王者の技
冒険者兼傭兵とでも言うべき生活を長く続け、自分の武力を切り売りして日々の糧を得ていた俺のような人間は、常在戦場、起きているときは勿論寝ている時ですら剣をとって戦いに臨めるように自らの身体を鍛え上げている。
とは言っても、ある時突然自分の残りの人生全てを賭けた決戦をしろと迫られてはいそうですかと得物を取れるほど俺の心は無機質でもない。眼前の少女が振るう大剣を躱しながら、俺はどうにか雑念を払い戦闘行動に集中しようと四苦八苦していた。
事の始まりは数十分前。一日の仕事を終え酒場で寛いでいた俺の安寧を破るがごとく、俄に街道が騒がしくなったのだ。市民たちは街路を逃げ惑い家に篭り、襲い来る何かから逃れようとしている。
間を置かず、街の反対側から鬨の声、破砕音、地面を揺るがすかのような足音が響いてきた。いくらか平常心を保った避難民に話を聞いてみたところ、アマゾネスの集団が狩りにやってきたらしい。奴らは時折この辺りで男をさらい、自分たちの集落へ連れ去ってしまうというのだ。
そんなところに家を構えようとは、ここらあたりの住民は警戒心が無いのか、それともなにかこの街を出られない理由でもあるのか、などと思っていると、アマゾネスの群れから一人、一際動きの素早い女が飛び出してきた。弾丸の如き速さでこちらに突っ込んでくる捕食者から逃れるべく、俺も避難民に紛れて家路に着こうとした時。その女と目が合った。
身の丈ほどもある大きな両刃剣を担いでいるとは信じられない速度で、女が走る。その目は明らかにこちらを、俺を見据えている。狩りの興奮に染まった瞳に一瞬射竦められた俺の前まで来ると、女はこちらに剣を向け、言った。
「私は誇り高きアマゾネスの狩人、シャッス!お前を夫として迎える女だ!」
思考が凍る、とはこういう事か。突如現れた、褐色の肌に呪術的な紋様を浮かべた女に求婚されることを想定して日々を生きる人間などまず居ないであろう。近くで見ると、女というよりは少女に近いそのアマゾネスは、更に続けた。
「婿取りの前に、まずはお前の名前を聞かせてもらおうか」
「俺の名前はレイ……って、婿!?」
「そうだ。お前に異存がないなら、このまま共に行こうではないか」
「男狩り、か。……拒否権は、無いのか」
「無くはないぞ?お前の持っているその刀は飾りではあるまい。私のものとなるのを拒むなら、剣技で私を打倒してみるがいい」
そんなわけで、俺の意志を全く無視する形で、人生の墓場行き片道券を賭けた決闘が、始まってしまったのだ。
大剣を構えて半身になるシャッスに相対して、俺は刀を青眼に構えていた。何合か打ち合って分かったのは、この戦いはかなり厳しいものになるであろうということだ。
巨大な剣を、両手で持っているとはいえ軽々と棒切れのように振り回すシャッスの膂力は文字通り人間離れしている。あんな物をまともに食らったら、良くて骨折悪くて絶命。刀で受けるのも恐らくこれ以上は無理だろう。
更に驚異的なのはその足捌きである。胸乳と股間を隠す最小限の布切れのみをまとったその身体は猿の如く駆け、飛び跳ね、襲いかかる。縦横無尽に振るわれる鉄塊は武器であるとともに強力無比な防壁となり、俺に与えられる打突の機会は殆ど無い。
流石は生まれながらの狩人、と感心する間もなく、再び斬撃が襲い来る。上段の構えから腕力と引力に任せて超重武器を叩きつける攻撃は、単純故に隙がない。間一髪のところで回避し、バックステップで距離を取る。
「どうした?避けてばかりではどうにもならんぞ」
「うるせえ……」
言葉を待たず、再びシャッスが剣を担いで突撃してくる。元より回避以外に選択肢の無い俺はぎりぎりまで動かず、相手が剣を振り下ろし始めた瞬間を狙って横方向へ逃れる。その重さ故一度動き始めた物を振りきらず途中で止めることはできまいと考え、後の先を突く。狙うは左腕。今剣の重量を受けているのは彼女の両腕のみ、筋に軽く切れ目を入れてやるだけで容易く断裂するだろう。
しかし、シャッスの振り下ろした剣は下まで振り切られること無く途中で静止し、其のまま俺の方へ水平に薙ぎ払うような軌道で振るわれた。俺の打突に反応して打ち下ろす運動を中止し、斬り払う運動に転化したというのか。無茶苦茶だ。
刀と大剣がぶつかり、鋭い音を立てる。咄嗟に峰を剣に向け、右手を離し刀全体を倒すようにして大剣を受け流し衝撃を分散。どうにか耐えてくれた刀を構え直し、ガラ空きになったシャッスの上体に斬り掛かる。
しかしそれでも、俺の斬撃をシャッスの回避は速さで上回った。後方へ退避され、本来ならば鎖骨を断っていたであろう俺の刀が捉えたのは布一枚、彼女の胸乳を覆っていた毛皮のみだった。
谷間の辺り、細くなっている部分を切られた上衣がはらりと宙を舞い、シャッスの両の乳房があらわになる。
「なんだ、私のおっぱいが見たかったのか?こんなもの、あとでいくらでも見せてやるぞ」
「……」
上段からの斬撃を、腕力に任せて無理矢理中止しそのまま水平に斬り返せるほどの使い手は、アマゾネスの中でも少数ではないだろうか。ひどい相手に見初められてしまったと思わず嘆きたくなる。
が、今までのやり取りで俺にとって有利な点も幾つか判明した。
シャッスは俺を婿に取ろうとしている。故に、彼女は俺を殺すわけにはいかないし、可能ならば傷もつけたくはないのだろう。先程の水平斬りも、彼女ほどの使い手ならば刀に邪魔されない下半身、脚部を狙うこともできたはずだ。しかしいくら俺が鍛えていると言っても、あんな物を喰らっては一生歩けなくなってもおかしくはない。 彼女もそれを分かっていて、敢えて上半身を狙ったのだろう。
無論俺にはそんな制限はない。有利といったのはこのことで、もし俺が一切の防御を捨てて突っ込んでいったとしても彼女に取れる攻撃手段は限られているのだ。場合場合でシャッスが狙ってきそうな箇所、攻撃を受けても命に別状なさそうな部位を警戒していればそれで足りる。持てる力を最大限攻めに割り振れる、この状況になんとか勝機を見出したい。
しかしたとえ腕や刀で防いだとしても、あんな鉄塊を何度もぶつけられては日常生活に支障がありそうだが、と、自分の体の中でも丈夫な部分、無くなってもそれ程痛くない部分などないか、と考えていると、シャッスがぽつりと呟いた。
「……しかし、どうもまだるっこしいな。いや、無粋というべきか」
「何だ……?」
「なに、こういう、ことさっ！」
剣先を下げ、下段からの振り上げで俺の手元を狙ってくる。やはり腕か、あるいは武器を潰して無力化する気だ。
右手を離し、大剣を鍔で受け止める。腕を下げ無防備になった上半身を斬るべく左手を振り上げかけた、その瞬間。
「は、あぁッ!」
「な!?」
鍔で止められていた大剣に、シャッスが力を加える。岩をも動かすその怪力に柄が砕けるかと思われたが、しかし彼女の狙いは別にあった。
片手を離し、更に上方への運動を開始し始めていた俺の刀に、下方から大きな力が掛かる。鍔が壊れるより先に柄の端が俺の手から摺り抜ける。刀が宙に浮いた瞬間、シャッスは大剣から両手を離した。
鉄塊と一緒になって、俺の刀が空を飛ぶ。シャッスは敢えて剣を手放すことで、普通に打ち払うよりも長く、強く力を掛けより遠くに刀を飛ばそうとしたのだ。
シャッスを中心に俺と反対側、遥か向こうの地面に、俺達の得物は刺さってしまった。これでは最早武器を回収することは叶わない。お互い無手となるこの状況こそ、彼女の狙いだったのだ。
「……これでいい。夫婦で睦み合うのに、道具など邪魔なだけだからな。戦いの基本は格闘だ!」
そう言って駆けたシャッスの姿を、俺の眼は捕らえられなかった。突進を喰らわなかったのは幸運という他無い。あの大きな剣を持ってなお素早い彼女が重い武器を捨てた、その動きはまさに瞬速。
円を描き、回りこむようにして打撃を避ける。しかしアマゾネスの動きは、拳打とも蹴撃とも異なっていた。高く跳ね、脚を開き、挟みこむようなモーション。俺に背を向け着地した彼女に、問いかける。
「……お前、関節技の使い手か?」
「ほう、今の動きだけで察するか。流石は我が夫……
いかにも、今私が繰り出した技はサブミッションの一つ。腕拉ぎだ」
聞きたくなかった答えに俺の背筋が凍りついた。この状況はお互い武器を構えていた時の、俺が持っていたアドバンテージは消え去ったことを意味する。
今や、彼女は俺の身体に気を配る必要がほとんど無い。人体に数多ある関節、その一つを極められるだけで、どれほど肉体を、筋肉を鍛えあげた戦士であっても苦痛に身を捩る。それでいて、技を掛ける側の負担は少なく、傷が残らないよう、苦痛のみを与え続ける力加減も容易。
身体を害さず心のみを叩き折る、支配者の技術。それがサブミッション・ホールド。
「全身全霊を持ってお前を私のものにしてやる……苦しかったらいつでも言うがいい。プロポーズは随時受付中だ」
身を低くし、シャッスが攻撃を仕掛けてくる。脚か足首を極めるつもりか。咄嗟の回避も間に合わない、と直感した俺は思わず足元の砂を蹴り上げていた。うまい具合に顔を下げていた彼女の眼に砂や小石が飛び込み、一瞬動きが鈍る。その隙をついてどうにか距離を取れたものの、ちょっと、否かなり汚い技を使ってしまったことに心が痛みかける。が、しかし
「そんなにつれなくしてくれるなよ!愛したくなるだろうが!」
気遣いは無用らしい。
しかし、徒手空拳となったシャッスの素早さは文字通り眼にも止まらない程だ。視認すらできないものと一体どう戦えば……そもそも俺は、徒手格闘の訓練はあまり積んでいない。
攻めあぐねる俺に、狩人は間断無く襲いかかる。こちらに向かって走り出しかけた、と思った瞬間には既に眼前にシャッスの顔があった。目鼻立ちがハッキリしていて、改めてよく見るとかなりの美人だ、と一瞬呆けた俺の髪を掴み、頭を下ろし頭蓋冠に腕を回す。
「頭蓋骨にも関節は有るらしいな?」
と言って、引き締まった右腕で俺の頭を絞めつけた。
骨をばらばらに解体して脳髄そのものを締め砕くかのような頭蓋骨固め。思考の中枢へ直接差し込まれる痛みに、思わず絶叫する。
「がああああっ!!やめ、やめろっ!!死ぬ!!」
「何だ、降参か?私の婿に、なるか?」
「誰、が、ああああっ!!」
「男が恥ずかしがって泣く声も良いが、純粋に苦しんで叫ぶ声もまた、オツなものだな!」
嗜虐性を隠そうともせずに、シャッスは俺を嫐る。側頭骨が軋み、苦痛からの解放を訴える。どうにかしてこの技から逃れること以外、考えられなくなる。顔の側面に乳房が当たっているようだが、そんなものではこの痛みは紛れない。
最早形振り構わずと言った体で、俺は前頭部に体重を掛けるようにして、前方、シャッスの背中側へ倒れこむようにして脱出を試みた。
俺はこの時、考えるべきだったのだろう。
俺を正面に捉え、首を固めることもできたシャッスがどうして、頭蓋骨を狙ってきたのか。
固めている最中にも、殊更に恐怖を煽るようなことを言っていたのか。
そして相手に後遺症を残さず意識のみを刈り取る関節技の存在、その掛け方を。
締め付ける腕から逃れ、気を抜いた一瞬。シャッスに背を向け、無防備に首を晒す。人体の急所に、極め技使いの腕が巻きつく。撓骨と上腕骨で、頚動脈が一時塞き止められる。
スリーパー・ホールド。
分かったときには遅かった。
「これでお前は、私のものだ」
その言葉だけが、血液不足で機能停止した俺の脳に届いた。
ぴちゃ、ぴちゃり、と濡れた音が響く。俺の下、足元の方から聞こえてくるような気がする。下半身にもくすぐったいような奇妙な感覚がある。目を開いて、見てみたくなる。
「ちゅるっ、じゅっるるる、おお、もうお目覚めか。お先に頂いているぞ」
「な!」
そこにはなんと、俺の肉棒を舐めしゃぶっているシャッスがいた。そうだ、俺はこいつとの決闘に敗れたのだった。
「なんで、こんなこと……」
「れろ、ろろ、なに、我らアマゾネスの夫婦は人前で交わるのが習わしでな。村に帰ってからでもいいのだが、私もお前と戦ううちに昂ぶりが抑えられなくなってきた。もう一時たりとも我慢できそうにない」
倒れている間に散々愛撫されたようで、俺の陰茎は既に勃起しきっていた。しかも、いつの間にか周囲には他のアマゾネス達が集まってきている。何人かは男連れだが、セックスしているようなのは居ない。
「たまにはこういうのもいいだろう、と長が許してくれたのだ。最低一発は、ここで出してもらうからな?」
「いや、でも、いくらなんでも……」
「口では色々言っても、こっちはもうやる気満々じゃないか。お前は私のものなのだから、細かいことは考えずともよい」
褐色美少女に繰り返し「私のものだ」などと言われ、なんだか妖しい気分になってくる。一対一、素手での勝負での完敗は、俺の戦士としての矜持を折るに余りあった。この美しい狩人に跨られ嫐られ精液を搾り取られることに、言いようもなく惹かれる。
「くくっ、いい顔になってきたじゃないか。そろそろ頂こうか」
肉茎に唾液をまぶし終えたシャッスは俺の腰の上で開脚し、亀頭を陰唇に触れさせた。既に淫水でびしょびしょになっている肉筒が、反り返った男性器を飲み込んでいく。
戦士らしく引き締まった体に違わず、彼女の膣内も括約筋で強く締まっていた。精液を絞ろうと蠢く肉襞が、止めどなく滴り落ちる愛蜜を纏って男性器を啜る。
「シャッス、これっ……」
「ん、ふう……気持ちイイぞ、お前のものは……レイはどうだ?イキそうか?」
「イイ、イイよ……もっと、して……」
「して、やるさ……一杯精を、出せっ……」
陰茎を飲み込み終えた、と思ったのも束の間。シャッスは俺の腕を両手で抑えて、猛然と腰を振り出した。情け容赦のない、忍耐すら許さない強烈な快楽。
「ほら、ほら、出るんだろ……?いっぱいくれよ……」
「もう、む、り……」
為す術なく、俺は大量の精液を膣内に放った。しかし、絶頂している時でもシャッスの腰は止まらない。どころか、よりいっそう激しく動き、射精を終わらせまいとする。
「分かってると思うが、私はまだまだ満足していない……もっともっと、イき狂ってもらうぞ」
白濁を出し終えてもシャッスの騎乗位責めは止まらず、寧ろ中出しした精液が潤滑油の役割を果たし、より激しい快楽を強要してくる。萎えることすら許されず再び絶頂へ押し上げられる感覚に、俺は叫んだ。
「やめ、やめてくれ!こんなの、壊れる!」
「壊しはしないさ、わたしの大事な旦那様だからな。安心して、どんどんイくといい」
捕食者の眼をした女が、俺の上で狂い舞う。両手を抑えられ、抵抗の手段も意思も奪われてしまっている。意地を張らずに、全てこの女に委ねてしまおう。
「そうだ、それでいい……。私がイくまで、何度でも射精させてやる」
舌舐めずりをするシャッスは、淫らな狩りの神とでもいうべき美を体現していた。
とは言っても、ある時突然自分の残りの人生全てを賭けた決戦をしろと迫られてはいそうですかと得物を取れるほど俺の心は無機質でもない。眼前の少女が振るう大剣を躱しながら、俺はどうにか雑念を払い戦闘行動に集中しようと四苦八苦していた。
事の始まりは数十分前。一日の仕事を終え酒場で寛いでいた俺の安寧を破るがごとく、俄に街道が騒がしくなったのだ。市民たちは街路を逃げ惑い家に篭り、襲い来る何かから逃れようとしている。
間を置かず、街の反対側から鬨の声、破砕音、地面を揺るがすかのような足音が響いてきた。いくらか平常心を保った避難民に話を聞いてみたところ、アマゾネスの集団が狩りにやってきたらしい。奴らは時折この辺りで男をさらい、自分たちの集落へ連れ去ってしまうというのだ。
そんなところに家を構えようとは、ここらあたりの住民は警戒心が無いのか、それともなにかこの街を出られない理由でもあるのか、などと思っていると、アマゾネスの群れから一人、一際動きの素早い女が飛び出してきた。弾丸の如き速さでこちらに突っ込んでくる捕食者から逃れるべく、俺も避難民に紛れて家路に着こうとした時。その女と目が合った。
身の丈ほどもある大きな両刃剣を担いでいるとは信じられない速度で、女が走る。その目は明らかにこちらを、俺を見据えている。狩りの興奮に染まった瞳に一瞬射竦められた俺の前まで来ると、女はこちらに剣を向け、言った。
「私は誇り高きアマゾネスの狩人、シャッス!お前を夫として迎える女だ!」
思考が凍る、とはこういう事か。突如現れた、褐色の肌に呪術的な紋様を浮かべた女に求婚されることを想定して日々を生きる人間などまず居ないであろう。近くで見ると、女というよりは少女に近いそのアマゾネスは、更に続けた。
「婿取りの前に、まずはお前の名前を聞かせてもらおうか」
「俺の名前はレイ……って、婿!?」
「そうだ。お前に異存がないなら、このまま共に行こうではないか」
「男狩り、か。……拒否権は、無いのか」
「無くはないぞ?お前の持っているその刀は飾りではあるまい。私のものとなるのを拒むなら、剣技で私を打倒してみるがいい」
そんなわけで、俺の意志を全く無視する形で、人生の墓場行き片道券を賭けた決闘が、始まってしまったのだ。
大剣を構えて半身になるシャッスに相対して、俺は刀を青眼に構えていた。何合か打ち合って分かったのは、この戦いはかなり厳しいものになるであろうということだ。
巨大な剣を、両手で持っているとはいえ軽々と棒切れのように振り回すシャッスの膂力は文字通り人間離れしている。あんな物をまともに食らったら、良くて骨折悪くて絶命。刀で受けるのも恐らくこれ以上は無理だろう。
更に驚異的なのはその足捌きである。胸乳と股間を隠す最小限の布切れのみをまとったその身体は猿の如く駆け、飛び跳ね、襲いかかる。縦横無尽に振るわれる鉄塊は武器であるとともに強力無比な防壁となり、俺に与えられる打突の機会は殆ど無い。
流石は生まれながらの狩人、と感心する間もなく、再び斬撃が襲い来る。上段の構えから腕力と引力に任せて超重武器を叩きつける攻撃は、単純故に隙がない。間一髪のところで回避し、バックステップで距離を取る。
「どうした?避けてばかりではどうにもならんぞ」
「うるせえ……」
言葉を待たず、再びシャッスが剣を担いで突撃してくる。元より回避以外に選択肢の無い俺はぎりぎりまで動かず、相手が剣を振り下ろし始めた瞬間を狙って横方向へ逃れる。その重さ故一度動き始めた物を振りきらず途中で止めることはできまいと考え、後の先を突く。狙うは左腕。今剣の重量を受けているのは彼女の両腕のみ、筋に軽く切れ目を入れてやるだけで容易く断裂するだろう。
しかし、シャッスの振り下ろした剣は下まで振り切られること無く途中で静止し、其のまま俺の方へ水平に薙ぎ払うような軌道で振るわれた。俺の打突に反応して打ち下ろす運動を中止し、斬り払う運動に転化したというのか。無茶苦茶だ。
刀と大剣がぶつかり、鋭い音を立てる。咄嗟に峰を剣に向け、右手を離し刀全体を倒すようにして大剣を受け流し衝撃を分散。どうにか耐えてくれた刀を構え直し、ガラ空きになったシャッスの上体に斬り掛かる。
しかしそれでも、俺の斬撃をシャッスの回避は速さで上回った。後方へ退避され、本来ならば鎖骨を断っていたであろう俺の刀が捉えたのは布一枚、彼女の胸乳を覆っていた毛皮のみだった。
谷間の辺り、細くなっている部分を切られた上衣がはらりと宙を舞い、シャッスの両の乳房があらわになる。
「なんだ、私のおっぱいが見たかったのか?こんなもの、あとでいくらでも見せてやるぞ」
「……」
上段からの斬撃を、腕力に任せて無理矢理中止しそのまま水平に斬り返せるほどの使い手は、アマゾネスの中でも少数ではないだろうか。ひどい相手に見初められてしまったと思わず嘆きたくなる。
が、今までのやり取りで俺にとって有利な点も幾つか判明した。
シャッスは俺を婿に取ろうとしている。故に、彼女は俺を殺すわけにはいかないし、可能ならば傷もつけたくはないのだろう。先程の水平斬りも、彼女ほどの使い手ならば刀に邪魔されない下半身、脚部を狙うこともできたはずだ。しかしいくら俺が鍛えていると言っても、あんな物を喰らっては一生歩けなくなってもおかしくはない。 彼女もそれを分かっていて、敢えて上半身を狙ったのだろう。
無論俺にはそんな制限はない。有利といったのはこのことで、もし俺が一切の防御を捨てて突っ込んでいったとしても彼女に取れる攻撃手段は限られているのだ。場合場合でシャッスが狙ってきそうな箇所、攻撃を受けても命に別状なさそうな部位を警戒していればそれで足りる。持てる力を最大限攻めに割り振れる、この状況になんとか勝機を見出したい。
しかしたとえ腕や刀で防いだとしても、あんな鉄塊を何度もぶつけられては日常生活に支障がありそうだが、と、自分の体の中でも丈夫な部分、無くなってもそれ程痛くない部分などないか、と考えていると、シャッスがぽつりと呟いた。
「……しかし、どうもまだるっこしいな。いや、無粋というべきか」
「何だ……?」
「なに、こういう、ことさっ！」
剣先を下げ、下段からの振り上げで俺の手元を狙ってくる。やはり腕か、あるいは武器を潰して無力化する気だ。
右手を離し、大剣を鍔で受け止める。腕を下げ無防備になった上半身を斬るべく左手を振り上げかけた、その瞬間。
「は、あぁッ!」
「な!?」
鍔で止められていた大剣に、シャッスが力を加える。岩をも動かすその怪力に柄が砕けるかと思われたが、しかし彼女の狙いは別にあった。
片手を離し、更に上方への運動を開始し始めていた俺の刀に、下方から大きな力が掛かる。鍔が壊れるより先に柄の端が俺の手から摺り抜ける。刀が宙に浮いた瞬間、シャッスは大剣から両手を離した。
鉄塊と一緒になって、俺の刀が空を飛ぶ。シャッスは敢えて剣を手放すことで、普通に打ち払うよりも長く、強く力を掛けより遠くに刀を飛ばそうとしたのだ。
シャッスを中心に俺と反対側、遥か向こうの地面に、俺達の得物は刺さってしまった。これでは最早武器を回収することは叶わない。お互い無手となるこの状況こそ、彼女の狙いだったのだ。
「……これでいい。夫婦で睦み合うのに、道具など邪魔なだけだからな。戦いの基本は格闘だ!」
そう言って駆けたシャッスの姿を、俺の眼は捕らえられなかった。突進を喰らわなかったのは幸運という他無い。あの大きな剣を持ってなお素早い彼女が重い武器を捨てた、その動きはまさに瞬速。
円を描き、回りこむようにして打撃を避ける。しかしアマゾネスの動きは、拳打とも蹴撃とも異なっていた。高く跳ね、脚を開き、挟みこむようなモーション。俺に背を向け着地した彼女に、問いかける。
「……お前、関節技の使い手か?」
「ほう、今の動きだけで察するか。流石は我が夫……
いかにも、今私が繰り出した技はサブミッションの一つ。腕拉ぎだ」
聞きたくなかった答えに俺の背筋が凍りついた。この状況はお互い武器を構えていた時の、俺が持っていたアドバンテージは消え去ったことを意味する。
今や、彼女は俺の身体に気を配る必要がほとんど無い。人体に数多ある関節、その一つを極められるだけで、どれほど肉体を、筋肉を鍛えあげた戦士であっても苦痛に身を捩る。それでいて、技を掛ける側の負担は少なく、傷が残らないよう、苦痛のみを与え続ける力加減も容易。
身体を害さず心のみを叩き折る、支配者の技術。それがサブミッション・ホールド。
「全身全霊を持ってお前を私のものにしてやる……苦しかったらいつでも言うがいい。プロポーズは随時受付中だ」
身を低くし、シャッスが攻撃を仕掛けてくる。脚か足首を極めるつもりか。咄嗟の回避も間に合わない、と直感した俺は思わず足元の砂を蹴り上げていた。うまい具合に顔を下げていた彼女の眼に砂や小石が飛び込み、一瞬動きが鈍る。その隙をついてどうにか距離を取れたものの、ちょっと、否かなり汚い技を使ってしまったことに心が痛みかける。が、しかし
「そんなにつれなくしてくれるなよ!愛したくなるだろうが!」
気遣いは無用らしい。
しかし、徒手空拳となったシャッスの素早さは文字通り眼にも止まらない程だ。視認すらできないものと一体どう戦えば……そもそも俺は、徒手格闘の訓練はあまり積んでいない。
攻めあぐねる俺に、狩人は間断無く襲いかかる。こちらに向かって走り出しかけた、と思った瞬間には既に眼前にシャッスの顔があった。目鼻立ちがハッキリしていて、改めてよく見るとかなりの美人だ、と一瞬呆けた俺の髪を掴み、頭を下ろし頭蓋冠に腕を回す。
「頭蓋骨にも関節は有るらしいな?」
と言って、引き締まった右腕で俺の頭を絞めつけた。
骨をばらばらに解体して脳髄そのものを締め砕くかのような頭蓋骨固め。思考の中枢へ直接差し込まれる痛みに、思わず絶叫する。
「がああああっ!!やめ、やめろっ!!死ぬ!!」
「何だ、降参か?私の婿に、なるか?」
「誰、が、ああああっ!!」
「男が恥ずかしがって泣く声も良いが、純粋に苦しんで叫ぶ声もまた、オツなものだな!」
嗜虐性を隠そうともせずに、シャッスは俺を嫐る。側頭骨が軋み、苦痛からの解放を訴える。どうにかしてこの技から逃れること以外、考えられなくなる。顔の側面に乳房が当たっているようだが、そんなものではこの痛みは紛れない。
最早形振り構わずと言った体で、俺は前頭部に体重を掛けるようにして、前方、シャッスの背中側へ倒れこむようにして脱出を試みた。
俺はこの時、考えるべきだったのだろう。
俺を正面に捉え、首を固めることもできたシャッスがどうして、頭蓋骨を狙ってきたのか。
固めている最中にも、殊更に恐怖を煽るようなことを言っていたのか。
そして相手に後遺症を残さず意識のみを刈り取る関節技の存在、その掛け方を。
締め付ける腕から逃れ、気を抜いた一瞬。シャッスに背を向け、無防備に首を晒す。人体の急所に、極め技使いの腕が巻きつく。撓骨と上腕骨で、頚動脈が一時塞き止められる。
スリーパー・ホールド。
分かったときには遅かった。
「これでお前は、私のものだ」
その言葉だけが、血液不足で機能停止した俺の脳に届いた。
ぴちゃ、ぴちゃり、と濡れた音が響く。俺の下、足元の方から聞こえてくるような気がする。下半身にもくすぐったいような奇妙な感覚がある。目を開いて、見てみたくなる。
「ちゅるっ、じゅっるるる、おお、もうお目覚めか。お先に頂いているぞ」
「な!」
そこにはなんと、俺の肉棒を舐めしゃぶっているシャッスがいた。そうだ、俺はこいつとの決闘に敗れたのだった。
「なんで、こんなこと……」
「れろ、ろろ、なに、我らアマゾネスの夫婦は人前で交わるのが習わしでな。村に帰ってからでもいいのだが、私もお前と戦ううちに昂ぶりが抑えられなくなってきた。もう一時たりとも我慢できそうにない」
倒れている間に散々愛撫されたようで、俺の陰茎は既に勃起しきっていた。しかも、いつの間にか周囲には他のアマゾネス達が集まってきている。何人かは男連れだが、セックスしているようなのは居ない。
「たまにはこういうのもいいだろう、と長が許してくれたのだ。最低一発は、ここで出してもらうからな?」
「いや、でも、いくらなんでも……」
「口では色々言っても、こっちはもうやる気満々じゃないか。お前は私のものなのだから、細かいことは考えずともよい」
褐色美少女に繰り返し「私のものだ」などと言われ、なんだか妖しい気分になってくる。一対一、素手での勝負での完敗は、俺の戦士としての矜持を折るに余りあった。この美しい狩人に跨られ嫐られ精液を搾り取られることに、言いようもなく惹かれる。
「くくっ、いい顔になってきたじゃないか。そろそろ頂こうか」
肉茎に唾液をまぶし終えたシャッスは俺の腰の上で開脚し、亀頭を陰唇に触れさせた。既に淫水でびしょびしょになっている肉筒が、反り返った男性器を飲み込んでいく。
戦士らしく引き締まった体に違わず、彼女の膣内も括約筋で強く締まっていた。精液を絞ろうと蠢く肉襞が、止めどなく滴り落ちる愛蜜を纏って男性器を啜る。
「シャッス、これっ……」
「ん、ふう……気持ちイイぞ、お前のものは……レイはどうだ?イキそうか?」
「イイ、イイよ……もっと、して……」
「して、やるさ……一杯精を、出せっ……」
陰茎を飲み込み終えた、と思ったのも束の間。シャッスは俺の腕を両手で抑えて、猛然と腰を振り出した。情け容赦のない、忍耐すら許さない強烈な快楽。
「ほら、ほら、出るんだろ……?いっぱいくれよ……」
「もう、む、り……」
為す術なく、俺は大量の精液を膣内に放った。しかし、絶頂している時でもシャッスの腰は止まらない。どころか、よりいっそう激しく動き、射精を終わらせまいとする。
「分かってると思うが、私はまだまだ満足していない……もっともっと、イき狂ってもらうぞ」
白濁を出し終えてもシャッスの騎乗位責めは止まらず、寧ろ中出しした精液が潤滑油の役割を果たし、より激しい快楽を強要してくる。萎えることすら許されず再び絶頂へ押し上げられる感覚に、俺は叫んだ。
「やめ、やめてくれ!こんなの、壊れる!」
「壊しはしないさ、わたしの大事な旦那様だからな。安心して、どんどんイくといい」
捕食者の眼をした女が、俺の上で狂い舞う。両手を抑えられ、抵抗の手段も意思も奪われてしまっている。意地を張らずに、全てこの女に委ねてしまおう。
「そうだ、それでいい……。私がイくまで、何度でも射精させてやる」
舌舐めずりをするシャッスは、淫らな狩りの神とでもいうべき美を体現していた。
11/05/19 08:50更新 / ナシ・アジフ