黒髪愛絡
それは、陽光も穏やかな巳三つ時だった。
青く晴れ上がる空の中でも小さな人里の村は閑散としている。と言うのも、この時刻ともなれば早々暇な者などいない。
それでもどこか穏やかな雰囲気が村にあるのは、それだけこの場所が平和である証を示していた。
そんな中、とある民家の戸が、がらりと開く。
中から出てきたのは一人の少年。まだ元服を迎えようとしているか否か、の年頃である。
後ろ手に戸を閉めたところで、目の前に何か落ちているのに気が付いた。
それは小豆色の小さな布地だった。小さな手拭のようなものだろうか。
梅の花が小さく模様付けされたそれは、手に持った質感だけで、高価なものだと思わせるほどだった。
誰のものかと周りを見渡せば、すこしだけ距離の離れたところに、黒い塊があった。
まるでそこにあるだけで全てを飲み込んでしまうような、漆黒の塊が奥へとゆっくり進んでいる。
あまりの異質な姿に驚くが、声を上げないように息を呑む。
その瞬間、黒い塊から、自分が手に持っている布地と同じ小豆色の物がちらりと見えた。
目を凝らして見れば、その黒い物は地面に近づくにつれて、いくつにも分かれていた。
まるで生き物のように蠢いてはいるが、その漆黒は引きずられているだけのようにも見える。
ちらちらと見え隠れする小豆色に、確証は無いがどこか確信めいた物を感じて、少年はそれに駆け足で近づき、距離を詰めたところで――意を決して声をかけた。
「……? あら……」
少年の声にそれはぴたりと止まると、何と声を上げて振り返ってきた。
その姿に、今度は別の意味で息を呑む。
そこにいたのは、小豆色の着物姿に身を包んだ妙齢の女性であった。
手に持った布地と同じ、梅の花で模様付けされたその着物により、確証と共に確信を得る。
そして、どうやら漆黒の塊の正体は彼女の長い長い黒髪だったらしい。
さらに距離を詰めて近寄ってみると、その黒髪は太陽の光に反射して艶を放っていることに気が付いた。
「これは可愛い殿方様……何か御用ですか?」
顔半分が黒髪を覆っていても気にした様子も無く、女性は首を傾げる。
その動きに伴い、彼女の白い首も視界に移った。
黒い髪からの白い肌に、どきりと胸が高鳴る。
その高鳴りを誤魔化すように、手に持っている布地を差し出した。
「あら……これはわたくしのです……これをどこで?」
その問いに、少年が自分の家を指差しながら、家の前で落ちていたのを拾った事を話した。
女性は話を聞いたあと、彼が指を差した家と、彼自身を二度三度見比べると、目を細めながら布地を両手で受け取る。
「そうでしたか……くすっ……落としてしまったのを拾っていただいたのですね」
布地と共に少年の手にも優しく触れ、顔を近づけてくる。
近く。もっと近く。さらに近く。
視界が女性の顔で埋まってしまうほどに。
彼女の目の下に、ほくろがあった。俗にいう泣きぼくろという物であるが、そんなことは大したことではない。
「……ふふっ……」
顔を逸らすことはおろか、目を逸らすことも出来ない。
まるで金縛りにあってしまったかのようだった。
黒い髪よりも暗い、彼女の瞳が少しだけ妖しく光ったような気がした。
布地を持った手の甲や指に、彼女の指先が絡みつくように撫で回る。
ぞわぞわとした感覚が背筋に走り、自らの心までもが彼女に絡みついて囚われていくようだった。
――そして。
「ありがとうございます……優しくて、可愛い殿方様」
その言葉と共に、穏やかににっこりと微笑んだかと思えば。
女性がスッと少年から距離を離す。
少年が持っていた、着物と同じ小豆色の布地を手にしながら。
その瞬間、後ろ側で戸の開く音がした。
女性は既に、背を向けて歩き出している。
後ろから聞こえてくる、自分を呼ぶ声がどこか遠くのことにように感じていた。
小さくなっていくその黒い塊を、ただただ眺めていることしか出来ず。
その黒い塊が向かう先は――今は誰にも使われていない空き家だった。
それから、あの女性はこの村に住むことになったようである。
以前は騒がしい場所で生活を営んでいたので、自然に囲まれた場所で静かに穏やかで過ごしたいということであった。
とは言え、あれだけ綺麗で特徴的な黒髪を持ち、どこか妖艶な雰囲気を持った女性となれば、村中で注目の的になるのも仕方のないことだろう。
村の男性は彼女自身に、女性はその綺麗な黒髪に憧れを抱き、この小さな人里の話題の中心になるのは当然といえば当然であった。
どこか亡国の姫君ではないかだの、頂点に立つ遊女であったが策略に遭ってその場にいれなくなっただの、彼女の経緯に噂をするものも少なくはない。
しかし、その邪推とも言える噂も、時が経つに連れて、少しずつ霧散していくことになる。
というのも、彼女自身が村人との関係を良好に築いていったからである。
家からあまり出ない、という点はあった。あの白い素肌を持っているのであれば、日光を好まない性格であるという事は想像に容易い。
逆に言ってしまえば、それだけだったのだ。
たまに外で見かければ、すれ違い様に笑みを浮かべて自ら挨拶をするし、足を止めて村人と会話をすることもある。
何か頼みごとをすれば、出来る事であれば快く引き受けてくれる。
容姿だけではなく、その性格も評価され、彼女は瞬く間に村に溶け込んでいった。
あの日、布地を渡した少年も、彼女を遠目から見かけることや目が合うことは度々あった。
その度に、彼女はこちらを見て優しく微笑みかけてくれる。
それに対して、少年は胸が高鳴り、恥ずかしくなってしまう。
頭を軽く下げて彼女から見えない場所へと逃げるように移動するしかなかった。
だから、あの日以来、彼女と話をする機会は一度もなかったのである。
ある日、少年はあの女性に用があった。
昼食時を終えて少し経った、未の刻中である。
あの女性が住み始めた元空き家の戸の前で、中にいるだろう家主に声をかける。
程なくしてその戸が開き、中からいつかの女性が顔を出す。
全てを飲み込むような長く黒い髪から覗く、白い素肌にどきりと胸が高鳴る。
「あら……どなたかと思えば、あの時の――可愛い殿方様ではありませんか」
小さな来客に優し気な笑みを浮かべる女性。
対する少年は、用件を口にしようとするが、上手く言葉に出来ない。
「とりあえず、ここで立ち話もなんですから……中へどうぞ」
その少年を見かねたのか、女性は笑みはそのままに、薄暗い家の中へと戻っていく。
少年もそれについていく。
そして、その戸は誰に触れられるでもなく――ゆっくりと閉められた。
家の中は質素な佇まいであったが、綺麗に纏められていた。
物も少なく、必要最低限の物しかないのか、少年の家よりも広く感じられる。
まだ日が高い事もあってか、中に明かりはついておらず、窓から差し込んでくる日の光だけが、唯一この家の中を照らしている。
やや薄暗さを感じる部屋の中、お互いに向かい合った状態で座り込む。
「それで、一体どうしました……? わたくしの家にくるなんて」
そう言われて、少年は困惑した。
用があった。それは間違いなかった。
しかし、その用事自体が何なのか――自分にもわからなかった。
「また……わたくしの落とし物を、拾っていただけましたか?」
そうだったかもしれない。
少年は自らの服をまさぐると、服の中にはいつか見た小豆色の布地があった。
以前見た時と違うのは、そこには目の前の女性と思わしき、長く黒い髪の毛が、多数挟まれているということだろうか。
しかし、これをいつ見つけたのだろう。
これをどこで拾ったのだろう。
それがわからない。
覚えていない。
しかし、これは彼女の物である。
ならば、それを元の持ち主に返すのは必然である。
だから、自分はこれをこの人に渡さなければならない。
ぼんやりとしてきた頭でそう考えながら、それを女性に差し出す。
「あぁ……また……落としてしまったのですね……ありがとうございます」
女性はそう言いながら、両手でその布地を受け取る。
そして、いつかと同じように、その両手は布地だけではなく少年の手にも触れてくる。
しっとりとして、それでいて優しく撫でるような手つき。
そして、その綺麗な顔を近づけてくる。
彼の視界が、あの時のように女性で埋まる。
その目に、女性以外の物が映らないように。
その漆黒にも見える眼がこちらを覗き込み、心までもが飲み込まれて、深く深く落ちていくような感覚。
「ふふっ……」
そこまで近づいて、彼女の目が細められる。
目を逸らせない。金縛りのような感覚。
その指に、手の甲に、彼女の指先が絡みつき這い回る。
「ですが……いけませんよ。殿方が一人で……わたくしみたいな女性の元に来てしまうのは……」
すすす……っ、と地面を何かが擦るような小さな音が、耳に入る。
しかし、それが何かを確認することは叶わない。
視界はすでに女性で埋まり、目を逸らすことも出来ない。
気付けば、女性の指先は、少年の腕にまで絡みついて来ていた。
「自らが子供だと思っていても……殿方であることには変わりませんから」
そして、その指先が肩にまで登ってきたとき、優しく押し倒される。
覆いかぶさってきた女性の顔は、相変わらず視界を支配していた。
彼女の頭から、背中から垂れてきた髪の毛が、まるで少年の身体に纏わりつくように、垂れ下がっている。
否、それは本当に纏わりつき、少年の身体を固定していた。
少しだけもがいてみるが、その四肢はもはや動かす事すら叶わない。
「特にわたくしみたいに……あなたに心を奪われてしまった女性には……用心しなければいけませんよ?」
そう言いながら、女性は頬を撫でてくる。
優しくくすぐるような、むず痒い撫で方。
目の前に彼女の顔がさらに近付く。
「ん……ちゅっ……」
接吻。
唇と唇が触れ合い、強く押し付けられる。
それに伴い、身体も降りてきて、密着する。
柔らかな身体に、少年の中で眠っていた何かが燻る。
「ちゅぅ……あむっ……れろっ……」
唇が吸引され、啄まれ、舐め回される。
恐怖を吸い取り、溶かされるような、甘く優しい接吻。
彼女からもたらされる快楽の電流に、身体がわずかに震えた。
「……ふふっ……んっ……」
その反応に気を良くしたのか、彼女は笑みを漏らし、その舌先が口内にまで侵入してくる。
歯を撫でられ、歯茎を撫でられ、その舌は裏側をも這いずり回る。
口内の全てを蹂躙した後で、とうとうそれは少年の舌に絡みついてきた。
「……んむっ、ちゅっ……」
舌先を頂点に、とぐろを巻くように、根元まで余すところなく舐め回される。
ねっとりと全てを絡め取られ、頭の芯から蕩けていくような感覚。
口内の全てを蹂躙された後に、ようやく唇が解放される。
二人の唇に、粘性の強い雫が糸を引いて橋を架け、それはやがて少年の顔へと落ちていく。
「そんなに息を荒くして……可愛らしい……」
頭に靄がかかり、視界上の物を明瞭に映す力すら残されていない。
しかし、不明瞭な視界の中でも、目の前の女性の姿だけは、はっきりと見ることができた。
「ずっと……ずっと、待ち侘びていたんです。あなたがわたくしに初めて話しかけてくれた、あの時から」
今までの彼女らしからぬ、白い顔に上気して朱を差した頬。
その黒く、暗い目はただならぬ光を帯びていて、口はだらしなく開いている。
今の彼女は、遊女などとは比較にもならない淫靡さを放っていた。
「こうやって、あなたがわたくしの元に来てくれるのを。その純真な瞳がわたくしだけを見て、その純潔な身体がわたくしだけを覚え、その無垢な心がわたくしだけの物になって頂ける――この日を」
今までにないほど饒舌に、その眼に情欲の炎を灯らせながら、その女性は語る。
息を荒くし、こちらの身体にその黒髪をさらに絡ませてくる。
黒髪を絡ませてくる、というよりも、ひとりでに黒髪が身体に絡みついてきていた。
絹のように――いや、絹以上に滑らかな感触が、素肌に這い回る。
それが衣服の中にまで入り込み、上半身を撫で回す。
黒髪が擦れ、くすぐったさと、内に眠る何かを呼び起こすような、むず痒い感覚。
「……あぁ……たまりません……これがあなたの味……!」
女性の顔が先ほどよりも蕩けた、淫猥な表情へと変わり、その身を震わせる。
その震えが、髪の毛に伝わり、触れている素肌をくすぐってきた。
「はぁ……ふふっ、ふふふふふ……」
狂気を感じる程の笑いを浮かべながら、髪の毛が、今度は下半身にも伸びていく。
本能的にまずい、と感じた。ここから逃げなければならない、とも。
しかし、身体は動かない。
そもそも、この状態で動けたところで、髪が服の下まで潜り込まれているこの状況で、逃げることなど不可能だった。
髪の毛相手では衣服など何の意味も成さない。
するり、と黒髪が素肌と服の隙間に入り込み、それはいとも容易く腿まで絡みつく。
「はぁ、はぁ……もう少し、もう少し……」
女性は相変わらず溶けそうなほどの黒い眼をこちらに向けている。
顔は先ほどよりも紅に染まり、開いた口から溢れ出る涎はこちらに滴り落ちる。
眼が合い、しばし見つめ合うと、その女性は口角を上げて笑みを浮かべた。
その笑みはいつもの優しい物ではなく――獲物を食らうような、ひどく恐ろしい物に見えた。
そして、黒髪はとうとう少年の局部へと絡みつく。
「――あぁ……!」
身体を貫くような鋭い感覚に、身体が跳ねる。
その様子に、相手の女性も艶やかさを増した笑みで身体を震わせた。
何がどうなっているのかわからない。
服の下で行われている蹂躙が、感覚だけで察することしかできない。
しかし、股間への刺激こそありはするものの、全身を這い回る髪の感触に覆い隠されてしまう。
「……ふふっ、気になりますか……自分の身体が、どうなっているのか……?」
そんな少年の心を察したように、女性が掬い上げる。
その艶のある笑みは変わらず、しかし、それを見てしまってはいけないと本能が警鐘を鳴らすような表情。
しかし、何も知らない事よりも、知っている事の方が恐怖は薄い、と考えた少年は迷わず首を縦に振る。
「わたくしも、あなたの身体を……生まれたままの姿で見たいと思っていました」
そう言いながら、女性は身体を起こして少年に跨り、動けない彼の代わりに、衣服に手をかける。
帯に手をかけ、結び目を解いた後は、嬉しそうに顔を綻ばせるだけで、それ以上の事はしようとしない。
「さぁ、わたくしに……わたくしだけに、見せてください……あなたの全てを……」
しかし、彼女の動きとしてはそれで充分だった。
髪の動きに合わせて勝手に衣服が脱げていく。
ゆっくりと、焦らすように、時間をかけて衣服が少年の身体から離れていく。
髪が動けば、素肌を擦られる。股間にも流れる弱く優しく、むず痒い感覚は、彼の頭を桃色の靄で覆い、まともな思考を出来なくさせる。
そうして晒された彼の裸体には、しかしほとんどが黒く染まっていた。
正確に言えば、彼女の黒髪によってその素肌は半分以上覆い隠されている。
黒い布をその身に纏っていると言われれば、信じる人も出てくるだろう。
「あぁ、はぁ……本当に可愛らしい……!」
しかし、少年の股間にある小さく勃起したそれは、わかりやすくその形を示していた。
自らの身体の知らない変化に戸惑うが、その戸惑いすらも髪の愛撫による見知らぬ感覚によって押し流されていく。
「小さくも立派に屹立したこの姿……あはぁ……見るだけで達してしまいそう……」
黒髪を纏っただけの、部屋の天井を指し示すその小さな怒張を見て、女性の顔がだらしなく蕩ける。
そして、少年の陰茎を包み込んでいる黒髪は、その感触を確かめるように這いずり回る。
まるで無数の手で、その性器を余すところ無く撫で回されているような感覚に、身体の震えを止めることが出来ない。
訳のわからない感覚に、首を何度も横に振るがそれは無駄な抵抗ですらなかった。
「んんっ……ふっ、この未熟な”あなた”を、わたくしが、立派な”殿方”にしてさしあげます……」
そう言うと共に、股間に這い回る黒髪が、その皮に包まれた先端をくすぐる。
突き差すような、痛覚をくすぐられる感覚に、顔を歪める。
その様子を見てか、女性がこちらに顔を寄せて、眼を細めて微笑む。
見慣れた、優しく穏やかな微笑みだった。
その顔に見惚れた刹那、包皮の内側へと黒髪が押し寄せてくる。
「……んっ、ふふっ、ふふふふふっ……!」
先ほどの突き刺すような鋭い痛みにも似た感覚が、絶え間なく送り込まれ、悲鳴が上がる。
包皮が外側へと剥かれ、中で眠っている亀頭を無理やり露出させられる。
黒髪が、全方位からそれを、ゆっくりと、じっくりと行っている。
包皮を剥く過程で、中にある先端にも擦れ、それが鋭い痛みのような物となって少年の脳髄を焼き焦がした。
「これで、あなたも……立派な”殿方”……」
包茎を完全に剥かれ、亀頭を剥き出しにされた事を祝される。
しかし、先ほどの永遠に近い苦痛のようにも感じた時間の後で、息も絶え絶えとなっている少年にはその言葉が耳には入っても、脳には届かない。
それでも、朦朧とする意識の中で、目の前にいる女性が、慈愛に満ちた笑みを浮かべている事だけはわかった。
身体を這い回る黒髪が、まるで労うかのようにゆっくりと身体を撫でさする。
だが、剥き出しの亀頭に触れる感覚は鋭く、あまりの辛さに身体を強くびくつかせてしまう。
どれだけゆっくりと、優しくされようと、その部位から伝わる刺激は、およそ身体が受け付けられないものだった。
「……お辛そうですね……それなら……」
女性が舌を出し、自らの手のひらを舐める。口内の唾液を手のひらに落とす。
そして、その手を、少年の下腹部へと伸ばしていく。
「辛いのは、あなたが”殿方”になりたてですから……致し方のないこと」
そして、粘性に満ちた感触が股間から伝わり、身体を震わせる。
彼女の細くしなやかな、唾液に塗れた手で肉棒全てを撫で回される。
「ですから……少しずつ、少しずつ……慣れていきましょう」
粘性を纏う水音が部屋に響き、彼の官能を刺激する。
ひとしきり撫で回したあと、待っていたように髪が擦りつけられる。
先ほどとは違い、粘性の音を纏いながら、鋭くも身体を弛緩させる不思議な感覚が身体を支配する。
先ほどは舐めていなかった片手も同様に唾液に塗れさせ、その両手で少年の上半身を這い回らせる。
「わかりますか……あなたが今感じているこの感触は……"キモチイイ”、ですよ……?」
身体を下ろして密着させ、少年の耳元で囁く。
脳髄を直接揺さぶってくるようなその声に、ぞわりと身体が震える。
しかし、不思議と嫌な感覚ではなかった。
「さぁ……一緒に口に出して……覚えましょう……?」
全身を擦れる感覚に、小さな水音が部屋で満たされる。
その音と、身体を這い回る感触に、まるで熱に浮かされたようにぼんやりと彼女の声に耳を傾けた。
股間から登ってくるこの感触は、はっきりと彼の身体に刻み付けてくる。
「キモチイイ……きもちいい……気持ちいい……」
彼女の言葉に合わせるように、彼女の黒髪が動く。
陰茎を撫でさすられる。
キモチイイ。
亀頭をくすぐられる。
きもちいい。
雁首を擦られる。
気持ちいい。
口に出すことで気持ちいい、という快楽の感覚をその身に、脳に覚えさせられる。
「あはぁ……素敵です……快楽に蕩けたその可愛らしいお顔……もっと、もっと欲しくなってしまいます」
この感覚が快感であることを知ってしまえば、無意識に抵抗していた心が解かれる。
彼女からもたらされる全ての刺激が、快楽に浸る物だと理解してしまえば、拒絶する理由も無くなる。
腰の奥から湧き上がる衝動。
これも快感によるものであるとすれば、我慢する必要もない。
「一度……出してしまいましょうか……」
股間を這い回る黒髪が、満遍なく撫でる動きから、上下に扱く動きへと変わる。
先端をくすぐり、雁首の裏側を擦る動きはそのままに、陰茎全体を上下に扱かれる。
意識を股間へと集中する。恍惚とする。
気持ち良すぎて何も考えられない。
女性は、艶やかさを含んだ優しい笑みでこちらを見ている。
心が落ち着く。不安はない。この人がいる。
「さぁ、吐き出してください……わたくしに、ください……」
そして、彼女が顔を深く寄せてくる。
「あなたの――精を」
唇を塞がれる。扱き、くすぐり、擦るだけだった黒髪が、陰茎を強く圧迫して締め上げる。
腰の奥から股間に湧き上がる何かを堪えることもできず、吐き出す。
小水とは明らかに違う、しかし勢いよく出される何かは、刹那的な快楽に満ちていた。
「んっ、ふぁっ……んふぅ……ちゅぷぅ……あはぁ……」
どろりとした白濁の何かが、黒髪の束の隙間から漏れ出し、天へと噴き上がる。
だが、黒髪に一度阻まれて勢いを失ったそれは、再び自らの身体に――纏っていた彼女の黒髪へと全て落ちていく。
その度に、女性は喘ぎ声を小さく漏らしながら、身体を震わせる。
それでも、口付けが止まることはない。
吐精の快楽に目の前が明滅し、心と身体が離れていくような浮遊感に陶酔した。
それでも、焦点の定まらない眼だけを動かして、何かを吐き出していく自らの性器を見る。
黒く包まれているそれから、自分が吐き出したと思わしき、どろりとした白濁した何かが溢れだしていた。
しかし、それは彼女の黒髪が吸い取る様に、無くなっていく。
後に残るのは、先ほどよりも艶の増したような女性の髪だった。
「あ、はぁ……思った通り……素敵です……」
怒張の脈動が終わる頃に口付けを離され、優しく頬を撫でられる。
そして、一度上体を起こし、彼の精液が付着していた黒髪を自らの手で掬い梳く。
「ですが……一度だけで物足りません……もっと、もっとわたくしにくださらないと……」
興奮していて気付いていないのか、彼女の着物がはだけていた。
着物と黒髪によって隠されていた、彼女の豊満な乳房も露わになる。
黒髪の中にある、上気して赤みを増した白い肌は妖艶さを増していて、思わず胸が高鳴った。
「くすっ、わたくしの身体が……胸が気になりますか……?」
常に少年を見ている彼女には、その視線の先がどこかなど既に明白だった。
既に官能に目覚めていた少年の目には、それはとてつもなく魅力的に映る。
見るだけでも柔らかさのわかる乳肉に、目が離せなくなっていた。
「そうですね、今まではわたくしが楽しんでいるだけでした……あなたにも、わたくしの身体を……楽しんでいただかなければ不公平ですね」
そう言って、彼女が着物をさらにはだけさせて、その乳房を晒す。
そして、彼の下半身へと移動すると――その陰茎を胸で包み隠した。
「……あら……あなたの全てが……わたくしの胸の内に、収まってしまいました……」
そう言いながら笑う女性が、中にある陰茎を確かめるように、胸を揺り動かす。
その言い方にからかわれているように感じて、恥ずかしさを覚えるが、射精した直後の敏感な陰茎を刺激されて、喘ぐ声しか出せない。
「可愛らしいお声……気持ち、いいんですね……?」
髪とは違い、陰茎全てを包み込まれるような抱擁感と安心感は、心地いい、という気持ちの方が強い。
しかし、わずかでも動かされるだけで、乳肉に吸い付かれるような感覚は確かに気持ちいい快感であり、恍惚としてしまう。
それが、様々な形を変えて、自身をあやしてくるとなれば、もはやなすがままに快感を享受することしか出来ない。
「もしかして……胸がお好きですか……?」
甘く柔らかな快感に心身共に弛緩してしまい、答える事は出来そうになかった。
それを見ながら、女性は笑みを浮かべる。
「それなら……このまま胸で……いたしますね」
乳房をゆったりと上下に動かす手は止まらない。
先ほどとは全く種類の違う、まったりとした、心を蕩けさせるような快感。
口から涎が垂れることも厭わず、その快楽に身を委ねる。
「だらしないお顔……とても可愛くて、素敵ですよ……」
そう言われて、顔を引き締めようとするが、それを察した彼女が両手の力を込めて、少しだけ乳圧を強める。
それだけで声が漏れてしまい、全身が脱力してしまう。
「ふふっ……そのまま……身体の力を抜いていてください」
すり……すり……と、布切れが擦れるような音が静かに響く。
浮遊感にも似た、夢見心地のような感覚。
飽きさせないように、たまに先端部を強く締め付け、柔らかくも強い快感を送ってくれる。
「……胸であなたを感じるのもいいですが……やはり、わたくしには……」
と、黒髪が再び股間に向かって伸び進み、根元から近づいてくる。
それはゆっくりと、先と同じように、少年の物へと纏わりつく。
「こちらの方が……あなたをより感じられるので……」
そして、絶えず動いているその胸と、抵抗無くされるがままである彼の一物の間にするりと滑り込み、螺旋を描くように巻き付いてきた。
胸が動く度に、髪の毛も擦れ、胸では届かない細かなところまでくすぐられる。
伝わってくる快感が、跳ね上がった。
「あはぁ……より強く、より深く感じられます……」
肉棒が強く震える。先ほどよりも深い快感に、先端から汁が、とぷり、と溢れ出す。
それを潤滑剤にして、部屋に響いていた静かな擦れるような音に、淫らな水音が小さく混ざり始める。
「んっ……はぁ……くすっ……漏れ出してきました……」
彼女が両腕に力を込め、震える怒張を根元から先端まで、乳房を両側から強く抑えながら扱き上げる。
ゆっくりと締め上げられる快感に、足の先から頭頂部まで、震えあがった。
胸の中に囚われて直接は見えなくとも、彼の男性器の内部から、再び何かが溢れだすのを自分でもはっきりと感じた。
「気持ちいいですか……? わたくしは――美味しいですよ……ふふふ……」
乳肉に揉まれる感触とは別に、溢れ出した何かを掬うように、先端をきめ細かな何かで撫でくすぐられる。
予期せぬ強い快感に、腰が何度も跳ねる。
それは陰茎に絡みつく髪だった。
胸の動きの合間に、髪が蠢き、こちらに刺激を与えてきているのだ。
「んふ……ふぅ……くすっ……」
少年の反応に気を良くしたのか、女性が目を細めて笑みを深めた。
乳房からもたらされる快感の中に、髪で亀頭をくすぐられる快感が加えられる。
別種類の二つの快感に襲われ、意識が弾け飛びそうになる。
「くすっ……胸の間の物が、強く震えましたね……?」
少年の限界が見えたらしい女性が、両手で胸に力を込め、小刻みに動かし始める。
腰の奥が再び疼き出した。
それを吐き出そうと、少年の腰も無意識に動き出す。
「あはっ……あっ……ふっ……ふふふっ」
少年の無造作な腰の突き上げに、笑みを漏らしながら、女性がその動きに合わせる。
突き上げれば、その乳房を腰に強く落とし。
引き下げれば、その乳房を上げて、先端にてその圧迫を強める。
そこに黒髪の愛撫も加わり、疼きはすぐさま股間の根元まで到達し、せり上がってくる。
「また、わたくしで吐き出してください」
淫らな水音だけが聞こえるこの部屋の中で、それでも彼女の声だけははっきりと聞こえた。
股間から流れる快感以外に、何も感じられなくなる。
疼きは既に肉棒の先端まで来ていた。
「さぁ――どうぞ」
そう発した瞬間、突き上げた時と同時に彼女の乳房がひしゃげる程に強く圧迫する。
その快感が引き金となり、再び白濁が迸った。
「んんっ……あぁっ……はぁ……あっ……」
吐精しながら震える肉棒を、胸の内で抑え込むように、乳房を横から押し付けられる。
その間も、上下する動きは止まらない。
中で巻き付く黒髪も、雁首の裏側を擦り、先端をくすぐる動きは継続していた。
鋭い快感が送られ、その快感を引き金にして、さらに精を吐き出していく。
胸の間から溢れ出し、それは彼女の顔や、黒髪にまで飛散し、白い化粧を施していく。
「あぁ……先ほどよりも……多い……」
恍惚とした様子で、胸の中から吐き出される精にその身を震わせながらも、なお動きを止めることはない。
射精が終わっても乳房で快感を送り続け、肉棒もその快楽に何度も震えた。
胸の中から、そして纏わりつく黒髪から解放されたのは、刺激を与えられても陰茎を震わせることが出来なくなってからの事だった。
「ご満足、頂けたようですね……?」
射精の余韻で放心状態となっている少年を見て、笑みを浮かべる。
奉仕して身体を動かした事もあり、彼女の顔の横に張り付く一筋の黒髪が、何故か淫靡に見えた。
動けない少年の下腹部に跨り、労わる様にその胸を上半身を撫でる。
「今度は……わたくしに、褒美をくださいませんか?」
彼女の着物は既にはだけきっており、その下腹部も惜しげもなく晒されていた。
その晒された秘所は既に愛液が垂れ落ちるほどに塗れて、その下にある少年の一物を濡らして愛液で湿らせていた。
それだけで、少年の萎えかけていた物が脈動し、再び屹立する。
しかし、その心に情欲の火が燻る事はあっても、それが燃え盛るには燃料が足りなかった。
少し待って、と彼女に訴えてみるが。
「あなたのここは、既にわたくしを貫く準備が出来ているようですよ……?」
女性がその腰を揺らせば、先ほどより、数段も粘りの強い水音が下腹部から響く。
それだけで、休みたい心とは裏腹に、身体がさらに火照るのを感じる。
彼の心を置き去りにして、身体が彼女を求めてしまう。
「それに、二度もその素敵な精を身に受けてしまっては、身体が疼いて仕方がありません……」
彼女が身体を前に倒し、こちらの頬に両手を添えながら顔を寄せてくる。
何度目になるかもわからない、視界を埋め尽くす彼女の顔。
今までは気付かなかった女性特有の甘い香りが、ふわりと鼻腔をくすぐり、心臓が高鳴った。
先ほど奉仕で動いたせいか、その顔は少し汗ばみ、額には雫の珠が浮かんでいる。
興奮で上気している事もあり、その白い肌は赤みを帯びて、先ほど以上に妖艶さを増していた。
この情交の中で、彼女から新しくもたらされる色香に、戻ってきたばかりの理性が甘く溶かされていく。
「わたくし、もう我慢ができません……」
股間に再び絹のような布地が纏わりつく感触。もはや見ずとも、それが彼女の黒髪だとわかった。
彼女が腰を浮かせると同時に、こちらの先端を彼女の秘所へと向けさせられる。
先端が、熱を持ったそれに包まれる。
「ですから、もう……挿れてしまいますね?」
こちらを見る眼は、相変わらず光も通さないほどに、暗く、黒い。
だと言うのに、何故か先ほどよりもその瞳の奥が見える。
そこにいたのは、無防備にもあられもない姿で、黒い物に全身を囚われている――自分の姿。
彼女が眼を細めた。
「さぁ――繋がりましょう?」
女性が一気に腰を下ろし、少年の小さな怒張を全て飲み込んだ。
あまりの衝撃に、悲鳴のような声が自分の喉から上がる。
「はあぁぁぁ……!」
腰の上の彼女が恍惚の表情で身体を震わせ、息を吐き出す。
しとどに濡れ、焼けるほどの熱さを持った膣内が、少年の一物を締め上げ、その理性と常識を快感で焼き焦がしていく。
年齢や体格は大きく離れているというのに、その膣内はまるで彼の大きさに合わせたかのように、小さく、そして狭い。
「感じます……あなたを、しっかりと……」
彼女は身体を起こし、蕩けた顔でこちらを見下ろす。
自らの下腹部に手をあて、愛しそうに眼を細めて撫でる。
そして、それを確かめるように、腰を揺らした。
少し動かすだけで、至る所から膣肉が彼の陰茎に吸い付くように締め付け、擦っていく。
少年がわずかに漏らした声を合図に、彼女が腰の上下運動を開始した。
既に濡れていた蜜壺から、さらに愛液が溢れ、互いの下腹部を濡らしていく。
あまりの快感にこちらから動かす事もできず、ただ無抵抗に声を上げるしかなかった。
「あ……あっ……んっ……ふぅ……」
腰を打ち付けられる度に、快感に腰が震える。
彼女の吐息が、乱れる髪から香る彼女の色香が、部屋を鳴らす水音と腰のぶつかる音が。
その全てが、少年の心までも犯していく。
「もっと……んっ……深く……はぁ……離れることのないくらい、深く……」
腰を深く落とした際、ねじる様に揺すってくる。
膣壁が螺旋状に肉棒を扱き上げ、その暴力的にも近い快感に自分でも驚くほど大きな声が上がる。
その様に、女性の眼は妖しく光り、さらに動きを激しくする。
「んっ……あっ、はっ、くぅ、あっ、ふっ」
腰を打ち付ける間隔が短くなり、部屋に響く水音は音量を増していく。
自分の全てが犯されていくような錯覚に、意識を手放しそうになる。
しかし、鋭い快感がそれを許してはくれない。
この状態で、未だにこの妖膣の中に精を放っていないことが不思議だった。
「ふっ、ふふっ、んっ、いつでも、あっ、出して、構いませんから、はっ、あっ、」
その吐精を待ち侘びているかのように、打ち付けてくる腰には容赦が無い。
意識を失うことも許されない、気が狂いそうなほどの快楽。
この快楽から、気を逸らせる術を欲していた。
目の前には、髪を振り乱して喘ぐ女性。
腰が動く度に大きな乳房が揺れ、その魅力的な黒髪を振り乱し、長すぎる故にこちらの顔にまで飛んでくる。
自分でも気付かぬうちに自由になっていた手で、飛んできた髪を掬い上げ、顔に寄せる。
「あっ、んっ、そんなっ、あっ、はぁ!」
心地よい香りが全身に浸透し、酩酊にも近い感覚を味わう。
わずかに快感から気を逸らせた気がした。
女性が身体を震わせながら、こちらに倒れてくる。
迫りくるのは顔ではなく、胸だった。
髪を絡めた顔に、豊かな乳房が落ちる。
頬に当たる固い感触。乳頭だった。
それを本能的に、髪を巻き込むことも厭わずに、口に含む。
「……っ! ぁ、はっ、きもち、いぃ!」
女性の嬌声と共に、腰の動きは早くなる。
腰が煮え滾るように熱く、いつ精を吐き出してもおかしくない状況だった。
快感が強くなり、そこから意識を逸らすように、乳頭を舌で転がし、強く吸う。
「んんぅぅ! あっ、ひっ、はっ、はぁっ!」
女性から強く頭を抱き締められる。
それに応えるように、両腕を彼女の背中に回す。
膣中がざわめくのを感じた。
陰茎を抱きすくめるように膣肉への密着が強まる。
「もうっ、わたくしっ、はっ、あっ、あっんっあっ」
奥へと吸い込まれるように蠕動し、彼女の限界を幼心にも悟る。
無我夢中でこちらも腰を動かそうとして、向こうの腰が下りた瞬間に、ちょうど突き上げる形となった。
亀頭が、膣奥から下ってきていた子宮口と、口付けを果たした。
「ああぁぁぁ、っっっ!!」
ひと際大きな嬌声が上がったかと思えば、膣内全体が今までにないほどに収縮する。
飲み込まんとするほどに子宮口が先端に押し付けられ、あまりの快感に、溜まらず精を吐き出した。
腰を引いたところで、彼女の腰が降りてくるのみで、肉棒は先端を子宮口に付けたまま、直接精を捧げ続ける。
「っっっ、っっ、――――!!!」
声にならない声を上げる彼女に、更に強く抱き寄せられる。
快感を誤魔化すように、こちらも胸を吸う力を強めるが、それは彼女への性感を高め、こちらに循環してくる。
今までよりもずっと長い絶頂が続き、お互いに抱き合いながら身体を震わせる。
「っ、はぁ、はぁ、んっ、はぁ、あぁ、はぁ……」
永遠にも続くような絶頂の波が引く頃には、二人の荒い息だけが部屋に響いていた。
女性が顔を上げ、少年と顔を見合わせると、幸せそうな笑顔を見せる。
「……本当に、あなたは、素敵です」
黒髪を貼り付けるほどに汗で塗れたその顔は、その笑顔も相まって、今までとは全く違う色香を放っていた。
思わず胸が高鳴り、狼狽えてただ見つめ返す事しか出来ない。
訳も分からずに首をかしげる彼女だったが、やがてその意味に気付いたのか、くすりと笑う。
「あなたはどうして……そんなに可愛らしいのでしょう」
彼女の顔が降りてきて、接吻をする。
最初の時のように、啄み、吸われ、舐め回される。
その間に、再び黒髪が彼の身体を撫でる。
身体を離さないとでも言わんばかりに、その全身が包まれる。
彼女の顔が離れた時、熱に浮かされたような顔でこちらを見ていた。
「あぁ、もっとわたくしの物に、してしまいたい……」
気付けば、全身のほとんどが髪に覆われ、その顔も、眼と鼻と口と耳以外は髪に巻き付かれている状態だった。
全身を覆う心地よさに、身体が脱力し、しかし股間の物は屹立する。
感じられるのは、彼女からもたらされる物全てと、彼女ともたらしたむせかえるほどの性の匂い。
そうして、彼女の身体が再び、彼の一物へと落ちてくる。
その心は、既に彼女の中に堕ちていた。
「申し訳ありません……本来であれば、わたくしからお伝えにいくべきでした……」
そう言って、彼女が頭を下げるのは、少年の両親だった。
あれから、二人は時も忘れて快楽に耽っていたら、既に数日が経過していたのだ。
家に帰らず、連絡も寄越さない我が子の事が心配になった少年の両親が、各家を探し回った挙句、彼女の家で少年が見つけられた。
少年は彼女の傍に寄り、その髪を梳いている。
両親の安否を気遣う言葉に少年は頷き、そしてその艶やかな黒髪を掬い上げて顔を寄せ、頬に擦る。
「……んっ……ぁ……」
その特に問題なく元気そうな様子を見て、安堵したらしい。
迷惑をかけて申し訳ない、と頭を下げてくる。
女性が漏らした声は、幸運にも耳に入らなかったらしい。
「いえ、この小さな殿方様はとてもいい子ですから、迷惑に感じた事は露ほども……」
そう言いながら、少年の頭を撫でる。
少年も、彼女の横から抱き着き、頭を撫でられながら目を閉じる。
その様子に女性は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「しばらくの間、この子を預からせていただいてもよろしいでしょうか。わたくしも、相手が出来て嬉しくて……」
その女性の言葉に、少年の両親はさすがに顔を見合わせる。
しかし、彼が女性に強く抱き着いているのを見て、我が子が彼女に大層懐いていると見たらしい。
互いに頷くと、我が子をよろしく頼む、と彼女に頭を下げる。
「えぇ、こちらこそ……ありがとうございます」
そう言って、背中を見せて去っていく両親を見送る。
穏やかな表情でそれを見届ける妙齢の女性と、その腰に抱き着く幼き少年。
その様は、先ほどの両親と少年よりも、親子のように見えなくもなかった。
やがて、女性は戸を閉め切り、家の中へと戻っていく。
「……これで、もうわたくしたちは、永遠に離れることはありません」
そして、部屋の奥で、彼女は少年の身体に髪を巻き付け、自らの元へと抱き寄せる。
少年が歓喜に声を震わせ、女性の胸に自ら顔を埋める。
「さぁ、睦み合いましょう――旦那様?」
彼女が少年の身体を抱きながら、その身を横に倒す。
そして、少年を抱いたまま、その長い黒髪で自身すらも覆い隠した。
そこにあるのは、漆黒の繭。
その中にある物を視認することは、何物にも許されない。
青く晴れ上がる空の中でも小さな人里の村は閑散としている。と言うのも、この時刻ともなれば早々暇な者などいない。
それでもどこか穏やかな雰囲気が村にあるのは、それだけこの場所が平和である証を示していた。
そんな中、とある民家の戸が、がらりと開く。
中から出てきたのは一人の少年。まだ元服を迎えようとしているか否か、の年頃である。
後ろ手に戸を閉めたところで、目の前に何か落ちているのに気が付いた。
それは小豆色の小さな布地だった。小さな手拭のようなものだろうか。
梅の花が小さく模様付けされたそれは、手に持った質感だけで、高価なものだと思わせるほどだった。
誰のものかと周りを見渡せば、すこしだけ距離の離れたところに、黒い塊があった。
まるでそこにあるだけで全てを飲み込んでしまうような、漆黒の塊が奥へとゆっくり進んでいる。
あまりの異質な姿に驚くが、声を上げないように息を呑む。
その瞬間、黒い塊から、自分が手に持っている布地と同じ小豆色の物がちらりと見えた。
目を凝らして見れば、その黒い物は地面に近づくにつれて、いくつにも分かれていた。
まるで生き物のように蠢いてはいるが、その漆黒は引きずられているだけのようにも見える。
ちらちらと見え隠れする小豆色に、確証は無いがどこか確信めいた物を感じて、少年はそれに駆け足で近づき、距離を詰めたところで――意を決して声をかけた。
「……? あら……」
少年の声にそれはぴたりと止まると、何と声を上げて振り返ってきた。
その姿に、今度は別の意味で息を呑む。
そこにいたのは、小豆色の着物姿に身を包んだ妙齢の女性であった。
手に持った布地と同じ、梅の花で模様付けされたその着物により、確証と共に確信を得る。
そして、どうやら漆黒の塊の正体は彼女の長い長い黒髪だったらしい。
さらに距離を詰めて近寄ってみると、その黒髪は太陽の光に反射して艶を放っていることに気が付いた。
「これは可愛い殿方様……何か御用ですか?」
顔半分が黒髪を覆っていても気にした様子も無く、女性は首を傾げる。
その動きに伴い、彼女の白い首も視界に移った。
黒い髪からの白い肌に、どきりと胸が高鳴る。
その高鳴りを誤魔化すように、手に持っている布地を差し出した。
「あら……これはわたくしのです……これをどこで?」
その問いに、少年が自分の家を指差しながら、家の前で落ちていたのを拾った事を話した。
女性は話を聞いたあと、彼が指を差した家と、彼自身を二度三度見比べると、目を細めながら布地を両手で受け取る。
「そうでしたか……くすっ……落としてしまったのを拾っていただいたのですね」
布地と共に少年の手にも優しく触れ、顔を近づけてくる。
近く。もっと近く。さらに近く。
視界が女性の顔で埋まってしまうほどに。
彼女の目の下に、ほくろがあった。俗にいう泣きぼくろという物であるが、そんなことは大したことではない。
「……ふふっ……」
顔を逸らすことはおろか、目を逸らすことも出来ない。
まるで金縛りにあってしまったかのようだった。
黒い髪よりも暗い、彼女の瞳が少しだけ妖しく光ったような気がした。
布地を持った手の甲や指に、彼女の指先が絡みつくように撫で回る。
ぞわぞわとした感覚が背筋に走り、自らの心までもが彼女に絡みついて囚われていくようだった。
――そして。
「ありがとうございます……優しくて、可愛い殿方様」
その言葉と共に、穏やかににっこりと微笑んだかと思えば。
女性がスッと少年から距離を離す。
少年が持っていた、着物と同じ小豆色の布地を手にしながら。
その瞬間、後ろ側で戸の開く音がした。
女性は既に、背を向けて歩き出している。
後ろから聞こえてくる、自分を呼ぶ声がどこか遠くのことにように感じていた。
小さくなっていくその黒い塊を、ただただ眺めていることしか出来ず。
その黒い塊が向かう先は――今は誰にも使われていない空き家だった。
それから、あの女性はこの村に住むことになったようである。
以前は騒がしい場所で生活を営んでいたので、自然に囲まれた場所で静かに穏やかで過ごしたいということであった。
とは言え、あれだけ綺麗で特徴的な黒髪を持ち、どこか妖艶な雰囲気を持った女性となれば、村中で注目の的になるのも仕方のないことだろう。
村の男性は彼女自身に、女性はその綺麗な黒髪に憧れを抱き、この小さな人里の話題の中心になるのは当然といえば当然であった。
どこか亡国の姫君ではないかだの、頂点に立つ遊女であったが策略に遭ってその場にいれなくなっただの、彼女の経緯に噂をするものも少なくはない。
しかし、その邪推とも言える噂も、時が経つに連れて、少しずつ霧散していくことになる。
というのも、彼女自身が村人との関係を良好に築いていったからである。
家からあまり出ない、という点はあった。あの白い素肌を持っているのであれば、日光を好まない性格であるという事は想像に容易い。
逆に言ってしまえば、それだけだったのだ。
たまに外で見かければ、すれ違い様に笑みを浮かべて自ら挨拶をするし、足を止めて村人と会話をすることもある。
何か頼みごとをすれば、出来る事であれば快く引き受けてくれる。
容姿だけではなく、その性格も評価され、彼女は瞬く間に村に溶け込んでいった。
あの日、布地を渡した少年も、彼女を遠目から見かけることや目が合うことは度々あった。
その度に、彼女はこちらを見て優しく微笑みかけてくれる。
それに対して、少年は胸が高鳴り、恥ずかしくなってしまう。
頭を軽く下げて彼女から見えない場所へと逃げるように移動するしかなかった。
だから、あの日以来、彼女と話をする機会は一度もなかったのである。
ある日、少年はあの女性に用があった。
昼食時を終えて少し経った、未の刻中である。
あの女性が住み始めた元空き家の戸の前で、中にいるだろう家主に声をかける。
程なくしてその戸が開き、中からいつかの女性が顔を出す。
全てを飲み込むような長く黒い髪から覗く、白い素肌にどきりと胸が高鳴る。
「あら……どなたかと思えば、あの時の――可愛い殿方様ではありませんか」
小さな来客に優し気な笑みを浮かべる女性。
対する少年は、用件を口にしようとするが、上手く言葉に出来ない。
「とりあえず、ここで立ち話もなんですから……中へどうぞ」
その少年を見かねたのか、女性は笑みはそのままに、薄暗い家の中へと戻っていく。
少年もそれについていく。
そして、その戸は誰に触れられるでもなく――ゆっくりと閉められた。
家の中は質素な佇まいであったが、綺麗に纏められていた。
物も少なく、必要最低限の物しかないのか、少年の家よりも広く感じられる。
まだ日が高い事もあってか、中に明かりはついておらず、窓から差し込んでくる日の光だけが、唯一この家の中を照らしている。
やや薄暗さを感じる部屋の中、お互いに向かい合った状態で座り込む。
「それで、一体どうしました……? わたくしの家にくるなんて」
そう言われて、少年は困惑した。
用があった。それは間違いなかった。
しかし、その用事自体が何なのか――自分にもわからなかった。
「また……わたくしの落とし物を、拾っていただけましたか?」
そうだったかもしれない。
少年は自らの服をまさぐると、服の中にはいつか見た小豆色の布地があった。
以前見た時と違うのは、そこには目の前の女性と思わしき、長く黒い髪の毛が、多数挟まれているということだろうか。
しかし、これをいつ見つけたのだろう。
これをどこで拾ったのだろう。
それがわからない。
覚えていない。
しかし、これは彼女の物である。
ならば、それを元の持ち主に返すのは必然である。
だから、自分はこれをこの人に渡さなければならない。
ぼんやりとしてきた頭でそう考えながら、それを女性に差し出す。
「あぁ……また……落としてしまったのですね……ありがとうございます」
女性はそう言いながら、両手でその布地を受け取る。
そして、いつかと同じように、その両手は布地だけではなく少年の手にも触れてくる。
しっとりとして、それでいて優しく撫でるような手つき。
そして、その綺麗な顔を近づけてくる。
彼の視界が、あの時のように女性で埋まる。
その目に、女性以外の物が映らないように。
その漆黒にも見える眼がこちらを覗き込み、心までもが飲み込まれて、深く深く落ちていくような感覚。
「ふふっ……」
そこまで近づいて、彼女の目が細められる。
目を逸らせない。金縛りのような感覚。
その指に、手の甲に、彼女の指先が絡みつき這い回る。
「ですが……いけませんよ。殿方が一人で……わたくしみたいな女性の元に来てしまうのは……」
すすす……っ、と地面を何かが擦るような小さな音が、耳に入る。
しかし、それが何かを確認することは叶わない。
視界はすでに女性で埋まり、目を逸らすことも出来ない。
気付けば、女性の指先は、少年の腕にまで絡みついて来ていた。
「自らが子供だと思っていても……殿方であることには変わりませんから」
そして、その指先が肩にまで登ってきたとき、優しく押し倒される。
覆いかぶさってきた女性の顔は、相変わらず視界を支配していた。
彼女の頭から、背中から垂れてきた髪の毛が、まるで少年の身体に纏わりつくように、垂れ下がっている。
否、それは本当に纏わりつき、少年の身体を固定していた。
少しだけもがいてみるが、その四肢はもはや動かす事すら叶わない。
「特にわたくしみたいに……あなたに心を奪われてしまった女性には……用心しなければいけませんよ?」
そう言いながら、女性は頬を撫でてくる。
優しくくすぐるような、むず痒い撫で方。
目の前に彼女の顔がさらに近付く。
「ん……ちゅっ……」
接吻。
唇と唇が触れ合い、強く押し付けられる。
それに伴い、身体も降りてきて、密着する。
柔らかな身体に、少年の中で眠っていた何かが燻る。
「ちゅぅ……あむっ……れろっ……」
唇が吸引され、啄まれ、舐め回される。
恐怖を吸い取り、溶かされるような、甘く優しい接吻。
彼女からもたらされる快楽の電流に、身体がわずかに震えた。
「……ふふっ……んっ……」
その反応に気を良くしたのか、彼女は笑みを漏らし、その舌先が口内にまで侵入してくる。
歯を撫でられ、歯茎を撫でられ、その舌は裏側をも這いずり回る。
口内の全てを蹂躙した後で、とうとうそれは少年の舌に絡みついてきた。
「……んむっ、ちゅっ……」
舌先を頂点に、とぐろを巻くように、根元まで余すところなく舐め回される。
ねっとりと全てを絡め取られ、頭の芯から蕩けていくような感覚。
口内の全てを蹂躙された後に、ようやく唇が解放される。
二人の唇に、粘性の強い雫が糸を引いて橋を架け、それはやがて少年の顔へと落ちていく。
「そんなに息を荒くして……可愛らしい……」
頭に靄がかかり、視界上の物を明瞭に映す力すら残されていない。
しかし、不明瞭な視界の中でも、目の前の女性の姿だけは、はっきりと見ることができた。
「ずっと……ずっと、待ち侘びていたんです。あなたがわたくしに初めて話しかけてくれた、あの時から」
今までの彼女らしからぬ、白い顔に上気して朱を差した頬。
その黒く、暗い目はただならぬ光を帯びていて、口はだらしなく開いている。
今の彼女は、遊女などとは比較にもならない淫靡さを放っていた。
「こうやって、あなたがわたくしの元に来てくれるのを。その純真な瞳がわたくしだけを見て、その純潔な身体がわたくしだけを覚え、その無垢な心がわたくしだけの物になって頂ける――この日を」
今までにないほど饒舌に、その眼に情欲の炎を灯らせながら、その女性は語る。
息を荒くし、こちらの身体にその黒髪をさらに絡ませてくる。
黒髪を絡ませてくる、というよりも、ひとりでに黒髪が身体に絡みついてきていた。
絹のように――いや、絹以上に滑らかな感触が、素肌に這い回る。
それが衣服の中にまで入り込み、上半身を撫で回す。
黒髪が擦れ、くすぐったさと、内に眠る何かを呼び起こすような、むず痒い感覚。
「……あぁ……たまりません……これがあなたの味……!」
女性の顔が先ほどよりも蕩けた、淫猥な表情へと変わり、その身を震わせる。
その震えが、髪の毛に伝わり、触れている素肌をくすぐってきた。
「はぁ……ふふっ、ふふふふふ……」
狂気を感じる程の笑いを浮かべながら、髪の毛が、今度は下半身にも伸びていく。
本能的にまずい、と感じた。ここから逃げなければならない、とも。
しかし、身体は動かない。
そもそも、この状態で動けたところで、髪が服の下まで潜り込まれているこの状況で、逃げることなど不可能だった。
髪の毛相手では衣服など何の意味も成さない。
するり、と黒髪が素肌と服の隙間に入り込み、それはいとも容易く腿まで絡みつく。
「はぁ、はぁ……もう少し、もう少し……」
女性は相変わらず溶けそうなほどの黒い眼をこちらに向けている。
顔は先ほどよりも紅に染まり、開いた口から溢れ出る涎はこちらに滴り落ちる。
眼が合い、しばし見つめ合うと、その女性は口角を上げて笑みを浮かべた。
その笑みはいつもの優しい物ではなく――獲物を食らうような、ひどく恐ろしい物に見えた。
そして、黒髪はとうとう少年の局部へと絡みつく。
「――あぁ……!」
身体を貫くような鋭い感覚に、身体が跳ねる。
その様子に、相手の女性も艶やかさを増した笑みで身体を震わせた。
何がどうなっているのかわからない。
服の下で行われている蹂躙が、感覚だけで察することしかできない。
しかし、股間への刺激こそありはするものの、全身を這い回る髪の感触に覆い隠されてしまう。
「……ふふっ、気になりますか……自分の身体が、どうなっているのか……?」
そんな少年の心を察したように、女性が掬い上げる。
その艶のある笑みは変わらず、しかし、それを見てしまってはいけないと本能が警鐘を鳴らすような表情。
しかし、何も知らない事よりも、知っている事の方が恐怖は薄い、と考えた少年は迷わず首を縦に振る。
「わたくしも、あなたの身体を……生まれたままの姿で見たいと思っていました」
そう言いながら、女性は身体を起こして少年に跨り、動けない彼の代わりに、衣服に手をかける。
帯に手をかけ、結び目を解いた後は、嬉しそうに顔を綻ばせるだけで、それ以上の事はしようとしない。
「さぁ、わたくしに……わたくしだけに、見せてください……あなたの全てを……」
しかし、彼女の動きとしてはそれで充分だった。
髪の動きに合わせて勝手に衣服が脱げていく。
ゆっくりと、焦らすように、時間をかけて衣服が少年の身体から離れていく。
髪が動けば、素肌を擦られる。股間にも流れる弱く優しく、むず痒い感覚は、彼の頭を桃色の靄で覆い、まともな思考を出来なくさせる。
そうして晒された彼の裸体には、しかしほとんどが黒く染まっていた。
正確に言えば、彼女の黒髪によってその素肌は半分以上覆い隠されている。
黒い布をその身に纏っていると言われれば、信じる人も出てくるだろう。
「あぁ、はぁ……本当に可愛らしい……!」
しかし、少年の股間にある小さく勃起したそれは、わかりやすくその形を示していた。
自らの身体の知らない変化に戸惑うが、その戸惑いすらも髪の愛撫による見知らぬ感覚によって押し流されていく。
「小さくも立派に屹立したこの姿……あはぁ……見るだけで達してしまいそう……」
黒髪を纏っただけの、部屋の天井を指し示すその小さな怒張を見て、女性の顔がだらしなく蕩ける。
そして、少年の陰茎を包み込んでいる黒髪は、その感触を確かめるように這いずり回る。
まるで無数の手で、その性器を余すところ無く撫で回されているような感覚に、身体の震えを止めることが出来ない。
訳のわからない感覚に、首を何度も横に振るがそれは無駄な抵抗ですらなかった。
「んんっ……ふっ、この未熟な”あなた”を、わたくしが、立派な”殿方”にしてさしあげます……」
そう言うと共に、股間に這い回る黒髪が、その皮に包まれた先端をくすぐる。
突き差すような、痛覚をくすぐられる感覚に、顔を歪める。
その様子を見てか、女性がこちらに顔を寄せて、眼を細めて微笑む。
見慣れた、優しく穏やかな微笑みだった。
その顔に見惚れた刹那、包皮の内側へと黒髪が押し寄せてくる。
「……んっ、ふふっ、ふふふふふっ……!」
先ほどの突き刺すような鋭い痛みにも似た感覚が、絶え間なく送り込まれ、悲鳴が上がる。
包皮が外側へと剥かれ、中で眠っている亀頭を無理やり露出させられる。
黒髪が、全方位からそれを、ゆっくりと、じっくりと行っている。
包皮を剥く過程で、中にある先端にも擦れ、それが鋭い痛みのような物となって少年の脳髄を焼き焦がした。
「これで、あなたも……立派な”殿方”……」
包茎を完全に剥かれ、亀頭を剥き出しにされた事を祝される。
しかし、先ほどの永遠に近い苦痛のようにも感じた時間の後で、息も絶え絶えとなっている少年にはその言葉が耳には入っても、脳には届かない。
それでも、朦朧とする意識の中で、目の前にいる女性が、慈愛に満ちた笑みを浮かべている事だけはわかった。
身体を這い回る黒髪が、まるで労うかのようにゆっくりと身体を撫でさする。
だが、剥き出しの亀頭に触れる感覚は鋭く、あまりの辛さに身体を強くびくつかせてしまう。
どれだけゆっくりと、優しくされようと、その部位から伝わる刺激は、およそ身体が受け付けられないものだった。
「……お辛そうですね……それなら……」
女性が舌を出し、自らの手のひらを舐める。口内の唾液を手のひらに落とす。
そして、その手を、少年の下腹部へと伸ばしていく。
「辛いのは、あなたが”殿方”になりたてですから……致し方のないこと」
そして、粘性に満ちた感触が股間から伝わり、身体を震わせる。
彼女の細くしなやかな、唾液に塗れた手で肉棒全てを撫で回される。
「ですから……少しずつ、少しずつ……慣れていきましょう」
粘性を纏う水音が部屋に響き、彼の官能を刺激する。
ひとしきり撫で回したあと、待っていたように髪が擦りつけられる。
先ほどとは違い、粘性の音を纏いながら、鋭くも身体を弛緩させる不思議な感覚が身体を支配する。
先ほどは舐めていなかった片手も同様に唾液に塗れさせ、その両手で少年の上半身を這い回らせる。
「わかりますか……あなたが今感じているこの感触は……"キモチイイ”、ですよ……?」
身体を下ろして密着させ、少年の耳元で囁く。
脳髄を直接揺さぶってくるようなその声に、ぞわりと身体が震える。
しかし、不思議と嫌な感覚ではなかった。
「さぁ……一緒に口に出して……覚えましょう……?」
全身を擦れる感覚に、小さな水音が部屋で満たされる。
その音と、身体を這い回る感触に、まるで熱に浮かされたようにぼんやりと彼女の声に耳を傾けた。
股間から登ってくるこの感触は、はっきりと彼の身体に刻み付けてくる。
「キモチイイ……きもちいい……気持ちいい……」
彼女の言葉に合わせるように、彼女の黒髪が動く。
陰茎を撫でさすられる。
キモチイイ。
亀頭をくすぐられる。
きもちいい。
雁首を擦られる。
気持ちいい。
口に出すことで気持ちいい、という快楽の感覚をその身に、脳に覚えさせられる。
「あはぁ……素敵です……快楽に蕩けたその可愛らしいお顔……もっと、もっと欲しくなってしまいます」
この感覚が快感であることを知ってしまえば、無意識に抵抗していた心が解かれる。
彼女からもたらされる全ての刺激が、快楽に浸る物だと理解してしまえば、拒絶する理由も無くなる。
腰の奥から湧き上がる衝動。
これも快感によるものであるとすれば、我慢する必要もない。
「一度……出してしまいましょうか……」
股間を這い回る黒髪が、満遍なく撫でる動きから、上下に扱く動きへと変わる。
先端をくすぐり、雁首の裏側を擦る動きはそのままに、陰茎全体を上下に扱かれる。
意識を股間へと集中する。恍惚とする。
気持ち良すぎて何も考えられない。
女性は、艶やかさを含んだ優しい笑みでこちらを見ている。
心が落ち着く。不安はない。この人がいる。
「さぁ、吐き出してください……わたくしに、ください……」
そして、彼女が顔を深く寄せてくる。
「あなたの――精を」
唇を塞がれる。扱き、くすぐり、擦るだけだった黒髪が、陰茎を強く圧迫して締め上げる。
腰の奥から股間に湧き上がる何かを堪えることもできず、吐き出す。
小水とは明らかに違う、しかし勢いよく出される何かは、刹那的な快楽に満ちていた。
「んっ、ふぁっ……んふぅ……ちゅぷぅ……あはぁ……」
どろりとした白濁の何かが、黒髪の束の隙間から漏れ出し、天へと噴き上がる。
だが、黒髪に一度阻まれて勢いを失ったそれは、再び自らの身体に――纏っていた彼女の黒髪へと全て落ちていく。
その度に、女性は喘ぎ声を小さく漏らしながら、身体を震わせる。
それでも、口付けが止まることはない。
吐精の快楽に目の前が明滅し、心と身体が離れていくような浮遊感に陶酔した。
それでも、焦点の定まらない眼だけを動かして、何かを吐き出していく自らの性器を見る。
黒く包まれているそれから、自分が吐き出したと思わしき、どろりとした白濁した何かが溢れだしていた。
しかし、それは彼女の黒髪が吸い取る様に、無くなっていく。
後に残るのは、先ほどよりも艶の増したような女性の髪だった。
「あ、はぁ……思った通り……素敵です……」
怒張の脈動が終わる頃に口付けを離され、優しく頬を撫でられる。
そして、一度上体を起こし、彼の精液が付着していた黒髪を自らの手で掬い梳く。
「ですが……一度だけで物足りません……もっと、もっとわたくしにくださらないと……」
興奮していて気付いていないのか、彼女の着物がはだけていた。
着物と黒髪によって隠されていた、彼女の豊満な乳房も露わになる。
黒髪の中にある、上気して赤みを増した白い肌は妖艶さを増していて、思わず胸が高鳴った。
「くすっ、わたくしの身体が……胸が気になりますか……?」
常に少年を見ている彼女には、その視線の先がどこかなど既に明白だった。
既に官能に目覚めていた少年の目には、それはとてつもなく魅力的に映る。
見るだけでも柔らかさのわかる乳肉に、目が離せなくなっていた。
「そうですね、今まではわたくしが楽しんでいるだけでした……あなたにも、わたくしの身体を……楽しんでいただかなければ不公平ですね」
そう言って、彼女が着物をさらにはだけさせて、その乳房を晒す。
そして、彼の下半身へと移動すると――その陰茎を胸で包み隠した。
「……あら……あなたの全てが……わたくしの胸の内に、収まってしまいました……」
そう言いながら笑う女性が、中にある陰茎を確かめるように、胸を揺り動かす。
その言い方にからかわれているように感じて、恥ずかしさを覚えるが、射精した直後の敏感な陰茎を刺激されて、喘ぐ声しか出せない。
「可愛らしいお声……気持ち、いいんですね……?」
髪とは違い、陰茎全てを包み込まれるような抱擁感と安心感は、心地いい、という気持ちの方が強い。
しかし、わずかでも動かされるだけで、乳肉に吸い付かれるような感覚は確かに気持ちいい快感であり、恍惚としてしまう。
それが、様々な形を変えて、自身をあやしてくるとなれば、もはやなすがままに快感を享受することしか出来ない。
「もしかして……胸がお好きですか……?」
甘く柔らかな快感に心身共に弛緩してしまい、答える事は出来そうになかった。
それを見ながら、女性は笑みを浮かべる。
「それなら……このまま胸で……いたしますね」
乳房をゆったりと上下に動かす手は止まらない。
先ほどとは全く種類の違う、まったりとした、心を蕩けさせるような快感。
口から涎が垂れることも厭わず、その快楽に身を委ねる。
「だらしないお顔……とても可愛くて、素敵ですよ……」
そう言われて、顔を引き締めようとするが、それを察した彼女が両手の力を込めて、少しだけ乳圧を強める。
それだけで声が漏れてしまい、全身が脱力してしまう。
「ふふっ……そのまま……身体の力を抜いていてください」
すり……すり……と、布切れが擦れるような音が静かに響く。
浮遊感にも似た、夢見心地のような感覚。
飽きさせないように、たまに先端部を強く締め付け、柔らかくも強い快感を送ってくれる。
「……胸であなたを感じるのもいいですが……やはり、わたくしには……」
と、黒髪が再び股間に向かって伸び進み、根元から近づいてくる。
それはゆっくりと、先と同じように、少年の物へと纏わりつく。
「こちらの方が……あなたをより感じられるので……」
そして、絶えず動いているその胸と、抵抗無くされるがままである彼の一物の間にするりと滑り込み、螺旋を描くように巻き付いてきた。
胸が動く度に、髪の毛も擦れ、胸では届かない細かなところまでくすぐられる。
伝わってくる快感が、跳ね上がった。
「あはぁ……より強く、より深く感じられます……」
肉棒が強く震える。先ほどよりも深い快感に、先端から汁が、とぷり、と溢れ出す。
それを潤滑剤にして、部屋に響いていた静かな擦れるような音に、淫らな水音が小さく混ざり始める。
「んっ……はぁ……くすっ……漏れ出してきました……」
彼女が両腕に力を込め、震える怒張を根元から先端まで、乳房を両側から強く抑えながら扱き上げる。
ゆっくりと締め上げられる快感に、足の先から頭頂部まで、震えあがった。
胸の中に囚われて直接は見えなくとも、彼の男性器の内部から、再び何かが溢れだすのを自分でもはっきりと感じた。
「気持ちいいですか……? わたくしは――美味しいですよ……ふふふ……」
乳肉に揉まれる感触とは別に、溢れ出した何かを掬うように、先端をきめ細かな何かで撫でくすぐられる。
予期せぬ強い快感に、腰が何度も跳ねる。
それは陰茎に絡みつく髪だった。
胸の動きの合間に、髪が蠢き、こちらに刺激を与えてきているのだ。
「んふ……ふぅ……くすっ……」
少年の反応に気を良くしたのか、女性が目を細めて笑みを深めた。
乳房からもたらされる快感の中に、髪で亀頭をくすぐられる快感が加えられる。
別種類の二つの快感に襲われ、意識が弾け飛びそうになる。
「くすっ……胸の間の物が、強く震えましたね……?」
少年の限界が見えたらしい女性が、両手で胸に力を込め、小刻みに動かし始める。
腰の奥が再び疼き出した。
それを吐き出そうと、少年の腰も無意識に動き出す。
「あはっ……あっ……ふっ……ふふふっ」
少年の無造作な腰の突き上げに、笑みを漏らしながら、女性がその動きに合わせる。
突き上げれば、その乳房を腰に強く落とし。
引き下げれば、その乳房を上げて、先端にてその圧迫を強める。
そこに黒髪の愛撫も加わり、疼きはすぐさま股間の根元まで到達し、せり上がってくる。
「また、わたくしで吐き出してください」
淫らな水音だけが聞こえるこの部屋の中で、それでも彼女の声だけははっきりと聞こえた。
股間から流れる快感以外に、何も感じられなくなる。
疼きは既に肉棒の先端まで来ていた。
「さぁ――どうぞ」
そう発した瞬間、突き上げた時と同時に彼女の乳房がひしゃげる程に強く圧迫する。
その快感が引き金となり、再び白濁が迸った。
「んんっ……あぁっ……はぁ……あっ……」
吐精しながら震える肉棒を、胸の内で抑え込むように、乳房を横から押し付けられる。
その間も、上下する動きは止まらない。
中で巻き付く黒髪も、雁首の裏側を擦り、先端をくすぐる動きは継続していた。
鋭い快感が送られ、その快感を引き金にして、さらに精を吐き出していく。
胸の間から溢れ出し、それは彼女の顔や、黒髪にまで飛散し、白い化粧を施していく。
「あぁ……先ほどよりも……多い……」
恍惚とした様子で、胸の中から吐き出される精にその身を震わせながらも、なお動きを止めることはない。
射精が終わっても乳房で快感を送り続け、肉棒もその快楽に何度も震えた。
胸の中から、そして纏わりつく黒髪から解放されたのは、刺激を与えられても陰茎を震わせることが出来なくなってからの事だった。
「ご満足、頂けたようですね……?」
射精の余韻で放心状態となっている少年を見て、笑みを浮かべる。
奉仕して身体を動かした事もあり、彼女の顔の横に張り付く一筋の黒髪が、何故か淫靡に見えた。
動けない少年の下腹部に跨り、労わる様にその胸を上半身を撫でる。
「今度は……わたくしに、褒美をくださいませんか?」
彼女の着物は既にはだけきっており、その下腹部も惜しげもなく晒されていた。
その晒された秘所は既に愛液が垂れ落ちるほどに塗れて、その下にある少年の一物を濡らして愛液で湿らせていた。
それだけで、少年の萎えかけていた物が脈動し、再び屹立する。
しかし、その心に情欲の火が燻る事はあっても、それが燃え盛るには燃料が足りなかった。
少し待って、と彼女に訴えてみるが。
「あなたのここは、既にわたくしを貫く準備が出来ているようですよ……?」
女性がその腰を揺らせば、先ほどより、数段も粘りの強い水音が下腹部から響く。
それだけで、休みたい心とは裏腹に、身体がさらに火照るのを感じる。
彼の心を置き去りにして、身体が彼女を求めてしまう。
「それに、二度もその素敵な精を身に受けてしまっては、身体が疼いて仕方がありません……」
彼女が身体を前に倒し、こちらの頬に両手を添えながら顔を寄せてくる。
何度目になるかもわからない、視界を埋め尽くす彼女の顔。
今までは気付かなかった女性特有の甘い香りが、ふわりと鼻腔をくすぐり、心臓が高鳴った。
先ほど奉仕で動いたせいか、その顔は少し汗ばみ、額には雫の珠が浮かんでいる。
興奮で上気している事もあり、その白い肌は赤みを帯びて、先ほど以上に妖艶さを増していた。
この情交の中で、彼女から新しくもたらされる色香に、戻ってきたばかりの理性が甘く溶かされていく。
「わたくし、もう我慢ができません……」
股間に再び絹のような布地が纏わりつく感触。もはや見ずとも、それが彼女の黒髪だとわかった。
彼女が腰を浮かせると同時に、こちらの先端を彼女の秘所へと向けさせられる。
先端が、熱を持ったそれに包まれる。
「ですから、もう……挿れてしまいますね?」
こちらを見る眼は、相変わらず光も通さないほどに、暗く、黒い。
だと言うのに、何故か先ほどよりもその瞳の奥が見える。
そこにいたのは、無防備にもあられもない姿で、黒い物に全身を囚われている――自分の姿。
彼女が眼を細めた。
「さぁ――繋がりましょう?」
女性が一気に腰を下ろし、少年の小さな怒張を全て飲み込んだ。
あまりの衝撃に、悲鳴のような声が自分の喉から上がる。
「はあぁぁぁ……!」
腰の上の彼女が恍惚の表情で身体を震わせ、息を吐き出す。
しとどに濡れ、焼けるほどの熱さを持った膣内が、少年の一物を締め上げ、その理性と常識を快感で焼き焦がしていく。
年齢や体格は大きく離れているというのに、その膣内はまるで彼の大きさに合わせたかのように、小さく、そして狭い。
「感じます……あなたを、しっかりと……」
彼女は身体を起こし、蕩けた顔でこちらを見下ろす。
自らの下腹部に手をあて、愛しそうに眼を細めて撫でる。
そして、それを確かめるように、腰を揺らした。
少し動かすだけで、至る所から膣肉が彼の陰茎に吸い付くように締め付け、擦っていく。
少年がわずかに漏らした声を合図に、彼女が腰の上下運動を開始した。
既に濡れていた蜜壺から、さらに愛液が溢れ、互いの下腹部を濡らしていく。
あまりの快感にこちらから動かす事もできず、ただ無抵抗に声を上げるしかなかった。
「あ……あっ……んっ……ふぅ……」
腰を打ち付けられる度に、快感に腰が震える。
彼女の吐息が、乱れる髪から香る彼女の色香が、部屋を鳴らす水音と腰のぶつかる音が。
その全てが、少年の心までも犯していく。
「もっと……んっ……深く……はぁ……離れることのないくらい、深く……」
腰を深く落とした際、ねじる様に揺すってくる。
膣壁が螺旋状に肉棒を扱き上げ、その暴力的にも近い快感に自分でも驚くほど大きな声が上がる。
その様に、女性の眼は妖しく光り、さらに動きを激しくする。
「んっ……あっ、はっ、くぅ、あっ、ふっ」
腰を打ち付ける間隔が短くなり、部屋に響く水音は音量を増していく。
自分の全てが犯されていくような錯覚に、意識を手放しそうになる。
しかし、鋭い快感がそれを許してはくれない。
この状態で、未だにこの妖膣の中に精を放っていないことが不思議だった。
「ふっ、ふふっ、んっ、いつでも、あっ、出して、構いませんから、はっ、あっ、」
その吐精を待ち侘びているかのように、打ち付けてくる腰には容赦が無い。
意識を失うことも許されない、気が狂いそうなほどの快楽。
この快楽から、気を逸らせる術を欲していた。
目の前には、髪を振り乱して喘ぐ女性。
腰が動く度に大きな乳房が揺れ、その魅力的な黒髪を振り乱し、長すぎる故にこちらの顔にまで飛んでくる。
自分でも気付かぬうちに自由になっていた手で、飛んできた髪を掬い上げ、顔に寄せる。
「あっ、んっ、そんなっ、あっ、はぁ!」
心地よい香りが全身に浸透し、酩酊にも近い感覚を味わう。
わずかに快感から気を逸らせた気がした。
女性が身体を震わせながら、こちらに倒れてくる。
迫りくるのは顔ではなく、胸だった。
髪を絡めた顔に、豊かな乳房が落ちる。
頬に当たる固い感触。乳頭だった。
それを本能的に、髪を巻き込むことも厭わずに、口に含む。
「……っ! ぁ、はっ、きもち、いぃ!」
女性の嬌声と共に、腰の動きは早くなる。
腰が煮え滾るように熱く、いつ精を吐き出してもおかしくない状況だった。
快感が強くなり、そこから意識を逸らすように、乳頭を舌で転がし、強く吸う。
「んんぅぅ! あっ、ひっ、はっ、はぁっ!」
女性から強く頭を抱き締められる。
それに応えるように、両腕を彼女の背中に回す。
膣中がざわめくのを感じた。
陰茎を抱きすくめるように膣肉への密着が強まる。
「もうっ、わたくしっ、はっ、あっ、あっんっあっ」
奥へと吸い込まれるように蠕動し、彼女の限界を幼心にも悟る。
無我夢中でこちらも腰を動かそうとして、向こうの腰が下りた瞬間に、ちょうど突き上げる形となった。
亀頭が、膣奥から下ってきていた子宮口と、口付けを果たした。
「ああぁぁぁ、っっっ!!」
ひと際大きな嬌声が上がったかと思えば、膣内全体が今までにないほどに収縮する。
飲み込まんとするほどに子宮口が先端に押し付けられ、あまりの快感に、溜まらず精を吐き出した。
腰を引いたところで、彼女の腰が降りてくるのみで、肉棒は先端を子宮口に付けたまま、直接精を捧げ続ける。
「っっっ、っっ、――――!!!」
声にならない声を上げる彼女に、更に強く抱き寄せられる。
快感を誤魔化すように、こちらも胸を吸う力を強めるが、それは彼女への性感を高め、こちらに循環してくる。
今までよりもずっと長い絶頂が続き、お互いに抱き合いながら身体を震わせる。
「っ、はぁ、はぁ、んっ、はぁ、あぁ、はぁ……」
永遠にも続くような絶頂の波が引く頃には、二人の荒い息だけが部屋に響いていた。
女性が顔を上げ、少年と顔を見合わせると、幸せそうな笑顔を見せる。
「……本当に、あなたは、素敵です」
黒髪を貼り付けるほどに汗で塗れたその顔は、その笑顔も相まって、今までとは全く違う色香を放っていた。
思わず胸が高鳴り、狼狽えてただ見つめ返す事しか出来ない。
訳も分からずに首をかしげる彼女だったが、やがてその意味に気付いたのか、くすりと笑う。
「あなたはどうして……そんなに可愛らしいのでしょう」
彼女の顔が降りてきて、接吻をする。
最初の時のように、啄み、吸われ、舐め回される。
その間に、再び黒髪が彼の身体を撫でる。
身体を離さないとでも言わんばかりに、その全身が包まれる。
彼女の顔が離れた時、熱に浮かされたような顔でこちらを見ていた。
「あぁ、もっとわたくしの物に、してしまいたい……」
気付けば、全身のほとんどが髪に覆われ、その顔も、眼と鼻と口と耳以外は髪に巻き付かれている状態だった。
全身を覆う心地よさに、身体が脱力し、しかし股間の物は屹立する。
感じられるのは、彼女からもたらされる物全てと、彼女ともたらしたむせかえるほどの性の匂い。
そうして、彼女の身体が再び、彼の一物へと落ちてくる。
その心は、既に彼女の中に堕ちていた。
「申し訳ありません……本来であれば、わたくしからお伝えにいくべきでした……」
そう言って、彼女が頭を下げるのは、少年の両親だった。
あれから、二人は時も忘れて快楽に耽っていたら、既に数日が経過していたのだ。
家に帰らず、連絡も寄越さない我が子の事が心配になった少年の両親が、各家を探し回った挙句、彼女の家で少年が見つけられた。
少年は彼女の傍に寄り、その髪を梳いている。
両親の安否を気遣う言葉に少年は頷き、そしてその艶やかな黒髪を掬い上げて顔を寄せ、頬に擦る。
「……んっ……ぁ……」
その特に問題なく元気そうな様子を見て、安堵したらしい。
迷惑をかけて申し訳ない、と頭を下げてくる。
女性が漏らした声は、幸運にも耳に入らなかったらしい。
「いえ、この小さな殿方様はとてもいい子ですから、迷惑に感じた事は露ほども……」
そう言いながら、少年の頭を撫でる。
少年も、彼女の横から抱き着き、頭を撫でられながら目を閉じる。
その様子に女性は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「しばらくの間、この子を預からせていただいてもよろしいでしょうか。わたくしも、相手が出来て嬉しくて……」
その女性の言葉に、少年の両親はさすがに顔を見合わせる。
しかし、彼が女性に強く抱き着いているのを見て、我が子が彼女に大層懐いていると見たらしい。
互いに頷くと、我が子をよろしく頼む、と彼女に頭を下げる。
「えぇ、こちらこそ……ありがとうございます」
そう言って、背中を見せて去っていく両親を見送る。
穏やかな表情でそれを見届ける妙齢の女性と、その腰に抱き着く幼き少年。
その様は、先ほどの両親と少年よりも、親子のように見えなくもなかった。
やがて、女性は戸を閉め切り、家の中へと戻っていく。
「……これで、もうわたくしたちは、永遠に離れることはありません」
そして、部屋の奥で、彼女は少年の身体に髪を巻き付け、自らの元へと抱き寄せる。
少年が歓喜に声を震わせ、女性の胸に自ら顔を埋める。
「さぁ、睦み合いましょう――旦那様?」
彼女が少年の身体を抱きながら、その身を横に倒す。
そして、少年を抱いたまま、その長い黒髪で自身すらも覆い隠した。
そこにあるのは、漆黒の繭。
その中にある物を視認することは、何物にも許されない。
20/05/05 17:57更新 / edisni