読切小説
[TOP]
crow song
 何事も、一人で悩むより誰かに相談した方がいい、そんな当たり前の事を、俺は今更ながらに実感していた。
 俺には一人、気になる女性がいた。いや、気になる、などと誤魔化すような単語は使わないでおこう。俺は一人の女性に恋をしていた。その女性は、魔物娘だったのだ。
 生まれて以来魔物娘はおろか人間の女性との付き合いすら乏しい俺にとって、その恋心は全く扱いかねるものだった。
 しかし、試しに魔物娘を妻に持つ先輩の一人に相談を持ちかけてみたところ、一気に道が開けたのだ。
 魔物娘攻略法を伝授してもらったのみならず、今の俺が最も欲する情報、確信を、先輩が与えてくれたのだ。
 それを聞いてからは、自分でも驚くくらい早く、決心が着いた。
 まるで、限界まで膨らませた風船に一本の針を突き刺したようだった。
 今まで思いを秘めてきた時間の長さ、その強さが、突破口を見つけたことにより持ち主の俺にすら制御できなくなってしまっていたのだ。

『向こうもお前のことを、そう嫌っちゃいないってことだよ』

 この言葉を聞いた瞬間、俺の心は既に定まっていたのだ。

 アドバイスしてくれた先輩への礼もそこそこに、職場へ向かう。今日は休日だが、確か課長は溜まった仕事を消化するために出勤すると言っていたはずだ。今から向かえば、退勤時間には十分間に合うはずだ。
 「行動」に酔った俺の脳は、先輩の言葉を疑おうともしなかった。


 上手い具合に、俺が職場、課長の居るオフィスに辿り着いた時、課長は丁度仕事を片付けてしまったところのようだった。本来ここに居るはずのない俺の顔を見て、課長の眼が驚きに見開かれる。

「おや、君も休日出勤か? 特に立て込んだ仕事も、無かったと思うが」
「……ええ、まあ、ちょっと……」
「そうか。お互い、大変だな」

 幸い、課長は特に不審を抱かなかったらしい。ここまで物事がうまくいくと、逆に恐怖すら感じられる。しかしその恐怖すら、俺の背中を押してくれるのだ。

「課長は、もう上がるんですよね?」
「ああ、一通り片付いたからな。しばらくは休日出勤もせずに済みそうだ」
「なら、これから僕と、どこか食事でも行きませんか!」

 言ってしまった。遂に言ってしまった。人と魔物、種族の壁を越える言葉を。体温が下がり、首筋や胸が冷える。奇妙なほど落ち着いた気分の俺は、課長の返答を待つ。

「君の方からそんな風に誘ってくれるとは、私は考えたこともなかったよ。
 喜んで、お供させてもらおうか」

 四肢の黒い羽毛とは対照的な真紅の瞳に喜色を湛えて、課長は快諾してくれたのだった。



……
………

 独身男のシミュレーション能力を舐めてもらっては困る。
 誰に宣言するでもなくそんな言葉を脳内で転がしながら、俺は前々から眼を付けていたレストランに課長を連れていくことに成功した。人気店、かつ直前の予約だったにもかかわらず上手い具合に二人分の席を取れたことなどで、最早俺には天佑、神の助け、魔王の加護があるとしか思えなくなっていた。
 決して安くはないが値段に見合った美味と品を備えると評判の料理を口へ運ぶも、味など分かろうはずもない。課長の艶やかな黒い髪、深みのある濃紫色の翼、照明を反射しルビーのように輝く瞳が、俺の全てとなってしまっていた。気の効いたことも言えずに居る俺を前に、課長はしかし退屈するでもなく失望するでもなく、微笑を浮かべ続けていた。
 
 夢見心地の食事を終え、二人で店を出た後。先輩のアドバイスに従うならば、ここで手を緩めてはいけないのだ。愛の告白、にはまだ早いだろうから、次の予約でも取り付けるべきか、と考えていたところ。

「ところで、君は今晩……まだ、大丈夫なのか?」
「え、大丈夫って……」
「いや、こんなに楽しい食事は初めてだったのでな。君にお礼がしたくなったのだよ」
「それって、つまり」
「もう一軒、今度は私の奢りで、いかがかな?」

 機先を制された格好だが、ある意味では、これ以上無い展開なのか、これは。などと頭で考えるまでもなく、憧れの女性からの魅力的な提案を断る選択肢は端から無かった。半ば反射的に頷くと、課長は俺の手を取って、夜の街へと誘うのだった。


 連れてこられたのは魔物、特に人間を伴侶に持つ魔物娘達に絶大な人気を誇るという酒場だった。マスターと顔馴染みらしい課長は、初めて課長と手を繋げたことで正気を失いかけている俺をカウンターの端に引っ張っていくと、聞き慣れない名前の飲み物を二人分注文した。
 店内には俺達の他にもカップル、特に魔物娘と人間の組み合わせが多く入っており、それぞれにそれぞれの世界へと浸っているようだった。カウンターの向こうから、派手で露出度の高い、踊り子のような衣服を纏った青い羽の鳥人が課長に話しかける。

「その子? 前に言ってたのって。もう手出したの?」
「いやいや、今日は彼の方からのお誘いだったんだよ。なぁ?」

 急に話が振られて少なからず驚くも、知らない女の人の前でおどおどしたくないという最低限の見栄で平常心を取り戻す。マスターの赤紫色の頭髪が、酒場の暗く淫靡な照明に濡れていた。

「ええ、はい。僕は課長の部下で……」
「なるほどー。ちょっと先走っちゃった訳ねー」
「……?」
「ああごめん、何でもないよ。……もう、そんなに睨まないでよ。
 はい、ご注文のゴールデンミード」

 卓に出されたのは、その名の通り黄金色に輝く飲み物だった。ミードというのが何かは分からないが、先輩が注文してくれたものだし、店内でも同じようなものを飲んでいる人や人外がちらほらいるので、特に害は無いだろう。
 グラスの脚をつまみ、課長と向き合う。薄暗いバーに在ってなお、その蒼黒い翼は艶やかさを失ってはいなかった。

「では、乾杯といこうか。人使いと魔物使いの荒い、我らの雇い主に」
「乾杯」
 
 軽くグラスをぶつけると、中の酒の様に澄んだ音が一瞬生まれた。そのまま口をつけ、ミードとやらを味わってみる。
 果実か何かを原料としているのだろうか、かなり甘い。しかしそれでいて甘すぎるということはなく、強めの甘みの奥に微かな苦味と酸味が存在し、独特の風味を作り出している。所謂お酒らしさは薄めだが、癖になりそうな味だった。
 
「ミードはお気に召したかな?」
「はい。これ、すごく美味しいですね。一体どういうお酒……」

 瞬間。
 ぐらり、と視界が揺れる。
 地震では……ない。揺れているのは、俺自身だ。

「あ……れ。なんだこれ……」

 おかしい、俺は酒には強い方なのに、一口飲んだだけでこんなになるなんて。

「すい、ません……課長……なんか、俺」
「……気にするな。大丈夫だ」

 瞳をギラギラ光らせた課長がカウンターの方に向き直り、マスターと二言三言言葉を交わす。

「三階……04号室……」
「……精算……朝……」

 何を話しているのだろうか、言葉は耳に入って来るものの、霞んだ頭ではその意味を知ることは出来ない。
 暗闇へと落ちていく俺の意識。課長の赤い唇の間から覗いた舌先の、やけに淫靡な動きだけが印象に残った。



……
………

 じゅぷっ、じゅぷっと濡れた音が響く。
 欲情を隠そうともしない女の嬌声が耳を打つ。
 緩やかに目覚めた俺の眼に飛び込んできたのは、俺の上に跨って腰を振る課長の媚態だった。

「あ、ら……、やっと、お目覚めか」
「課長、これは……!?」

 見ると、ガチガチに勃起した俺のものが先輩の股に咥え込まれ、激しく責められている。気を失っている間に散々弄ばれたらしく、二人の性器は愛液と精液で濡れ切っていた。
 尚も精を搾りとらんとする課長を、どうにか制止しようとする。

「やめて、下さい! どうして、こんなこと……」
「何だ、私のことが好きなんじゃなかったのか? 相思相愛の二人が、どうしてエッチなことしちゃいけないんだ……?」
 
 それはそうなんだが、って、相思相愛? やっぱり先輩の言っていたことは正しかったのか。でも、この展開は一体……

「眼を付けていたカワイイ部下が、いっぱいいっぱいな感じでアプローチしてきたんだぞ? 我慢できるはずないだろう、魔物的に考えて……」

 言って課長は再び腰を使い出す。鳥人らしく肉付きの薄い、華奢な肉体が意外なほど激しくうねり、俺を責め立てる。情欲に染まった瞳で見据えられ、下半身に快楽を送り込まれるうちに、俺は自身の裡から抵抗する気が失せていくのを感じた。
 四肢の力を抜き、布団に身を投げ出すようにした俺の姿を見て、彼女は満足気に微笑んだ。それが恋人を手に入れた乙女のものなのか、獲物を捕らえた肉食獣のものなのか、俺には区別できない。

「フフ、いい子だな。たっぷり気持ちよくしてやるから、怖がらなくっていいぞ」

 体を倒し、薄い胸を俺の上半身に押し付けてくる。胸板の上で控えめな乳肉がむに、と変形する感触に、いよいよ追い詰められる。課長が顔を寄せ、唇を合わせる。接吻等と言う控えめな言葉ではとても言い表せないくらい乱暴に、舌を口腔に挿し込み、蹂躙する。柔らかい唇とは裏腹なその強欲な舌に、微かに残っていた反抗心が潰える。忍耐が途切れそうなのを見て取ったか、課長が眼だけでにぃ……と嗤う。
 最早耐えようもなく、俺は課長の中に精を放ってしまっていた。どうやら気絶している間にも搾られていたらしいが、そうとは思えないほどの白濁が膣に溢れ、股の間から漏れ出る。射精している間も、課長は口吸いを止めず、瞳は俺の顔を見つめ続けていた。絶頂する瞬間の緩んだ表情を見られたことで急に羞恥心が沸き上がってくるが、そんな反応すら彼女の悦びを増すだけなのだろう。
 度重なる酷使に萎えた男根が、ぬるりと淫膣から抜け落ちる。キツイ膣口がカリ首に擦れて、肌がぞわりと粟立つほど気持ちよかった。

「なんだ、もう終わりか?」
「あの、すいません、少し休ませて……」
「いいやダメだ。私は性欲を持て余してるんだ……君だって、そうだろう?」

 陰唇から精液を垂れ流しながら恐ろしいことを仰る。そう言われても、一度萎れたものをそう簡単に立て直せるわけもない。困惑する俺を軽く見下ろすと、課長は口角を釣り上げると

「まったく、仕方ないな。私が居ないと何にも出来ないんだから」

 身体を下、俺の脚の方へ動かし、力を失った肉茎を微乳の間に宛てがう。小さな谷間に男根が収まりきるはずもなく、丁度彼女の胸板で押しつぶされるような格好になった。俺の下腹部に小振りな胸が当たり、変形して肉棒を挟んでしまう。

「ずーり、ずーり……」

 そうして上半身を前後に動かし、胸部全体での愛撫が始まる。裏筋、カリ首といった刺激に弱い部位を重点的に責められ、すぐには勃起しないまでも、酷く妖しい気分にさせられる。
 何より、憧れの女性の小さな可愛いおっぱいに自分の醜い男性器を擦りつける、視覚的刺激が強すぎる。普通、こういう乳遊びはもっと胸の大きな女性がするものなのだろうが、課長のようなスレンダーな女性のパイズリは、実際の性感に加えてギャップ萌えという大きな武器がある。フォーマルな服装が似合う、彼女の控えめな胸が大好きな俺に取ってこの攻撃は致命的と言ってよかった。

「……フ、蕩けそうな顔してるぞ。そんなに気持ちいいのか」
「はい……。これ、凄いです……」
「そうだろうな。さっきまでふにゃふにゃだったのに、もうこんなに元気になっているものな」

 確かに、いつの間にか俺の男性器は完全に勃ち直っていた。きれいでかっこいい大人の女性のちっぱいずりで奮い立たないほど、俺は枯れてはいない。

「折角だから、このままイかせてやろうか。萎えたらまたおっぱいでずりずりしてやるから、我慢なんてしなくていいぞ」

 恐ろしいほどに魅力的なことを言って、課長はパイズリ奉仕を続行してくれる。どころか、僅かな谷間から出入りする亀頭の先に、ちゅ、ちゅと軽く口付けすらしてくれる。時折こちらに向ける上目遣いの視線は正しく魔性。

「もう我慢汁が溢れてきたぞ。イきそうなのか?」
「はい……もう……!」
「本当に素直でいい子だな、君は。そんな君には、ご褒美をあげようか」

 言うなり彼女は、胸摩擦を続行しながら、亀頭全体を口の中に入れてしまった。唇でカリ首周りを舐り、舌先で鈴口をチロチロと刺激する。それに加えて頬を凹ませ、まるでストローでジュースを飲むように尿道を吸われ、もう一時たりとも耐えることは出来なかった。

「ああっ、出ますっ……」
「……」

 射精を繰り返しても一向に量の減らない子種汁が、課長の口内に満ちる。射精と同時に彼女は息を吸い込み激しく吸引を行ったため、絶頂の快楽は倍増した。断続的な射精を吸い啜り、二度三度と精を飲み味わうと、課長のきめ細かい肌がより一層輝きを増したように見えた。
 今飲んでいるのが自分の出した精液だと思うと、白い喉の動きすら官能的に映る。心の奥まで彼女の色に染め上げられていくような感覚に陶酔感すら覚える俺を更に陵辱しようと、課長は俺の上に再び跨る。

「まだまだ……こんなものでは、私の長年の渇きは癒されないんだ……付き合ってもらうぞ」

 首は動かなかったが、拒絶の意志など無いことは、既に十分知られているのだろう。



……
………


翌朝。
もう何度射精したかも分からない夜が明け、いつも通りの朝が来る。身体を起こすと、部屋の向こう、浴室から半裸の課長が出てきた。

「おや、おはよう。思ったより早いな」
「ええ、まあ……」

 と、気づく。確か今日は平日。俺も課長も職場に出なくてはならないはずでは。

「それなら心配ない」

 え?

「私と君、二人分の有給を、既に申請してある」

 余りの手回しの良さに舌を巻く。が、今から急げば出勤時間には間に合いそうなのに、何故わざわざ休む必要があるのか。
 そもそも、カラステングとはもっと生真面目な魔物ではなかったのか。遊びのために有給を取るなど、おかしくはないか。
 いや、課長の言動は、今になって良く考えてみると、先輩から聞いたカラステングの特徴と一致しないものばかりだ。
 なにか自分は大きな勘違いをしているのではないか。

「課長。課長の種族って……カラステングですか?」
「いや、私はブラックハーピーだが……成程カラステングか。それで、あんな真似を……」

 一人得心がいった様子の課長だが、俺には状況が飲み込めない。ブラックハーピー、とはどんな種族なのか、聞いたことも無いのだ。

「案ずることはない。今日いっぱい使って、お互いのことをもっと知り合おうじゃないか」

 こっちに歩いて来る課長の眼には、昨日何度も見た色が浮かんでいた。
11/01/05 16:24更新 / ナシ・アジフ

■作者メッセージ
ここに登録する時「魔物娘SS界のくりからを目指すぜ!」なんて意気込んでたのに、最近パイズリさせてないなーと思って書きました。
まあちっぱいずりなんですけどね。図鑑世界では貧乳=ロリなパターンが多いので、大人貧乳なハーピーさん達は結構貴重な存在だと思います。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33