その忌むべき手を取れ
太陽の光も届かない洞窟の奥で、毎日規則正しい時間に覚醒できるのはやはり、大地の恵みとノームの魔力によって人間を超越したインキュバスの特権か。
光量の少ない横穴の奥で目を覚ました精霊使いの俺は、起床直後の鈍い頭でそんなことを思った。
隣には俺の愛しい契約精霊、今俺達が暮らしている魔界の創世者たるノーム、マロンが穏やかな寝息を立てている。
草と苔で織り上げた俺達夫婦専用の寝台は、横たわるものを優しく眠りへと導き、そう易々と離しはしない。もともとの性格が大人しく、まるでワーシープか何かのように、眠るという行為をこよなく愛するマロンが、緑色のベッドを俺より先に離れることはほとんど無いのだ。
そんな彼女の美しい褐色肌や、ピンと尖ってかわいらしい耳、アホ毛のように頭頂から生えた芽などを見ているうちに意識がしっかりしてきた俺は、いつものごとく洞窟を出ることにした。目的は、食料の調達である。
ねぐらを出ると、鬱蒼と茂った魔界植物のせいで朝でも昼でも薄暗い魔界が俺を出迎える。
天からの太陽の恵みを拒んだこの森は、しかし魔力と精力によって普通の森以上に肥沃に育ち、生命力に満ち溢れている。闇精霊の魔力は俺というインキュバスと交わることで日々増大し、森の植物たちはますます栄え、伸び、その美しさや淫らさを増していくのだ。
俺の姿を認めたか、そんな魔界植物の代表格とも言える触手植物たちが、茂みの向こうからその姿を表した。
濃緑色の蔓に男根じみた隆起を浮かべた、生物とも無生物ともつかないその者たちは、侵入者に対しては無慈悲で不気味な捕食者として振舞う。が、俺とマロンのことは「主」として認めているらしく、襲いかかってくるようなことはない。
それどころか。
「今日も貢物を持ってきてくれたんだね。ありがとう」
こちらに伸びてきた3本の触手植物たちは、それぞれ先端にバスケットをぶら下げていた。籠の中には近辺で取れる野菜、果物、それらを飼料として育てられた家畜の肉などがたくさん詰まっている。
付近のアルラウネやマンドラゴラといった植物型魔物娘たちが、ノームの魔力とその恵みに感謝して、こうして食料を提供してくれているのだ。彼女らにとって見れば、俺たちは無尽蔵のエネルギー源のようなものであるため、その魔力で作った作物を一部捧げるぐらい、どうということもないらしい。俺としても、今のところここを離れる理由は無いし、わざわざ労働せずとも食料が手に入るのは嬉しい。美しき共生、理想的な共存共栄といえよう。
まあ、その辺の交渉は、俺が成し遂げたわけではないし、マロンの功績でもない。では誰かというと、触手たちである。
この魔界が出来てしばらくした頃、目の前の触手たちが一体いかなる手段を用いたか、食べ物を調達してきてくれるようになったのだ。
口も目もない彼らが如何にして魔物娘たちと折衝したかは、定かでない。まあ結果的に皆が得する形を作ってくれた触手たちを賞賛しはすれ、必要以上に詮索したりするつもりは元より無い。
バスケットを渡し、自由になった触手たちが俺の腕に絡みつき、まるで犬か何かのようにじゃれついて来る様を見ると、細かいことなどどうでもよく思えるのだ。
「いつもありがとうな、みんな」
そう言って毎日の仕事を労ってやると、耳を持たないはずの触手たちはより一層嬉しげに、俺の両手にまとわりついて来た。
心底嬉しげに親愛の情を示してくる彼らが、どう俺の言葉を聞き取っているかは分からない。褒めるようなことを言えばこうして喜ぶし、何か要望など伝えればちゃんと答えてはくれるので、どうにかして理解しているのは確かだが。
見た目こそ悍ましいが、これでなかなか愛嬌があってかわいい奴らなのだ。
ひんやり冷たい肌を盛んに俺の腕に擦りつけ、一般的な「触手」のイメージからかけ離れた様子で親愛の情を示そうとする彼らの先端を、空いた手で軽く撫でさすってやると、びくんびくんと身を震わせて喜ぶ。ペットの犬ならば尻尾をちぎれんばかりに振っていそうなその様は、それら愛玩動物のように鳴き声をあげないのが不思議なくらいだ。
とは言っても、いつまでも触手たちと戯れているわけにはいかない。早く食料を持って帰らないと、マロンが目を覚ましてしまうかもしれない。
「じゃあ、また」
そう言って一歩引くと、触手たちは名残惜しげに引き下がり、先端を緩やかに振った。どこで知ったか、別れの挨拶の積もりらしい。まったく、愛想のいい子らだ。
洞穴に戻ると、マロンは既に目覚めていた。入手してきた野菜や燻製肉を、二人で分けあって食べる。
籠に入っていた野菜や果実は精霊の力によって非常に豊富な栄養を含み、芳醇な味わいを持つ。もちろん魔力も相応に含まれているため、ただの人間が口を付けると、一つ食べ終わる頃にはもうヒトではなくなっているだろうが、まあ俺達には関係の無い話だ。
マロンのような精霊は本質的には生物とは言いがたい生態を持つため、普通、食事を取る必要はないはずなのだが、なんだかんだで俺と一緒に、同じぐらいの野菜や肉を食べるのが常である。
精霊にも味覚や美味を楽しむ概念はあるらしいし、俺としても一人よりは二人のほうが食事は楽しい。何に追われることもない俺達はこの朝も、二人でゆったりと、満ち足りた気分で食事を摂るのだった。
さて、食欲と睡眠欲が満たされた後で、次に来るのは何か、改めて言うまでもない。
俺の精無しには存在を維持できないマロンが、まさしく豊満としか言いようのない爆乳や、程良くむちむちと肉がついて弾力に富み、それでいてきめ細かい、滑らせる指に引っ掛かるところが全く無いフトモモを俺に押し付けてくるまでもなく、こちらは既に臨戦態勢に入っていたのだ。
早くも息を荒らげ始めたマロンの、胸や腿の成熟しきった感じとは対照的に小柄な肉体を片手で抱え、草の布団へと仰向けに横たえてやる。頬を染めて為すがままになっている彼女の両膝をつかみ、軽く左右に開いて体を割り入れると、それだけで彼女には俺の意図が伝わったらしい。
普段から無口で、黙って俺に寄り添っていることの多いマロンだが、それゆえに言葉を介さずとも俺の心を察する能力に長けている。早くも勃起しきった俺のものを見て、彼女は何も言わず、両足を大きく広げた。
完全に無毛な彼女の女陰は、少女の様な見た目に反して、インキュバスの男性器を待ち焦がれて淫らな粘液を分泌し始めていた。物も言わず、ただこちらをじっ……と見つめるマロンの瞳は、いつでも挿入してくれて構わないと俺に訴えかけていた。
褐色の綺麗な肌、ホルスタウロスもかくやというほどたわわに実り、仰臥位になってもちっとも形の崩れない美巨乳、ほっそりした腰のくびれに可愛いおへそ、極めつけに女性らしく、むちむちぷりぷりとして触感の素晴らしい腿に脹脛。眼下のノームは、その全身をもって俺を昂らせるのだった。
彼女の両脇下、地面に両手をついて、早速本番と行っても良かったが、俺の目線は寧ろマロンの胸に鎮座する双球、巨大な乳房とその頂点、褐色肌とのコントラストが一際いやらしい薄紅色の乳首に向いてしまっていた。
硬くなった男性器を彼女の股に触れさせ、早速挿入すると思わせた刹那。右手を動かし、豊満そのものといった褐色爆乳を、敢えて強めに握ってやる。ぎゅっ、と手に力を込めると、潤んだ目の闇精霊は悩ましげに眉を顰め、熱い吐息を漏らした。
「んっ、ちょっと、痛……」
「痛いくらいが、いいんでしょう？」
殊更に突き放すような声色で、俺はさらにマロンを責め続ける。文字通り片手に余る彼女の乳房は、俺が五指を使ってマッサージを施すごとに指と指の間から余った乳肉がはみ出て、その大きさや柔らかさを強調しているようだ。今までに何度も俺と交わったマロンは、当然そのおっぱいも揉み尽くされており、開発されきった淫らな乳は激しい手指の運動に極めて敏感に反応する。むにむにー、と掌を肌に押し付け、同時に人差指と中指で乳首を摘むと、上気した肌が微かに濡れて、俺の手に張り付いてくる。
乳遊びに耽る俺の顔を見上げ、マロンがそっと言った。
「……いじわる。おっぱいばっかり、こんなに……」
「ふふ、ごめんごめん。ちゃんとこっちも、してあげますから」
手を乳から離し、愛しい人の、肉付きの良い胸やお尻とは対照的にほっそりとした、まるで少女のような柳腰を両手で抱える。そのまま腰を進め、亀頭を女陰に埋めると、さんざん焦らされたクレバスが随喜の涙を流した。
えろいマシュマロを弄びすぎた俺も、いつの間にか衝動を抑えきれなくなってきていた。少し焦らされ、十分以上に潤ったマロンの性器は泥のようにぬめり、俺を受け入れる。
ノームであるマロンの膣は、締りの良さ、襞の多さや中のキツさについてはさほどでもない。
と言っても、無論、彼女の淫筒が気持よくないわけでは決してない。極端に濡れやすい、マロンの柔らかい膣壁は、つぶつぶの質感を伴って俺の男根を根元まで包みこみ、じっくりと愛してくれる。腰の前後運動、陰茎の抽送に合わせて柔軟にしなり、うねり、意志を持つかのように陰茎に張り付いてくるその感触には、到底言葉では語り尽くせない素晴らしさがある。
十代男子のように勢いに任せてガンガン突くのは勿体無い。適度に緩急を付けながら、じっくりねっとりとお互いに感じ合い愛し合い、性感を高め合うのがいい。誰に教えられるでもなく、俺達はそのことを自然に知っていた。
早すぎず遅すぎない腰の速度を維持しつつ、そっと左手でマロンのきれいな太股を撫でる。程よい肉付きと皮下脂肪の絶妙な柔らかさは、こうして触っているだけでも言い知れぬほど扇情的だ。劣情の汗にしっとりと濡れた今なら、猶のこと。そんなモモの甘美な感触を味わっていると、一層息を荒らげたマロンが不意に脚を動かした。
上半身の体勢はそのままに、両脹脛を俺の腰の裏に回し、足先を絡めて俺を捕まえるこの動きは、無口な彼女なりのおねだりである。俺の精液が膣内に欲しい、とどろどろに蕩けた視線で訴えるマロンを、これ以上不必要に焦らすつもりは元より無い。
腰の突き込みを大きくし、動きも若干速める。粘膜同士の摩擦が、じゅぷじゅぷ淫らな水音を立てて、二人の興奮を高めていく。何十回目かのピストン運動、俺のモノがマロンの一番深くにまで飲み込まれたとき、餓えた肉穴が植わった男根の根元から鈴口までを同時に愛撫し、俺は子種を放った。
ほぼ同時に絶頂したマロンは、その両脚でもって俺を拘束していた。淫膣の奥の奥まで突いた状態で固定され、俺の漏らす白濁は一滴残らずマロンの胎内に飲み込まれていく。唇を震わせて、愛する契約者の情けを貪欲に貪る闇精霊は、慈母とも毒婦ともつかない、底の知れない笑みを浮かべていた。
一通り精液を出し終わり、お互いに脱力する。俺の男性器も半萎え状態だが、上手い具合に体を操ることで、完全には抜けきらないように出来た。
俺とマロンは一心同体。起きている、意識のある間は、ずっとこうして繋がっているのだ。
大地と、それに根を張る木々のように。
…
……
………
次の日。
毎度のごとく、マロンよりも一足早く目を覚ました俺は、やはりいつも通り洞穴の外に出て、触手たちから食べ物を受け取ろうとした。
いつも通りでなかったのはそこからだ。
洞穴の出口、外界と繋がるあたりに近づくにつれ、俺の耳には粘ついた、どこか淫猥な音が響いてきていたのだ。
ひどく濡れた粘膜に、同じく粘膜質の何かを擦りつけるような、ねばついた水音。ぐちゅり、ぐちゅりと鳴るその音に混じって、言葉にもならない喘ぎ声、辛うじて気道を通り抜けた呼気が立てるヒューヒューという息の音も聞こえる。
この音は一体何だろうと困惑する間も無く、外に出てみればその正体はたちどころに理解できた。
普段は人懐こく、殊更に愛想を振りまいて見せる触手たちが、その本性を顕にしていたのだ。
眼前の茂みの中、数えきれないほど大量の触手植物が、うねり、蠢き、蹂躙している。その中心に横たわるは、贄たる女。四肢を拘束され、服を剥ぎ取られ、正しく俎上の鯉といった有様である。
既にかなりの時間触手に陵辱されたらしく、その瞳には既に理性と呼べるものは残っていない。脱がされ、地面に打ち捨てられた衣服の意匠や鎧のデザインを見るに、どうも聖騎士らしいが、魔性の剛直を股間で咥え込み、小さな口をこじ開けられ、唾液と愛液を垂れ流しながら触手の慰み者と堕したその姿に、かつて持っていたであろう誇りや挟持といったものは全く見受けられない。大方、魔界を滅ぼすために単身乗り込んできたはいいが、敢え無く触手に捕獲され、そのままお持ち帰りされたといったところだろう。
完全に脱力し、人形のようになったその女勇者（？）を更に貪ろうと、股間に埋まった触手が前後運動を始める。女から魔力と人間性を吸い取るその魔手は、一擦りごとに聖騎士の倫理を奪い、代わりに快楽を至上とする魔物としての価値観を塗りこんでいく。口も触手に埋められた彼女は、その暴力的な洗礼に声をあげることもできない。魔界植物の狂宴の、そのあまりの激しさに、思わず嘆息が漏れた。
「ずいぶん激しくやってるね。僕らの供給する精では、足りないのかな」
そう言うと、ようやく俺の存在に気づいたか、触手たちがびくんと反応した。女を拘束する分はそのままに、手の空いたらしき触手たちがそろりそろりと、まるでこちらの機嫌を伺うかのようににじり寄ってくる。ゆっくりと鎌首（？）を持ち上げ、先端をこちらに寄せる様は見るからに悄然として、いたずらがバレたイエネコのようだ。
そっといつものように手を伸ばしてやると、少し戸惑いながらも俺の手に身を寄せてくる。おずおずと、という形容がそのまま当てはまるような所作に、意識しないままに笑みがこぼれる。
「ふふ。冗談だよ。お前たちが捕まえた獲物なんだろう？ だったら、お前たちにくれてやるさ。好きにしな」
許しの言葉を得て、触手たちが俄かに活気づく。するすると巻き戻り、俺の手から離れ女を責める方に復帰する触手群は、魔性のものが持つ欲望への正直さそのものを象徴するようで、どこか微笑ましかった。
再び触手全軍で激しく責められ始めた件の彼女を尻目に、俺は籠に入った食料を手に取り、踵を返した。
俺とマロンが生み出し、そこに住まう触手や植物たちに守られるこの魔界に、干渉できる者など決して存在しない。マロンと二人、この魔界で暮らしている限り、今の穏やかで淫らな生活は誰にも乱されはしない。確信を深めた俺は、今日もいつも通り、淫猥際まる一日を愛しいノームと送るべく、暗い洞窟の奥へと帰るのだった。
光量の少ない横穴の奥で目を覚ました精霊使いの俺は、起床直後の鈍い頭でそんなことを思った。
隣には俺の愛しい契約精霊、今俺達が暮らしている魔界の創世者たるノーム、マロンが穏やかな寝息を立てている。
草と苔で織り上げた俺達夫婦専用の寝台は、横たわるものを優しく眠りへと導き、そう易々と離しはしない。もともとの性格が大人しく、まるでワーシープか何かのように、眠るという行為をこよなく愛するマロンが、緑色のベッドを俺より先に離れることはほとんど無いのだ。
そんな彼女の美しい褐色肌や、ピンと尖ってかわいらしい耳、アホ毛のように頭頂から生えた芽などを見ているうちに意識がしっかりしてきた俺は、いつものごとく洞窟を出ることにした。目的は、食料の調達である。
ねぐらを出ると、鬱蒼と茂った魔界植物のせいで朝でも昼でも薄暗い魔界が俺を出迎える。
天からの太陽の恵みを拒んだこの森は、しかし魔力と精力によって普通の森以上に肥沃に育ち、生命力に満ち溢れている。闇精霊の魔力は俺というインキュバスと交わることで日々増大し、森の植物たちはますます栄え、伸び、その美しさや淫らさを増していくのだ。
俺の姿を認めたか、そんな魔界植物の代表格とも言える触手植物たちが、茂みの向こうからその姿を表した。
濃緑色の蔓に男根じみた隆起を浮かべた、生物とも無生物ともつかないその者たちは、侵入者に対しては無慈悲で不気味な捕食者として振舞う。が、俺とマロンのことは「主」として認めているらしく、襲いかかってくるようなことはない。
それどころか。
「今日も貢物を持ってきてくれたんだね。ありがとう」
こちらに伸びてきた3本の触手植物たちは、それぞれ先端にバスケットをぶら下げていた。籠の中には近辺で取れる野菜、果物、それらを飼料として育てられた家畜の肉などがたくさん詰まっている。
付近のアルラウネやマンドラゴラといった植物型魔物娘たちが、ノームの魔力とその恵みに感謝して、こうして食料を提供してくれているのだ。彼女らにとって見れば、俺たちは無尽蔵のエネルギー源のようなものであるため、その魔力で作った作物を一部捧げるぐらい、どうということもないらしい。俺としても、今のところここを離れる理由は無いし、わざわざ労働せずとも食料が手に入るのは嬉しい。美しき共生、理想的な共存共栄といえよう。
まあ、その辺の交渉は、俺が成し遂げたわけではないし、マロンの功績でもない。では誰かというと、触手たちである。
この魔界が出来てしばらくした頃、目の前の触手たちが一体いかなる手段を用いたか、食べ物を調達してきてくれるようになったのだ。
口も目もない彼らが如何にして魔物娘たちと折衝したかは、定かでない。まあ結果的に皆が得する形を作ってくれた触手たちを賞賛しはすれ、必要以上に詮索したりするつもりは元より無い。
バスケットを渡し、自由になった触手たちが俺の腕に絡みつき、まるで犬か何かのようにじゃれついて来る様を見ると、細かいことなどどうでもよく思えるのだ。
「いつもありがとうな、みんな」
そう言って毎日の仕事を労ってやると、耳を持たないはずの触手たちはより一層嬉しげに、俺の両手にまとわりついて来た。
心底嬉しげに親愛の情を示してくる彼らが、どう俺の言葉を聞き取っているかは分からない。褒めるようなことを言えばこうして喜ぶし、何か要望など伝えればちゃんと答えてはくれるので、どうにかして理解しているのは確かだが。
見た目こそ悍ましいが、これでなかなか愛嬌があってかわいい奴らなのだ。
ひんやり冷たい肌を盛んに俺の腕に擦りつけ、一般的な「触手」のイメージからかけ離れた様子で親愛の情を示そうとする彼らの先端を、空いた手で軽く撫でさすってやると、びくんびくんと身を震わせて喜ぶ。ペットの犬ならば尻尾をちぎれんばかりに振っていそうなその様は、それら愛玩動物のように鳴き声をあげないのが不思議なくらいだ。
とは言っても、いつまでも触手たちと戯れているわけにはいかない。早く食料を持って帰らないと、マロンが目を覚ましてしまうかもしれない。
「じゃあ、また」
そう言って一歩引くと、触手たちは名残惜しげに引き下がり、先端を緩やかに振った。どこで知ったか、別れの挨拶の積もりらしい。まったく、愛想のいい子らだ。
洞穴に戻ると、マロンは既に目覚めていた。入手してきた野菜や燻製肉を、二人で分けあって食べる。
籠に入っていた野菜や果実は精霊の力によって非常に豊富な栄養を含み、芳醇な味わいを持つ。もちろん魔力も相応に含まれているため、ただの人間が口を付けると、一つ食べ終わる頃にはもうヒトではなくなっているだろうが、まあ俺達には関係の無い話だ。
マロンのような精霊は本質的には生物とは言いがたい生態を持つため、普通、食事を取る必要はないはずなのだが、なんだかんだで俺と一緒に、同じぐらいの野菜や肉を食べるのが常である。
精霊にも味覚や美味を楽しむ概念はあるらしいし、俺としても一人よりは二人のほうが食事は楽しい。何に追われることもない俺達はこの朝も、二人でゆったりと、満ち足りた気分で食事を摂るのだった。
さて、食欲と睡眠欲が満たされた後で、次に来るのは何か、改めて言うまでもない。
俺の精無しには存在を維持できないマロンが、まさしく豊満としか言いようのない爆乳や、程良くむちむちと肉がついて弾力に富み、それでいてきめ細かい、滑らせる指に引っ掛かるところが全く無いフトモモを俺に押し付けてくるまでもなく、こちらは既に臨戦態勢に入っていたのだ。
早くも息を荒らげ始めたマロンの、胸や腿の成熟しきった感じとは対照的に小柄な肉体を片手で抱え、草の布団へと仰向けに横たえてやる。頬を染めて為すがままになっている彼女の両膝をつかみ、軽く左右に開いて体を割り入れると、それだけで彼女には俺の意図が伝わったらしい。
普段から無口で、黙って俺に寄り添っていることの多いマロンだが、それゆえに言葉を介さずとも俺の心を察する能力に長けている。早くも勃起しきった俺のものを見て、彼女は何も言わず、両足を大きく広げた。
完全に無毛な彼女の女陰は、少女の様な見た目に反して、インキュバスの男性器を待ち焦がれて淫らな粘液を分泌し始めていた。物も言わず、ただこちらをじっ……と見つめるマロンの瞳は、いつでも挿入してくれて構わないと俺に訴えかけていた。
褐色の綺麗な肌、ホルスタウロスもかくやというほどたわわに実り、仰臥位になってもちっとも形の崩れない美巨乳、ほっそりした腰のくびれに可愛いおへそ、極めつけに女性らしく、むちむちぷりぷりとして触感の素晴らしい腿に脹脛。眼下のノームは、その全身をもって俺を昂らせるのだった。
彼女の両脇下、地面に両手をついて、早速本番と行っても良かったが、俺の目線は寧ろマロンの胸に鎮座する双球、巨大な乳房とその頂点、褐色肌とのコントラストが一際いやらしい薄紅色の乳首に向いてしまっていた。
硬くなった男性器を彼女の股に触れさせ、早速挿入すると思わせた刹那。右手を動かし、豊満そのものといった褐色爆乳を、敢えて強めに握ってやる。ぎゅっ、と手に力を込めると、潤んだ目の闇精霊は悩ましげに眉を顰め、熱い吐息を漏らした。
「んっ、ちょっと、痛……」
「痛いくらいが、いいんでしょう？」
殊更に突き放すような声色で、俺はさらにマロンを責め続ける。文字通り片手に余る彼女の乳房は、俺が五指を使ってマッサージを施すごとに指と指の間から余った乳肉がはみ出て、その大きさや柔らかさを強調しているようだ。今までに何度も俺と交わったマロンは、当然そのおっぱいも揉み尽くされており、開発されきった淫らな乳は激しい手指の運動に極めて敏感に反応する。むにむにー、と掌を肌に押し付け、同時に人差指と中指で乳首を摘むと、上気した肌が微かに濡れて、俺の手に張り付いてくる。
乳遊びに耽る俺の顔を見上げ、マロンがそっと言った。
「……いじわる。おっぱいばっかり、こんなに……」
「ふふ、ごめんごめん。ちゃんとこっちも、してあげますから」
手を乳から離し、愛しい人の、肉付きの良い胸やお尻とは対照的にほっそりとした、まるで少女のような柳腰を両手で抱える。そのまま腰を進め、亀頭を女陰に埋めると、さんざん焦らされたクレバスが随喜の涙を流した。
えろいマシュマロを弄びすぎた俺も、いつの間にか衝動を抑えきれなくなってきていた。少し焦らされ、十分以上に潤ったマロンの性器は泥のようにぬめり、俺を受け入れる。
ノームであるマロンの膣は、締りの良さ、襞の多さや中のキツさについてはさほどでもない。
と言っても、無論、彼女の淫筒が気持よくないわけでは決してない。極端に濡れやすい、マロンの柔らかい膣壁は、つぶつぶの質感を伴って俺の男根を根元まで包みこみ、じっくりと愛してくれる。腰の前後運動、陰茎の抽送に合わせて柔軟にしなり、うねり、意志を持つかのように陰茎に張り付いてくるその感触には、到底言葉では語り尽くせない素晴らしさがある。
十代男子のように勢いに任せてガンガン突くのは勿体無い。適度に緩急を付けながら、じっくりねっとりとお互いに感じ合い愛し合い、性感を高め合うのがいい。誰に教えられるでもなく、俺達はそのことを自然に知っていた。
早すぎず遅すぎない腰の速度を維持しつつ、そっと左手でマロンのきれいな太股を撫でる。程よい肉付きと皮下脂肪の絶妙な柔らかさは、こうして触っているだけでも言い知れぬほど扇情的だ。劣情の汗にしっとりと濡れた今なら、猶のこと。そんなモモの甘美な感触を味わっていると、一層息を荒らげたマロンが不意に脚を動かした。
上半身の体勢はそのままに、両脹脛を俺の腰の裏に回し、足先を絡めて俺を捕まえるこの動きは、無口な彼女なりのおねだりである。俺の精液が膣内に欲しい、とどろどろに蕩けた視線で訴えるマロンを、これ以上不必要に焦らすつもりは元より無い。
腰の突き込みを大きくし、動きも若干速める。粘膜同士の摩擦が、じゅぷじゅぷ淫らな水音を立てて、二人の興奮を高めていく。何十回目かのピストン運動、俺のモノがマロンの一番深くにまで飲み込まれたとき、餓えた肉穴が植わった男根の根元から鈴口までを同時に愛撫し、俺は子種を放った。
ほぼ同時に絶頂したマロンは、その両脚でもって俺を拘束していた。淫膣の奥の奥まで突いた状態で固定され、俺の漏らす白濁は一滴残らずマロンの胎内に飲み込まれていく。唇を震わせて、愛する契約者の情けを貪欲に貪る闇精霊は、慈母とも毒婦ともつかない、底の知れない笑みを浮かべていた。
一通り精液を出し終わり、お互いに脱力する。俺の男性器も半萎え状態だが、上手い具合に体を操ることで、完全には抜けきらないように出来た。
俺とマロンは一心同体。起きている、意識のある間は、ずっとこうして繋がっているのだ。
大地と、それに根を張る木々のように。
…
……
………
次の日。
毎度のごとく、マロンよりも一足早く目を覚ました俺は、やはりいつも通り洞穴の外に出て、触手たちから食べ物を受け取ろうとした。
いつも通りでなかったのはそこからだ。
洞穴の出口、外界と繋がるあたりに近づくにつれ、俺の耳には粘ついた、どこか淫猥な音が響いてきていたのだ。
ひどく濡れた粘膜に、同じく粘膜質の何かを擦りつけるような、ねばついた水音。ぐちゅり、ぐちゅりと鳴るその音に混じって、言葉にもならない喘ぎ声、辛うじて気道を通り抜けた呼気が立てるヒューヒューという息の音も聞こえる。
この音は一体何だろうと困惑する間も無く、外に出てみればその正体はたちどころに理解できた。
普段は人懐こく、殊更に愛想を振りまいて見せる触手たちが、その本性を顕にしていたのだ。
眼前の茂みの中、数えきれないほど大量の触手植物が、うねり、蠢き、蹂躙している。その中心に横たわるは、贄たる女。四肢を拘束され、服を剥ぎ取られ、正しく俎上の鯉といった有様である。
既にかなりの時間触手に陵辱されたらしく、その瞳には既に理性と呼べるものは残っていない。脱がされ、地面に打ち捨てられた衣服の意匠や鎧のデザインを見るに、どうも聖騎士らしいが、魔性の剛直を股間で咥え込み、小さな口をこじ開けられ、唾液と愛液を垂れ流しながら触手の慰み者と堕したその姿に、かつて持っていたであろう誇りや挟持といったものは全く見受けられない。大方、魔界を滅ぼすために単身乗り込んできたはいいが、敢え無く触手に捕獲され、そのままお持ち帰りされたといったところだろう。
完全に脱力し、人形のようになったその女勇者（？）を更に貪ろうと、股間に埋まった触手が前後運動を始める。女から魔力と人間性を吸い取るその魔手は、一擦りごとに聖騎士の倫理を奪い、代わりに快楽を至上とする魔物としての価値観を塗りこんでいく。口も触手に埋められた彼女は、その暴力的な洗礼に声をあげることもできない。魔界植物の狂宴の、そのあまりの激しさに、思わず嘆息が漏れた。
「ずいぶん激しくやってるね。僕らの供給する精では、足りないのかな」
そう言うと、ようやく俺の存在に気づいたか、触手たちがびくんと反応した。女を拘束する分はそのままに、手の空いたらしき触手たちがそろりそろりと、まるでこちらの機嫌を伺うかのようににじり寄ってくる。ゆっくりと鎌首（？）を持ち上げ、先端をこちらに寄せる様は見るからに悄然として、いたずらがバレたイエネコのようだ。
そっといつものように手を伸ばしてやると、少し戸惑いながらも俺の手に身を寄せてくる。おずおずと、という形容がそのまま当てはまるような所作に、意識しないままに笑みがこぼれる。
「ふふ。冗談だよ。お前たちが捕まえた獲物なんだろう？ だったら、お前たちにくれてやるさ。好きにしな」
許しの言葉を得て、触手たちが俄かに活気づく。するすると巻き戻り、俺の手から離れ女を責める方に復帰する触手群は、魔性のものが持つ欲望への正直さそのものを象徴するようで、どこか微笑ましかった。
再び触手全軍で激しく責められ始めた件の彼女を尻目に、俺は籠に入った食料を手に取り、踵を返した。
俺とマロンが生み出し、そこに住まう触手や植物たちに守られるこの魔界に、干渉できる者など決して存在しない。マロンと二人、この魔界で暮らしている限り、今の穏やかで淫らな生活は誰にも乱されはしない。確信を深めた俺は、今日もいつも通り、淫猥際まる一日を愛しいノームと送るべく、暗い洞窟の奥へと帰るのだった。
11/03/28 23:48更新 / ナシ・アジフ