復楽園
ある反魔物領の教会に、慈愛に満ちた壮年の神父が居た。そして、その壮年の神父の傍らには常に敬虔な修道女が立っていると、教会に足を運ぶ信徒達は話した。しかし、何時の頃から神父の傍らに立つ様になったのかは誰も知らないと言う。
朴訥なる神父を支える修道女の姿は、知らぬ間に当たり前の光景となっていた。そして、朴訥ながらも慈愛に満ちた神父を支える菫の如き修道女を信徒達はビオラと呼んだ。信徒達はこの二人を天におわす主神の御遣いと信じた。しかし、この二人の間には誰にも言えぬ秘密がある。それは、ビオラの正体についてである。ビオラは人の姿に化けた、堕落した女神の信徒であるダークプリーストなのだ。
反魔物領において魔物は排他される存在であるが、神父はビオラを告発する様な事はしなかった。それは、単に神父の人柄故であることと、信じる神が違えどもビオラが敬虔な信徒であるためだった。
ビオラは日に三度、決まった時間に必ず礼拝堂へ赴くと堕落した女神に祈りを捧げた。また、教会での食事がどれだけ質素な物でも感謝を忘れる事は一度も無かった。神父は、魔物は人を襲い食らう存在だと教えられ、そんな存在から人々の心の安寧を守る事が自らの役割だと考えていた。それだけに、ビオラの敬虔な姿勢に感銘を受け、一信徒として彼女を好ましく思った。
また、ビオラは好んで神父を襲おうとはしなかった。ビオラもダークプリーストであるため過去に一、二度本来の姿で神父に襲い掛かった事はあった。しかし、神父が強く拒んでからは、神父から襲われる事を期待する様な妖しげな目付きで、時折神父を舐め回す様に見るのに留まっている。その目付きのビオラと目が合うと、神父は彼女に対して欲情しかけて何度も主神に懺悔した。聖職者でこそあるが、彼もまた一介の凡夫なのだ。
ビオラは良く気の回る女でもあった。神父は家事などの些事に疎い男であったため、ビオラは良く神父の世話を焼いた。神父の生活における炊事洗濯を一手に引き受け、放って置けば何時までも教会に残る神父を追い出すのもお手の物だ。その姿は堕落とは正反対の勤勉その物だった。
そんなビオラと共に暮らす内に、神父はビオラを一信徒でもなく、性的な魅力に満ちた魔物としてでもなく、一人の女性として愛する様になった。そして、ビオラもその愛を受け入れた。二人は気の許せる友人だけを呼んでささやかながらも式を挙げ、主神と堕落した女神に愛を誓った。そしてその夜、神父は主神の教えに一度だけ背いた。
信徒達は式に参列した訳ではなかったが、二人の間に醸し出される柔かな雰囲気に微笑みを浮かべ、二人を祝福した。しかし、二人の口外する事の出来ない幸せな暮らしは長く続かなかった。
ある日の昼、レスカティエの司教が憲兵を伴って神父の教会に押し入った。全てを悟った神父はビオラだけでも逃がそうとした。ビオラは共に逃げようと神父の手を引いたが、神父はその手を払った。
「犯した罪は償わなければならない。せめて、君だけでも生きて欲しい」
神父はそう言い残してビオラを教会の裏口から閉め出した所で憲兵に捕縛された。
憲兵達は下卑た笑いを浮かべながら口々に神父を罵った。そして、お前は友人に銀貨三十枚で売られたのだと笑いながら言った。神父はその友人の名を聞いた。嘲笑と共に神父の耳に届いた名は、式に呼んだ古い友人の名だった。驚きこそあったが、神父はその友人を恨みはしなかった。その友人の家は酷く貧しいのだ。この身一つで友人の暮らしが少しでもましになるなら安い物だとさえ思った。
憲兵はそんな神父の態度が気に入らないのか腹に蹴りを入れ、手を縛って馬に繋いだ。そこへ司教がやって来た。司教は塵を見る様な目で神父を一瞥すると、神父を繋いだ馬に跨がる憲兵に言った。
「魔物と内通する不届き者を引き回せ」
憲兵が鞭を入れると、馬は勢い良く駆け出した。
神父は城の地下牢に閉じ込められていた。その瞳からは精気が消えかけている。おそらく、衣服の下は酷く腫れ上がっているだろう。牢番や憲兵達がビオラの死に様は見物だった、具合が良かったなどと嘘と分かる挑発をする度に、神父が怒りを湛えた目で睨み付けるので打ち据えるのだ。
横たわる神父の牢に刑吏がやって来た。神父は何とか顔を上げたが、刑吏は覆面を被っているため顔は見えなかった。だが、神父はその声に覚えがあった。
「明日から刑を執行する」
刑吏は腰から鞭を取った。
「明日の刑は鞭打ち。この悪趣味な魔法の掛かった鞭でお前を打つ。血を流す事無く、狂い死ぬ事も無い。あるのは痛みだけだ。そして、その翌日に磔刑に処す」
神父はどれ程の数だけ打たれるのか刑吏に聞いた。
「十や二十では足りぬだろう。レスカティエの司教どもが満足するまでお前は鞭で打たれる」
それを聞いた神父は目を閉じると眠りに着こうとした。だが、刑吏は辺りを気にしながら小声で続けた。
「人の話は最後まで聞く物だ。私は肉欲や気の迷いではなく、心から魔物でさえも愛する慈愛に満ちたお前が、司教どもの愉悦の為に死ぬ事が許せない。お前を詰るあの司教を見たか？奴等の腹ははち切れんばかりに欲で膨れている。神を騙って民草から収奪する奴等こそ背信者だ」
そこまで言うと、刑吏は牢に顔を近付けて更に小声で言った。
「明日の夜、魔物どもがこの国に攻め入る。魔物どもは必ず堕とすと息巻いているが、私は信用していない。成功する保証など無いのだからな。どんな手を使ってでもあの邪教の信徒に会いたいならば、お前は明日の動乱に紛れて逃げなければならない。私はその手助けをしてやる」
刑吏はそう話を締め括ると踵を返した。神父は礼を言ったが、刑吏は振り向く事も無く地下牢を出て行った。
神父に対する鞭打ちは、レスカティエの司教の立ち会いの元で行われる事になった。地面に打ち込まれた柱に抱き付く形で縛られた神父の前に、司教が陣取っている。鞭で打たれる背信者の顔を特等席で拝もうという腹積もりだ。司教の顔はこれから行われる背信者への粛清に歪み、下卑た笑いを浮かべている。
刑吏は神父に近付くと、神父の口元に鞣し革を巻いた棒切れを差し出す。おそらく、これを噛んで少しでも痛みを紛らわせろという刑吏なりの心遣いなのだろう。神父はこれを噛むと、固く食い縛った。
刑吏が所定の位置に着くと、司教は喜悦混じりの声でやれと命じた。刑吏が鞭を振り下ろすと、鞭は空気を切り裂く音を鳴らしながら神父の背に襲い掛かった。神父は背が爆ぜる様な痛みに意識を失いかけたが、鞣し革を巻いた棒切れをさらに噛み締めて耐えた。二度、三度と鞭で打たれ、神父が苦悶の表情を浮かべる度に司教は手を叩いて喜んだ。そんな粛清とは名ばかりの私刑は日暮前まで続いた。
神父は焼ける様な背の痛みに耐えながらその時を待った。刑吏の話の通りなら、今夜の内に魔物が攻め行ってくる。一秒が一分、一分が一時間に感じられる遅々とした時間の流れに神父は苛立ちを覚えた。
そして、ついにその時が来た。慌ただしく一人の兵が入ってくると、牢番は槍を掴んで外へと出て行った。それから暫くして、刑吏が鍵束を持ってやって来ると、神父の牢の鍵を開けた。そして、神父の肩を担ぐと外へと向かう。神父は刑吏に礼を言おうとしたが、刑吏はそれを制した。
「私は自らのつまらない矜持とはした金の為に古い友を売った卑劣漢だ。そんな奴に頭を下げてはならない」
刑吏はそれだけを言うと、後は黙して階段を登った。
二人が外へ出ると、辺りは筆舌に尽くし難い光景に包まれていた。魔物達は逃げ惑う兵を拐い、寄り集まって抵抗を試みる者も直ぐ様鎮圧して犯した。神父がこの光景に唖然としていると、刑吏が一頭の馬を連れて来た。
「駿馬とは言えないが騒ぎに動じぬ馬だ。さあ、早く跨がれ。そして東の森へ行き、邪教の信徒と何処へなりとも逃げるがいい」
馬に跨がった神父は刑吏に別れを言おうとしたが、刑吏はそれを許さず馬の尻を叩いた。馬は神父の手綱に操られ、東へひた走る。
神父が城壁の東端に到達すると、城壁には巨大な穴が穿たれていた。神父は穴を抜けると城下町を駆けた。城下町は城よりも凄まじい光景だった。兵、民草に関わらず男を魔物が犯し、魔物に姿を変えた女が、夫や想い人に襲い掛かっている。神父の住み慣れた国は矯声に包まれ、魔界へ変わろうとしている。神父は馬を走らせ国境を越えた。
国境を越えた東の森で、神父とビオラは互いに抱擁を交わしている。ビオラは怪我一つ負う事無く憲兵達から逃れ、森に隠れていたのだ。
神父が無事に逃げ出せた事に感極まったビオラが抱擁を強めると、神父は小さく唸った。不審に思ったビオラは神父の上の服を脱がすと言葉を失った。神父の背には大量のみみず腫が出来ている。
「私の為にこんなにも…」
ビオラは自分の為にここまで身体を擲てる神父の愛に涙した。こんなにも愛に溢れた伴侶を持つ自分はなんて幸福者なのだろうという思いが沸き上がる。そして、ビオラはその愛に応えるべく行動した。
ビオラはその細腕で神父の身体を掻き抱くと、神父の背の傷に口付けをした。ビオラにとって神父の背の傷は痛ましい物であると同時に、愛の証でもある。どれだけ鞭で打たれても砕ける事の無い愛の証だ。ビオラはその一つ一つに音を立てながら口付けをする。
「ん、ちゅっ…神父様、私に医療の心得はございません。ちゅぅ…ですが、痛みを少しでも和らげる事は出来ます…ちぅ」
事実、神父は背の痛みが和らぐのを感じていた。ビオラがその柔かな唇で口付けをする度に、傷が放つ熱は性質を変えていく。ひりひりとした痛みは、もどかしい快楽に変わっていた。ビオラは最も大きな傷を見付けると労る様に優しく口付けし、強く吸い付いた。神父は痺れる様な快楽に身を捩ったが、ビオラは抱擁を強めて逃がさず更に強く吸い付いた。長い口付けの後にビオラが唇を離すと、傷の上には口付けの赤い痕が出来ている。
ビオラは抱擁を緩めると神父の股に手を回し、服の上からペニスを撫でた。
「私の口付けで感じていただけたのですね…ああ、嬉しいです」
ビオラは勃起したペニスを掌で包み、何度も優しく撫で上げて緩やかな快楽を与え続ける。それは、神父を果てさせるのではなく、ひたすら快楽を与え続けるだけの愛撫だ。ビオラは緩やかな愛撫をしながら神父の耳元で囁く。
「神父様、せめて口淫だけでもお許し下さい。私は神父様の精無くしては生きられないのです」
そう言いながらビオラは愛撫をしている。神父が頷くまで果てる事の無い愛撫は続くだろう。そして、五分経った頃か、十分経った頃か、ついに神父は頷いた。これはあくまで彼女を助ける為に必要な行為なのだと、神父は自らに言い聞かせた。そう思わなければ主神に対する信仰心が折れかけるまでに神父は堕ちかけていた。
ビオラは神父の前に跪いた。そして卑猥な笑みを浮かべ、葛藤する神父の顔を見つめながらズボンと下着を下ろす。晒け出されたペニスからは先走りが溢れ、辺りに精の臭いを放っている。ビオラは堕落した女神に感謝する祈りを捧げると、ペニスの根元に顔を寄せて臭いを嗅いだ。一呼吸する度にビオラの顔がだらしなく蕩けていく。
ビオラはペニスの根元から顔を離すと先走りを舐め取った。舌を犯す甘美な味わいに子宮が疼いたが、ビオラはそれを堪えた。そして亀頭をくわえると、唇でペニスの形を確めるかの様にゆっくりと根元までくわえ込んだ。粘つく唾液と熱い舌に包まれたペニスがビオラの口内で震える。ビオラはゆっくりと口淫を始めた。
「ん、ぢゅ…ちゅくっ、んッ……ちぅ…ちゅず…」
固くすぼまった唇が竿を扱き、柔かな舌が亀頭を愛撫する。ゆっくりとした、それでいて確実に性感を高めて行く口淫が、神父の思考を混濁させる。神父は口淫に合わせて腰を動かした。
ビオラは神父の腰を掴むと口淫を激しくさせる。唇、舌、口蓋、喉の全てが性器の様にペニスを攻め、射精を促す。
「ぢゅるっ、ぢゅぷっ…んぶッ、ちゅぐッ…ちゅぢゅぅう！んぐっ、んんんん！」
ビオラはペニスを激しく攻め立てて肥大した亀頭を強く吸うと、ペニスを深くくわえた。大量の精液が迸り、ビオラの口内を満たしていく。ビオラは捻りを加えながら唇でペニスを扱きつつ抜いていき、亀頭を吸うと尿道に残った精液も口内に送り込ませた。
そして、口からペニスを抜いたビオラは、卑猥な笑みを浮かべながら神父を見上げると口を開いた。赤い口内には塊に近い精液が溜まっている。ビオラは見せつける様に舌で精液を転がし、ゆっくりと味わいながら飲み下した。精飲の快楽にビオラの瞳は潤み、頬は上気している。ビオラが熱い溜息を吐くと、彼女の甘い香りと噎せる様な精液の臭いが神父の鼻に届いた。
その背徳的な姿に神父の主神に対する信仰心は折れかけ、堕落への一歩を歩んだ。だが、神父の主神に対する信仰心は僅かながらに残っている。それでもビオラは神父を押し倒そうとはしなかった。
神父は敬虔な信徒だが凡夫だ。主神に愛された大司教や、加護を受けた勇者ではない。近い将来、確実に堕落し、自らビオラに襲い掛かるだろう。それを知っている堕落の信徒は妖しげな笑みを浮かべながら、神父の傍らでその時を待っている。
神父が堕落しきったその時、主神の寵愛から追放された神父と堕落の信徒の楽園が回復するのだ。
朴訥なる神父を支える修道女の姿は、知らぬ間に当たり前の光景となっていた。そして、朴訥ながらも慈愛に満ちた神父を支える菫の如き修道女を信徒達はビオラと呼んだ。信徒達はこの二人を天におわす主神の御遣いと信じた。しかし、この二人の間には誰にも言えぬ秘密がある。それは、ビオラの正体についてである。ビオラは人の姿に化けた、堕落した女神の信徒であるダークプリーストなのだ。
反魔物領において魔物は排他される存在であるが、神父はビオラを告発する様な事はしなかった。それは、単に神父の人柄故であることと、信じる神が違えどもビオラが敬虔な信徒であるためだった。
ビオラは日に三度、決まった時間に必ず礼拝堂へ赴くと堕落した女神に祈りを捧げた。また、教会での食事がどれだけ質素な物でも感謝を忘れる事は一度も無かった。神父は、魔物は人を襲い食らう存在だと教えられ、そんな存在から人々の心の安寧を守る事が自らの役割だと考えていた。それだけに、ビオラの敬虔な姿勢に感銘を受け、一信徒として彼女を好ましく思った。
また、ビオラは好んで神父を襲おうとはしなかった。ビオラもダークプリーストであるため過去に一、二度本来の姿で神父に襲い掛かった事はあった。しかし、神父が強く拒んでからは、神父から襲われる事を期待する様な妖しげな目付きで、時折神父を舐め回す様に見るのに留まっている。その目付きのビオラと目が合うと、神父は彼女に対して欲情しかけて何度も主神に懺悔した。聖職者でこそあるが、彼もまた一介の凡夫なのだ。
ビオラは良く気の回る女でもあった。神父は家事などの些事に疎い男であったため、ビオラは良く神父の世話を焼いた。神父の生活における炊事洗濯を一手に引き受け、放って置けば何時までも教会に残る神父を追い出すのもお手の物だ。その姿は堕落とは正反対の勤勉その物だった。
そんなビオラと共に暮らす内に、神父はビオラを一信徒でもなく、性的な魅力に満ちた魔物としてでもなく、一人の女性として愛する様になった。そして、ビオラもその愛を受け入れた。二人は気の許せる友人だけを呼んでささやかながらも式を挙げ、主神と堕落した女神に愛を誓った。そしてその夜、神父は主神の教えに一度だけ背いた。
信徒達は式に参列した訳ではなかったが、二人の間に醸し出される柔かな雰囲気に微笑みを浮かべ、二人を祝福した。しかし、二人の口外する事の出来ない幸せな暮らしは長く続かなかった。
ある日の昼、レスカティエの司教が憲兵を伴って神父の教会に押し入った。全てを悟った神父はビオラだけでも逃がそうとした。ビオラは共に逃げようと神父の手を引いたが、神父はその手を払った。
「犯した罪は償わなければならない。せめて、君だけでも生きて欲しい」
神父はそう言い残してビオラを教会の裏口から閉め出した所で憲兵に捕縛された。
憲兵達は下卑た笑いを浮かべながら口々に神父を罵った。そして、お前は友人に銀貨三十枚で売られたのだと笑いながら言った。神父はその友人の名を聞いた。嘲笑と共に神父の耳に届いた名は、式に呼んだ古い友人の名だった。驚きこそあったが、神父はその友人を恨みはしなかった。その友人の家は酷く貧しいのだ。この身一つで友人の暮らしが少しでもましになるなら安い物だとさえ思った。
憲兵はそんな神父の態度が気に入らないのか腹に蹴りを入れ、手を縛って馬に繋いだ。そこへ司教がやって来た。司教は塵を見る様な目で神父を一瞥すると、神父を繋いだ馬に跨がる憲兵に言った。
「魔物と内通する不届き者を引き回せ」
憲兵が鞭を入れると、馬は勢い良く駆け出した。
神父は城の地下牢に閉じ込められていた。その瞳からは精気が消えかけている。おそらく、衣服の下は酷く腫れ上がっているだろう。牢番や憲兵達がビオラの死に様は見物だった、具合が良かったなどと嘘と分かる挑発をする度に、神父が怒りを湛えた目で睨み付けるので打ち据えるのだ。
横たわる神父の牢に刑吏がやって来た。神父は何とか顔を上げたが、刑吏は覆面を被っているため顔は見えなかった。だが、神父はその声に覚えがあった。
「明日から刑を執行する」
刑吏は腰から鞭を取った。
「明日の刑は鞭打ち。この悪趣味な魔法の掛かった鞭でお前を打つ。血を流す事無く、狂い死ぬ事も無い。あるのは痛みだけだ。そして、その翌日に磔刑に処す」
神父はどれ程の数だけ打たれるのか刑吏に聞いた。
「十や二十では足りぬだろう。レスカティエの司教どもが満足するまでお前は鞭で打たれる」
それを聞いた神父は目を閉じると眠りに着こうとした。だが、刑吏は辺りを気にしながら小声で続けた。
「人の話は最後まで聞く物だ。私は肉欲や気の迷いではなく、心から魔物でさえも愛する慈愛に満ちたお前が、司教どもの愉悦の為に死ぬ事が許せない。お前を詰るあの司教を見たか？奴等の腹ははち切れんばかりに欲で膨れている。神を騙って民草から収奪する奴等こそ背信者だ」
そこまで言うと、刑吏は牢に顔を近付けて更に小声で言った。
「明日の夜、魔物どもがこの国に攻め入る。魔物どもは必ず堕とすと息巻いているが、私は信用していない。成功する保証など無いのだからな。どんな手を使ってでもあの邪教の信徒に会いたいならば、お前は明日の動乱に紛れて逃げなければならない。私はその手助けをしてやる」
刑吏はそう話を締め括ると踵を返した。神父は礼を言ったが、刑吏は振り向く事も無く地下牢を出て行った。
神父に対する鞭打ちは、レスカティエの司教の立ち会いの元で行われる事になった。地面に打ち込まれた柱に抱き付く形で縛られた神父の前に、司教が陣取っている。鞭で打たれる背信者の顔を特等席で拝もうという腹積もりだ。司教の顔はこれから行われる背信者への粛清に歪み、下卑た笑いを浮かべている。
刑吏は神父に近付くと、神父の口元に鞣し革を巻いた棒切れを差し出す。おそらく、これを噛んで少しでも痛みを紛らわせろという刑吏なりの心遣いなのだろう。神父はこれを噛むと、固く食い縛った。
刑吏が所定の位置に着くと、司教は喜悦混じりの声でやれと命じた。刑吏が鞭を振り下ろすと、鞭は空気を切り裂く音を鳴らしながら神父の背に襲い掛かった。神父は背が爆ぜる様な痛みに意識を失いかけたが、鞣し革を巻いた棒切れをさらに噛み締めて耐えた。二度、三度と鞭で打たれ、神父が苦悶の表情を浮かべる度に司教は手を叩いて喜んだ。そんな粛清とは名ばかりの私刑は日暮前まで続いた。
神父は焼ける様な背の痛みに耐えながらその時を待った。刑吏の話の通りなら、今夜の内に魔物が攻め行ってくる。一秒が一分、一分が一時間に感じられる遅々とした時間の流れに神父は苛立ちを覚えた。
そして、ついにその時が来た。慌ただしく一人の兵が入ってくると、牢番は槍を掴んで外へと出て行った。それから暫くして、刑吏が鍵束を持ってやって来ると、神父の牢の鍵を開けた。そして、神父の肩を担ぐと外へと向かう。神父は刑吏に礼を言おうとしたが、刑吏はそれを制した。
「私は自らのつまらない矜持とはした金の為に古い友を売った卑劣漢だ。そんな奴に頭を下げてはならない」
刑吏はそれだけを言うと、後は黙して階段を登った。
二人が外へ出ると、辺りは筆舌に尽くし難い光景に包まれていた。魔物達は逃げ惑う兵を拐い、寄り集まって抵抗を試みる者も直ぐ様鎮圧して犯した。神父がこの光景に唖然としていると、刑吏が一頭の馬を連れて来た。
「駿馬とは言えないが騒ぎに動じぬ馬だ。さあ、早く跨がれ。そして東の森へ行き、邪教の信徒と何処へなりとも逃げるがいい」
馬に跨がった神父は刑吏に別れを言おうとしたが、刑吏はそれを許さず馬の尻を叩いた。馬は神父の手綱に操られ、東へひた走る。
神父が城壁の東端に到達すると、城壁には巨大な穴が穿たれていた。神父は穴を抜けると城下町を駆けた。城下町は城よりも凄まじい光景だった。兵、民草に関わらず男を魔物が犯し、魔物に姿を変えた女が、夫や想い人に襲い掛かっている。神父の住み慣れた国は矯声に包まれ、魔界へ変わろうとしている。神父は馬を走らせ国境を越えた。
国境を越えた東の森で、神父とビオラは互いに抱擁を交わしている。ビオラは怪我一つ負う事無く憲兵達から逃れ、森に隠れていたのだ。
神父が無事に逃げ出せた事に感極まったビオラが抱擁を強めると、神父は小さく唸った。不審に思ったビオラは神父の上の服を脱がすと言葉を失った。神父の背には大量のみみず腫が出来ている。
「私の為にこんなにも…」
ビオラは自分の為にここまで身体を擲てる神父の愛に涙した。こんなにも愛に溢れた伴侶を持つ自分はなんて幸福者なのだろうという思いが沸き上がる。そして、ビオラはその愛に応えるべく行動した。
ビオラはその細腕で神父の身体を掻き抱くと、神父の背の傷に口付けをした。ビオラにとって神父の背の傷は痛ましい物であると同時に、愛の証でもある。どれだけ鞭で打たれても砕ける事の無い愛の証だ。ビオラはその一つ一つに音を立てながら口付けをする。
「ん、ちゅっ…神父様、私に医療の心得はございません。ちゅぅ…ですが、痛みを少しでも和らげる事は出来ます…ちぅ」
事実、神父は背の痛みが和らぐのを感じていた。ビオラがその柔かな唇で口付けをする度に、傷が放つ熱は性質を変えていく。ひりひりとした痛みは、もどかしい快楽に変わっていた。ビオラは最も大きな傷を見付けると労る様に優しく口付けし、強く吸い付いた。神父は痺れる様な快楽に身を捩ったが、ビオラは抱擁を強めて逃がさず更に強く吸い付いた。長い口付けの後にビオラが唇を離すと、傷の上には口付けの赤い痕が出来ている。
ビオラは抱擁を緩めると神父の股に手を回し、服の上からペニスを撫でた。
「私の口付けで感じていただけたのですね…ああ、嬉しいです」
ビオラは勃起したペニスを掌で包み、何度も優しく撫で上げて緩やかな快楽を与え続ける。それは、神父を果てさせるのではなく、ひたすら快楽を与え続けるだけの愛撫だ。ビオラは緩やかな愛撫をしながら神父の耳元で囁く。
「神父様、せめて口淫だけでもお許し下さい。私は神父様の精無くしては生きられないのです」
そう言いながらビオラは愛撫をしている。神父が頷くまで果てる事の無い愛撫は続くだろう。そして、五分経った頃か、十分経った頃か、ついに神父は頷いた。これはあくまで彼女を助ける為に必要な行為なのだと、神父は自らに言い聞かせた。そう思わなければ主神に対する信仰心が折れかけるまでに神父は堕ちかけていた。
ビオラは神父の前に跪いた。そして卑猥な笑みを浮かべ、葛藤する神父の顔を見つめながらズボンと下着を下ろす。晒け出されたペニスからは先走りが溢れ、辺りに精の臭いを放っている。ビオラは堕落した女神に感謝する祈りを捧げると、ペニスの根元に顔を寄せて臭いを嗅いだ。一呼吸する度にビオラの顔がだらしなく蕩けていく。
ビオラはペニスの根元から顔を離すと先走りを舐め取った。舌を犯す甘美な味わいに子宮が疼いたが、ビオラはそれを堪えた。そして亀頭をくわえると、唇でペニスの形を確めるかの様にゆっくりと根元までくわえ込んだ。粘つく唾液と熱い舌に包まれたペニスがビオラの口内で震える。ビオラはゆっくりと口淫を始めた。
「ん、ぢゅ…ちゅくっ、んッ……ちぅ…ちゅず…」
固くすぼまった唇が竿を扱き、柔かな舌が亀頭を愛撫する。ゆっくりとした、それでいて確実に性感を高めて行く口淫が、神父の思考を混濁させる。神父は口淫に合わせて腰を動かした。
ビオラは神父の腰を掴むと口淫を激しくさせる。唇、舌、口蓋、喉の全てが性器の様にペニスを攻め、射精を促す。
「ぢゅるっ、ぢゅぷっ…んぶッ、ちゅぐッ…ちゅぢゅぅう！んぐっ、んんんん！」
ビオラはペニスを激しく攻め立てて肥大した亀頭を強く吸うと、ペニスを深くくわえた。大量の精液が迸り、ビオラの口内を満たしていく。ビオラは捻りを加えながら唇でペニスを扱きつつ抜いていき、亀頭を吸うと尿道に残った精液も口内に送り込ませた。
そして、口からペニスを抜いたビオラは、卑猥な笑みを浮かべながら神父を見上げると口を開いた。赤い口内には塊に近い精液が溜まっている。ビオラは見せつける様に舌で精液を転がし、ゆっくりと味わいながら飲み下した。精飲の快楽にビオラの瞳は潤み、頬は上気している。ビオラが熱い溜息を吐くと、彼女の甘い香りと噎せる様な精液の臭いが神父の鼻に届いた。
その背徳的な姿に神父の主神に対する信仰心は折れかけ、堕落への一歩を歩んだ。だが、神父の主神に対する信仰心は僅かながらに残っている。それでもビオラは神父を押し倒そうとはしなかった。
神父は敬虔な信徒だが凡夫だ。主神に愛された大司教や、加護を受けた勇者ではない。近い将来、確実に堕落し、自らビオラに襲い掛かるだろう。それを知っている堕落の信徒は妖しげな笑みを浮かべながら、神父の傍らでその時を待っている。
神父が堕落しきったその時、主神の寵愛から追放された神父と堕落の信徒の楽園が回復するのだ。
16/08/09 15:08更新 / PLUTO