読切小説
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ふぉ〜りんらぶ
 それは突然のことであった。
 夕陽の映える街並み、家路を辿る少年――フィルの目の前に、見たことも無い金髪の少女が降りてきたのだ。
 白く美しい翼と、その頭には自らの存在を示す天使の輪があり、ただの同年代の少女という考えは即座に吹き飛ばされた。
 さながら夕陽をバックに降りてきた、暁の天使さまと言ったところだろう。
 特に信心深くもなく、教会には数えるほどしか足を運んでいない彼でも、その姿には神秘的な何かを感じさせるには充分だった。
 その姿に見とれていると、天使は彼に微笑みかけ、口を開く。

「きみ、名前は?」
「え、あ……フィル、です……」

 気の抜けたままではあるが、何とか名乗ることには成功する。
 その天使はふふっ、と笑いフィルに一歩、近寄る。

「フィルはとても善い行いをしました。迷い猫の里親を見つけてあげました」

 また一歩。

「フィルはとても善い行いをしました。人手の足りないお店の手伝いをしてあげました」

 さらに一歩。

「フィルはとても善い行いをしました。泣いている女の子を、笑顔にしてあげました」

 もう一歩。

「フィルは、たくさんの人を幸せにしてあげました」

 彼女が顔をぐっと近づけてきて、笑みを浮かべる。
 ともすれば、唇が触れ合いそうな距離。彼女の蒼い目に映る自分の姿が、充分に確認できる距離。
 さすがのフィルも、美しい少女にここまで顔を近づけられてはドキドキせざるを得ない。

「あ、あの、て、天使さま?」
「だから、今度はフィルが幸せになる番。そして――」

 フィルの頬に手を当てたかと思えば、ふわりと飛び退いてフィルと距離を取る。

「それこそがわたしの役目。何を隠そう、わたしは!」

 先ほどとはうって変わって声を張りながら、その場と一回転。
 飛び散る白い羽根が夕陽に映えて、どこか幻想的に見えなくもない。

「あ〜〜いむ、えんじぇぅ♪」

 そして、フィルに投げキッスを行うえんじぇぅ。ウインクも忘れない。凄まじいギャップである。
 しかして、彼の反応は。

「――――」

 唖然としているのは一目瞭然。
 その反応を理解したエンジェルは、投げキッスの状態でしばらく固まっていたが、やがてぷるぷると身体を震わせた。
 そして、やがて堪えきれなくなったのか、一気に顔が夕陽より紅く染まると。

「にゅああああ!」

 奇声を上げ、両手で顔を覆いながらぶんぶんと振り回した。
 背中の羽も、意味も無くぶわんぶわんと羽ばたき、先ほどよりも飛び散る羽根の量が増えている。

「違うっ! 違うんだもん! これは友達が言ってたことでわたしの意志じゃないんだもん!」
「あの……」

 もはや最初に感じた神秘の印象など羽根と共に飛び散り、目の前にいるのは自分と同年代の少女でしかなかった。
 しかし、放っておくわけにもいかないので、フィルは恐る恐る歩み寄る。

「え、えんじぇぅ……ちゃん」
「アンジェだし! わたしの名前アンジェだし! えんじぇぅじゃないし! それでも良いけど!」

 半ばどころか完全なる自暴自棄になっているアンジェに、フィルは若干困惑気味である。
 それでも彼女の隣まで歩み寄り、慰めにその背中を撫でようとしたとき、ガシッとその腕を掴まれた。

「とにかくっ、きみはわたしから幸せをもらう義務があるの! フィルは幸せにならなきゃいけないの!」
「えっ、ちょ――」

 何を言うことも許されず、フィルは腕を掴まれたまま、アンジェに路地裏へと連行された。


 路地裏とは言え、整備はされているのでそこまで汚れてはいないが、街灯や夕陽の光は届かないためやはり薄暗い。
 だと言うのに、アンジェの周りだけはうっすらと明るかった。彼女自身が小さな光源となって周囲を照らしているのだ。
 それを見てフィルは、彼女は本物なんだ、と手を引かれながら何となく思っていた。
 と、アンジェが立ち止まり振り返ると、肩を掴まれて壁に優しく押し付けられる。
 意図が分かるはずも無く、目をぱちくりさせていると、アンジェが突然目の前でぺたんと座り込んだ。
 ついでにズボンも下ろされた。恐るべき早業である。

「……ちゅっ」

 瞬間、フィルの股間に衝撃走る。

「うぁ!」

 思わず声が上がる。
 ズボンどころかパンツごと下ろされていたらしく、それにより晒された股間の小雄をアンジェが口付けたのだ。

「んっふふ……いい反応……」

 そんな未熟な晒し者を見ながら、頬を染める顔はかなり天使とは程遠い。
 彼女が天使であることはあらゆることから見て疑いようも無いのだが、彼女の言葉や仕草はどうも天使らしくない。
 先ほどから彼の頭の中で、神の御使いである天使のアンジェと、ただの少女のアンジェ、が交互に浮かんでは消えていっている。

「ちょ、アンジェちゃ……あひぇぇ」

 やめるように声をかけようとするが、自分の情けない声がそれをかき消した。
 未熟の証である皮の中に舌を入れられ、その中で引きこもる亀頭を舐め上げてきているのだ。
 快感に何度も跳ね上がる顎を、気合で下ろしてみれば、皮被りの亀の頭を咥えるアンジェと目が合う。
 その時、アンジェの目が笑い、片手を幹に添えたかと思えば。

 思いっきり皮を剥かれた。

「ひきぃ!」

 股間に再び衝撃が走った。
 鋭い感覚にフィルが短い悲鳴を上げる。
 そして、涙目で抗議の視線をアンジェに向けるフィル。
 まるで追い剥ぎにあった気分だった。
 股間の息子が着込んでいた皮の服を無理やり剥がされたので、あながち間違いではない。

「んふふ……ちゅっちゅ♪」

 しかし、彼女は追い剥ぎではなく天使である。
 自ら剥き出しにした鈴口に何度もキスの雨を注ぐと、震えながら勃起していくペニスの先を口内に迎え入れた。

「はむっ……ねろれろ……」

 口内に招いた亀頭を、ねっとりと舌で舐め回され、唇はカリ首を食むように刺激された。

「ちゅぷぷっ……んむぅ……はぁ……ちろちろっ」

 そうして完全に怒張した男根の鈴口をねろりと舐め上げると、そこを軸にくるんくるんと回転しながらカリ首まで下っていく。
 かと思えば、口から陰茎を離して舌先で鈴口をちろちろっ、と見せ付けるように舐められた。
 あくまでも優しく、静かで、まったりとした刺激に、フィルの頭も理性や思考が溶かされ、何処へと流されていく。

「ひぁ、はぁぁ……」
「気持ちいい? それじゃ、もっとしてあげる……はむっ」

 喘ぐフィルに気を良くしたのか、アンジェは亀頭を咥え、唇で扱き始めた。

「んふぅ……ちゅぷっ……じゅぶぷっ、れるっ……ふむぅ……」

 それでもやはり動きはゆっくりで、時折思い出したように舐め上げてくる舌が、少しずつ昇り詰めていく快感を加速させていく。

「うあぁ……きもち、いい……」
「……♪」

 思わず漏れた言葉に、アンジェが嬉しそうに表情を緩ませながら、ストロークを少しだけ激しくした。

「じゅぷっ、ぢゅぽ、じゅるるっ、えるっ、んむぅっ」

 いきなり強くなった快感に、掴めない壁を掴もうと両手に力が入る。
 立っていられるのが不思議なほどに膝はもうがくがくだった。
 首を横に振るフィルに、悟ったアンジェはこくんと頷く。

「ちゅるっ、じゅっぽっ、ふぶぅ、はむっ、んるぅっ、じゅるっじゅるるっ――ちゅうっ♪」

 そして、彼女が最後に唇を鈴口に当てて、軽く吸った瞬間。

「――っああぁぁぁ!!」

 白く濁った幸福が吐き出された。

「んくっ、ぷふぁっ、熱っ!」

 大きく震え動く怒張はアンジェの口から離れ、主に彼女に対して四方八方に精液を飛び散らせる。
 しかし、彼女は嫌がる素振りも見せず、目を閉じて甘んじて顔で受けている。
 射精を終えると、疲労と余韻によってとうとう膝が崩れ落ちる。
 膝どころか上半身まで地に落ち、顔の高さが自然とアンジェと同じ位置になった。

「んんっ……終わった……?」

 そう言いながら、アンジェが目を開ける。
 白く清い天使に白く汚れた液体という、対極に位置する同色が、あとは消えていくはずの欲望の火を再び燻らせる。

「これがフィルの精、なんだ……」

 そんなフィルの欲情を悟ることもなく、アンジェは顔についた精液を手で掬い取り、まじまじと見つめたあと、躊躇いもなく舐め取った。

「これが精液の味なんだ――ふーん」

 その最後の納得したような言葉からは感情が読み取れない。
 ただ、苦いと感じているのか。それとも美味だと感じているのか。
 それがどちらと感じているかで、彼女がどちら側に属しているのかが判明するのだが、フィルにはそんなことは到底どうでもいいことだった。

「アンジェちゃん、ごめん」
「え、なんであやまっ――にゅおっ!」

 彼女は言葉を言い切ることなく、フィルに押し倒された。
 彼の理性は、バックドラフトを起こした性欲の火により消え去ったのだ。
 いきなり押し倒され、さすがのアンジェも戸惑いを見せた。

「えっ、あっ、えっ?」
「僕、もっと幸せになりたい」

 その言葉を示すように、復活したかつての皮被りをアンジェの太腿に擦り付ける。

「えぅ、あ、あはは……さっきと変わらないまま……だ、ねっ」

 この後の展開を想像して、少しの焦りと期待が、彼女の言葉には見え隠れしている。
 ただフィルはまだまだ未熟者を脱却したばかりである。また、射精したばかりのそれは先ほどよりも敏感になる。

「……フィル?」

 贅肉が無く、しかし弾力の良い太腿に擦り付けるだけでも天にも昇る気持ち良さだったのだ。
 ただただ、本能的に欲望の塊を魅惑の腿に擦り付けて刺激する。

「ちょ、ちょっ」

 そこで行為を始めた彼に、アンジェはもちろん困惑する。
 何とか止めさせようと擦り付けられている太腿を動かすが、それが却って彼に予期していない快感を与えてしまう。
 どうしようか考えていると、太腿にあたるそれがびくびくし始め――

「ちょーーっ!」

 アンジェのどうにもならない叫びの中、フィル、本日二回目の幸福を手にする。
 絶頂の幸福に浸るフィルに、脚でそれを受け止めるアンジェ。
 射精が終わり、満足げな表情で彼女に崩れ落ちるが、彼女の顔には何だかやるせなさで満たされていた。
 しばらくはフィルの重みを甘んじて受けていたが、やがてその身を震わせ、彼の両肩をがしっと掴むと。

「……っにゅおあああああ!」

 不満を爆発させた奇声と共に、天使らしからぬ凄まじい腕力で覆いかぶさっていたフィルを押し倒した。
 見事に立場を逆転させたのである。
 アンジェに押し倒されたフィルは困惑真っ最中だった。

「何でそのまま出してんのよ! 入れなさいよ!」

 顔を真っ赤にして怒るアンジェだが、その顔の赤味には恥ずかしさの成分が半分ほど入っている。期待していた自分が恥ずかしいのだろう。
 しかし、それでもフィルの困惑は深まるばかりである。
 ほぼ本能的に動いていたが故に、彼女の言うことが全く理解できない。

「えっ、入れる? ど、どこに? 口に?」
「ど、こ、って……っ!」

 あまりに的外れすぎる彼の言葉に、アンジェはぷるぷると震える。
 それを自分から示すには恥ずかしすぎる。しかし、直接見せてやらなければ分かってもらえないだろう。

「ここにっ!!」

 アンジェは涙目で叫びながら、萎えきらないペニスを掴み、自分の秘所をフィルで示す。
 そこは既に愛液で大洪水を起こしていた。
 彼はそんな蜜壷を少しだけ見惚れていたが、すぐにアンジェの顔を見る。しかし、彼女の意を決したような顔を見て悟ったのか、また視線を性器へと下ろした。

「……っ」

 彼の男根を秘部に宛がうと、一度深呼吸してから、意を決して腰を降ろした。

「んっ、あ、はぁ……っ!」
「うぁ――っ!?」

 アンジェが破瓜の感覚に声を漏らす。
 フィルも彼女の中で何かを無理やり引き裂いたのを感じた。
 慌てて結合部を見れば愛液に混じって血が垂れている。
 彼の目が見開き、顔は青ざめた。
 それが何かを理解していなければ、背筋が冷えるような感覚だろう。

「あ、アンジェちゃん、大丈夫!?」
「だ、だいじょう、ぶい……」

 ダブルピースで笑顔を作るアンジェ。
 思っていたより余裕そうである。
 しかし、フィルに気付ける余裕が無く。

「ち、血が出てるけど!」
「だいじょうぶ、だから」
「い、痛くないの!?」
「もうよく、なってるからっ」
「で、でも――んんむっ!」

 それでも食い下がると、アンジェの顔が迫ってきて、口で口を塞がれた。
 まさかこんな状況でキスされるとは思わず、ただただ驚いていると、彼女の舌が口内に不法侵入してきた。
 予期せぬ侵入者に慌て、追い出そうと舌で外へと押し出そうとする。

「んぅ……ふふん……」

 最初は押し出されるままがだった彼女だが、出口付近まで来るとするりと脇を抜けて舌の横部分をてろてろと舐められる。
 その後を追って再び押し出すが、くるりと舌の裏に逃げて、そこを撫でられる。
 こちらの舌の動きも巧みに利用されて、結果的に深く舌を絡めることになる。

「んっふふふっ♪」

 アンジェは楽しんでいた。手玉に取るのが楽しくて仕方がないらしい。
 これはどうにもならないと諦めて無抵抗になると、今度は構って欲しげに舌先をちろっ、ちろっ、とちょっかいをかけてくる。
 どうすれば良いのか分からずにいると、ふと口内に溜まっていた唾液が口の端から溢れそうになるのに気付き、無意識的に漏らすまいと唇に力を入れて吸い込んだ。
 それは当然、彼女の舌を唇で強く挟み、吸うことも意味していた。

「――んんぅ!」

 突然の吸引に、彼女に快感に身体をぞくりと震わせ、反射的に膣がキュッと締まった。
 股間から強い快感が流れ込んでくるとは思わなかった彼は、何故か再び彼女の舌を強く吸った。
 それにより、快感の波が引かぬ内に新たな快感が送り込まれ、彼女の膣内が一気にざわめく。
 と、急にアンジェが顔を離して、フィルを見下ろす。

「んはぁ……あぁん、もうっ……そんなことされたらっ」

 どこか嬉しそうに言いながら、アンジェは目を細めて舌なめずりをする。
 その仕草は、天使のような慈愛に溢れたものではなく――

「――我慢、できなくなるでしょっ♪」

 ひどく淫らな獣欲に満ちた、魔物そのものだった。
 そう言った次の瞬間、彼女は腰を激しく動かし始める。

「うぁひぁぁ、アンジェちゃん!?」
「はっ、あぁん、なにっ、これぇ♪」

 いきなり男根を刺激され、フィルが驚きと快感の混ざった情けない声を上げた。
 しかし、アンジェもまた初めて味わう快楽に夢中になっていて、その声は届いていない。
 アンジェが動くたび、結合部からはにゅぷにゅぷと、粘液のかき回す音が聞こえてくる。

「ほらっ、フィルも、動いてよっ」

 さらなる快感を求めて、腰を動かしながらフィルに催促してきた。
 陰茎が膣内に深く入るたびに、膣壁は収縮し、ほどよく締め上げてくる。
 アンジェの表情は口の端から涎を垂らすほどに蕩けていて、既に痛みはなくただ快楽だけを感じているらしい。
 それを悟ったフィルは、彼女を下から突き上げた。

「あひぁっ、きたっ、もっときたぁっ♪」
「うあ、これっ、すごっ!」

 より深く入ってきたフィルに歓喜の喘ぎ声を上げるアンジェ。
 それを示すように、彼女の膣肉もうねるように蠢き、肉棒を先ほどよりも強く扱き上げてきた。
 快楽に頭が侵され、自然と突き上げる腰が大きくなる。
 それに伴い、入れた先に、コツコツと壁のようなものに当たる。

「んっ、ひぃっ♪ おくぅ、当たってる♪」
「お、く?」

 彼を求めて、下がりきったアンジェの子宮口に彼の分身が届いたのだ。
 そこをノックすると彼女はさらに悦び、膣壁の動きがどんどん激しくなる。
 それを知ったフィルは、彼女の腰を掴んで自分の元へと引き寄せる。

「にゅあっ、フィルぅ!?」

 そして腰を突き出し、その奥を執拗にぐりぐりと擦り付けた。

「はっ、ひぁっ、らめっ、そのぐりぐりらめへぇぇぇ♪」

 アンジェが呂律の回らない舌で嬌声を上げる。
 フィル自身も、擦り付けている部分からもたらされる快感に心奪われ、やめることが出来ない。

「おかっ、おかひっ、おかひくなぅぅぅ♪」

 彼女の膣内に、収縮と拡散の運動が交互に起き始める。彼の陰茎も、射精欲にびくびくと大きく震え上がっていた。
 それでも、子宮口を破らん勢いで擦り付けることはやめられず、アンジェも腰を横に動かして擦る強さを大きくしてくる。

「はっ、はひぃぃ、らめっ、もうらめ、らめらめらめぇ♪」

 そう彼女が叫んだ瞬間が膣内、きゅううう、と強く狭まり、フィルの男根を締め上げてきた。
 強烈すぎる快感に、視界が飛び、身体が大きく跳ねた。
 それによって、上に乗っていた彼女の身体も大きく跳ね上がり、密着していた二人の性器が離れ、フィルの肉棒が外気に晒されていく。
 抜ける直前に、彼を逃すまいと彼女の膣肉がさらに収縮したことが、決定打になった。

「――――!!」
「あっふあああああぁぁぁぁ♪♪♪」

 二人は幸福の絶頂を、ほぼ同時に迎えた。
 声にならない声を上げながら、三度目とは思えないほどの勢いで精液を吐き出していく。
 それが彼女の身体のありとあらゆる部分を叩いていく度に、アンジェの身体はびくんびくんと何度も痙攣した。

「ひはっ、はひぁ……あはぁ……♪」

 天使の面影など消え去ったアンジェが、初めに見たときよりも灰色に濁った翼をゆっくりと羽ばたかせ、恍惚とした表情で虚空を見つめる。
 そんな彼女の姿を見つめながら、心身共に疲労で限界が来ていたフィルは、ふっと意識を手放した。





 目を覚ますと、そこは自室のベッドの上だった。
 身体を起こしてから窓を見ると、明るい光が部屋に差し込んできている。
 しばらく呆けたあと、フィルはベッドから抜け出して自室を出た。

「おはよー」
「おはよ……」

 自室からリビングに出ると、先客者から挨拶をされたので、それを返しながら流し台へと向かう。

「パン焼いておいたから、冷める前に食べなよー」
「あ、うん」

 流し台の水で顔を洗い、すぐ近くにあるタオルで塗らした顔を拭きながら返事をする。
 そして、テーブル手前に位置する椅子に座っている先客者の脇を通り抜け――ようとして、立ち止まった。
 先客者に顔を向ける。
 そこには、見知らぬ少女がトーストを齧っていた。
 見知らぬ、とは言うが自分の記憶にある姿から、ある面影を感じることはできる。

「あ、アンジェ……ちゃん?」
「ん? そだよー」

 試しにその名を呼んでみると、彼女はあっさり肯定した。
 しかし、金色の髪は銀色に代わり、白い翼は黒く染まり、陽の光を知らない白い肌は青白く変色していた。
 ぱっと見ただけでは全くの別人と化していた

「…………」
「……ん? どしたの?」

 しばらく、彼女の様子を眺めていると、相変わらずトーストを齧りながら、こちらに視線を向けてくる。
 まるでそこにいるのが当たり前のようなアンジェの態度。
 だが、フィルにとってはただの不法侵入者には変わりなく。

「うわああああああ!!」
「にゅああああああ!!」

 とりあえず叫んだら、彼女も奇妙な叫び声をあげた。

「な、なに!? なになにどうしたのほんと!?」
「どっ……! あっ……! えっ……!?」

 動揺しながらも、ちゃんと舌も回るアンジェだが、対するフィルはその後の言葉が続かなかった。
 聞きたいこと全てを、一度に出そうとしたせいだろう。

「ま、まぁ、落ち着いて、座って」

 彼女に諌められ、言われるままに向かい合わせに座ると、トーストの乗った皿と、紅茶の入ったカップが目の前にあった。
 空腹には敵わず、トーストを齧ると、焼きたての香ばしい味が口の中に広がった。
 さらにミルク色に染まりかけた紅茶を飲むと、これまた紅茶の香ばしい味が喉を通っていった。

「……とりあえず、昨日のあれは夢じゃないから。ばっちりヤってるから。じゃなきゃ、わたしこんな姿になってないから」
「??」

 ある意味、根本的な説明ではあるが、後半部分については、フィルに理解できるはずがなかった。
 そんな様子を見てアンジェはふぅ、と息をついた。

「ま、考えないで感じてよ。多分、そんなもんだから」
「アンジェちゃんが僕の家にいるのも?」
「そんなもんだから」

 実際はアンジェがフィルを気に入っているからだが。

「お父さんとお母さんが家にいないのも?」
「そんなもんだから」

 実際はアンジェがフィルの寝ている間に、彼の母親を堕落させて父親と共に万魔殿へ飛ばしたからだが。

「……アンジェちゃんが、黒くなったのも?」
「うん、そんなもんだから」

 実際はアンジェがフィルを襲ったことによって快楽に目覚め、完全に堕落したからだが。
 しかし魔物の性質上、そんなものであると納得するのが、ある意味では正しいのかもしれない。

「そっか……そんなもんなんだ」
「そうそう。だから――」

 フィルよりも早くトーストを食べ終わったアンジェが、黒くなった翼を羽ばたかせた。
 そして、テーブルを飛び越え、すとんっとフィルの膝上に、向かい合わせで座ってきた。
 必然的に二人の距離は密着する。彼の首に両手を回し、淫靡な笑みを浮かべる。

「……え」
「こうなっちゃうのも、そんなもんだから」

 ややもすれば、すぐにキスが出来る距離。蒼から葡萄色に変化した目に映る自分の顔は、驚いてこそいるがどこか落ち着きのある表情だった。

「ま、まだパン食べてないけど」

 そう言うフィルの手にある齧りかけのトーストを、アンジェが奪い取った。

「じゃあ、食べさせてあげる」

 そして自分が齧り、口の中で咀嚼したあと、おもむろにキスをしてきた。
 彼女の唇の柔らかさを身体が覚えてしまっているのか、フィルの意思とは関係なしに脳が蕩けそうになる。
 その直後に流し込まれた固形物を、咄嗟に押し戻そうとするが、続いて入ってきたアンジェの舌がそれをさせてくれない。
 仕方なく飲み込むと、自分で食べた時とは違う、ほのかな甘さがあった。
 しかし、唇は離されることはなく、気付けば彼女に股間を露出され、手で撫で回され屹立させられる。

「ちゅぅ……んっ……ふふ……♪」

 フィルは悟った。
 次にトーストを食べることが出来るのは、冷め切ったあとだろう、と。
 それもきっと、そんなもんだから、と自身で納得し、目の前の堕ちた天使に合わせて、舌を絡ませるのだった。
12/12/18 18:41更新 / edisni

■作者メッセージ
アンジェは堕落するまではもっと"可憐な天使さま"でいるはずだったんですが、気付いたら別の意味でフルスロットルな女の子になってました。

一体どうしてこうなった。

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