Drown Together
勤め先の興行会社から帰る途中、本屋の店先で平積みされた本に目を惹かれた。
堅い思想書や学術書よりも分かりやすい恋愛小説や冒険活劇などに人気が集中するのは、魔物の世界も人間の世界も変わらない。今最も売れていると思しきその本は、ふとしたきっかけでどこにでもいる平凡な男が大人気アイドルの少女と知り合い、紆余曲折の果てに結ばれるという娯楽小説だった。
恋や愛の物語は、人間や動物と違って愛だけで食っていける魔物たちに強く支持されるジャンルである。
特に、魔物たちを受け入れている地域では、例えば愛しい男との身分格差に悩む少女が魔物化の果てに幸せを手に入れるお話だとか、始め敵対していた教団兵と魔物娘が衝突を繰り返すことで互いを理解し合い、深く愛しあうようになるラヴロマンスなんかが大変よく売れる。が、今俺の持っている本はどちらかと言うと男性に向けて書かれたものらしい。
主人公の男はやや特徴が薄めで、読む男性の感情移入や同一視を必要以上に妨げない。それでいて、ヒロインであるアイドルのことになれば人一倍奮闘し、心地よいほどの勢いと豪胆さで次々と現れる恋の障害を片っ端から薙ぎ払っていく。
有名な美人を恋人にしたいとか、誰もが羨む可愛い彼女を連れて街を歩きたいとか、そういう男としてごく当たり前な感情を持つ者にとっては、読んでいて大変楽しい小説であろう。さすが、売れ筋なだけはある。
だが俺は静かに本を閉じ、棚に戻して店を後にした。
何も白日夢を見る必要は無い。家に帰れば、俺だけのアイドルが待っていてくれるのだから。
我が家に到着し扉を開けると、奥から愛しい妻が駆け寄ってきた。
「……お、帰り……ごは、ん、できてる、よ……」
嬉しそうな様子とは裏腹にその言葉はたどたどしく、声に張りもない。しかし、これが彼女、トクシーヌの精一杯なのである。
海原の歌姫、セイレーンであるはずのトクシーヌは、今は弱く掠れた、ハスキーな声しか出せないのだ。もう、どんな歌も歌うことはできないのだ。彼女の首筋にはっきりと浮いた醜い傷跡が、それを証明している。
出された夕食はそこらのレストランで出てくるメニューを遥かに凌駕するほど豪華であった。特に何かの記念日というわけでもない今日の食事にここまで手をかけるという辺りに、トクシーヌの精神が現れている。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
フォークで刺して口に運んだ肉料理の味は極めて繊細で、相当な時間を掛けて下ごしらえをしたであろうことが推察される。
「うん、美味い。こんな良いもん食っちまったら、もう外食なんてできないな」
「……あ、ありが、と。これから、も、毎日、お料理するから……ちゃんと、帰って、来て、ね」
「ん、そうするよ。
今日は俺のいない間、誰も来なかったか？」
「あ、う、うん。来て、ないよ」
「そうか。まあ、誰が来ても別に出なくていいよ」
ちょっと甘やかすようなことを言うと、トクシーヌの顔は安堵に緩んだ。今の彼女は、俺以外の人間に会うことを何よりも嫌うのだ。
かつて、トクシーヌは同族たちの中でも抜きん出た歌唱力と美しさを誇っていた。
どんなセイレーンにもマーメイドにも負けない、聴く者全てを魅了する歌声と、真夏の太陽のように明るく輝く美貌。
彼女こそ生まれながらのアイドル、崇拝されるために生まれた偶像であった。
興行会社に勤め、トクシーヌのマネージャーとして多忙な彼女のスケジュールを管理していた俺すらも惹きつける何か強烈な物を、彼女は持っていた。
そんなトクシーヌをある日、この上無い不運が襲った。
リハーサル中、ステージを照らすために設置されていた魔導照明装置が落下するという事故が起きたのだ。
重い照明は真下のトクシーヌに直撃。命は助かったものの、アイドルの生命線たる喉を酷く潰されてしまい、歌うことなど到底不可能な身になってしまった。
人前に立って歌うこと、自らの価値と才覚を誇示し聴衆を魅了することを唯一の存在理由としていたトクシーヌは、今も引き攣れが消えずに残るほどの大きな傷を首に負って、かつての明るさを完全に失った。例え歌唱力に別状なかったとしても、あれほど大きな傷が残ってしまっては、あの職業を続けるのは到底無理だっただろう。
アイドル業は当然引退、しかしそこから別の生き方を探すでもなくただ自宅に引きこもり、遂には自殺騒ぎを起こすに至った彼女を、元同僚として俺は放っておけなかった。
会社から新たに割り当てられた別なアイドルのマネジメント業務をこなす傍ら、俺はよくトクシーヌを訪ね、いろいろ話をしたりして慰めたものだった。歌声を失って世界から見捨てられたと思い込んでいたらしき彼女にとって、傷を負ってなお自分のことを気に掛けてくれる存在がどれほどの物だったか、俺には想像することすらできない。
そんなこんなで関係がずぶずぶと深まり、今となっては立派な夫婦である。
まあ「立派な」といっても、トクシーヌの存在を知るものはこの辺りにはあまりいない。
今の自分を見られたくない、傷ついた姿を見てかつての栄光を思い出して欲しくないという思いは俺と結婚することで薄れるどころかますます強まったらしく、同居するようになって一層トクシーヌは外出を厭い、引きこもるようになった。
その分、家の中のことはよくやってくれるのだから、別にいいといえばいいのだが。
彼女と同居するようになった経緯をなんとなく思い出しているうちに、いつの間にか料理を食べ終わってしまった。余りに美味すぎて、フォークを持つ手が止められなかったのである。
「今日も素晴らしかったよ。ご馳走様」
「ありが、と。これから、も、もっと美味しいご飯作るから……絶対、夜には、帰ってきてね。外食なんて、しないでね」
訴えかけるトクシーヌの眼は真剣そのもので、彼女が普段一人でいる時どれほど心細い思いをしているのか、その一端を窺わせた。
本当は、仕事なんて辞めてしまって一日中二人一緒に居るほうが彼女も喜ぶのだろうが、堕落神の信徒となって万魔殿に籠るんでもなければなかなかそういうわけにはいかない。
それに、会えない時間が恋心をより募らせるということもある。昼に感じる寂しさが、今日の晩餐、その凝りようにも如実に現れているやや過剰気味な献身や、魔物娘であるということを加味しても余りに激しすぎる愛欲の源であるのならば、今の生活も悪くない。
俺にそう思わせている最大の要因たる言葉が、トクシーヌの口から放たれた。
「じゃあ、ごはんの、次は、やっぱり……」
食器を簡単に片付けた我が妻は、待ち切れぬ様子でテーブルのこちら側に走り寄り、椅子に座ったままの俺の足元に跪いた。
まだまだ眠るには早い時間。三大欲求のうち食欲を満たされ、未だ睡眠欲を覚えていない旦那に奥さんが施す事といえば一つしかない。
俺は椅子を引き、テーブルから向かって左に身体を回し、座り直した。眼下には既に顔を赤らめたトクシーヌが、餌を待つ雛鳥のように喉を反らせて待っている。ズボンと下着を降ろし、既に硬くなっている男性器を露出させると、淫乱セイレーンは唾を飲み込んだ。
「あ、大っきい……でも、がんばっ、て、ご奉仕するから……」
するから、何なのだろうか。
ずっと一緒にいて欲しいのか、どこへも行かないで欲しいのか、捨てないで欲しいのか。何であろうと彼女の願いを断るつもりは無い。
どこか不安そうなトクシーヌが、その小さな口を開けて俺のものに顔を寄せる。
日光に当たらない生活を送っているせいか、その肌は白いというより青ざめているが、だからといって彼女の美貌は少しも損なわれない。ステージに立っていた時とは全く異なるトクシーヌの姿を知る男は俺だけなのだと思うと、それだけでますます肉棒は硬くなってしまう。
意を決したように、セイレーンは俺の剛直に口をつけ、そのまま飲み込んだ。
今まで何度も口唇奉仕してきたはずなのに、その日初めてフェラチオするときにはいつもこんなふうに、おずおずと、ちょっと躊躇うような戸惑うような素振りを見せる。
どうやら、上手にお口で奉仕出来るか不安に思っているらしいが、その魔物娘らしからぬ仕草がなんだか初々しくて、まるでキスもしたことのない少女の口でしゃぶってもらえるような気分になって、最高に燃えてくる。
小さいといってもそこは魔物の喉。鼻で短く息をして、ちょっと苦しそうな表情を浮かべながらもトクシーヌは俺の肉槍を根本まで飲み込んでいった。
先端の亀頭が硬い喉奥にぶつかるとさすがにそれ以上は無理なのか、うっと微かに呻いた彼女は動きを止め、飲み込む動作から扱いてイかせる動作へ移った。
魔物娘の口腔は他の生き物のそれとは違って、最初からフェラチオすることを主目的の一つとして設計されている。文字通りのおクチマンコは濃密な男の臭いで激しく興奮し、潤滑液となる粘っこい唾液を多く分泌し始めた。
溢れんばかりの唾を唇でたっぷり竿に塗りつけながら、トクシーヌは頭を上下させ始めた。
少しでも快感を増すために、しゃぶりつつも尿道を強く吸引してくれており、そのせいで唾の鳴るぬちゃぬちゃとした水音の他にもぶぽぶぽいうバキューム音が断続的に響き、ただのフェラチオよりなお卑猥。
小さな口で男の弱点をきゅっと締められ、いやらしい音を恥ずかしげもなく立てて、敏感なカリ首には長い舌を絡みつかせる。
かつて多くの人間に美しい歌を聴かせていた舌が、口が、喉が、今は俺を射精させるためだけに使われているのだと思うと、もう勃起が止まらない。
堪え性の無い俺の男性器は感じてくるとすぐに我慢汁を漏らす。透明な液の僅かな苦味を敏感に察知したトクシーヌが上目遣いで問う。不安の残る瞳はちょっと涙目で、きらきら輝いて見えた。
「……ああ、気持ちいい。愛してるよトクシーヌ。最高だ」
「……う……」
俺が彼女の口で感じていることを確信して勢いづいたか、トクシーヌは更にヘッドバンギングを速め、猛烈な勢いで尿道口を啜りあげてきた。
口を開けたまま頭を振るという見た目以上にハードな運動で、セイレーンの矮躯は全体的に汗ばんできた。
心拍数と呼吸数も上がっているのだろう、性器を咥える唇の端から喘ぎが溢れていたが、それすらも男を昂らせる。
声というものが声帯の振動によって生まれる波である以上、歌だけでなく呻き声や喘ぎ声にもセイレーンの力、魅了の魔術は宿り得る。人間を愛で狂わす魔性の歌声が、口の中という狭い空間で反響し、咥えた肉棒をあらゆる角度から苛んでいく。これに耐えられる男はいない。
男性器の微弱な痙攣から俺の限界を悟ったトクシーヌがまたこちらを見上げる。何を問われているのか、考えるまでもない。
「ん、もう、出そうだ。また、飲んでくれるのか？」
「……ふぁい……れんぶのむはら、せーひ、らして……」
過酷な労働で涙をポロポロ零しながらも、セイレーンはラストスパートに突入した。顔を上下させ、竿を唇で上下から揉み、繊細な舌使いでもって裏筋、鈴口、カリ首を丹念に舐め上げる。献身的を通り越してもはや滅私的ですらある愛撫は、耐えようという意志すら起こさせない。
啜られるままに、俺はトクシーヌの喉奥へ精子を放った。濃厚な白濁粘液が、元歌姫の口にぶちまけられる。
どくどくと後から後から溢れてくる精液を、トクシーヌは必死に飲み込んでいった。粘り気が強くて喉越しのかなり悪いゲルを、舌で懸命に食道口へと運び、唾液と共に飲み下す。嚥下する運動によって細い喉に残った傷跡が断続的に蠢く様は、奇妙な色気に満ちていた。
たっぷりのザーメンを零してしまわないよう、セイレーンは唇を竿に密着させたまま精飲する。
一度に飲みきれない量の子種汁を全部しっかり飲み切るにはそうせざるを得ないのだろうが、射精しているさなかの男性器を思い切り咥えられ、しかもその周りを舌が忙しなく前後するとなると、さっきイったばかりにもかかわらず、萎えることができない程また感じさせられてしまう。
射精しても小さくならない男性器に口を占領されながら、どうにかトクシーヌはザーメンを飲み終えた。顔を引き、唇を竿から離して一息つくと、唾が俺のものとの間で銀色の糸を引いた。
「……ぜんぶ、飲んだよ。……わたし、えらい？」
「えらいえらい」
こちらに向き直り口を大きく開けて舌を出し、一滴も精子が飲み残されていないことを証明したトクシーヌの頭を、俺は優しく撫でた。
赤紫色の髪に軽く触れると、彼女は満面の笑みを見せてくれる。その顔がまた魅力的で……アイドル時代の業務用の笑顔と違って、今の彼女の笑みには男を誘う淫気と、どこかコケティッシュかつマゾヒスティックな雰囲気に満ち溢れていて、俺は本番まで一刻も待てない。
「次は俺の番だな。寝室へ行くぞ」
「……はい……」
立ち上がったトクシーヌの股から、くちゅりという音が響いた。
服を脱ぎ捨て全裸になった妻をベッドの上で四つん這いにさせ、俺は臨戦態勢に入った。
まだ手も触れていないというのに、トクシーヌの女陰は既に濡れきっている。雫がシーツに落ちそうなほど潤ったそれに挿入すればどれだけいい気持ちになれるのか、知っているのは俺だけだ。
「ぐっちょぐちょだな。フェラチオしながら、感じてたのか？」
「……う、うん。お、おちんちんの、いやらしぃ臭いで、私……こんな、エッチなコ、キラ、イ？」
つかえながらも旦那である俺の愛を問う言葉は真剣味があり、迂闊な返答を許さないような必死さが垣間見える。セイレーンの細い体にのし掛かるような体勢を取り、俺は囁いた。
「大好きだよ。この世でお前が、一番好きだ」
「……！」
何か言いかけたトクシーヌの喉はしかし、熱い息を吐くだけだった。待たされっぱなしで苦しそうだった膣へ、俺が一気に剛直を突き込んだからだ。
身体の小ささに比例してか、彼女のおまんこは成人男性の平均サイズをそう上回らないはずの俺のものをギチギチと締め付ける。挿入を拒むかのような手応えと、それとは裏腹にさらなる刺激を求めて分泌される大量の愛液が、ちょっと他では味わえない気持ちよさを生み出していた。
じっとしているだけでは膣圧で肉茎を押し出されてしまいそうだったので、俺はトクシーヌの柳腰を両手で掴んで一気に腰を振り始めた。
今まで何度となく俺を受け入れた彼女の膣道は、それでいて少しも緩むことなく、むしろ俺のサイズに合わせて最もフィットできる形へと変化しているように思える。はめればはめるほど良くなる極上の女は、俺の下で早くも嬌声を上げている。
「あうっ！ ……う、うぅ、きも、ち、イイ……！」
「きゅぅきゅぅしてるな、おまえの……」
俺の股間をトクシーヌの尻に打ち付けるようにして激しくピストンすると、狭いおまんこに収まりきらない愛液がだらだら流れ出し、俺達の太ももを汚していく。カリ首周りの凹凸にぴったり張り付いて絶え間ない快楽をもたらす細かい肉襞の摩擦で、俺も先走りを漏らしてしまっていた。
無論、俺だけが一人で気持ちよくなっていたわけではない。組み敷いたセイレーンはその小さな体に比して大きな男根を受け入れ、昼に寂しかった分を帳消しにするかのようにいやらしく喘いでいた。
「あ、あああ気持ちイイ……！ わ、わたし、これ……好き、スキ、スキスキィッ！ あなた以外、何にも要らない……！」
「そうか。俺もだよっ」
「だ、だったら、ずっと、私と、一緒に、いてくれる……！？」
「うーんそれはなあ」
殊更に困ったような声色を使いつつ、しかし腰使いは緩めないままに俺は言った。大して上手くもない演技だったが、犯されている彼女には覿面に効果が現れた。
「え、う、ウソ……」
「今俺が受け持たされてるアイドルなんだけど、そろそろ遠征っちゅうか、遠くの国にまでショーをしに行かないかって話になってるんだよな」
「じゃあ！？」
「そうなんだよな。二月くらい、帰ってこられないかもしれない」
さっきまでの忘我状態は吹き飛び、トクシーヌは酷く心細そうな様子になっていた。
一人では家の外にも出られないほどなのだから、二月も放っておかれるとなった時の辛さは想像を絶するだろう。性の喜びとは違った理由で早鐘を打ち始めた心臓の鼓動を感じ取りながら、俺は彼女の薄い胸へそっと手を伸ばした。
「……そ、それ、本当……？」
「まだ決まったわけじゃないんだけどな」
「でも、ひ、ひゃぁぁっ」
トクシーヌの言葉は叫び声によってかき消された。俺が彼女の貧乳を背後から鷲掴みにしたからだ。
掴むといっても、鳥人には握り締められるほどの乳肉は付かない。俺がやったのは、硬く勃起した右乳首を人差指と中指の間に挟み込み、ぎゅっと刺激しながらうっすら膨らんだ胸を押しつぶすようにして揉みほぐすことだった。
肉付きは悪いが感度は良い、まさに理想的貧乳を持つトクシーヌはこうして胸を強く責められるとそれだけで呂律が回らなくなる。ちっぱいをぐいぐいと苛みながら、俺は更に激しく男性器を突き挿した。
「いやぁぁっ！ ム、ムネ、ダメ……！」
「子供みたいなおっぱいのくせに、こんなに敏感だなんてな。ほんと、エロい身体だよ」
「でも、でも、私……！」
俺とずっと一緒に居たいという気持ちと、それを主張して鬱陶しがられたくないという気持ちがせめぎ合っているのだろうか、トクシーヌはもう泣きそうになっている。ふとした弾みで胸を触っていた指が首の傷跡に触れると、遂に眼の端から涙が零れ始めた。
いじめるのはここまでにしておこう。せっかくの綺麗な顔を、いつまでも歪ませたままではいけない。俺はいつもの言葉遣いに戻って言った。
「分かった。今度魔法屋へ行って買ってくるよ。瞬間移動の装置をな」
「……！」
「それがあれば、どこに行ってても夜には帰って来られるだろう？ 俺の分の旅費も浮くし、会社もきっと許可してくれる」
「う、あ、ありがとう……！ ゴメンね、こん、な、私の、ために……！」
機嫌を直したトクシーヌは、また官能に溺れていく。バックでガンガン突き続けた俺も限界が近づいていた。
「もうそろそろ、出るぞっ」
「出して、ナカに、子宮に、射精してっ！ 抜いちゃ、イヤぁ……」
「いいのか？ 中出ししたら、子供ができるぞ」
「いい、いいの、子供欲しいの！ あなた、の、赤ちゃん、私に、孕ませてぇ……」
受精したがる美人の妻に膣内射精を懇願される。男を奮い立たせるシチュエーションとして、これ以上のものはちょっと無い。言葉をつまらせながら懸命に種付けを求めてくる彼女の姿はとても魅力的で、俺は動物的な衝動の赴くままトクシーヌの一番奥で射精した。
「……うっ……！」
「い、イイ、イく、中出し、で、私イっちゃう……！」
まだ子を宿したことのない子宮に、俺の精液がどくどくと注がれていく。二回目になっても全く両の減らない精液は狭い膣に溢れ、セイレーンの胎をたっぷり満たした。
「ふぅ、ふぅ……気持ち、い……私、ずっと、あなたと……」
うわ言を呟くトクシーヌの顔は、恍惚に染まり切っていた。
その後も二回、三回と交わり合い、疲れのままに眠った俺はふと夜中、喉の渇きで目を覚ました。
隣ではトクシーヌが幸せそうな顔で寝息を立てている。起こすのも忍びないし、できるだけ音を立てないようそっとベッドを出て、洗面所へ向かう。
コップに水を注ぎ、勢い良く飲み干す。冷たい水の爽快な喉越しを楽しみ、何気なく鏡を見た。
左右反転した俺の顔はうっすらと笑みを浮かべている。
それはそうだろう。多くの人の注目と尊敬と憧憬を一身に集めた美少女が、今は俺だけを頼りにしている。俺を唯一の支えとしている。これを喜ばずして何とするか。
トクシーヌの愛が余りに甘美すぎて、俺はもう彼女なしでは生きられないような気がする。他の誰も、あれほどまでに激しく俺を求めてくれることはきっと無いからだ。
彼女がかつて健康だった頃には、いちマネージャーである俺と一緒になるなんて考えもしなかったろう。
俺だってそうだった。アイドルにはアイドルらしい、誰か相応しい男がいるものだと思っていた。
しかし今、トクシーヌの隣に立てるのは俺だけだ。俺が求めるのもトクシーヌだけだ。何の罪も無く天上界から地に墜とされたアイドルと、それを受け止めた俺。全く、似合いの夫婦ではないか？
あの事故が無ければ、きっとこんな充足感は得られなかっただろう。
鏡に映る男の唇が歪んでいく。それは笑みに似た、しかしどこかが決定的に違う表情を作り出していた。
堅い思想書や学術書よりも分かりやすい恋愛小説や冒険活劇などに人気が集中するのは、魔物の世界も人間の世界も変わらない。今最も売れていると思しきその本は、ふとしたきっかけでどこにでもいる平凡な男が大人気アイドルの少女と知り合い、紆余曲折の果てに結ばれるという娯楽小説だった。
恋や愛の物語は、人間や動物と違って愛だけで食っていける魔物たちに強く支持されるジャンルである。
特に、魔物たちを受け入れている地域では、例えば愛しい男との身分格差に悩む少女が魔物化の果てに幸せを手に入れるお話だとか、始め敵対していた教団兵と魔物娘が衝突を繰り返すことで互いを理解し合い、深く愛しあうようになるラヴロマンスなんかが大変よく売れる。が、今俺の持っている本はどちらかと言うと男性に向けて書かれたものらしい。
主人公の男はやや特徴が薄めで、読む男性の感情移入や同一視を必要以上に妨げない。それでいて、ヒロインであるアイドルのことになれば人一倍奮闘し、心地よいほどの勢いと豪胆さで次々と現れる恋の障害を片っ端から薙ぎ払っていく。
有名な美人を恋人にしたいとか、誰もが羨む可愛い彼女を連れて街を歩きたいとか、そういう男としてごく当たり前な感情を持つ者にとっては、読んでいて大変楽しい小説であろう。さすが、売れ筋なだけはある。
だが俺は静かに本を閉じ、棚に戻して店を後にした。
何も白日夢を見る必要は無い。家に帰れば、俺だけのアイドルが待っていてくれるのだから。
我が家に到着し扉を開けると、奥から愛しい妻が駆け寄ってきた。
「……お、帰り……ごは、ん、できてる、よ……」
嬉しそうな様子とは裏腹にその言葉はたどたどしく、声に張りもない。しかし、これが彼女、トクシーヌの精一杯なのである。
海原の歌姫、セイレーンであるはずのトクシーヌは、今は弱く掠れた、ハスキーな声しか出せないのだ。もう、どんな歌も歌うことはできないのだ。彼女の首筋にはっきりと浮いた醜い傷跡が、それを証明している。
出された夕食はそこらのレストランで出てくるメニューを遥かに凌駕するほど豪華であった。特に何かの記念日というわけでもない今日の食事にここまで手をかけるという辺りに、トクシーヌの精神が現れている。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
フォークで刺して口に運んだ肉料理の味は極めて繊細で、相当な時間を掛けて下ごしらえをしたであろうことが推察される。
「うん、美味い。こんな良いもん食っちまったら、もう外食なんてできないな」
「……あ、ありが、と。これから、も、毎日、お料理するから……ちゃんと、帰って、来て、ね」
「ん、そうするよ。
今日は俺のいない間、誰も来なかったか？」
「あ、う、うん。来て、ないよ」
「そうか。まあ、誰が来ても別に出なくていいよ」
ちょっと甘やかすようなことを言うと、トクシーヌの顔は安堵に緩んだ。今の彼女は、俺以外の人間に会うことを何よりも嫌うのだ。
かつて、トクシーヌは同族たちの中でも抜きん出た歌唱力と美しさを誇っていた。
どんなセイレーンにもマーメイドにも負けない、聴く者全てを魅了する歌声と、真夏の太陽のように明るく輝く美貌。
彼女こそ生まれながらのアイドル、崇拝されるために生まれた偶像であった。
興行会社に勤め、トクシーヌのマネージャーとして多忙な彼女のスケジュールを管理していた俺すらも惹きつける何か強烈な物を、彼女は持っていた。
そんなトクシーヌをある日、この上無い不運が襲った。
リハーサル中、ステージを照らすために設置されていた魔導照明装置が落下するという事故が起きたのだ。
重い照明は真下のトクシーヌに直撃。命は助かったものの、アイドルの生命線たる喉を酷く潰されてしまい、歌うことなど到底不可能な身になってしまった。
人前に立って歌うこと、自らの価値と才覚を誇示し聴衆を魅了することを唯一の存在理由としていたトクシーヌは、今も引き攣れが消えずに残るほどの大きな傷を首に負って、かつての明るさを完全に失った。例え歌唱力に別状なかったとしても、あれほど大きな傷が残ってしまっては、あの職業を続けるのは到底無理だっただろう。
アイドル業は当然引退、しかしそこから別の生き方を探すでもなくただ自宅に引きこもり、遂には自殺騒ぎを起こすに至った彼女を、元同僚として俺は放っておけなかった。
会社から新たに割り当てられた別なアイドルのマネジメント業務をこなす傍ら、俺はよくトクシーヌを訪ね、いろいろ話をしたりして慰めたものだった。歌声を失って世界から見捨てられたと思い込んでいたらしき彼女にとって、傷を負ってなお自分のことを気に掛けてくれる存在がどれほどの物だったか、俺には想像することすらできない。
そんなこんなで関係がずぶずぶと深まり、今となっては立派な夫婦である。
まあ「立派な」といっても、トクシーヌの存在を知るものはこの辺りにはあまりいない。
今の自分を見られたくない、傷ついた姿を見てかつての栄光を思い出して欲しくないという思いは俺と結婚することで薄れるどころかますます強まったらしく、同居するようになって一層トクシーヌは外出を厭い、引きこもるようになった。
その分、家の中のことはよくやってくれるのだから、別にいいといえばいいのだが。
彼女と同居するようになった経緯をなんとなく思い出しているうちに、いつの間にか料理を食べ終わってしまった。余りに美味すぎて、フォークを持つ手が止められなかったのである。
「今日も素晴らしかったよ。ご馳走様」
「ありが、と。これから、も、もっと美味しいご飯作るから……絶対、夜には、帰ってきてね。外食なんて、しないでね」
訴えかけるトクシーヌの眼は真剣そのもので、彼女が普段一人でいる時どれほど心細い思いをしているのか、その一端を窺わせた。
本当は、仕事なんて辞めてしまって一日中二人一緒に居るほうが彼女も喜ぶのだろうが、堕落神の信徒となって万魔殿に籠るんでもなければなかなかそういうわけにはいかない。
それに、会えない時間が恋心をより募らせるということもある。昼に感じる寂しさが、今日の晩餐、その凝りようにも如実に現れているやや過剰気味な献身や、魔物娘であるということを加味しても余りに激しすぎる愛欲の源であるのならば、今の生活も悪くない。
俺にそう思わせている最大の要因たる言葉が、トクシーヌの口から放たれた。
「じゃあ、ごはんの、次は、やっぱり……」
食器を簡単に片付けた我が妻は、待ち切れぬ様子でテーブルのこちら側に走り寄り、椅子に座ったままの俺の足元に跪いた。
まだまだ眠るには早い時間。三大欲求のうち食欲を満たされ、未だ睡眠欲を覚えていない旦那に奥さんが施す事といえば一つしかない。
俺は椅子を引き、テーブルから向かって左に身体を回し、座り直した。眼下には既に顔を赤らめたトクシーヌが、餌を待つ雛鳥のように喉を反らせて待っている。ズボンと下着を降ろし、既に硬くなっている男性器を露出させると、淫乱セイレーンは唾を飲み込んだ。
「あ、大っきい……でも、がんばっ、て、ご奉仕するから……」
するから、何なのだろうか。
ずっと一緒にいて欲しいのか、どこへも行かないで欲しいのか、捨てないで欲しいのか。何であろうと彼女の願いを断るつもりは無い。
どこか不安そうなトクシーヌが、その小さな口を開けて俺のものに顔を寄せる。
日光に当たらない生活を送っているせいか、その肌は白いというより青ざめているが、だからといって彼女の美貌は少しも損なわれない。ステージに立っていた時とは全く異なるトクシーヌの姿を知る男は俺だけなのだと思うと、それだけでますます肉棒は硬くなってしまう。
意を決したように、セイレーンは俺の剛直に口をつけ、そのまま飲み込んだ。
今まで何度も口唇奉仕してきたはずなのに、その日初めてフェラチオするときにはいつもこんなふうに、おずおずと、ちょっと躊躇うような戸惑うような素振りを見せる。
どうやら、上手にお口で奉仕出来るか不安に思っているらしいが、その魔物娘らしからぬ仕草がなんだか初々しくて、まるでキスもしたことのない少女の口でしゃぶってもらえるような気分になって、最高に燃えてくる。
小さいといってもそこは魔物の喉。鼻で短く息をして、ちょっと苦しそうな表情を浮かべながらもトクシーヌは俺の肉槍を根本まで飲み込んでいった。
先端の亀頭が硬い喉奥にぶつかるとさすがにそれ以上は無理なのか、うっと微かに呻いた彼女は動きを止め、飲み込む動作から扱いてイかせる動作へ移った。
魔物娘の口腔は他の生き物のそれとは違って、最初からフェラチオすることを主目的の一つとして設計されている。文字通りのおクチマンコは濃密な男の臭いで激しく興奮し、潤滑液となる粘っこい唾液を多く分泌し始めた。
溢れんばかりの唾を唇でたっぷり竿に塗りつけながら、トクシーヌは頭を上下させ始めた。
少しでも快感を増すために、しゃぶりつつも尿道を強く吸引してくれており、そのせいで唾の鳴るぬちゃぬちゃとした水音の他にもぶぽぶぽいうバキューム音が断続的に響き、ただのフェラチオよりなお卑猥。
小さな口で男の弱点をきゅっと締められ、いやらしい音を恥ずかしげもなく立てて、敏感なカリ首には長い舌を絡みつかせる。
かつて多くの人間に美しい歌を聴かせていた舌が、口が、喉が、今は俺を射精させるためだけに使われているのだと思うと、もう勃起が止まらない。
堪え性の無い俺の男性器は感じてくるとすぐに我慢汁を漏らす。透明な液の僅かな苦味を敏感に察知したトクシーヌが上目遣いで問う。不安の残る瞳はちょっと涙目で、きらきら輝いて見えた。
「……ああ、気持ちいい。愛してるよトクシーヌ。最高だ」
「……う……」
俺が彼女の口で感じていることを確信して勢いづいたか、トクシーヌは更にヘッドバンギングを速め、猛烈な勢いで尿道口を啜りあげてきた。
口を開けたまま頭を振るという見た目以上にハードな運動で、セイレーンの矮躯は全体的に汗ばんできた。
心拍数と呼吸数も上がっているのだろう、性器を咥える唇の端から喘ぎが溢れていたが、それすらも男を昂らせる。
声というものが声帯の振動によって生まれる波である以上、歌だけでなく呻き声や喘ぎ声にもセイレーンの力、魅了の魔術は宿り得る。人間を愛で狂わす魔性の歌声が、口の中という狭い空間で反響し、咥えた肉棒をあらゆる角度から苛んでいく。これに耐えられる男はいない。
男性器の微弱な痙攣から俺の限界を悟ったトクシーヌがまたこちらを見上げる。何を問われているのか、考えるまでもない。
「ん、もう、出そうだ。また、飲んでくれるのか？」
「……ふぁい……れんぶのむはら、せーひ、らして……」
過酷な労働で涙をポロポロ零しながらも、セイレーンはラストスパートに突入した。顔を上下させ、竿を唇で上下から揉み、繊細な舌使いでもって裏筋、鈴口、カリ首を丹念に舐め上げる。献身的を通り越してもはや滅私的ですらある愛撫は、耐えようという意志すら起こさせない。
啜られるままに、俺はトクシーヌの喉奥へ精子を放った。濃厚な白濁粘液が、元歌姫の口にぶちまけられる。
どくどくと後から後から溢れてくる精液を、トクシーヌは必死に飲み込んでいった。粘り気が強くて喉越しのかなり悪いゲルを、舌で懸命に食道口へと運び、唾液と共に飲み下す。嚥下する運動によって細い喉に残った傷跡が断続的に蠢く様は、奇妙な色気に満ちていた。
たっぷりのザーメンを零してしまわないよう、セイレーンは唇を竿に密着させたまま精飲する。
一度に飲みきれない量の子種汁を全部しっかり飲み切るにはそうせざるを得ないのだろうが、射精しているさなかの男性器を思い切り咥えられ、しかもその周りを舌が忙しなく前後するとなると、さっきイったばかりにもかかわらず、萎えることができない程また感じさせられてしまう。
射精しても小さくならない男性器に口を占領されながら、どうにかトクシーヌはザーメンを飲み終えた。顔を引き、唇を竿から離して一息つくと、唾が俺のものとの間で銀色の糸を引いた。
「……ぜんぶ、飲んだよ。……わたし、えらい？」
「えらいえらい」
こちらに向き直り口を大きく開けて舌を出し、一滴も精子が飲み残されていないことを証明したトクシーヌの頭を、俺は優しく撫でた。
赤紫色の髪に軽く触れると、彼女は満面の笑みを見せてくれる。その顔がまた魅力的で……アイドル時代の業務用の笑顔と違って、今の彼女の笑みには男を誘う淫気と、どこかコケティッシュかつマゾヒスティックな雰囲気に満ち溢れていて、俺は本番まで一刻も待てない。
「次は俺の番だな。寝室へ行くぞ」
「……はい……」
立ち上がったトクシーヌの股から、くちゅりという音が響いた。
服を脱ぎ捨て全裸になった妻をベッドの上で四つん這いにさせ、俺は臨戦態勢に入った。
まだ手も触れていないというのに、トクシーヌの女陰は既に濡れきっている。雫がシーツに落ちそうなほど潤ったそれに挿入すればどれだけいい気持ちになれるのか、知っているのは俺だけだ。
「ぐっちょぐちょだな。フェラチオしながら、感じてたのか？」
「……う、うん。お、おちんちんの、いやらしぃ臭いで、私……こんな、エッチなコ、キラ、イ？」
つかえながらも旦那である俺の愛を問う言葉は真剣味があり、迂闊な返答を許さないような必死さが垣間見える。セイレーンの細い体にのし掛かるような体勢を取り、俺は囁いた。
「大好きだよ。この世でお前が、一番好きだ」
「……！」
何か言いかけたトクシーヌの喉はしかし、熱い息を吐くだけだった。待たされっぱなしで苦しそうだった膣へ、俺が一気に剛直を突き込んだからだ。
身体の小ささに比例してか、彼女のおまんこは成人男性の平均サイズをそう上回らないはずの俺のものをギチギチと締め付ける。挿入を拒むかのような手応えと、それとは裏腹にさらなる刺激を求めて分泌される大量の愛液が、ちょっと他では味わえない気持ちよさを生み出していた。
じっとしているだけでは膣圧で肉茎を押し出されてしまいそうだったので、俺はトクシーヌの柳腰を両手で掴んで一気に腰を振り始めた。
今まで何度となく俺を受け入れた彼女の膣道は、それでいて少しも緩むことなく、むしろ俺のサイズに合わせて最もフィットできる形へと変化しているように思える。はめればはめるほど良くなる極上の女は、俺の下で早くも嬌声を上げている。
「あうっ！ ……う、うぅ、きも、ち、イイ……！」
「きゅぅきゅぅしてるな、おまえの……」
俺の股間をトクシーヌの尻に打ち付けるようにして激しくピストンすると、狭いおまんこに収まりきらない愛液がだらだら流れ出し、俺達の太ももを汚していく。カリ首周りの凹凸にぴったり張り付いて絶え間ない快楽をもたらす細かい肉襞の摩擦で、俺も先走りを漏らしてしまっていた。
無論、俺だけが一人で気持ちよくなっていたわけではない。組み敷いたセイレーンはその小さな体に比して大きな男根を受け入れ、昼に寂しかった分を帳消しにするかのようにいやらしく喘いでいた。
「あ、あああ気持ちイイ……！ わ、わたし、これ……好き、スキ、スキスキィッ！ あなた以外、何にも要らない……！」
「そうか。俺もだよっ」
「だ、だったら、ずっと、私と、一緒に、いてくれる……！？」
「うーんそれはなあ」
殊更に困ったような声色を使いつつ、しかし腰使いは緩めないままに俺は言った。大して上手くもない演技だったが、犯されている彼女には覿面に効果が現れた。
「え、う、ウソ……」
「今俺が受け持たされてるアイドルなんだけど、そろそろ遠征っちゅうか、遠くの国にまでショーをしに行かないかって話になってるんだよな」
「じゃあ！？」
「そうなんだよな。二月くらい、帰ってこられないかもしれない」
さっきまでの忘我状態は吹き飛び、トクシーヌは酷く心細そうな様子になっていた。
一人では家の外にも出られないほどなのだから、二月も放っておかれるとなった時の辛さは想像を絶するだろう。性の喜びとは違った理由で早鐘を打ち始めた心臓の鼓動を感じ取りながら、俺は彼女の薄い胸へそっと手を伸ばした。
「……そ、それ、本当……？」
「まだ決まったわけじゃないんだけどな」
「でも、ひ、ひゃぁぁっ」
トクシーヌの言葉は叫び声によってかき消された。俺が彼女の貧乳を背後から鷲掴みにしたからだ。
掴むといっても、鳥人には握り締められるほどの乳肉は付かない。俺がやったのは、硬く勃起した右乳首を人差指と中指の間に挟み込み、ぎゅっと刺激しながらうっすら膨らんだ胸を押しつぶすようにして揉みほぐすことだった。
肉付きは悪いが感度は良い、まさに理想的貧乳を持つトクシーヌはこうして胸を強く責められるとそれだけで呂律が回らなくなる。ちっぱいをぐいぐいと苛みながら、俺は更に激しく男性器を突き挿した。
「いやぁぁっ！ ム、ムネ、ダメ……！」
「子供みたいなおっぱいのくせに、こんなに敏感だなんてな。ほんと、エロい身体だよ」
「でも、でも、私……！」
俺とずっと一緒に居たいという気持ちと、それを主張して鬱陶しがられたくないという気持ちがせめぎ合っているのだろうか、トクシーヌはもう泣きそうになっている。ふとした弾みで胸を触っていた指が首の傷跡に触れると、遂に眼の端から涙が零れ始めた。
いじめるのはここまでにしておこう。せっかくの綺麗な顔を、いつまでも歪ませたままではいけない。俺はいつもの言葉遣いに戻って言った。
「分かった。今度魔法屋へ行って買ってくるよ。瞬間移動の装置をな」
「……！」
「それがあれば、どこに行ってても夜には帰って来られるだろう？ 俺の分の旅費も浮くし、会社もきっと許可してくれる」
「う、あ、ありがとう……！ ゴメンね、こん、な、私の、ために……！」
機嫌を直したトクシーヌは、また官能に溺れていく。バックでガンガン突き続けた俺も限界が近づいていた。
「もうそろそろ、出るぞっ」
「出して、ナカに、子宮に、射精してっ！ 抜いちゃ、イヤぁ……」
「いいのか？ 中出ししたら、子供ができるぞ」
「いい、いいの、子供欲しいの！ あなた、の、赤ちゃん、私に、孕ませてぇ……」
受精したがる美人の妻に膣内射精を懇願される。男を奮い立たせるシチュエーションとして、これ以上のものはちょっと無い。言葉をつまらせながら懸命に種付けを求めてくる彼女の姿はとても魅力的で、俺は動物的な衝動の赴くままトクシーヌの一番奥で射精した。
「……うっ……！」
「い、イイ、イく、中出し、で、私イっちゃう……！」
まだ子を宿したことのない子宮に、俺の精液がどくどくと注がれていく。二回目になっても全く両の減らない精液は狭い膣に溢れ、セイレーンの胎をたっぷり満たした。
「ふぅ、ふぅ……気持ち、い……私、ずっと、あなたと……」
うわ言を呟くトクシーヌの顔は、恍惚に染まり切っていた。
その後も二回、三回と交わり合い、疲れのままに眠った俺はふと夜中、喉の渇きで目を覚ました。
隣ではトクシーヌが幸せそうな顔で寝息を立てている。起こすのも忍びないし、できるだけ音を立てないようそっとベッドを出て、洗面所へ向かう。
コップに水を注ぎ、勢い良く飲み干す。冷たい水の爽快な喉越しを楽しみ、何気なく鏡を見た。
左右反転した俺の顔はうっすらと笑みを浮かべている。
それはそうだろう。多くの人の注目と尊敬と憧憬を一身に集めた美少女が、今は俺だけを頼りにしている。俺を唯一の支えとしている。これを喜ばずして何とするか。
トクシーヌの愛が余りに甘美すぎて、俺はもう彼女なしでは生きられないような気がする。他の誰も、あれほどまでに激しく俺を求めてくれることはきっと無いからだ。
彼女がかつて健康だった頃には、いちマネージャーである俺と一緒になるなんて考えもしなかったろう。
俺だってそうだった。アイドルにはアイドルらしい、誰か相応しい男がいるものだと思っていた。
しかし今、トクシーヌの隣に立てるのは俺だけだ。俺が求めるのもトクシーヌだけだ。何の罪も無く天上界から地に墜とされたアイドルと、それを受け止めた俺。全く、似合いの夫婦ではないか？
あの事故が無ければ、きっとこんな充足感は得られなかっただろう。
鏡に映る男の唇が歪んでいく。それは笑みに似た、しかしどこかが決定的に違う表情を作り出していた。
12/03/01 15:57更新 / ナシ・アジフ