イーゴ!!!なぜだ!なぜ戦わない!!!」
俺の問いに対して仲間たちからは
「む、無理だ、、、魔物娘のあんな大群に、、、勝てるわけ無い、、、」
「そうそう!ムリムリ!諦め!とっとと降伏するぞ!」
「あの娘かわいい!犯されたい!セックスしたい!」
その戦わない意志を宣言されたとき、気がついてしまった。
俺たちは本当に役立たずだった事を
俺たちは本当に穀潰しだった事を
俺たちは本当に税金の無駄だった事を
それを理解してしまったとき
俺の頬から涙が零れ落ち
俺の手から剣が零れ落ちた
それからの事はよく覚えていない。
なんだか早々に魔物娘に捕まった気がする。
何だか凄く気持ち良かった気がする。
何度も何度も射精した気がする。
そんな時間がしばらく続いた気がする。
「、、、、、、、、!?」
どこだ?ここ?
なんだかよくわからない所で目が覚めた。
回りを見渡して見ると、、、何もない、本当に何もない部屋で寝ていたようだ。
窓から外を覗いてみると海が見える。カモメもくわーくわーと元気に鳴いている。
その窓から遠くを見てみると海の向こうに綺麗な砂浜が見える。
なんというか、こう、、、良い砂浜だ。グレートな砂浜だ。グレートな海だ。
どうやら俺は、船か何かにのって海上にいるようだ。
そしてもうひとつ、今の俺にはどうしても気になって仕方の無い事があった。
「、、、、、なんだ、この凄く良い匂い、、、」
どこからともなく凄く良い匂いがする。
なんというか、、、そう、美味しそうな匂いだ。
食欲を注がれるような、、、そんな匂いだ。
思えば、ずっと物を食べてない、、、、、気がする。
腹がペコペコだ。餓死しそうなくらい腹がすいている。
「はらへったな、、、、、!?」
改めて部屋を見渡して見ると、ベッドの近くに机がありその机の上にはパンとスープが用意されていた。
他にも水の入ったコップと桶、ハンドタオル等が置かれている。
近くにありすぎて逆に死角になっており、先程は気が付かなかった。
「、、、、、どういうことだ、、、なんでこんなところに?、、、あ、怪しいな、、、
でも腹へった、、、」
見た目はごく普通のバターロールパンとわかめとゴマのスープ、だが死にそうな程の空腹の俺には王宮の式典に出される最高級料理に見えてしまう。
目の前に大好きな餌があるのに、飼い主に「まて」を受けていて食べられない犬はこんな気分なんだろうか、、、
「、、、、、食べて良いのか、、、でも、少なくとも俺を殺す気は無いみたいだしな、、、」
思えばそうだ。
俺を殺す気でいるんなら食事を用意したり、ベッドに寝かせたりはしないだろう。
手錠と足枷をつけて牢屋にぶちこむはずだ。
それに魔物娘は年がら年中発情し、男を犯して精奴隷にするような種族だと聞いている。
だとすると、精奴隷にされるような事はあっても殺される可能性は薄いのではないか?
いや、、、そういった理由を抜きにしても兎に角腹が減っている。もう我慢の限界だ。
「ええい!食ってやる!!!」
俺は、どうにでもなれ!精神でパンに食らいついた。
美味い。
生地に練り込まれたバターの濃厚な甘しょっぱさが口いっぱいに広がる。
食感はしっとりふわふわで、口の中で溶けてしまっているようだ。
舌で弄べば弄ぶほど味がどんどん溢れてくる。
美味い。
死ぬほどの空腹も手伝って、こんなに美味しいパンは初めて食べたと思える程に感動的だった。
だが、、、
口でパンを一頻り楽しんだ後、それをゆっくりと飲み込もうとしたとき、、、
「、、、、、んぐぅ!」
エヴォエエエ!!!
パンを吐き出してしまった。
むせ返り、呼吸が荒くなる。唾液と鼻水と涙が止めどなく溢れ出てくる。
清掃の行き届いた床が一気に汚なく濡れてしまった。
「、、、、、」
少しだけ俺は途方にくれた。
おそらくだが、このパンが悪かった訳では無いと思う。
毒やなにか変なものも特に入っている様子は無かった。
原因があるのは俺の方だ。
しばらく物を食べていなかったからなのか、精神的なものが原因なのかは分からないが、今の俺は食べ物を受け付けない身体になってしまっている。
腹は減っているのに、、、こんなに美味しいパンを飲み込む事が出来ない。
なんとも惨めな気分になった。つい先程とは違う主旨の涙が出てきた。
「はぁ、、、どうしてこんなことに、、、」
そんなことを思っていると
ガチャリ
ドアが開いた。
俺は思わず身構えた。
いまだに靄がかかっている頭で気を引き締めて、フラフラの身体を奮い起たせる。
どんなやつが出てくるのか、、、
魔物娘の中でも最も知名度が高く、狡猾なサキュバスか?それとも残忍なデーモンか?
いや、ここは海と言うことはマーメイド系の魔物娘か?
警戒しながらドアの向こうにいるものを確認すると、、、そこには
「やっと目が覚めたようじゃな。」
顔がぐちゃぐちゃに散らかって、腰がボッキリと曲がったおじいちゃんが立っていた。
目玉は落っこちそうなほど飛び出ており、歯はガタガタで顔が歪んでいるようにも見える。
まるで不細工の化身のようなくらいの不細工だ。
こんな不細工は見たことがないくらい不細工だが、どうやらこいつは人間のようだ。
魔物娘はそのほとんどが男を惑わし魅了してしまうような非常に美しい容姿をしている。
こんな不細工が魔物娘ではすぐに淘汰されてしまうだろう。
それにこいつは男だし。
「あ、はい、、、あなたは?人間ですか?
俺を助けてくれたんですか?」
一瞬だが淡い期待を抱いて尋ねてみた。
悪夢が終わっていて欲しい。そんな淡い期待を抱いて尋ねてみた。
「助けた?何を言ってるんじゃ?
お前は奴隷として働いてもらうためにここに呼んだんじゃぞ?」
やっぱりそんなことはなかった。
たぶんこのじーさんは既に魔物娘の奴隷かなにか、、、兎に角魔物娘側の人間なんだろう。
「まぁなんじゃ、、、
昏睡状態のお前さんをずっと介抱していたと言えば、お前さんを助けたのはワシの助手じゃな。」
「はいはーーーい!!!あたち!あたち!あたちがたすけたーーー!!!」
なんだか元気な声が部屋中に響きわたったかと思ったら、いつの間にかじーさんの横に小さな女の子がいた。
小さな女の子と言っても、、、人間ではない。
見た目は10才に行かないくらいの幼い少女
薄くて綺麗なエメラルドグリーンの肌
全身が覆えるほどの長い髪を身体に巻き付けて胸や秘部を一応隠しているだけの裸同然のような格好をした魔物娘だ。
いや、ちがう、、、髪の毛じゃない、、、
海藻だ。
この少女の全身に巻き付いて身体を覆っている物は髪の毛ではない。海藻なんだ。
全身が湿り気を帯び、ぬるぬるしている。
どうやらこの少女は海藻の魔物娘のようだ。
「おお、いつの間にいたんじゃ、、、
紹介が遅れたがワシはこの研究所の博士じゃ。
そしてコイツはワシの助手であるフロウケルプ娘のワカメじゃ。
さっきも言ったようにお前さんを看病しとったのはコイツじゃからな。」
そういってじーさんはワカメと呼ばれたフロウケルプ娘の少女の頭を撫でた。
「あたちがたすけたんだよーーー!」
少女のペタんコな胸を張って自慢気にワカメは答えた。
「、、、ありがとう、」
俺が昏睡状態になった原因はお前ら魔物娘にあるんじゃないか、、、とも思ったが、それは言わないでとりあえず感謝の言葉だけは言っておく。
内心は凄く複雑だが、、、まぁ魔物娘だけのせいでも無いし、ここは大人の対応だ。
「あーあー!きーたなーい!せっかくの□マーニぼくじょうのパンなのにー!おいちーのに!」
そう言いながらワカメは自分の身体に生えている海藻をモップ変わりにして、俺が吐き出したパンをすくい床を掃除した。
汚なくないんだろうか?
その後鼻唄を歌いながらパタパタと走り去ってしまった。
床がきれいになった。あとぬるぬるになった。
ワカメが床を掃除している間にじーさんは俺をじっと見てくる。
「ふぅん、、、昏睡状態の時にどうやら拒食症のようなものを患ってしまったようじゃな。」
どうやら俺の事を診察してくれていたようだ。
流石に自分のことを博士というだけのことはあるが、たぶん誰でも分かることだろうけど。
「そこのスープを飲んでおけ。」
そういってパンと一緒にあったスープを指差した。
「今自分で俺の事を拒食症っていったんじゃ、、、」
「拒食症のようなもので、食欲があるんなら正確には違うぞ。いーから黙って飲まんか。」
どうやら正確には違うらしい。
それに食欲があるのは本当だ。腹はめちゃくちゃ減っている。餓死しろと言われたら餓死してしまいそうなくらい腹が減っている。
ワカメとゴマのスープは冷めてしまってはいるが、凄く美味そうだ。濃厚な匂いが鼻の奥に絡み付いて「このスープは美味しい!」と自己主張してくる。
先程のパンも吐き出してしまったが相当美味しかったしこれにも味は期待できる。いや、期待などではない。飲まなくてもこのスープは美味いと断言できる。
吐き出してしまうのを覚悟で俺は恐る恐るスープに口をつける。
スープのワカメとゴマと塩の濃厚な味が口いっぱいに広がる。そのまま喉の奥へと入り食道を通って胃へ落ちていく。
優しいスープが全身に広がっていく。冷めているのに暖かく感じてしまう。身体に栄養が行き届いていくのがわかる。
美味しい
優しい味
俺はベッドの上でしばらくスープの優しい美味しさに酔いしれた。
「♥」
「、、、、、!?」
気がつくと俺は、スープが入っていた空の皿を持ってボーッとしていた。
そして俺の目の前にはフロウケルプの少女ワカメの凄く嬉しそうな顔があった。
ベッドの上に乗り、俺の足の上に四つん這いになって俺の顔を覗き込んでいる。
裸同然の格好で四つん這いになっているものだから、少女の胸元がどうしても気になる体勢になってしまっている。
ましてや胸についているのは海藻のみ。
どうしても、、、視線を少しだけ下に移すだけでどうしても、、、その小さい胸が視線に入ってしまう。
「、、、ねぇねぇ!おいちかった!?」
「、、、え?」
「スープ!あたちのスープ!おしちかった!?」
ワカメは嬉しそうに俺に問いかけてきた。
その勢いで顔が吐息がかかるくらいに近づく。少し顔が動けばキスをしてしまいそうなくらいに近づく。
突然のことに俺は思わずドキッとしてしまう。
「あ、ああ、、、美味しかった、、、ん?このスープって、、、もしかして、お前の、、、」
嬉しそうにしているワカメに向かって逆に問いかけてしまう。
「あたちの!あたちのワカメ!ワカメのワカメ!」
そういうとワカメは自分のワカメをわさわさと揺らして自慢してきた。
「ほーれ、飲めたじゃろ?うまかったろ?」
近くには椅子に座っているじーさんがいた。
さも当然、というような若干偉そうな態度をとっている。
少し癪に障る。
「確かに飲めた、、、でもなんで、、、」
「あたちがそーいうふうにちたから!」
「ワカメがお前さんの水分でお前さんのために育てたワカメだったから、お前さんの体が受け付けたんじゃろ。」
意気揚々と語るワカメを差し置いて、じーさんが翻訳と解説を横から入れてくれる。
俺は少し言葉の意味が分からずキョトンとする。
「俺の水分で作ったって?」
「彼女たちフロウケルプは人間の汗や唾液や精液から水分を吸収して自分のワカメを育てるんじゃ。」
「こうやってねー!」
すりすり
「おわっ!」
ワカメは俺の着ていたシャツをたくし上げて、身体を滑り込ませ、俺の身体に密着させてきた。
17/06/28 20:30更新 / J2
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