依頼完遂
戦闘もとい動作試験が開始されて10分。２体の式を倒した後トレアとミラはトーマに加勢した。
「トーマ、ないよりはマシだ！持っていろ！」
トレアは腰の後ろ側に携えた短剣をトーマに渡した。刃渡り60センチ程の厚めな刀身で両刃、グラディウスと呼ばれる類のそれは、式の攻撃を受け流すには多少役立つ代物であった。
改めて３人は最後の式に向き合った。
「二人とも気をつけろ、こいつ…」
トーマがそう言った時、式の拳が連続して彼とトレアに襲いかかる。回避した彼女の表情は苦々しげにしかめられていた。
「膂力と速度が段違いじゃないかッ―」
紫色の式の動きは、明らかに他の２体と一線を描くものであった。彼女の言う通り単純にパワーとスピードも然ることながら、反応速度もこの式の方が速いのである。
つまりそれは式の隙が減り、トーマ達の危機が増えることを意味していた。恐らく、いや確実に先程までの戦い方は出来ない、トレアとミラは確信していた。
「ミラ！」
「ええ、任せて！」
トレアの呼び掛けに答えたミラは、ホールの壁際まで駆けて行った。そして静かに佇み、魔力を弓矢に込めていく。
「トレア、彼女は―」
「いいかトーマ、私とお前であの式を引きつける。あいつをミラに近づかせるな」
疑問を投げかけようとしたトーマに、時間が惜しいと言わんばかりにトレアはそう言った。直後、式は彼女を標的に定め攻撃を繰り出した。
放たれた手刀を躱し、捌きながらトレアはトーマに説明を行う。
「ミラは今っ、金縛りの術式を矢に組み込んでいるところだっ。術式自体はそこまで構築に時間はかからない。が―」
トーマがそこで背後から斬りかかり、すぐさま距離を置いた。式のターゲットが彼へと移る。
身体能力では魔物であるトレアには及ばないが、トーマの場合経験と技術が活きていた。軍人として格闘術を叩き込まれ、実際の任務でも白兵戦を迫られる場面は少なくなかった彼にとって、式の攻撃はある程度わかり易かったのである。
それを見て感心していたトレアは、我に返り先程の言葉の続きを綴った。
「金縛りの肝になるのは込める魔力の量らしい。おそらくこいつを止めるほどの魔力を込めるには暫くかからざるを得ないはずだ」
「なるほどっ、その間引きつければいいんだなっ？」
「そうだ」
トーマとトレアは左右から攻撃を掻い潜ってすり抜け、攻撃を加えつつ背後に回り込んだ。
秒間約２発のペースで繰り出される拳と手刀による攻撃の狙いは的確で、避け続ける２人にプレッシャーをかけ続けていた。
トーマたちが苦戦を強いられている中、カウルスは満足気にその様子を眺めていた。
（やっぱあの鉱石は当たりだったな…新しい筐体とも相性が抜群だし、制御系統もワンランク上を使うキャパも出来た…）
突如、式は腕を左右に伸ばした。かと思うとまるでコマのように回り始め、その勢いはすぐに当たれば無事では済まないと分かるまでになった。
「なっ…これは…」
「カウルス！これはやりすぎじゃないのか?!」
回転した状態で式は突貫し、それを２人は辛くも横っ飛びに避けた。
式は15メートルほど進むと回転を辞め、背後の2人に向き直った。
トーマ達はこの式に何か不穏なものを感じた。性能がどうという話ではなく、何か根本的に他の２体とは違う。しかしトーマとトレアは式の攻撃を掻い潜り続けるしかなく、後方のミラが金縛りの魔法を組み上げるその時を待ったのだ。
ホールの端でその様子を見ていたカウルスもまた驚いていた。そして彼も違和感を感じ始めていた。今まで組んできた式の中でも、あれほどまでに自律性を見せたものはいなかったのだ。
式からのフィードバックは確かにある。しかし、その感覚が格段に軽い。それこそ不安になるほどに。
「お待たせ！行くわよ！」
カウルスが怪訝に思っていると、ミラの合図が聞こえ彼は視線をそちらに向けた。その先では式に狙いを定めたミラが丁度矢を放ったところであった。
背後から飛来した矢の切っ先が式に触れた途端、その切っ先から広がるように魔法陣が現れ、それとともに式の動きは攻撃のため腕を突き出した状態で止まった。
「今だッ！」
「ああ！」
トーマとトレアはそれぞれ振り下ろされたままの両腕を駆け上り、核となっている紅珠に目掛けて剣を突き放った。
「なにっ―！」
激しい金属音が響いた。
２人の剣は核を破壊することはおろか、触れることすらも叶わなかった。なぜなら瞬間的に頭の一部が変形しバイザーとなり、珠は覆われてしまったのだ。
「なんだと…?!」
その声はカウルスから漏れたものだった。それもそのはず、今のバイザーで防ぐ行動、むしろバイザーを形成する行動自体、彼の仕込んだものでは無いのだから。
彼はかがみ込むと設置していた魔法陣に手をかざし、リードと唱えた。空中に多くの文字が浮かび上がり、それらにカウルスは目を通していく。
結果としてわかったのは、自律性を司る公式が予想を超える演算速度になっており、自己学習した内容が他２体の式の10倍にもなっていたのである。
（媒体の影響で魔力の流れや量に変化が出たわけか…それでこの演算速度と成長。大当たりにも程があるな）
とんでもない媒体素材を発見したことに、カウルスは喜悦を禁じ得なかった。これがあれば己の研究はより昇華される。パペッターのその特性上、媒体の質が他の魔法体勢よりも大きく影響するのだから。
そして問題ないことを確認し、彼はリードを終了した。そう、問題がないことを確認して。
時間は少し戻り、バイザーを形成し攻撃防いだ式は驚くべきことに金縛りがかかった中で身じろぎ、トレアはバランスを崩しながらも急いで飛び降りるとバックステップで距離を取った。
「くそっ！こいつ動けるというのか！」
トレアは苦々しげに式を睨みつけた。直後、完全に術から逃れていない式は再びその動きを止めた。
一方、装甲の凸凹にしがみつき落下を免れていたトーマは、式の動きが止まるとグラディウスを両手持ちで振りかぶった。
「てああぁッ！」
グラディウスをまるでバットのスイングの様にバイザー目掛けて振るった。
響き渡る轟音とトーマの手に返ってくる衝撃。そして過大な衝撃に耐え兼ね、刃の一部が欠片となって飛び散った。
バイザーは表層に傷を刻まれたが、その深さはわずか１ミリにも満たない。バイザー自体の厚みは１センチもないが、紅珠があらわになる頃にはこちらの武器は見るも無惨なことになっているだろう。
トーマの顔には悔しげな表情が浮かび、右頬にはグラディウスの破片が刻んだ傷から血が一筋流れ落ちていた。
「トーマっ、拘束が切れるわッ！」
「退け、トーマ！」
「くっ…」
２人からの声掛けに口惜しくも飛び降りて距離を取った。式が動き出したのはその直後であった。
「…さて、そろそろタイムアップだな…」
カウルスは式を操作し、攻撃を止めさせようとした。彼らの攻撃はすでに防ぎきれることが判明しているし、成果も芳しくこれ以上戦闘を続ける理由はなかった。しかし。
「なっ…！受け付けない?!」
主の命令は届かなかった。彼はハッとして手にした懐中時計を見やる。丁度針は予定の時刻を過ぎたところだったが、その針が歩を進めても、式はそこに顕在し続けたのである。
「おまえら！逃げるぞ！」
カウルスの声に３人が振り向くと、狼狽と焦燥の表情が目に入る。
「どうした?!」
「式の顕現が解除されないッ！しかも俺の命令も無視しやがる！
暴走だ！！！」
視線を戻したその目の前には、その場に立ち攻撃を加えようとする式の姿があった。３人はそのモーションからまたあの回転攻撃を察知し、散り散り飛び退いた。
大きな風切り音を立てて凶悪な独楽が３人の脇を突き抜けていく。
「どうしてこうなったッ!?」
トレアは向き直った式の殴打を躱しながら怒鳴る。
「分からん！公式にはどこにも問題なかったんだ。だが、こうなった以上逃げるしかない！」
「無理だ！こいつの動き、さっきまでより鋭い！」
トーマがそう言いながらトレアと式の間の割って入る。式は標的をトーマへと移した。
「誰かが狙われ続けるとすぐにやられるぞ！」
「ああ、確実に背中を見せたら終わりだ。部屋の出入口で追いつかれたら誰かはやられる、１人ずつ逃げても最後の誰かはやられる」
「姉ちゃんの拘束魔法は?!」
「魔力的に出来ても10秒が限界よ…この位置じゃ間に合わないわ」
「くっ…」
トーマとトレアは交代で式を引き付け、その間を縫ってミラの矢が援護に入り結果３人で代わる代わる式の相手をする形となっている。だが数の差はないに等しく、何なら今ここで誰かが倒れればその後は容易く屠られることが予想できた。
「カウルス！式は！他の式は出せないのか?!」
「今もう手元にも上にも媒体がないっ…」
「くそっ…」
トーマは臍を噛んだ。
「やつを倒すか消し去る方法はないのかしら？」
「倒すなら核を破壊出来れば確実だ。消すのならこの具象陣を解体すればいい。ただし暴走中となると慎重にやる必要がある。30分はかかるぞ…」
「無茶を言う！」
「だけど、やらなければだめなんでしょ？」
ミラは矢を放ち、式の注意を逸らせながら諦めたように言った。
「しょうがないッ…トレアッ、ミラッ、もう一度動きを止めるぞッ！
ミラ、たとえ拘束時間が短くてもいい、俺とトレアが疲弊しきる前にもう一度さっきのを頼む！」
「なにかあるのね…ええ、分かったわ」
「くそっ…すまん、俺は具象陣の解体を進める！」
「わかった。なるべく急いでくれ！」
「ああ！」
カウルスは早速魔法陣の解体作業に入った。
魔法陣はむやみに傷つけてしまえばいいというものでもない。魔法陣に合わせて順序通りに陣の文字、図形を魔力を用いて消さなければ、予想していない事態を引き起こす可能性がある。
尚且つすでに暴走した魔法の陣の解除は要求される魔力が倍ほど必要で、しかも消していく順序がまるっきり変わってしまうのであった。
よって急ぐとは言ったものの、せいぜい５分も変わらないであろうことはカウルス自身確信しながらの作業となっていた。
トーマとトレアは繰り出される薙ぎ払い、突き、回転攻撃や拳撃の連打を悉く躱し続ける。どれも食らえば一撃必殺なのは一目瞭然。
（だが、予備動作は分かった…！）
これまでの交戦で動きは見えている、ただその速さと正確性が上がったのが問題なのだが。
２人が確実に疲弊していくのを危惧し、トーマの要望通り先ほどよりも短い溜め時間でミラが矢を放った。
矢は………外れた。
正確には避けられたのだ。先程までなら確実に当たっていたタイミングと射線。しかし式は警戒していたのだ、ミラが矢を放つことをやめた時からずっと。
トーマは気付いた。速度が上がったのではなく、こちらの癖や動作を認識して先回りで攻撃を繰り出していたのだと。それはトレアもミラも同様であった。そして式の予測がこちら動きを上回る瞬間はそう遠くないであろうと確信した。
「マズいわね…」
「くそっ…」
「万策尽きたか…」
トーマたちは攻撃を避けて、避けて、避けまくった。反撃などするだけ無駄、足も止められない、最悪の事態が伸ばした魔の手が目の前まで迫っていた。
連続した攻撃の中で、手刀での突きをトーマは間一髪で躱した。だが、流れに乗った追撃が彼に迫った。それは今までにない攻撃パターンだった。
「「トーマッ！」」
トレアとミラが思わず叫ぶ。
体勢を崩したままでは、認識はできてもすぐに回避行動を取ることができなかった。
トーマはその足に力を込めながらも覚悟を決めた、そのときだった。
「リーナッ、ジュアンッ！」
どこからともなく現れた青白いそれは、式の突き出された腕に飛び蹴りを放って拳の軌道を逸らせ、トーマの目前に着地する。
間一髪、式の攻撃はトーマの直ぐに左側の床に直撃していた。
「…スケルトン…？」
２体のスケルトン。１人は真っ直ぐなショートヘアで左目が長い前髪に隠され、もう１人はウェーブがかったセミロングで右目が前髪に隠されている。そしてトーマ達は彼女達に見覚えがあり、また先程の声にも聞き覚えがあった。
「全く…何をやっているんだ、カウルス」
ドアの方を見るとそこには杖を構えたエヴァニッチが立っていた。
「エヴァニッチ…ちっ、この白髪ジジイ、何しにきやがった…」
「何をしにとは、こんな異質な魔力の流れをさせておいてそっちこそ何をいうんだか、この脳筋魔術師。それと断じてジジイなどと言われる歳ではない」
目を合わして早々、２人は悠長にも言い争いを始めた。
「喧嘩なら後でしていただきたい」
呆れながらトレアは２人を宥めた。
「おっと、これは失敬。…さて、どう加勢したものか」
「それならエヴァニッチさん、こいつの動きを止められますか？」
「どのくらいだね？」
彼はトーマに質問を返した。
「20秒、いや15秒あれば！」
「容易いことだ。リーナ、ジュアン」
「ハイ、ゴ主人様」
エヴァニッチに名を呼ばれた２人のスケルトンは抑揚もなく返事をすると、式の左右に走り跳び上がると挟み撃ちを仕掛けた。
だが式の間合いに入った瞬間、手刀が空中で彼女たちの体を砕き、骨が辺りに散乱した。
「やはりスケルトンの脆い体ではッ…」
トレアは苦い顔をしたが、それに対してエヴァニッチは「フッ…」と笑った。
「これが定石なのさ」
彼はそういうと指を弾いた。すると彼女たちの骨が宙に浮き上がり、式をぐるりと囲む円陣に並んだ。
「ホールド！」
式の体の至る所に、周りを囲む骨から伸びた青白色の光線が巻きついた。見た目には直径１センチのいかにも頼りない細さ、しかし相反して強力な拘束に式は完全に身動きを取れなくなっていた。
待ち望んだチャンスにトーマは式の躯体をよじ登ると、右胸のホルスターからナイフを抜き、グリップに組み込まれたスイッチを入れ握りこんだ。
「これでッ…！」
途端にナイフの刃が超高速で微細な振動を始める。
HVMk-G3。軍事向けに製造された高周波振動ナイフの3世代目である。グリップ内には振動子、バッテリー、そして起動時に発生する高音を相殺するためのスピーカーなどが組み込まれており、駆動時間は負荷にもよるが１回約30秒。刀身部分は特殊合金が使用されていてゴムや木材ならもちろんのこと、鉄やアルミなど一部の金属をも切断することが出来る。
トーマは式の装甲が金属由来であると考えており、そしてそれは正しかった。
式の右肩に跨り、頭部を側面から抱え込むように位置どったトーマはバイザーにその切っ先を突き立てた。鉄を削る耳障りな音と共に火花が散り、これまでとは打って変わってみるみる内にくい込むと、ものの５秒ほどでナイフの先端はバイザーを貫通した。
他の４人は今まで聞いたことの無い音に思わず耳を塞ぎ、ナイフがバイザーを穿っていく様を驚きつつ感心しつつ眺めていた。
「いけるぞ…やれっ、トーマ！」
トレアが決着を確信し思わず声を上げた。その時。
ガゴンッという反響を含んだ音と、大きな揺れがトーマを襲った。
「っ―！なんだっ?!」
「いかんっ！ホールド！」
エヴァニッチが慌ててホールドと唱えると、光線が追加され式を捕縛する。
なにがあったのか、トーマ以外は良く分かっていた。式が無理矢理に捕縛を解こうと力を込め、耐えきれなかった腕の装甲が変形してしまったのだ。痛みもなければ内部構造もない式のこと、動けさえすればそれで良いのである。
「トーマ君っ！思っている以上に魔力を持っていかれたっ、そう長くは持たないぞっ！」
その声は辛うじてトーマの耳に届いていた。
（時間が無いっ…貫通はしたってのに、届かないっ！）
刃渡り20センチのナイフの切っ先は見事バイザーを貫通しきって核である紅珠まで届いていた。しかし、それ自体にくい込んだのはわずか１ミリ。破壊するまでには至っていなかったのである。
これ以上は無駄だと見切りをつけたトーマがバイブレーションを止めてナイフを抜いたその時、とうとう式の拘束は解かれた。エヴァニッチが拘束を維持するための魔力が尽きたのである。
「うおっ―」
「トーマぁっ！」
トレアの声が響き、トーマは勢いよく躯体を降った式から投げ落とされた。
持っていた剣を投げ捨てたトレアが間一髪駆け込みトーマを抱き込んで、２人は床を転がった。
「トーマっ、大丈夫っ?!」
「ああ…助かったよ」
顔を見合わせて一瞬の安堵をしていた２人に、式の拳が無情に振るわれた。それに反応したトーマは咄嗟にトレアを庇う様に抱き込んだ。
「きゃっ―」
思わず上がったトレアらしくない声にトーマを含めて気づいた者はいない。それだけ切羽詰まる状況であり、誰も余裕など持ち合わせていなかった。エヴァニッチとカウルスは魔力の光球を発射するが弾速は間に合うものではなく、威力も低い。スケルトンのリーナとジュアンは体の再構成の半ば。
そんな中１人だけ間に合った者、それは彼女だった。
「させないわっ！」
式の背後まで反撃覚悟で駆け寄っていたミラは手にした矢を直接式の胴体に突きつけた。
なけなしの魔力で付加された拘束魔法が式とその拳をギリギリのところで押しとどめ、エヴァニッチとカウルスの光球が式の腕に着弾した。
「２人ともっ！今のうちに逃げて！」
２人は立ち上がったが、トレアとトーマは別の行動を取っていた。トレアは式から離れる方に走ったが、トーマは式の正面から右斜め前に移動しただけ。
「トーマっ！離れなければ―」
「いいやっ、これでトドメだ！！」
焦って声をかけたトレアに彼はそう言い放つと、手慣れた素早い動作でハンドガンを抜きながらコッキングし、ナイフが穿ったバイザーの穴に狙いを定める。
「耳を塞げ！」
そう一言叫んだ後、引き金が引かれ最初の発砲音が場を満たすと、トレア達はその体をビクリと震わせ硬直した。
１発目、狙いの右上２センチ。２発目、狙いの左上３センチ。そして３発目、ナイフの穿った亀裂のような穴を圧し広げ、弾頭はその形を歪に変えながらも紅珠とともに媒体である石を粉砕した。
静寂が鎮座するその視線の真ん中で、式は右肩から角砂糖が溶けるように光へと変わり消えていく。
「…これで、終わりだ…」
トーマから零れたその言葉を皮切りに、彼もトレアもミラもその場に崩れるように座り込み、スケルトンたちはその体を再生し主の傍らに寄り添い、カウルスは安堵しつつも、６割も消えていない魔法陣を一瞥すると苦々しげに頭を抱えたのだった。
「トーマ、ないよりはマシだ！持っていろ！」
トレアは腰の後ろ側に携えた短剣をトーマに渡した。刃渡り60センチ程の厚めな刀身で両刃、グラディウスと呼ばれる類のそれは、式の攻撃を受け流すには多少役立つ代物であった。
改めて３人は最後の式に向き合った。
「二人とも気をつけろ、こいつ…」
トーマがそう言った時、式の拳が連続して彼とトレアに襲いかかる。回避した彼女の表情は苦々しげにしかめられていた。
「膂力と速度が段違いじゃないかッ―」
紫色の式の動きは、明らかに他の２体と一線を描くものであった。彼女の言う通り単純にパワーとスピードも然ることながら、反応速度もこの式の方が速いのである。
つまりそれは式の隙が減り、トーマ達の危機が増えることを意味していた。恐らく、いや確実に先程までの戦い方は出来ない、トレアとミラは確信していた。
「ミラ！」
「ええ、任せて！」
トレアの呼び掛けに答えたミラは、ホールの壁際まで駆けて行った。そして静かに佇み、魔力を弓矢に込めていく。
「トレア、彼女は―」
「いいかトーマ、私とお前であの式を引きつける。あいつをミラに近づかせるな」
疑問を投げかけようとしたトーマに、時間が惜しいと言わんばかりにトレアはそう言った。直後、式は彼女を標的に定め攻撃を繰り出した。
放たれた手刀を躱し、捌きながらトレアはトーマに説明を行う。
「ミラは今っ、金縛りの術式を矢に組み込んでいるところだっ。術式自体はそこまで構築に時間はかからない。が―」
トーマがそこで背後から斬りかかり、すぐさま距離を置いた。式のターゲットが彼へと移る。
身体能力では魔物であるトレアには及ばないが、トーマの場合経験と技術が活きていた。軍人として格闘術を叩き込まれ、実際の任務でも白兵戦を迫られる場面は少なくなかった彼にとって、式の攻撃はある程度わかり易かったのである。
それを見て感心していたトレアは、我に返り先程の言葉の続きを綴った。
「金縛りの肝になるのは込める魔力の量らしい。おそらくこいつを止めるほどの魔力を込めるには暫くかからざるを得ないはずだ」
「なるほどっ、その間引きつければいいんだなっ？」
「そうだ」
トーマとトレアは左右から攻撃を掻い潜ってすり抜け、攻撃を加えつつ背後に回り込んだ。
秒間約２発のペースで繰り出される拳と手刀による攻撃の狙いは的確で、避け続ける２人にプレッシャーをかけ続けていた。
トーマたちが苦戦を強いられている中、カウルスは満足気にその様子を眺めていた。
（やっぱあの鉱石は当たりだったな…新しい筐体とも相性が抜群だし、制御系統もワンランク上を使うキャパも出来た…）
突如、式は腕を左右に伸ばした。かと思うとまるでコマのように回り始め、その勢いはすぐに当たれば無事では済まないと分かるまでになった。
「なっ…これは…」
「カウルス！これはやりすぎじゃないのか?!」
回転した状態で式は突貫し、それを２人は辛くも横っ飛びに避けた。
式は15メートルほど進むと回転を辞め、背後の2人に向き直った。
トーマ達はこの式に何か不穏なものを感じた。性能がどうという話ではなく、何か根本的に他の２体とは違う。しかしトーマとトレアは式の攻撃を掻い潜り続けるしかなく、後方のミラが金縛りの魔法を組み上げるその時を待ったのだ。
ホールの端でその様子を見ていたカウルスもまた驚いていた。そして彼も違和感を感じ始めていた。今まで組んできた式の中でも、あれほどまでに自律性を見せたものはいなかったのだ。
式からのフィードバックは確かにある。しかし、その感覚が格段に軽い。それこそ不安になるほどに。
「お待たせ！行くわよ！」
カウルスが怪訝に思っていると、ミラの合図が聞こえ彼は視線をそちらに向けた。その先では式に狙いを定めたミラが丁度矢を放ったところであった。
背後から飛来した矢の切っ先が式に触れた途端、その切っ先から広がるように魔法陣が現れ、それとともに式の動きは攻撃のため腕を突き出した状態で止まった。
「今だッ！」
「ああ！」
トーマとトレアはそれぞれ振り下ろされたままの両腕を駆け上り、核となっている紅珠に目掛けて剣を突き放った。
「なにっ―！」
激しい金属音が響いた。
２人の剣は核を破壊することはおろか、触れることすらも叶わなかった。なぜなら瞬間的に頭の一部が変形しバイザーとなり、珠は覆われてしまったのだ。
「なんだと…?!」
その声はカウルスから漏れたものだった。それもそのはず、今のバイザーで防ぐ行動、むしろバイザーを形成する行動自体、彼の仕込んだものでは無いのだから。
彼はかがみ込むと設置していた魔法陣に手をかざし、リードと唱えた。空中に多くの文字が浮かび上がり、それらにカウルスは目を通していく。
結果としてわかったのは、自律性を司る公式が予想を超える演算速度になっており、自己学習した内容が他２体の式の10倍にもなっていたのである。
（媒体の影響で魔力の流れや量に変化が出たわけか…それでこの演算速度と成長。大当たりにも程があるな）
とんでもない媒体素材を発見したことに、カウルスは喜悦を禁じ得なかった。これがあれば己の研究はより昇華される。パペッターのその特性上、媒体の質が他の魔法体勢よりも大きく影響するのだから。
そして問題ないことを確認し、彼はリードを終了した。そう、問題がないことを確認して。
時間は少し戻り、バイザーを形成し攻撃防いだ式は驚くべきことに金縛りがかかった中で身じろぎ、トレアはバランスを崩しながらも急いで飛び降りるとバックステップで距離を取った。
「くそっ！こいつ動けるというのか！」
トレアは苦々しげに式を睨みつけた。直後、完全に術から逃れていない式は再びその動きを止めた。
一方、装甲の凸凹にしがみつき落下を免れていたトーマは、式の動きが止まるとグラディウスを両手持ちで振りかぶった。
「てああぁッ！」
グラディウスをまるでバットのスイングの様にバイザー目掛けて振るった。
響き渡る轟音とトーマの手に返ってくる衝撃。そして過大な衝撃に耐え兼ね、刃の一部が欠片となって飛び散った。
バイザーは表層に傷を刻まれたが、その深さはわずか１ミリにも満たない。バイザー自体の厚みは１センチもないが、紅珠があらわになる頃にはこちらの武器は見るも無惨なことになっているだろう。
トーマの顔には悔しげな表情が浮かび、右頬にはグラディウスの破片が刻んだ傷から血が一筋流れ落ちていた。
「トーマっ、拘束が切れるわッ！」
「退け、トーマ！」
「くっ…」
２人からの声掛けに口惜しくも飛び降りて距離を取った。式が動き出したのはその直後であった。
「…さて、そろそろタイムアップだな…」
カウルスは式を操作し、攻撃を止めさせようとした。彼らの攻撃はすでに防ぎきれることが判明しているし、成果も芳しくこれ以上戦闘を続ける理由はなかった。しかし。
「なっ…！受け付けない?!」
主の命令は届かなかった。彼はハッとして手にした懐中時計を見やる。丁度針は予定の時刻を過ぎたところだったが、その針が歩を進めても、式はそこに顕在し続けたのである。
「おまえら！逃げるぞ！」
カウルスの声に３人が振り向くと、狼狽と焦燥の表情が目に入る。
「どうした?!」
「式の顕現が解除されないッ！しかも俺の命令も無視しやがる！
暴走だ！！！」
視線を戻したその目の前には、その場に立ち攻撃を加えようとする式の姿があった。３人はそのモーションからまたあの回転攻撃を察知し、散り散り飛び退いた。
大きな風切り音を立てて凶悪な独楽が３人の脇を突き抜けていく。
「どうしてこうなったッ!?」
トレアは向き直った式の殴打を躱しながら怒鳴る。
「分からん！公式にはどこにも問題なかったんだ。だが、こうなった以上逃げるしかない！」
「無理だ！こいつの動き、さっきまでより鋭い！」
トーマがそう言いながらトレアと式の間の割って入る。式は標的をトーマへと移した。
「誰かが狙われ続けるとすぐにやられるぞ！」
「ああ、確実に背中を見せたら終わりだ。部屋の出入口で追いつかれたら誰かはやられる、１人ずつ逃げても最後の誰かはやられる」
「姉ちゃんの拘束魔法は?!」
「魔力的に出来ても10秒が限界よ…この位置じゃ間に合わないわ」
「くっ…」
トーマとトレアは交代で式を引き付け、その間を縫ってミラの矢が援護に入り結果３人で代わる代わる式の相手をする形となっている。だが数の差はないに等しく、何なら今ここで誰かが倒れればその後は容易く屠られることが予想できた。
「カウルス！式は！他の式は出せないのか?!」
「今もう手元にも上にも媒体がないっ…」
「くそっ…」
トーマは臍を噛んだ。
「やつを倒すか消し去る方法はないのかしら？」
「倒すなら核を破壊出来れば確実だ。消すのならこの具象陣を解体すればいい。ただし暴走中となると慎重にやる必要がある。30分はかかるぞ…」
「無茶を言う！」
「だけど、やらなければだめなんでしょ？」
ミラは矢を放ち、式の注意を逸らせながら諦めたように言った。
「しょうがないッ…トレアッ、ミラッ、もう一度動きを止めるぞッ！
ミラ、たとえ拘束時間が短くてもいい、俺とトレアが疲弊しきる前にもう一度さっきのを頼む！」
「なにかあるのね…ええ、分かったわ」
「くそっ…すまん、俺は具象陣の解体を進める！」
「わかった。なるべく急いでくれ！」
「ああ！」
カウルスは早速魔法陣の解体作業に入った。
魔法陣はむやみに傷つけてしまえばいいというものでもない。魔法陣に合わせて順序通りに陣の文字、図形を魔力を用いて消さなければ、予想していない事態を引き起こす可能性がある。
尚且つすでに暴走した魔法の陣の解除は要求される魔力が倍ほど必要で、しかも消していく順序がまるっきり変わってしまうのであった。
よって急ぐとは言ったものの、せいぜい５分も変わらないであろうことはカウルス自身確信しながらの作業となっていた。
トーマとトレアは繰り出される薙ぎ払い、突き、回転攻撃や拳撃の連打を悉く躱し続ける。どれも食らえば一撃必殺なのは一目瞭然。
（だが、予備動作は分かった…！）
これまでの交戦で動きは見えている、ただその速さと正確性が上がったのが問題なのだが。
２人が確実に疲弊していくのを危惧し、トーマの要望通り先ほどよりも短い溜め時間でミラが矢を放った。
矢は………外れた。
正確には避けられたのだ。先程までなら確実に当たっていたタイミングと射線。しかし式は警戒していたのだ、ミラが矢を放つことをやめた時からずっと。
トーマは気付いた。速度が上がったのではなく、こちらの癖や動作を認識して先回りで攻撃を繰り出していたのだと。それはトレアもミラも同様であった。そして式の予測がこちら動きを上回る瞬間はそう遠くないであろうと確信した。
「マズいわね…」
「くそっ…」
「万策尽きたか…」
トーマたちは攻撃を避けて、避けて、避けまくった。反撃などするだけ無駄、足も止められない、最悪の事態が伸ばした魔の手が目の前まで迫っていた。
連続した攻撃の中で、手刀での突きをトーマは間一髪で躱した。だが、流れに乗った追撃が彼に迫った。それは今までにない攻撃パターンだった。
「「トーマッ！」」
トレアとミラが思わず叫ぶ。
体勢を崩したままでは、認識はできてもすぐに回避行動を取ることができなかった。
トーマはその足に力を込めながらも覚悟を決めた、そのときだった。
「リーナッ、ジュアンッ！」
どこからともなく現れた青白いそれは、式の突き出された腕に飛び蹴りを放って拳の軌道を逸らせ、トーマの目前に着地する。
間一髪、式の攻撃はトーマの直ぐに左側の床に直撃していた。
「…スケルトン…？」
２体のスケルトン。１人は真っ直ぐなショートヘアで左目が長い前髪に隠され、もう１人はウェーブがかったセミロングで右目が前髪に隠されている。そしてトーマ達は彼女達に見覚えがあり、また先程の声にも聞き覚えがあった。
「全く…何をやっているんだ、カウルス」
ドアの方を見るとそこには杖を構えたエヴァニッチが立っていた。
「エヴァニッチ…ちっ、この白髪ジジイ、何しにきやがった…」
「何をしにとは、こんな異質な魔力の流れをさせておいてそっちこそ何をいうんだか、この脳筋魔術師。それと断じてジジイなどと言われる歳ではない」
目を合わして早々、２人は悠長にも言い争いを始めた。
「喧嘩なら後でしていただきたい」
呆れながらトレアは２人を宥めた。
「おっと、これは失敬。…さて、どう加勢したものか」
「それならエヴァニッチさん、こいつの動きを止められますか？」
「どのくらいだね？」
彼はトーマに質問を返した。
「20秒、いや15秒あれば！」
「容易いことだ。リーナ、ジュアン」
「ハイ、ゴ主人様」
エヴァニッチに名を呼ばれた２人のスケルトンは抑揚もなく返事をすると、式の左右に走り跳び上がると挟み撃ちを仕掛けた。
だが式の間合いに入った瞬間、手刀が空中で彼女たちの体を砕き、骨が辺りに散乱した。
「やはりスケルトンの脆い体ではッ…」
トレアは苦い顔をしたが、それに対してエヴァニッチは「フッ…」と笑った。
「これが定石なのさ」
彼はそういうと指を弾いた。すると彼女たちの骨が宙に浮き上がり、式をぐるりと囲む円陣に並んだ。
「ホールド！」
式の体の至る所に、周りを囲む骨から伸びた青白色の光線が巻きついた。見た目には直径１センチのいかにも頼りない細さ、しかし相反して強力な拘束に式は完全に身動きを取れなくなっていた。
待ち望んだチャンスにトーマは式の躯体をよじ登ると、右胸のホルスターからナイフを抜き、グリップに組み込まれたスイッチを入れ握りこんだ。
「これでッ…！」
途端にナイフの刃が超高速で微細な振動を始める。
HVMk-G3。軍事向けに製造された高周波振動ナイフの3世代目である。グリップ内には振動子、バッテリー、そして起動時に発生する高音を相殺するためのスピーカーなどが組み込まれており、駆動時間は負荷にもよるが１回約30秒。刀身部分は特殊合金が使用されていてゴムや木材ならもちろんのこと、鉄やアルミなど一部の金属をも切断することが出来る。
トーマは式の装甲が金属由来であると考えており、そしてそれは正しかった。
式の右肩に跨り、頭部を側面から抱え込むように位置どったトーマはバイザーにその切っ先を突き立てた。鉄を削る耳障りな音と共に火花が散り、これまでとは打って変わってみるみる内にくい込むと、ものの５秒ほどでナイフの先端はバイザーを貫通した。
他の４人は今まで聞いたことの無い音に思わず耳を塞ぎ、ナイフがバイザーを穿っていく様を驚きつつ感心しつつ眺めていた。
「いけるぞ…やれっ、トーマ！」
トレアが決着を確信し思わず声を上げた。その時。
ガゴンッという反響を含んだ音と、大きな揺れがトーマを襲った。
「っ―！なんだっ?!」
「いかんっ！ホールド！」
エヴァニッチが慌ててホールドと唱えると、光線が追加され式を捕縛する。
なにがあったのか、トーマ以外は良く分かっていた。式が無理矢理に捕縛を解こうと力を込め、耐えきれなかった腕の装甲が変形してしまったのだ。痛みもなければ内部構造もない式のこと、動けさえすればそれで良いのである。
「トーマ君っ！思っている以上に魔力を持っていかれたっ、そう長くは持たないぞっ！」
その声は辛うじてトーマの耳に届いていた。
（時間が無いっ…貫通はしたってのに、届かないっ！）
刃渡り20センチのナイフの切っ先は見事バイザーを貫通しきって核である紅珠まで届いていた。しかし、それ自体にくい込んだのはわずか１ミリ。破壊するまでには至っていなかったのである。
これ以上は無駄だと見切りをつけたトーマがバイブレーションを止めてナイフを抜いたその時、とうとう式の拘束は解かれた。エヴァニッチが拘束を維持するための魔力が尽きたのである。
「うおっ―」
「トーマぁっ！」
トレアの声が響き、トーマは勢いよく躯体を降った式から投げ落とされた。
持っていた剣を投げ捨てたトレアが間一髪駆け込みトーマを抱き込んで、２人は床を転がった。
「トーマっ、大丈夫っ?!」
「ああ…助かったよ」
顔を見合わせて一瞬の安堵をしていた２人に、式の拳が無情に振るわれた。それに反応したトーマは咄嗟にトレアを庇う様に抱き込んだ。
「きゃっ―」
思わず上がったトレアらしくない声にトーマを含めて気づいた者はいない。それだけ切羽詰まる状況であり、誰も余裕など持ち合わせていなかった。エヴァニッチとカウルスは魔力の光球を発射するが弾速は間に合うものではなく、威力も低い。スケルトンのリーナとジュアンは体の再構成の半ば。
そんな中１人だけ間に合った者、それは彼女だった。
「させないわっ！」
式の背後まで反撃覚悟で駆け寄っていたミラは手にした矢を直接式の胴体に突きつけた。
なけなしの魔力で付加された拘束魔法が式とその拳をギリギリのところで押しとどめ、エヴァニッチとカウルスの光球が式の腕に着弾した。
「２人ともっ！今のうちに逃げて！」
２人は立ち上がったが、トレアとトーマは別の行動を取っていた。トレアは式から離れる方に走ったが、トーマは式の正面から右斜め前に移動しただけ。
「トーマっ！離れなければ―」
「いいやっ、これでトドメだ！！」
焦って声をかけたトレアに彼はそう言い放つと、手慣れた素早い動作でハンドガンを抜きながらコッキングし、ナイフが穿ったバイザーの穴に狙いを定める。
「耳を塞げ！」
そう一言叫んだ後、引き金が引かれ最初の発砲音が場を満たすと、トレア達はその体をビクリと震わせ硬直した。
１発目、狙いの右上２センチ。２発目、狙いの左上３センチ。そして３発目、ナイフの穿った亀裂のような穴を圧し広げ、弾頭はその形を歪に変えながらも紅珠とともに媒体である石を粉砕した。
静寂が鎮座するその視線の真ん中で、式は右肩から角砂糖が溶けるように光へと変わり消えていく。
「…これで、終わりだ…」
トーマから零れたその言葉を皮切りに、彼もトレアもミラもその場に崩れるように座り込み、スケルトンたちはその体を再生し主の傍らに寄り添い、カウルスは安堵しつつも、６割も消えていない魔法陣を一瞥すると苦々しげに頭を抱えたのだった。
21/03/10 03:30更新 / アバロン3
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