ブラック・ブライド・バーシング
窓のない部屋はランプの弱々しい光で辛うじて照らされている。
他人の表情を読み取ることすら難しい部屋で、机を挟んで向かい合い男女が一組。
片方、銀色の長髪と真っ赤な虹彩、白い肌と整った容貌を持つ妙齢の女は、漆黒のソファーに深く腰掛け背を預け、ひどく落ち着いた素振りでいる。
しかしもう一方、彼女に射竦められたかのように俯いたままの男、クレスは下唇を噛んで細かく震えている。
彼には、何故彼が今ここに居るのか、分かっていないのだ。
ある大きな悩みを抱え、どうしようもない焦燥感に苛まれ、あてもなく街をふらついていたと思ったら、いつの間にかこの部屋にたどり着いていたのだ。
眠り薬を使われたとか拉致されたとか言うわけではない。ただ、何となく引き寄せられるような感覚に抗えず、見たこともない建物の前までやってきて、誘われるままに入室してしまったのだ。
そんな状況だから、彼は自分が何をしたらいいのか、どうしたらいいのか分かっていない。
すぐにでも退出したほうがいいのか迷っているらしきクレスを、女は少し面白げに睨めつける。
微かに笑うと、緊張を解きほぐすように、殊更穏やかに言った。
「そんなに怖がらなくてもいいのよ。あなたは私の味方なんだから」
女の言葉を聞いても、クレスは警戒を解かない。むしろ両目に、不信の色をありありと浮かべている。人間としてごく当たり前な反応を、女はどこか嬉しげに見つめる。
「なんて言っても、すぐには信じてもらえないわよね。
でも、話すくらい構わないでしょう? 別にあなたから、何か取ろうってわけじゃないのよ。
そもそも、あなたには何か悩みがあるのよね?」
悩みの全くない人間などいないと知ってはいても、こうして心中をずばり言い当てられると、なかなか平静ではいられない。
何だこいつは、売れない占い師か何かかと疑ってかかるが、女の赤く綺麗な目に見られていると、心の奥がざわついてまとまった思考ができない。
言い返せないでいるクレスの返答を待たず、女はさらに続ける。
「ねえ、そうでしょう? ここは、そういう人が来る場所だもの。そういう人だけが来られるように、私が作ったのよ。
あなたの悩み……お金とかじゃないわよね。もっと暗くて熱くて深い匂いがするもの。
男女関係、でしょ?」
心のなかを覗かれたように感じて、クレスの身体は雷に打たれたかのように痙攣した。
何も言わずとも、その反応だけで十分だった。嬉しそうな様子を隠そうともしない女は、畳み掛けるように語りかける。
「ねえ、そうなんでしょう? だったら私が、あなたの助けになってあげられるの。
何が問題なのか、教えてちょうだい。そうしたら、解決策をあげるから。誰にも言ったりしないから。ね?」
彼の抱える悩みは、本来他人に相談できる類のものではなかった。
しかしその女の声は、このくらい部屋の中でやけに優しげに響き、クレスの警戒心を解きほぐす。
操られるまま、クレスは語りだした。
彼の両親は、もう何年も前にこの世を去っている。彼はそれ以来ずっと、4つ年上の姉、イリーデと二人で生きてきた。
二人で、とは言うものの、未成年の間は女の子のほうが男の子よりずっと早く成熟する。実質的に、イリーデはクレスの母親代わりとなった。
もともと彼らの家庭は、富豪とまではいかないもののそれなりに裕福で、蓄財もあったため姉弟二人で路頭に迷うことはなかった。
優しく、弟思いなイリーデはクレスの世話をしながらも、辛そうな様子を見せることはなかった。
クレスの方もそんな姉を深く敬愛し、少しでも姉に楽をさせてやりたいと学業に励んだ。
卒業するとすぐ主神教兵団に志願し、どんどん現場での実績を積み重ね、数年するうちには叩き上げの出世頭と目されるようになっていた。
治安維持活動や拠点警護など、クレスは現場レベルで特に目覚ましく活躍したが、しかし彼は、同僚や上官ほどには主神教に傾倒していなかった。
彼が日々鍛錬し、規律を守り職務に忠実なのは、ただそうすることでイリーデを喜ばせるためだった。
給金はほとんど家に入れた。昔から自分を大事に育ててくれたイリーデに恩返ししたいという動機に偽りはなかったが、彼女に家の外に出てほしくないという思いも否定しきれなかった。
犯罪者と斬り結んで傷を負っても、かえって嬉しいくらいだった。
家に帰れば、姉が献身的に傷の処置をしてくれるからだ。姉に代わって一家の大黒柱となった自分が傷つくたび、姉は後ろめたく思っているのを知っていたからだ。
自覚する事こそなかったが、クレスはずっと昔からイリーデのことを愛していた。エリートコースを目指す若き教団兵ということで、年上から年下まで何人かの女達が言い寄ってきたが、全く歯牙にもかけなかった。
そんなある日、縁談が持ち上がった。
クレスのではなく、イリーデのである。何かの拍子で、教団上層部のご子息が彼女を見初めたのだ。
「私のものになれ。そうすれば君にもっといい暮らしをさせてやるし、君の弟にもいい地位を与えてやれる」と、司祭何某の何番目だかの息子は言ったらしい。
クレスは反対した。自分が教団で頑張ってきたのはイリーデのためだ。今の生活に不便はないはずだし、自分の出世のために姉を犠牲にするつもりなど毛頭ない。そんな話は断れ、と。
しかしその男はイリーデが縁談を蹴ったら姉弟まとめて異端者扱いにして、死刑にすると脅してきた。
主神教団上層部との強力なコネクションがあれば、人間の一人や二人抹殺するのは容易なことだろう。彼の言葉が単なる脅しであるとは限らない。
こうなったら、どこか他国へ逃亡するしかないか。自暴自棄になりかけたクレスを、イリーデは優しく抱きしめた。
「お姉ちゃんのこと心配してくれるのは嬉しいけど……でも私は、大丈夫。クレスを立派に育てるのが、私の使命だったんだから。
だから、滅多なことは考えないで。お願い、ね?」
両親を喪ったばかりの頃、夜、寂しさのあまり泣き出してしまった時も、イリーデはこうして優しく抱いてくれた。
その頃を思い出して、クレスはまだ自分があの時の無力な子供のままなのだと知って、ただ涙を流した。
事ここに及んで、クレスは自分が姉を一人の女として愛していることを確信した。
イリーデへの愛情は深まるばかりだったが、しかし彼女の意向を無視して自分勝手に思いを遂げる気はなかった。
普通の姉弟であれば、遅かれ早かれ互いに伴侶を見つけ、離ればなれになるものだ。クレスは確かにイリーデを愛しているが、イリーデの方はどうだろうか。
クレスのことを弟として愛してくれているのはまず間違いないが、男として見てくれている保証はない。
相手方の人間性はお世辞にも良いとは言えなさそうだが、教団有力者の息子に娶られれば、少なくとも今より豪奢な暮らしは出来るだろう。クレスも頑張って稼いではいるが、金というものは金のあるところに集まるものだ。
上流階級の男に選ばれて玉の輿、というのは世の女性の夢でもある。姉のために、この感情は押し殺すべきなのだろうか。クレスは、そんな風に葛藤していた。
姉弟が苦しんでいる間に、夫側はどんどん話を進めてしまった。
どうせ格下の相手から断られるとは思っていなかったのであろう、トントン拍子で式場から何から手配してしまい、いよいよ婚礼の日は翌日にまで迫っていた。
もはや逃れることなど叶わない。自分には何もできないのか、ただ姉の幸福を祈ることしかできないのか。
そう、諦めかけていた彼の心境に変化が生じたのは昨晩。
自室のベッドに入ったはいいがどうも寝付けず、眼を閉じたまま頭のなかで取り留めもないことを考えていた時。
音を立てないよう慎重に扉を開けて、誰かが部屋に入ってきたのだ。
思わず身構えかけたが、やってきたのが姉だと分かって安堵した。何か用事でもあるのかと思い、身を起こそうとした所、先にイリーデが声を発した。
「……ねえ、クレス……寝てる?」
言葉とは裏腹に、寝ている相手を起こさないような微かな声。異様な気配を感じ取ったクレスはとっさに寝た振りをした。
「寝てる、よね? 起きてない……ね」
確かめるように言うと、イリーデは更に近づいてきた。
クレスの枕元へ歩み寄り、顔を近づける。薄目を開けてみた彼女の顔は、暗がりの中でも分かるくらい紅潮していた。
しばらくそうして、クレスの顔を見つめた後、イリーデは息を荒げだした。
股の方へ右手を伸ばして、何やら弄っている。くちゅくちゅという、淫らな水音が響く。熱い吐息がクレスの顔に振りかかる。
「はあ……は、あっ、いい、かわ、いい……わたしの、わたしの……あうっ!」
「(ね、姉さん……!?)」
困惑しながらも、クレスは目を開けられない。今寝た振りを中断する訳にはいかない。
世界で唯一愛する女が、今眼の前で自分をネタに自慰しているというのに、彼は何もできなかった。ただ、布団の下で痛いぐらいに勃起しているものを悟られないよう祈るばかりだ。
幸い、イリーデの方はオナニーに夢中で、暗い部屋の中で布団の盛り上がりに気づくことはない。
ただ、眼を閉じたクレスの顔を見据えて股間を刺激し続ける。
押し黙り、ぐっちゃぐちゃ言う粘液の音が一際激しくなったかと思うと、短い悲鳴のような声が聞こえて、それきり静かになった。
聞こえるのは、激しく運動した後のような荒い息の音のみ。
二十年以上一緒に暮らしてきたが、姉のオナニーを見るのはもちろん初めてだった。暗い部屋で垣間見ただけなのに、今まで見たどんな本より、女より、興奮させられる。
欲望を発散したイリーデはすぐに部屋を去るかと思ったが、しかしまだ名残惜しげにクレスを見ている。
と、不意に唇に熱く濡れたものが触れた。
イリーデの唇だ。オナニーし終えてもクレスが反応しないものだから、少し大胆になったのだろうか。軽く口にキスしてきたのだ。
さすがに舌を入れれば起きると思ったらしく、イリーデのキスは遠慮がちだった。
が、クレスの唇を舌先でなぞるような、なにか欲求をムリに抑えこんでいるかのようなキスは、普通よりも却って背徳的で、先走りが漏れるのを感じてしまうほどだった。
少しキスした後、唇がが離れたと思うとまたクレスの口に触れるものがある。
ネバネバした液体を塗り広げるそれは、間違いなくイリーデの指。とすると、その粘液は。
「……っ!」
「!?」
あまりの事に、クレスは思わず声を出してしまった。
口内にじんわり染みこんでくる、ほのかにしょっぱいような味に耐えつつ、なんとか寝た振りを続行する。
イリーデはひどく怯えていたが、クレスがそれ以上何も言わないので、寝言か何かかと思ったのらしい。
安堵した様子で服を整え、来た時と同じように静かに扉を閉めて去っていくかとおもった際。
一瞬イリーデがこちらを振り返り、
「ごめんね」
と絞り出すように言った。
その一言があまりに痛切で、煽られるままに勃起していた自分自身が急に恥ずかしくなった。
姉が部屋からいなくなって、ようやくクレスは人心地がついた。
さっきのことで、イリーデが弟を性愛の対象にしているのはまず間違いないと分かった。
両思いの確証が得られたのだから、彼としては喜んでいいはずだったが、しかしこうなってくると縁談の件をどうすべきか。
姉の為を思って恋心を押し殺すという選択肢は、もう取れない。男として弟として、自分を愛してくれている姉を見捨てることなどできない。
しかし、代わりにどうすればいいのだろうか。
異端者として火炙りにされるのはゴメンだから、なんとかして他国へ逃れるべきか。それも口で言うほど簡単なことではないし、逃れた先の国でどうやって生計を立てたらいいかも分からない。
夜通し悩んでも解決策が得られず、朝を迎えて遂に彼は街へとさまよい出て、現在に至る。
クレスの独白を聞いて、女はただ微笑んでいた。
自分の一番大きな秘密を暴露してしまった開放感と疲労とで、クレスは体の力を抜く。柔らかいソファーに受け止めてもらって、そのまま眠れそうなくらいだった。
「なるほど。話は分かったわ。愛しあう二人と、巨大な障害……このままじゃ、バッドエンド間違いなしね」
「あんた、俺の話、信じてくれるのか……?」
「ええ。微かだけど、あなたの口元から女の匂いがするもの。よっぽど激しかったのね、お姉さん」
荒唐無稽なことを言いつつも、銀髪の美女は微笑みを崩さない。からかい、あるいは嘲りといった悪意は感じさせない。
まるで、宗教画に描かれる聖女のように慈悲深い面持ちの彼女が、クレスの方へ手を伸ばす。
いつの間にか、女は右手に何か小さなものを持っていた。
丸く柔らかそうな質感は、爬虫類の卵に似ている。しかし、その表面は赤と黒の毒々しい縞模様で埋め尽くされており、どう見てもただのトカゲの卵などではない。
一体これは何なのか、問い返す間も与えず女は語る。
「今あなた達が陥っている苦境。その原因って、要は主神教よね?
主神教中心の社会が、あなた達を苦しめているのよね」
「……そうだな。強引に、結婚しろとか処刑するとか言われるのも……主神教の権力が、あるからだ。
姉弟で恋愛しちゃいけないってのも、当たり前みたいに思ってたけれど……それだって、宗教の強制力なのか」
「なら、主神教社会を何とかするしかないわね。そういう解決策を取りたいなら、私が手助けしてあげられる」
手のひらに載せた卵のようなものを、女は近づけてくる。縞の中に浮かぶ、眼のような模様は見ている間も一定ではなく、まるで瞬きするように蠢く。
「これを使えば、あなたの望みは叶うわ。
これは、クイーンローパーの卵。
ただの卵じゃないわよ。あの魔界都市レスカティエ、傀儡王女フランツィスカ様の力の断片なのだから。
あなた達を縛っているもの、愛の邪魔になるもの、イリーデさんを奪っていくもの、全部滅茶苦茶にしてやりたいなら……これを受け取りなさい」
つい最近滅ぼされたはずの都市の名を聞いた気がした。
しかし、長い時間苦悩し続けた精神にとって、ようやく現れた光明はあまりに眩しすぎて、余計なことが考えられない。
促されるまま、クレスはその卵を受け取った。
手に持っていても、重量はほとんど感じられない。その代わり、何か凄まじいエネルギー、行き場を求めて荒れ狂っている激流のようなものが閉じ込められているように思える。
力の奔流のようなものが、卵の殻から染みでてクレスの肉体へ侵入する。
人ならぬ力は、彼の魂を完全に魅了した。
「使い方は、もう分かっているわよね。それを使って、欲しい物を手に入れなさい。
遠慮はいらないわ。権力使って好き放題やる奴がのさばる社会なんて、誰も望んでないんだから。その薬で、この街を癒してやりなさい」
「はい。ありがとうございます、王女陛下。
しかし……どうしてこんなに、私達に良くしてくれるんですか? 私は、主神兵ですよ」
「あら、そんなこと?
簡単よ。私達魔物娘は人間さんが大好きだもの。幸せになってほしいと、いつも思っているんだもの。
願わくば、私が助けた人間さんが、他の人間さんも助けてくれますように……って、そんなことばかり考えてるのよ、私は」
それだけ聞くと、クレスは彼女の望みと、自分のすべきことが全て理解できた。
卵を受け取り、ソファーから立ち上がるとすぐにその部屋を辞した。
一歩外に出てみれば、そこは見慣れた地元の町。あの窓のない部屋がどこにあったのかも、もう分からなくなっている。
それでも問題無い。必要な物は、もう手の中にある。意気揚々と、クレスは家路についた。
すぐに行動を起こしても良かったが、せっかくなので一日待つことにした。
ためらいや障害があったわけではない。ただ単に、イリーデのウエディングドレス姿を見てみたかったからだ。他の男のために着る花嫁衣装など見たくもないと思っていたが、もう事情が変わった。
今日イリーデは、クレスのためにこそウエディングドレスを着るのだ。
結婚式の当日。多くの使用人達にお世話され、まるで人形か、美術品か何かのように飾り立てられたイリーデを、クレスはそっと連れ出した。
咎められそうになったこともあったが、今、彼の中には得体のしれない魔力が漲っている。人間の一人や二人、何の障害にもならない。
首尾よく会場の隅、人気のない空き部屋に二人しけこんだ。
「クレス……? えっと、なんで、ここに……?」
「姉さん。姉さんは俺のこと、好き?」
脳が茹だって小難しい言葉を使えない。単刀直入に言った言葉は思いの外効果的で、イリーデの顔はみるみるうちに真っ赤になる。
「な、なに言ってるの、こんな時に……!」
「俺は姉さんのこと、好きだよ。愛してる。姉さんと結婚したいって、思ってるよ。
姉さんも俺のこと、嫌いじゃないよね。この前の夜、あんな事しに来たくらいだもんね」
オナニーのことを口にすると、逃げようとしていたイリーデの動きが止まる。
壁に背を預け、上目遣いで怯えたような視線を向けてくるイリーデは、何故かいつもより小さく、か弱く見える。
純白のドレスから露出した両肩や、きゅっと締めあげられた腰をもっと追い詰めたくて、イリーデの顔の両側、壁に手をついた。
「姉さんが俺のことを思ってくれたのは嬉しいよ。
でもやっぱり、姉さんを取られるのは嫌だ。俺は姉さんのものなんだよ。だから、なあ、いいだろ」
イリーデは、微かに震えながらも抵抗はしない。軽く眼を伏せたその表情が、まるで口づけを待っているように見えて、吸い付かずにはいられない。
花嫁の口を強引に犯しながら、ドレスの裾をたくしあげ下着を乱暴に降ろす。
僅かに分泌された粘液が糸を引く。あの夜、股でぬっちゃぬちゃ言わせていた事からも、相当濡れやすい体質だと分かる。
ぴっちり閉じた陰唇はいかにも処女らしいが、それに配慮している余裕はない。
欲望のまま、クレスは本懐を遂げた。
実の姉の処女を奪って、きっちり膣内射精までしてしまったが、ここまではまだ準備段階に過ぎない。
まだこれから本番が待ち構えているとも知らずに、イリーデは肩で息をしている。
結婚式直前、ウエディングドレス姿で夫ならぬ男に犯されたのだから当然かもしれないが、しかし彼女が落ち着くのを待ってはいられない。
何かやりきったような表情で、イリーデは口を開いた。
「クレス。お姉ちゃんのことをこうして愛してくれるのは、とっても嬉しいの。
お姉ちゃんも、出来るならずっとクレスと一緒にいたいし……夫婦になりたいと、思ってた。
でも、姉弟でこんなふうに愛しあうなんて、ダメなんだよ。誰も許してくれないの。
だから……今日のことは、誰にも言わないから。お姉ちゃん以外の、誰か素敵な女の人を見つけて、ね?
クレスが普通の幸せを見つけてくれれば、お姉ちゃんはそれで十分だから」
「大丈夫だよ、姉さん。誰の許しを得る必要もない。
俺達は俺達だけで、生きていけるんだよ」
困惑した様子のイリーデ、その女性器に隠し持っていた卵を挿れる。
先ほど処女を喪ったばかりの膣だが、愛液と精液と血液で濡れていたお陰ですんなり挿入できる。
女王の卵を体内に取り込んだイリーデは、すぐ違和感に気づいた。
「え? な、何これ、私……」
「怖がらないで。こうすれば、俺達は幸せになれる。
姉さんと結婚するのは俺だ。この結婚は魔物に祝福されているんだよ」
予め中に出しておいた精液が、卵を孵化させる。見る見るうちにイリーデの顔は上気し、眼は潤み汗をかき、喘ぐように呼吸し始めた。
「何を、何をしたの、クレス! 私、どうなって……!」
「今よりもっと強く、美しくなった姉さんを見せてくれ。それでやっと俺達は、俺達のために生きられるんだ」
深く息を吸い込む。数秒呼吸を止めて、ゆっくり吐き出すとともに、魔物の魔力がイリーデと、ウエディングドレスを取り込んでいった。
乾いた大地に雨が染みこむように、卵の魔力は浸透していく。ドレスの下腹部に黒紫色の点ができたかと思うと、みるみるうちに胸元や裾の方まで広がっていく。
白かったドレスを艶やかな黒に染め変えて、遂に卵は孵化し終えた。
そこに現れたのは、今までとは全く違ったデザインのドレスを纏ったイリーデ。
清純さを体現したかのように真っ白だったドレスは、漆黒に染め上げられている
もともとレースで装飾されていた裾や袖口や襟元には、赤黒い眼のような紋様が並んでいる。
露出度も上がっている。上半身の布面積は減少し、肩だけでなく乳房の上半分と谷間までも大胆に晒している。
下半身、スカートには深いスリットがいくつも入り、適度に脂肪のついた女性らしい脚を見せつけている。
ドレスに合うよう履かされた白いタイツも、イリーデの白い肌とのコントラストを生むため黒く変わった。
手首まで覆っていたはずの手袋は裾が伸び、肘の上までを黒く彩っている。
何より大きな違いは、服の内側から伸びる無数の触手だ。
ドレスの裏地から、あるいはドレスと肌との境目から伸びている濃紫色の触手は愛液のような粘液をたっぷり纏っている。落ち着きなく、ゆらゆらと宙を漂うそれら触手は、すぐにクレスを認識し、愛しげに擦り寄ってきた。
「あ、れ……? クレ、ス……?」
「姉さん。気分はどう?」
どことなくぼうっとした雰囲気のイリーデは、まだ全身に力が入りきらないようだった。壁に追い詰めて立たせたままというのもかわいそうなので、手近な長机までお姫様抱っこで運んで寝かせる。
イリーデには楽な姿勢をとってもらって、クレスは一旦部屋の外、周囲の様子を伺おうとした。姉をさらって少し時間が経ったので、もしかしたら追手が来ているかもしれないと考えたからだ。
が、何本か触手が手足に絡みついてきて、強く引き寄せられてしまう。ちょうど、机の上でイリーデを押し倒すような体勢になった。
「もう……どこいくの? お姉ちゃん放っていっちゃ、めっ」
クレスの真下から見上げるイリーデの瞳は、既に濁りきっている。
先程まであったはずの悲壮な自己犠牲の決意は影すらない。柔らかく緩んで蕩けた、淫靡な微笑だけがある。
クレスは成功を確信した。
「クレスはお姉ちゃんのものなんだから、勝手にどっかいっちゃダーメ。ちゃんと、分かってるの?」
「ごめんごめん。どこへも行かないし……行かせないよ」
「なら、ちゅーしてよ。弟くんの美味しい唾、お姉ちゃんに飲ませて……んっ」
言い終わるのを待たずして唇を合わせると、イリーデは目を閉じて、口内へ侵入してきたクレスの舌に自分のそれを絡ませた。
弟の背に両手を回し、強く抱き寄せて深い深いキスに耽る。
望み通り、たっぷり唾をまとわせた舌を挿入してやれば、じゅる、ちゅうぅっと淫らな水音が鳴る。静かな嚥下の音も性感を煽り、さながら口でするセックスとでも言うべきか。
子供の頃にせがんでしてもらった軽いキスとは全く異なる近親愛に、溺れた。
「ちゅぅ、んちゅ、んは、おーいひぃ……ん、うぅっ!」
「はぁ、あ、ねえさ、ん……!」
突然、クレスの男性器に冷たい感触。
イリーデに触られたのかと思うも、彼女の両手はまだクレスの胴を捉え続けている。となれば、答えは一つ。
「んふふ。んふふふ。……もう、がっひがひ、ねえ。おねーちゃんのちゅー、そんなによかったかな?」
下半身を見下ろして、クレスは自分の男性器に触手が絡みついているのを知った。
いつの間にか服は脱がされ、最大限に勃起させられた竿に細長い触手がまとわりついている。ローションのようにぬめる粘液を塗りたくられ、激しくしごかれている。
実際に自分のものが触手に犯されているのを見てしまうと、その視覚的刺激もあって快感が倍増する。
見た目こそおどろおどろしいが、イリーデの触手は触れるとプニプニして柔らかく、手触りもいい。滑らかな表面の感触は絹にも似ている。そんな触手に巻きつかれて、竿と裏筋と雁首をこすこすされれば、もう射精までそう保たない。
「おちんちんぐっちゃぐちゃにされて、興奮してるの? クレスって結構、ヘンタイ?」
「ヘンタイ、って……姉さんも俺の寝顔、オナペットにしてたくせに……!」
「そーよ。時々クレスの下着を嗅いだりしてたけど……やっぱりそれじゃ足りなかったわ。
かわいいかわいい私の弟の……残り香だけじゃ、我慢なんてできないわよっ」
さらりと衝撃的な事実を明かされたが、こうして実の姉弟で生セックスしてしまっているのだから、その程度、些細な事だろう。
姉が弟の肉体を欲してくれていると知って、クレスはむしろ嬉しいくらいだった。
「あ、また硬くなった。お姉ちゃんのオナネタにされて、嬉しいかった? 間近でオナニーされた時も、こんなふうに勃起してたのかな?」
「してたよ、当たり前だろ……」
「もー、気づいてたんなら言ってくれても良かったのに。知らんぷりしてごまかすなんて、クレスって意外と意地悪なのね」
「そう言うなよ。俺だって悩んでたんだ。
もし変なことして姉さんに拒まれたら、生きていけないしな」
「拒むなんて。お姉ちゃんは、弟くんのためならなんでもしてあげるよ。何したって、嫌いになんかならないよ」
かつての、控えめで慎ましやかな様子はかなり薄れ、こうして淫語混じりの甘い言葉を聞かせてくれるイリーデは、クレスにとってかなり不慣れなものだった。
しかし、魔物化によって人格が改竄されることはない。今のイリーデも、彼女の中にもともと存在していた一面なのだ。
そう思うと、幼い頃からの姉との思い出、その中で自分が密かに育んできた実の姉への欲望が一方通行でなかったと確信できて、クレスはひどく晴れやかな気分になった。
「……あー、でも、そう言えるのは今のお姉ちゃんだから、だよね。
前のお姉ちゃんだったら、そんなに素直になれないかも。
『だめよ、私達実の姉弟なんだから、こんなこと……!』とか、言ってたかもね」
背徳感を煽るセリフが真に迫りすぎていて、クレスの心拍数が急上昇した。
血流量が増えて、先走りが一層漏れる。絡みついた触手の先、イリーデにも彼の劣情は伝わる。
にんまり笑って、触手コキを加速させてきた。
「あ、今の興奮した?
本当に、お姉ちゃんのこと大好きなのね。……かわいいなあ。ああもう、こんなに可愛くって、お姉ちゃんに何させようっていうのかなあ!」
にゅるんにゅるんの触手が亀頭を撫でて、鈴口をつつく。
不規則に竿をしごかれながら敏感な部分をそんな風にいじめられると、クレスはあっさり屈した。
「姉さん、で、出る……」
「いいよ。お姉ちゃんので、気持ちよくなって、ね?」
求められるまま、二回目にしては勢いよく射精した。
触手の塊が精液で白く染まっていく。もともと粘液まみれだったところに更にザーメンをかけられたものだから、触手同士がひどく粘ついて糸を引いている。
流れ落ちた子種汁が黒いウエディングドレスに滴り、白いシミを作る。黒衣と白濁のコントラストに魅せられていると、服が独りでに動いた。浮き上がったかと思うと、触手から解放されたばかりの男性器にまとわりついてきたのだ。
「え、こんなこともできるのか」
「そうよ。お姉ちゃんはクレスと結婚するんだから。
だからこのウエディングドレスは、クレスのためのものなの。遠慮しないで、こっちにもぴゅっぴゅしていいよ」
もともとそれなりに上質な生地を使って仕立てられていたドレスだが、魔物の魔力で黒く造り変えられて、その手触りは遥かに良くなっている。
柔らかいビロードの様な、しっとりとした感触。触手の粘液と精液とでべたべたになった漆黒のドレスが、クレスのものを包み、覆い、撫で擦る。
触手姦の絶頂冷めやらぬ間に、服で犯されてしまってクレスは萎える暇もない。
いくら魔物の力が絡んでいるといっても、やはり衣服は衣服であり、快感の面では女性器や触手に優るべくもない。
しかし、今まさに姉が着ている服に、自分の汚いものを擦りつけるというのは、なにか異様に背徳的なものがある。
今もクレスを拘束し続けている触手たちを同じように、ドレスは意志あるもののように陰茎を抱きしめ、更に奮い立たせる。
見下ろすと、ドレスの向こう側、深く切れ込みの入ったスカートで辛うじて隠されている姉の脚や、ちらちら視界に入るもののなかなか見えない股などが、またクレスを煽る。
既にイリーデの一部となったドレスは強すぎず弱すぎず、絶妙な力を加えてくる。
ちょうどドレス越しに手で握られてしごかれているような感覚で、張り出たカリ首や裏筋なんかは特に丁寧に、複雑な構造にも布がぴったり張り付くように愛撫してくれる。
我慢汁と精液に浸された黒い布は、より深い色と光沢を得る。姉の晴れ姿をもっと汚したくて、漆黒のドレスに白い液をぶちまけたくて、クレスの忍耐は潰えていく。
先端をくるまれて、集中的に刺激されると限界が来た。
ものも言えず、クレスは服の上に射精していく。
夜色の綺麗なドレスに、白い汚れが広がっていく。
自分の精液が姉を犯していく様を見て、クレスはひどく満たされた気分になった。
「気持ちよかった? でも、服ばっかり気にしてちゃダメ。お姉ちゃんの事も、ちゃんと愛してくれなきゃ」
言われるまでもなく、クレスにとって愛する対象はイリーデ以外に存在し得ない。
ドレスをめくり上げると粘液と愛液とでびっしょびしょになり、ほとんど役目を果たしていない下着が目に入った。
パンツは先ほど、半ば無理矢理処女を奪った時に乱れたままだ。よれてズレて、太腿に引っかかって性器を隠せてもいない。何も履いていないよりもずっと扇情的な様を見ると、クレスの中にあった理性は完全に霧消した。
ぬるぬるして滑りやすいパンツを乱暴に掴んで引きずり降ろし、まだまだ萎えない男性器を近づける。亀頭を粘膜に触れさせて、言った。
「さっきはごめんよ、姉さん。痛かっただろ。初めてなのに、あんなことして。
でも、今度は大丈夫だから。安心しててよ」
「うん、分かってる。お姉ちゃんもさっきから、クレスのが欲しくて……我慢できないのっ。挿れて、滅茶苦茶に、して……!」
聞くと同時に、クレスはイリーデの中に挿入した。
人間だった時の彼女の膣内は、処女ゆえの硬さがかなり残っていた。気持ちよくないとまでは言わないが、ところどころ引っかかるような感触があり、破瓜の出血もあってかなり神経を使わされた。
しかし今は、入ってくるものを歓迎するかのような吸引と締め付けが、失神しそうなほど心地いい。
ヒダが多くて挿れているだけでも気持ちいい名器のことを俗にミミズ千匹と呼ぶが、この場合、さしずめ触手千本と呼ぶべきか。
細密で複雑な構造が、大量の潤滑液とともにクレスを愛してくれる。
触手に責められるより、服で擦られるよりもなお強烈な快感。
一瞬で射精させられそうになって、危うく堪えた。
「あは、クレスの、お姉ちゃんのにピッタリだ……姉弟だから、やっぱり相性が良いんだねぇ。気持ちいいよ、もっとズポズポして」
「姉さんの、すごいいいよ……俺はずっと、姉さんとこうしたかったんだ」
「……っ! あ、お、お姉ちゃんも……! ずっとずっと、昔からクレスとしたかったっ!
ドレス着てる時も、他所の人じゃない、クレスのお嫁さんになりたいって……そればっかり、考えてた、よっ……!」
喘ぎ混じりの淫語と近親愛の告白が、クレスの脳を灼く。瞬殺されそうなのを耐えながら、姉の子宮目掛けてガンガン突いていった。
両手両足に無数の触手が絡まってはいるが、動きを阻害されることはない。締め付けは弱めで痛みを感じることもないが、多量の粘液が滴って滑り、容易に逃れられそうにない。
別に逃げる必要はないのだが、優しく抱きしめられて二度と離れられないこの状況が、まるで彼らの近親相姦を象徴しているようで、滾った。
本当に触手で出来ているのだろうか、イリーデの膣内は突きこまれるクレスの亀頭を激しく抱きしめ、弱い辺りを執拗に責めてくる。
欲望の駆り立てるまま腰を前後させて、すぐに後がなくなる。
だがここで達してしまうのはもったいない。もっとイリーデにも気持ちよくなってもらいたい。その一心で、クレスは姉の胸に手を伸ばした。
ウェディングドレスの上半身部分はイリーデの体型に比して明らかに小さすぎて、おっぱいは本来有り得る以上に露出されている。
もともとそれなりのサイズを誇っていた彼女の乳房は魔物化によって更に膨張しており、ローパーの一部となった服の中で窮屈そうにしている。
胸元に手をかけて強引に引き降ろすと、解放された巨乳が嬉しげに揺れた。
生セックスでたぷんたぷん揺れるおっぱいに、クレスは無我夢中で吸い付く。汗などでしっとり湿った乳肌と乳首を口に含むと、ミルクのような甘い香りがいっぱいに広がる。先ほど処女を散らされたばかりでもう孕んでいるなど考えられないが、姉の乳はたしかにクレスの喉を潤しているように感じられた。
上半身と下半身を同時に愛されるのはイリーデにとっても予想外だったようだ。正常位で犯されながら授乳する快感で両目を蕩けさせ、甘い嬌声を聞かせてくれる。
「……ぅっ! おっぱい、いい、もっと吸って、飲んで! 私の可愛い子……ちゅうちゅうして、お姉ちゃんのおっぱいちゅうちゅうしてぇっ!」
残念ながらまだ母乳は出てこないが、それでも十分姉乳は美味い。
コリコリした乳首を唇や前歯で甘噛する度、下半身を捉える肉壷が潤み、ぎゅぅっと締まる。
イリーデを愛撫したい気持ちとイリーデに甘えたい気持ちとが混ざり合って、思わず豊乳に顔を押し付けてしまう。
母代わりだった姉の母性に溺れ、ひたすら乳を吸い、柔らかい乳脂肪の感触に酔う。
子供のようにおっぱいをせがむクレスを、イリーデは優しく抱いた。
「……可愛いな。カワイイよ、クレス。もう絶対離さない。死ぬまで一緒だからね。ずっとお姉ちゃんのものでいてね」
言われずとも、クレスは姉以外に所有されるつもりはなかった。姉を逃さないために、姉を魔物にさせたのだから。
おっぱいに抱擁されながら、姉膣を突きまくりながら、クレスはいよいよ高められてきた。
「姉さん、もう、出るよ。中に出して、いいよな」
「ふふ。弟くんの精液を無駄にするなんて、お姉ちゃん許さないよ。全部お姉ちゃんの子宮に出して、実の子供孕ませて、ね」
膣内射精を煽られると弟の生殖本能に火が着いた。
おっぱいを吸いながら、膣の奥、種付けする処に何度も男性器を突き挿れる。一回往復させるごとに愛液が溢れ、締りが増していく。
近親愛を昂ぶらせ、クレスは腰を打ち付けた。
もう実の姉に子供を作らせることしか考えられない。母親代わりでもあった姉の子宮に生中出しするのは、彼の胎内回帰願望めいた欲求も満たす。
今日はもう何度も射精したが、それでも限界はすぐ来る。
ぷりぷりした子宮口に亀頭を押し付け、魔膣の圧搾に抵抗せず、クレスはそのまま達した。
「っ……!」
「……で、出てる……!? 精液……お姉ちゃんのナカに、いっぱい……ィ!」
クレスが絶頂すると同時に、イリーデも近親妊娠アクメしたようだった。
喘ぐ息が短くなり、頬が紅に染まって眼の焦点が合っていない。
弟と交わってこんなにも激しく気をやってしまう姉が愛しくて、クレスは優しくキスをした。
「……ちゅ。好き。好きだよ。前から、ずっと……」
「んむ。……ぷは。はぁむっ……んじゅ、もっほ……あぁむっ……」
下半身で繋がり合いながらするディープキスは、姉弟に深い満足感をもたらした。
ひとしきりイチャついて、ようやく落ち着いた頃。
クレスはイリーデに言った。
「姉さん。この国には、愛し合っているのに結ばれない人たちがたくさんいるんだ。ちょうど、昨日までの俺達みたいに」
「そうね。お姉ちゃんみたいに主神教の力で引き裂かれた人、他にもいそうよね」
「でも、姉さんの力があればもうそんな人を出さずに済むんだ。
今なら、分かるだろ? 姉さんの力、その触手で、皆を開放してあげられるんだ」
そう言うと、答えるかように触手たちがうねる。イリーデも、納得したように柔らかく微笑んだ。
「そうね。私の中の力も、そうしたいみたい。もっといろんな人達を綺麗にしてあげたいって、言ってるよ。
よし。私達で、新しい国を作りましょう。愛しあう者達が誰にも邪魔されない、魔の国を」
扉の向こう、人が集まっているような音がする。突然姿を消した花嫁を、探しに来た者達だろう。こちらの気配を察して、荒々しく戸を叩く。
そう言っている間にも音は激しくなり、もう間もなく扉はぶち破られることだろう。それでいい。
「じゃあ姉さん、やっちゃおう。俺達の邪魔する奴らを、一緒に滅茶苦茶にしようじゃないか」
「いいわよ。弟くんの言うことなら、お姉ちゃん何でも聞いてあげるからね」
扉がこじ開けられ、使用人らしき人間たちが部屋に飛び込んでくる。
イリーデの触手は、濁流のように彼らを飲み込んで、廊下まで飛び出ていった。
他人の表情を読み取ることすら難しい部屋で、机を挟んで向かい合い男女が一組。
片方、銀色の長髪と真っ赤な虹彩、白い肌と整った容貌を持つ妙齢の女は、漆黒のソファーに深く腰掛け背を預け、ひどく落ち着いた素振りでいる。
しかしもう一方、彼女に射竦められたかのように俯いたままの男、クレスは下唇を噛んで細かく震えている。
彼には、何故彼が今ここに居るのか、分かっていないのだ。
ある大きな悩みを抱え、どうしようもない焦燥感に苛まれ、あてもなく街をふらついていたと思ったら、いつの間にかこの部屋にたどり着いていたのだ。
眠り薬を使われたとか拉致されたとか言うわけではない。ただ、何となく引き寄せられるような感覚に抗えず、見たこともない建物の前までやってきて、誘われるままに入室してしまったのだ。
そんな状況だから、彼は自分が何をしたらいいのか、どうしたらいいのか分かっていない。
すぐにでも退出したほうがいいのか迷っているらしきクレスを、女は少し面白げに睨めつける。
微かに笑うと、緊張を解きほぐすように、殊更穏やかに言った。
「そんなに怖がらなくてもいいのよ。あなたは私の味方なんだから」
女の言葉を聞いても、クレスは警戒を解かない。むしろ両目に、不信の色をありありと浮かべている。人間としてごく当たり前な反応を、女はどこか嬉しげに見つめる。
「なんて言っても、すぐには信じてもらえないわよね。
でも、話すくらい構わないでしょう? 別にあなたから、何か取ろうってわけじゃないのよ。
そもそも、あなたには何か悩みがあるのよね?」
悩みの全くない人間などいないと知ってはいても、こうして心中をずばり言い当てられると、なかなか平静ではいられない。
何だこいつは、売れない占い師か何かかと疑ってかかるが、女の赤く綺麗な目に見られていると、心の奥がざわついてまとまった思考ができない。
言い返せないでいるクレスの返答を待たず、女はさらに続ける。
「ねえ、そうでしょう? ここは、そういう人が来る場所だもの。そういう人だけが来られるように、私が作ったのよ。
あなたの悩み……お金とかじゃないわよね。もっと暗くて熱くて深い匂いがするもの。
男女関係、でしょ?」
心のなかを覗かれたように感じて、クレスの身体は雷に打たれたかのように痙攣した。
何も言わずとも、その反応だけで十分だった。嬉しそうな様子を隠そうともしない女は、畳み掛けるように語りかける。
「ねえ、そうなんでしょう? だったら私が、あなたの助けになってあげられるの。
何が問題なのか、教えてちょうだい。そうしたら、解決策をあげるから。誰にも言ったりしないから。ね?」
彼の抱える悩みは、本来他人に相談できる類のものではなかった。
しかしその女の声は、このくらい部屋の中でやけに優しげに響き、クレスの警戒心を解きほぐす。
操られるまま、クレスは語りだした。
彼の両親は、もう何年も前にこの世を去っている。彼はそれ以来ずっと、4つ年上の姉、イリーデと二人で生きてきた。
二人で、とは言うものの、未成年の間は女の子のほうが男の子よりずっと早く成熟する。実質的に、イリーデはクレスの母親代わりとなった。
もともと彼らの家庭は、富豪とまではいかないもののそれなりに裕福で、蓄財もあったため姉弟二人で路頭に迷うことはなかった。
優しく、弟思いなイリーデはクレスの世話をしながらも、辛そうな様子を見せることはなかった。
クレスの方もそんな姉を深く敬愛し、少しでも姉に楽をさせてやりたいと学業に励んだ。
卒業するとすぐ主神教兵団に志願し、どんどん現場での実績を積み重ね、数年するうちには叩き上げの出世頭と目されるようになっていた。
治安維持活動や拠点警護など、クレスは現場レベルで特に目覚ましく活躍したが、しかし彼は、同僚や上官ほどには主神教に傾倒していなかった。
彼が日々鍛錬し、規律を守り職務に忠実なのは、ただそうすることでイリーデを喜ばせるためだった。
給金はほとんど家に入れた。昔から自分を大事に育ててくれたイリーデに恩返ししたいという動機に偽りはなかったが、彼女に家の外に出てほしくないという思いも否定しきれなかった。
犯罪者と斬り結んで傷を負っても、かえって嬉しいくらいだった。
家に帰れば、姉が献身的に傷の処置をしてくれるからだ。姉に代わって一家の大黒柱となった自分が傷つくたび、姉は後ろめたく思っているのを知っていたからだ。
自覚する事こそなかったが、クレスはずっと昔からイリーデのことを愛していた。エリートコースを目指す若き教団兵ということで、年上から年下まで何人かの女達が言い寄ってきたが、全く歯牙にもかけなかった。
そんなある日、縁談が持ち上がった。
クレスのではなく、イリーデのである。何かの拍子で、教団上層部のご子息が彼女を見初めたのだ。
「私のものになれ。そうすれば君にもっといい暮らしをさせてやるし、君の弟にもいい地位を与えてやれる」と、司祭何某の何番目だかの息子は言ったらしい。
クレスは反対した。自分が教団で頑張ってきたのはイリーデのためだ。今の生活に不便はないはずだし、自分の出世のために姉を犠牲にするつもりなど毛頭ない。そんな話は断れ、と。
しかしその男はイリーデが縁談を蹴ったら姉弟まとめて異端者扱いにして、死刑にすると脅してきた。
主神教団上層部との強力なコネクションがあれば、人間の一人や二人抹殺するのは容易なことだろう。彼の言葉が単なる脅しであるとは限らない。
こうなったら、どこか他国へ逃亡するしかないか。自暴自棄になりかけたクレスを、イリーデは優しく抱きしめた。
「お姉ちゃんのこと心配してくれるのは嬉しいけど……でも私は、大丈夫。クレスを立派に育てるのが、私の使命だったんだから。
だから、滅多なことは考えないで。お願い、ね?」
両親を喪ったばかりの頃、夜、寂しさのあまり泣き出してしまった時も、イリーデはこうして優しく抱いてくれた。
その頃を思い出して、クレスはまだ自分があの時の無力な子供のままなのだと知って、ただ涙を流した。
事ここに及んで、クレスは自分が姉を一人の女として愛していることを確信した。
イリーデへの愛情は深まるばかりだったが、しかし彼女の意向を無視して自分勝手に思いを遂げる気はなかった。
普通の姉弟であれば、遅かれ早かれ互いに伴侶を見つけ、離ればなれになるものだ。クレスは確かにイリーデを愛しているが、イリーデの方はどうだろうか。
クレスのことを弟として愛してくれているのはまず間違いないが、男として見てくれている保証はない。
相手方の人間性はお世辞にも良いとは言えなさそうだが、教団有力者の息子に娶られれば、少なくとも今より豪奢な暮らしは出来るだろう。クレスも頑張って稼いではいるが、金というものは金のあるところに集まるものだ。
上流階級の男に選ばれて玉の輿、というのは世の女性の夢でもある。姉のために、この感情は押し殺すべきなのだろうか。クレスは、そんな風に葛藤していた。
姉弟が苦しんでいる間に、夫側はどんどん話を進めてしまった。
どうせ格下の相手から断られるとは思っていなかったのであろう、トントン拍子で式場から何から手配してしまい、いよいよ婚礼の日は翌日にまで迫っていた。
もはや逃れることなど叶わない。自分には何もできないのか、ただ姉の幸福を祈ることしかできないのか。
そう、諦めかけていた彼の心境に変化が生じたのは昨晩。
自室のベッドに入ったはいいがどうも寝付けず、眼を閉じたまま頭のなかで取り留めもないことを考えていた時。
音を立てないよう慎重に扉を開けて、誰かが部屋に入ってきたのだ。
思わず身構えかけたが、やってきたのが姉だと分かって安堵した。何か用事でもあるのかと思い、身を起こそうとした所、先にイリーデが声を発した。
「……ねえ、クレス……寝てる?」
言葉とは裏腹に、寝ている相手を起こさないような微かな声。異様な気配を感じ取ったクレスはとっさに寝た振りをした。
「寝てる、よね? 起きてない……ね」
確かめるように言うと、イリーデは更に近づいてきた。
クレスの枕元へ歩み寄り、顔を近づける。薄目を開けてみた彼女の顔は、暗がりの中でも分かるくらい紅潮していた。
しばらくそうして、クレスの顔を見つめた後、イリーデは息を荒げだした。
股の方へ右手を伸ばして、何やら弄っている。くちゅくちゅという、淫らな水音が響く。熱い吐息がクレスの顔に振りかかる。
「はあ……は、あっ、いい、かわ、いい……わたしの、わたしの……あうっ!」
「(ね、姉さん……!?)」
困惑しながらも、クレスは目を開けられない。今寝た振りを中断する訳にはいかない。
世界で唯一愛する女が、今眼の前で自分をネタに自慰しているというのに、彼は何もできなかった。ただ、布団の下で痛いぐらいに勃起しているものを悟られないよう祈るばかりだ。
幸い、イリーデの方はオナニーに夢中で、暗い部屋の中で布団の盛り上がりに気づくことはない。
ただ、眼を閉じたクレスの顔を見据えて股間を刺激し続ける。
押し黙り、ぐっちゃぐちゃ言う粘液の音が一際激しくなったかと思うと、短い悲鳴のような声が聞こえて、それきり静かになった。
聞こえるのは、激しく運動した後のような荒い息の音のみ。
二十年以上一緒に暮らしてきたが、姉のオナニーを見るのはもちろん初めてだった。暗い部屋で垣間見ただけなのに、今まで見たどんな本より、女より、興奮させられる。
欲望を発散したイリーデはすぐに部屋を去るかと思ったが、しかしまだ名残惜しげにクレスを見ている。
と、不意に唇に熱く濡れたものが触れた。
イリーデの唇だ。オナニーし終えてもクレスが反応しないものだから、少し大胆になったのだろうか。軽く口にキスしてきたのだ。
さすがに舌を入れれば起きると思ったらしく、イリーデのキスは遠慮がちだった。
が、クレスの唇を舌先でなぞるような、なにか欲求をムリに抑えこんでいるかのようなキスは、普通よりも却って背徳的で、先走りが漏れるのを感じてしまうほどだった。
少しキスした後、唇がが離れたと思うとまたクレスの口に触れるものがある。
ネバネバした液体を塗り広げるそれは、間違いなくイリーデの指。とすると、その粘液は。
「……っ!」
「!?」
あまりの事に、クレスは思わず声を出してしまった。
口内にじんわり染みこんでくる、ほのかにしょっぱいような味に耐えつつ、なんとか寝た振りを続行する。
イリーデはひどく怯えていたが、クレスがそれ以上何も言わないので、寝言か何かかと思ったのらしい。
安堵した様子で服を整え、来た時と同じように静かに扉を閉めて去っていくかとおもった際。
一瞬イリーデがこちらを振り返り、
「ごめんね」
と絞り出すように言った。
その一言があまりに痛切で、煽られるままに勃起していた自分自身が急に恥ずかしくなった。
姉が部屋からいなくなって、ようやくクレスは人心地がついた。
さっきのことで、イリーデが弟を性愛の対象にしているのはまず間違いないと分かった。
両思いの確証が得られたのだから、彼としては喜んでいいはずだったが、しかしこうなってくると縁談の件をどうすべきか。
姉の為を思って恋心を押し殺すという選択肢は、もう取れない。男として弟として、自分を愛してくれている姉を見捨てることなどできない。
しかし、代わりにどうすればいいのだろうか。
異端者として火炙りにされるのはゴメンだから、なんとかして他国へ逃れるべきか。それも口で言うほど簡単なことではないし、逃れた先の国でどうやって生計を立てたらいいかも分からない。
夜通し悩んでも解決策が得られず、朝を迎えて遂に彼は街へとさまよい出て、現在に至る。
クレスの独白を聞いて、女はただ微笑んでいた。
自分の一番大きな秘密を暴露してしまった開放感と疲労とで、クレスは体の力を抜く。柔らかいソファーに受け止めてもらって、そのまま眠れそうなくらいだった。
「なるほど。話は分かったわ。愛しあう二人と、巨大な障害……このままじゃ、バッドエンド間違いなしね」
「あんた、俺の話、信じてくれるのか……?」
「ええ。微かだけど、あなたの口元から女の匂いがするもの。よっぽど激しかったのね、お姉さん」
荒唐無稽なことを言いつつも、銀髪の美女は微笑みを崩さない。からかい、あるいは嘲りといった悪意は感じさせない。
まるで、宗教画に描かれる聖女のように慈悲深い面持ちの彼女が、クレスの方へ手を伸ばす。
いつの間にか、女は右手に何か小さなものを持っていた。
丸く柔らかそうな質感は、爬虫類の卵に似ている。しかし、その表面は赤と黒の毒々しい縞模様で埋め尽くされており、どう見てもただのトカゲの卵などではない。
一体これは何なのか、問い返す間も与えず女は語る。
「今あなた達が陥っている苦境。その原因って、要は主神教よね?
主神教中心の社会が、あなた達を苦しめているのよね」
「……そうだな。強引に、結婚しろとか処刑するとか言われるのも……主神教の権力が、あるからだ。
姉弟で恋愛しちゃいけないってのも、当たり前みたいに思ってたけれど……それだって、宗教の強制力なのか」
「なら、主神教社会を何とかするしかないわね。そういう解決策を取りたいなら、私が手助けしてあげられる」
手のひらに載せた卵のようなものを、女は近づけてくる。縞の中に浮かぶ、眼のような模様は見ている間も一定ではなく、まるで瞬きするように蠢く。
「これを使えば、あなたの望みは叶うわ。
これは、クイーンローパーの卵。
ただの卵じゃないわよ。あの魔界都市レスカティエ、傀儡王女フランツィスカ様の力の断片なのだから。
あなた達を縛っているもの、愛の邪魔になるもの、イリーデさんを奪っていくもの、全部滅茶苦茶にしてやりたいなら……これを受け取りなさい」
つい最近滅ぼされたはずの都市の名を聞いた気がした。
しかし、長い時間苦悩し続けた精神にとって、ようやく現れた光明はあまりに眩しすぎて、余計なことが考えられない。
促されるまま、クレスはその卵を受け取った。
手に持っていても、重量はほとんど感じられない。その代わり、何か凄まじいエネルギー、行き場を求めて荒れ狂っている激流のようなものが閉じ込められているように思える。
力の奔流のようなものが、卵の殻から染みでてクレスの肉体へ侵入する。
人ならぬ力は、彼の魂を完全に魅了した。
「使い方は、もう分かっているわよね。それを使って、欲しい物を手に入れなさい。
遠慮はいらないわ。権力使って好き放題やる奴がのさばる社会なんて、誰も望んでないんだから。その薬で、この街を癒してやりなさい」
「はい。ありがとうございます、王女陛下。
しかし……どうしてこんなに、私達に良くしてくれるんですか? 私は、主神兵ですよ」
「あら、そんなこと?
簡単よ。私達魔物娘は人間さんが大好きだもの。幸せになってほしいと、いつも思っているんだもの。
願わくば、私が助けた人間さんが、他の人間さんも助けてくれますように……って、そんなことばかり考えてるのよ、私は」
それだけ聞くと、クレスは彼女の望みと、自分のすべきことが全て理解できた。
卵を受け取り、ソファーから立ち上がるとすぐにその部屋を辞した。
一歩外に出てみれば、そこは見慣れた地元の町。あの窓のない部屋がどこにあったのかも、もう分からなくなっている。
それでも問題無い。必要な物は、もう手の中にある。意気揚々と、クレスは家路についた。
すぐに行動を起こしても良かったが、せっかくなので一日待つことにした。
ためらいや障害があったわけではない。ただ単に、イリーデのウエディングドレス姿を見てみたかったからだ。他の男のために着る花嫁衣装など見たくもないと思っていたが、もう事情が変わった。
今日イリーデは、クレスのためにこそウエディングドレスを着るのだ。
結婚式の当日。多くの使用人達にお世話され、まるで人形か、美術品か何かのように飾り立てられたイリーデを、クレスはそっと連れ出した。
咎められそうになったこともあったが、今、彼の中には得体のしれない魔力が漲っている。人間の一人や二人、何の障害にもならない。
首尾よく会場の隅、人気のない空き部屋に二人しけこんだ。
「クレス……? えっと、なんで、ここに……?」
「姉さん。姉さんは俺のこと、好き?」
脳が茹だって小難しい言葉を使えない。単刀直入に言った言葉は思いの外効果的で、イリーデの顔はみるみるうちに真っ赤になる。
「な、なに言ってるの、こんな時に……!」
「俺は姉さんのこと、好きだよ。愛してる。姉さんと結婚したいって、思ってるよ。
姉さんも俺のこと、嫌いじゃないよね。この前の夜、あんな事しに来たくらいだもんね」
オナニーのことを口にすると、逃げようとしていたイリーデの動きが止まる。
壁に背を預け、上目遣いで怯えたような視線を向けてくるイリーデは、何故かいつもより小さく、か弱く見える。
純白のドレスから露出した両肩や、きゅっと締めあげられた腰をもっと追い詰めたくて、イリーデの顔の両側、壁に手をついた。
「姉さんが俺のことを思ってくれたのは嬉しいよ。
でもやっぱり、姉さんを取られるのは嫌だ。俺は姉さんのものなんだよ。だから、なあ、いいだろ」
イリーデは、微かに震えながらも抵抗はしない。軽く眼を伏せたその表情が、まるで口づけを待っているように見えて、吸い付かずにはいられない。
花嫁の口を強引に犯しながら、ドレスの裾をたくしあげ下着を乱暴に降ろす。
僅かに分泌された粘液が糸を引く。あの夜、股でぬっちゃぬちゃ言わせていた事からも、相当濡れやすい体質だと分かる。
ぴっちり閉じた陰唇はいかにも処女らしいが、それに配慮している余裕はない。
欲望のまま、クレスは本懐を遂げた。
実の姉の処女を奪って、きっちり膣内射精までしてしまったが、ここまではまだ準備段階に過ぎない。
まだこれから本番が待ち構えているとも知らずに、イリーデは肩で息をしている。
結婚式直前、ウエディングドレス姿で夫ならぬ男に犯されたのだから当然かもしれないが、しかし彼女が落ち着くのを待ってはいられない。
何かやりきったような表情で、イリーデは口を開いた。
「クレス。お姉ちゃんのことをこうして愛してくれるのは、とっても嬉しいの。
お姉ちゃんも、出来るならずっとクレスと一緒にいたいし……夫婦になりたいと、思ってた。
でも、姉弟でこんなふうに愛しあうなんて、ダメなんだよ。誰も許してくれないの。
だから……今日のことは、誰にも言わないから。お姉ちゃん以外の、誰か素敵な女の人を見つけて、ね?
クレスが普通の幸せを見つけてくれれば、お姉ちゃんはそれで十分だから」
「大丈夫だよ、姉さん。誰の許しを得る必要もない。
俺達は俺達だけで、生きていけるんだよ」
困惑した様子のイリーデ、その女性器に隠し持っていた卵を挿れる。
先ほど処女を喪ったばかりの膣だが、愛液と精液と血液で濡れていたお陰ですんなり挿入できる。
女王の卵を体内に取り込んだイリーデは、すぐ違和感に気づいた。
「え? な、何これ、私……」
「怖がらないで。こうすれば、俺達は幸せになれる。
姉さんと結婚するのは俺だ。この結婚は魔物に祝福されているんだよ」
予め中に出しておいた精液が、卵を孵化させる。見る見るうちにイリーデの顔は上気し、眼は潤み汗をかき、喘ぐように呼吸し始めた。
「何を、何をしたの、クレス! 私、どうなって……!」
「今よりもっと強く、美しくなった姉さんを見せてくれ。それでやっと俺達は、俺達のために生きられるんだ」
深く息を吸い込む。数秒呼吸を止めて、ゆっくり吐き出すとともに、魔物の魔力がイリーデと、ウエディングドレスを取り込んでいった。
乾いた大地に雨が染みこむように、卵の魔力は浸透していく。ドレスの下腹部に黒紫色の点ができたかと思うと、みるみるうちに胸元や裾の方まで広がっていく。
白かったドレスを艶やかな黒に染め変えて、遂に卵は孵化し終えた。
そこに現れたのは、今までとは全く違ったデザインのドレスを纏ったイリーデ。
清純さを体現したかのように真っ白だったドレスは、漆黒に染め上げられている
もともとレースで装飾されていた裾や袖口や襟元には、赤黒い眼のような紋様が並んでいる。
露出度も上がっている。上半身の布面積は減少し、肩だけでなく乳房の上半分と谷間までも大胆に晒している。
下半身、スカートには深いスリットがいくつも入り、適度に脂肪のついた女性らしい脚を見せつけている。
ドレスに合うよう履かされた白いタイツも、イリーデの白い肌とのコントラストを生むため黒く変わった。
手首まで覆っていたはずの手袋は裾が伸び、肘の上までを黒く彩っている。
何より大きな違いは、服の内側から伸びる無数の触手だ。
ドレスの裏地から、あるいはドレスと肌との境目から伸びている濃紫色の触手は愛液のような粘液をたっぷり纏っている。落ち着きなく、ゆらゆらと宙を漂うそれら触手は、すぐにクレスを認識し、愛しげに擦り寄ってきた。
「あ、れ……? クレ、ス……?」
「姉さん。気分はどう?」
どことなくぼうっとした雰囲気のイリーデは、まだ全身に力が入りきらないようだった。壁に追い詰めて立たせたままというのもかわいそうなので、手近な長机までお姫様抱っこで運んで寝かせる。
イリーデには楽な姿勢をとってもらって、クレスは一旦部屋の外、周囲の様子を伺おうとした。姉をさらって少し時間が経ったので、もしかしたら追手が来ているかもしれないと考えたからだ。
が、何本か触手が手足に絡みついてきて、強く引き寄せられてしまう。ちょうど、机の上でイリーデを押し倒すような体勢になった。
「もう……どこいくの? お姉ちゃん放っていっちゃ、めっ」
クレスの真下から見上げるイリーデの瞳は、既に濁りきっている。
先程まであったはずの悲壮な自己犠牲の決意は影すらない。柔らかく緩んで蕩けた、淫靡な微笑だけがある。
クレスは成功を確信した。
「クレスはお姉ちゃんのものなんだから、勝手にどっかいっちゃダーメ。ちゃんと、分かってるの?」
「ごめんごめん。どこへも行かないし……行かせないよ」
「なら、ちゅーしてよ。弟くんの美味しい唾、お姉ちゃんに飲ませて……んっ」
言い終わるのを待たずして唇を合わせると、イリーデは目を閉じて、口内へ侵入してきたクレスの舌に自分のそれを絡ませた。
弟の背に両手を回し、強く抱き寄せて深い深いキスに耽る。
望み通り、たっぷり唾をまとわせた舌を挿入してやれば、じゅる、ちゅうぅっと淫らな水音が鳴る。静かな嚥下の音も性感を煽り、さながら口でするセックスとでも言うべきか。
子供の頃にせがんでしてもらった軽いキスとは全く異なる近親愛に、溺れた。
「ちゅぅ、んちゅ、んは、おーいひぃ……ん、うぅっ!」
「はぁ、あ、ねえさ、ん……!」
突然、クレスの男性器に冷たい感触。
イリーデに触られたのかと思うも、彼女の両手はまだクレスの胴を捉え続けている。となれば、答えは一つ。
「んふふ。んふふふ。……もう、がっひがひ、ねえ。おねーちゃんのちゅー、そんなによかったかな?」
下半身を見下ろして、クレスは自分の男性器に触手が絡みついているのを知った。
いつの間にか服は脱がされ、最大限に勃起させられた竿に細長い触手がまとわりついている。ローションのようにぬめる粘液を塗りたくられ、激しくしごかれている。
実際に自分のものが触手に犯されているのを見てしまうと、その視覚的刺激もあって快感が倍増する。
見た目こそおどろおどろしいが、イリーデの触手は触れるとプニプニして柔らかく、手触りもいい。滑らかな表面の感触は絹にも似ている。そんな触手に巻きつかれて、竿と裏筋と雁首をこすこすされれば、もう射精までそう保たない。
「おちんちんぐっちゃぐちゃにされて、興奮してるの? クレスって結構、ヘンタイ?」
「ヘンタイ、って……姉さんも俺の寝顔、オナペットにしてたくせに……!」
「そーよ。時々クレスの下着を嗅いだりしてたけど……やっぱりそれじゃ足りなかったわ。
かわいいかわいい私の弟の……残り香だけじゃ、我慢なんてできないわよっ」
さらりと衝撃的な事実を明かされたが、こうして実の姉弟で生セックスしてしまっているのだから、その程度、些細な事だろう。
姉が弟の肉体を欲してくれていると知って、クレスはむしろ嬉しいくらいだった。
「あ、また硬くなった。お姉ちゃんのオナネタにされて、嬉しいかった? 間近でオナニーされた時も、こんなふうに勃起してたのかな?」
「してたよ、当たり前だろ……」
「もー、気づいてたんなら言ってくれても良かったのに。知らんぷりしてごまかすなんて、クレスって意外と意地悪なのね」
「そう言うなよ。俺だって悩んでたんだ。
もし変なことして姉さんに拒まれたら、生きていけないしな」
「拒むなんて。お姉ちゃんは、弟くんのためならなんでもしてあげるよ。何したって、嫌いになんかならないよ」
かつての、控えめで慎ましやかな様子はかなり薄れ、こうして淫語混じりの甘い言葉を聞かせてくれるイリーデは、クレスにとってかなり不慣れなものだった。
しかし、魔物化によって人格が改竄されることはない。今のイリーデも、彼女の中にもともと存在していた一面なのだ。
そう思うと、幼い頃からの姉との思い出、その中で自分が密かに育んできた実の姉への欲望が一方通行でなかったと確信できて、クレスはひどく晴れやかな気分になった。
「……あー、でも、そう言えるのは今のお姉ちゃんだから、だよね。
前のお姉ちゃんだったら、そんなに素直になれないかも。
『だめよ、私達実の姉弟なんだから、こんなこと……!』とか、言ってたかもね」
背徳感を煽るセリフが真に迫りすぎていて、クレスの心拍数が急上昇した。
血流量が増えて、先走りが一層漏れる。絡みついた触手の先、イリーデにも彼の劣情は伝わる。
にんまり笑って、触手コキを加速させてきた。
「あ、今の興奮した?
本当に、お姉ちゃんのこと大好きなのね。……かわいいなあ。ああもう、こんなに可愛くって、お姉ちゃんに何させようっていうのかなあ!」
にゅるんにゅるんの触手が亀頭を撫でて、鈴口をつつく。
不規則に竿をしごかれながら敏感な部分をそんな風にいじめられると、クレスはあっさり屈した。
「姉さん、で、出る……」
「いいよ。お姉ちゃんので、気持ちよくなって、ね?」
求められるまま、二回目にしては勢いよく射精した。
触手の塊が精液で白く染まっていく。もともと粘液まみれだったところに更にザーメンをかけられたものだから、触手同士がひどく粘ついて糸を引いている。
流れ落ちた子種汁が黒いウエディングドレスに滴り、白いシミを作る。黒衣と白濁のコントラストに魅せられていると、服が独りでに動いた。浮き上がったかと思うと、触手から解放されたばかりの男性器にまとわりついてきたのだ。
「え、こんなこともできるのか」
「そうよ。お姉ちゃんはクレスと結婚するんだから。
だからこのウエディングドレスは、クレスのためのものなの。遠慮しないで、こっちにもぴゅっぴゅしていいよ」
もともとそれなりに上質な生地を使って仕立てられていたドレスだが、魔物の魔力で黒く造り変えられて、その手触りは遥かに良くなっている。
柔らかいビロードの様な、しっとりとした感触。触手の粘液と精液とでべたべたになった漆黒のドレスが、クレスのものを包み、覆い、撫で擦る。
触手姦の絶頂冷めやらぬ間に、服で犯されてしまってクレスは萎える暇もない。
いくら魔物の力が絡んでいるといっても、やはり衣服は衣服であり、快感の面では女性器や触手に優るべくもない。
しかし、今まさに姉が着ている服に、自分の汚いものを擦りつけるというのは、なにか異様に背徳的なものがある。
今もクレスを拘束し続けている触手たちを同じように、ドレスは意志あるもののように陰茎を抱きしめ、更に奮い立たせる。
見下ろすと、ドレスの向こう側、深く切れ込みの入ったスカートで辛うじて隠されている姉の脚や、ちらちら視界に入るもののなかなか見えない股などが、またクレスを煽る。
既にイリーデの一部となったドレスは強すぎず弱すぎず、絶妙な力を加えてくる。
ちょうどドレス越しに手で握られてしごかれているような感覚で、張り出たカリ首や裏筋なんかは特に丁寧に、複雑な構造にも布がぴったり張り付くように愛撫してくれる。
我慢汁と精液に浸された黒い布は、より深い色と光沢を得る。姉の晴れ姿をもっと汚したくて、漆黒のドレスに白い液をぶちまけたくて、クレスの忍耐は潰えていく。
先端をくるまれて、集中的に刺激されると限界が来た。
ものも言えず、クレスは服の上に射精していく。
夜色の綺麗なドレスに、白い汚れが広がっていく。
自分の精液が姉を犯していく様を見て、クレスはひどく満たされた気分になった。
「気持ちよかった? でも、服ばっかり気にしてちゃダメ。お姉ちゃんの事も、ちゃんと愛してくれなきゃ」
言われるまでもなく、クレスにとって愛する対象はイリーデ以外に存在し得ない。
ドレスをめくり上げると粘液と愛液とでびっしょびしょになり、ほとんど役目を果たしていない下着が目に入った。
パンツは先ほど、半ば無理矢理処女を奪った時に乱れたままだ。よれてズレて、太腿に引っかかって性器を隠せてもいない。何も履いていないよりもずっと扇情的な様を見ると、クレスの中にあった理性は完全に霧消した。
ぬるぬるして滑りやすいパンツを乱暴に掴んで引きずり降ろし、まだまだ萎えない男性器を近づける。亀頭を粘膜に触れさせて、言った。
「さっきはごめんよ、姉さん。痛かっただろ。初めてなのに、あんなことして。
でも、今度は大丈夫だから。安心しててよ」
「うん、分かってる。お姉ちゃんもさっきから、クレスのが欲しくて……我慢できないのっ。挿れて、滅茶苦茶に、して……!」
聞くと同時に、クレスはイリーデの中に挿入した。
人間だった時の彼女の膣内は、処女ゆえの硬さがかなり残っていた。気持ちよくないとまでは言わないが、ところどころ引っかかるような感触があり、破瓜の出血もあってかなり神経を使わされた。
しかし今は、入ってくるものを歓迎するかのような吸引と締め付けが、失神しそうなほど心地いい。
ヒダが多くて挿れているだけでも気持ちいい名器のことを俗にミミズ千匹と呼ぶが、この場合、さしずめ触手千本と呼ぶべきか。
細密で複雑な構造が、大量の潤滑液とともにクレスを愛してくれる。
触手に責められるより、服で擦られるよりもなお強烈な快感。
一瞬で射精させられそうになって、危うく堪えた。
「あは、クレスの、お姉ちゃんのにピッタリだ……姉弟だから、やっぱり相性が良いんだねぇ。気持ちいいよ、もっとズポズポして」
「姉さんの、すごいいいよ……俺はずっと、姉さんとこうしたかったんだ」
「……っ! あ、お、お姉ちゃんも……! ずっとずっと、昔からクレスとしたかったっ!
ドレス着てる時も、他所の人じゃない、クレスのお嫁さんになりたいって……そればっかり、考えてた、よっ……!」
喘ぎ混じりの淫語と近親愛の告白が、クレスの脳を灼く。瞬殺されそうなのを耐えながら、姉の子宮目掛けてガンガン突いていった。
両手両足に無数の触手が絡まってはいるが、動きを阻害されることはない。締め付けは弱めで痛みを感じることもないが、多量の粘液が滴って滑り、容易に逃れられそうにない。
別に逃げる必要はないのだが、優しく抱きしめられて二度と離れられないこの状況が、まるで彼らの近親相姦を象徴しているようで、滾った。
本当に触手で出来ているのだろうか、イリーデの膣内は突きこまれるクレスの亀頭を激しく抱きしめ、弱い辺りを執拗に責めてくる。
欲望の駆り立てるまま腰を前後させて、すぐに後がなくなる。
だがここで達してしまうのはもったいない。もっとイリーデにも気持ちよくなってもらいたい。その一心で、クレスは姉の胸に手を伸ばした。
ウェディングドレスの上半身部分はイリーデの体型に比して明らかに小さすぎて、おっぱいは本来有り得る以上に露出されている。
もともとそれなりのサイズを誇っていた彼女の乳房は魔物化によって更に膨張しており、ローパーの一部となった服の中で窮屈そうにしている。
胸元に手をかけて強引に引き降ろすと、解放された巨乳が嬉しげに揺れた。
生セックスでたぷんたぷん揺れるおっぱいに、クレスは無我夢中で吸い付く。汗などでしっとり湿った乳肌と乳首を口に含むと、ミルクのような甘い香りがいっぱいに広がる。先ほど処女を散らされたばかりでもう孕んでいるなど考えられないが、姉の乳はたしかにクレスの喉を潤しているように感じられた。
上半身と下半身を同時に愛されるのはイリーデにとっても予想外だったようだ。正常位で犯されながら授乳する快感で両目を蕩けさせ、甘い嬌声を聞かせてくれる。
「……ぅっ! おっぱい、いい、もっと吸って、飲んで! 私の可愛い子……ちゅうちゅうして、お姉ちゃんのおっぱいちゅうちゅうしてぇっ!」
残念ながらまだ母乳は出てこないが、それでも十分姉乳は美味い。
コリコリした乳首を唇や前歯で甘噛する度、下半身を捉える肉壷が潤み、ぎゅぅっと締まる。
イリーデを愛撫したい気持ちとイリーデに甘えたい気持ちとが混ざり合って、思わず豊乳に顔を押し付けてしまう。
母代わりだった姉の母性に溺れ、ひたすら乳を吸い、柔らかい乳脂肪の感触に酔う。
子供のようにおっぱいをせがむクレスを、イリーデは優しく抱いた。
「……可愛いな。カワイイよ、クレス。もう絶対離さない。死ぬまで一緒だからね。ずっとお姉ちゃんのものでいてね」
言われずとも、クレスは姉以外に所有されるつもりはなかった。姉を逃さないために、姉を魔物にさせたのだから。
おっぱいに抱擁されながら、姉膣を突きまくりながら、クレスはいよいよ高められてきた。
「姉さん、もう、出るよ。中に出して、いいよな」
「ふふ。弟くんの精液を無駄にするなんて、お姉ちゃん許さないよ。全部お姉ちゃんの子宮に出して、実の子供孕ませて、ね」
膣内射精を煽られると弟の生殖本能に火が着いた。
おっぱいを吸いながら、膣の奥、種付けする処に何度も男性器を突き挿れる。一回往復させるごとに愛液が溢れ、締りが増していく。
近親愛を昂ぶらせ、クレスは腰を打ち付けた。
もう実の姉に子供を作らせることしか考えられない。母親代わりでもあった姉の子宮に生中出しするのは、彼の胎内回帰願望めいた欲求も満たす。
今日はもう何度も射精したが、それでも限界はすぐ来る。
ぷりぷりした子宮口に亀頭を押し付け、魔膣の圧搾に抵抗せず、クレスはそのまま達した。
「っ……!」
「……で、出てる……!? 精液……お姉ちゃんのナカに、いっぱい……ィ!」
クレスが絶頂すると同時に、イリーデも近親妊娠アクメしたようだった。
喘ぐ息が短くなり、頬が紅に染まって眼の焦点が合っていない。
弟と交わってこんなにも激しく気をやってしまう姉が愛しくて、クレスは優しくキスをした。
「……ちゅ。好き。好きだよ。前から、ずっと……」
「んむ。……ぷは。はぁむっ……んじゅ、もっほ……あぁむっ……」
下半身で繋がり合いながらするディープキスは、姉弟に深い満足感をもたらした。
ひとしきりイチャついて、ようやく落ち着いた頃。
クレスはイリーデに言った。
「姉さん。この国には、愛し合っているのに結ばれない人たちがたくさんいるんだ。ちょうど、昨日までの俺達みたいに」
「そうね。お姉ちゃんみたいに主神教の力で引き裂かれた人、他にもいそうよね」
「でも、姉さんの力があればもうそんな人を出さずに済むんだ。
今なら、分かるだろ? 姉さんの力、その触手で、皆を開放してあげられるんだ」
そう言うと、答えるかように触手たちがうねる。イリーデも、納得したように柔らかく微笑んだ。
「そうね。私の中の力も、そうしたいみたい。もっといろんな人達を綺麗にしてあげたいって、言ってるよ。
よし。私達で、新しい国を作りましょう。愛しあう者達が誰にも邪魔されない、魔の国を」
扉の向こう、人が集まっているような音がする。突然姿を消した花嫁を、探しに来た者達だろう。こちらの気配を察して、荒々しく戸を叩く。
そう言っている間にも音は激しくなり、もう間もなく扉はぶち破られることだろう。それでいい。
「じゃあ姉さん、やっちゃおう。俺達の邪魔する奴らを、一緒に滅茶苦茶にしようじゃないか」
「いいわよ。弟くんの言うことなら、お姉ちゃん何でも聞いてあげるからね」
扉がこじ開けられ、使用人らしき人間たちが部屋に飛び込んでくる。
イリーデの触手は、濁流のように彼らを飲み込んで、廊下まで飛び出ていった。
14/05/04 23:33更新 / ナシ・アジフ