帰ってきた建国の・・・
ある男がいた。
”建国の父”と呼ばれた男は
腐敗した帝国を打倒し、共和国を作り上げた。
無神論を掲げた彼は
国の教会という教会を弾圧し、
人々の意志をまとめ上げた。
また彼は大の愛猫家であり、
いつも険しい顔をしていたが、
飼い猫の前では笑顔になった。
しかし、そんな彼も病気には勝てなかった。
彼は次第に黒魔術に傾倒していった。
「自分の死後、魔物娘に転生する。」
そんな術を隣国に住む魔女の婆さんから
教えてもらい、彼は藁にも縋る思いで
術を仕掛けた。
術の完成後、彼は病でこの世を去った。
しかし彼は蘇らなかった。
同志に裏切られたのだ。
ある男がいた。
「書記長」と呼ばれた男は
”建国の父”の後を継ぎ、
自分に同調しない者、信用できない者、
前指導者の派閥を冷酷に排除し
最高指導者となった。
”建国の父”を裏切った彼は
その男の死後、遺書を破棄し
国の魔法使いに命令し
遺体を防腐処理してそれを要石とした。
その魔物娘に転生する魔術は
生前の肉体が存在すると発動しない。
それを知っていた書記長は
霊廟を作り、祀り上げ
表向きは”建国の父”を称えた。
その日から彼の恐怖の日々が始まった。
恐怖政治と、かの者の復活に怯える日々が
ある男がいた。
「書記長」の部下である彼は
上司の命令で霊廟を訪れていた。
何事に対しても信用しない上司のために
この国の中で魔物娘が現れるのを防ぐために
霊廟という名の封印は定期的に点検されている。
しかし残念ながら彼の頭は
そこまで高尚な思想を持ちあわせてはいなかった。
こんなつまらない任務よりも
以前、秘密警察の伝手で聞いた
「サバト」という魔物娘の集会の情報を集めたい。
彼は小児性愛者であり、腐敗した政治家だった。
”建国の父”が提示した革命的政治は衰え、
恐怖政治の裏では腐敗が蔓延し、
彼のように魔界とつながりを持とうとする者まで
国の中枢に現れる始末だった。
霊廟の中に入ると柱や梁に施された
豪華な装飾が目に付く。
廟内の中心には”建国の父”の遺体が
安置されている。
その下の床には不可解な文字で書かれた
魔法陣がある。
今日も異常なし。
報告書にそう書き記し、
男は霊廟を後にした。
彼はついに気づくことはなかった。
柱の陰に隠れたケット・シーに
飼い主に愛された猫は飼い主の死後
猫の王国へ旅に出た。
飼い主の存在を疎ましく思ってる奴らがいる。
彼のため、彼の愛したもののため
猫の王国へ渡った猫は
ケット・シーになった。
魔物娘となり知識を得た彼女は
自分が何をすべきなのか理解した。
彼女は故郷に帰り、彼が眠る霊廟に潜入していた。
「――――っ!」
ケット・シーの魔法が男の遺体に火をつける。
彼女にとって最愛の主の遺体に傷をつける。
心苦しい行為であったが、
飼い主を蘇らせるために覚悟はしていた。
火の手が部屋中に広がる中、
魔法陣が長い時を経て作動したのを
彼女は涙で潤んだ目で確認した。
炎の中に人影があった。
赤い。火よりも赤い。血よりも赤い。
その目は死霊でありながら
生者のような力強さを持ち、
ステッキはブルジョワの証とでもいうように
両の手には鎌と金槌が握られていた。
異形のファントムは周囲を見渡し、
「フンっ!」
両手の獲物で炎を払った。
「さて、」
赤いファントムは目の前のケット・シーに
問いかける。
「私の世界大革命はどこまで進行してるかね、君」
ケット・シーは首を傾げ
「にゃ?」
猫に人間の政治なぞ理解できるはずがなかった。
「そうかそうか、わからないか」
ファントムは生前のように笑うと
「では『教育』してやろう。
せっかくお前も立派な魔物娘になったのだからな」
そう言って目の前で冷や汗をかくケット・シーの襟首を掴むと
赤いファントムは夜の闇に消えていった。
”建国の父”と呼ばれた男は
腐敗した帝国を打倒し、共和国を作り上げた。
無神論を掲げた彼は
国の教会という教会を弾圧し、
人々の意志をまとめ上げた。
また彼は大の愛猫家であり、
いつも険しい顔をしていたが、
飼い猫の前では笑顔になった。
しかし、そんな彼も病気には勝てなかった。
彼は次第に黒魔術に傾倒していった。
「自分の死後、魔物娘に転生する。」
そんな術を隣国に住む魔女の婆さんから
教えてもらい、彼は藁にも縋る思いで
術を仕掛けた。
術の完成後、彼は病でこの世を去った。
しかし彼は蘇らなかった。
同志に裏切られたのだ。
ある男がいた。
「書記長」と呼ばれた男は
”建国の父”の後を継ぎ、
自分に同調しない者、信用できない者、
前指導者の派閥を冷酷に排除し
最高指導者となった。
”建国の父”を裏切った彼は
その男の死後、遺書を破棄し
国の魔法使いに命令し
遺体を防腐処理してそれを要石とした。
その魔物娘に転生する魔術は
生前の肉体が存在すると発動しない。
それを知っていた書記長は
霊廟を作り、祀り上げ
表向きは”建国の父”を称えた。
その日から彼の恐怖の日々が始まった。
恐怖政治と、かの者の復活に怯える日々が
ある男がいた。
「書記長」の部下である彼は
上司の命令で霊廟を訪れていた。
何事に対しても信用しない上司のために
この国の中で魔物娘が現れるのを防ぐために
霊廟という名の封印は定期的に点検されている。
しかし残念ながら彼の頭は
そこまで高尚な思想を持ちあわせてはいなかった。
こんなつまらない任務よりも
以前、秘密警察の伝手で聞いた
「サバト」という魔物娘の集会の情報を集めたい。
彼は小児性愛者であり、腐敗した政治家だった。
”建国の父”が提示した革命的政治は衰え、
恐怖政治の裏では腐敗が蔓延し、
彼のように魔界とつながりを持とうとする者まで
国の中枢に現れる始末だった。
霊廟の中に入ると柱や梁に施された
豪華な装飾が目に付く。
廟内の中心には”建国の父”の遺体が
安置されている。
その下の床には不可解な文字で書かれた
魔法陣がある。
今日も異常なし。
報告書にそう書き記し、
男は霊廟を後にした。
彼はついに気づくことはなかった。
柱の陰に隠れたケット・シーに
飼い主に愛された猫は飼い主の死後
猫の王国へ旅に出た。
飼い主の存在を疎ましく思ってる奴らがいる。
彼のため、彼の愛したもののため
猫の王国へ渡った猫は
ケット・シーになった。
魔物娘となり知識を得た彼女は
自分が何をすべきなのか理解した。
彼女は故郷に帰り、彼が眠る霊廟に潜入していた。
「――――っ!」
ケット・シーの魔法が男の遺体に火をつける。
彼女にとって最愛の主の遺体に傷をつける。
心苦しい行為であったが、
飼い主を蘇らせるために覚悟はしていた。
火の手が部屋中に広がる中、
魔法陣が長い時を経て作動したのを
彼女は涙で潤んだ目で確認した。
炎の中に人影があった。
赤い。火よりも赤い。血よりも赤い。
その目は死霊でありながら
生者のような力強さを持ち、
ステッキはブルジョワの証とでもいうように
両の手には鎌と金槌が握られていた。
異形のファントムは周囲を見渡し、
「フンっ!」
両手の獲物で炎を払った。
「さて、」
赤いファントムは目の前のケット・シーに
問いかける。
「私の世界大革命はどこまで進行してるかね、君」
ケット・シーは首を傾げ
「にゃ?」
猫に人間の政治なぞ理解できるはずがなかった。
「そうかそうか、わからないか」
ファントムは生前のように笑うと
「では『教育』してやろう。
せっかくお前も立派な魔物娘になったのだからな」
そう言って目の前で冷や汗をかくケット・シーの襟首を掴むと
赤いファントムは夜の闇に消えていった。
20/01/08 22:03更新 / 二三の理