蒼きイシュタムに抱かれて
死のうと思っていた。
冷たい風が吹き荒ぶ断崖の上、一歩足を踏み出せばそこには何も無い。遥か下の海面へ向けて、真っ逆さまに落ちるだけだ。
風の音と海鳴りとに混じって、ヒュウヒュウという微かな笛の音のようなものも聞こえる。
今立っている崖は長い年月を掛けて岩が波に削り取られることで出来たものであり、海面近くには岸へ向かって洞窟が伸びていると聞く。
海食洞がどこかで陸とつながり、その穴を通る風が口笛のような音を立てるということを知ってはいたが、しかし俺はその音が誰かを弔うためのものであるかのように思えてならなかった。
俺が海を見ているのは、そこに愛する彼女、イヴが眠っていると思ったからだ。
と言っても、確証は無い。無いのだが、先日俺とイヴの住む街を襲った未曽有の大暴風雨は、陸地のあらゆるもの、家も道具も人間も、全て海へと流し去ってしまったのだ。どこか瓦礫の下で朽ち果てている可能性も否定はできないが、確かめようはない。
俺としては、海に祈るより他無いのだった。
海から吹き付ける風は身を切る冷たさで、この場にわざわざ立って寒い風に肌を晒しているのは俺のみ。
だから、これから俺が踏み出す一歩を邪魔するものは、何も無いのだ。
崖の淵には柵のようなものなど据え付けられていないが、しかし俺と同じ場所に立っていたとしても、生きる意志を保った人間の目の前には透明な壁のようなものが立ち現れ、落下を阻むのだろう。
虚空に脚を踏み出すことを恐れず、むしろそれに解放を求める人間こそを、崖の突端は誘う。
俺もイヴも、ずっと一人ぼっちだった。
だからこそあれほどに愛し合えたのだと今では分かる。あいつを失ってまた一人に戻った俺はもう一分たりとも生きる気力を持たない。
実際、あの嵐の日以来水や食べ物もロクに取る気になれない俺は、恐らく既に幽鬼の如くやつれ果てているのだろうが、鏡を見ることも無いため自分では分からない。
そんな訳でもう立っているのも億劫なのだ。一歩足を踏み出せば、遥か下の海面が俺の意識を刈り取ってくれる。
都合の良いことにこの断崖は海に対してほぼ垂直になっており、上手く飛び込めば恐らく岩に身体をぶつけて痛い思いをせずに、安らかに逝けるだろう。だが、例え全身を打撲する羽目になったとしても別に構わない。どうせその痛みも、長くは続かないのだし、今生きている辛さに比べれば、肉体的な痛みなど大したものではなかろうと思えるからだ。
恋人の後を追って身投げするなど、客観的に見れば余りに感傷的であり、愚行と言われても反論のしようは無い。彼女の分までしっかり生きることが真の供養になるとか、生きてさえいればまた良い事もあるとかいう言説も、まあ頷けるところはある。
だが俺にとってはもう生きること自体が苦痛なのだ。張り合いが無いのだ。無論、所詮俺も一人の男、しばらくこの傷心を耐えればまた新たな伴侶を見つけられる可能性が皆無ではないし、それがそう遠い日でないとは言い切れない。
しかし何時ともしれない将来に慰めがあるからといって、今の痛みが無くなるわけではない。死んでしまった彼女を想うのと同時に、俺は孤独のもたらす苦痛から逃れたいと思っていた。
死後の世界なんて信じちゃいないがそれでも、少しでもイヴの近くにいたいと願っていたのだ。
風鳴に耳を傾けていると、不意に突風が俺の背中に吹きつけた。バランスを崩し、虚空へと身体が傾く。
両脚が反射的に地面を踏みしめて大地に留まろうとしたが、しかし俺は自分の身体を落ちるに任せた。ちょっと意識して体重を前方に向けると、すぐに引力は全身を捕らえる。
風に押し流されるようにして、俺の足裏は大地を離れた。そのまま、眼下の深い青へ向かって急降下していく。強い加速度と衝撃で、視界が暗くなっていく。
完全に意識を失う直前、焦がれて止まない声を聞いたような気がした。
誰かの指が頬に触れる感触で眼を覚ました。
崖から落ちた以後の記憶が無い。高いところから飛び降りたはずの俺は一体どうしてしまったんだ、まさかここは、存在しないはずの死後の世界かと訝しんでいると、上から声が響いた。
「やっと起きた……!」
重い瞼を持ち上げて、ぼやけた視界を探る。焦点が合った先に居たのは、懐かしい顔。生きている間は二度と見られないと信じていた、愛しい恋人だった。
「イヴ……!? お前、どうして……」
「あなたを置いて、死ねないよ。私たちはずっと一緒だって、前に言ったじゃない」
愛しあった後、ピロートークでの言葉を平時に持ち出されることに酷い羞恥を覚えるが、今はそんな事どうでもいい。
一目見たいと願い続け、もう会えないなら生きる意味もないとまで思いつめた相手が、目の前に居る。仰向けに寝転んだ俺を見下ろすその顔を、そっと右手で触れてみた。
「イヴ……なんだ、な」
「そうよ。……あなたの、恋人。寂しすぎて、一人じゃ死ねなかったの」
かつてよくそうしていたように、殊更に軽い口調で語るイヴ。心の底から求めた相手にまみえたことで、俺の両目からは自然と涙が零れた。
「そうか。生きてたのか。
……良かった。良かったよ。会いたかったんだ、イヴ……」
「ちょ、ちょっと泣かないでよ。ちゃんと私はここに居るんだから!」
生まれて初めての嬉し泣き。歪んだ顔を恋人に見せることを恥ずかしいとも思えず、俺は噎んだ。
「うう……! う、うう、よ、よかった……! 俺は、ずっと、寂しくて……!」
「うんうん。私もだよ。また会えて、嬉しいな」
泣いている俺の頬に両手を当てて、イヴが優しく見つめてくれている。一頻り啜り泣いて、初めて俺は イヴの姿が変わってしまっていることに気づいた。
半魚人、という呼び方は当たらない……八分の一魚人といったところか。
全身の皮膚は青みがかって、ちょうど俺が飛び込もうとした海の色に近い。手足や太腿には硬質な鱗が広がり、水棲生物的な雰囲気を醸し出す。何より眼を引くのは、ヒレのように変化した両足先と、腰から生えた太い尻尾だった。
「あ、気づいた? 私、魔物に生まれ変わったんだよ。ネレイスっていうらしいんだけど、海で女の子が死ぬと、こういう姿になって復活するんだって」
「そうか。まあ、なんでもいいよ。イヴはイヴだろ。それだけで十分だ」
「ふふ。まあ、疑ってたわけじゃないんだけど、そう言ってくれると、やっぱり嬉しいなあ。
……実はちょっと、不安だったんだよ。こんなふうになっちゃった私を、受け入れてもらえるか」
「何を言ってるんだ。人間かどうかなんて、どうでもいいことだよ。俺にはイヴが必要なんだ。だから俺は、あそこから……」
そこまで言うと、彼女はちょっと表情を厳しくした。俺の脇下に両手を突き、顔をぐっと近づけてくる。
「そう。それだよ。
……ねえ。やっぱりさっきのは、自殺だったの?」
「ああ。お前なしに生きるのが、本当に辛くってな。
すまなかった。早まったよ。イヴがせっかくこうして帰ってきてくれたってのに、俺が死んでちゃどうにもならないよな」
「そうよ! ほんと、驚いたんだからね。 もう是が非でも助けたくって、必死になっちゃったわよ。
私が見つけたときにはだいぶ海水を飲んじゃってたし、でも陸に上げたら反魔主義の人たちが騒ぐだろうし……丁度良く、洞窟があって助かったわ」
「洞窟? ここは、あの崖の内側なのか?」
「そうよ。波に削られて空いた穴に、砂が流れこんで出来たみたい。プライベートビーチって呼ぶには、ちょっと奥まってるけどね」
周りをよく観察してみると、俺は洞穴のなかにできた小規模な砂浜のようなところに寝転んでいるということが分かった。
光は少なく辺りは薄暗いが、頭上遥か上には微かに太陽が見えるし、洞穴の入り口も半分くらいしか海水に満たされていない。
潮の加減ではここも完全に水没するのだろうかとか、この穴に強い風が吹き抜けることであの特徴的な風鳴りが響いていたのだな、とか考えていると、急にイヴが俺の首を抱いた。
「……ごめんね」
「な、何がだ? むしろ謝るのは、俺の方じゃないのか」
「ううん、違うの。
あなたが自殺したって聞いて、私の後を追おうとしたって知って……!
私は、怒らなくちゃいけないのに。命を粗末にしちゃダメって、普通なら、言わなきゃいけないはずなのに。
でも、私が死んでも私以外の女に走らないでいてくれて……それどころか、死のうとまでしてくれて……!
私、嬉しいのよ、あなたにそこまで想われていたってことが……!
死にたいくらい愛されていたってことが、本当に嬉しいのよ……!
ごめんね、こんな重い女で……!」
なるほど世間には、恋人の葬式で別の女を口説くような外道も居ると聞くし、一度死んだ身としてはそういう不安を抱くのも無理ないことだろう。
姿が変わってしまったこともあるし、もしも拒絶されたらどうしようと考えるのは自然なことだ。
だから俺はイヴを抱きしめ返し、耳元にそっと囁いた。
「重くたっていいさ。重いくらいの方が、背負い甲斐があるしな。
死にたいくらい、愛してるよ。戻ってきてくれて、ありがとう」
言い終わるや否や、イヴは俺に激しく口付けて来た。
情事の前にするような、熱く激しく貪るような接吻。ぬるりとした舌が俺の唇を割って入ってくる。ちょっと潮の匂いのする唾液を喉奥で味わいながら、恋人のキスを楽しむ。
塩味の接吻は、昔二人で海水浴に行った時のことを彷彿とさせるもので、やはり眼前のこの女は俺の愛したあのイヴに違いないという確信を強めてくれた。
たっぷり互いの口を賞味しあった後、名残惜しげに唇を離したイヴは少し頬を赤らめていた。四つん這いになって俺の腰を跨いだ体勢のまま、熱い吐息で語りかける。
「久しぶりのキスだったね。
……ねえ。私、なんだかモエてきちゃった。今すぐここで、しよ?」
可愛い恋人がセックスをねだるのを、厭う男などこの世にいない。
冷たい水に沈んで体力を消耗したはずだが、洞穴で少し休んだのと彼女の唾を飲んだこととで俺の股間は激しく勃起してしまっている。どちらかと言うと後者の影響が強いように思えて、俺は今更ながらに自分の愛の深さを知った。
「いいよ。でも、服が濡れて張り付いて、脱ぎにくいんだ。手伝ってくれるか?」
「ふっふっふ、お安いごよーう。ささ、脱ぎ脱ぎしましょーね♪」
人間だった時と何ら変わらない、晴れやかな笑顔でイヴは俺を丸裸にしていく。海水に浸された
服を脱ぐと、酷く開放的な気分になった。
拘束から解き放たれた剛直は力強く反り返っている。かつて何度も胎内へ受け入れたはずのそれを見て、ネレイスはうっとりとしていた。
「うっそ、おかしいわね。あなたのって、こんなに魅力的だったかな?」
「急に褒めるなよ。照れるだろうが」
「恥ずかしがってちゃ、めっ、よ。これからもっと、すごい事するんだから」
人間だった頃よりも気持ち大きくなったように思える一対のおっぱいを、イヴは自ら揉んだ。と、乳房を保護していた鱗が消え失せ、小さく可愛い乳首が顕になる。
むっちりした胸を両手に抱え、ネレイスは身体を下げる。俺の下半身に覆いかぶさる様な体勢を取ると、彼女の狙いが俺にも分かった。
「じゃあまずは前戯だよね。この胸で、ご奉仕しちゃうよ」
もうギンギンになっていた俺のものを、イヴはそのおっぱいで優しく包みこもうとしているのだ。
人間だった頃にはほとんどしてくれなかった(しようにも大きさが僅かに足りなかった)愛の行為、その新鮮さに俺の期待は否応なく高められる。
乳に男性器が触れると、イヴの肌にはうっすらと粘液のようなものがまとわりついていることが分かった。ぬるりとした感触、というと聞こえは良くないかもしれないが、その感触はただひたすら甘美。
天然のローションと、豊満なふわふわおっぱい。これだけでも十分射精に至れそうなくらいに破壊力抜群な組み合わせだが、魔物と化した彼女はまだまだ手を緩めない。胸元に捕らえた陰茎に向かって、思い切り乳を寄せてきたのだ。
根元から亀頭までを余すところ無く包みこむ大きな乳房は、持ち主の手によって醜悪な男根へ押し付けられる。左右だけでなく、行き場を失った肉が上下からも圧迫することで、俺は背筋が粟立つほどの快感を覚えた。
「凄いのいくよー。堪能してね」
その言葉が合図であったかのように、イヴは本格的なパイズリを開始した。片手に一つづつ持ったおっぱいを、上下交互に動かし始めたのだ。
滑らかで、しかも潤いに富んだ肌はただ触れているだけでも心地良いものだ。そんな柔らかな肉が敏感な性器に当てられ、なすりつけられるのだから、これが気持ち良くないわけがない。
左右に異なる動きを加えることで、陰茎に与えられる刺激は不規則なものになる。生まれて初めてしてもらうパイズリは、俺を圧倒した。
胸で擦られて感じてしまっていることは、当のイヴにもすぐ伝わる。胸での責めを止めないままに、ちょっと見上げるような目線で彼女が問いかける。
「どう? 気持ちいい? 精子、出ちゃいそう?」
「あ、ああ、このままじゃ、すぐだよ」
「そっかそっか。じゃあイきそうなときは教えてね。おっぱいで、ギューってしてあげるから」
魅力的過ぎる提案に、思わずカウパーが漏れた。男を感じさせた証を肌に塗りこめ、ますますイヴは熱心になる。にゅるにゅるの巨乳に抱きしめられていると、もう我慢のしようも無い。
「うっ……」
「あ、そろそろ? なら、思いっきり行くよ」
せり上がってくる射精感の余り発した呻きを、ネレイスは聞き逃さなかった。上下不一致な乳摩擦はそのままに、左右からの圧迫を強める。おっぱいとおっぱいの間に出来た狭い隙間を無理やり陰茎で掘り進んでいるかのような状態にされると、外に張り出たカリ首に与えられる刺激が倍増して、もう堪らない。
恥も外聞も無く、俺は絶頂を懇願した。
「イヴ、もう、駄目だ……」
「どうぞ、ムネの中に出して、良いよ……!」
俺から精液を絞り出すためのラストスパートに入る。圧迫、摩擦、そして何よりおっぱいの柔らかさ。3つの武器で、彼女は俺をあっさりと屈服させた。
きゅっ、っと胸の肉を寄せられた時、俺は達した。豊満な乳房の谷間に、しばらく溜め込んでいたザーメンを思い切りぶちまける。
青い肌に白い精液のコントラストが卑猥で、射精しながらも俺は自分の興奮を抑えることができない。
間欠泉のごとく吹き出す精液は止めどなくイヴの肌を汚し、彼女もまたそれに満足しているようだった。恍惚の表情で、イっている最中の陰茎を胸に抱きしめ、降り注ぐ精液を上半身いっぱいに浴びている。何時に無く長い射精が終わる頃には、もう彼女のおっぱいはどろどろになっていた。
「たくさん出たね。でも、まだまだ終わりじゃないよ。ちゃんとこっちにも注いでくれなくちゃ」
そう言って膝立ちになったイヴは、股の辺りに手をやる。鱗に包まれていたその秘所は、すぐに紅い陰唇をさらけ出した。
「もう挿れちゃうよ。中に出しても、いいからね」
ぬらついた膣口をまだ萎える気配を見せない俺の男性器に添えると、イヴは一気に腰を下ろした。カリ首に濡れたヒダが強く擦れて、思わず息を呑むほど気持ちいい。
騎乗位で男性器を咥え込んだ彼女は、一瞬動きを止めていた。唇の端から僅かに涎を垂らし、パクパクと口を開閉する。
「こ、こ、これ……すご、気持よすぎ……!」
「俺も、良いぞっ」
「すごい、すごいすごい! こんなの、初めて!」
叫ぶと同時に、イヴは猛然たる勢いで腰を上下に振り立て始めた。
会陰同士がぶつかり合ってパシンパシンと下品な音を立てるほどに荒々しく、衝動的な腰。今まで彼女と騎乗位で愛しあったことは少なくなかったが、こんなにも急に乱れることはかつて無かった。
人間でなくなった影響なのか、と考えている余裕は早くも俺から失われていく。もともとスタイルが良く、引き締まった体だった彼女は膣の圧搾力もかなりなものだったが、今の締まりはそれをも遥かに超えている。
自分の手で握り締めるより強く、それでいて痛みも苦しみも全く伴わない、まさしく人外の快楽に俺はたちまち魅了された。
「おい、どうしたんだよイヴ、これ半端ないぞっ」
「私も、すっごくイイよぉ……へへっ、ポセイドン様のお陰かなぁ?」
淫欲に蕩けた彼女の表情は、新たに手に入れた人外の肉体にとても良く似合っている。蒼くて綺麗な肌に汗を浮かべて、イヴはまた俺を責め始めた。
まるで魚の身体にまとわりつく粘液のような、ドロッとした潤滑液が彼女の膣の奥から止めどなく溢れ出してくる。柔らかいゼリーに男性器を突っ込んだようなヌルヌル感と、その上から複雑かつ精妙な膣壁の圧迫感とで、余りにもあっさりと俺は我慢汁を漏らしてしまう。それを悟ったらしき彼女は、底抜けに明るい笑顔を見せてくれた。
「先走り、出たね、き、気持ち、良いんだねっ!?」
「ああ、良いよ。凄く良い。もう我慢できねえよ俺」
「我慢、しなくっていいよ……私も、しないからね」
言いながらイヴは腰の上下を更に早める。愛液の飛沫が俺の胸の方に届く程になって、俺はすぐ限界まで押し上げられてしまった。地面の砂を握りしめて、解放を乞う。
「もう、駄目だ……!」
「頂戴! 精子、私の中に……!」
許しを得ると同時に、俺は精を恋人の中に放った。
ちゃんとタイミングを合わせてくれたのだろうか、射精の瞬間に一番奥まで咥え込まれた俺のものはその疲労にもかかわらず大量の精液を出した。
腰を落としきり、膝で俺の腰を抱え込むようにしていたイヴも同じタイミングで絶頂していたようで、股間と股間を密着させた状態で身体をピクピク震わせていた。
「わ、美味し。精子って、こんなに美味しかったんだぁ……もっともっと、飲みたいなあ……」
狭い膣に収まりきらなかった精液が膣口から逆流して、俺たちの股を白く汚す。久しぶりの交合の、その予想以上の快楽に、俺もイヴも深く満足していた。
欲望を満たし合ってしばらく後。まだ寝転んだままの俺に添い寝しながら、イヴは言った。
「実は私、こんな風になっちゃたから、もう陸では生活できないのよ」
「確かに、見るからに魚っぽいもんなあ。どうすれば、俺たちこのまま恋人同士でいられるんだ?」
「それなんだけどね。海の神官さんに聞いたら、ネレイスとセックスすることで男の人も水中で普通に生活できるようになるらしいのよ。呼吸も必要なくなるのよ」
死人を蘇らせて、更に生きている人間の生態まで変容せしめるのか。海神の魔力、その万能さに俺が舌を巻いていると、イヴは続けた。
「そうすれば、私たちこれからもずっと一緒に居られるって聞いたんだけど……
ねえ。私と一緒に、海の中まで来てくれる? もう陸に戻れなくなったとしても、私の恋人でいてくれる?」
「当然だろ。どこへだって俺はお前についていくさ。一人になんか、させはしないよ」
一人で生きるのが嫌で一時は死を選ぼうとすらした俺だ。今更海の底へ行くのを嫌がるなど、ありえないだろう。そう即答すると、イヴはまた微笑んでくれた。
「ありがとう。じゃ、またエッチしよ。いっぱい気持ちよくなって、これからも海の底で、ずっと一緒にいようね……」
多分今日を境に、俺は陸へ帰ることはないだろう。
残された者たちは、きっと恋人を失った俺が傷心の余り身を投げたと思うに違いない。一時の感情に流されて命を絶った愚か者と思うに違いない。生きてさえいればまだまだ長い人生が残されていたのに、それを無駄にした愚か者と思うに違いない。
だがしかし、そんなことはどうでもいい。愛する女のために捨てた命を、その女自身に拾って貰ったのだ。男として、これ以上の幸せは無い。
無限の幸福に満ちた未来を夢想して、俺はイヴをそっと抱き寄せた。
冷たい風が吹き荒ぶ断崖の上、一歩足を踏み出せばそこには何も無い。遥か下の海面へ向けて、真っ逆さまに落ちるだけだ。
風の音と海鳴りとに混じって、ヒュウヒュウという微かな笛の音のようなものも聞こえる。
今立っている崖は長い年月を掛けて岩が波に削り取られることで出来たものであり、海面近くには岸へ向かって洞窟が伸びていると聞く。
海食洞がどこかで陸とつながり、その穴を通る風が口笛のような音を立てるということを知ってはいたが、しかし俺はその音が誰かを弔うためのものであるかのように思えてならなかった。
俺が海を見ているのは、そこに愛する彼女、イヴが眠っていると思ったからだ。
と言っても、確証は無い。無いのだが、先日俺とイヴの住む街を襲った未曽有の大暴風雨は、陸地のあらゆるもの、家も道具も人間も、全て海へと流し去ってしまったのだ。どこか瓦礫の下で朽ち果てている可能性も否定はできないが、確かめようはない。
俺としては、海に祈るより他無いのだった。
海から吹き付ける風は身を切る冷たさで、この場にわざわざ立って寒い風に肌を晒しているのは俺のみ。
だから、これから俺が踏み出す一歩を邪魔するものは、何も無いのだ。
崖の淵には柵のようなものなど据え付けられていないが、しかし俺と同じ場所に立っていたとしても、生きる意志を保った人間の目の前には透明な壁のようなものが立ち現れ、落下を阻むのだろう。
虚空に脚を踏み出すことを恐れず、むしろそれに解放を求める人間こそを、崖の突端は誘う。
俺もイヴも、ずっと一人ぼっちだった。
だからこそあれほどに愛し合えたのだと今では分かる。あいつを失ってまた一人に戻った俺はもう一分たりとも生きる気力を持たない。
実際、あの嵐の日以来水や食べ物もロクに取る気になれない俺は、恐らく既に幽鬼の如くやつれ果てているのだろうが、鏡を見ることも無いため自分では分からない。
そんな訳でもう立っているのも億劫なのだ。一歩足を踏み出せば、遥か下の海面が俺の意識を刈り取ってくれる。
都合の良いことにこの断崖は海に対してほぼ垂直になっており、上手く飛び込めば恐らく岩に身体をぶつけて痛い思いをせずに、安らかに逝けるだろう。だが、例え全身を打撲する羽目になったとしても別に構わない。どうせその痛みも、長くは続かないのだし、今生きている辛さに比べれば、肉体的な痛みなど大したものではなかろうと思えるからだ。
恋人の後を追って身投げするなど、客観的に見れば余りに感傷的であり、愚行と言われても反論のしようは無い。彼女の分までしっかり生きることが真の供養になるとか、生きてさえいればまた良い事もあるとかいう言説も、まあ頷けるところはある。
だが俺にとってはもう生きること自体が苦痛なのだ。張り合いが無いのだ。無論、所詮俺も一人の男、しばらくこの傷心を耐えればまた新たな伴侶を見つけられる可能性が皆無ではないし、それがそう遠い日でないとは言い切れない。
しかし何時ともしれない将来に慰めがあるからといって、今の痛みが無くなるわけではない。死んでしまった彼女を想うのと同時に、俺は孤独のもたらす苦痛から逃れたいと思っていた。
死後の世界なんて信じちゃいないがそれでも、少しでもイヴの近くにいたいと願っていたのだ。
風鳴に耳を傾けていると、不意に突風が俺の背中に吹きつけた。バランスを崩し、虚空へと身体が傾く。
両脚が反射的に地面を踏みしめて大地に留まろうとしたが、しかし俺は自分の身体を落ちるに任せた。ちょっと意識して体重を前方に向けると、すぐに引力は全身を捕らえる。
風に押し流されるようにして、俺の足裏は大地を離れた。そのまま、眼下の深い青へ向かって急降下していく。強い加速度と衝撃で、視界が暗くなっていく。
完全に意識を失う直前、焦がれて止まない声を聞いたような気がした。
誰かの指が頬に触れる感触で眼を覚ました。
崖から落ちた以後の記憶が無い。高いところから飛び降りたはずの俺は一体どうしてしまったんだ、まさかここは、存在しないはずの死後の世界かと訝しんでいると、上から声が響いた。
「やっと起きた……!」
重い瞼を持ち上げて、ぼやけた視界を探る。焦点が合った先に居たのは、懐かしい顔。生きている間は二度と見られないと信じていた、愛しい恋人だった。
「イヴ……!? お前、どうして……」
「あなたを置いて、死ねないよ。私たちはずっと一緒だって、前に言ったじゃない」
愛しあった後、ピロートークでの言葉を平時に持ち出されることに酷い羞恥を覚えるが、今はそんな事どうでもいい。
一目見たいと願い続け、もう会えないなら生きる意味もないとまで思いつめた相手が、目の前に居る。仰向けに寝転んだ俺を見下ろすその顔を、そっと右手で触れてみた。
「イヴ……なんだ、な」
「そうよ。……あなたの、恋人。寂しすぎて、一人じゃ死ねなかったの」
かつてよくそうしていたように、殊更に軽い口調で語るイヴ。心の底から求めた相手にまみえたことで、俺の両目からは自然と涙が零れた。
「そうか。生きてたのか。
……良かった。良かったよ。会いたかったんだ、イヴ……」
「ちょ、ちょっと泣かないでよ。ちゃんと私はここに居るんだから!」
生まれて初めての嬉し泣き。歪んだ顔を恋人に見せることを恥ずかしいとも思えず、俺は噎んだ。
「うう……! う、うう、よ、よかった……! 俺は、ずっと、寂しくて……!」
「うんうん。私もだよ。また会えて、嬉しいな」
泣いている俺の頬に両手を当てて、イヴが優しく見つめてくれている。一頻り啜り泣いて、初めて俺は イヴの姿が変わってしまっていることに気づいた。
半魚人、という呼び方は当たらない……八分の一魚人といったところか。
全身の皮膚は青みがかって、ちょうど俺が飛び込もうとした海の色に近い。手足や太腿には硬質な鱗が広がり、水棲生物的な雰囲気を醸し出す。何より眼を引くのは、ヒレのように変化した両足先と、腰から生えた太い尻尾だった。
「あ、気づいた? 私、魔物に生まれ変わったんだよ。ネレイスっていうらしいんだけど、海で女の子が死ぬと、こういう姿になって復活するんだって」
「そうか。まあ、なんでもいいよ。イヴはイヴだろ。それだけで十分だ」
「ふふ。まあ、疑ってたわけじゃないんだけど、そう言ってくれると、やっぱり嬉しいなあ。
……実はちょっと、不安だったんだよ。こんなふうになっちゃった私を、受け入れてもらえるか」
「何を言ってるんだ。人間かどうかなんて、どうでもいいことだよ。俺にはイヴが必要なんだ。だから俺は、あそこから……」
そこまで言うと、彼女はちょっと表情を厳しくした。俺の脇下に両手を突き、顔をぐっと近づけてくる。
「そう。それだよ。
……ねえ。やっぱりさっきのは、自殺だったの?」
「ああ。お前なしに生きるのが、本当に辛くってな。
すまなかった。早まったよ。イヴがせっかくこうして帰ってきてくれたってのに、俺が死んでちゃどうにもならないよな」
「そうよ! ほんと、驚いたんだからね。 もう是が非でも助けたくって、必死になっちゃったわよ。
私が見つけたときにはだいぶ海水を飲んじゃってたし、でも陸に上げたら反魔主義の人たちが騒ぐだろうし……丁度良く、洞窟があって助かったわ」
「洞窟? ここは、あの崖の内側なのか?」
「そうよ。波に削られて空いた穴に、砂が流れこんで出来たみたい。プライベートビーチって呼ぶには、ちょっと奥まってるけどね」
周りをよく観察してみると、俺は洞穴のなかにできた小規模な砂浜のようなところに寝転んでいるということが分かった。
光は少なく辺りは薄暗いが、頭上遥か上には微かに太陽が見えるし、洞穴の入り口も半分くらいしか海水に満たされていない。
潮の加減ではここも完全に水没するのだろうかとか、この穴に強い風が吹き抜けることであの特徴的な風鳴りが響いていたのだな、とか考えていると、急にイヴが俺の首を抱いた。
「……ごめんね」
「な、何がだ? むしろ謝るのは、俺の方じゃないのか」
「ううん、違うの。
あなたが自殺したって聞いて、私の後を追おうとしたって知って……!
私は、怒らなくちゃいけないのに。命を粗末にしちゃダメって、普通なら、言わなきゃいけないはずなのに。
でも、私が死んでも私以外の女に走らないでいてくれて……それどころか、死のうとまでしてくれて……!
私、嬉しいのよ、あなたにそこまで想われていたってことが……!
死にたいくらい愛されていたってことが、本当に嬉しいのよ……!
ごめんね、こんな重い女で……!」
なるほど世間には、恋人の葬式で別の女を口説くような外道も居ると聞くし、一度死んだ身としてはそういう不安を抱くのも無理ないことだろう。
姿が変わってしまったこともあるし、もしも拒絶されたらどうしようと考えるのは自然なことだ。
だから俺はイヴを抱きしめ返し、耳元にそっと囁いた。
「重くたっていいさ。重いくらいの方が、背負い甲斐があるしな。
死にたいくらい、愛してるよ。戻ってきてくれて、ありがとう」
言い終わるや否や、イヴは俺に激しく口付けて来た。
情事の前にするような、熱く激しく貪るような接吻。ぬるりとした舌が俺の唇を割って入ってくる。ちょっと潮の匂いのする唾液を喉奥で味わいながら、恋人のキスを楽しむ。
塩味の接吻は、昔二人で海水浴に行った時のことを彷彿とさせるもので、やはり眼前のこの女は俺の愛したあのイヴに違いないという確信を強めてくれた。
たっぷり互いの口を賞味しあった後、名残惜しげに唇を離したイヴは少し頬を赤らめていた。四つん這いになって俺の腰を跨いだ体勢のまま、熱い吐息で語りかける。
「久しぶりのキスだったね。
……ねえ。私、なんだかモエてきちゃった。今すぐここで、しよ?」
可愛い恋人がセックスをねだるのを、厭う男などこの世にいない。
冷たい水に沈んで体力を消耗したはずだが、洞穴で少し休んだのと彼女の唾を飲んだこととで俺の股間は激しく勃起してしまっている。どちらかと言うと後者の影響が強いように思えて、俺は今更ながらに自分の愛の深さを知った。
「いいよ。でも、服が濡れて張り付いて、脱ぎにくいんだ。手伝ってくれるか?」
「ふっふっふ、お安いごよーう。ささ、脱ぎ脱ぎしましょーね♪」
人間だった時と何ら変わらない、晴れやかな笑顔でイヴは俺を丸裸にしていく。海水に浸された
服を脱ぐと、酷く開放的な気分になった。
拘束から解き放たれた剛直は力強く反り返っている。かつて何度も胎内へ受け入れたはずのそれを見て、ネレイスはうっとりとしていた。
「うっそ、おかしいわね。あなたのって、こんなに魅力的だったかな?」
「急に褒めるなよ。照れるだろうが」
「恥ずかしがってちゃ、めっ、よ。これからもっと、すごい事するんだから」
人間だった頃よりも気持ち大きくなったように思える一対のおっぱいを、イヴは自ら揉んだ。と、乳房を保護していた鱗が消え失せ、小さく可愛い乳首が顕になる。
むっちりした胸を両手に抱え、ネレイスは身体を下げる。俺の下半身に覆いかぶさる様な体勢を取ると、彼女の狙いが俺にも分かった。
「じゃあまずは前戯だよね。この胸で、ご奉仕しちゃうよ」
もうギンギンになっていた俺のものを、イヴはそのおっぱいで優しく包みこもうとしているのだ。
人間だった頃にはほとんどしてくれなかった(しようにも大きさが僅かに足りなかった)愛の行為、その新鮮さに俺の期待は否応なく高められる。
乳に男性器が触れると、イヴの肌にはうっすらと粘液のようなものがまとわりついていることが分かった。ぬるりとした感触、というと聞こえは良くないかもしれないが、その感触はただひたすら甘美。
天然のローションと、豊満なふわふわおっぱい。これだけでも十分射精に至れそうなくらいに破壊力抜群な組み合わせだが、魔物と化した彼女はまだまだ手を緩めない。胸元に捕らえた陰茎に向かって、思い切り乳を寄せてきたのだ。
根元から亀頭までを余すところ無く包みこむ大きな乳房は、持ち主の手によって醜悪な男根へ押し付けられる。左右だけでなく、行き場を失った肉が上下からも圧迫することで、俺は背筋が粟立つほどの快感を覚えた。
「凄いのいくよー。堪能してね」
その言葉が合図であったかのように、イヴは本格的なパイズリを開始した。片手に一つづつ持ったおっぱいを、上下交互に動かし始めたのだ。
滑らかで、しかも潤いに富んだ肌はただ触れているだけでも心地良いものだ。そんな柔らかな肉が敏感な性器に当てられ、なすりつけられるのだから、これが気持ち良くないわけがない。
左右に異なる動きを加えることで、陰茎に与えられる刺激は不規則なものになる。生まれて初めてしてもらうパイズリは、俺を圧倒した。
胸で擦られて感じてしまっていることは、当のイヴにもすぐ伝わる。胸での責めを止めないままに、ちょっと見上げるような目線で彼女が問いかける。
「どう? 気持ちいい? 精子、出ちゃいそう?」
「あ、ああ、このままじゃ、すぐだよ」
「そっかそっか。じゃあイきそうなときは教えてね。おっぱいで、ギューってしてあげるから」
魅力的過ぎる提案に、思わずカウパーが漏れた。男を感じさせた証を肌に塗りこめ、ますますイヴは熱心になる。にゅるにゅるの巨乳に抱きしめられていると、もう我慢のしようも無い。
「うっ……」
「あ、そろそろ? なら、思いっきり行くよ」
せり上がってくる射精感の余り発した呻きを、ネレイスは聞き逃さなかった。上下不一致な乳摩擦はそのままに、左右からの圧迫を強める。おっぱいとおっぱいの間に出来た狭い隙間を無理やり陰茎で掘り進んでいるかのような状態にされると、外に張り出たカリ首に与えられる刺激が倍増して、もう堪らない。
恥も外聞も無く、俺は絶頂を懇願した。
「イヴ、もう、駄目だ……」
「どうぞ、ムネの中に出して、良いよ……!」
俺から精液を絞り出すためのラストスパートに入る。圧迫、摩擦、そして何よりおっぱいの柔らかさ。3つの武器で、彼女は俺をあっさりと屈服させた。
きゅっ、っと胸の肉を寄せられた時、俺は達した。豊満な乳房の谷間に、しばらく溜め込んでいたザーメンを思い切りぶちまける。
青い肌に白い精液のコントラストが卑猥で、射精しながらも俺は自分の興奮を抑えることができない。
間欠泉のごとく吹き出す精液は止めどなくイヴの肌を汚し、彼女もまたそれに満足しているようだった。恍惚の表情で、イっている最中の陰茎を胸に抱きしめ、降り注ぐ精液を上半身いっぱいに浴びている。何時に無く長い射精が終わる頃には、もう彼女のおっぱいはどろどろになっていた。
「たくさん出たね。でも、まだまだ終わりじゃないよ。ちゃんとこっちにも注いでくれなくちゃ」
そう言って膝立ちになったイヴは、股の辺りに手をやる。鱗に包まれていたその秘所は、すぐに紅い陰唇をさらけ出した。
「もう挿れちゃうよ。中に出しても、いいからね」
ぬらついた膣口をまだ萎える気配を見せない俺の男性器に添えると、イヴは一気に腰を下ろした。カリ首に濡れたヒダが強く擦れて、思わず息を呑むほど気持ちいい。
騎乗位で男性器を咥え込んだ彼女は、一瞬動きを止めていた。唇の端から僅かに涎を垂らし、パクパクと口を開閉する。
「こ、こ、これ……すご、気持よすぎ……!」
「俺も、良いぞっ」
「すごい、すごいすごい! こんなの、初めて!」
叫ぶと同時に、イヴは猛然たる勢いで腰を上下に振り立て始めた。
会陰同士がぶつかり合ってパシンパシンと下品な音を立てるほどに荒々しく、衝動的な腰。今まで彼女と騎乗位で愛しあったことは少なくなかったが、こんなにも急に乱れることはかつて無かった。
人間でなくなった影響なのか、と考えている余裕は早くも俺から失われていく。もともとスタイルが良く、引き締まった体だった彼女は膣の圧搾力もかなりなものだったが、今の締まりはそれをも遥かに超えている。
自分の手で握り締めるより強く、それでいて痛みも苦しみも全く伴わない、まさしく人外の快楽に俺はたちまち魅了された。
「おい、どうしたんだよイヴ、これ半端ないぞっ」
「私も、すっごくイイよぉ……へへっ、ポセイドン様のお陰かなぁ?」
淫欲に蕩けた彼女の表情は、新たに手に入れた人外の肉体にとても良く似合っている。蒼くて綺麗な肌に汗を浮かべて、イヴはまた俺を責め始めた。
まるで魚の身体にまとわりつく粘液のような、ドロッとした潤滑液が彼女の膣の奥から止めどなく溢れ出してくる。柔らかいゼリーに男性器を突っ込んだようなヌルヌル感と、その上から複雑かつ精妙な膣壁の圧迫感とで、余りにもあっさりと俺は我慢汁を漏らしてしまう。それを悟ったらしき彼女は、底抜けに明るい笑顔を見せてくれた。
「先走り、出たね、き、気持ち、良いんだねっ!?」
「ああ、良いよ。凄く良い。もう我慢できねえよ俺」
「我慢、しなくっていいよ……私も、しないからね」
言いながらイヴは腰の上下を更に早める。愛液の飛沫が俺の胸の方に届く程になって、俺はすぐ限界まで押し上げられてしまった。地面の砂を握りしめて、解放を乞う。
「もう、駄目だ……!」
「頂戴! 精子、私の中に……!」
許しを得ると同時に、俺は精を恋人の中に放った。
ちゃんとタイミングを合わせてくれたのだろうか、射精の瞬間に一番奥まで咥え込まれた俺のものはその疲労にもかかわらず大量の精液を出した。
腰を落としきり、膝で俺の腰を抱え込むようにしていたイヴも同じタイミングで絶頂していたようで、股間と股間を密着させた状態で身体をピクピク震わせていた。
「わ、美味し。精子って、こんなに美味しかったんだぁ……もっともっと、飲みたいなあ……」
狭い膣に収まりきらなかった精液が膣口から逆流して、俺たちの股を白く汚す。久しぶりの交合の、その予想以上の快楽に、俺もイヴも深く満足していた。
欲望を満たし合ってしばらく後。まだ寝転んだままの俺に添い寝しながら、イヴは言った。
「実は私、こんな風になっちゃたから、もう陸では生活できないのよ」
「確かに、見るからに魚っぽいもんなあ。どうすれば、俺たちこのまま恋人同士でいられるんだ?」
「それなんだけどね。海の神官さんに聞いたら、ネレイスとセックスすることで男の人も水中で普通に生活できるようになるらしいのよ。呼吸も必要なくなるのよ」
死人を蘇らせて、更に生きている人間の生態まで変容せしめるのか。海神の魔力、その万能さに俺が舌を巻いていると、イヴは続けた。
「そうすれば、私たちこれからもずっと一緒に居られるって聞いたんだけど……
ねえ。私と一緒に、海の中まで来てくれる? もう陸に戻れなくなったとしても、私の恋人でいてくれる?」
「当然だろ。どこへだって俺はお前についていくさ。一人になんか、させはしないよ」
一人で生きるのが嫌で一時は死を選ぼうとすらした俺だ。今更海の底へ行くのを嫌がるなど、ありえないだろう。そう即答すると、イヴはまた微笑んでくれた。
「ありがとう。じゃ、またエッチしよ。いっぱい気持ちよくなって、これからも海の底で、ずっと一緒にいようね……」
多分今日を境に、俺は陸へ帰ることはないだろう。
残された者たちは、きっと恋人を失った俺が傷心の余り身を投げたと思うに違いない。一時の感情に流されて命を絶った愚か者と思うに違いない。生きてさえいればまだまだ長い人生が残されていたのに、それを無駄にした愚か者と思うに違いない。
だがしかし、そんなことはどうでもいい。愛する女のために捨てた命を、その女自身に拾って貰ったのだ。男として、これ以上の幸せは無い。
無限の幸福に満ちた未来を夢想して、俺はイヴをそっと抱き寄せた。
12/01/30 22:46更新 / ナシ・アジフ