稲荷の嫁入り
ジパングのある所に、清延という商人がいた。
丁稚十年、手代十年の計二十年を勤め上げ、数年前に暖簾分けを許された、若いながらも一国一城の主と言える男である。
その清延には、朝晩欠かす事のできない大好物があった。油揚げである。
小さな頃からほとんど毎日食べているというのに、一向に飽きが来ない。饂飩やら蕎麦やらに入れて楽しむこともあったが、大抵の場合は単体のおかずとして、毎食一枚は食べていた。
それだけならばまあまだ普通の事と言えるのだが、清延にはもうひとつ変わったところがあった。
彼は自分の食べる油揚げを自分で選ばなければ気が済まないらしく、直々に豆腐屋に出向いては宴会でも開くのかという程の量を買って帰るのだが、その時必ず、街の外れにある稲荷神の小さな社に油揚げを一枚供えていくのだ。
清延曰く、「油揚げの好きな奴に悪い奴は居ねえ。神さんなら尚更よ」とのことだが、実際自分が丁稚時代の厳しい生活を耐え抜き、自分の店を構えることができたのも、商売繁盛を司る稲荷神の御利益あっての事だと考えていたのだった。
さて、その清延が、一日の仕事を終え自分の部屋へ戻り一息付いていた頃。今夜はたまたま使用人が皆出払っており、この家には自分独りだった筈が、俄に階下が騒がしくなった。
男数人の、怒声と物音。いつもより厳重に戸締りをしたはずだが、と階段の上から下を伺うと、果たして人相の悪い男たちが、扉を押し破って侵入してくるところだった。押し込み強盗である。
独力で、武装しているであろうならず者複数を撃退できる当ては、清延には全く無い。どうにかして番屋に知らせねば、と思うも、なんと窓の下、表と裏口にも見張りが居るようだった。
一階を素早く物色し終えて、盗賊たちは二階へ上がってきた。なんとかやり過ごそうと隠れてはみたものの、どうやら賊は店主の清延を探しているようで、あらゆる部屋の戸を開けては、物陰を探っている。恐らく売上金を仕舞った金庫の場所と開け方を吐かせようとしているのだな、と清延は怯えながらも推測した。
時を待たず、清延は盗賊一味に捕らえられ、手足を荒縄で拘束されてしまった。頭らしい男が刀を清延の首筋に突きつけ、恫喝する。
「……俺らかて、畜生働きは出来ればやりたくねえ。この家に溜め込んだ金、残らず俺らに引き渡せば命は勘弁してやる。分かってんだろ?」
「……」
清延としても、金で命が助かるならそうしたい。しかし清延の店は近々大口の取り引きを行う予定であり、そう易々と金を諦めるわけにもいかないのだった。
取り引き一回がお釈迦になるだけならまだしも、それで信用を失ってしまっては今後の商いに影響が出るかもしれない。人の下で働いていた嘗てとは違って、彼の肩には店で働く使用人たちの命運も掛かっている。どうにか逃げ出して、番屋に通報できないか、と抗う清延を見て、盗賊の頭は口角を釣り上げた。
「……時間も迫ってるしな。腕の一本でも貰えば、店主殿も聞き分け良くなるだろうよ。お前、やってやれ」
「!!」
言葉を受け、背後に立っていた賊の一人が刀を振りかぶるのを清延は感じた。全身が総毛立ち、背筋に冷たいものが走る。絶望しかけた瞬間、
「その御方に触れるな、外道ども……」
夜気より冷たい怒気と神気を孕んだ声が、店に響いた。
盗賊たちが、声の放たれた方へ振り返り、驚きに声を失う。清延も遅れて、声を発したと思われるその女を見て、肝を潰した。
薄紫の着物を纏った、眼を見張るほどの美人がそこにいた。いや美『人』と呼ぶのは不適切かもしれない。彼女の頭の上にピンと立つ一対の狐耳と、尻の辺りから生えているらしい、薄い焦げ茶色をした五本の尻尾は、その女が人間でないことを示すに余りある。
異形の麗人は、しかしその顔を憤怒に歪ませていた。もともと吊り気味らしい切れ長の目は一層眦を鋭くし、形の良い、薄桃色をした唇の間からは肉食獣の如き犬歯が垣間見える。清延たちの方へ一歩足を進め、女は言った。
「今すぐ、清延様の縛めを解いてここから立ち去れ。そうすれば命までは取らぬ」
得物を持った賊に向かって傲岸とすら言える言葉を放つこの女に、清延は見覚えが全く無かった。使用人の中にも、昔の奉公先にも、こんな美女は居なかったはずだ、いたとしたら印象に残らないわけが無い、と。
「何だてめえ!ここのもんか!?」
「立ち去れ、と言っているのが分からぬか?人相だけでなく頭も悪いとはな」
明らかな挑発に、盗賊たちが色めき立つ。清延を囲っていた賊たちが、刀を構えて女に突進する。しかし、女は身じろぎもせず、ただ呟く。
「くくっ、我に勝てると思うてか?」
瞬間、女の手から轟音と共に稲光が走る。狙い違わず雷撃は狼藉者を撃ち、突っ込んだ者たちは一人残らず床に倒れ伏した。
部下を一瞬の内に倒され、事此処に至って盗賊団の頭もこの女が只者ではないと理解したようだった。刀を構え半身になり、じりじりと後ずさる。
「お前、妖術使いか……?なんで、こんな店に……?」
「立ち去れ、とまだ言わねばならんか?その御方に無体を働いたというだけで、貴様ら全員縊り殺してやりたいぐらいなのだぞ……?」
「やはりこの家の……?ならば」
頭の手が清延の襟に伸びる。人質にでもするか、それとも単に盾として使おうとしたのか。が、しかし、その手が物を掴むことは無かった。
「身の程知らずが!」
「う、がああああああっ!!」
伸ばした腕の、肩から先が真っ黒に焦げていたからだ。勢い余って店の壁や床にまで穴をあけるほどの大きな雷撃が、頭の腕を焼いたのだ。
右腕を失い、床に倒れ、刀も取り落としただ苦悶し続ける頭に一瞥もくれず、女は言った。
「清延様。今からその縄を解いて差し上げますので、番屋に連絡をお願いします」
「あ、ああ、分かった。しかし、そなたは一体……?」
「そのことは、後ほどゆっくりとお話させていただきます」
予想もつかない結果に終わったが、ひとまず店の財産が守られたことに、清延は安堵していた。
ならず者を引渡し、初めて清延は謎の美女と落ち着いて話すことができた。悪漢から救ってくれたことでこの女が自分に害意を持たないことは分かっているが、逆に言えばそれ以外のことは何も知らない。
「まずは、そなたの名前を聞かせてはくれないか。俺の名前は清延……といっても、もう知っているようだが」
「はい。私の名前は有華。清延様のことは、もう随分と昔から存じております」
「それが分からないのだが……俺は、そなたのような人とは会ったことも話したこともないと思うのだ。恥ずかしながら、今まで商いの修行一本で生きてきたもので、女と関わること自体が少なかったゆえ」
そう清延が告白すると、有華の顔が微かに綻んだ。先程暴漢を妖しい術で叩きのめした時の、憤怒の色は既に無い。
「そう仰るのも無理はありません。私は人ではありません。清延様がずっと大事に思って油揚げを分けて下さった、稲荷神で御座います」
これを聞いて清延はいよいよもって驚いた。元より信心深い方で、それ故油揚げの奉納なぞを行って来たものだが、それがこんな形で報われるとは。
突拍子も無いことではあるが、清延はしかしこれを信じようと思った。有華の思うままに敵を射ぬいたあの雷はどう考えても人間の手になる業ではないし、稲荷への奉納も多くの人に公言したわけでなく、知っている人はごく限られているはずだからだ。
「一応確認したいのだが、俺が油揚げの奉納を始めたのは、何年くらい前のことか、教えてくれるか?」
「あれは確か20年ほど前の、清延様がまだ丁稚奉公を始めたばかりの頃でしたか。自分の為に使えるお金も限られているでしょうに、時々油揚げを分けて下さいましたね。この地に来て私も長いですが、あれほど嬉しいことは御座いませんでした」
「正解だ……すると、そなたはやはり」
「はい。清延様の長年の御恩に報いるため、こうして参りました」
そう言うと、有華は上体を深く倒し清延に詫びる姿勢を見せた。
「しかし、荒事は久しぶりのこと故、力加減を誤ってしまいました……御恩を返すはずが、逆にお店に傷をつけてしまい、誠に面目次第もありません」
「ま、待ってくれ。確かに店に穴はあいたが……そもそもそなたがいてくれねば、俺は今もこうして生きていたかどうか分からぬ。礼を言うのはこちらの方だ。どうか顔を上げてくれ」
そう清延が懇願しても、有華は体を起こそうとはしない。
「しかし、人から受けた恩には必ず報いるのが我々の掟。このような顛末に終わっては、稲荷の名折れとなります。
そうだ、清延様。今、何か欲しいものはありませんか?」
姿勢はそのままに、顔だけを清延へ向けて有華が問う。
まさか稲荷神が恩を返しに来るとは思っても見なかった清延としては、いきなりそんなことを聞かれても返答に困る。寧ろこのような体勢を取られると、着物の向こう、有華の規格外に大きな乳房が垣間見えてしまいそうで、より一層考えがまとまらなくなる。
「……そう言われても、な。こうして自分の店も持てて、商いも順調だ。これといって足りないものは無いと思うのだが」
「無欲は素晴らしいことだとは思いますが、私としてもこのままでは収まりがつかないのです。何か、求めるものはお有りにならないので……?」
言われて、清延はしばし考える。一人の男として、まず守るべき店は既に手に入れた。とすると、次は何だろうか。
「……そういえば、俺にはまだ嫁の来てが無かったな」
「嫁ですか!?」
その言葉に、有華が今までに無い勢いで食いつく。清延としては、やはり男としては家庭を持って初めて一人前と呼ばれるべきだろう、下働きでいたときは結婚はおろか遊郭･女郎遊びすら許されなかったからな、と思って何気なく口に出した言葉だったのだが、ここまで激しく反応されるとは思っていなかったため少なからずたじろぐ。
そんな清延の戸惑を知ってか知らずか、有華は畳み掛けるように問いかける。
「嫁、と言うと、どんな女子をお望みで……?」
「そ、そうだな。姉女房は身代の薬とも言うことだし、出来れば俺より年上の嫁さんがいいな。あとは
……、俺のやってる商売に、多少なりとも理解のある方がいい」
半ば押し切られるような形ではあるが、清延としても何時までも独身でいて良いわけは無い。折角の機会ということで、思いつくままに条件を並べることにしたのだった。
「年上に、商売ね。フフ、結構結構。他には?」
「他に……、ああ、そうだ。油揚げの好きな娘がいい。毎食一緒に、油揚げを食べられれば最高だ」
「油揚げ!?結構、誠に結構。他には?」
「……見栄えは、良いに越したことはないが、それよりも、俺のことを好きでいてくれる女子が良いな」
幼い時から、ずっと商いに接して生きてきた男である。金によって幸せになった人間も、不幸せになった人間も、同じくらい見てきた。
商人らしくはないだろうが、金の多寡によって人の幸福は決まらないと、清延は考えていた。勿論金は有るに越したことはないし、実際彼も金を増やすために日々の商いを行っているわけだが、しかし金のみで満ち足りた生を送れるかと言うとそうでもないことを、今までの経験から知っていた。
人生という重荷を共に背負える伴侶こそ、幸福な人生に必要なものだというのが、清延の哲学であった。伴侶と苦労を分かち合うために必要なものこそ、愛であると。
武家や公家と違って、庶民には結婚の自由がある。なればその自由を満喫してこそ庶民の幸福があるだろう、と。
最後の条件に、有華は少しの間反応しなかった。やはり、いきなり「俺を好きになってくれる」などと条件を出すのは無茶だったか、と清延が後悔し始めたとき、有華は満面の笑みを浮かべ、言った。
「清延様。条件を全て満たす女を一人、御紹介できます」
「なに、居るのか、そんな奇特な御仁が。して、それは一体どなた」
「はい。既にここに、来ております」
言われて清延は思わず周りを見回したが、どこかの物陰にでも潜んでいるのか、視界にその嫁候補とやらを捉えることはできない。
辺りを見回す彼の様子を可笑しげに見ていた有華が、ゆっくりと、何処か勿体ぶるような調子で言った。
「そんなにきょろきょろしませんでも、ここに居ますわ。私、稲荷神の有華が、清延様の妻になります」
それを聞いて、清延は今日一番驚いた。有華のような麗人に言い寄られるなど、彼の今までの人生には全く無かったことである。
「よ、嫁!?そなたが!?」
「はい。私は稲荷……清延様のお出しになった条件は一つ残らず満たしております」
「し、しかし……」
「……清延様は、私が妻ではご不満ですか?」
そう言って、片手で軽く乳房を持ち上げてみたりする。和服には似合わないほど大きな媚乳が、軽く形を変え着物の合わせを割り開く。
「ま、待て、有華、そんな……」
「私、もうずっと前から清延様をお慕いしております。今まで機会が無く、言葉を交わすこともできませんでしたが……清延様の理想の嫁に、私ならなれます。清延様、どうか私を……貰って頂けませんか?」
積極的な言葉とは裏腹に、有華の瞳には捨てられることを拒む子供のような、縋るような色が浮かんでいた。
「私が、清延様の好みの女ではないというのでしたら、それは仕方のないことですが……私も、頑張りますから、良い妻になりますから……お側に、置いて頂けませんか?」
道で擦れ違った男が一人残らず振り向くであろう、妖艶な美女のそんな言葉に、清延の心はひどく揺さぶられた。このような美しい人をむざむざ悲しませるような、そんなことは人として男として出来はしない、と。命を救われた恩もあることだし、と清延は腹を括った。
「……嫁が欲しい、と言い出したのは俺の方だしな。お稲荷さんを妻に迎えるというのも、商売人としては光栄なことだろう。
そなたの申し出、ありがたく受けさせてもらう。有華、俺の所へ、嫁に来てくれ」
承諾の言葉を聞くや否や、有華は清延の体に飛びつき、首に手を回して耳元に唇を寄せた。まるで雨に打たれる捨て猫のようだった先程までとは打って変わった素早い行動に、清延は微かに、騙されたような気がした。
「ありがとう御座います。誰にも顧みられず、あの社と共に忘れ去られかけていた私を気に掛けて下さっていた清延様なら、きっと貰ってくれると信じておりました。
……では、こうして夫婦になったことですし、男女の契を……交わしましょうか」
獲物を狩り立て抵抗する暇も与えぬまま喰らう肉食獣のような手際の良さに、清延は最早戦慄すら覚えた。しかし彼の肉体は主の恐怖も知らず、脂の乗り切った豊満な美女に密着されたことで、かつて無いほどに滾っていた。
いきり立った肉棒を着物越しに感じ取ったか、有華は目を細め、如何にも好色そうな笑みを浮かべた。
「清延様も、もうすっかりその気のようですし、……早速、頂いてしまいましょうか」
手際よく清延の下半身を丸裸にし、脚を広げて跨る。有華が脚を動かすたびに、股からぐちゅ、ちゅと濡れた淫靡な音が微かに響く。その音は、清延にとっては捕食者の舌舐めずりと何らかわりなかった。
「お情け、頂きますね……?ん、んんっ!」
前戯が不要なほど濡れそぼった有華の女陰は、清延の亀頭が軽く触れただけで愛蜜を漏らし、床をしとどに濡らした。
まだまだ足りぬ、とばかりに淫膣は清延の陰茎を飲み込んでいく。薄桃色の綺麗な見た目とは裏腹に、その内部は無数の襞と絶え間なく分泌される淫水が容赦なく男性器を責め立てる魔窟であった。
ゆっくりと、まるで嫐るかのように時間を掛けて、竿の根元まで完全に咥え込む。亀頭の先から肉茎の付け根までを強く締め付けられたとき、ああ、俺はこの魔性の女が望むままに絶頂し、精を捧げるのだなと直感した。
「もう堪らない顔つきですわね清延様。そのお顔、もっと可愛く歪めてあげますっ……!」
そう言うと有華は猛然と腰を使い始めた。女の動きに呼応するように、膣内もうねり蠢き搾精を開始する。女性経験の少ない清延が、一分とてこの責めに耐えられる謂れはなかった。
「あ、ああっ、有華っ!こ、こんなの、もう……!」
「出したくなったら、いつでも膣内射精してくださいね……ちゃんと、吸って差し上げますから……」
膣の締まりが一層強くなり、文字通り精液を搾られるような感覚に襲われる。我慢のしようもなく、清延は淫乱雌狐の胎内に精を放った。
「ああんっ!ああ、いいっ!清延様の精液美味しいっ!美味しいですうっ!」
「が、ああっ!?なんだ、これ……」
清延の我慢が決壊すると同時に、搾精膣の様相が変わった。竿を扱く動きから、精液を吸い出す動きへと。まるで子宮に真空が生まれたかのようなその吸い上げで生まれる快感は、清延の魂ごと啜り上げるかとも思われた。
淫女の望むままに射精を強制され、脱力しかけた清延を、しかし有華は逃さなかった。仰向けに倒れようとする清延の上体を捕らえ、激しく口づけたのだ。
「ちゅ、ちゅぅ、じゅるるっ、……」
「……??」
口づけと呼ぶには余りに暴力的な、それは舌による陵辱。男の唇を割り開き、真っ赤な舌が歯茎から舌の奥まで余さず丹念にねぶり舐め回す。清延の口に自分の証を刻み、二度と離さぬことを誓うかのように。
口腔を愛撫され、唾液を口移しで飲まされた清延は、不思議と自分の肉棒が萎えないのを感じていた。いくら眼前の女が魅力的だと言っても、一度射精したあとも変わらず硬さを保っているのは、おかしいのではないかと。そんな彼の不審を見透かしたかのように、有華は語りかけた。
「私の唾には、男の人を元気にする力が篭っているのです。ずっと一人でいたのでその力も随分弱まってしまいましたが、こうしておまんこから精気を頂けたので……、もっともっと、清延様にご奉仕できますわ」
奉仕などという謙った言葉には全くそぐわない嗜虐的な笑みを浮かべ、有華は再び腰を使い出した。先程放った精液が女性器の襞に絡み、更に摩擦係数を下げる。射精すればするほど男を追い込む、凶悪としか言えない肉筒に、清延はただ翻弄される他無い。
さらに有華は、口を半開きにして息も絶え絶えな清延の唇をまたしても強引に奪った。下半身で搾精しながら、上半身では口唇愛撫を通じて精の源を送り込むという、淫らな精気の循環。有華の心身が満たされるまで、この饗宴は決して終わらない。
「……ずっと一人で、寂しかったんですからね……もう、私の方から陵辱しに行ってやろうかと、何度思ったことか……
今日のことだって、私はただ恩返しがしたかっただけなのに、貴方が……人の気も知らないで『嫁が欲しい』なんて言うから……我慢できるはず、ないじゃないですかぁ……」
自分の上で乱れる姿。店を壊したことを詫びる、貞淑そのものといった姿。暴漢に見せた、荒ぶる神のような姿。全く異なる多くの面を持つこの女は、まるで万華鏡のようだな、と薄れ行く意識の中清延は思った。
数日後。
自分たちの居ない間にいつの間にかやってきていた店主の嫁に、使用人たちは大層不審がったが、清延は上手くごまかした。
流石に商売繁盛･五穀豊穣を司ると言われるだけあって、家内･店内のよしなし事を実に手際よく取り仕切り、それでいて旧来の手代や番頭、何より店主清延の顔を立てることを忘れないその働きぶりで、有華はすぐに店中の信頼を得た。
そんなある日。
清延は、どこかから響いてくる濡れた音で目を覚ました。いつも起床する時間よりは幾分早いようだが、と思うと同時に下半身に強烈な快楽が走る。朝からこんな悪戯をするのはこの家には一人しか居ない。
「有華、何してるんだこんな朝っぱらから……!」
「あら、おはようございます旦那様。旦那様のおちんちんがあんまり硬くなってるものですから、妻としてついご奉仕して差し上げたくなって……」
朝勃ちという生理現象を知っていながら、空惚けて有華は言う。陰茎に絡みつく肉の感覚から、てっきり口淫を受けているものかと思っていた清延だったが、喋りながらも愛撫が止まらなかったところを見ると違うらしい。覚醒直後でなかなか言うことを聞かない身体にムチ打ち、下半身の方を見下ろすと、
「どうです?私のおっぱいも、お口やおまんこと同じくらい気持ちいいでしょう?」
彼の陰茎が、有華の巨大な乳房に挟まれていた。否、その大きさと柔らかさ故、挟まれているというよりは埋まっているといったほうが正しい。予め唾を塗された剛直が、竿に張り付くほど瑞々しい淫乳に責められ弄ばれる。左右の手で乳房を抱え、交互に、不規則に男性器を愛撫する。
女遊びの経験に乏しい清延は、女性の乳房で男性器を愛撫するパイズリという淫戯を知らなかった。どこまでも柔らかい乳房と、対照的に固く勃起した乳首。熱く火照ったそれらが与える直接的快感と、自分の醜い肉茎が有華の大きく綺麗なおっぱいに挟まれ嫐られているという視覚的刺激に、清延はもう我慢がならなくなった。
「ああ、これすごい、もう……」
「はい、この胸は旦那様だけのものですから……、思う存分射精して、汚してくださいね?」
挑発と共に裏筋をひと舐めされ、清延の忍耐は決壊した。本日の一番搾りが、有華の大きすぎる乳に降り注ぎ、谷間を真っ白に染める。一頻り射精が終わり、精を上半身でしっかりと受け止めても、有華は清延の肉棒を離そうとはしなかった。
「これからお仕事に出られるのに、精液の匂いをさせたままではいけませんよね?私がちゃんと、綺麗にしてあげます」
そう言うと、射精直後で敏感になっている男性器を、一気に喉奥まで咥え込んだ。あまりの刺激に清延が呻くも全く意に介さず、有華はお掃除を始めた。
「ちゅ、ちゅる、じゅうぅ、れろぉ……うふふ、尿道に残った精液も、全部吸い取ってあげます……」
「や、やめろ、そんなに吸われたら……」
絶頂したばかりの陰茎を、有華は舌、頬、喉奥、口腔全体で弄ぶ。快感とも苦痛ともつかない妖しい感覚に、清延のものはひくひく痙攣した。
「んふふふふ、ちゅるるるる、ちゅっ」
「が、ああ、っ、これ、すごい……」
「ちゅうう、うん、ふぁんなふぁまぁ、おふぉうじふぁのに、ふぉんなにおふゆもらふぁれふぁら、まふぁすふぁなふぁいふぇないふぁないふぇすか」
「な、あああ、やめて、咥えたまま喋らないで……」
「んふふふ。もういっふぁい、だふぃふぁいまふ?」
有華の舌が、亀頭を重点的に責めだす。昨日の晩も何度も妻に精を捧げたというのに、まだまだ満足には程遠かったらしい。骨の髄まで搾り取られるような思いをしつつも、清延は幸せだった。
丁稚十年、手代十年の計二十年を勤め上げ、数年前に暖簾分けを許された、若いながらも一国一城の主と言える男である。
その清延には、朝晩欠かす事のできない大好物があった。油揚げである。
小さな頃からほとんど毎日食べているというのに、一向に飽きが来ない。饂飩やら蕎麦やらに入れて楽しむこともあったが、大抵の場合は単体のおかずとして、毎食一枚は食べていた。
それだけならばまあまだ普通の事と言えるのだが、清延にはもうひとつ変わったところがあった。
彼は自分の食べる油揚げを自分で選ばなければ気が済まないらしく、直々に豆腐屋に出向いては宴会でも開くのかという程の量を買って帰るのだが、その時必ず、街の外れにある稲荷神の小さな社に油揚げを一枚供えていくのだ。
清延曰く、「油揚げの好きな奴に悪い奴は居ねえ。神さんなら尚更よ」とのことだが、実際自分が丁稚時代の厳しい生活を耐え抜き、自分の店を構えることができたのも、商売繁盛を司る稲荷神の御利益あっての事だと考えていたのだった。
さて、その清延が、一日の仕事を終え自分の部屋へ戻り一息付いていた頃。今夜はたまたま使用人が皆出払っており、この家には自分独りだった筈が、俄に階下が騒がしくなった。
男数人の、怒声と物音。いつもより厳重に戸締りをしたはずだが、と階段の上から下を伺うと、果たして人相の悪い男たちが、扉を押し破って侵入してくるところだった。押し込み強盗である。
独力で、武装しているであろうならず者複数を撃退できる当ては、清延には全く無い。どうにかして番屋に知らせねば、と思うも、なんと窓の下、表と裏口にも見張りが居るようだった。
一階を素早く物色し終えて、盗賊たちは二階へ上がってきた。なんとかやり過ごそうと隠れてはみたものの、どうやら賊は店主の清延を探しているようで、あらゆる部屋の戸を開けては、物陰を探っている。恐らく売上金を仕舞った金庫の場所と開け方を吐かせようとしているのだな、と清延は怯えながらも推測した。
時を待たず、清延は盗賊一味に捕らえられ、手足を荒縄で拘束されてしまった。頭らしい男が刀を清延の首筋に突きつけ、恫喝する。
「……俺らかて、畜生働きは出来ればやりたくねえ。この家に溜め込んだ金、残らず俺らに引き渡せば命は勘弁してやる。分かってんだろ?」
「……」
清延としても、金で命が助かるならそうしたい。しかし清延の店は近々大口の取り引きを行う予定であり、そう易々と金を諦めるわけにもいかないのだった。
取り引き一回がお釈迦になるだけならまだしも、それで信用を失ってしまっては今後の商いに影響が出るかもしれない。人の下で働いていた嘗てとは違って、彼の肩には店で働く使用人たちの命運も掛かっている。どうにか逃げ出して、番屋に通報できないか、と抗う清延を見て、盗賊の頭は口角を釣り上げた。
「……時間も迫ってるしな。腕の一本でも貰えば、店主殿も聞き分け良くなるだろうよ。お前、やってやれ」
「!!」
言葉を受け、背後に立っていた賊の一人が刀を振りかぶるのを清延は感じた。全身が総毛立ち、背筋に冷たいものが走る。絶望しかけた瞬間、
「その御方に触れるな、外道ども……」
夜気より冷たい怒気と神気を孕んだ声が、店に響いた。
盗賊たちが、声の放たれた方へ振り返り、驚きに声を失う。清延も遅れて、声を発したと思われるその女を見て、肝を潰した。
薄紫の着物を纏った、眼を見張るほどの美人がそこにいた。いや美『人』と呼ぶのは不適切かもしれない。彼女の頭の上にピンと立つ一対の狐耳と、尻の辺りから生えているらしい、薄い焦げ茶色をした五本の尻尾は、その女が人間でないことを示すに余りある。
異形の麗人は、しかしその顔を憤怒に歪ませていた。もともと吊り気味らしい切れ長の目は一層眦を鋭くし、形の良い、薄桃色をした唇の間からは肉食獣の如き犬歯が垣間見える。清延たちの方へ一歩足を進め、女は言った。
「今すぐ、清延様の縛めを解いてここから立ち去れ。そうすれば命までは取らぬ」
得物を持った賊に向かって傲岸とすら言える言葉を放つこの女に、清延は見覚えが全く無かった。使用人の中にも、昔の奉公先にも、こんな美女は居なかったはずだ、いたとしたら印象に残らないわけが無い、と。
「何だてめえ!ここのもんか!?」
「立ち去れ、と言っているのが分からぬか?人相だけでなく頭も悪いとはな」
明らかな挑発に、盗賊たちが色めき立つ。清延を囲っていた賊たちが、刀を構えて女に突進する。しかし、女は身じろぎもせず、ただ呟く。
「くくっ、我に勝てると思うてか?」
瞬間、女の手から轟音と共に稲光が走る。狙い違わず雷撃は狼藉者を撃ち、突っ込んだ者たちは一人残らず床に倒れ伏した。
部下を一瞬の内に倒され、事此処に至って盗賊団の頭もこの女が只者ではないと理解したようだった。刀を構え半身になり、じりじりと後ずさる。
「お前、妖術使いか……?なんで、こんな店に……?」
「立ち去れ、とまだ言わねばならんか?その御方に無体を働いたというだけで、貴様ら全員縊り殺してやりたいぐらいなのだぞ……?」
「やはりこの家の……?ならば」
頭の手が清延の襟に伸びる。人質にでもするか、それとも単に盾として使おうとしたのか。が、しかし、その手が物を掴むことは無かった。
「身の程知らずが!」
「う、がああああああっ!!」
伸ばした腕の、肩から先が真っ黒に焦げていたからだ。勢い余って店の壁や床にまで穴をあけるほどの大きな雷撃が、頭の腕を焼いたのだ。
右腕を失い、床に倒れ、刀も取り落としただ苦悶し続ける頭に一瞥もくれず、女は言った。
「清延様。今からその縄を解いて差し上げますので、番屋に連絡をお願いします」
「あ、ああ、分かった。しかし、そなたは一体……?」
「そのことは、後ほどゆっくりとお話させていただきます」
予想もつかない結果に終わったが、ひとまず店の財産が守られたことに、清延は安堵していた。
ならず者を引渡し、初めて清延は謎の美女と落ち着いて話すことができた。悪漢から救ってくれたことでこの女が自分に害意を持たないことは分かっているが、逆に言えばそれ以外のことは何も知らない。
「まずは、そなたの名前を聞かせてはくれないか。俺の名前は清延……といっても、もう知っているようだが」
「はい。私の名前は有華。清延様のことは、もう随分と昔から存じております」
「それが分からないのだが……俺は、そなたのような人とは会ったことも話したこともないと思うのだ。恥ずかしながら、今まで商いの修行一本で生きてきたもので、女と関わること自体が少なかったゆえ」
そう清延が告白すると、有華の顔が微かに綻んだ。先程暴漢を妖しい術で叩きのめした時の、憤怒の色は既に無い。
「そう仰るのも無理はありません。私は人ではありません。清延様がずっと大事に思って油揚げを分けて下さった、稲荷神で御座います」
これを聞いて清延はいよいよもって驚いた。元より信心深い方で、それ故油揚げの奉納なぞを行って来たものだが、それがこんな形で報われるとは。
突拍子も無いことではあるが、清延はしかしこれを信じようと思った。有華の思うままに敵を射ぬいたあの雷はどう考えても人間の手になる業ではないし、稲荷への奉納も多くの人に公言したわけでなく、知っている人はごく限られているはずだからだ。
「一応確認したいのだが、俺が油揚げの奉納を始めたのは、何年くらい前のことか、教えてくれるか?」
「あれは確か20年ほど前の、清延様がまだ丁稚奉公を始めたばかりの頃でしたか。自分の為に使えるお金も限られているでしょうに、時々油揚げを分けて下さいましたね。この地に来て私も長いですが、あれほど嬉しいことは御座いませんでした」
「正解だ……すると、そなたはやはり」
「はい。清延様の長年の御恩に報いるため、こうして参りました」
そう言うと、有華は上体を深く倒し清延に詫びる姿勢を見せた。
「しかし、荒事は久しぶりのこと故、力加減を誤ってしまいました……御恩を返すはずが、逆にお店に傷をつけてしまい、誠に面目次第もありません」
「ま、待ってくれ。確かに店に穴はあいたが……そもそもそなたがいてくれねば、俺は今もこうして生きていたかどうか分からぬ。礼を言うのはこちらの方だ。どうか顔を上げてくれ」
そう清延が懇願しても、有華は体を起こそうとはしない。
「しかし、人から受けた恩には必ず報いるのが我々の掟。このような顛末に終わっては、稲荷の名折れとなります。
そうだ、清延様。今、何か欲しいものはありませんか?」
姿勢はそのままに、顔だけを清延へ向けて有華が問う。
まさか稲荷神が恩を返しに来るとは思っても見なかった清延としては、いきなりそんなことを聞かれても返答に困る。寧ろこのような体勢を取られると、着物の向こう、有華の規格外に大きな乳房が垣間見えてしまいそうで、より一層考えがまとまらなくなる。
「……そう言われても、な。こうして自分の店も持てて、商いも順調だ。これといって足りないものは無いと思うのだが」
「無欲は素晴らしいことだとは思いますが、私としてもこのままでは収まりがつかないのです。何か、求めるものはお有りにならないので……?」
言われて、清延はしばし考える。一人の男として、まず守るべき店は既に手に入れた。とすると、次は何だろうか。
「……そういえば、俺にはまだ嫁の来てが無かったな」
「嫁ですか!?」
その言葉に、有華が今までに無い勢いで食いつく。清延としては、やはり男としては家庭を持って初めて一人前と呼ばれるべきだろう、下働きでいたときは結婚はおろか遊郭･女郎遊びすら許されなかったからな、と思って何気なく口に出した言葉だったのだが、ここまで激しく反応されるとは思っていなかったため少なからずたじろぐ。
そんな清延の戸惑を知ってか知らずか、有華は畳み掛けるように問いかける。
「嫁、と言うと、どんな女子をお望みで……?」
「そ、そうだな。姉女房は身代の薬とも言うことだし、出来れば俺より年上の嫁さんがいいな。あとは
……、俺のやってる商売に、多少なりとも理解のある方がいい」
半ば押し切られるような形ではあるが、清延としても何時までも独身でいて良いわけは無い。折角の機会ということで、思いつくままに条件を並べることにしたのだった。
「年上に、商売ね。フフ、結構結構。他には?」
「他に……、ああ、そうだ。油揚げの好きな娘がいい。毎食一緒に、油揚げを食べられれば最高だ」
「油揚げ!?結構、誠に結構。他には?」
「……見栄えは、良いに越したことはないが、それよりも、俺のことを好きでいてくれる女子が良いな」
幼い時から、ずっと商いに接して生きてきた男である。金によって幸せになった人間も、不幸せになった人間も、同じくらい見てきた。
商人らしくはないだろうが、金の多寡によって人の幸福は決まらないと、清延は考えていた。勿論金は有るに越したことはないし、実際彼も金を増やすために日々の商いを行っているわけだが、しかし金のみで満ち足りた生を送れるかと言うとそうでもないことを、今までの経験から知っていた。
人生という重荷を共に背負える伴侶こそ、幸福な人生に必要なものだというのが、清延の哲学であった。伴侶と苦労を分かち合うために必要なものこそ、愛であると。
武家や公家と違って、庶民には結婚の自由がある。なればその自由を満喫してこそ庶民の幸福があるだろう、と。
最後の条件に、有華は少しの間反応しなかった。やはり、いきなり「俺を好きになってくれる」などと条件を出すのは無茶だったか、と清延が後悔し始めたとき、有華は満面の笑みを浮かべ、言った。
「清延様。条件を全て満たす女を一人、御紹介できます」
「なに、居るのか、そんな奇特な御仁が。して、それは一体どなた」
「はい。既にここに、来ております」
言われて清延は思わず周りを見回したが、どこかの物陰にでも潜んでいるのか、視界にその嫁候補とやらを捉えることはできない。
辺りを見回す彼の様子を可笑しげに見ていた有華が、ゆっくりと、何処か勿体ぶるような調子で言った。
「そんなにきょろきょろしませんでも、ここに居ますわ。私、稲荷神の有華が、清延様の妻になります」
それを聞いて、清延は今日一番驚いた。有華のような麗人に言い寄られるなど、彼の今までの人生には全く無かったことである。
「よ、嫁!?そなたが!?」
「はい。私は稲荷……清延様のお出しになった条件は一つ残らず満たしております」
「し、しかし……」
「……清延様は、私が妻ではご不満ですか?」
そう言って、片手で軽く乳房を持ち上げてみたりする。和服には似合わないほど大きな媚乳が、軽く形を変え着物の合わせを割り開く。
「ま、待て、有華、そんな……」
「私、もうずっと前から清延様をお慕いしております。今まで機会が無く、言葉を交わすこともできませんでしたが……清延様の理想の嫁に、私ならなれます。清延様、どうか私を……貰って頂けませんか?」
積極的な言葉とは裏腹に、有華の瞳には捨てられることを拒む子供のような、縋るような色が浮かんでいた。
「私が、清延様の好みの女ではないというのでしたら、それは仕方のないことですが……私も、頑張りますから、良い妻になりますから……お側に、置いて頂けませんか?」
道で擦れ違った男が一人残らず振り向くであろう、妖艶な美女のそんな言葉に、清延の心はひどく揺さぶられた。このような美しい人をむざむざ悲しませるような、そんなことは人として男として出来はしない、と。命を救われた恩もあることだし、と清延は腹を括った。
「……嫁が欲しい、と言い出したのは俺の方だしな。お稲荷さんを妻に迎えるというのも、商売人としては光栄なことだろう。
そなたの申し出、ありがたく受けさせてもらう。有華、俺の所へ、嫁に来てくれ」
承諾の言葉を聞くや否や、有華は清延の体に飛びつき、首に手を回して耳元に唇を寄せた。まるで雨に打たれる捨て猫のようだった先程までとは打って変わった素早い行動に、清延は微かに、騙されたような気がした。
「ありがとう御座います。誰にも顧みられず、あの社と共に忘れ去られかけていた私を気に掛けて下さっていた清延様なら、きっと貰ってくれると信じておりました。
……では、こうして夫婦になったことですし、男女の契を……交わしましょうか」
獲物を狩り立て抵抗する暇も与えぬまま喰らう肉食獣のような手際の良さに、清延は最早戦慄すら覚えた。しかし彼の肉体は主の恐怖も知らず、脂の乗り切った豊満な美女に密着されたことで、かつて無いほどに滾っていた。
いきり立った肉棒を着物越しに感じ取ったか、有華は目を細め、如何にも好色そうな笑みを浮かべた。
「清延様も、もうすっかりその気のようですし、……早速、頂いてしまいましょうか」
手際よく清延の下半身を丸裸にし、脚を広げて跨る。有華が脚を動かすたびに、股からぐちゅ、ちゅと濡れた淫靡な音が微かに響く。その音は、清延にとっては捕食者の舌舐めずりと何らかわりなかった。
「お情け、頂きますね……?ん、んんっ!」
前戯が不要なほど濡れそぼった有華の女陰は、清延の亀頭が軽く触れただけで愛蜜を漏らし、床をしとどに濡らした。
まだまだ足りぬ、とばかりに淫膣は清延の陰茎を飲み込んでいく。薄桃色の綺麗な見た目とは裏腹に、その内部は無数の襞と絶え間なく分泌される淫水が容赦なく男性器を責め立てる魔窟であった。
ゆっくりと、まるで嫐るかのように時間を掛けて、竿の根元まで完全に咥え込む。亀頭の先から肉茎の付け根までを強く締め付けられたとき、ああ、俺はこの魔性の女が望むままに絶頂し、精を捧げるのだなと直感した。
「もう堪らない顔つきですわね清延様。そのお顔、もっと可愛く歪めてあげますっ……!」
そう言うと有華は猛然と腰を使い始めた。女の動きに呼応するように、膣内もうねり蠢き搾精を開始する。女性経験の少ない清延が、一分とてこの責めに耐えられる謂れはなかった。
「あ、ああっ、有華っ!こ、こんなの、もう……!」
「出したくなったら、いつでも膣内射精してくださいね……ちゃんと、吸って差し上げますから……」
膣の締まりが一層強くなり、文字通り精液を搾られるような感覚に襲われる。我慢のしようもなく、清延は淫乱雌狐の胎内に精を放った。
「ああんっ!ああ、いいっ!清延様の精液美味しいっ!美味しいですうっ!」
「が、ああっ!?なんだ、これ……」
清延の我慢が決壊すると同時に、搾精膣の様相が変わった。竿を扱く動きから、精液を吸い出す動きへと。まるで子宮に真空が生まれたかのようなその吸い上げで生まれる快感は、清延の魂ごと啜り上げるかとも思われた。
淫女の望むままに射精を強制され、脱力しかけた清延を、しかし有華は逃さなかった。仰向けに倒れようとする清延の上体を捕らえ、激しく口づけたのだ。
「ちゅ、ちゅぅ、じゅるるっ、……」
「……??」
口づけと呼ぶには余りに暴力的な、それは舌による陵辱。男の唇を割り開き、真っ赤な舌が歯茎から舌の奥まで余さず丹念にねぶり舐め回す。清延の口に自分の証を刻み、二度と離さぬことを誓うかのように。
口腔を愛撫され、唾液を口移しで飲まされた清延は、不思議と自分の肉棒が萎えないのを感じていた。いくら眼前の女が魅力的だと言っても、一度射精したあとも変わらず硬さを保っているのは、おかしいのではないかと。そんな彼の不審を見透かしたかのように、有華は語りかけた。
「私の唾には、男の人を元気にする力が篭っているのです。ずっと一人でいたのでその力も随分弱まってしまいましたが、こうしておまんこから精気を頂けたので……、もっともっと、清延様にご奉仕できますわ」
奉仕などという謙った言葉には全くそぐわない嗜虐的な笑みを浮かべ、有華は再び腰を使い出した。先程放った精液が女性器の襞に絡み、更に摩擦係数を下げる。射精すればするほど男を追い込む、凶悪としか言えない肉筒に、清延はただ翻弄される他無い。
さらに有華は、口を半開きにして息も絶え絶えな清延の唇をまたしても強引に奪った。下半身で搾精しながら、上半身では口唇愛撫を通じて精の源を送り込むという、淫らな精気の循環。有華の心身が満たされるまで、この饗宴は決して終わらない。
「……ずっと一人で、寂しかったんですからね……もう、私の方から陵辱しに行ってやろうかと、何度思ったことか……
今日のことだって、私はただ恩返しがしたかっただけなのに、貴方が……人の気も知らないで『嫁が欲しい』なんて言うから……我慢できるはず、ないじゃないですかぁ……」
自分の上で乱れる姿。店を壊したことを詫びる、貞淑そのものといった姿。暴漢に見せた、荒ぶる神のような姿。全く異なる多くの面を持つこの女は、まるで万華鏡のようだな、と薄れ行く意識の中清延は思った。
数日後。
自分たちの居ない間にいつの間にかやってきていた店主の嫁に、使用人たちは大層不審がったが、清延は上手くごまかした。
流石に商売繁盛･五穀豊穣を司ると言われるだけあって、家内･店内のよしなし事を実に手際よく取り仕切り、それでいて旧来の手代や番頭、何より店主清延の顔を立てることを忘れないその働きぶりで、有華はすぐに店中の信頼を得た。
そんなある日。
清延は、どこかから響いてくる濡れた音で目を覚ました。いつも起床する時間よりは幾分早いようだが、と思うと同時に下半身に強烈な快楽が走る。朝からこんな悪戯をするのはこの家には一人しか居ない。
「有華、何してるんだこんな朝っぱらから……!」
「あら、おはようございます旦那様。旦那様のおちんちんがあんまり硬くなってるものですから、妻としてついご奉仕して差し上げたくなって……」
朝勃ちという生理現象を知っていながら、空惚けて有華は言う。陰茎に絡みつく肉の感覚から、てっきり口淫を受けているものかと思っていた清延だったが、喋りながらも愛撫が止まらなかったところを見ると違うらしい。覚醒直後でなかなか言うことを聞かない身体にムチ打ち、下半身の方を見下ろすと、
「どうです?私のおっぱいも、お口やおまんこと同じくらい気持ちいいでしょう?」
彼の陰茎が、有華の巨大な乳房に挟まれていた。否、その大きさと柔らかさ故、挟まれているというよりは埋まっているといったほうが正しい。予め唾を塗された剛直が、竿に張り付くほど瑞々しい淫乳に責められ弄ばれる。左右の手で乳房を抱え、交互に、不規則に男性器を愛撫する。
女遊びの経験に乏しい清延は、女性の乳房で男性器を愛撫するパイズリという淫戯を知らなかった。どこまでも柔らかい乳房と、対照的に固く勃起した乳首。熱く火照ったそれらが与える直接的快感と、自分の醜い肉茎が有華の大きく綺麗なおっぱいに挟まれ嫐られているという視覚的刺激に、清延はもう我慢がならなくなった。
「ああ、これすごい、もう……」
「はい、この胸は旦那様だけのものですから……、思う存分射精して、汚してくださいね?」
挑発と共に裏筋をひと舐めされ、清延の忍耐は決壊した。本日の一番搾りが、有華の大きすぎる乳に降り注ぎ、谷間を真っ白に染める。一頻り射精が終わり、精を上半身でしっかりと受け止めても、有華は清延の肉棒を離そうとはしなかった。
「これからお仕事に出られるのに、精液の匂いをさせたままではいけませんよね?私がちゃんと、綺麗にしてあげます」
そう言うと、射精直後で敏感になっている男性器を、一気に喉奥まで咥え込んだ。あまりの刺激に清延が呻くも全く意に介さず、有華はお掃除を始めた。
「ちゅ、ちゅる、じゅうぅ、れろぉ……うふふ、尿道に残った精液も、全部吸い取ってあげます……」
「や、やめろ、そんなに吸われたら……」
絶頂したばかりの陰茎を、有華は舌、頬、喉奥、口腔全体で弄ぶ。快感とも苦痛ともつかない妖しい感覚に、清延のものはひくひく痙攣した。
「んふふふふ、ちゅるるるる、ちゅっ」
「が、ああ、っ、これ、すごい……」
「ちゅうう、うん、ふぁんなふぁまぁ、おふぉうじふぁのに、ふぉんなにおふゆもらふぁれふぁら、まふぁすふぁなふぁいふぇないふぁないふぇすか」
「な、あああ、やめて、咥えたまま喋らないで……」
「んふふふ。もういっふぁい、だふぃふぁいまふ?」
有華の舌が、亀頭を重点的に責めだす。昨日の晩も何度も妻に精を捧げたというのに、まだまだ満足には程遠かったらしい。骨の髄まで搾り取られるような思いをしつつも、清延は幸せだった。
11/08/10 17:59更新 / ナシ・アジフ