貴族の家系というものは、一般の家庭とは全く異なる機能を有する。
　一般庶民にとっては、家族とはお互いに助け合い利益を与え合うための構造である。親は子を育て、子は親を助ける。一人で生きていけない人間が寄り添うための組織が、家族である。
　即ち、平民にとって家族というものは、それを構成する人間のために存在する。
　貴族の場合はこの逆である。
　本家や分家の違いを問わず、そこに産まれた者たちは「個人」としての在り方よりも先に「なになに家の一員」として在ることを要求される。
　生まれながらにして家系の奉仕者、生まれるよりも先に役目が与えられている、それが貴族の子女だ。
　上に何人かいた兄貴達ほど、俺は自分を組織の構成員として割り切れなかった。それ故に、私立学校の授業をサボタージュしたり、勝手に屋敷の家財を売り払ったりして色々反抗してみたりもしたのだが。
　結局、俺が額に汗して働かずとも日々の食事を得られるのは俺がメルドリッチ家の一員であるからだという事実を覆すことは出来なかった。
　俺は、憎み抗っていた貴族の血無しには生活できないのだった。それを理解してなお、八つ当たりのごとく親や兄貴に反抗する俺の姿は、実権を握る爺様がたから見るとさぞ滑稽だったろう。
　そんな、兄貴や従兄弟と違ってやたらと反抗的で、これと言って学業面でも社交面でも取り柄の無い俺だったが、それでも親父達は俺を追い出したり懲罰したりはしなかった。
　成長すればそのうち俺も家のやり方に馴染むだろうと見越していたのかもしれないし、馴染まなかったら馴染まなかったで何なりと、利用法の案はあったのかもしれない（実際、妹を封ずる役には立ったわけだ）。
　メルドリッチ家から脱出する、どころか親の掌から逃れることすら、俺には叶わなかったということ。手は離されたが依然として目は離されない状態を仮初の自由だと思い込んで、親世代の放任を甘受していたのだ。

　そんな風に、俺がある意味では気ままな生活を送っていた一方で、妹のルクレツィアは俺より遥かに厳しい環境にあった。
　なぜか俺たち本家には女子が少なく、子供の数自体もあまり多いとは言えなかった。俺たちと同年代の親族の中で唯一の女であったルクレツィアは、まだ幼い頃から政略結婚の道具として教育され、調教され続けてきたのだ。
　封建的な貴族主義の例に漏れず、ルクレツィアに施された教育はつまり「夫に従う女」を作るためのものだった。
　待望の女子ということもあってその教育はずいぶん熱心に行われ、当時まだ幼かった俺から見ても、これはちょっとやり過ぎなんじゃないかと思えることは少なくなかった。
　自我も確立しないうちから施された抑圧的教育の影響か、それとも元々の性格なのかは知らないが、その教育は功を奏した。
物心つく頃にはすっかり、ルクレツィアはすっかり大人しくて自己主張の苦手な、内気な女子になってしまっていた。親父どもの願いは叶ったことになるわけだが、それで彼女が自由になれるわけでもなく。
　実の親や、血のつながった親族ですら彼女を調教の対象か、一族繁栄のための道具としてしか見なかった。常に親たちに対して反抗的で、家のことになんか微塵も興味を持たなかった兄にルクレツィアが救いを求めたのも、ある意味では必然だったろう。
　俺としても、こんな幼い子を泣かしてまで家系が存続する必要など無いと思っていたし、口うるさい説教もガキ臭い悟りぶった世迷い言も吐かずに、ただ一緒に居ようとしてくれる無口な彼女のことを愛おしくも思っていた。
　朝から始まる苛烈な授業を終えて、夕食までの僅かな自由時間。俺とルクレツィアはよく二人で屋敷を抜け出て外を散策したものだった。
　今から思えば、親父達が大事な娘を短い時間とはいえ放っておいたのは不思議なことに思えるが、もしかしたらメルドリッチ家一の問題児と大事な商品、一度に監視できて好都合、ぐらいに考えていたのかもしれない。
　ともかく、幼い頃の俺たちはお互いを必要としていた。親にも兄弟にも言えないことを、兄妹同士でなら言えた。
　抑圧されっぱなしだったルクレツィアはもちろん、いつもつっぱり続けていた俺にとっても、互いの存在はずいぶんと大きな救いになっていた。
　成長してからもそうだ。
　自分の血筋に抵抗しながらも、その家から出て一人では暮らしていけないことを薄々感づいて絶望していた俺と、引き合わされるすべての男に単なる一人の女として、子を生むための道具として見られることに疲れ果てたルクレツィア。
　俺と妹は、お互いに利益や打算抜きで触れ合える唯一の相手だったのだ。
　だから、俺はあいつの望むことなら何でもしてやれるだろうし、あいつだって俺のことを大事に思ってくれているのは分かっていた。特異な環境ゆえ、俺たちは普通の兄妹よりも遥かに親密な関係でいたのは間違いない。
　しかし。
　まさかあの可愛い妹が、俺のことをこんなふうに想っていたとは。


「……んしょっ、んしょっ……どうです、兄さん？　私のおっぱいは、気持ちいいですか？」

　薄暗い地下室で、今日も妹は俺を求める。自分の命を人質に取り、実の兄といやらしいことをしようというのだ。
　先日俺を効率良く感じさせる方法を発見して以来というもの、ルクレツィアの施す性戯はどんどん激しく、卑猥で煽情的なものになっていった。
　単に精液を摂取するだけならばする必要も無いだろう多彩な愛撫でもって、彼女は一滴でも多くのザーメンを俺から絞り取ろうとする。妹の与えてくれる快感が凄まじすぎて、徐々にルクレツィアの魅力に抗えなくなってきていることを、俺は認めたくなかった。
　今日のプレイはパイズリフェラ。
　もともと同年代の女子と比較しても小振りだった彼女のおっぱいは、淫魔となった時から徐々に膨らみ続け、今では子供の頭程もある巨大な乳房となっていた。
　そんな危険な肉塊をルクレツィアは俺の股間に押し付ける。深い谷間に実の兄の生殖器を迎え入れ、柔らかい乳脂肪で左右からフワフワと刺激して勃起を強制する。
　むちっとした乳と乳の間から顔を出す赤黒い亀頭へ、更に雨あられとキスを降らせ、尿道口やカリ首など刺激に弱い部分を執拗に舐め、ほじり、咥える。
　幼い頃からずっと大事に思ってきた愛しい妹が俺だけに見せるこんな媚態に、俺の理性は毎日蝕まれているのだ。
　血の繋がった女に欲情したくなんかない、近親相姦なんかすべきではないといくら訴えかけても、ルクレツィアは聞いてはくれない。淫魔である自分を昔と変わらず慈しんでくれるのなら、精液をくれと言う。ペニスを勃起させて、ザーメンを出せという。
　妹の訴えを拒否することなどできないのだ。俺は彼女のことが大切だから。死んで欲しくなんかないから。
　そうして今夜も、サキュバスは俺を愛し、弄び、散々に感じさせて子種を搾るのだ。
　魅惑の巨乳で俺の竿をがっちりと捉え、間から突き出た先端を舌と唇で絶え間なく苛む。ここを責めれば良いと知って以来、彼女のもたらす快楽は飛躍的に増大した。
　実の妹に舐められて感じてはいけない、と如何に強く思おうと、柔らかすぎる双乳の産み出すまったりとした快感と、先端に注がれる貪欲な口からの強烈な刺激には対抗できない。
　竿ばかり責められていたかつてとは違い、服を脱いで陰茎を勃起させ、五分くらい後にはもう先走りを漏らしてしまうほど、ルクレツィアの搾精技術は進歩していた。
　今も、両手で大きなおっぱいを抱え中央の幹に寄せ、ふんわりしたミルクタンクでガチガチになった男性器を強く圧迫している。更に左右の手を交互に動かして、汗ばんだ乳肌で絶え間ない摩擦をも加えてきている。
　その一方で、胸の届かない亀頭粘膜には薄紅色の上品な唇が吸いつき、こんこんと溢れ出す我慢汁を舐め取りながらもっと出せとばかりに唇で軽く咥え、温かい口の中でじっくりねっとり、舌による奉仕を行うのだ。
　もしこれを俺に施しているのが普通の女だったなら、俺は何も悩む必要無かったんだが。
　普通に知り合った女友達とか、恋人とか、あるいはいっそ金で買った女でもいい。俺の可愛い、寂しがり屋で内気なルクレツィアでさえなければ、何も問題なかったのに。
　そんな風に現実逃避したくても、生殖器に強制される快感はあまりに鮮烈で、余計なことを考える暇など与えてくれない。前歯で軽く鈴口をいじめながら、淫魔が笑った。

「物思いですかぁ？　兄さん。随分余裕なんですね、こんなにいっぱいご奉仕してるのに……
　もっともっと、頑張れってことですか？　いいですよ……兄さんのためなら、何だってしてあげられます」

　機嫌を損ねたふうでもなく、むしろ今まで以上のやる気を見せて、ルクレツィアが俺の尿道をストローのように吸い上げる。精巣からスペルマを直接啜り上げるような強烈な吸引に、一瞬目の前が白くなった。
　素行の悪さゆえ、同年代の親族からも敬遠され気味で、家柄の高さゆえ、庶民や中級、下級貴族たちも畏れをなして寄って来ない。
　無名の末弟ということで何処からも縁談も来たことの無い俺は、女性との交わりをほとんど経験したことが無いのだ。
　そんな俺に、ルクレツィアはまるで歴戦の娼婦のような（といっても、実際に娼婦を抱いたことは無いわけだが）激しい性技を惜しげもなく披露し、翻弄する。
　実際に嫁ぐその時まで貞操をきっちり守るよう命ぜられていた彼女の方も、性経験の薄さは同じはずだが、淫魔となってしまっては人間時代の経験の有無など問題にならないらしい。
　じゅるるる、と唾の音を響かせて亀頭に吸い付かれると、もう堪らなくなった。毎晩毎晩妹にしゃぶられ続けたせいで、もう何も言わずとも射精のタイミングは悟られてしまう。
　ヌルヌルしたカウパーを舌先でぺろりと味わうと、一気にルクレツィアは俺をいかせにかかった。　
　やわやわおっぱいを激しく上下に動かし、竿を擦り立てると同時に亀頭全体を口に含む。頭を振って敏感な粘膜を唇で撫で、ちろちろと裏スジを舐め上げる。
　淫魔の本気に人間の男が耐えられるはずもなく、俺はまた大きな罪悪感と微かな悦びを感じながらルクレツィアの口内に射精した。

「……んぐぅっ！？　ん、くっ、んごくっ、くくん、んくっ……」

　舌の上に溢れたザーメンを、出される端から彼女は飲み干していく。散々胸と口とで感じさせられたせいか、いつもよりも量の多いスペルマに一瞬戸惑ったようだったが、すぐにその瞳を悦びと欲情とに蕩けさせて、実兄の精液を味わった。
　細くてたおやかな喉を盛んに動かし俺の精子を貪るその姿は、昔、親と世界に怯え、俺だけを頼りとしていた頃と同じ存在とは思えない。
飲めるだけ飲んで一息つけるようになったか、まだ萎えきっていない俺の肉茎を口から離し、唇の裏や上顎に張り付いた残り汁を舌でこそげとっているルクレツィアは、どんな猥本でも見たことがないほど淫蕩だった。

「……ごちそうさまです、兄さん。私のおっぱい、気持ちよかったですか？」
「……ルクレツィア。お前は俺の、妹なんだぞ。こんなこと、いつまでも……」
「もう。まだそんな事言ってるんですね。今日まで何回、私の口に出したと思っているんですか？　もうそろそろ、観念してもいいんじゃありません？」
「観念も何も、俺たち兄妹じゃないか。近親相姦なんて」
「そう。兄さんはあくまで、そう仰るんですね。……なら、私だって……」

　俯いて、笑い顔とも泣き顔ともつかない表情で何やらぶつぶつ呟き始めたルクレツィアが恐ろしくて、俺は早々に彼女の部屋を辞した。
　あれが、崩壊の始まりだったのだ。

■作者メッセージ
世の中のゲームや漫画、アニメに出てくる姉キャラや妹キャラが、みんな実姉妹になる日が、いつか来ますように。