朝。カーテンから差し込む光に目を覚ました。
　身体を起こして、少しだけ夢と現実の境界に微睡む。

「……あ」

　階下から、食器を並べる音が聞こえてきた。
　もう起きてる――いつもの事だけど、少しだけ嫉妬のような悔しさと、それとはまた違う感情が、胸に湧く。
　いそいそとベッドから抜け出して、音に引き寄せられるように、部屋を出た。

「おはよう、ルシア姉さん」

　案の定、階下には、青色に近い黒い髪の、小さな男の子がいた。
　弟のような存在の、ウィルだ。
　わたしより小さいくせに早起きなのが、生意気だと思う。

「ふぁ〜あ……おはよ〜、ウィルぅ……」
「……まだ、準備できるまで時間あるし、顔洗ってきたら？」
「ん〜〜〜……………………そうするぅ……」

　ぼんやりとした頭で、言われるがままに一度廊下に出て、流し台に向かう。
　そこで顔にぱしゃぱしゃと水を当てると、冷えた感覚に頭が冴えてきた。

「……ぁ〜ぅ〜」

　そして、一人反省会。
　毎朝のこととはいえ、ウィルに恥ずかしい姿を見せてしまったのだ。
　仮にもあいつの姉のような存在であるわたしが、あんなだらしない姿を、もう見せるわけにはいかない。
　あいつが、見かけ不相応にしっかりしている以上、わたしはもっとしっかりしないといけない。
　そう――分かってはいるんだけど、どうも朝に弱いわたし。

「……もう何回目よ」

　毎日同じことを思っては実行できていない自分に、少しだけ呆れる。
　あんまり考えすぎてもダメだ。
　過ぎたことは気にせずに、今からしっかりすればいい。
　そうと考えたら、すぐに行動する。
　顔を洗ったついでに、自分の部屋に戻って身だしなみを整える。

「ふぅ」

　鏡台の前に立って、一息。
　金色の長い髪を梳いて、赤いリボンで左右にまとめる。
　薄赤基調の寝間着を、赤いブラウスとスカートに着替える。
　あとは、レース刺繍と赤いリボンの付いた、お気に入りの白いサイハイソックスを履けば完璧。
　でもちょっと不安だから、鏡台の横にある姿見で身だしなみチェック。

「……よしっ」

　うん、バッチリ。
　これなら、今日も一日頑張れそう。
　早速、階下に降りて、ウィルがいるダイニングのドアを勢い良く開ける。

「おっはよー、ウィルー！　ご飯まだぁ！？」

　もちろん、さっきの失態は無かったことに。

「あー……おはよう、ルシア姉さん。もう出来てるよ」

　ちゃんと空気を読んで合わせてくれるウィルは、やっぱり良くできた弟のような存在だ。
　こういうところだけは、本当に年の割によく出来てる、と思う。
　あと、わたしより家事が出来るところとかも。
　笑顔が可愛いくせに、滅多に笑ってくれないのが、玉に瑕だけど。

「ウィルー、紅茶ー」
「うん、今淹れるよ」

　ウィルが、椅子に座ってるわたしの隣にやってくる。
　その背丈は、椅子に座ってるわたしと、ようやく並ぶくらいしかない。
　だけど、カップに紅茶を注ぐその様はとても手慣れたものでいて。
　男の子、と呼ぶにはしっかりし過ぎている。
　もっと年相応の反応とか、みたいなー……って。

「……ん、なに――っ！　やめてよっ！」
「ぁ……」

　彼がこっちに顔を向けた時には、その頭を撫でていた。
　不機嫌そうな顔でわたしから距離を置いて、呆れたように、ため息のような咳払い。

「……子供扱いはしないでくださいますか、ルシア”お嬢様”」
「ぅ……」

　そして、鋭い口調で言われてしまった。
　ウィルは、子供扱いされることを極端に嫌う。
　わたしがこの裕福な”だけ”だったこの家と、生まれだけで”お嬢様”と呼ばれることを、嫌っているように。
　今の言葉は、その意趣返しのようなものだった。

「……ごめん」
「ぼくはこの家の給仕として、雇われている身ですので」

　それは、最初に彼を雇ったときの話。
　っていうか、給仕っていうか執事だし。
　そもそも、わたしにとっては、形式上の話に過ぎないのに。

「……わかったってば」

　わたしは、”わたし”を見てくれる人さえいれば、それで良い。
　過去にいたメイドたちは、いくら言ってもわたしを”お嬢様”としか見てくれなかった。
　だから全員解雇して、今はウィルと二人だけでこの広すぎる屋敷に住んでいるのだ。

「…………」

　確かに執事になれと言って、ウィルをここに無理やり引っ張ってきたのは、わたしだ。
　とは言え、彼が給仕として動いている姿は、大嫌いだった。
　ウィルにその気が無くても、”お嬢様”として見られているように感じてしまうから。
　なにより、そうなるとウィルは笑顔を全然見せてくれなくなる。

「はぁ……まさかまだ寝ぼけてるの？」

　ウィルが盛大にため息を吐いたあと、あきれ顔で聞いてきた。
　あぁ、見慣れた顔だ。
　それだけで、安心してしまう。

「えっ……な、なんで？」
「ルシア姉さんがぼくを子供扱いしてくるのって、朝が圧倒的に多いから」

　それは、子供扱いというか、弟扱いしたいだけであって、ちょっと違う。
　ただ、そんな言い訳なんて通用しないし、そんな事するとウィルの機嫌がすこぶる悪くなるから我慢してるだけで、ちょっとした瞬間にその我慢してたものが漏れちゃって。
　なんて言えるはずもない。
　でも、その我慢が、夢に出てしまうことは結構あった。
　たまに起きた後も、夢の延長でウィルに抱き付いてしまったこともあったのは最大の失態だ。

　……思い出したら恥ずかしくなってきた。

「……なんで姉さんの顔が赤くなるの」
「う、うっさいわね！　ほら、しゃっしゃと食べる！　教団騎士の朝は早いんだからっ！」

　わたしは、照れ隠しに、目の前の朝食を掻き込んだ。
　女としてどうかと思うけど、どうせウィルなら見て見ぬふりしてくれるから問題ないと思う。

「教団騎士の朝って……ぼくは関係ないんだけど」

　そういう呟きは黙殺するに限る。
　あまり突っつくと、言い負かされてしまうからだ。
　何とか頭も落ち着いてきて、ゆっくり食べられるようになった頃に、ウィルが、ふぅ、っと息を吐いた。
　話しかけるよ、っていう合図だ。

「……で、今日の予定は？」
「近くの洞窟の見回り。いつもどーり」

　わたしは、この街にある教団の騎士団に所属している。
　と言っても、勇者というわけでもなく、ただの一般兵士に過ぎないけど。
　任せられることも、既に魔物の退治が終わってる場所の見回りくらい。それ以上の事は、全て勇者たちに任せられるのだ。

「一人で？」
「うん、一人で」

　それでも、わたしの実力はそこそこあるようで、街の付近にある洞窟の巡回を一人で任せられる程度には信頼されている。
　魔物を倒したことは無いが、追い払ったことは一度や二度ではなかった。

「そう。気を付けてね。ルシア姉さん、ズボラだから」

　そう言いながら、パンを口に運ぶウィルだけど。
　わたしは、確かに聞いた。
　幻聴かもしれないと疑うくらい、小さな音だけど。
　あいつの鼻から”ふっ”って。
　そのバカの仕方は、ちょっと許せない。

「ちょっと今鼻で笑ったでしょ！　「笑ってないよ」　大体あんたね、さっき自分で子供扱いするなーって　「笑ってないってば」　言っときながらわたしを子供扱いするっていうのはね　「姉さん落ち着いて」　そういうのがあんたも子供だ　「……むっ」　っていう――」

　ちょっとしたことから始まる、姉弟げんか。
　いつも吹っかけるのは、わたしのほうだ。

「言わせておけば好き勝手言ってくれるけどさ　「なによっ」　ぼくは大人だから子供扱いされるのが嫌なんだ　「ちっこいくせに」　まぁ、身体は大きくても、頭が子供な姉さんには　「なんですって！」　わからないだろうけど、そもそもぼくはいつだって正直に――」

　程度の低い、論争。そんなのはわたしでも分かってる。
　ウィルはどう思ってるかわからないけど。
　でも、この時間は、わたしがわたしでいられる、至福の時だった。
　そんな、二人しかいないのに、騒がしい朝食の時間は、あっという間に終わる。



　着ていた服の上に、教団から支給された鎧を着込む。
　全身を覆う物ではなく、ガントレットやブーツ、胸当てと言った、動きを損なわない目的で作られた、必要最低限の防具。
　そして、鞘に入った剣と、円形の盾。
　それを持って、玄関へと立つ。

「それじゃ、行ってくるわ」
「ん、行ってらっしゃい」

　あの程度の論争なら、日常茶飯事なんてすぐに仲直りできるもので。
　今では、朗らかな笑顔でウィルが見送ってくれる。
　一日に一度、見れるかもわからない、純粋な笑顔。
　そんな貴重な弟の笑顔を見て、心が軽くなるのを感じながら、わたしは家を出た。



　この街の教団本部となっている場所で手続きを取った後、ある洞窟までやってきた。
　基本的に一本道になっている洞窟の、最奥まで行って戻ってくるだけの簡単な仕事だ。
　今回も何事も無く終わるだろうと思いながら、いくつ目かの洞窟の最奥まで来た時だった。

「……？」

　鎧が散らばっていた。
　辺りに何もいないかを確認してから、鎧に近づいて、腕の部分を手に取る。
　よく見なくても、それはわたしが、今身に着けているものと同じものだった。
　しかも、そこまで古くない。わずかに汚れた程度しかないそれは、ここに置かれて3日以上は経ってないと思う。

「誰か来たのかな？」

　だとしても、街の外で鎧を脱ぎ捨てるなんてバカな真似、するはずがない。
　もしかしたら、何かあって、誰かがここで行方不明になったのかもしれない。
　教団本部に戻ったら、数日前から帰ってきてない行方不明者を探す必要があるかもしれない。
　そう考えながら、手に持っている腕鎧から目を離した瞬間――

　ギュルギュルギュルギュル！！

「えっ――！」

　突然、その腕鎧の内部から桃色の粘液みたいなものが、腕を螺旋状に回りながら上がってきた。

「魔物……っ！？」

　即座にそれが魔物だと分かったけど、剣を抜く暇も無く、その生きた粘液はブラウスの袖の中に入り込んでしまった。
　そもそも、剣を抜いても、この距離では近すぎて振れない。

「ひっ、いやぁ！」

　生きた粘液はブラウスの中でわたしの身体を這いずり回る。

「やめてっ……気持ち、んぃっ、わるぃ……！」

　うかつだった。
　よく考えればこんな所で脱ぎ捨てられてる鎧なんて、魔物による襲撃や危険性があってもおかしくない。
　っていうか、剣だけじゃなくて、ナイフくらい持ってくれば良かった……！

『気を付けてね。ルシア姉さん、ズボラだから』

　そう言って、鼻で笑ってきた弟の顔を思い出した。
　今朝、言われたばっかりなのにぃ……！

「ひゃっ、ちょっと、どこ触っ――あぁぁぁ！」

　胸当てを外していたら、服の中で胸を揉まれ、乳首を転がされる。
　目の前がチカチカと明滅して、膝ががくがく震えた。
　こんな得体の知れないのに、気持ちよくされるなんてやだ……！
　でもそれ以上に、気持ちいいって思っちゃう自分がやだぁ……！

「んくっ、ひぃ……このっ……！」

　ブラウスのボタンを取るのも煩わしくなり、ボタンごと引きちぎって開ける。
　先ほどよりも大きくなった粘液が、わたしの胸を覆っていた。
　粘液の中で、わたしの胸がこねくり回されるように動いている。

「ふぁ……はぁ……やぁ……いい、加減に……！」

　自然と荒くなる自分の息を嫌に感じながらも、胸を覆う粘液を掴む。
　ぬちゃっと音がして、手が粘液の中に沈んだ。
　掴めてない。

「……あー……ぁん♪」

　やっぱり、スライム。
　悟ったわたしに応えるように、スライムは乳首にちゅぅっと吸い付いてきて、嫌な声が出た。
　ど、どどど、どうしよう。
　と思ってたら、胸を覆ったまま、スライムの一部がわたしの目の前に飛び出してきて――

「え……？」

　その飛び出してきたスライムの先には、顔のようなものがあった。目のような白く丸い点が二つに、口のような白い横長の楕円の物が。
　わずかに口の端が上がっているように見えて、まるでわたしを笑っているような印象を受けた。
　しばらく、そんな顔のようなスライムと見つめ合っていたら。

「ふ――んんーーー！」

　いきなりスライムがわたしの口に突撃してきた。
　思わず口を閉じても、小さな隙間からぬるりと入り込んで、喉の奥まで容赦なく侵入してくる。

「んぐ、んぇ、んぅ、むぐぅぅぅ！！」

　えずきながら、泣きながら、口に入り込んでくるスライムを掴んでも、やっぱりそれは手の中に沈んでしまう。
　どうしようもなかった。

「んぁ、んっ、んぅーー、んっ、んぅっ！！」

　首を振っても、体内に侵入するスライムを止められない。
　どうしてわたしがこんな目に会わなきゃいけないのか。
　気付けば、胸を覆っていたスライムは、首やお腹にまで増えて、わたしの身体を撫でてきた。
　胃の中で、スライムが這い回り、蹂躙していくのがわかる。

　――苦しい。気持ち悪い。もうやめて。

　そう思っていた事が。

　――心地いい。気持ちいい。もっとして。

　に、塗り替えられていく。
　どうにかなりそう。
　だけど、抗えない。

「んん、んぁ、んぁ……ふぐぅぅぅ♪」

　快感に立ってられなくて、崩れ落ちるように倒れた。
　スライムがわたしの口内に入ってくるのをやめたとき、外のスライムは全身を覆うくらいに大きくなっていた。
　全身を包まれて、それだけで気持ち良くて、わたしの身体と頭はスライムに侵された。
　服や鎧が溶けて、無くなっているのなんて、既にどうでもいいことだった。

「んはぁ、はぁ、あぁ♪　あぁぁぁ♪」

　相変わらずおっぱいを揉まれて、固くなった乳首を吸われて。
　わきを舐めるようにくすぐられて、うでや、あしを、這い回られて。
　体内からは、胃壁をずるずると這いずって。

「あっ、はぁ、あぅ、ぅん♪」

　それでも、まだあそこだけは触られてない。
　焦らすように外側をじわじわと嬲って、でも、確実に近づいてきていた。

「あ、そこは、いやぁ……おね、がい……だから……そこは、だめ……ぇ♪」

　イれて欲しい。早くキて欲しい。
　身体や、頭は狂おしいほどに求めている。
　でも、そこに入れられてしまうのは、心がどうしても嫌がっていた。
　体内も、お口も、おっぱいも、腕も、脚も、それ以外なら、好きにしていいから。
　そこだけは、そこだけは――

「ひやぁ、はぁ♪　あぁん……くぅぅん♪」

　身体を捩ると、それに合わせたように刺激が追加されて、頭がおかしくなりそうになる。
　限界がもっと近くなる。
　だめ。イれて。やめて。キて。
　二つのわたしが、交錯する。

「やぁ……♪　いやぁ……♪」

　さっきから涙が止まらない。
　色々なわたしが、頭の中でぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。
　発する言葉は本心なのに。どうしても言葉が弾んで喜んでしまっている。

「はぁ……♪　はぁ、あぁ♪　やだ、やだぁ……♪」

　するとまた、スライムがわたしの目の前に顔を出してきた。
　やっぱり、その顔はさっきとまるで変わらず、わたしを笑っているようで。
　その顔に。全然、似ても似つかないのに。
　今日、最後に見た、彼の。
　あの笑顔が浮かんだ。

「――――」

　名前を呼ぼうとした瞬間、”それ”は、無情にも。
　一気に入り込んできた。

「んやぁぁぁぁ♪♪♪」

　頭の中がすべて吹き飛んで真っ白になった。
　ぐちゃぐちゃになってたわたしも、全部消え去って、一つになる。

「ふぁぁぁ♪　あぁぁ♪　なにこれ♪　すご、いぃ♪♪」

　あそこからはぐちょぐちょ、ぐちゅぐちゅと音が鳴ってる。
　スライムが出入りして、あそこの中を全部粘液で擦っていく。

「はぁ♪　いひぁ♪　イイよぉ♪　きもちいいよぉ♪♪」

　また口の中に入ってこようとしてくるスライムを、口を開けて出迎えて、舌で舐めてあげる。
　積極的に身体を捩って、おっぱいと乳首を揉みくちゃに苛めてもらう。
　腰も振って、あそこの中をたっぷり擦ってもらう。
　もう、きもちよすぎて、わかんない♪　

「んはぁ♪　むぐぉ♪　んぉ♪　んぁぁ♪♪」

　おくちじゅるじゅる♪
　おっぱいもみもみ♪
　ちくびちゅぅぅぅ♪
　いのなかずりずり♪
　わきぺろぺろ♪
　おまんこじゅぽじゅぽ♪

「ふぁ♪　んむぅ♪　ぐむむっ♪　はむぅぅぅぅ♪♪」

　ふぁ、あっ、あたま、おかしくなって、イキそう♪
　ひやぁ♪　スライムが、ぶるぶるって、全部くすぐられて、ふぁぁぁ♪
　すらいむえっち、きもちいいよぉ♪
　ぺろぺろ、もみもみも、ずりずりも、じゅぽじゅぽも、はげしく、なって♪
　あっ、もぅ、イく♪　イくイくイくぅ――♪♪

「んふぁぁぁぁぁぁぁぁ♪♪♪」

　あたまが、おかひ、おかひくなるぅ♪♪
　わらひが、わらひで、なくなっひゃうみたいぃ♪♪
　んぁぁぁぁぁ♪♪
　もっと♪♪　もっと、もっと♪♪
　もっとぉ――♪♪♪




「あはぁ♪　ひぁ……はぁ……♪」

　どれくらい、そうしてたのかわかんない。
　それでも、わたしは自分でスライムを弄って自分を慰める。
　むにむにとおっぱいを優しく揉みながら、あそこをくちゅくちゅと緩く弄る。
　きもちいい……♪　きもちいぃ……♪
　ボーっとした頭で……気持ち良い事に没頭していると、いきなり頭の中に男の子の顔が浮かんできた。

「ぁ……ウィル……？」

　ぽつりと、その子の名前を呟くと、一気に胸の中が空っぽになった。
　その空っぽになった場所を埋めるように、スライムを動かしてみるけど、気持ちいいけど全然足りない。
　足りない。たりない。
　心がさびしさで満たされる。
　彼のあきれた顔や、おこってる顔、てれてる顔とか。
　あと――笑ってるかお。
　ぜんぶ全部ぜんぶ、あたまにうかんできて、むねがきゅぅぅぅっとしめつけられて。
　なみだが、こぼれてきた。

「あぅ……ウィル……うぃるぅ……？」

　さびしいよ、うぃる。
　ねぇ、どこにいるの？
　あいたいよ。すごくあいたい。
　なまいきで、おとなっぽくて、でもちょっとこどもで、えがおがかわいくて、だいすきで、だいすきな――わたしのおとうとみたいな、おとこのこ。

「うぃる……うぐっ……ひぐっ……うぃるぅ……どこぉ？」

　さびしいよ。おねえちゃんすっごくさびしいよ。
　ひとり、やだよ。そばにきてよ。
　ずっといっしょにいるって、いてくれるって、ひとりにしないって、やくそくしたよね？
　ぎゅぅってさせて。なでなでさせて。おねえちゃんってよんで。わらいかけて。
　じゃないと、おねえちゃんさびしすぎてしんじゃうよ。
　だから、はやくきて。
　ね――うぃる？

■作者メッセージ

　――ねぇ、あなた今からわたしの執事にならない？　なってくれるなら、こんな所よりも、わたしの屋敷で寝泊りさせてあげるから。
　――誰かの身の回りの世話をする余裕はありません。自分の事で精一杯です。
　――あーえーっと、わたし、自分の事は自分でするから。その、着替えとか、恥ずかしいし……だから、食事だけで良いわよ。
　――無理です。ぼく、料理できませんから。
　――そんなの来てから覚えればいーのよ。もしひどかったら、覚えるまで外食すればいいんだし。
　――それなら、最初から料理が出来る人を雇うか、外で食べてればいいじゃないですか。ぼくじゃないとダメってことはないですよね。
　――ううん、あなたじゃないとダメなの。
　――はぁ？　なんでですか。
　――”わたし”に対して、素直に突っかかってきてくれるの、あなただけだから。


　　　　わたしを”わたし”として見てくれたの、ウィルが初めてだから。