幸福論
雪山を知る人間は事あるごとに、雪山を舐めるな、などというが、そんな言葉で雪山の恐ろしさを伝えられると考えること自体が雪山に対する冒涜ではないのかと、今まさに雪山に殺されんとしている俺、七郎は考えた。
いつものように天候を見計らい、兎あたりの無難な獲物を狩っていたはずが、俄に天候が崩れ、視界は吹雪で塞がれ、進むことも戻る事もできなくなってしまったこの状況から考えるに、雪山とはそれ自体が定期的な贄を欲する神か何かではないのかと思うのだ。
このままじっと止まっていても助けが来るアテはないし、そう簡単に吹雪が止むとも思えない。勿論食料や火の用意もない。仕方なく、半ばヤケクソで俺は歩み始めた。依然として視界は利かないし方角もさっぱりわからないため、生き残るという点においてはほとんど無意味、むしろ体力を消耗する分愚行とすら言える行動なのだが、何もしないでただ座して死を待つというのもぞっとしない。
俺にはまだ動かせる一対の脚があるのだから、悲観することはない。そう無理にも自分を奮い立たせ小一時間ほど歩き続けた頃だろうか。
吹雪の勢いが幾分弱まり、ひらけた視界の向こうに、一軒の山小屋のようなものが見えた。
地獄で仏とはまさにこの事。誰の物かは知らないが、取り敢えず天気が持ち直すまで匿ってもらうことにしよう。もし地図でも置いてあれば僥倖だ。
近づいていくにつれ、その小屋の中には既に人が居るらしいことが分かった。俺と同じような遭難者か、もともとこの家に住んでいる人なのかは分からないが、ひとまず風雨を防げそうなことに俺は何よりも安堵した。
木戸を叩くと、すぐに扉が開き、眼を見張るような美女が俺を出迎えた。
「吹雪のせいで帰れなくなってしまったのだ。しばらくここに置いてもらえないだろうか」
そう頼むと、豪雪地帯として名高いこの地の雪よりも白く澄んだ肌のその女は、微かに微笑むと
「はい。どうぞ中へ」
と、快く俺を迎え入れてくれたのだった。
女はこの家で、ずっと一人で暮らしているらしい。そんなところに男の俺が邪魔していいものかとも思ったのだが、その女 -六花と名乗った- は、むしろ久しぶりに現れた来訪者を喜んでいるようだった。
なんと料理を作って饗してくれるというので、色々な心苦しさを抱えながらも、自分で思う以上に消耗していたこの体を休めていると、六花がこちらに声をかけてきた。
「七郎さんは、このあたりの猟師さんなのですよね？」
「ああ。麓に小さな家を持っている。取った獲物を自分で食べたり、村へ持って行って野菜と交換したりして、もう何年も生活している」
「そうでしたか。では、この吹雪には驚いたでしょう。ここ何十年も、こんなに急に天気が崩れることはありませんでしたから」
「全くだ。一時は死を覚悟したよ。六花さんの家がなければ、今頃俺はこの世のものでなかったろうな」
「そんな怖いことを言わないでくださいな」
六花が俺に作ってくれた晩飯は、素朴ながらも暖かく、疲弊した俺の体を大いに癒してくれた。地獄で仏だといったが、仏というより女神様、観音様だな、これは。
食事を頂き、体力を回復するにはまず食事、次に睡眠ということで、俺はまだ眠そうでない六花よりも一足先に眠らせてもらおうと思ったのだが、そこを制止されてしまった。
「七郎様。折り入って一つ、お願いがございます」
「願い？六花さんは俺の命の恩人故、出来ることなら何でもして差し上げたいが……出来れば明日にしてはくれまいか？」
「いいえ、今でなければならないのです。七郎様、もしよろしければ、今晩私と同衾して頂けないでしょうか？」
同衾、とは……？まさか、この家には布団が一組しか無いから、それを二人で使おうとか、そういう話なのだろうか。
「ふ、布団が足りないというなら、俺は別に床で寝ても構わないのだが」
「もう、惚けないでくださいまし。こんな山の中で、女の一人寝がどれほど寂しいものか、七郎様はご存知なのですか」
「そうは言っても、そなたのような年頃の美人が、考えなしに男と寝るというのも」
「私だって、考えなしにこんなことを言っているのではありません。七郎様に抱いて頂きたいから、こうして恥を忍んでお願いしているのです」
これは妙なことになった。俺としても、抜けるような肌の麗人を抱けるというこの機会をみすみす逃がしたくはないのだが、しかしそれ以上に、今日会ったばかりの人間同士が肌を重ねるということに抵抗を感じる。武家の政略結婚でもあるまいし、女が、ましてや十人が十人とも美しいと評するであろう美女が、まるで自分を安売りするような事を聞くのも辛いことだった。大体、子どもができたらどうするつもりなのだ。
「六花さんにそのようなことを言ってもらえるのは嬉しいが……生憎、今日吹雪に吹かれ続けたせいで未だ体調が万全でない。今は貴方を抱くことは、できそうもない」
そう誤魔化すと、六花は少し眉尻を下げ、
「そうですか……無理を言って、申し訳ありません。しかし私も一人の女。隣に七郎様のような魅力的な殿方が寝ているというのに、何もできないというのではこの身を持て余してしまいます。せめて、口づけを一つ、下さいませんか」
なにやらとんでもないことを言われているような気がするが、取り敢えず接吻で我慢してくれるというならそれでいいだろう。了承した俺は上体を起こし、六花の形の良い唇に自分のそれを重ねた。
瞬間、六花の口から俺の口へ、何か冷気のようなものが流れこんでくるのを感じた。反射的に身を引こうとするも、いつの間にか背中に回されていた六花の両手に阻まれ、動きがとれない。臓腑から冷やすようなその感覚に俺は戦慄したが、一頻り冷気を吹きこむと六花はあっさり俺を解放した。
「堪能させていただきました。では、おやすみなさいまし」
そう言ってさっさと自分の分の布団を敷いて寝入ってしまった。ちゃんと二人分の布団が用意されていたのは良かったのだが、さっきのは一体なんだったのか。既に、あの魂を凍らすような冷たさは感じられなくなっていたし、外は未だ吹雪いている。ここで寝るより他無いのだが、俺は訳も無く不安を感じずにはいられなかった。
翌朝。山の天気はすっかり持ち直し、問題なく外を歩けるほどになっていた。六花の作ってくれた朝食を頂き、現在位置を確認させてもらう。ここから俺の家までは、歩いて約二時間といった所か。普段から山に入って猟をしている俺にとっては、何ということのない距離だ。体力も完全に戻ったし、昨晩以来、胸のあたりが妙に冷えることを除けば、万事快調と言って良い。
「では、また天気が崩れないうちに、俺は帰らせてもらうとしよう」
「はい。お気をつけて、いってらっしゃいまし」
昨日の晩俺に抱かれたいなどといったとは思えぬほど素直な笑顔を浮かべ、六花は俺を送り出してくれた。どういう事情があるのかは知らぬが、確かに雪山で女一人というのは人恋しいものがあろう。だからといって、それにつけ込むような真似は俺はしたくはなかった。結果的に恩を返す機会を失ったかもはしれないが、あのような美女に自分のような凡百の人間が釣り合うとも思えない。
六花に示された方角へ歩き続けると、果たして俺の山小屋が見えてきた。これでようやく一息つける、というのに、どういうわけか俺の心は休まらなかった。六花の居るあの家を出て以来、心臓の辺りがしくしく痛むのだ。息苦しいわけでもない、これは人恋しいという感覚だろうか。もう何年も半隠居生活をしている俺が、今更孤独に苦しむはずなど無いであろうが、久しぶりにうら若き乙女と触れ合ったせいで柄にもなく感傷的になっている、ということだろうか。家に帰ろう、家に戻ればきっと良くなる、と自分に言い聞かせ言い聞かせ歩いても、この雪山で一人歩くことが辛くてたまらない。つい後ろを振り返ったり、六花の顔を思い出したりしていたせいで、結局家につくまで三時間弱掛かってしまった。
我が家に戻り、湯を飲んで一息ついても、俺の人恋しさは収まらなかった。どういうわけか、この雪山で一人でいるのがたまらなく心細い。だれか、俺を暖かく包みこんでくれる人が欲しい。そう考えるたび、脳裏に浮かぶのは昨晩世話になった六花。あのような麗人の手を再び煩わせるなど有ってはならない、と理性がいくら訴えても、俺の寂しさは消えない。
夕方まで悶々としていたものの、いよいよ辛抱ならなくなった俺は家を飛び出し、もう一度六花に会うため山へ向かった。
昨日ほどではないが、今晩も山の天候は芳しくなかった。雪が降り注ぎ、ゆっくりと俺の体温、体力を奪っていく。記憶を辿って山を歩いても、一向に六花の家は見えてこない。行けども行けども雪で、昨日あの家を見つけられたのが本当に奇跡的なことだったのだな、などと思わされる。
闇雲に歩いたところで昨日と同じ場所に辿りつけるはずはなく、数時間歩き続けた俺は意気消沈して帰路についた。こうやって六花を探し求める間も、心臓はより一層冷え痛み、魂が温もりを求める。今まで随分長い間独りで暮らしてきたはずなのに、今はもうこの孤独に耐えられない。六花、俺の側にいてくれ。俺を独りにしないでくれ。
絶望し自分の家の扉を開けると、
「おかえりなさいませ。外は寒かったでしょう？早く這入って、体を温めてくださいな」
どういうわけか、六花が俺の家にいた。俺の家で、俺の方を向いて笑ってくれている六花を見た時に、俺はいよいよ我慢がならなくなった。
六花に抱きつき、その胸に顔を埋める。若い女にしては意外なほど体温が低いが、それでも心の芯まで冷え切った俺にとっては、まさに命の灯火と言っていいものだった。赤子のように六花の胸に頬ずりしていると、六花は
「まあまあ、甘えん坊さん。そんなに胸がお好きでしたら、直接触れてみますか？」
と、胸元をはだけてくれた。
今まで着物の奥で窮屈そうにしていた大きな乳がまろびでる。 やはり透き通るような白い乳房の頂点に、控えめな赤さの乳首がいやに扇情的である。俺はたまらなくなって、六花の胸の谷間に顔を埋めた。
「ふふ。寂しかったんですね、七郎様は。分かりますよ……私も、今までずっとそうでしたから」
「六花……もう何処にも行かないで、俺と一緒に居てくれ……」
「あらあら、告白されてしまいました。でも、どうしましょうかね？昨日の夜は私があんなに頼んでも抱いてくださらなかった七郎さんですもの」
「ああ、許してくれ……俺は、俺はもう六花なしでは……」
「冗談ですよ、怒ってなんかいません。私だって、独りでいるのはもう御免ですもの」
言うなり、六花は俺の股間に手をやった。いつの間にか激しく勃起していたそれをさすると、
「このきかんぼうも、私が面倒みて差し上げます」
と、淫靡に微笑んだ。
俺を仰向けに寝かせ、両脚の間に、上半身の着物を完全にはだけてその美巨乳を露にした六花が座った。舌で俺のものをつつっ、となぞられ、俺は思わず呻く。血流が増し熱を持った肉棒に触れる六花の舌は驚くほど冷たい。それでいて、おれの陰茎は萎える素振りすら見せず、六花の唾液をまぶされるごとにいきり立つ。
六花が体勢を変え、陰茎を飲み込んできた。その口内は舌にも増して冷たいが、それを上回る快感が俺を圧倒する。根元まで咥え込んだにもかかわらず苦しそうな素振りすら見せない六花は、更に大量の唾液と舌を絡みつかせ精液を搾り取ろうとしてきた。同時にじゅぽ、じゅぽっと卑猥な音を立てて頭を上下され、俺はあっさりと、容赦無い口唇奉仕に屈服してしまった。
「六花、も、もう出るっ……」
射精したのか、させられたのか。勢い良く噴き出る俺の精液を、六花は嬉しげに喉の奥で受け止め、飲み下していった。こくり、こくりと可愛い喉が動くたびに、俺はますます六花なしでは生きられなくなっているような気がした。
「お口でご奉仕したら、次は胸ですよね」
大量の精液を噴いて未だ萎える気配のない俺の肉棒を、六花はその爆乳で挟んだ。やはり冷たいが、口での愛撫とはまた違った、肌が吸いつくような感覚が心地いい。精液と唾液に塗れた俺の醜悪なものが六花の極上の乳房に挟まれてほとんど見えなくなっている光景は、それだけで射精してしまいたくなるほど淫猥だった。
物も言わずに、六花は両の胸乳を交互に前後させ、パイズリ奉仕を始めた。先程射精したばかりだが、冷たくて柔らかいおっぱいの感触に、陰茎は萎えるどころか前よりも硬くなっていく。両手で左右から圧迫され、肉棒に当たって卑猥に形を変える乳肉が、視覚から俺を追い込む。更に六花はパイズリの手を休めず、胸の谷間から顔を出す俺の亀頭に、ちゅ、ちゅと軽い接吻を見舞ってきた。棒と頭の二箇所同時責めである。
「うっ、あ……、六花……」
「また透明な液が出てきましたよ……？イキそうになったら、いつでもこの胸に中出ししてくださいね」
清楚な外見に似合わない淫らな言葉に、俺の我慢は決壊した。肉棒が脈動し、本日二度目とは思えぬほど大量の白濁液を胸の谷間に流し込む。六花も顔を上気させ、胸、首、顔で射精を受け止めてくれた。
「七郎様の精液、熱くって素敵……こんなの浴びせられたら、病みつきになってしまいます……」
首や顔に降りかかった精液を、手で掬いとっては舐める。巨乳の彼女らしく、乳房に付着した分は手を使わず直接口で吸う。まるで自分で自分を慰めているようなその仕草に、俺のものはまたしても萎えることを許されない。
精液を味わい終えた彼女の眼は、情欲に蕩けきっていた。陰茎が未だ臨戦態勢を保っていることを確認した彼女は、満足気に笑むと、俺の腰に跨ってきた。
女陰と亀頭が触れ、愛液が肉茎を伝って溢れる。俺に奉仕しながら、こんなに淫水を溢れさせるほど感じていたのか。六花の好色さに、俺はただ圧倒されるばかり。
我慢の限界、とばかりに、六花は腰を一気に落とし俺のものを飲み込んできた。その内部は、今まで触れてきた六花の体の何処よりも冷たく、そして気持いい所だった。愛液に濡れた無数の襞が、不規則に蠢いては精を搾り取ろうとする。腰を落としきり、亀頭が膣の最奥を突くと、俺と六花は同時に溜め息を付いた。
「七郎様のおちんちん、すごく熱いっ……私のおまんこ、火傷しちゃいそうです……！」
「気持ちいい……気持ちイイよ六花ぁ……」
「ふふ、もうめろめろって感じですね……。んっ、じゃあ、もっともっと誘惑して、一生、私から、片時も、離れられなくしてあげますっ……！」
六花は両手を床に突くと、腰を激しく振り始めた。たっぷりの愛蜜を惜しげもなく垂らし、じゅぽっ、じゅぽっと濡れた音を立て、肉筒が陰茎を責める。思わずイキそうになってしまうが、膣の締まりのあまりの強さに、射精すら押し留められてしまった。絶頂の快楽を味わいながらも射精を許されない、天国と地獄の綯い交ぜに、俺は為す術なく翻弄された。
「こ、れ……すごい……」
「私も、気持ちイイっ……！こんな、こんなの、あんっ！」
膣のきつさと滑りの良さは俺たち二人の淫液によって両立している。射精すら支配するこの性器はとても人間のものとは思えない。もしかしたら俺はとんでもないものに捕まってしまったのかもしれない……が、六花が何者であるかなど、もはや俺にとっては些細な問題だった。俺の上で激しく乱れ喘ぐこの美女を俺は何よりも愛しく思っていた。
六花も、いよいよ限界が近づいてきたようで、口から漏れる喘ぎ声が一層艶やかになり始めた。泣き叫んでいる、といっていいような声で、俺に絶頂をせがむ。
「ああ、いい、七郎様のイイ！熱いの、熱くって、気持ちよくって、私、融けちゃいます！七郎様、精液出して！中出しして、私のおまんこ七郎様でいっぱいにしてくださいっ！」
すると、今まできつく締まっていた膣が様相を変えた。亀頭、裏筋、カリ首を責め、膣内射精を促すような動きをし始めたのだ。六花の思い通りに動くこの魔膣が、男の精を欲している。とうに忍耐の限界を超えていた俺は六花に求められるまま、女性器の奥、子宮に向かって白濁を放った。
「くっ、六花……もう、駄目だ……」
「出して、膣内射精して！七郎様の子供孕ませてえっ！」
濃い、粘ついた液が六花の女陰に溢れる。狭いその肉筒に入りきらない精が、零れて床を汚す。恐ろしいことに、俺のものはこの期に及んで未だ硬さを保っていた。
「七郎様、まだまだ寂しいでしょう……？もっと一杯、体を温め合いましょうね……」
下半身で繋がったまま、俺と六花は、昨晩したのとは比べものにならないほど情熱的な口づけを交わした。
翌朝。俺は六花の口づけで起こされた。喉の奥に流れこんでくる冷気で、自分を取り戻す。
「おはようございます七郎様。朝ごはんが出来ておりますよ」
「ああ、ありがとう」
昨日、あの後なんども六花とまぐわい、何度も口づけをした。その度に、俺はますます六花を愛しく、離れがたく思うようになっていった。
朝食後、山へ行く俺に六花がまた口づけて、
「できるだけ早く帰ってきてくださいね、旦那様。精の付くお料理を作って、待っていますから」
と言った。
その内、猟に行くのも村に行くのも一人ではままならなくなりそうだ。でも、きっとそうなったら六花は朝から晩までずっと俺と一緒にいてくれる。それはそれで、きっと幸せな生活に違いない、と俺は思うのだった。
いつものように天候を見計らい、兎あたりの無難な獲物を狩っていたはずが、俄に天候が崩れ、視界は吹雪で塞がれ、進むことも戻る事もできなくなってしまったこの状況から考えるに、雪山とはそれ自体が定期的な贄を欲する神か何かではないのかと思うのだ。
このままじっと止まっていても助けが来るアテはないし、そう簡単に吹雪が止むとも思えない。勿論食料や火の用意もない。仕方なく、半ばヤケクソで俺は歩み始めた。依然として視界は利かないし方角もさっぱりわからないため、生き残るという点においてはほとんど無意味、むしろ体力を消耗する分愚行とすら言える行動なのだが、何もしないでただ座して死を待つというのもぞっとしない。
俺にはまだ動かせる一対の脚があるのだから、悲観することはない。そう無理にも自分を奮い立たせ小一時間ほど歩き続けた頃だろうか。
吹雪の勢いが幾分弱まり、ひらけた視界の向こうに、一軒の山小屋のようなものが見えた。
地獄で仏とはまさにこの事。誰の物かは知らないが、取り敢えず天気が持ち直すまで匿ってもらうことにしよう。もし地図でも置いてあれば僥倖だ。
近づいていくにつれ、その小屋の中には既に人が居るらしいことが分かった。俺と同じような遭難者か、もともとこの家に住んでいる人なのかは分からないが、ひとまず風雨を防げそうなことに俺は何よりも安堵した。
木戸を叩くと、すぐに扉が開き、眼を見張るような美女が俺を出迎えた。
「吹雪のせいで帰れなくなってしまったのだ。しばらくここに置いてもらえないだろうか」
そう頼むと、豪雪地帯として名高いこの地の雪よりも白く澄んだ肌のその女は、微かに微笑むと
「はい。どうぞ中へ」
と、快く俺を迎え入れてくれたのだった。
女はこの家で、ずっと一人で暮らしているらしい。そんなところに男の俺が邪魔していいものかとも思ったのだが、その女 -六花と名乗った- は、むしろ久しぶりに現れた来訪者を喜んでいるようだった。
なんと料理を作って饗してくれるというので、色々な心苦しさを抱えながらも、自分で思う以上に消耗していたこの体を休めていると、六花がこちらに声をかけてきた。
「七郎さんは、このあたりの猟師さんなのですよね？」
「ああ。麓に小さな家を持っている。取った獲物を自分で食べたり、村へ持って行って野菜と交換したりして、もう何年も生活している」
「そうでしたか。では、この吹雪には驚いたでしょう。ここ何十年も、こんなに急に天気が崩れることはありませんでしたから」
「全くだ。一時は死を覚悟したよ。六花さんの家がなければ、今頃俺はこの世のものでなかったろうな」
「そんな怖いことを言わないでくださいな」
六花が俺に作ってくれた晩飯は、素朴ながらも暖かく、疲弊した俺の体を大いに癒してくれた。地獄で仏だといったが、仏というより女神様、観音様だな、これは。
食事を頂き、体力を回復するにはまず食事、次に睡眠ということで、俺はまだ眠そうでない六花よりも一足先に眠らせてもらおうと思ったのだが、そこを制止されてしまった。
「七郎様。折り入って一つ、お願いがございます」
「願い？六花さんは俺の命の恩人故、出来ることなら何でもして差し上げたいが……出来れば明日にしてはくれまいか？」
「いいえ、今でなければならないのです。七郎様、もしよろしければ、今晩私と同衾して頂けないでしょうか？」
同衾、とは……？まさか、この家には布団が一組しか無いから、それを二人で使おうとか、そういう話なのだろうか。
「ふ、布団が足りないというなら、俺は別に床で寝ても構わないのだが」
「もう、惚けないでくださいまし。こんな山の中で、女の一人寝がどれほど寂しいものか、七郎様はご存知なのですか」
「そうは言っても、そなたのような年頃の美人が、考えなしに男と寝るというのも」
「私だって、考えなしにこんなことを言っているのではありません。七郎様に抱いて頂きたいから、こうして恥を忍んでお願いしているのです」
これは妙なことになった。俺としても、抜けるような肌の麗人を抱けるというこの機会をみすみす逃がしたくはないのだが、しかしそれ以上に、今日会ったばかりの人間同士が肌を重ねるということに抵抗を感じる。武家の政略結婚でもあるまいし、女が、ましてや十人が十人とも美しいと評するであろう美女が、まるで自分を安売りするような事を聞くのも辛いことだった。大体、子どもができたらどうするつもりなのだ。
「六花さんにそのようなことを言ってもらえるのは嬉しいが……生憎、今日吹雪に吹かれ続けたせいで未だ体調が万全でない。今は貴方を抱くことは、できそうもない」
そう誤魔化すと、六花は少し眉尻を下げ、
「そうですか……無理を言って、申し訳ありません。しかし私も一人の女。隣に七郎様のような魅力的な殿方が寝ているというのに、何もできないというのではこの身を持て余してしまいます。せめて、口づけを一つ、下さいませんか」
なにやらとんでもないことを言われているような気がするが、取り敢えず接吻で我慢してくれるというならそれでいいだろう。了承した俺は上体を起こし、六花の形の良い唇に自分のそれを重ねた。
瞬間、六花の口から俺の口へ、何か冷気のようなものが流れこんでくるのを感じた。反射的に身を引こうとするも、いつの間にか背中に回されていた六花の両手に阻まれ、動きがとれない。臓腑から冷やすようなその感覚に俺は戦慄したが、一頻り冷気を吹きこむと六花はあっさり俺を解放した。
「堪能させていただきました。では、おやすみなさいまし」
そう言ってさっさと自分の分の布団を敷いて寝入ってしまった。ちゃんと二人分の布団が用意されていたのは良かったのだが、さっきのは一体なんだったのか。既に、あの魂を凍らすような冷たさは感じられなくなっていたし、外は未だ吹雪いている。ここで寝るより他無いのだが、俺は訳も無く不安を感じずにはいられなかった。
翌朝。山の天気はすっかり持ち直し、問題なく外を歩けるほどになっていた。六花の作ってくれた朝食を頂き、現在位置を確認させてもらう。ここから俺の家までは、歩いて約二時間といった所か。普段から山に入って猟をしている俺にとっては、何ということのない距離だ。体力も完全に戻ったし、昨晩以来、胸のあたりが妙に冷えることを除けば、万事快調と言って良い。
「では、また天気が崩れないうちに、俺は帰らせてもらうとしよう」
「はい。お気をつけて、いってらっしゃいまし」
昨日の晩俺に抱かれたいなどといったとは思えぬほど素直な笑顔を浮かべ、六花は俺を送り出してくれた。どういう事情があるのかは知らぬが、確かに雪山で女一人というのは人恋しいものがあろう。だからといって、それにつけ込むような真似は俺はしたくはなかった。結果的に恩を返す機会を失ったかもはしれないが、あのような美女に自分のような凡百の人間が釣り合うとも思えない。
六花に示された方角へ歩き続けると、果たして俺の山小屋が見えてきた。これでようやく一息つける、というのに、どういうわけか俺の心は休まらなかった。六花の居るあの家を出て以来、心臓の辺りがしくしく痛むのだ。息苦しいわけでもない、これは人恋しいという感覚だろうか。もう何年も半隠居生活をしている俺が、今更孤独に苦しむはずなど無いであろうが、久しぶりにうら若き乙女と触れ合ったせいで柄にもなく感傷的になっている、ということだろうか。家に帰ろう、家に戻ればきっと良くなる、と自分に言い聞かせ言い聞かせ歩いても、この雪山で一人歩くことが辛くてたまらない。つい後ろを振り返ったり、六花の顔を思い出したりしていたせいで、結局家につくまで三時間弱掛かってしまった。
我が家に戻り、湯を飲んで一息ついても、俺の人恋しさは収まらなかった。どういうわけか、この雪山で一人でいるのがたまらなく心細い。だれか、俺を暖かく包みこんでくれる人が欲しい。そう考えるたび、脳裏に浮かぶのは昨晩世話になった六花。あのような麗人の手を再び煩わせるなど有ってはならない、と理性がいくら訴えても、俺の寂しさは消えない。
夕方まで悶々としていたものの、いよいよ辛抱ならなくなった俺は家を飛び出し、もう一度六花に会うため山へ向かった。
昨日ほどではないが、今晩も山の天候は芳しくなかった。雪が降り注ぎ、ゆっくりと俺の体温、体力を奪っていく。記憶を辿って山を歩いても、一向に六花の家は見えてこない。行けども行けども雪で、昨日あの家を見つけられたのが本当に奇跡的なことだったのだな、などと思わされる。
闇雲に歩いたところで昨日と同じ場所に辿りつけるはずはなく、数時間歩き続けた俺は意気消沈して帰路についた。こうやって六花を探し求める間も、心臓はより一層冷え痛み、魂が温もりを求める。今まで随分長い間独りで暮らしてきたはずなのに、今はもうこの孤独に耐えられない。六花、俺の側にいてくれ。俺を独りにしないでくれ。
絶望し自分の家の扉を開けると、
「おかえりなさいませ。外は寒かったでしょう？早く這入って、体を温めてくださいな」
どういうわけか、六花が俺の家にいた。俺の家で、俺の方を向いて笑ってくれている六花を見た時に、俺はいよいよ我慢がならなくなった。
六花に抱きつき、その胸に顔を埋める。若い女にしては意外なほど体温が低いが、それでも心の芯まで冷え切った俺にとっては、まさに命の灯火と言っていいものだった。赤子のように六花の胸に頬ずりしていると、六花は
「まあまあ、甘えん坊さん。そんなに胸がお好きでしたら、直接触れてみますか？」
と、胸元をはだけてくれた。
今まで着物の奥で窮屈そうにしていた大きな乳がまろびでる。 やはり透き通るような白い乳房の頂点に、控えめな赤さの乳首がいやに扇情的である。俺はたまらなくなって、六花の胸の谷間に顔を埋めた。
「ふふ。寂しかったんですね、七郎様は。分かりますよ……私も、今までずっとそうでしたから」
「六花……もう何処にも行かないで、俺と一緒に居てくれ……」
「あらあら、告白されてしまいました。でも、どうしましょうかね？昨日の夜は私があんなに頼んでも抱いてくださらなかった七郎さんですもの」
「ああ、許してくれ……俺は、俺はもう六花なしでは……」
「冗談ですよ、怒ってなんかいません。私だって、独りでいるのはもう御免ですもの」
言うなり、六花は俺の股間に手をやった。いつの間にか激しく勃起していたそれをさすると、
「このきかんぼうも、私が面倒みて差し上げます」
と、淫靡に微笑んだ。
俺を仰向けに寝かせ、両脚の間に、上半身の着物を完全にはだけてその美巨乳を露にした六花が座った。舌で俺のものをつつっ、となぞられ、俺は思わず呻く。血流が増し熱を持った肉棒に触れる六花の舌は驚くほど冷たい。それでいて、おれの陰茎は萎える素振りすら見せず、六花の唾液をまぶされるごとにいきり立つ。
六花が体勢を変え、陰茎を飲み込んできた。その口内は舌にも増して冷たいが、それを上回る快感が俺を圧倒する。根元まで咥え込んだにもかかわらず苦しそうな素振りすら見せない六花は、更に大量の唾液と舌を絡みつかせ精液を搾り取ろうとしてきた。同時にじゅぽ、じゅぽっと卑猥な音を立てて頭を上下され、俺はあっさりと、容赦無い口唇奉仕に屈服してしまった。
「六花、も、もう出るっ……」
射精したのか、させられたのか。勢い良く噴き出る俺の精液を、六花は嬉しげに喉の奥で受け止め、飲み下していった。こくり、こくりと可愛い喉が動くたびに、俺はますます六花なしでは生きられなくなっているような気がした。
「お口でご奉仕したら、次は胸ですよね」
大量の精液を噴いて未だ萎える気配のない俺の肉棒を、六花はその爆乳で挟んだ。やはり冷たいが、口での愛撫とはまた違った、肌が吸いつくような感覚が心地いい。精液と唾液に塗れた俺の醜悪なものが六花の極上の乳房に挟まれてほとんど見えなくなっている光景は、それだけで射精してしまいたくなるほど淫猥だった。
物も言わずに、六花は両の胸乳を交互に前後させ、パイズリ奉仕を始めた。先程射精したばかりだが、冷たくて柔らかいおっぱいの感触に、陰茎は萎えるどころか前よりも硬くなっていく。両手で左右から圧迫され、肉棒に当たって卑猥に形を変える乳肉が、視覚から俺を追い込む。更に六花はパイズリの手を休めず、胸の谷間から顔を出す俺の亀頭に、ちゅ、ちゅと軽い接吻を見舞ってきた。棒と頭の二箇所同時責めである。
「うっ、あ……、六花……」
「また透明な液が出てきましたよ……？イキそうになったら、いつでもこの胸に中出ししてくださいね」
清楚な外見に似合わない淫らな言葉に、俺の我慢は決壊した。肉棒が脈動し、本日二度目とは思えぬほど大量の白濁液を胸の谷間に流し込む。六花も顔を上気させ、胸、首、顔で射精を受け止めてくれた。
「七郎様の精液、熱くって素敵……こんなの浴びせられたら、病みつきになってしまいます……」
首や顔に降りかかった精液を、手で掬いとっては舐める。巨乳の彼女らしく、乳房に付着した分は手を使わず直接口で吸う。まるで自分で自分を慰めているようなその仕草に、俺のものはまたしても萎えることを許されない。
精液を味わい終えた彼女の眼は、情欲に蕩けきっていた。陰茎が未だ臨戦態勢を保っていることを確認した彼女は、満足気に笑むと、俺の腰に跨ってきた。
女陰と亀頭が触れ、愛液が肉茎を伝って溢れる。俺に奉仕しながら、こんなに淫水を溢れさせるほど感じていたのか。六花の好色さに、俺はただ圧倒されるばかり。
我慢の限界、とばかりに、六花は腰を一気に落とし俺のものを飲み込んできた。その内部は、今まで触れてきた六花の体の何処よりも冷たく、そして気持いい所だった。愛液に濡れた無数の襞が、不規則に蠢いては精を搾り取ろうとする。腰を落としきり、亀頭が膣の最奥を突くと、俺と六花は同時に溜め息を付いた。
「七郎様のおちんちん、すごく熱いっ……私のおまんこ、火傷しちゃいそうです……！」
「気持ちいい……気持ちイイよ六花ぁ……」
「ふふ、もうめろめろって感じですね……。んっ、じゃあ、もっともっと誘惑して、一生、私から、片時も、離れられなくしてあげますっ……！」
六花は両手を床に突くと、腰を激しく振り始めた。たっぷりの愛蜜を惜しげもなく垂らし、じゅぽっ、じゅぽっと濡れた音を立て、肉筒が陰茎を責める。思わずイキそうになってしまうが、膣の締まりのあまりの強さに、射精すら押し留められてしまった。絶頂の快楽を味わいながらも射精を許されない、天国と地獄の綯い交ぜに、俺は為す術なく翻弄された。
「こ、れ……すごい……」
「私も、気持ちイイっ……！こんな、こんなの、あんっ！」
膣のきつさと滑りの良さは俺たち二人の淫液によって両立している。射精すら支配するこの性器はとても人間のものとは思えない。もしかしたら俺はとんでもないものに捕まってしまったのかもしれない……が、六花が何者であるかなど、もはや俺にとっては些細な問題だった。俺の上で激しく乱れ喘ぐこの美女を俺は何よりも愛しく思っていた。
六花も、いよいよ限界が近づいてきたようで、口から漏れる喘ぎ声が一層艶やかになり始めた。泣き叫んでいる、といっていいような声で、俺に絶頂をせがむ。
「ああ、いい、七郎様のイイ！熱いの、熱くって、気持ちよくって、私、融けちゃいます！七郎様、精液出して！中出しして、私のおまんこ七郎様でいっぱいにしてくださいっ！」
すると、今まできつく締まっていた膣が様相を変えた。亀頭、裏筋、カリ首を責め、膣内射精を促すような動きをし始めたのだ。六花の思い通りに動くこの魔膣が、男の精を欲している。とうに忍耐の限界を超えていた俺は六花に求められるまま、女性器の奥、子宮に向かって白濁を放った。
「くっ、六花……もう、駄目だ……」
「出して、膣内射精して！七郎様の子供孕ませてえっ！」
濃い、粘ついた液が六花の女陰に溢れる。狭いその肉筒に入りきらない精が、零れて床を汚す。恐ろしいことに、俺のものはこの期に及んで未だ硬さを保っていた。
「七郎様、まだまだ寂しいでしょう……？もっと一杯、体を温め合いましょうね……」
下半身で繋がったまま、俺と六花は、昨晩したのとは比べものにならないほど情熱的な口づけを交わした。
翌朝。俺は六花の口づけで起こされた。喉の奥に流れこんでくる冷気で、自分を取り戻す。
「おはようございます七郎様。朝ごはんが出来ておりますよ」
「ああ、ありがとう」
昨日、あの後なんども六花とまぐわい、何度も口づけをした。その度に、俺はますます六花を愛しく、離れがたく思うようになっていった。
朝食後、山へ行く俺に六花がまた口づけて、
「できるだけ早く帰ってきてくださいね、旦那様。精の付くお料理を作って、待っていますから」
と言った。
その内、猟に行くのも村に行くのも一人ではままならなくなりそうだ。でも、きっとそうなったら六花は朝から晩までずっと俺と一緒にいてくれる。それはそれで、きっと幸せな生活に違いない、と俺は思うのだった。
10/09/25 20:38更新 / ナシ・アジフ