逆説のアタラクシア
とある休日。俺は一人、本屋にやって来ていた。
本屋といっても、そこらにある普通の本屋ではない。第六天魔王書店という名のそのチェーン店は、普通の本以外に、買うのに資格、具体的には二十歳以上の年齢が必要な本やDVD、その他諸々を取り扱う、いわゆる大人の本屋である。
ごく一般的な独身成人男性であるこの俺が、そんな本屋を訪れる理由は改めて説明する必要も無いだろう。その辺の店では手に入らない、いかがわしいアイテムこそが今回の目的である。
未成年でも這入れる(ということになってはいるが、子供が一人でいるのを見たことはこの道何年の俺でも流石に無い)一階をスルーし、エスカレーターで上層部へ向かう。未成年者立入禁止の印を悠々踏み越え、降り立ったのはいわゆる「ジョークグッズ」のフロアー。
人間の性器を模していながら時にそれらを遥かに超えた性能を発揮する、あれやこれやの並べられたスペースである。
表では扱いにくい品物を大量に集積したことによって産まれる一種独特の雰囲気、言いようのない立ち入りにくさを覚えた俺は、しかし歩みを止めること無く陳列棚へ近寄っていった。
人間、一度ラインを踏み越えてしまえば後は早い。初めて買うときにはひどく躊躇い戸惑った『穴』を、今では冷静に、商品同士を値段や性能で比較できるほどになってしまっているのだから。
そう、俺がこの手の物を買うのは初めてのことではない。今回俺は、先日、長年の酷使と陵辱の果てに破れて殉死した『穴』の後継を買い求めに来たわけなのだ。
男用のそれに匹敵する数の女向け製品や、ニヤつきながらそれら振動器具を物色するカップルなどの合間をすり抜けながら、あらたなる快楽を求めて冒険するか、それとも慣れ親しんだ古巣に回帰するか思案していると、視界の端に見慣れない製品が映った。
この手の性具では珍しい、寒色の『穴』である。恐らくシリコン製であろうそれはどういうわけか青く透き通っており、小学校時代、理科の授業で作ったスライムを彷彿とさせた。
物珍しさに惹かれて値札を確認した俺は、更に驚かされる。
同じサイズの他商品と比べると、このクリアブルーの『穴』は遥かに安かったのだ。そのお値段、類似製品の実に5分の1。
確かにこの手のブツは販路が限られているせいか、通販などでは定価より大幅にディスカウントされていることも珍しくない。それを加味してもなお異常といえる低価格に、俺の好奇心は大いに刺激された。
安物買いの銭失い、という諺もあるが、失うことが惜しくないほど安い品物ならば、とりあえず買って試してみるという選択肢も決して愚かとは言えまい。昼飯一回の値段よりも安いそれを手に取り、俺はレジに向かった。
会計を済まそうとした俺は三度驚かされた。カウンターに立っていたのは、なんと女性店員だったのだ。
男性客の買いやすさを考慮してか、あるいは単に女性のアルバイトが確保しにくいためか、この手の店で女性がレジ係をしていることはあまり見られない。しかもレジスターの前にいたのは、テレビや映画で見られる女優など相手にならないような、絶世の美女だったのだ。
更にその美女は、なにかキャンペーンの一環なのだろうか、コスプレをしていた。一見本物かと見紛うくらい精巧に作られたツノや青黒い尻尾、皮膜状の翼など、ゲームや漫画に出てくる悪魔っ娘そのものといったルックス。近くに林立する同人ショップでならともかく、この手の店でコスプレ店員とは、また珍しいものだ。
美しすぎる異装のお姉さんに一瞬気圧されそうになったが、カウンターの前まで商品を持ってきておいて、直前で引き返すほうがよほどみっともない。
できる限り平静を装い、俺は代金を支払って店を出たのだった。
家に帰り着き、本日の戦利品を開封する。値段の割にいやに厳重に密閉された件の性具をプラスチックの箱から出し、軽く水で洗ってから早速味わってみる事とした。
適当にローションを注ぎ、PCを立ち上げマイ・フェイバリット・エロゲーを起動。俺一人だけの祭りを始める。
奮い立たせた自分のものに、クリアブルーのホールを被せていく。中ほどまで挿入して、俺はこの製品が今まで挿れてきたシリコン製の筒とは全く別次元にあるものだということを悟った。
「こいつは大した掘り出しもんだぜ」
特殊な素材を用いているのだろうか、外側から掛ける指の力や向きが、複雑に分散され内部で拡散し、包んだものを全方位から愛撫してくれる。まだほんの数回しか往復させていないのに、まるで初めてはめた時のように俺は追い詰められてしまっていた。
「……!」
穴の感触が心地良すぎて、いきそうになっても手を止めることができない。もうちょっと、と思うも虚しく、俺はあっさり射精してしまった。
「やべえなこれ。生まれて初めてだぞこんなの」
ゲームの主人公よりもずいぶん早く達してしまった俺は、しかし今回のオナニーにはかなり満足していた。
ほんの数分擦っただけで、普段以上の精子を吐き出してしまうほど気持ち良かったからだ。これなら毎日でも、と思いつつ肉棒を抜いてエロゲーを終了しPCの電源を落とした時、手に持ったホールがひとりでに蠢き始めた。
中にたっぷり出された精液を中心に、捻じれ丸まるような激しい動き。やはり安物、材質が変な化学反応でも起こしたのかと訝しんでいると、急にゴム製品が今までの三倍くらいの大きさに膨らんだ。
驚いて取り落とした蒼いホールは、畳の上で急激に膨張し、泡立っていく。いくら変な素材が混じっていたとしても、ちょっと普通じゃありえない反応だ。
異常すぎる事態に俺が硬直していると、泡立つ動きはすぐに収まり、代わりに広がった粘液の中心部が隆起してきた。
平坦だったゲルの真ん中が持ち上がり、柱状にゆっくりと伸びてくる。単に伸び上がるのではなく、粘液柱の表面が細かく蠢き、凹凸や裂け目を作っていく。木材から彫刻を削り出すように、のっぺりした軟体の棒が崩れ、練られてひとつの形へと収束していく。
反応が落ち着いた後、そこにいたのは奇妙な女性だった。
いや、女性と呼んでいいものかは、俺には判断できない。まるでRPGに出てくるスライムか何かのようだが、果たして本当に生物なのかということすら不確かなのだ。
形だけ見れば人間の女と大差ないが、材質が全く違う。微かに透き通る青い粘体、あの性具そのものである。
内部に射精したはずの俺のザーメンはいつの間にか消えており、半透明ボディな謎の女は、突然眼の前で繰り広げられた現実感溢れる悪夢に腰を抜かした俺をぼーっと見つめる。
「う?」
発された声は、少女のように高く可愛らしい。ぱちぱち、と両眼らしきものをしばたたかせ、畳に尻餅をついたままの俺を観察する。
「おとこのひと……せーえき?」
俺を呼んでいるのだろうか、と思った瞬間、自分が下半身丸出しなことに気づき今さらながら羞恥と恐怖を感じた。
女性(らしきもの)に股間を見られているという恥と、見知らぬ謎の生物に下半身をさらけ出してしまっているという恐れ。慌ててズボンを上げようとした俺を、ゲル女は制止した。
「あ、まって……」
「なっ!」
虚ろな感じの表情とは裏腹に、女はやけに俊敏に動いてこちらに近づいてきた。
俺の両脚をその粘体で包み込み、太腿まで拘束してとっくに萎えた男性器を凝視する。
驚きの連続で思考がついて行かないながらも、なんとか状況を把握したくて俺は声を出した。
「お、おい! なあ、あんた何者なんだ!? 人間、じゃないよな!?」
「じぶんがなにものか、わかるひとなんていないって、りりむさんがいってた……」
スライム女は訳の分からぬことを言って、しかし俺を離してはくれない。
そのどろどろした、半固体状の身体を寄せて腰の方までも粘体が飲み込んでいく。まさかこのまま食われるのかと思って身を硬くすると、まだ汗や精液が付いたままの男性器を一撫でして、スライムが微笑んだ。
「おいしい……せーえき、もういっかいちょうだい♪」
こちらの返事も聞かず、スライムは俺のものを取り込んだ。
人間で言う股間、脚と脚の間に迎え入れられた俺のものが最初に感じたのは涼しさだった。異形の者に性器を弄られるという危機的状況にあってなお、心地よさを覚えてしまうほどひんやりしている。
しかしそんな穏やかな快感は、続いて襲ってきた猛烈な愛撫によって塗りつぶされる。
ホールだった時も絶後の気持ちよさを生み出していたこのスライムは、女性の形態を取ることによって真の力を発揮したらしい。
ゴム越しに自分の手で扱くなんぞとは比べものにならない刺激が俺の背筋から脳へ向かって雷光のごとく突き抜けた。
射精した直後であり、また怪物に襲われたことで萎え切っていた俺の海綿体が、人外の快楽で一気に復活する。プルプルして柔らかい粘体を押し広げる勃起は、360度あらゆる角度から滑らかなゲルに抱擁され、すぐに先走りを漏らしてしまう。
「あ、おっきくなった。きもちい?」
「なななんだこれ、すげえ、し、死にそう……」
「あは。もっとしたげるから、せーしだして?」
ゆっくりと、騎乗位のような体勢でスライム女は身体を上下させ始めた。
人間の女性器と同じくらいの位置に挿入された俺のものは、普通のセックスとは比べものにならないほどの快感を得ていた。
まあ、商売女を数回買った経験しかない俺が女の良さをどうこう言うのも変な話だが、経験の有無など問題にもならない絶対的な快楽がそこにはあった。
たっぷりのローションと、それ自体しっとりと潤ってヌルヌル滑る軟体。スライムは男根の複雑な形にもぴったりと合い、強すぎず弱すぎない絶妙な収縮力で根元から亀頭の先まで同時に、等しい力で抱きしめてくれる。
一見均一に見えるゲルも、敏感な性器を突っ込めばそうでない事が分かる。眼に見えないくらい微細な突起のようなものが生み出され、それらが竿にあたって崩れながらまた新たに形成され、絶え間無い快感を俺の陰部へ注ぎ続ける。
人間どころかホールでも絶対に再現不可能な、異次元の快楽は俺の理性を完全に奪った。現実世界じゃありえないはずの液状人間がどうしてここにいるのか、なぜオナホールからスライム女が出てきたのかとかそんな瑣末なことは綺麗サッパリ忘れ去って、ただただ彼女の与えてくれる愛を貪り続ける。
素早くはないが、その分じっくり責めてより多くの精液を搾り出そうとするかのような腰振りは、逃れようのない性感を積み続け、早くもスライムの虜となってしまった俺の忍耐力を確実に蝕んでいく。
何十回目か、スライムが身体を深く落とし竿の根元から尿道口まできゅぅぅぅっと一度に締めてくれた時、俺はあっさり限界に達した。
「あ、ああぁ……!」
「あ。でたでた。せーえき……ふふん。おーいし♪」
身体の中に撒き散らされた大量のザーメンが透けて見えて、なんだか卑猥だ。
と、粘液質の中に浮かんでいたはずの子種汁がみるみるうちに薄まって、消えて行く。最初にホールへ出たの分もいつの間にか消えていたが、なるほどこういうことだったのか。
「ね。もっとできる? できるよね。じゃあしよう。いっぱい、せーしだそうよ……」
精液が消えて行くのを見て、彼女が美味しいとかなんとか言ってたのは、つまり男の子種を食っていたわけか、と納得したのもの束の間。
まだまだ飢えが収まらないスライムが再び腰を振り始め、強要される快楽に俺は一瞬足りともなえることを許されない。
強制的な連続射精を辛く思うよりもむしろ歓迎している自分を疑うこともなく、俺は彼女に溺れていった。
数日後。
外出から帰ってきた俺は、取るものもとりあえずスライム女のところへ向かった。
歩きながら服を脱ぎ捨て、半裸になって自分の部屋へ行くと、果たしてそこにはうたた寝をしている彼女がいた。
戸を開ける音で目を覚ましたらしき彼女は、俺が下半身に何も履いていないことを気づいて心底嬉しそうな顔をした。臨戦態勢の肉棒を目を細めて眺めるその表情は、淫蕩そのもの。
「……おかえりなさい♪」
「ああただいま。早速だけど、もう俺……お前が欲しくてたまらないんだ」
言いながら彼女に近づき、剛直をぷるんとした唇に当てる。
俺の意図を察したスライムが大きく口を開いて飲み込むと、待ち望んだ快感が流れこむ。半固体状の肉体から分泌される潤滑液はゲルと絡んでぐちゅぐちゅという卑猥な水音を立て、俺の興奮をかきたてる。
「は、はぁぅ……じゅるじゅるっ、んぐっ」
「くっ……」
柔らかい体の奥の奥、喉の奥に突き刺さってるんじゃないかと思えるくらい深く、彼女は男性器を飲み込む。その柔軟な体ゆえ、大きく勃起した男性器を全部余さず飲み込んでも苦しそうな顔ひとつしない。むしろ、下がった目尻や俺の膝裏へと回された両腕などが、彼女も楽しんでいるのだということを示していた。
下半身に抱きついた体勢でいつものごとく頭を振り始めようとしたスライムを、俺は制止した。ちょっと戸惑った感じの顔を両手で抱え、動けないようにしてから一気に腰を使い始める。
女にちんこを咥えさせ、その上で男が腰を振る、イラマチオというやつである。
普通の女相手にやったらまず間違いなく嫌われる……と言うか、多分男のほうもあんまり気持ちよくなれないだろうプレイだが、スライム相手なら何の問題もなく楽しめる。
さっき喉に刺さってるんじゃないかと言ったが、カリ首が唇に引っかかるくらいまで腰を引き、そこから一気に根元までぶち込んでやると、本当に挿さってるとしか思えないほど深く男性器を咥えさせることになる。
こんなことをしても、スライムならば何も問題ない。むしろ激しく荒々しい性戯に、無垢な軟体少女は新鮮な悦びさえ感じてくれているようで、ますます腰に力が入ってしまう。
「んぐ、う、うむっ……ふっ、ふっ、じゅじゅじゅ、ふっ……!」
「ああ、い、いいぞ、もっと……吸ってくれ……!」
「はふふ、はぁい……んくっ、ぅ、じゅじゅ、ちゅぅぅぅっ……!」
口をすぼめて締まりを強化して、スライムはさらなる快感を俺に与えてくれる。よだれのように唇の端から溢れる潤滑液が胸へと垂れ落ちていくのがとてもいやらしい。
口の内側も、恐らく性感を高めやすいような変形が為されている。滑らかさと摩擦とを兼ね備えた淫らなお口を思うがままに蹂躙する感覚はとても甘美で、思わず我慢汁が出てしまうほどだった。
「……らぁ……れたれた……♪ ぅふふ、んちゅっ、んれろ、ぇろぇろぇろ……」
「あああ、いい、いいぞ……! もうすぐ、濃いのも出すからな……!」
「ぁん、ちょうーらい、せーひ……のまへて……んぐっ、くく、ぐぅぅぅっ……!」
会陰が彼女の顔面にぶつかってパシパシ音が鳴るくらい激しく腰を突き込むと、俺たちの快感は一気に増大した。
喉から気管、食道まで犯す勢いで竿を出し入れし、柔らかくもいやらしい頬肉の裏や上顎にもカリ首を擦りつける。無垢で無知な少女が俺の臭いだけに染まっていくのだと思うと、もう射精せずにはいられない。
「出すっ……! 射精するぞ、もう……!」
「はむむ、んじぎゅっ、う、ちょーらい、せーひ、れんぶのむからぁ……!ずぽ、ずぽずぽっ……!」
強烈なバキュームと唇の締め付けを同時に施され、俺はそのまま精を放った。
がっしと頭を抱え込み、陰毛が鼻の穴に入るくらいしっかりと彼女の顔を股間に密着させる。
口の奥の奥へ強引に差し入れた男性器が人間で言う咽頭の辺りへ精液をぶちまける。
人間ならば口と鼻の呼吸を阻害されて悶えるところだろうが、スライムの彼女は何ら問題なく、出された精液を美味しそうに味わっていた。
「んぐっ、こくっ、ん…… じゅっ、ん、ぐくっ…… ふはぁ♪」
最後の一滴まで出し終わり、精液溜まりみたいになったスライムの口を開放してやると、彼女は俺の汚液をこくこくと飲み下した。
可愛い女の子に精液を飲ませる背徳的な満足感に浸りながらも、俺の愚息はまだまだ収まらない。竿や尿道に残った汁を舐めとろうと顔を近づけてくる彼女も、一回戦で終わることなんか望んではいない。
「はふふ、はげしかったね。きもちよかった?」
嬉しそうに俺のものを舐めて清めてくれる彼女の頭を撫でて、俺は幸福を感じていた。
なぜオナホから、こんな女が出てきたのか。そもそもこいつはどういう生き物なのか、これを売っていたあの異形の美女は何者だったのか。
謎は尽きないが、もはやそんなことはどうでもよかった。可愛くて淫乱で、俺の望むことを何でもしてくれる女がいるのに、それ以上何か求めるべきことなどありえないだろう。
余計なことを色々と考えながら日々を必死に生きる人間としての苦痛から解放され、俺はただただ快楽と自由を享受し続けるのだ。
本屋といっても、そこらにある普通の本屋ではない。第六天魔王書店という名のそのチェーン店は、普通の本以外に、買うのに資格、具体的には二十歳以上の年齢が必要な本やDVD、その他諸々を取り扱う、いわゆる大人の本屋である。
ごく一般的な独身成人男性であるこの俺が、そんな本屋を訪れる理由は改めて説明する必要も無いだろう。その辺の店では手に入らない、いかがわしいアイテムこそが今回の目的である。
未成年でも這入れる(ということになってはいるが、子供が一人でいるのを見たことはこの道何年の俺でも流石に無い)一階をスルーし、エスカレーターで上層部へ向かう。未成年者立入禁止の印を悠々踏み越え、降り立ったのはいわゆる「ジョークグッズ」のフロアー。
人間の性器を模していながら時にそれらを遥かに超えた性能を発揮する、あれやこれやの並べられたスペースである。
表では扱いにくい品物を大量に集積したことによって産まれる一種独特の雰囲気、言いようのない立ち入りにくさを覚えた俺は、しかし歩みを止めること無く陳列棚へ近寄っていった。
人間、一度ラインを踏み越えてしまえば後は早い。初めて買うときにはひどく躊躇い戸惑った『穴』を、今では冷静に、商品同士を値段や性能で比較できるほどになってしまっているのだから。
そう、俺がこの手の物を買うのは初めてのことではない。今回俺は、先日、長年の酷使と陵辱の果てに破れて殉死した『穴』の後継を買い求めに来たわけなのだ。
男用のそれに匹敵する数の女向け製品や、ニヤつきながらそれら振動器具を物色するカップルなどの合間をすり抜けながら、あらたなる快楽を求めて冒険するか、それとも慣れ親しんだ古巣に回帰するか思案していると、視界の端に見慣れない製品が映った。
この手の性具では珍しい、寒色の『穴』である。恐らくシリコン製であろうそれはどういうわけか青く透き通っており、小学校時代、理科の授業で作ったスライムを彷彿とさせた。
物珍しさに惹かれて値札を確認した俺は、更に驚かされる。
同じサイズの他商品と比べると、このクリアブルーの『穴』は遥かに安かったのだ。そのお値段、類似製品の実に5分の1。
確かにこの手のブツは販路が限られているせいか、通販などでは定価より大幅にディスカウントされていることも珍しくない。それを加味してもなお異常といえる低価格に、俺の好奇心は大いに刺激された。
安物買いの銭失い、という諺もあるが、失うことが惜しくないほど安い品物ならば、とりあえず買って試してみるという選択肢も決して愚かとは言えまい。昼飯一回の値段よりも安いそれを手に取り、俺はレジに向かった。
会計を済まそうとした俺は三度驚かされた。カウンターに立っていたのは、なんと女性店員だったのだ。
男性客の買いやすさを考慮してか、あるいは単に女性のアルバイトが確保しにくいためか、この手の店で女性がレジ係をしていることはあまり見られない。しかもレジスターの前にいたのは、テレビや映画で見られる女優など相手にならないような、絶世の美女だったのだ。
更にその美女は、なにかキャンペーンの一環なのだろうか、コスプレをしていた。一見本物かと見紛うくらい精巧に作られたツノや青黒い尻尾、皮膜状の翼など、ゲームや漫画に出てくる悪魔っ娘そのものといったルックス。近くに林立する同人ショップでならともかく、この手の店でコスプレ店員とは、また珍しいものだ。
美しすぎる異装のお姉さんに一瞬気圧されそうになったが、カウンターの前まで商品を持ってきておいて、直前で引き返すほうがよほどみっともない。
できる限り平静を装い、俺は代金を支払って店を出たのだった。
家に帰り着き、本日の戦利品を開封する。値段の割にいやに厳重に密閉された件の性具をプラスチックの箱から出し、軽く水で洗ってから早速味わってみる事とした。
適当にローションを注ぎ、PCを立ち上げマイ・フェイバリット・エロゲーを起動。俺一人だけの祭りを始める。
奮い立たせた自分のものに、クリアブルーのホールを被せていく。中ほどまで挿入して、俺はこの製品が今まで挿れてきたシリコン製の筒とは全く別次元にあるものだということを悟った。
「こいつは大した掘り出しもんだぜ」
特殊な素材を用いているのだろうか、外側から掛ける指の力や向きが、複雑に分散され内部で拡散し、包んだものを全方位から愛撫してくれる。まだほんの数回しか往復させていないのに、まるで初めてはめた時のように俺は追い詰められてしまっていた。
「……!」
穴の感触が心地良すぎて、いきそうになっても手を止めることができない。もうちょっと、と思うも虚しく、俺はあっさり射精してしまった。
「やべえなこれ。生まれて初めてだぞこんなの」
ゲームの主人公よりもずいぶん早く達してしまった俺は、しかし今回のオナニーにはかなり満足していた。
ほんの数分擦っただけで、普段以上の精子を吐き出してしまうほど気持ち良かったからだ。これなら毎日でも、と思いつつ肉棒を抜いてエロゲーを終了しPCの電源を落とした時、手に持ったホールがひとりでに蠢き始めた。
中にたっぷり出された精液を中心に、捻じれ丸まるような激しい動き。やはり安物、材質が変な化学反応でも起こしたのかと訝しんでいると、急にゴム製品が今までの三倍くらいの大きさに膨らんだ。
驚いて取り落とした蒼いホールは、畳の上で急激に膨張し、泡立っていく。いくら変な素材が混じっていたとしても、ちょっと普通じゃありえない反応だ。
異常すぎる事態に俺が硬直していると、泡立つ動きはすぐに収まり、代わりに広がった粘液の中心部が隆起してきた。
平坦だったゲルの真ん中が持ち上がり、柱状にゆっくりと伸びてくる。単に伸び上がるのではなく、粘液柱の表面が細かく蠢き、凹凸や裂け目を作っていく。木材から彫刻を削り出すように、のっぺりした軟体の棒が崩れ、練られてひとつの形へと収束していく。
反応が落ち着いた後、そこにいたのは奇妙な女性だった。
いや、女性と呼んでいいものかは、俺には判断できない。まるでRPGに出てくるスライムか何かのようだが、果たして本当に生物なのかということすら不確かなのだ。
形だけ見れば人間の女と大差ないが、材質が全く違う。微かに透き通る青い粘体、あの性具そのものである。
内部に射精したはずの俺のザーメンはいつの間にか消えており、半透明ボディな謎の女は、突然眼の前で繰り広げられた現実感溢れる悪夢に腰を抜かした俺をぼーっと見つめる。
「う?」
発された声は、少女のように高く可愛らしい。ぱちぱち、と両眼らしきものをしばたたかせ、畳に尻餅をついたままの俺を観察する。
「おとこのひと……せーえき?」
俺を呼んでいるのだろうか、と思った瞬間、自分が下半身丸出しなことに気づき今さらながら羞恥と恐怖を感じた。
女性(らしきもの)に股間を見られているという恥と、見知らぬ謎の生物に下半身をさらけ出してしまっているという恐れ。慌ててズボンを上げようとした俺を、ゲル女は制止した。
「あ、まって……」
「なっ!」
虚ろな感じの表情とは裏腹に、女はやけに俊敏に動いてこちらに近づいてきた。
俺の両脚をその粘体で包み込み、太腿まで拘束してとっくに萎えた男性器を凝視する。
驚きの連続で思考がついて行かないながらも、なんとか状況を把握したくて俺は声を出した。
「お、おい! なあ、あんた何者なんだ!? 人間、じゃないよな!?」
「じぶんがなにものか、わかるひとなんていないって、りりむさんがいってた……」
スライム女は訳の分からぬことを言って、しかし俺を離してはくれない。
そのどろどろした、半固体状の身体を寄せて腰の方までも粘体が飲み込んでいく。まさかこのまま食われるのかと思って身を硬くすると、まだ汗や精液が付いたままの男性器を一撫でして、スライムが微笑んだ。
「おいしい……せーえき、もういっかいちょうだい♪」
こちらの返事も聞かず、スライムは俺のものを取り込んだ。
人間で言う股間、脚と脚の間に迎え入れられた俺のものが最初に感じたのは涼しさだった。異形の者に性器を弄られるという危機的状況にあってなお、心地よさを覚えてしまうほどひんやりしている。
しかしそんな穏やかな快感は、続いて襲ってきた猛烈な愛撫によって塗りつぶされる。
ホールだった時も絶後の気持ちよさを生み出していたこのスライムは、女性の形態を取ることによって真の力を発揮したらしい。
ゴム越しに自分の手で扱くなんぞとは比べものにならない刺激が俺の背筋から脳へ向かって雷光のごとく突き抜けた。
射精した直後であり、また怪物に襲われたことで萎え切っていた俺の海綿体が、人外の快楽で一気に復活する。プルプルして柔らかい粘体を押し広げる勃起は、360度あらゆる角度から滑らかなゲルに抱擁され、すぐに先走りを漏らしてしまう。
「あ、おっきくなった。きもちい?」
「なななんだこれ、すげえ、し、死にそう……」
「あは。もっとしたげるから、せーしだして?」
ゆっくりと、騎乗位のような体勢でスライム女は身体を上下させ始めた。
人間の女性器と同じくらいの位置に挿入された俺のものは、普通のセックスとは比べものにならないほどの快感を得ていた。
まあ、商売女を数回買った経験しかない俺が女の良さをどうこう言うのも変な話だが、経験の有無など問題にもならない絶対的な快楽がそこにはあった。
たっぷりのローションと、それ自体しっとりと潤ってヌルヌル滑る軟体。スライムは男根の複雑な形にもぴったりと合い、強すぎず弱すぎない絶妙な収縮力で根元から亀頭の先まで同時に、等しい力で抱きしめてくれる。
一見均一に見えるゲルも、敏感な性器を突っ込めばそうでない事が分かる。眼に見えないくらい微細な突起のようなものが生み出され、それらが竿にあたって崩れながらまた新たに形成され、絶え間無い快感を俺の陰部へ注ぎ続ける。
人間どころかホールでも絶対に再現不可能な、異次元の快楽は俺の理性を完全に奪った。現実世界じゃありえないはずの液状人間がどうしてここにいるのか、なぜオナホールからスライム女が出てきたのかとかそんな瑣末なことは綺麗サッパリ忘れ去って、ただただ彼女の与えてくれる愛を貪り続ける。
素早くはないが、その分じっくり責めてより多くの精液を搾り出そうとするかのような腰振りは、逃れようのない性感を積み続け、早くもスライムの虜となってしまった俺の忍耐力を確実に蝕んでいく。
何十回目か、スライムが身体を深く落とし竿の根元から尿道口まできゅぅぅぅっと一度に締めてくれた時、俺はあっさり限界に達した。
「あ、ああぁ……!」
「あ。でたでた。せーえき……ふふん。おーいし♪」
身体の中に撒き散らされた大量のザーメンが透けて見えて、なんだか卑猥だ。
と、粘液質の中に浮かんでいたはずの子種汁がみるみるうちに薄まって、消えて行く。最初にホールへ出たの分もいつの間にか消えていたが、なるほどこういうことだったのか。
「ね。もっとできる? できるよね。じゃあしよう。いっぱい、せーしだそうよ……」
精液が消えて行くのを見て、彼女が美味しいとかなんとか言ってたのは、つまり男の子種を食っていたわけか、と納得したのもの束の間。
まだまだ飢えが収まらないスライムが再び腰を振り始め、強要される快楽に俺は一瞬足りともなえることを許されない。
強制的な連続射精を辛く思うよりもむしろ歓迎している自分を疑うこともなく、俺は彼女に溺れていった。
数日後。
外出から帰ってきた俺は、取るものもとりあえずスライム女のところへ向かった。
歩きながら服を脱ぎ捨て、半裸になって自分の部屋へ行くと、果たしてそこにはうたた寝をしている彼女がいた。
戸を開ける音で目を覚ましたらしき彼女は、俺が下半身に何も履いていないことを気づいて心底嬉しそうな顔をした。臨戦態勢の肉棒を目を細めて眺めるその表情は、淫蕩そのもの。
「……おかえりなさい♪」
「ああただいま。早速だけど、もう俺……お前が欲しくてたまらないんだ」
言いながら彼女に近づき、剛直をぷるんとした唇に当てる。
俺の意図を察したスライムが大きく口を開いて飲み込むと、待ち望んだ快感が流れこむ。半固体状の肉体から分泌される潤滑液はゲルと絡んでぐちゅぐちゅという卑猥な水音を立て、俺の興奮をかきたてる。
「は、はぁぅ……じゅるじゅるっ、んぐっ」
「くっ……」
柔らかい体の奥の奥、喉の奥に突き刺さってるんじゃないかと思えるくらい深く、彼女は男性器を飲み込む。その柔軟な体ゆえ、大きく勃起した男性器を全部余さず飲み込んでも苦しそうな顔ひとつしない。むしろ、下がった目尻や俺の膝裏へと回された両腕などが、彼女も楽しんでいるのだということを示していた。
下半身に抱きついた体勢でいつものごとく頭を振り始めようとしたスライムを、俺は制止した。ちょっと戸惑った感じの顔を両手で抱え、動けないようにしてから一気に腰を使い始める。
女にちんこを咥えさせ、その上で男が腰を振る、イラマチオというやつである。
普通の女相手にやったらまず間違いなく嫌われる……と言うか、多分男のほうもあんまり気持ちよくなれないだろうプレイだが、スライム相手なら何の問題もなく楽しめる。
さっき喉に刺さってるんじゃないかと言ったが、カリ首が唇に引っかかるくらいまで腰を引き、そこから一気に根元までぶち込んでやると、本当に挿さってるとしか思えないほど深く男性器を咥えさせることになる。
こんなことをしても、スライムならば何も問題ない。むしろ激しく荒々しい性戯に、無垢な軟体少女は新鮮な悦びさえ感じてくれているようで、ますます腰に力が入ってしまう。
「んぐ、う、うむっ……ふっ、ふっ、じゅじゅじゅ、ふっ……!」
「ああ、い、いいぞ、もっと……吸ってくれ……!」
「はふふ、はぁい……んくっ、ぅ、じゅじゅ、ちゅぅぅぅっ……!」
口をすぼめて締まりを強化して、スライムはさらなる快感を俺に与えてくれる。よだれのように唇の端から溢れる潤滑液が胸へと垂れ落ちていくのがとてもいやらしい。
口の内側も、恐らく性感を高めやすいような変形が為されている。滑らかさと摩擦とを兼ね備えた淫らなお口を思うがままに蹂躙する感覚はとても甘美で、思わず我慢汁が出てしまうほどだった。
「……らぁ……れたれた……♪ ぅふふ、んちゅっ、んれろ、ぇろぇろぇろ……」
「あああ、いい、いいぞ……! もうすぐ、濃いのも出すからな……!」
「ぁん、ちょうーらい、せーひ……のまへて……んぐっ、くく、ぐぅぅぅっ……!」
会陰が彼女の顔面にぶつかってパシパシ音が鳴るくらい激しく腰を突き込むと、俺たちの快感は一気に増大した。
喉から気管、食道まで犯す勢いで竿を出し入れし、柔らかくもいやらしい頬肉の裏や上顎にもカリ首を擦りつける。無垢で無知な少女が俺の臭いだけに染まっていくのだと思うと、もう射精せずにはいられない。
「出すっ……! 射精するぞ、もう……!」
「はむむ、んじぎゅっ、う、ちょーらい、せーひ、れんぶのむからぁ……!ずぽ、ずぽずぽっ……!」
強烈なバキュームと唇の締め付けを同時に施され、俺はそのまま精を放った。
がっしと頭を抱え込み、陰毛が鼻の穴に入るくらいしっかりと彼女の顔を股間に密着させる。
口の奥の奥へ強引に差し入れた男性器が人間で言う咽頭の辺りへ精液をぶちまける。
人間ならば口と鼻の呼吸を阻害されて悶えるところだろうが、スライムの彼女は何ら問題なく、出された精液を美味しそうに味わっていた。
「んぐっ、こくっ、ん…… じゅっ、ん、ぐくっ…… ふはぁ♪」
最後の一滴まで出し終わり、精液溜まりみたいになったスライムの口を開放してやると、彼女は俺の汚液をこくこくと飲み下した。
可愛い女の子に精液を飲ませる背徳的な満足感に浸りながらも、俺の愚息はまだまだ収まらない。竿や尿道に残った汁を舐めとろうと顔を近づけてくる彼女も、一回戦で終わることなんか望んではいない。
「はふふ、はげしかったね。きもちよかった?」
嬉しそうに俺のものを舐めて清めてくれる彼女の頭を撫でて、俺は幸福を感じていた。
なぜオナホから、こんな女が出てきたのか。そもそもこいつはどういう生き物なのか、これを売っていたあの異形の美女は何者だったのか。
謎は尽きないが、もはやそんなことはどうでもよかった。可愛くて淫乱で、俺の望むことを何でもしてくれる女がいるのに、それ以上何か求めるべきことなどありえないだろう。
余計なことを色々と考えながら日々を必死に生きる人間としての苦痛から解放され、俺はただただ快楽と自由を享受し続けるのだ。
11/09/25 12:15更新 / ナシ・アジフ