序章
都市郊外に並ぶ主力戦車の列が、ジワジワと後退していく。
列は整然としており、砲身を焼け爛れかけさせて尚砲撃は続けられている。
狙われたゴーレム……魔物娘ではなく純粋に戦闘用に造られたものだ……がAPFSDSによって木端微塵となる。
四足歩行で魔力を撃ち出す砲や近接戦闘用の刀剣を備えたそれらは、残骸の山を乗り越え、更にその倍はいそうな数が迫って来る。
「車長!今ので徹甲の残弾は無しです!」
「こりゃ流石にヤバいにゃー。遺書書いて来たのは正解かもにゃー?」
隊長車の車内にて、砲手のゲイザーが悲鳴のような報告を叫ぶと運転手のワーキャットが自嘲気味に呟く。
人間の車長は苦虫を百匹はまとめて噛み潰した表情でペリスコープを覗いている。
「HQ!HQ!こちらエルベ3!最早残弾無し!直ちに支援を!」
『エルベ3、こちらHQ。今「朝顔」からCASが出た』
何度聞いたか分からない通信士のヴァルキリーの声が、何度聞いた分からない航空母艦の名を呼ぶ。
『ヴァルハケの第4戦機隊とストラトフォートレスも向かっている。5分持ち堪えろ!』
「ネガティブ!我が隊は継戦能力を喪失!撤退の許可を!」
態々他の世界から支援に来てくれた連中もいるが、間に合いそうには無い。
『今すぐ私達を突撃させろ!10分は稼いでやる!』
「ネガティブ!そんなことしたらCASに敵ごと吹っ飛ばされるぞ!」
威勢良く叫ぶ歩兵部隊の人虎に慌てて返答する。
司令部からも当然許可は下りない。
歩兵戦闘車は当然全力で後退を続けているし、今更前進させたところで間に合うかも怪しい。
平行世界からの奇襲に対応出来た部隊は僅かしかいない。
それらも弾薬を使い切り、戦う力は残っていない。
戦闘用ゴーレムに、人間や同族すらも餌としか見ない魔物、そんな連中が大挙として人口密集地に侵入すればどれ程の惨禍となるか。
車長は思わず手の内を覗いた。
写真の中から笑顔で手を振るラミアの親子と目が合った。
ほんの少し目尻に涙を滲ませると、振り払うようにそれを乱暴に拭う。
「全車……突撃用意っ!我が隊はこれより接近戦を行う!」
「奴らを行かせる訳には行きませんよね」
「仕方ないにゃー」
『待て!早まるな!』
砲手と運転手も、声は震わせながらも同意する。
逆に後方に居る通信士が声を荒らげるのだから奇妙なものだ。
しかし、彼等には守るものがあった。
それは、少なくとも彼等にとって命を賭けるに値するものであった。
「全車前し……」
『隊長!何かが飛んで来ます!後方、6時の方向!』
今まさに命令を下そうとした瞬間、他の車両から横槍が入った。
「バカ野郎!誰から見て6時だ!?……支援機が間に合ったのか!?」
ハッチを開けて車外に這い出すと、確かに何かが飛んで行くのが見えた。
下手な戦闘機よりも余程高速のそれは、黒いドレスを着た、黒い翼を生やした人影だった。
「まさか……サキュ……!!?」
車長が思い当たった種族を口にするかしないか。
直径数百メートルはありそうな黒い繭玉のような物体が次々と空に出現すると、秒速0.3光秒という速度で侵略軍へと落下、核兵器の炸裂を思わせる派手な爆発を巻き起こす。
戦車隊も、歩兵隊も、観測している司令部すら唖然とする中、更に雨のように魔力のビームが降り注ぎ、侵略軍を容赦なく殲滅していく。
ものの1分もしない内に、雲霞の如く迫っていた侵略軍は跡形も無く消滅していた。
気が付けば、それを為した人影も居なくなり、先程までの喧騒が嘘のように静まりかえっていた。
「あー、助かったのかにゃ?」
運転手の間抜けな呟きが意外と大きく車内にこだました。
「只今帰りました。身の程知らずの虫ケラの方々はちゃんと皆殺しにして来ましたよ」
「笑顔でそういうこと言うの止めて頂けないでしょうか?」
列は整然としており、砲身を焼け爛れかけさせて尚砲撃は続けられている。
狙われたゴーレム……魔物娘ではなく純粋に戦闘用に造られたものだ……がAPFSDSによって木端微塵となる。
四足歩行で魔力を撃ち出す砲や近接戦闘用の刀剣を備えたそれらは、残骸の山を乗り越え、更にその倍はいそうな数が迫って来る。
「車長!今ので徹甲の残弾は無しです!」
「こりゃ流石にヤバいにゃー。遺書書いて来たのは正解かもにゃー?」
隊長車の車内にて、砲手のゲイザーが悲鳴のような報告を叫ぶと運転手のワーキャットが自嘲気味に呟く。
人間の車長は苦虫を百匹はまとめて噛み潰した表情でペリスコープを覗いている。
「HQ!HQ!こちらエルベ3!最早残弾無し!直ちに支援を!」
『エルベ3、こちらHQ。今「朝顔」からCASが出た』
何度聞いたか分からない通信士のヴァルキリーの声が、何度聞いた分からない航空母艦の名を呼ぶ。
『ヴァルハケの第4戦機隊とストラトフォートレスも向かっている。5分持ち堪えろ!』
「ネガティブ!我が隊は継戦能力を喪失!撤退の許可を!」
態々他の世界から支援に来てくれた連中もいるが、間に合いそうには無い。
『今すぐ私達を突撃させろ!10分は稼いでやる!』
「ネガティブ!そんなことしたらCASに敵ごと吹っ飛ばされるぞ!」
威勢良く叫ぶ歩兵部隊の人虎に慌てて返答する。
司令部からも当然許可は下りない。
歩兵戦闘車は当然全力で後退を続けているし、今更前進させたところで間に合うかも怪しい。
平行世界からの奇襲に対応出来た部隊は僅かしかいない。
それらも弾薬を使い切り、戦う力は残っていない。
戦闘用ゴーレムに、人間や同族すらも餌としか見ない魔物、そんな連中が大挙として人口密集地に侵入すればどれ程の惨禍となるか。
車長は思わず手の内を覗いた。
写真の中から笑顔で手を振るラミアの親子と目が合った。
ほんの少し目尻に涙を滲ませると、振り払うようにそれを乱暴に拭う。
「全車……突撃用意っ!我が隊はこれより接近戦を行う!」
「奴らを行かせる訳には行きませんよね」
「仕方ないにゃー」
『待て!早まるな!』
砲手と運転手も、声は震わせながらも同意する。
逆に後方に居る通信士が声を荒らげるのだから奇妙なものだ。
しかし、彼等には守るものがあった。
それは、少なくとも彼等にとって命を賭けるに値するものであった。
「全車前し……」
『隊長!何かが飛んで来ます!後方、6時の方向!』
今まさに命令を下そうとした瞬間、他の車両から横槍が入った。
「バカ野郎!誰から見て6時だ!?……支援機が間に合ったのか!?」
ハッチを開けて車外に這い出すと、確かに何かが飛んで行くのが見えた。
下手な戦闘機よりも余程高速のそれは、黒いドレスを着た、黒い翼を生やした人影だった。
「まさか……サキュ……!!?」
車長が思い当たった種族を口にするかしないか。
直径数百メートルはありそうな黒い繭玉のような物体が次々と空に出現すると、秒速0.3光秒という速度で侵略軍へと落下、核兵器の炸裂を思わせる派手な爆発を巻き起こす。
戦車隊も、歩兵隊も、観測している司令部すら唖然とする中、更に雨のように魔力のビームが降り注ぎ、侵略軍を容赦なく殲滅していく。
ものの1分もしない内に、雲霞の如く迫っていた侵略軍は跡形も無く消滅していた。
気が付けば、それを為した人影も居なくなり、先程までの喧騒が嘘のように静まりかえっていた。
「あー、助かったのかにゃ?」
運転手の間抜けな呟きが意外と大きく車内にこだました。
「只今帰りました。身の程知らずの虫ケラの方々はちゃんと皆殺しにして来ましたよ」
「笑顔でそういうこと言うの止めて頂けないでしょうか?」
16/10/15 19:37更新 / 前弩級艦
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