読切小説
[TOP]
マザーズ・リトル・ヘルパー
 桃谷 櫻子は家事が好きだ。
 今は亡き夫が残してくれた遺産と保険金のお陰で余裕ある専業主婦生活を送れている彼女にとって、家事は人生の張り合いであり、また一人息子の恭一郎を愛する手段の一つでもあった。
 故に、櫻子は料理も掃除も嫌いではない。どうせ他にやることも無し、息子が学校から帰宅するのを楽しみに思ってくれるくらい、家の中のことはきっちりしたいと思っていた。
 しかし洗濯に関しては、少し話が違った。
 といっても、洗濯が嫌いだというわけではない。どちらかというと好きなくらいで、もし可能なら一日一度と言わず、二度三度としたいとまで思っていた。
 どういうことかというと。
 自分と息子の服をカゴに詰めて洗濯機まで持って行こうとする時、いつも櫻子はシャツや下着から立ち上る男の匂いに悩殺されるのだ。
 高校に入ったばかりの恭一郎は日ごとに男らしく、たくましく成長している。その成長と新陳代謝の証となる汗の匂いは、櫻子の脳を毎日激しく揺さぶっていたのだ。
 朝、息子が家を出れば櫻子は家に一人。彼女を咎める人間は誰も居ない。
 三十代も半ばを過ぎた主婦の肉体が潤む。爛熟期の肉体はやり場のない欲望を持て余し、息子に申し訳ないと思いながらも誘惑に抗えない。
 この日も櫻子は恭一郎の下着を顔に押し当てて何度も深呼吸した。
 金と暇と肉体を持て余した主婦たる櫻子が外へ男を求めに行かないのは、実際にはこれが原因だった。
 思う存分男の体臭を味わうと、まるで罪滅ぼしをするかのように熱心に、丁寧に洗濯するのだった。

 午前中は誰に気兼ねすることも無く母親失格ものの痴態を一人晒す櫻子だが、夕方、息子が高校から帰ってきてからはそんな様子はおくびにも出さない。
 親子二人、慎ましく夕の食卓に着く。無論成長期ということもあるのだろうが、それを加味しても恭一郎は櫻子の料理をよく食べる。毎日それなりに手をかけて夕食を作っている当の櫻子としては、それだけでもう、何か報われたような気分になる。
 恭一郎の方も、食事をしながら学校であった話を色々話してくれる。櫻子にとって高校生活は遥か昔に過ぎ去ってしまった遠い思い出だが、息子の語る高校の様子は彼女の女子高生時代とそうかけ離れたものでもなく、なかなか楽しく聞ける。
 その日、恭一郎はクラスで何かの委員に選ばれたらしかった。男子と女子一人づつで、行事の運営をするらしい。早速今日、打ち合わせをしてきたそうだ。
 その話を聞くと、急に櫻子は自分の鼓動が早くなるのを感じた。恭一郎が、女と二人きりでいる場面を想像してしまったからだ。
 語る口調からすると、恭一郎は同じ委員のその女に対して、これといって特別な感情は持っていないようだった。
 しかし、男子高校生というものは人類の中でも特に流されやすい種族である。女と二人で過ごすうちに、何かがあってもおかしくない。
 母親として、息子が女子高生と親しくなるのを厭わしく思うのはおかしいと、理性では分かる。
 しかし、いざ息子が自分の手を離れていってしまうと考えると、まだまだ成長しきっていない両肩の骨組みや、男にしては細く長い指や、美味そうに自分の作った料理を味わう唇などが妙に目に止まって、名残惜しく感じてしまう。
 自分の青春時代を賭して産んだ息子が、かつての自分より若い女に持っていかれるのを、どうしても不条理に感じてしまうのだった。

 そんな、どこか落ち着かない夕食を終えた後。
 櫻子は風呂に入っていた。
 改めて見るまでもなく、四十歳を控えた肌である。金銭的な余裕があり、それなりに良い化粧品を使ってきただけあって、同年代の中では相当若々しい肉体だと自負していた。
 しかし言うまでもなく、十代のそれとは全く比べ物にならない。どんな高価な化粧品を使っても加齢の影響は隠し切れないし、そもそもそういうものを使っている時点で、素のままの自分では勝てないと宣言しているようなものだ。
 鏡で顔を見てみると、一見三十歳前後に見えないこともないが、やはり目尻の皺やほうれい線の存在が厳しい。化粧品を使えればもう少しマシなのだが、風呂場ではそれもかなわない。
 今のところ櫻子は、本気で息子の身体を貪ろうとまでは思っていない。そんなことをして息子に何か悪い影響があったら大変だと、彼女の中の母親らしい部分はちゃんと弁えていた。
 ただ、年々衰えていく自分と、日々男らしくなっていく息子との対比が切ないだけだった。
 櫻子は、結婚するのも出産するのも早かった。良い夫を見つけるには、できるだけ若いうちに手を打たなければならないと考えていたからだ。「鬼も十八 番茶も出花」などという古いことわざもさほど的はずれでないと思っていた。
 そうして裕福な夫を捕まえられたおかげで今、あくせく働く必要もなく親子二人でのんびり暮らせているわけだが、その代償として彼女の二十代はほとんど子育てに費やされた。
 そのことに、後悔はない。じっくり時間を掛けて選んだからといって、必ずしも満足行く結果を得られるとは限らないからだ。実際、打算的なところはあったが櫻子と夫との生活はまずまずうまく言っていた方だし、だからこそ夫は彼女のためにたっぷり遺産を残してくれたのだ。
 しかし、理屈だけでは感情を、肉体を抑え込めない。自分とは対照的に、のびのびと、健康的に育っていく息子の肉体と、いずれそれを奪っていくどこかの小娘に、嫉妬してしまう。
 痛む心を抑えて悶々としながら入浴していると、見せるアテもないのに、なんとなく普段より丁寧に体を洗ってしまった。

 風呂から上がった櫻子には、寝る前にすることがある。
 戸棚に置いてあるサプリメントを一粒飲むのだ。
 小指の先ほどの小さな黒い錠剤。光沢のないそのサプリを飲み始めたのはつい最近だが、目に見えて体の調子が良くなってきているのが感じられた。
 新聞だったかテレビだったか、最初にそのサプリの事を知ったのはどこだったかは思い出せないが、「なりたい貴女になれる!」「永遠の美をその手に!」「古い身体を脱ぎ捨てて、飛び立とう!」という売り文句になぜか心惹かれ、ネットで注文したのだった。
 買う前に掲示板などで効果の程や購入者の評価などを調べてみて、そのあまりの絶賛ぶりにやや疑問を抱いたこともあったが、飲み始めて分かった。
 これはとてもいいものだ。肌のハリも、飲み始める前と比べてずいぶん良くなっているし、腹や太腿の脂肪も僅かながら減ってきたように思える。垂れかけていた乳房まで若さを取り戻しつつあった。
 説明書きによれば、薬と違って、守らなければならない用法用量なんてものは無いらしい。ただ、飲みたいときに飲めばそれで目的は達成されると、「リリムの祝福」なるそのサプリメントは謳っていた。
 これを飲むとなんだか体が火照って、息子の体臭を嗅ぎたくなってしまうのだが、櫻子はそれも若返りの影響だと考えていた。

 櫻子が三十代の欲望を抑圧しながらも、表面上穏やかな生活を送っていた頃。
 ある朝、いつもの様に息子の下着を嗅いでいたのだが、その日はいくら嗅いでも発汗が収まらなかった。
 心臓は脈打ち、股が汗とその他の液体でじっとりと濡れる。洗濯物を放り出して、誘われるようにふらふらと歩いて行った先は息子の部屋。
 膝を突き、ベッドに倒れ込む。一晩中寝汗を吸ったシーツから男の匂いが立ち上り、櫻子を駆り立てる。女の性欲は三十前後で特に高まるというが、それにしてもここ最近の彼女の発情ぶりは異常だった。
 今も、欲情を抑えるために息子の部屋に来たのに、臭いを嗅いでいると身体の熱は下がるどころかますます上昇し、一度しか子を孕んだ事の無い子宮が甘く疼いてしまう。
 ベッドに登り、枕に顔をうずめ、バックで男に犯される時のような体勢を取る。
 目を閉じて恭一郎の顔を思い浮かべると、自然と右手が股間へ伸びる。糸を引き始めた下着を脱ぐのももどかしく、ムリヤリずらして陰唇に触れる。何年も使われていない膣口は、女の細い指すら貪った。

 息子の部屋で、息子のベッドの上で、息子に犯されることを想像しながらする自慰は背筋が凍るほど背徳的で、櫻子は心の中で「もう絶対しない」と呟きながらも、その誓を守るのを諦めていた。
 手も股も下着もひどく汚してしまって、洗濯する前に自分を清めなくてはならない。ため息混じりにベッドから降りると、足先に何かが当たった。
 見ると、大判の本が何冊かベッドの下からはみ出ている。部屋に来た時は、興奮しすぎていて気づかなかったらしい。引っ張りだしてみると、やはりエロ本だ。
 年頃の男がこの手の本を持っていないほうがおかしい。理屈の上ではそうだが女の激情は止まらない。
 よく見てみると、漫画やら小説やらDVDやら、その手のものがどっさり出てくる。息子が何に、誰に欲情しているのか、どこの女が息子の性欲を引き受けているのか、知らずにはいられない。
 ざっと見た限りでは、恭一郎の性嗜好はあくまでノーマルなものらしく、胸の大きなお姉さんとの和姦を主題としたものが大半だった。
 同性愛やロリコンやハードSMと言った、明らかに逸脱したジャンルのものは見当たらない。櫻子の嫉妬心は、安心感によって打ち消された。
 本をパラパラめくってみると、背の折れ具合や癖のつき方などで、気に入ったらしい部分、よく使われている部分が何となく分かる。そこに出てくるヒロインは、顔と年齢はともかく胸の大きさや腰のくびれが、なんとなく櫻子に似ているような気もする。
 恭一郎はこの部分で射精したのだろうか、こんな身体の女が好みなのか、そんなことを考えているとまた下半身が潤んできて、櫻子は慌てて本を元に戻した。
 彼女が恭一郎の本を漁ったと、決してバレてはならない。息子に対する配慮ももちろんあったが、それ以上に、彼のオナペットを自分の目の届く範囲に置いておきたいという欲望のほうが強かった。

 またある日。
 体が若返っていくに連れて、ただ下着を嗅ぎながらオナニーするだけでは飽きたらなくなった櫻子は、恭一郎のベッドに寝て恭一郎愛用のエロ本を読みながら、彼が自慰しているところを想像しながら自分の膣を愛するようになっていた。
 妄想の中で息子のオナニーを観察し、そのまま童貞を奪って激しく愛しあい、膣内射精されるとともに絶頂。
 今日はゴミ箱の中に精液も残っていたので、思う存分その臭いを吸い込んで楽しんだ。
 床に這いつくばってゴミ箱に顔を突っ込む姿は絶対に見せられないな、と思うが、そもそも最近の櫻子の行動で他人に見せられるもののほうが少ない。
 嗅神経へ種付けされるような錯覚に酔い痴れていた時。ふと視界の端、引き出しの中からちょっと覗く紙切れに目が止まった。
 挿れ方が雑で、引っかかってしまったものらしい。なんとなく気になった櫻子が取り出してみると、なんとラブレターだった。
 日付は書いていないが、今日は平日。今ここにあるということは、少なくとも昨日以前に渡されたものだろう。
 差出人の名前には覚えがある。確か、同じ委員をやっているとかいう女だ。
 よくよく読んでみると、ラブレターと思ったのは櫻子の先入観によるものだったらしい。書いてある内容は「放課後、ちょっと残ってて」という程度のもので、使われている紙も便箋などではない、若者が友達同士でやりとりする小さなメモ用紙のようなものだ。恐らく授業中などに、こういう小さな可愛らしい紙に他愛もないことを書いてやりとりしたりするのだろう。
 それでも櫻子は、この手紙の出し主が恭一郎に告白したと確信できた。
 特に証拠は無いが、息子のことで分からないことはないと彼女は思っていたし、事実、ここ最近恭一郎に関する彼女の直感はよく当たる。帰ってくる数分前にそれと分かったり、彼が夕飯に何を食べたがっているか悟ったりといった経験が続いていた。
 さて、ここで気になるのは恭一郎がその告白になんと返答したかだが、これに関しても櫻子はすぐに答えを出した。
 彼女ができたにしては、浮かれる様子も、頻繁に外出したがることもない。知らない女の臭いもしない。間違いなく、恭一郎は告白を断っただろう、と。
 自覚なきままに非人間的な洞察を働かせていると、体の奥で何かが滾ってきた。
 他所の女が自分の男に手を出したという怒りと、幸い今回は恭一郎を奪われなかったという安堵とが混ざり合って、一刻も早く彼を自分のものにしたくなる。
 手紙をしまうと、櫻子は部屋を出て居間に戻る。
 戸棚から、「リリムの祝福」を取り出す。
 今、櫻子に必要なのは美と若さだ。恭一郎を捕まえて誰にも渡さないための力だ。
 これを飲み続けて彼女はもう随分若返った。きちんと化粧をすれば、20代と自称しても通るかもしれない。
 しかしまだ足りない。親子の絆を踏み越え、近親愛の禁忌を打破するためにはただの美では足りない。
 瓶をひっくり返してサプリメントを手に取る。5粒程度が掌に残り、それで瓶が空になる。つまり、これで十分ということなのだろうか。
 その5粒を、水も無しに飲み込む。胃まで行ったかと思うと、熱が爆発した。
 今までの若返り効果は単なる前兆に過ぎなかったのだと、この瞬間分かった。
 体の中心から、神経を通じて手足と脳と心臓へ電撃が走る。かさぶたを剥がした下に新しい綺麗な皮膚が生まれるように、櫻子の肉体そのものが造り変えられていく。
 全身が熱くなり、視界が真っ赤になる。手足と背中の皮膚の下がむず痒い。立っていられなくなり、櫻子は床の上に崩折れ、同時に意識を喪った。

 彼女が眼を覚ましたのは数時間後。窓から射す夕日が、元人間を覚醒させた。
 おもむろに立ち上がり、鏡で自分の姿を確認してみる。かつての自分とは大きく異なるその身体に、櫻子はひどく満足した。
 手足は綿毛のようなフワフワしたものに覆われている。髪の毛は色が抜け、限りなく白に近い薄紫。頭頂部からはブラシのような形をした触覚が一対生えており、黒目が大きくなり、強膜、白目だった部分は深紅に染まっている。
 そして最も大きな変化は、背中から生えた二対の大きな翼だ。肩甲骨付近から足元まで届く長大な翼には、目玉のような大きな模様がある。
 少し動かしてみると、翅に付着していた鱗粉が剥がれて宙を舞う。それが何なのか、どのようにして彼女を助けてくれるのか、教えられるまでもなく分かる。いちいち親から飛び方を学ぶ蛾など、存在しないのだから。
 回春効果も覿面で、鏡に顔を近づけてみても、あの忌々しい皺など一筋も見えない。二の腕や太腿を触ってみても、皮は弛まず余計な脂肪も付いていない。胸は明らかに大きくなり、しかも肌の瑞々しさを増している。これこそ、「リリムの祝福」の真の効能に違いない。
 背中には翅、そして腰辺りからは尻尾のような、蛾の胴体のような器官が出ており、既に櫻子の体型は人間のそれとは全く異なるが、立っていても歩いてみても特に違和感は無い。むしろ、人間だった時よりも調子がいいくらいだった。
 地を這う虫が繭を作り空へ飛び立つように、老いつつあった人間は新たな姿へと羽化した。自分はこうなるために生まれてきたのだと、櫻子は確信した。
 新たな美しさを楽しんでいるうちに、もう恭一郎の帰ってくる時間だ。翅を羽ばたかせ居間に鱗粉を充満させ、暫し待つ。
 待ち人は、すぐに帰ってきた。

「ただいま……って、え? 母さん……だよ、ね?」

 入ってきた恭一郎が、櫻子を見て絶句する。
 それも当然のことだろう。ほとんど衣服を身に着けず、淡い色の蛾人間と化した母親を見て、驚かないはずがない。むしろ、一見して彼女を母親だと理解してくれたのを嬉しく思う。

「おかえりなさい。
 どう? 今の母さん、キレイでしょう? 人間なんかよりもっといいものに、なったんだから」

 言いながら櫻子は恭一郎の元へにじり寄る。鱗粉の効果と驚愕とで脚のすくんだ息子を、床のカーペット上へ優しく押し倒す。
 肌を合わせてじっくり嗅いでみても、息子の身体から他所の女の臭いはしない。改めて嬉しくなった櫻子は、恭一郎の右耳に顔を近づけ、囁いた。

「ねえ。あなた、最近女の子に告白されなかった?」
「え、なんで、それ知って……」
「告白されて、断ったんでしょう。なんで断ったの? 好みじゃなかった?」
「うん、まあ、そう。なんというか、もう少し……」

 異形の母に問い詰められて困惑したか、恭一郎はあまりにあっさり白状した。
 精力の有り余った男子高校生なら、女でさえあれば多少の不備は目をつむることも少なくないだろうが、理想を追い求めたいという潔癖さも、また若さの特徴だ。
 恭一郎の本に出てくる女性たちは皆、オーソドックスな巨乳美人だった。告白してきた何某はその条件から逸脱していたのだろう。櫻子にとって、この上なく好都合なことであった。

「そっかそっか。恭一郎は、おっぱいの大きな女の人が好きだもんね。大きくてハリがあって、全然垂れてないのがいいんでしょ。ちゃんと分かってるんだからね」

 程度の差こそあれ、綺麗な巨乳女を嫌う男はそうそう居ない。が、まるで自分の心の中を覗かれたように思ったか、恭一郎は顔を真っ赤にする。

「ね、そうなんでしょ。恭一郎のことは、何でも知ってるんだからね。
 ……母さんも、おっぱい大きいのよ? 恭一郎に吸われたせいでだいぶ萎んでたけど。
 今はほら、見て。大きくてぴちぴちで、いやらしいでしょう? 多分Hカップくらいあるわよ」

 目立たぬよう少しづつ動かしていた翅から、鱗粉が飛び散っていく。部屋の中に少しづつ、毒の粉が充満していく。恭一郎の眼が、まるで飲酒したかのようにとろんとしてきた。

「ねえ、母さんのにしときなさいよ。このおっぱい、恭一郎にならいつでも、いくらでも触らせてあげるから。お母さんのおっぱいは、息子のためにあるんだから。
 吸っても揉んでも、好きにしていいから、他所の女なんかじゃなくて母さんにしときなさいよ。
 して欲しいこと、なんでもしてあげる。何したって嫌いになんかならないから。ね?」

 三十過ぎの女と男子高校生では、もとより勝負にならない。それに加えて母親、そして魔物となれば、若い男の勝機は万に一つも無かった。
 妙齢の女に、自分が生まれた頃からずっと守り育ててくれた母に本気で口説かれて、二十年も生きていない若人の理性は耐えられない。近親タブーも忘れて、恭一郎は十数年前のように母親の乳首に吸い付いた。
 かつてと全く同じ勢いで息子に乳を吸われ、櫻子の母性が爆発する。世界で誰より愛しい男に甘えられ、必要とされることで櫻子の魂は震え、鱗粉は一層激しく舞い散る。
 恭一郎は左の胸に顔を埋め、乳首を甘咬みしながら頬を凹ませて母乳をねだる。左手は櫻子の右乳を掴み、乳腺と乳首を荒々しく刺激している。
 母性の塊に、甘い電流が走る。もし櫻子が出産直後だったなら、即座に母乳を噴いていたであろう。彼女は比較的、乳の出やすい体質だった。
 実際、噴くとまではいかないが、実の息子に乳を搾られたり吸われたりすると、子供に授乳してやりたいという母親の本能が刺激されたか、少しづつ母乳が漏れてきた。
 雫が少しづつ垂れ落ちる程度の、ごく僅かな母乳だったが、それでも大きな子供は嬉しげに啜る。
唇と胸との間でしつこく響く水音が卑猥だった。
 量は少なくとも快感は並ならぬ程で、乳首を潰され強引にミルクを搾り取られて、快感のあまり櫻子は主導権を失いかけていた。
 まだこの体に変化して間も無いせいか、乳腺はなかなか母乳を分泌してくれない。子供に吸われ、もみほぐされると身体の変調に追いつかない乳房がきゅんきゅん疼き、おっぱいだけで失神しそうなくらいだった。
 揉まれ吸われ求められ、女としても母親としても絶頂させられ、ほとんどイきっぱなしで思考も覚束ない。
 授乳が幸せすぎて、思わず恭一郎を抱きしめる。上半身だけでなく下半身も密着して、がちがちになった息子の男性器を押し付けられて、櫻子の精神は完全に人外のそれとなった。
 おっぱいを押し付けて口封じにして、有無を言わさずズボンを引き下ろす。我慢汁で淫らに光る亀頭に、じっとり湿った陰唇を寄せる。母親が自分に何をしようとしているか悟った恭一郎が、さすがに動揺する。

「ちょ、母さん、それは……!」
「いいの。いいのよ。恭一郎は、母さんのここから生まれてきたんだから。
 だから、ここを通って、母さんのナカに戻っていらっしゃい。ずっと母さんが、守って、可愛がってあげるからね」

 それ以上は、言葉を発する余裕すら無い。渇望の駆り立てるまま、櫻子は授乳しながらゆっくり腰を降ろし、息子の男性器を、かつて彼が通った膣道へ飲み込んでいった。
 何年もずっと自慰ばかりで、本物の男を与えられてこなかった女陰は、悦んで硬く若い肉茎を抱きしめる。年齢を重ねることでほぐれ、柔らかくなった膣ヒダが亀頭を撫でて、実の息子の遺伝子を求めて潤む。
 父親が居ないことで色々不便もあったろうに、それでも真面目で母親思いな、いい男に育ってくれた恭一郎を騎乗位で犯す。櫻子の母性本能が暴走するのを感じる。大事にしてあげたい気持ちと滅茶苦茶にしてやりたい気持ちを、もう区別できない。
 ただ、若さと引き換えに産んだこの青年を自分のものにするのは、とても合理的に思えた。せっかくここまで育てたものを、他所の女にただやってしまうほうが理屈に合わない。母から生まれたものは母へと戻るべきなのだ、と。

「母、さん、これ、すごいよ……!」
「ふふ。恭一郎は、セックスするの初めて? 女の人と生でエッチしたこと、ある?」
「無いよそんなの、あるわけない……」
「そう。じゃ、母さんに全部任せてね。なんにも我慢しなくていいから、母さんの子宮にザーメン好きなだけ出してね」

 息子の初めてを奪って、それだけで軽くイきかける。
 普通なら、恭一郎はこのまま健康に育ち、いずれはどこかの女と結ばれ家庭を持つことになるのだろう。櫻子はそれを見ながら、ただ老いていくしかなかっただろう。
 しかし「リリムの祝福」が、彼女をその残酷な運命から救ってくれた。若く強く美しく、高校生の男と並んで歩いても全く見劣りしない、良い女になれた。
 人間でなくなったことに、後悔は全くなかった。若返り、美人になったのを悔やむ女が、一体どこの国に存在しうるというのか?
 母親が人間をやめ、更にそのまま近親相姦で童貞喪失と、異常事態の連続で恭一郎も思考が追い付いていないらしい。ただ、与えられる母乳を舐めながら母親の騎乗位搾精に翻弄されるばかりだ。
 全く無力で、ただ愛されるばかりの息子が愛おしい。昔風呂で見た時とは全く違う、大きくて男らしい陰茎が魔物の子宮を突き上げる。身体を下げて竿を根本まで飲み込むと、先走りを漏らし続ける亀頭が母親の胎内まで届く。長さも太さも相性抜群だ。やはり遺伝子を共有していると、セックスの具合も良くなるらしい。
 恭一郎の顔の上でおっぱいをひしゃげさせ、膝を立てて離れられないようできるだけ密着しながら腰を動かすと、反り気味の男根が膣の天井付近をごりごり擦ってくる。少し体重を掛けて、張り出たカリ首がその辺に当たるようにしてみると、視界が白くなった。

「っ……!」
「ちょ、きつ、きついよ、母さん……!」

 ここがいわゆるGスポットという所なのだろうか。軽いエクスタシーで、どろっとした濃い愛液が溢れる。ベタベタにした竿を、狂った膣が熱烈に愛する。
 快感を知ってしまうと、もう元には戻れない。こんな気持ちいいセックスをしてしまえば、前みたいな普通の親子関係には戻れない。血の繋がりあった親子で毎日セックスして中出しする、狂った世界で生きるしかない。それこそが、櫻子の望みだったのだ。

「……! あ、もう、母さ、……!」
「いいのよ、そのまま射精して。お母さんの子宮に、若くて美味しい精液、たくさん出しなさいね」

 膣外射精なんて許す訳にはいかない。組み伏せるような体勢で膣を締めながら、母は息子を追い詰める。
 年上女性が本気を出せば、十代男子の忍耐など無いに等しい。実母とのセックスに恭一郎は屈する。
 櫻子が腰を落として膣を締めて抱きしめると、腹の奥に温かみがじんわりと広がる。
 決して逃さぬよう捕らえた男根が、拘束を嫌うかのように跳ね、暴れる。その度に櫻子の中に息子の童貞精液が撒き散らされ、長らく待たされていた子宮が狂い喜ぶ。恭一郎の近親膣内射精で、櫻子も絶頂し切っていた。
 胎内に濃厚なザーメンが満ちていく感覚が脳を灼く。息子の子種を受け止め、腹をタプタプにされ続けていると快感が止まず、ずっとイきっぱなしになってしまう。
 膣がきゅっと狭まり、まだ射精し続けている男性器を搾る。出口を失ったザーメンは櫻子の中で揺れ続け、彼女を狂わせ続ける。
 電流を流されたような激しい感覚の中、櫻子は思考することもできない。ただ、この魔物の身体で人間との間に子を作ることは出来るのだろうか、もし息子の子を孕めるなら、それはどんなに素敵なことだろうかと、ぼんやり感じていた。

 二人して生セックスの快感が激しすぎて、しばらく意識を失っていたらしい。
 最初に眼を覚ましたのは櫻子。床の上で裸になって恭一郎を抱きしめている自分を発見すると、二人でしていたことを思い出して、胸が幸福でいっぱいになる。
 息子のものは萎えて膣から抜け落ちており、たっぷり中出しされた精液もほとんど床に流れ出ている。少しもったいないが、これからいつでも、何度でも膣内射精させられるのだ。気にするほどのことでもない。
 かなり勢い任せに襲ってしまって、もしかしたら後で恭一郎に怒られるかもしれない。彼の年頃なら、「若さと美のために人間性を捨てる」ことを嫌悪する可能性もある。
 しかし、同じ家で暮らす親子なのだから、分かり合うための時間はこれからいくらでもある。じっくり語り合って、母の愛情を分かってもらえばいい。
 櫻子が身体を起こしかけると、眠り続ける恭一郎が彼女の乳首を咥えたままであることに気づいた。口寂しいのか、櫻子の動きを追うように頭を持ち上げ、おっぱいを吸い続けている。
 彼女の中の母性がまた熱を持った。乳を欲しがる子供には、たっぷり授乳してやらなければならない。それが母親の務めだ。
 すっかり自分のものとなった息子を、櫻子は熱烈に抱いた。
14/04/12 15:31更新 / ナシ・アジフ

■作者メッセージ
クロビネガで実母ネタをやったのはもしかして私が初めてでしょうか。
7位の子と17位の子を上へ押し上げるオペレーションに戻ります。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33