第一章
反魔領の貴族にとって、身内から魔物が出る程不名誉なことは無い。
必ずしも信心深くはない領主や地主、政治家などが魔物を恐れるのは、教会の説くような情け容赦の無い補食者としての魔物像を頭から信じ込んでいるからではない。
その同化能力が自分の家にまで及べば、家名に傷が着くからなのだ。
市井の商人や企業家と違い、貴族には金や資産はあってもそれを上手く扱い殖やすための技術は無い。それでも彼らが労働せずに日々暮らしていけるのは、偏に名字の力、伝統と名誉と信用に基づく権力のおかげである。
彼らにとって名とは単なる飾りではなく、大事な食い扶持でもあるのだ。
形無きがゆえに、その権勢は王が代替わりした程度では容易く揺るがない。しかし一度その名を汚す者が現れれば、二度と社交界に返り咲く事は叶わない。下手を踏んだ競争相手に再起の機会を与える程、貴族たちはのんびりしてはいないのだ。
そんな中で、もし貴族の中でも名門と呼ばれる家の一員が魔物化したら、どうなるか。
人間を辞めてまで一族の誇りだの家の格だのを守りたがる淫魔は少なく、新たに誕生した魔物娘たちは大抵男を求めて出奔し、その事はすぐに世間の知るところとなる。結果、残された者たちの抵抗も空しく、一族一丸となって坂を転がり落ちるように没落していくのが常、なのだが。
「……そろそろ行くか」
因業じじいどもは、自分たちの権益を守るためなら手段を選ばない。世間に知られてはまずい秘密を地下に押し込めて隠す事など、ためらいも無くやってみせる。
俺に与えられた任務は、その「秘密」を監視し、外へ出さないこと。そして、「秘密」が求めるモノを供給し、外へ出ようと思わせないこと。
ちょうど日付が変わるくらいの時間帯に、俺は部屋から出て燭台を掲げ、足下に注意しながら地下への螺旋階段を下って行った。
俺と彼女が住み始めるまでは誰にも使われておらず、長い間手入れもされていなかったこの屋敷は構造の多くが老朽化している。その中でも地下の劣化は酷く、ろくな明かりも無いためふとした拍子に転倒してしまいそうだ。
そんな危険な階段を降り切ると、広い廊下に出る。左右には等間隔に部屋が並んでおり、通路側とは頑丈な鉄扉で区切られていた。
かつてどういう目的で使われていたのか、考えるだけで気分の悪くなるそれら独房のうち一つだけ、今もなお使用されている個室がある。
廊下の突き当たりに位置するその部屋の前に立って、俺は呼吸を整えた。
できるだけ自然な表情を作り、心拍数を抑える。深呼吸を繰り返し全身の火照りを抑えて、期待も不安も無い、ただ必要な事をこなしに来ただけだと言う雰囲気を作り上げ、俺は扉を開いた。
「いらっしゃい。お待ちしていましたよ、兄さん」
黒いブラとパンティだけを身に着け小さな独房の奥に悠然と佇む美少女こそ、俺の親族たちが恐れる「秘密」にして俺の実妹、ルクレツィア・メルドリッチである。
たった数本の蝋燭だけが照らす薄暗い部屋でもはっきり見て取れる一対の角や大きな翼、長い黒紫色の尾が示す通り、彼女は人ではない。男の精を啜り、いつまでも若く美しくあり続ける魔界の支配者、サキュバスなのだ。
彼女が人間を辞め、この様な姿となるまでにどういう経過があったのか、詳しくは俺にも知らされていない。
ただ確かなのは、ルクレツィアがある日ふっと姿を消し、数日後帰って来た時には既にサキュバスになっていたということ、空き家と監視人兼使用人として一番年の近い実の兄、即ち俺を与えてくれれば余所へは行かないし迷惑も掛けないとルクレツィアの方から親父どもに申し出たらしいこと、である。
親族の誰かが持っていたらしい古い館と、権力欲と向上心の薄い本家の末弟(つまり俺だ)で一族全体を守れるのなら安い買い物ということで、俺は妹と二人、世間から半ば忘れ去られたような生活をしていた。
俗世の権力争いやマネーゲームを疎ましく思い、一方で年の近い妹とはとても仲の良かった俺としては、この境遇に大きな不満は無い。
食料や生活必需品、金なんかは毎月本家の方から支給されて来るし、可愛い妹と静かに暮らせるのなら、
「お前が承諾しないと言うならば、あの女は殺してしまう他無い」
なんてジジイどもに脅されなくとも、むしろ進んでルクレツィアの監視を引き受けていただろう。
俺が妹の本心を知ってさえいれば、こんな事にはならなかったのだ。
「さあ、兄さん。今夜も精を下さいね?」
ドアを後ろ手に閉めた俺は、言われるがままズボンを下ろす。
下着を脱いで露出した男性器は、これから与えられる愛撫の予感と禁忌への恐れとで、半勃ちになっていた。
「まだ、やわやわなんですね。私に大きくして貰いたいんですか……?」
ルクレツィアの白くて細い五本の指が、俺の肉棒に絡み付く。
俺が一人でオナニーするときのように竿を握り込み、根元から先まで片手で擦り立てられていると、血の繋がった妹にされているというのに節操無しな生殖器はむくむくと勃ち上がりはじめた。
繊細な彼女の右手指は蛇のようにしなやかで、蜘蛛のように執拗。
敏感な先端部分にはあまり触れず、竿や根元を重点的に撫でさするその手つきに、まるで焦らされているような感覚を覚える。
興奮しかけている肉槍を、ルクレツィアは決して離そうとしない。跪き、俺のものを逆手に握って、血行を促進するかのように優しく濃密な揉み愛撫を加え続けられると、それが妹の手であると忘れそうになってしまう。
そうしてまた今夜も、俺は美女の与える快楽を享受してしまうのだ。
生殖器を他人の手で弄られるのは、自分で扱くのとは全く異なる快感をもたらす。意志に反して送り込まれる性感に、理性では抵抗できても生殖本能は抗えない。
ずっと昔から可愛がってきた妹に自分の汚いものを握らせているという自己嫌悪で死にたくなるほどだったが、その可愛い妹はこの屋敷での生活を通じてすっかり俺の扱いに慣れてしまったらしく、欲望に正直な肉棒をもう奮い立たせてしまった。
近親相姦の背徳と罪に怯える俺の気持ちも知らず勝手に興奮する男性器を、ルクレツィアはにやにやといやらしい笑みを浮かべて眺めていた。と思うと、完全に勃起させたそれを小さな口で根元まで一気に飲み込んでしまう。
「それじゃあ、いただきます……はぁむっ」
ルクレツィアの小さな、桜色の唇が俺の醜悪な男根を這いずり回る。
暖かい粘膜で竿を愛撫され、たっぷりの唾をまぶされると、もう堪らない。愛しいルクレツィアの口の中で俺の海綿体が充血しきり、射精する準備が整ってしまった。
「んふふ、おっきくなりまひた。せーし、きょうもたくはんだしてくらはいね……」
勢いを得た淫魔は、更に俺を奮い立たせようとして卑猥な言葉を紡ぎ、顔を前後に動かしはじめたす。
きゅっと締めた唇で幹をしごき上げられると、背筋がぞくぞくして何も考えられなくなってしまいそうだ。軽く目を閉じてフェラ奉仕に耽るルクレツィアの表情は幼い頃俺が側にいて寝かせてやった時のものに似ていて、眠っている少女の口を犯しているかのような錯覚がまた俺を苛む。
「ぅじゅじゅじゅ……にーはんのおちんぽ、おいひぃれふ……アセとアカの匂いが、すてひ……♪」
飢えのあまり唇の端から白く泡立った唾液を零しながら、俺の可愛い妹は綺麗に整った顔を醜く歪ませ、お口の遊びに没頭し続ける。口いっぱいに肉棒を頬張って、喉奥まで亀頭を咥え込んだその表情は喜びに満ちている。ちらりとこちらを見上げたその目付きは、妹が兄を見る目であってはならないものだ。
恥辱と苦痛に歪む俺の顔を、ルクレツィアはじっと見上げてくる。
幹や裏筋に彼女の潤った唇が押し付けられ擦れるたびに、電流のような快感が背筋を走り自分で自分の顔が緩んでいくのが分かってしまう。
望んで実の兄の精液を啜ろうとする彼女にとってその表情は何よりも喜ばしいものらしく、俺が唇を曲げて快感に耐えようとするたびに彼女はにんまりと娼婦のように微笑み、一層ヘッドバンギングに力をいれるようになるのだ。
快感と罪悪感の板挟みに苦しみながらも、俺は彼女の口淫を拒否できない。なぜならこれは、ルクレツィアのためなのだから。
本来、血の繋がらない恋人同士で行われるはずのこんな行為は、彼女にとっては生きるのに必要不可欠な栄養補給だと言うのだ。
初めて彼女に精をねだられた時は、それは驚いた。
多少姿は変わっても妹は妹、これからも二人、慎ましく仲良く暮らして行こうなんて思っていた矢先の事だったので、なお混乱した。実の兄と妹がそんな淫らな事をするなど、俺には思いも寄らない事だったのだ。
しかし俺が彼女を拒否し続けていると、ルクレツィアは日を追うごとに衰弱して行った。境遇が境遇なので医者を呼ぶ事も出来ないし、呼んだところで人間用の医者に魔物を治療出来るとも思えない。
震える声で俺の名を呼ぶ彼女の痛ましい姿に耐えかねて、俺は妹に精液を飲ませた。
これは近親姦ではない、ある種の医療行為なのだと。決して実の妹を性的対象としてみているわけではないのだと繰り返し繰り返し自分に言い聞かせながら。
それ以来、ルクレツィアは毎晩俺を呼んではこうしてフェラチオをし、精飲することで命を繋ぐようになった。
わざわざ俺を指名して世話係をやらせた事からも、彼女の意図は推察できる。魔物にはインセスト・タブーなんて無いとも聞いたことがある。
実際、ルクレツィアは兄たる俺の目から見ても相当な美人だ。白い頬や大きめの瞳、艶やかで滑らかな金髪などは、金持ちたちの政略結婚の道具として消費されるのは余りに惜しいと思ったものだった。
しかしあくまで、彼女は俺にとっては妹だ。血縁関係のある相手とそう簡単に割りきって子作りできるほど、俺は獣ではない。
彼女のために必要だから、生命を維持するために必須なのだから、と自分自身を無理に納得させながら、俺は毎夜罪悪感と闘っているのだ。
「ふふっ、ふぅぁ……んぐっ、兄さん、そろそろ出るんじゃないですか? 苦くて薄いのが、いっぱいですよ」
嬉しげに挑発するルクレツィアの言葉にも、俺は返答できない。ただ、血縁者に性器をしゃぶらせ子種汁を飲ませる、その禁忌に怯え続けるだけだ。
俺の無反応にちょっと気を悪くしたのか、彼女は何も言わず口淫に戻った。
もう焦らしたり、言葉で嬲ったりする余裕も無くなってきたのだろう。押し黙って一心不乱に頭を振る。
きつく締まった上下の唇は、未だ俺が味わったことのない女性器を思わせるもので、付け根からカリ首の手前まで、ちゅぅぅぅぅっと顔を引かれながら尿道を吸い上げられたことで、俺はまた彼女に屈した。
「すまんっ……!」
「……んんっ! ん、うぐ、こく、……じゅちゅぅぅ……ふ、ふう、うふふ……ごく、うふふふ……」
搾り出された精液を、恍惚の表情でルクレツィアが飲み下していく。
淫魔の唯一の糧を、渇いた喉は際限なく欲するのだろう。男根の中程を咥えたまま、妹サキュバスは舌の裏から上顎まで飛び散った濃い白濁を胃へ送り込んでいく。
白くて細い彼女の喉が上下に動き、嚥下の音があたりに響く。ただそれだけのことが、ひどく淫靡だった。
ふう、ふうと鼻で息をしながら、ルクレツィアはゲル状の精液を軽く噛んで、唾と混ぜあわせて味わっているようだった。口の中で濯いで粘度の下がったそれを、こくこく飲んでいく。
頬を凹ませて口内射精に酔う妹の淫らな表情など見たくはなかったはずなのに、俺は目を離せなかった。
人よりもあらゆる意味で強い魔物は、単なる暴力装置だったかつてとは異なり、今や美しさまで備えている。ルクレツィアのような、極上の美女が素材ならば生まれるサキュバスもまた傑出した美を体現する。美術品を鑑賞するような精神で、俺はどうにか自分の正気を保とうとしていた。
と、一頻りザーメンを飲み終え、流石に口が疲れたらしいルクレツィアは口を開き、顔を上げた。
やっと、この罪深い行為も終わるのか、と俺が安心しかけた瞬間。彼女の唇が、射精直後で敏感になったカリ首に強くこすれた。
竿を重点的に責められていた今までとは全く異なる、神経を直接舐められたような強い性感。不意打ちの快楽にびくっと痙攣した俺よりも、張本人たるルクレツィアが驚いていた。
「へ? ……あれ? 兄さん、もしかして先端が弱いんですか?」
しまった、と思ったが、もはや隠しようもない。悔いる俺の表情こそが彼女の確信を深める。獲物の弱点を捉えた淫魔は、肉食獣のように笑んだ。
「……そう。そうなんですか。いつもお兄様がオナニーするときは、竿ばっかりこすっていらっしゃったから……てっきりそこが気持いいのかと。
女性のクリトリスみたいに、あんまり触ると痛いものなのかと思っていたんですが、そうじゃないんですね」
勝ち誇った顔のサキュバスとは対照的に、俺は嫌な予感を感じ始めていた。どうすれば俺を喜ばせられるのか知ってしまった彼女が明日からどんな行為をし始めるのか、考えるだけでもおぞましかった。
「……っ。もう、いいだろ。満足しただろ。俺は、帰って寝るからな」
「もっとゆっくりして行ってくださってもいいのに。つれない兄さん」
恐怖のあまり、股間を清めるのもそこそこに俺は服を着た。逃げるように独房を出る背中に、彼女の言葉が追いすがる。
「……これから毎日楽しくなりそうですね、兄さん。明日からも、引き続き宜しくお願いします♪」
異様に上機嫌な声を背に、何か取り返しの付かないことが始まってしまったような思いを抱えて、俺は地下から逃げ出ることしか出来なかった。
必ずしも信心深くはない領主や地主、政治家などが魔物を恐れるのは、教会の説くような情け容赦の無い補食者としての魔物像を頭から信じ込んでいるからではない。
その同化能力が自分の家にまで及べば、家名に傷が着くからなのだ。
市井の商人や企業家と違い、貴族には金や資産はあってもそれを上手く扱い殖やすための技術は無い。それでも彼らが労働せずに日々暮らしていけるのは、偏に名字の力、伝統と名誉と信用に基づく権力のおかげである。
彼らにとって名とは単なる飾りではなく、大事な食い扶持でもあるのだ。
形無きがゆえに、その権勢は王が代替わりした程度では容易く揺るがない。しかし一度その名を汚す者が現れれば、二度と社交界に返り咲く事は叶わない。下手を踏んだ競争相手に再起の機会を与える程、貴族たちはのんびりしてはいないのだ。
そんな中で、もし貴族の中でも名門と呼ばれる家の一員が魔物化したら、どうなるか。
人間を辞めてまで一族の誇りだの家の格だのを守りたがる淫魔は少なく、新たに誕生した魔物娘たちは大抵男を求めて出奔し、その事はすぐに世間の知るところとなる。結果、残された者たちの抵抗も空しく、一族一丸となって坂を転がり落ちるように没落していくのが常、なのだが。
「……そろそろ行くか」
因業じじいどもは、自分たちの権益を守るためなら手段を選ばない。世間に知られてはまずい秘密を地下に押し込めて隠す事など、ためらいも無くやってみせる。
俺に与えられた任務は、その「秘密」を監視し、外へ出さないこと。そして、「秘密」が求めるモノを供給し、外へ出ようと思わせないこと。
ちょうど日付が変わるくらいの時間帯に、俺は部屋から出て燭台を掲げ、足下に注意しながら地下への螺旋階段を下って行った。
俺と彼女が住み始めるまでは誰にも使われておらず、長い間手入れもされていなかったこの屋敷は構造の多くが老朽化している。その中でも地下の劣化は酷く、ろくな明かりも無いためふとした拍子に転倒してしまいそうだ。
そんな危険な階段を降り切ると、広い廊下に出る。左右には等間隔に部屋が並んでおり、通路側とは頑丈な鉄扉で区切られていた。
かつてどういう目的で使われていたのか、考えるだけで気分の悪くなるそれら独房のうち一つだけ、今もなお使用されている個室がある。
廊下の突き当たりに位置するその部屋の前に立って、俺は呼吸を整えた。
できるだけ自然な表情を作り、心拍数を抑える。深呼吸を繰り返し全身の火照りを抑えて、期待も不安も無い、ただ必要な事をこなしに来ただけだと言う雰囲気を作り上げ、俺は扉を開いた。
「いらっしゃい。お待ちしていましたよ、兄さん」
黒いブラとパンティだけを身に着け小さな独房の奥に悠然と佇む美少女こそ、俺の親族たちが恐れる「秘密」にして俺の実妹、ルクレツィア・メルドリッチである。
たった数本の蝋燭だけが照らす薄暗い部屋でもはっきり見て取れる一対の角や大きな翼、長い黒紫色の尾が示す通り、彼女は人ではない。男の精を啜り、いつまでも若く美しくあり続ける魔界の支配者、サキュバスなのだ。
彼女が人間を辞め、この様な姿となるまでにどういう経過があったのか、詳しくは俺にも知らされていない。
ただ確かなのは、ルクレツィアがある日ふっと姿を消し、数日後帰って来た時には既にサキュバスになっていたということ、空き家と監視人兼使用人として一番年の近い実の兄、即ち俺を与えてくれれば余所へは行かないし迷惑も掛けないとルクレツィアの方から親父どもに申し出たらしいこと、である。
親族の誰かが持っていたらしい古い館と、権力欲と向上心の薄い本家の末弟(つまり俺だ)で一族全体を守れるのなら安い買い物ということで、俺は妹と二人、世間から半ば忘れ去られたような生活をしていた。
俗世の権力争いやマネーゲームを疎ましく思い、一方で年の近い妹とはとても仲の良かった俺としては、この境遇に大きな不満は無い。
食料や生活必需品、金なんかは毎月本家の方から支給されて来るし、可愛い妹と静かに暮らせるのなら、
「お前が承諾しないと言うならば、あの女は殺してしまう他無い」
なんてジジイどもに脅されなくとも、むしろ進んでルクレツィアの監視を引き受けていただろう。
俺が妹の本心を知ってさえいれば、こんな事にはならなかったのだ。
「さあ、兄さん。今夜も精を下さいね?」
ドアを後ろ手に閉めた俺は、言われるがままズボンを下ろす。
下着を脱いで露出した男性器は、これから与えられる愛撫の予感と禁忌への恐れとで、半勃ちになっていた。
「まだ、やわやわなんですね。私に大きくして貰いたいんですか……?」
ルクレツィアの白くて細い五本の指が、俺の肉棒に絡み付く。
俺が一人でオナニーするときのように竿を握り込み、根元から先まで片手で擦り立てられていると、血の繋がった妹にされているというのに節操無しな生殖器はむくむくと勃ち上がりはじめた。
繊細な彼女の右手指は蛇のようにしなやかで、蜘蛛のように執拗。
敏感な先端部分にはあまり触れず、竿や根元を重点的に撫でさするその手つきに、まるで焦らされているような感覚を覚える。
興奮しかけている肉槍を、ルクレツィアは決して離そうとしない。跪き、俺のものを逆手に握って、血行を促進するかのように優しく濃密な揉み愛撫を加え続けられると、それが妹の手であると忘れそうになってしまう。
そうしてまた今夜も、俺は美女の与える快楽を享受してしまうのだ。
生殖器を他人の手で弄られるのは、自分で扱くのとは全く異なる快感をもたらす。意志に反して送り込まれる性感に、理性では抵抗できても生殖本能は抗えない。
ずっと昔から可愛がってきた妹に自分の汚いものを握らせているという自己嫌悪で死にたくなるほどだったが、その可愛い妹はこの屋敷での生活を通じてすっかり俺の扱いに慣れてしまったらしく、欲望に正直な肉棒をもう奮い立たせてしまった。
近親相姦の背徳と罪に怯える俺の気持ちも知らず勝手に興奮する男性器を、ルクレツィアはにやにやといやらしい笑みを浮かべて眺めていた。と思うと、完全に勃起させたそれを小さな口で根元まで一気に飲み込んでしまう。
「それじゃあ、いただきます……はぁむっ」
ルクレツィアの小さな、桜色の唇が俺の醜悪な男根を這いずり回る。
暖かい粘膜で竿を愛撫され、たっぷりの唾をまぶされると、もう堪らない。愛しいルクレツィアの口の中で俺の海綿体が充血しきり、射精する準備が整ってしまった。
「んふふ、おっきくなりまひた。せーし、きょうもたくはんだしてくらはいね……」
勢いを得た淫魔は、更に俺を奮い立たせようとして卑猥な言葉を紡ぎ、顔を前後に動かしはじめたす。
きゅっと締めた唇で幹をしごき上げられると、背筋がぞくぞくして何も考えられなくなってしまいそうだ。軽く目を閉じてフェラ奉仕に耽るルクレツィアの表情は幼い頃俺が側にいて寝かせてやった時のものに似ていて、眠っている少女の口を犯しているかのような錯覚がまた俺を苛む。
「ぅじゅじゅじゅ……にーはんのおちんぽ、おいひぃれふ……アセとアカの匂いが、すてひ……♪」
飢えのあまり唇の端から白く泡立った唾液を零しながら、俺の可愛い妹は綺麗に整った顔を醜く歪ませ、お口の遊びに没頭し続ける。口いっぱいに肉棒を頬張って、喉奥まで亀頭を咥え込んだその表情は喜びに満ちている。ちらりとこちらを見上げたその目付きは、妹が兄を見る目であってはならないものだ。
恥辱と苦痛に歪む俺の顔を、ルクレツィアはじっと見上げてくる。
幹や裏筋に彼女の潤った唇が押し付けられ擦れるたびに、電流のような快感が背筋を走り自分で自分の顔が緩んでいくのが分かってしまう。
望んで実の兄の精液を啜ろうとする彼女にとってその表情は何よりも喜ばしいものらしく、俺が唇を曲げて快感に耐えようとするたびに彼女はにんまりと娼婦のように微笑み、一層ヘッドバンギングに力をいれるようになるのだ。
快感と罪悪感の板挟みに苦しみながらも、俺は彼女の口淫を拒否できない。なぜならこれは、ルクレツィアのためなのだから。
本来、血の繋がらない恋人同士で行われるはずのこんな行為は、彼女にとっては生きるのに必要不可欠な栄養補給だと言うのだ。
初めて彼女に精をねだられた時は、それは驚いた。
多少姿は変わっても妹は妹、これからも二人、慎ましく仲良く暮らして行こうなんて思っていた矢先の事だったので、なお混乱した。実の兄と妹がそんな淫らな事をするなど、俺には思いも寄らない事だったのだ。
しかし俺が彼女を拒否し続けていると、ルクレツィアは日を追うごとに衰弱して行った。境遇が境遇なので医者を呼ぶ事も出来ないし、呼んだところで人間用の医者に魔物を治療出来るとも思えない。
震える声で俺の名を呼ぶ彼女の痛ましい姿に耐えかねて、俺は妹に精液を飲ませた。
これは近親姦ではない、ある種の医療行為なのだと。決して実の妹を性的対象としてみているわけではないのだと繰り返し繰り返し自分に言い聞かせながら。
それ以来、ルクレツィアは毎晩俺を呼んではこうしてフェラチオをし、精飲することで命を繋ぐようになった。
わざわざ俺を指名して世話係をやらせた事からも、彼女の意図は推察できる。魔物にはインセスト・タブーなんて無いとも聞いたことがある。
実際、ルクレツィアは兄たる俺の目から見ても相当な美人だ。白い頬や大きめの瞳、艶やかで滑らかな金髪などは、金持ちたちの政略結婚の道具として消費されるのは余りに惜しいと思ったものだった。
しかしあくまで、彼女は俺にとっては妹だ。血縁関係のある相手とそう簡単に割りきって子作りできるほど、俺は獣ではない。
彼女のために必要だから、生命を維持するために必須なのだから、と自分自身を無理に納得させながら、俺は毎夜罪悪感と闘っているのだ。
「ふふっ、ふぅぁ……んぐっ、兄さん、そろそろ出るんじゃないですか? 苦くて薄いのが、いっぱいですよ」
嬉しげに挑発するルクレツィアの言葉にも、俺は返答できない。ただ、血縁者に性器をしゃぶらせ子種汁を飲ませる、その禁忌に怯え続けるだけだ。
俺の無反応にちょっと気を悪くしたのか、彼女は何も言わず口淫に戻った。
もう焦らしたり、言葉で嬲ったりする余裕も無くなってきたのだろう。押し黙って一心不乱に頭を振る。
きつく締まった上下の唇は、未だ俺が味わったことのない女性器を思わせるもので、付け根からカリ首の手前まで、ちゅぅぅぅぅっと顔を引かれながら尿道を吸い上げられたことで、俺はまた彼女に屈した。
「すまんっ……!」
「……んんっ! ん、うぐ、こく、……じゅちゅぅぅ……ふ、ふう、うふふ……ごく、うふふふ……」
搾り出された精液を、恍惚の表情でルクレツィアが飲み下していく。
淫魔の唯一の糧を、渇いた喉は際限なく欲するのだろう。男根の中程を咥えたまま、妹サキュバスは舌の裏から上顎まで飛び散った濃い白濁を胃へ送り込んでいく。
白くて細い彼女の喉が上下に動き、嚥下の音があたりに響く。ただそれだけのことが、ひどく淫靡だった。
ふう、ふうと鼻で息をしながら、ルクレツィアはゲル状の精液を軽く噛んで、唾と混ぜあわせて味わっているようだった。口の中で濯いで粘度の下がったそれを、こくこく飲んでいく。
頬を凹ませて口内射精に酔う妹の淫らな表情など見たくはなかったはずなのに、俺は目を離せなかった。
人よりもあらゆる意味で強い魔物は、単なる暴力装置だったかつてとは異なり、今や美しさまで備えている。ルクレツィアのような、極上の美女が素材ならば生まれるサキュバスもまた傑出した美を体現する。美術品を鑑賞するような精神で、俺はどうにか自分の正気を保とうとしていた。
と、一頻りザーメンを飲み終え、流石に口が疲れたらしいルクレツィアは口を開き、顔を上げた。
やっと、この罪深い行為も終わるのか、と俺が安心しかけた瞬間。彼女の唇が、射精直後で敏感になったカリ首に強くこすれた。
竿を重点的に責められていた今までとは全く異なる、神経を直接舐められたような強い性感。不意打ちの快楽にびくっと痙攣した俺よりも、張本人たるルクレツィアが驚いていた。
「へ? ……あれ? 兄さん、もしかして先端が弱いんですか?」
しまった、と思ったが、もはや隠しようもない。悔いる俺の表情こそが彼女の確信を深める。獲物の弱点を捉えた淫魔は、肉食獣のように笑んだ。
「……そう。そうなんですか。いつもお兄様がオナニーするときは、竿ばっかりこすっていらっしゃったから……てっきりそこが気持いいのかと。
女性のクリトリスみたいに、あんまり触ると痛いものなのかと思っていたんですが、そうじゃないんですね」
勝ち誇った顔のサキュバスとは対照的に、俺は嫌な予感を感じ始めていた。どうすれば俺を喜ばせられるのか知ってしまった彼女が明日からどんな行為をし始めるのか、考えるだけでもおぞましかった。
「……っ。もう、いいだろ。満足しただろ。俺は、帰って寝るからな」
「もっとゆっくりして行ってくださってもいいのに。つれない兄さん」
恐怖のあまり、股間を清めるのもそこそこに俺は服を着た。逃げるように独房を出る背中に、彼女の言葉が追いすがる。
「……これから毎日楽しくなりそうですね、兄さん。明日からも、引き続き宜しくお願いします♪」
異様に上機嫌な声を背に、何か取り返しの付かないことが始まってしまったような思いを抱えて、俺は地下から逃げ出ることしか出来なかった。
11/08/21 15:18更新 / ナシ・アジフ
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