Manticore is Eromantic
『あの森には恐ろしい魔物がたくさんいる。見つかってしまえば最後、身体の肉を貪り喰われてしまう。だから、絶対に足を踏み入れてはならない』
そう何度も口酸っぱく言うのは、反魔物国家の街に住む住人たちだ。
その森とは、その街の外に出てすぐに見つかるくらいには、近い距離に存在する。
しかし、その森はとてつもなく深く構成されているらしく、教団による調査も未だに終わってはいなかった。
奥深くに入り込んでいったものは、例え勇者であれど帰ってきたものは一人もおらず、それが調査が終わらない大きな要因となっているのである。
いつしか、その森は『帰らずの森』と呼ばれ、調査に乗り出すものはいなくなり、入り込んではいけない禁忌の場所だとされた。
そんな帰らずの森に対して、好奇心の塊である子供が興味を向けないわけがなく。
ある日、一人の男の子がとうとう森の中に入り込んでしまったのである。
「わぁ……!」
その男の子の名前は、アンリ。
両親に何度も諭され、絶対に入るなと言われた森の中。
太陽を遮断するほどに鬱蒼と生い茂る木々は、『帰らずの森』と呼ばれるに相応しい不気味さを醸し出しているが、初めて入るアンリ少年には好奇心を満たす興奮材料でしかないようであった。
奥へと進んでいくほど薄暗くなっていく森の中は、方向感覚を狂わせ、自分の足取りを分からなくさせていく。
しかし、そんなことも構わず、アンリは森の中をたった一人で探検していく。
とは言え、魔物がいると散々言われている場所である。見つかってしまえば死を意味することは、彼自身もよく分かっていた。
「…………」
最初は恐る恐る、周囲を警戒しながら。
しばらくそうして森の中を歩き回るが、魔物に出会うことも無く、その気配も感じない。
彼の中で少しずつ、『魔物なんていないのでは』という思いが湧き上がり、警戒心が薄れていった。
そうして魔物に出会うこともなく、周囲に注意を払うこともなくなり、気ままに森の中の奥深くへと歩いていく。
もう彼には、魔物は存在しないものだと思い込んでいた。
「おやぁ? 迷子かなぁ、ぼく?」
「え……?」
そんな中、いきなりハスキーな女性の声が聞こえてきた。
声の聞こえた方に振り向けば、そこには意地の悪そうな表情でこちらを見る、三つ編みの赤い髪をした女の人がいた。
ピンクの小さなハートが装飾されている黒いビキニだけの露出的な格好で、その豊満な肉体を隠そうともしていない。
が、頭上に狼のような犬耳を生やし、肘や膝の先は黒獅子のような手足が伸びている。また、人体と獣体の境界付近には白い柔らかそうな毛に覆われていて、首の周りも同様の白い毛に覆われ、頭の後ろには、たてがみのように赤紫色の毛が密集していた。
そして、その赤黒い蝙蝠の翼や、膨らんだ先端に無数のトゲを持つ尻尾を見れば、アンリと同じ人間ではないことを察するのは容易である。
つまり、彼女は。
「ま……も、の……?」
それも、ひどく凶暴だと知られているマンティコアである。
その運の悪すぎる事実を、アンリは知る由もない。
「……へっ」
小さく呟くように言ったアンリの言葉に答えるように、彼女はその口角を吊り上げた。
――魔物に見つかってしまえば最後、身体の肉を貪り喰われてしまう。
その言葉を思い出し、彼の顔が一瞬で青ざめた。
「小さな可愛い男の子が、一人でいけないなぁ……誰かに聞いてないのかねぇ? この森には魔物がたくさんいるってさ」
「ひっ……」
魔物が一歩だけ、こちらに近付いてきた。
狼の耳の前から、顔の両横から首の下まで伸びている、垂れた犬耳のような赤い髪が揺れる。
思わず身体をびくつかせてしまい、それがより彼女の嗜虐心を煽ることになった。
「た、たべるの……?」
びくびくと身体を震わせながら、アンリも一歩だけ後ろに下がる。しかし、魔物との歩幅に対して、その一歩はあまりにも短すぎた。
先ほどよりも、魔物の姿が近く、大きくなる。
「くっく、どんな味がするんだろうねぇ……アンタみたいな小さな人間を食べるのなんて初めてだから、楽しみで仕方ないんだ」
大きく舌なめずりをしながら、また一歩、近付いてきた。
その紅い眼光は鋭く、彼女から目を離せば一瞬で喉元を喰い千切られそうな感覚に陥る。
恐怖に身体が言うことを聞かず、足が動かない。距離を離すことすら出来なくなっていた。
彼は、勇者でも冒険者でも何でもない。小さな子供でしかなかった。
だからこそ、魔物に出会った時点で、彼の運命は決していたのだ。
アンリが恐怖に怯える様を、魔物は愉快そうに笑いながら距離を詰めてくる。
「確かに味も楽しみだけど、それ以上に――」
魔物が一歩、近付いてくる。
アンリは下がることが出来ない。
「アンタはどんな声でナくんだろうねぇ?」
魔物がまた一歩、近付いてくる。
それでもアンリは一歩も動けない。
「うっ、あぅ、ぁ……」
もう一歩。
やはり身体は硬直したままだ。
「精々一杯ナいて」
さらに一歩。
魔物が近付いてくる様を、見ることしか出来ない。
「アタシを」
一歩、二歩、三歩。
急速に早くなった彼女の足音が、彼の心を、恐怖で限界まで引き絞っていく。
「楽しませてよ――」
四歩、五歩、六歩。
七歩八歩九歩。
そうして、彼は動けないままに。
「 ね ぇ ? 」
眼前に、狂気に染まった紅い眼と、思いっきり歪んだ笑みが広がった。
「――うわあああああああああああああ!!!」
理性のタガが外れ、ようやくアンリは動き出した。
泣き叫びながら、魔物とは正反対の方向に振り返って一目散に走る。
「ああああああ――あぐっ!」
しかし、すぐに後ろから片足に何かを刺され、地面に倒れこんでしまう。
刺された箇所を見てみると、片手で握れそうなほどの大きさのトゲが足に突き刺さっていた。
痛みは無く、血も流れていなかったが、恐怖で理性を失った彼にはそんな事は関係ない。
慌てて抜き取り、近くに投げ捨てると、走りながら立ち上がる。
「うわああああああああ!!」
後ろも見ず、道も考えず、ただひたすら一直線に森の中を駆け抜けていく。
あの場所から、あの魔物から逃げるように。
途中で足が転んでも何度も立ち上がり、肺が破裂しそうなくらいに悲鳴を上げても、死の恐怖に押されるように、ずっと逃げ走っていた。
視界が明滅するほどに限界まで走ったあと、身を隠せそうな樹を見つけて、そこに身を寄せて腰を下ろす。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
走りすぎたせいか、息が全く整わない。
心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。
身体も焼けるように熱い。
追ってきているかもしれない魔物に悟られぬように、両手で口を覆って周囲に音が漏れぬようにする。
しかし、そんなことは既に無意味だった。
「あーよく頑張ったよ、頑張った。そんなちっさい身体でよくここまで走ったよ、アンタ」
頭上から魔物の声が聞こえたかと思えば、目の前に降りてきた。
まるで嘲笑うように、下卑た笑みで見下ろしてくる魔物を見て、アンリは呆然とする。
「でも、意味なかったねぇ。結局、アタシの目の前にいるんだからさ」
どこかおどけながら言う彼女には、慈悲や情けは全くと言っていいほど感じられない。
そもそも、彼が逃げようとした時、逃げないように拘束することも可能だったはずなのだ。
それを敢えてしなかったということは、彼女の表情や言動が物語っている。
全ては彼女の掌の上で転がされていただけなのだ、と悟ったとき、アンリの顔はかつてないほどの絶望に染まった。
「くっく、いい顔するねぇ……♪」
その表情を見て、心底愉快そうに喉を鳴らした。
恐らく、彼女が一番望んでいた表情だろう。
「それじゃ、今度はアタシの番だ。たっぷりと楽しませてもらったあと、美味しく食べてやるからね」
近付いてくる魔物から、逃げようと後ろに下がるが、すぐに樹によって阻まれる。
逃げ道を失ったアンリに、魔物は邪悪な笑みを浮かべながら顔を寄せると、その首を舌で舐め始めた。
「ん……れろ……ぺちゃ……ふ、ちゅ……」
ずっと走っていて、汗だらけになった首を舌が這い回る。
汗のせいか、その舌もべったりとくっつくように動き、より強くその感触が伝わってきた。
その間に、鋭い爪でアンリの服を裂き、丸裸にしてしまう。
「う、うぅ……やめ、やめて……」
アンリは眼をぎゅっと強く閉じて、服を裂かれて生まれた状態となった身体を震わせているだけだった。
彼女はその姿を見て何か思案したあと、アンリの顔を上って耳を舐り始めた。
乱暴に、しかしわずかに優しさを伴った責めに、声を漏らし身体を震わせてしまう。
ビキニ越しに彼女の豊満で柔らかな胸を自分の身体に押し付けられ、意識がそこに集中しそうになる。
そんな彼の心を見抜いたように、ふーっと、優しく耳元に息を吹きかけられて、くすぐったさに思わず声が出てしまう。
「うぁぁ、や、やめてよぉ……!」
訳の分からない彼女の行動に、恐怖とは違う感覚が、背筋を駆け上がった。
それが快感であることなど、彼の心は認識できるはずもない。できたとしても、きっと認識したくはなかっただろう。
しかし、心とは裏腹に身体は素直に快感を受け止め、アンリの男性器はすぐに屹立し、皮に包まれた鈴口からは早くも汁を垂れ流し始めていた。
「あぇ……どうして、こんなにおおきくなってるの……?」
「ふぅん、少し小さいけど……その小さな身体にしては十分か」
初めての身体の変化に困惑するアンリに対して、マンティコアは嬉しそうに鼻を鳴らした。
それを合図にしてか、彼女の後ろで伸びているだけだった尻尾が、意志を持ったようにアンリへとその先端を向けてくる。
人間やそれ以外の見たことある動物とは違う、不気味でグロテスクな尻尾に、彼の消えかけていた恐怖が復活した。
「ひぃ……!」
「アンタは今からこの尻尾に食われちゃうんだ……怖い? やめて欲しい?」
耳元で囁いてくる彼女が、そんなアンリの恐怖をさらに煽る。
その尻尾の先端から涎のような粘液が零れ落ち、まるで彼を食すその瞬間を今か今かと待ち侘びている。
穴のように開いた先端の中には、ピンク色の肉壁と、無数の細かなひだで覆われていた。
アンリは、それが何か分かるはずもなく、得体の知れない恐怖に涙を流して首を横に振る。
「や、やだぁ……怖いよぉ……やめてぇ……!」
身体の震えが止まらず、歯がガチガチと鳴り始めた。
自分の最期がもうすぐそこまで来ているのだ。
それでも、彼女に命乞いをする。
やめて欲しいと、見逃して欲しいと。
それを聞いて、彼女はにまぁ、と意地汚く笑った。
「――やめない♪」
そして、容赦も慈悲もなく、尻尾の先端でアンリの屹立した性器をくわえ込んできた。
「あぁぁぁぁ……? あ――あぁぁぁぁぁぁ!!」
瞬間、ペニス全体に肉壁が絡みつき、中のひだがとてつもなく柔らかく、舐めるように蠢いた。
苦痛を伴うものだと思っていたのに、訪れたのは別の感覚。しかも、尻尾がくわえ込んだのは、自分の身体全体ではなく、ペニスのみ。
困惑し、混乱し、錯乱し、アンリは訳も分からず、流れ込んでくる快感に首を振った。
「ひぁぁ! なにこれ、なにこれぇ!」
それでも、見た目的に恐ろしい物にペニスを飲み込まれている事実は変わらない。
グロテスクな尻尾に手を伸ばすが、先端の周りに生えている無数のトゲが邪魔をして満足に掴むことすら許されない。
結果、アンリは尻尾の中身からもたらされる快楽に悶えるしかなかった。
「アッハハハハ、わかんないねぇ? でもちゃんとアンタのチンポ食ってるからね、安心しなよ」
見知らぬ快感に戸惑い震えるアンリを、女はにやにやと笑いながら見つめる。
その間も、尻尾の中でひだひだが、包皮が剥けて晒された亀頭を包み、カリ首を締め上げ、肉壁が棹全体を擦り上げられる。
「こうやって、中でチンポぐっちゅぐっちゅに動かしながら締め付けたら……ほら♪」
「あぁぁぁぁぁぁ!」
強烈すぎる快感に、アンリはあっという間に射精した。
吐き出された精液を、尻尾がごきゅごきゅと音を立てて飲んでいく。
「アッハ、美味しい♪」
恍惚の表情で身体を震わせるマンティコアの女性。
頬どころか身体全体を上気させ、汗ばんだ身体から漂ってくる甘い香りに、アンリがボーっと彼女に見惚れてしまう。
だが、いきなり尻尾が再稼動を始めて、意識を強制的に戻された。
「あぇぇ!?」
「まだまだ出るだろ? 出ないわけないよなぁ? 尻尾の中でこんなにビクビクしちゃってるしさ♪」
今度は、ペニスの脈動を感じ取るように、肉壁がみっちりと密着してきて、根元から鈴口へと強く絞り取るように蠕動運動を始めてきた。
「あぅぅぅ、やめてぇ……!」
暴力的な快感に腰をがくがく震わせるアンリに、女性は目を細めて嗜虐的な笑みを浮かべるだけだった。
陰茎どころか、睾丸の袋もひだで舐め上げられ、強制的に射精を促される。
「ひっ、あひぃ!」
「いいよ、情けなくイっちゃいなよ。どんなに頑張ったってどうせイかされちゃうんだからさ、アハハハハハハ!」
三つ編みの髪を揺らしながら、女性は高笑いをあげた。
そんな彼女の笑い声を聞きながら、絶えず送られてくる快楽の波に耐える術も分からず、アンリはあっけなく二度目の射精を迎えた。
「あぅぅぅぅ!」
「アハハハハ……んっふ♪」
彼の精液が体内に取り込まれた途端、色っぽい喘ぎ声をあげ、恍惚とした表情を浮かべた。
しかし、それも束の間で、情欲の灯った眼をこちらに向けながら、再び尻尾の中が蠢き始める。
「ふぁぁ、やめて……もうやめてぇ……!!」
「…………ふん、しょうがないな。イったばかりだし、ちょっとだけ弱くしてやるよ」
過ぎた快楽に涙を流すアンリに、マンティコアの女性は複雑な表情を浮かべながら言うと、尻尾からの刺激が優しくなった。
アンリは確かにやめて欲しいと言ったのだが、どうやら彼女には、やめる、という選択肢は存在すらしていないらしい。
「あぁぅ、そうじゃないよぉ……やめ、ふぁぁ……」
「さっきと違ってて、これもイイだろ……? くちゅくちゅに揉み解しながら、ひだで先っぽをちろちろって舐められてるみたいでさ♪」
それでも、先ほどよりも随分とマシになったまろやかな刺激に、アンリは満更でもない反応だった。
彼女の言うとおり、肉壁がペニス全体をマッサージするように揉み解され、無数のひだが舌のように亀頭を小さく舐め回してくる。
激しさは無いが、全身の力が抜けて背中の樹に身体を預けてしまうほどに、快感をすんなりと受け入れていた。
「んっふふ♪ チンポの先が膨らんできたねぇ。弱くしてやったのにこんなに早くちゃ、意味ないなぁ♪」
「ひぁ、はぁぁ、あぅぅ……でちゃうよぉ……やめてぇ……」
受ける快感は違うはずなのに、根元から尿道口へと上っていく速度はほとんど同じだった。
それを悟ったのか、先ほどと同じように、肉壁が根元から先っぽへと蠕動運動を始める。しかし、その動きは先ほどの搾り取るような動きとは違い、まるで射精を導くかのように緩慢で優しいものだった。
「ほらほら、遠慮せずに白いの出しなって♪ もう二回も出してるんだから、三回も四回も変わんないだろ……?」
「あ、あぁぁ……ふぁぁぁぁ……!」
彼女に耳元で囁かれながら、アンリはあっけなく白濁液を漏らしてしまった。
射精しても、尻尾の動きが止まる事はない。
「あはぁ……♪ 三回目なのに全然味落ちないなぁ、アンタの精♪」
「うひぃ、もう、むりだよぉ、ほんとにやめてぇ……」
変わらず緩い刺激を送ってくる尻尾の快感に身体を弛緩させ、口元から涎を垂らしながらも止めてくれと懇願するアンリを見て、マンティコアの女性はちらりと自分の尻尾を見やった。
「やめさせたいならさ、力づくでやめさせればいいよ。それが出来るなら、の話だけどさ」
そう言われて、彼女の視線に釣られるように、ぐっちゅぐっちゅと音を立てながらペニスを刺激し、粘液が垂れ零している尻尾を見やると。
先ほどまであったトゲが無くなっていた。
何故トゲが無くなっているのか、普段ならばその疑問が真っ先に思い浮かぶはずだが、短時間で三回も精を出され、今もなお快楽に苛まれている彼の頭では、そんなことまで考えられるはずもなかった。
一刻も早くも、この快楽地獄から抜け出したかった。
気持ち良すぎて、精を出しすぎて、頭がどうにかなってしまいそうだったのだ。
「う、ぅぅ……!」
アンリがちゅるちゅると吸引するように快感を送ってくる尻尾に、身体を震わせながら両手を伸ばす。
マンティコアの女性の口元が歪んでいることにも気付かずに。
それをしっかりと掴み、この快楽地獄から早く解放されるために、自分の股間から外そうとする。
「はぁ、ぁ……えっ、あっ、うぁぁ!」
しかし掴んだ瞬間、何故か身体が勝手に動き、尻尾を上下に動かしてしまう。
先ほどの緩く優しかった快楽が、自らの手によって最初の激しく気が狂いそうな快楽へと元通りになってしまった。
「ふぁぁぁぁ! なんで……どうし、てぇ!」
完全に彼の意思を無視して、ただひたすら快楽を求めてぐちゅぐちゅと尻尾を動かし、腰を打ち付けている。
それでも感覚は彼の中にしっかりと残っており、快感が脳に流れ込んでくる。
困惑するアンリに、マンティコアの女性はくっくっと喉を鳴らして笑っていた。
「あれぇ、やめて欲しいんじゃなかったっけぇ? 口ではそう言いながら、本当はこの尻尾すっごい気に入ってくれてたのかなぁ?」
「あぅぅ! うぅ、んぅぅぅぅ!」
彼女の意地悪な言葉を否定するように、アンリは泣きそうな顔で必死に首を横に振るが、自ら尻尾を求めるように腰を振り、両手で尻尾を上下させる姿は滑稽でしかなかった。
尻尾を上下する彼に合わせるように、肉壁がぎゅっぽぎゅっぽと収縮運動を始め、精を搾り取ろうとしてくる。
「アッハハ! 情けないねぇ? 自分で動かすのが気持ちよくて止められないなんてさ……♪」
尻尾を奥深くまで挿し込めば、ひだがペニスの先に吸い付いて舐め回し、逆に浅いところまで引き抜けば、肉壁が強く締め付けてくる。
「ふぁ、ちがっ、あひっ、ひぃぃぃぃ!」
射精を察した身体が、尻尾の中のひときわ奥まで突き上げると、肉壁が出口を塞ぐように収縮して肉棹を絞り上げ、ひだが鈴口をこじ開けるように刺激してきた。
強制的に射精を促され、アンリはあっけなく精を捧げることになった。
しかし、射精している間も、身体は尻尾を求めて腰を振り続ける。
「ひぁぁ! とまってぇ、とまってよぉ!」
「んくぅぅぅ♪♪ 射精しても動き止めないなんて、アタシよりもよっぽど淫乱じゃないか……♪」
アンリの叫びも空しく、その動きはさらに激しさを増していく。
自身の身体に流れ込んでくる精液に、マンティコアの女性が、甲高い喘ぎ声を上げながら、アンリを煽っていく。
「うわぁぁぁ、もうわかんないよぉ! たすけてぇ……!」
快楽を拒絶したいのに、身体は素直に受け入れてしまっている。
そんな矛盾を孕んだ自らの状態に、彼の幼い心は壊れかけていた。
「それなら素直に認めなよ……楽になれるよ?」
その時、アンリの身体はぴたっと止まった。
尻尾を持つアンリの手に、彼女が自らの手を重ねてきたのだ。
先ほどは獣の手だったはずなのに、今はアンリよりも大きく、細い人間の女性の手になっていた。
「あぁ、ぅ……んくぅ……」
だが、尻尾からは焦らすように、緩慢な動きで弱い刺激を与えられてきている。
先ほどの気が遠くなりそうなほどの快感が無くなって開放されるかと思えば、次に襲ってきたのは狂おしいほどの物足りなさだった。
「んっふふ、これじゃ物足りないだろう? アタシの尻尾で気持ちよくなりたい、って素直に認めたら好きにさせてやるよ……?」
「え……あぅぅ、でもぉ……」
肉壁の蠕動運動は先ほどよりもずっと緩く、ひだは亀頭に触れるか触れないかの距離で蠢き、さわさわと微弱な快感をもたらしてくる。
一転してもどかしすぎる快感に、腰を横に動かしてさらに快感を得ようとするが、まるで金縛りにでもあってしまったかのように、動かすことが出来なかった。
強烈な快感に身体が慣れ、そして求めてしまっていたのだ。
下火で燻ってくるようなじれったい感覚に、今度は別の意味で心がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「うぅ……あぅぅ……」
「ほらほら、言わなくていいのかなぁ? 言わなきゃこうやってチンポいじめられたままなんだけどなぁ……?」
じわじわとした刺激が、彼の心までも溶かし、抵抗する気力を確実に削いでいく。
思いっきりを尻尾を上下に動かしたいのに、彼女の手が自分の手に絡みつき、全く動かせない。
アンリの身体の支配権は、アンリではなく、彼女にあった。
快感を求める身体に、心が寄っていく。
「うぅ、もっと……」
「もっと……なに?」
小さく、震える声で言うアンリに、マンティコアの女性は、今までとはらしからぬ声で続きを促す。
まるで、全てを許してくれそうなほどに、優しい声で。
その声で、アンリの心は、完全に屈した。
「もっと、尻尾で気持ちよくしてぇ……」
その言葉を聞いて、マンティコアの女性は、にんまりと笑った。
「アタシの尻尾、そんなに気に入った?」
アンリはこくんと頷いた。
「んふ♪ なら――好きにしなよ」
彼女の手が、アンリの手からそっと離れていく。
それと同時に、彼の身体の支配権が戻ってきた。
今ならば、尻尾を股間から引き剥がすことも可能だろう。
しかし、彼は尻尾を引き抜くことはせず――快楽を求めて、激しく上下に動かした。
「ふあぁぁぁぁ……!」
弱い刺激ばかりだった尻尾の肉壁に、突然みっちりと締められ、さらに蠕動運動を始めた。
待ち望んでいた快感に、四回も射精していると言うのに、ペニスは早くも絶頂を訴えてビクビクと震え上がった。
「くっく、もうチンポびくびくしてるじゃないか。そんなにいいのかなぁ?」
嘲笑するような彼女の言葉も、どこか色っぽく湿っており、最初の時ほど凶悪な声色では無くなっていた。
アンリを見る目も熱っぽく、熱い吐息で彼の顔をくすぐる。
「ふはぁ、あぁぅ……いいよぉ……おねえちゃんのしっぽいいよぉ……!」
もはやアンリは尻尾の虜になっていた。
虚空を見つめて、ひたすら尻尾を使って快感を貪り、絶頂へと駆け上っていく。
その姿に、マンティコアのお姉さんはんっふふ、と愉快そうに笑った。
「もう出ちゃうねぇ? またアタシの尻尾に一杯ドクドク漏らしちゃうねぇ?」
興奮に息を荒くしながら言うお姉さんに呼応するように、尻尾の蠕動運動が早くなる。
それに合わせるように、尻尾を上下させるアンリの動きも早くなっていく。
「出しちまえ出しちまえ♪ アタシの尻尾の中、白く染めるくらい、いっぱい出しちまえ♪」
お姉さんが言うと同時に、ひだが螺旋状にペニスを絡め取り、そして根元から強く絞り上げられる。
今まで一番強烈な搾精に、ペニスは大きく震えながら白濁液を尻尾内に射出した。
「うぁああああ!!」
五回目でも、変わらぬ質量の白濁液が尻尾内に満たされる。
それはすぐさま尻尾の奥へと飲み込まれ、彼女の体内に循環していく。
「ふっくぅぅぅぅぅぅ♪♪」
マンティコアのお姉さんが、身体を震わせながら今までに無い嬌声をあげた。
その黒いビキニで覆われた秘部からぷしゃぁっと透明な粘液が溢れ出し、既に股下の地面に出来ていた水溜りに落ちていく。
「はぁ……あはぁ……♪ もう、最ッ高……♪」
射精したにも関わらず、夢中になって尻尾と腰を上下に動かすアンリから尻尾を引き抜くと、お姉さんは恍惚とした表情のまま、樹に背中を預けているアンリの目の前に跨り、その首に両手を回す。
そして上気しきった顔をアンリに寄せると、だらしなく涎を垂らす彼の唇に吸い付いた。
「はむっ、んむれろっ、じゅっ、じゅるるっ」
舌を入れられ、口内に溜まった唾液を啜られる。
アンリは抵抗する事なく受け入れ、自分から舌を絡めようとする。
「……ふふん♪」
その反応に満更でもなさそうに表情を歪め、さらにアンリの口内を蹂躙していく。
「れるっ、んくっ、ぬちゅっ、んづぢゅ、んくっんくっ、ずじゅるるるっ!」
口内を荒し回される乱暴な快楽に、意識が飛びそうになる。
しかし、そんな意識を繋ぎとめるのもまた、同じ快感だった。
唾液を全て吸われ、彼女の喉を通っていく。
それだけの被虐的な快楽に、アンリは知らず身体を震わせた。
「っはぁ……んっふ、悪くないなぁこれも……♪」
「ぁぅ……」
「ほら、しっかりしろよ。まだ終わりじゃないんだよ?」
虚ろな瞳で見てくるアンリの顔を、マンティコアのお姉さんはいつの間にか戻っていた黒獅子の手で、ぽふぽふと叩く。
柔らかい肉球の不思議な感触がぷにぷにと頬に当たり、彼の目に少しだけ光が戻った。
「しっかりしてもらわないとねぇ……こっからが本番なんだから」
「あ、えっ…………えっ」
彼女の言うことが理解できず、アンリは目を白黒させながらマンティコアのお姉さんを見上げる。
もはや最初の頃とは全く印象の違う、どこか期待を孕んだ淫らな笑みで、彼女は見下ろしてきていた。
「誰も尻尾だけで食べるとは言ってないよ? だから、今度はこっちで食べてやるからな……んふっ♪」
そう言いながら、アンリに見せ付けるように膝立ちになると、人間の手で黒いビキニの布地をずらしていく。
彼女の秘部が完全に露出すると、まるで栓を抜いたように、愛液がどろりと垂れ落ち、股下にあったアンリの股間を濡らしていく。
「……うぁ」
熱い愛液がいきり立ったペニスにかかり、快感と興奮にアンリが跳ねる。
その様子を見て嬉しそうに口角を歪ませると、膝立ちのままアンリに詰め寄ってきた。
「そうだ……せめて名前ぐらいは聞いておかなきゃな?」
「え……?」
そうして、彼女の口から出てきた言葉は、興奮が限界にまで引き上げられたアンリにとって、全く予想していなかったものであった。
言われて、初めて彼女に対して名前を明かさず、そして明かしてもらっていないことに気付いた。
「名前だよ、名前」
早く言えよ、と言わんばかりに、獅子の手にある鋭い爪を首筋に当てて威嚇してくる。
アンリはその威嚇に身体をわずかに震わせながら、答えた。
「あ、アンリ」
「へぇ、アンリか、アンリねぇ……アンリ……」
聞いておきながら、大して興味も無さそうに何度も名前を呟きながら、首筋の爪を引いた。
そうして、下半身を動かして、屹立したペニスの上にその秘所を合わせる。
「おねえちゃん、は?」
「ん? んー、アタシはねぇ、ティナっていうんだよ」
アンリの勃起したペニスを人間の手で掴んで、自らのヴァギナに宛がいながら、彼女――ティナは答えた。
それ以上、アンリが何かを言うことは許されなかった。
亀頭が陰唇に振れ、くちゅりと熱い膣壁の入り口に包まれ、快感が走る。
「あうぅぅ!」
「んはぁ……これだけで、もう、上々っ♪」
身を固くするアンリをちらりと見てから、ティナが二人の繋がる場所を見て、快感に熱い吐息を漏らした。
「はぁ、はぁ、アンリ、行くよ? アンタのこと、食べちゃうよ?」
情欲に塗れた表情でアンリに問いかける。
彼は目を閉じたまま、何度も何度も頷いた。
それを確認すると、ティナは一度舌なめずりをしてから――ずっぷり、とアンリの男根を飲み込んだ。
「うぁっ――あぁぁぁぁ!!」
「あっは――え、ちょっ、くはぁぁぁぁん♪♪」
尻尾とはまた違う、強大な快感がペニスに襲い掛かり、アンリはたまらず射精してしまった。
ティナも、まさか射精されるとは思っていなかったようで、膣内で精を受けて戸惑いながらもガクガクと身体を震わせて絶頂に達する。
「早すぎるだろ、このバカ……んくぅ♪ でも、尻尾の時より、すごく、イィ……♪」
「だ、だってぇ……ひぁっ!」
ティナが怒ったように言うが、快感に蕩けた顔に、聞き慣れた声よりも幾分かトーンが高いせいで、全く怖くはなかった。
だが、それ以上に未だ送られてくる快感に、アンリはまともに答えることができなかった。
彼女の膣内は、既にアンリ専用の物として、完成されていたのだ。
動かずに挿入しているだけで、今でも膣壁はペニスに密着し、膣内のひだが吸い付いてアンリに強烈な快感を送り続けてくる。
「ティナねえちゃんのナカ、きもち、よすぎるよぉ……!」
「んふぅ♪ もう、手のかかるガキだなぁ、アンリは♪」
泣きそうな声で告白するアンリに、どこか弾んだような声でティナが応えると、アンリの頭を抱え込んで胸の内に抱き締める。
そして、愛しくてたまらないと言った表情で、アンリの後頭部を優しい手つきで撫でた。
アンリに、その顔は見えていない。
「んぁっ、ふぐぅ……」
「ほら、今度は動くからな? ちゃんと耐えろよ……?」
そうアンリに耳を寄せて優しく囁くティナに、アンリは胸に顔を埋めながら、こくこくと頷く。
しかし、彼女はニィッと笑うと、腰を激しく動かし始めた。
「んぐぅぅぅぅ!」
「ゆっく、んっ♪ りっ、動いてっ、んくっ♪ アタシが満足、できるわけ、んはぁ♪ ないだろっ……!」
激しすぎる腰の動きに、アンリは今までに無い快感に晒された。
熱い膣内から引き抜かれる際、密着していた膣壁が敏感なカリ首に擦れ、膣内に挿入する際には、閉じていた膣壁を切り開くように進むため、ぎゅうっと強烈な締め付けを受ける。
さらに前後に動くたび、裏筋をひだがちろちろ、と舐め上げてくる。
「ふぁっ、あっ、おねえ、ちゃんっ、まっ、てっ、むり、だよぉ!」
挿れた時点で耐えられなかった彼に、これほどの刺激に耐えることなどできるはずなかった。
乳房から顔を上げてティナに早い限界を訴える。
「んっ、くっ、ふくっ、はっ、もうっ、ほんとに、アンタって、奴はぁ♪」
身体を弾ませ、不満には聞こえない声色で不満を言いながら、それでも彼女は動きを緩めることはなかった。
それでも耐えろ、というティナの無言の言葉を悟り、ティナの乳房に顔を埋めて歯を食い縛る。
膣内で愛液と精液がぐちゅぐちゅと混ざり合い、ペニスがビクビクと激しく痙攣して膣壁にぶつかり抉るように擦っていく。
その度に、アンリの腰からは快感が駆け抜けて、下腹部の底から白濁が急速に吹き上がってきた。
「ふっくぅ、くはぁ♪ あっは、これっ、やば、いぃ♪」
ティナもかなりの快感を得ているらしく、その顔が淫らにだらしなくなり、腰の動きが小刻みになっていく。
「はぁ、ふはっ、おねえ、ちゃん、ティナ、ねえちゃん!」
「ア、ンリっ、アンリっ! アンリアンリアンリ♪」
お互いの名前を呼び、お互いを強く抱き締めながら、絶頂へと昇っていく。
膣内の最奥付近で上下に動かされ、快感に降りてきたらしい子宮口が、こつっこつっ、と肉棒の先に当たる。
柔らかな膣壁に扱かれる中で、いきなり現れた強い刺激に、耐えていた彼の努力をあっという間に破り、限界まで数段飛ばしで駆け上がっていく。
「はぁ、うぁ、ごめん、なさっ、もうっ……!」
「んっはぁ、だい、じょうぶっ、アタシもっ、もうすぐっ、だからぁ♪」
彼の言葉どおり、亀頭が限界を訴えるように、さらに膨張し打ち震える。
それを知った彼女の膣肉が締まり、陰茎全体にひだひだが覆いかぶさり、ぐちゅぐちゅと咀嚼されるように蠢いた。
「あひぃ! なにこれぇ! もう、だめぇ、でるっ、でるぅ!!」
「イイ、よっ、んっはぁ、出し、なっ♪ いっぱいっ♪ アタシ、のなか、にぃ♪」
とどめとばかりに、膣壁に今までにないほどの締め付けで絞り上げられ、視界が明滅して意識が飛びそうになるほどの快感の中、彼女の膣内で精液を爆発させた。
「っああぁぁぁぁぁ!!」
「んっくぃ、ひきゃぁぁぁぁぁん♪♪♪」
彼女の膣内で、射精するペニスが白濁を撒き散らして暴れ回る。
既に何度目かも覚えてないほどの射精ではあるが、その量は今まで一番多かった。
気の遠くなるほどの射精に、アンリはティナを強く抱き締める。
「あふぅ、あんぅ♪ ふはぁ……♪」
膣内で大量の精液を浴びながら、ティナは恍惚に呆けた表情で身体をびくん、びくんっと跳ねさせる。
無意識なのか、抱きつかれてアンリの腰と頭に手を回し、しっかりと抱き締めていた。
「あはぁ……♪ んっふっ、まったくどうしてくれるんだ? もうアンリ無しじゃ生きていけないじゃないか……♪」
長かった射精が終わると、うっとりとした表情で吐息を漏らしながら、ティナがアンリの耳元で呟くように囁いた。
「あうぅ、ティナねえちゃん、ティナねえちゃぁん……」
しかし、それはアンリも同じようで、ティナの胸に埋もれて、顔を揺すって甘えてきていた。
「んっふふ♪ なーんだ、アンリもアタシ無しじゃもう生きられないみたいだなぁ♪ それなら仕方ない、二人でずっと一緒に生きるしかないねぇ♪」
ひどく弾んだ声でそう言いながら、ティナはアンリの頭を優しく撫でる。
その言葉は、魔物娘にとって、もう一生離さない、というプロポーズにも近い言葉だった。
とは言え、既にティナの虜になってしまっているアンリには、ティナから離れるという選択肢など、生まれるはずもないのであった。
ティナに破かれた、アンリの服の代わりを森の中を全裸で歩き回りながら何とか見繕い、服を身に付けて一段落着いたときのことである。
「ティナねえちゃん、さっきふたりでいきるしかないっていってたけど」
「んー? それがどうしたの?」
アンリとは変わらず、露出の多い黒いビキニを衣服として身に付けたティナが、獅子の手の肉球で彼の頭をぽふぽふと軽く叩きながら聞き返した。
確かに、彼女は先ほどそのようなことを言っていた。
しかし、それはアンリにとって、ある一つの問題を抱えていた。
「あの、おかあさんとおとうさんが……」
彼の両親の問題である。
まだまだ年齢的にも精神的にも幼いアンリは、安易に手放すことが出来るほど成長してはいない。
そして、何よりも重大な問題。
「んー? あー……それならアタシが何とかするよ」
「だ、ダメだよ! ティナねえちゃんころされちゃうよ!」
「あぁ?」
アンリの家は、反魔物国家にあるということだった。
魔物であるティナが入れば、すぐに討伐対象に晒され、現れてきた教団の人間たちに、倒されてしまうだろう。
「あー、なんだそんなことかよ。大丈夫だよ、アタシはバレないから」
「……えー……」
適当に流そうとするティナを、アンリは信じていない表情で見つめていた。
それもそのはずである、彼女の胴体部分は人間と言っても遜色ないのだが、それ以外はどう見ても魔物なのだ。
手足は黒獅子のような獣のモノで、頭の上には狼の耳が生え、背中には蝙蝠の羽を生やし、さらに尻尾はもはや一個体の生物みたいに動くのである。
この状態でバレないわけがない。
その視線を、ティナは鬱陶しそうな表情で嘆息して返した。
「……あのさぁ、バカじゃないんだから、この姿のまま行くわけないだろ。アタシが反魔物国家に乗り込む時は――」
瞬間、先ほどまで存在した彼女の羽も、尻尾も、犬耳も、そして白いもふもふの毛も、全て消え去っていた。
黒獅子だった手足は肌色の人間の物へと変化し、海でもないのに黒いビキニという露出の多い格好であることを除けば、誰が見てもその姿は普通の人間女性であった。
「わー、すごい! ティナねえちゃんすごい!」
「へっへ、アタシだってこれくらいできるんだよ」
はしゃぐアンリに、ティナはやや得意そうな表情を浮かべている。
「あ、でもおとうさんとおかあさんには、何て言うの?」
「あー……うーん……まぁ何とかなるだろ」
人間の手で自らの頭を掻きながら、アンリに空いていた片手を差し出す。
それを見て、彼は嬉しそうな表情で差し出された手を取――ろうとして、その手が黒獅子の手に戻っていることに気がついた。
「あ……」
「ん……」
残念そうな表情を浮かべるアンリに、ティナは何だか申し訳ない気持ちになった。
とは言え、これから反魔物領に足を踏み入れるのだ。無駄に疲れることはあまりしたくないのだろう。
しかし、それ以上に悲しそうなアンリを見ると、胸が張り裂けそうな気持ちになる。
彼女は自分の手を見ながら、自分が疲れず、且つ彼を喜ばせる方法を考えて。
「……うりゃー!」
「ふわぁぁー!」
両手の肉球でアンリの顔を揉みくちゃにしてやる、という結論に至った。
彼も最初こそ驚いて逃げようとしていたが、次第にぷにぷにな肉球の感触に癒しを覚え、されるがままになっていく。
「うりゃりゃー♪」
気を良くしたティナが、さらに肉球をアンリの顔に押し当てる。
「ふぁー」
アンリは棒立ちで肉球の至福な攻撃を顔に受け続ける。
そんな、はたから見れば、異様とも奇妙とも言える光景を、二人は森を出る数刻までずっと続けていた。
そう何度も口酸っぱく言うのは、反魔物国家の街に住む住人たちだ。
その森とは、その街の外に出てすぐに見つかるくらいには、近い距離に存在する。
しかし、その森はとてつもなく深く構成されているらしく、教団による調査も未だに終わってはいなかった。
奥深くに入り込んでいったものは、例え勇者であれど帰ってきたものは一人もおらず、それが調査が終わらない大きな要因となっているのである。
いつしか、その森は『帰らずの森』と呼ばれ、調査に乗り出すものはいなくなり、入り込んではいけない禁忌の場所だとされた。
そんな帰らずの森に対して、好奇心の塊である子供が興味を向けないわけがなく。
ある日、一人の男の子がとうとう森の中に入り込んでしまったのである。
「わぁ……!」
その男の子の名前は、アンリ。
両親に何度も諭され、絶対に入るなと言われた森の中。
太陽を遮断するほどに鬱蒼と生い茂る木々は、『帰らずの森』と呼ばれるに相応しい不気味さを醸し出しているが、初めて入るアンリ少年には好奇心を満たす興奮材料でしかないようであった。
奥へと進んでいくほど薄暗くなっていく森の中は、方向感覚を狂わせ、自分の足取りを分からなくさせていく。
しかし、そんなことも構わず、アンリは森の中をたった一人で探検していく。
とは言え、魔物がいると散々言われている場所である。見つかってしまえば死を意味することは、彼自身もよく分かっていた。
「…………」
最初は恐る恐る、周囲を警戒しながら。
しばらくそうして森の中を歩き回るが、魔物に出会うことも無く、その気配も感じない。
彼の中で少しずつ、『魔物なんていないのでは』という思いが湧き上がり、警戒心が薄れていった。
そうして魔物に出会うこともなく、周囲に注意を払うこともなくなり、気ままに森の中の奥深くへと歩いていく。
もう彼には、魔物は存在しないものだと思い込んでいた。
「おやぁ? 迷子かなぁ、ぼく?」
「え……?」
そんな中、いきなりハスキーな女性の声が聞こえてきた。
声の聞こえた方に振り向けば、そこには意地の悪そうな表情でこちらを見る、三つ編みの赤い髪をした女の人がいた。
ピンクの小さなハートが装飾されている黒いビキニだけの露出的な格好で、その豊満な肉体を隠そうともしていない。
が、頭上に狼のような犬耳を生やし、肘や膝の先は黒獅子のような手足が伸びている。また、人体と獣体の境界付近には白い柔らかそうな毛に覆われていて、首の周りも同様の白い毛に覆われ、頭の後ろには、たてがみのように赤紫色の毛が密集していた。
そして、その赤黒い蝙蝠の翼や、膨らんだ先端に無数のトゲを持つ尻尾を見れば、アンリと同じ人間ではないことを察するのは容易である。
つまり、彼女は。
「ま……も、の……?」
それも、ひどく凶暴だと知られているマンティコアである。
その運の悪すぎる事実を、アンリは知る由もない。
「……へっ」
小さく呟くように言ったアンリの言葉に答えるように、彼女はその口角を吊り上げた。
――魔物に見つかってしまえば最後、身体の肉を貪り喰われてしまう。
その言葉を思い出し、彼の顔が一瞬で青ざめた。
「小さな可愛い男の子が、一人でいけないなぁ……誰かに聞いてないのかねぇ? この森には魔物がたくさんいるってさ」
「ひっ……」
魔物が一歩だけ、こちらに近付いてきた。
狼の耳の前から、顔の両横から首の下まで伸びている、垂れた犬耳のような赤い髪が揺れる。
思わず身体をびくつかせてしまい、それがより彼女の嗜虐心を煽ることになった。
「た、たべるの……?」
びくびくと身体を震わせながら、アンリも一歩だけ後ろに下がる。しかし、魔物との歩幅に対して、その一歩はあまりにも短すぎた。
先ほどよりも、魔物の姿が近く、大きくなる。
「くっく、どんな味がするんだろうねぇ……アンタみたいな小さな人間を食べるのなんて初めてだから、楽しみで仕方ないんだ」
大きく舌なめずりをしながら、また一歩、近付いてきた。
その紅い眼光は鋭く、彼女から目を離せば一瞬で喉元を喰い千切られそうな感覚に陥る。
恐怖に身体が言うことを聞かず、足が動かない。距離を離すことすら出来なくなっていた。
彼は、勇者でも冒険者でも何でもない。小さな子供でしかなかった。
だからこそ、魔物に出会った時点で、彼の運命は決していたのだ。
アンリが恐怖に怯える様を、魔物は愉快そうに笑いながら距離を詰めてくる。
「確かに味も楽しみだけど、それ以上に――」
魔物が一歩、近付いてくる。
アンリは下がることが出来ない。
「アンタはどんな声でナくんだろうねぇ?」
魔物がまた一歩、近付いてくる。
それでもアンリは一歩も動けない。
「うっ、あぅ、ぁ……」
もう一歩。
やはり身体は硬直したままだ。
「精々一杯ナいて」
さらに一歩。
魔物が近付いてくる様を、見ることしか出来ない。
「アタシを」
一歩、二歩、三歩。
急速に早くなった彼女の足音が、彼の心を、恐怖で限界まで引き絞っていく。
「楽しませてよ――」
四歩、五歩、六歩。
七歩八歩九歩。
そうして、彼は動けないままに。
「 ね ぇ ? 」
眼前に、狂気に染まった紅い眼と、思いっきり歪んだ笑みが広がった。
「――うわあああああああああああああ!!!」
理性のタガが外れ、ようやくアンリは動き出した。
泣き叫びながら、魔物とは正反対の方向に振り返って一目散に走る。
「ああああああ――あぐっ!」
しかし、すぐに後ろから片足に何かを刺され、地面に倒れこんでしまう。
刺された箇所を見てみると、片手で握れそうなほどの大きさのトゲが足に突き刺さっていた。
痛みは無く、血も流れていなかったが、恐怖で理性を失った彼にはそんな事は関係ない。
慌てて抜き取り、近くに投げ捨てると、走りながら立ち上がる。
「うわああああああああ!!」
後ろも見ず、道も考えず、ただひたすら一直線に森の中を駆け抜けていく。
あの場所から、あの魔物から逃げるように。
途中で足が転んでも何度も立ち上がり、肺が破裂しそうなくらいに悲鳴を上げても、死の恐怖に押されるように、ずっと逃げ走っていた。
視界が明滅するほどに限界まで走ったあと、身を隠せそうな樹を見つけて、そこに身を寄せて腰を下ろす。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
走りすぎたせいか、息が全く整わない。
心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。
身体も焼けるように熱い。
追ってきているかもしれない魔物に悟られぬように、両手で口を覆って周囲に音が漏れぬようにする。
しかし、そんなことは既に無意味だった。
「あーよく頑張ったよ、頑張った。そんなちっさい身体でよくここまで走ったよ、アンタ」
頭上から魔物の声が聞こえたかと思えば、目の前に降りてきた。
まるで嘲笑うように、下卑た笑みで見下ろしてくる魔物を見て、アンリは呆然とする。
「でも、意味なかったねぇ。結局、アタシの目の前にいるんだからさ」
どこかおどけながら言う彼女には、慈悲や情けは全くと言っていいほど感じられない。
そもそも、彼が逃げようとした時、逃げないように拘束することも可能だったはずなのだ。
それを敢えてしなかったということは、彼女の表情や言動が物語っている。
全ては彼女の掌の上で転がされていただけなのだ、と悟ったとき、アンリの顔はかつてないほどの絶望に染まった。
「くっく、いい顔するねぇ……♪」
その表情を見て、心底愉快そうに喉を鳴らした。
恐らく、彼女が一番望んでいた表情だろう。
「それじゃ、今度はアタシの番だ。たっぷりと楽しませてもらったあと、美味しく食べてやるからね」
近付いてくる魔物から、逃げようと後ろに下がるが、すぐに樹によって阻まれる。
逃げ道を失ったアンリに、魔物は邪悪な笑みを浮かべながら顔を寄せると、その首を舌で舐め始めた。
「ん……れろ……ぺちゃ……ふ、ちゅ……」
ずっと走っていて、汗だらけになった首を舌が這い回る。
汗のせいか、その舌もべったりとくっつくように動き、より強くその感触が伝わってきた。
その間に、鋭い爪でアンリの服を裂き、丸裸にしてしまう。
「う、うぅ……やめ、やめて……」
アンリは眼をぎゅっと強く閉じて、服を裂かれて生まれた状態となった身体を震わせているだけだった。
彼女はその姿を見て何か思案したあと、アンリの顔を上って耳を舐り始めた。
乱暴に、しかしわずかに優しさを伴った責めに、声を漏らし身体を震わせてしまう。
ビキニ越しに彼女の豊満で柔らかな胸を自分の身体に押し付けられ、意識がそこに集中しそうになる。
そんな彼の心を見抜いたように、ふーっと、優しく耳元に息を吹きかけられて、くすぐったさに思わず声が出てしまう。
「うぁぁ、や、やめてよぉ……!」
訳の分からない彼女の行動に、恐怖とは違う感覚が、背筋を駆け上がった。
それが快感であることなど、彼の心は認識できるはずもない。できたとしても、きっと認識したくはなかっただろう。
しかし、心とは裏腹に身体は素直に快感を受け止め、アンリの男性器はすぐに屹立し、皮に包まれた鈴口からは早くも汁を垂れ流し始めていた。
「あぇ……どうして、こんなにおおきくなってるの……?」
「ふぅん、少し小さいけど……その小さな身体にしては十分か」
初めての身体の変化に困惑するアンリに対して、マンティコアは嬉しそうに鼻を鳴らした。
それを合図にしてか、彼女の後ろで伸びているだけだった尻尾が、意志を持ったようにアンリへとその先端を向けてくる。
人間やそれ以外の見たことある動物とは違う、不気味でグロテスクな尻尾に、彼の消えかけていた恐怖が復活した。
「ひぃ……!」
「アンタは今からこの尻尾に食われちゃうんだ……怖い? やめて欲しい?」
耳元で囁いてくる彼女が、そんなアンリの恐怖をさらに煽る。
その尻尾の先端から涎のような粘液が零れ落ち、まるで彼を食すその瞬間を今か今かと待ち侘びている。
穴のように開いた先端の中には、ピンク色の肉壁と、無数の細かなひだで覆われていた。
アンリは、それが何か分かるはずもなく、得体の知れない恐怖に涙を流して首を横に振る。
「や、やだぁ……怖いよぉ……やめてぇ……!」
身体の震えが止まらず、歯がガチガチと鳴り始めた。
自分の最期がもうすぐそこまで来ているのだ。
それでも、彼女に命乞いをする。
やめて欲しいと、見逃して欲しいと。
それを聞いて、彼女はにまぁ、と意地汚く笑った。
「――やめない♪」
そして、容赦も慈悲もなく、尻尾の先端でアンリの屹立した性器をくわえ込んできた。
「あぁぁぁぁ……? あ――あぁぁぁぁぁぁ!!」
瞬間、ペニス全体に肉壁が絡みつき、中のひだがとてつもなく柔らかく、舐めるように蠢いた。
苦痛を伴うものだと思っていたのに、訪れたのは別の感覚。しかも、尻尾がくわえ込んだのは、自分の身体全体ではなく、ペニスのみ。
困惑し、混乱し、錯乱し、アンリは訳も分からず、流れ込んでくる快感に首を振った。
「ひぁぁ! なにこれ、なにこれぇ!」
それでも、見た目的に恐ろしい物にペニスを飲み込まれている事実は変わらない。
グロテスクな尻尾に手を伸ばすが、先端の周りに生えている無数のトゲが邪魔をして満足に掴むことすら許されない。
結果、アンリは尻尾の中身からもたらされる快楽に悶えるしかなかった。
「アッハハハハ、わかんないねぇ? でもちゃんとアンタのチンポ食ってるからね、安心しなよ」
見知らぬ快感に戸惑い震えるアンリを、女はにやにやと笑いながら見つめる。
その間も、尻尾の中でひだひだが、包皮が剥けて晒された亀頭を包み、カリ首を締め上げ、肉壁が棹全体を擦り上げられる。
「こうやって、中でチンポぐっちゅぐっちゅに動かしながら締め付けたら……ほら♪」
「あぁぁぁぁぁぁ!」
強烈すぎる快感に、アンリはあっという間に射精した。
吐き出された精液を、尻尾がごきゅごきゅと音を立てて飲んでいく。
「アッハ、美味しい♪」
恍惚の表情で身体を震わせるマンティコアの女性。
頬どころか身体全体を上気させ、汗ばんだ身体から漂ってくる甘い香りに、アンリがボーっと彼女に見惚れてしまう。
だが、いきなり尻尾が再稼動を始めて、意識を強制的に戻された。
「あぇぇ!?」
「まだまだ出るだろ? 出ないわけないよなぁ? 尻尾の中でこんなにビクビクしちゃってるしさ♪」
今度は、ペニスの脈動を感じ取るように、肉壁がみっちりと密着してきて、根元から鈴口へと強く絞り取るように蠕動運動を始めてきた。
「あぅぅぅ、やめてぇ……!」
暴力的な快感に腰をがくがく震わせるアンリに、女性は目を細めて嗜虐的な笑みを浮かべるだけだった。
陰茎どころか、睾丸の袋もひだで舐め上げられ、強制的に射精を促される。
「ひっ、あひぃ!」
「いいよ、情けなくイっちゃいなよ。どんなに頑張ったってどうせイかされちゃうんだからさ、アハハハハハハ!」
三つ編みの髪を揺らしながら、女性は高笑いをあげた。
そんな彼女の笑い声を聞きながら、絶えず送られてくる快楽の波に耐える術も分からず、アンリはあっけなく二度目の射精を迎えた。
「あぅぅぅぅ!」
「アハハハハ……んっふ♪」
彼の精液が体内に取り込まれた途端、色っぽい喘ぎ声をあげ、恍惚とした表情を浮かべた。
しかし、それも束の間で、情欲の灯った眼をこちらに向けながら、再び尻尾の中が蠢き始める。
「ふぁぁ、やめて……もうやめてぇ……!!」
「…………ふん、しょうがないな。イったばかりだし、ちょっとだけ弱くしてやるよ」
過ぎた快楽に涙を流すアンリに、マンティコアの女性は複雑な表情を浮かべながら言うと、尻尾からの刺激が優しくなった。
アンリは確かにやめて欲しいと言ったのだが、どうやら彼女には、やめる、という選択肢は存在すらしていないらしい。
「あぁぅ、そうじゃないよぉ……やめ、ふぁぁ……」
「さっきと違ってて、これもイイだろ……? くちゅくちゅに揉み解しながら、ひだで先っぽをちろちろって舐められてるみたいでさ♪」
それでも、先ほどよりも随分とマシになったまろやかな刺激に、アンリは満更でもない反応だった。
彼女の言うとおり、肉壁がペニス全体をマッサージするように揉み解され、無数のひだが舌のように亀頭を小さく舐め回してくる。
激しさは無いが、全身の力が抜けて背中の樹に身体を預けてしまうほどに、快感をすんなりと受け入れていた。
「んっふふ♪ チンポの先が膨らんできたねぇ。弱くしてやったのにこんなに早くちゃ、意味ないなぁ♪」
「ひぁ、はぁぁ、あぅぅ……でちゃうよぉ……やめてぇ……」
受ける快感は違うはずなのに、根元から尿道口へと上っていく速度はほとんど同じだった。
それを悟ったのか、先ほどと同じように、肉壁が根元から先っぽへと蠕動運動を始める。しかし、その動きは先ほどの搾り取るような動きとは違い、まるで射精を導くかのように緩慢で優しいものだった。
「ほらほら、遠慮せずに白いの出しなって♪ もう二回も出してるんだから、三回も四回も変わんないだろ……?」
「あ、あぁぁ……ふぁぁぁぁ……!」
彼女に耳元で囁かれながら、アンリはあっけなく白濁液を漏らしてしまった。
射精しても、尻尾の動きが止まる事はない。
「あはぁ……♪ 三回目なのに全然味落ちないなぁ、アンタの精♪」
「うひぃ、もう、むりだよぉ、ほんとにやめてぇ……」
変わらず緩い刺激を送ってくる尻尾の快感に身体を弛緩させ、口元から涎を垂らしながらも止めてくれと懇願するアンリを見て、マンティコアの女性はちらりと自分の尻尾を見やった。
「やめさせたいならさ、力づくでやめさせればいいよ。それが出来るなら、の話だけどさ」
そう言われて、彼女の視線に釣られるように、ぐっちゅぐっちゅと音を立てながらペニスを刺激し、粘液が垂れ零している尻尾を見やると。
先ほどまであったトゲが無くなっていた。
何故トゲが無くなっているのか、普段ならばその疑問が真っ先に思い浮かぶはずだが、短時間で三回も精を出され、今もなお快楽に苛まれている彼の頭では、そんなことまで考えられるはずもなかった。
一刻も早くも、この快楽地獄から抜け出したかった。
気持ち良すぎて、精を出しすぎて、頭がどうにかなってしまいそうだったのだ。
「う、ぅぅ……!」
アンリがちゅるちゅると吸引するように快感を送ってくる尻尾に、身体を震わせながら両手を伸ばす。
マンティコアの女性の口元が歪んでいることにも気付かずに。
それをしっかりと掴み、この快楽地獄から早く解放されるために、自分の股間から外そうとする。
「はぁ、ぁ……えっ、あっ、うぁぁ!」
しかし掴んだ瞬間、何故か身体が勝手に動き、尻尾を上下に動かしてしまう。
先ほどの緩く優しかった快楽が、自らの手によって最初の激しく気が狂いそうな快楽へと元通りになってしまった。
「ふぁぁぁぁ! なんで……どうし、てぇ!」
完全に彼の意思を無視して、ただひたすら快楽を求めてぐちゅぐちゅと尻尾を動かし、腰を打ち付けている。
それでも感覚は彼の中にしっかりと残っており、快感が脳に流れ込んでくる。
困惑するアンリに、マンティコアの女性はくっくっと喉を鳴らして笑っていた。
「あれぇ、やめて欲しいんじゃなかったっけぇ? 口ではそう言いながら、本当はこの尻尾すっごい気に入ってくれてたのかなぁ?」
「あぅぅ! うぅ、んぅぅぅぅ!」
彼女の意地悪な言葉を否定するように、アンリは泣きそうな顔で必死に首を横に振るが、自ら尻尾を求めるように腰を振り、両手で尻尾を上下させる姿は滑稽でしかなかった。
尻尾を上下する彼に合わせるように、肉壁がぎゅっぽぎゅっぽと収縮運動を始め、精を搾り取ろうとしてくる。
「アッハハ! 情けないねぇ? 自分で動かすのが気持ちよくて止められないなんてさ……♪」
尻尾を奥深くまで挿し込めば、ひだがペニスの先に吸い付いて舐め回し、逆に浅いところまで引き抜けば、肉壁が強く締め付けてくる。
「ふぁ、ちがっ、あひっ、ひぃぃぃぃ!」
射精を察した身体が、尻尾の中のひときわ奥まで突き上げると、肉壁が出口を塞ぐように収縮して肉棹を絞り上げ、ひだが鈴口をこじ開けるように刺激してきた。
強制的に射精を促され、アンリはあっけなく精を捧げることになった。
しかし、射精している間も、身体は尻尾を求めて腰を振り続ける。
「ひぁぁ! とまってぇ、とまってよぉ!」
「んくぅぅぅ♪♪ 射精しても動き止めないなんて、アタシよりもよっぽど淫乱じゃないか……♪」
アンリの叫びも空しく、その動きはさらに激しさを増していく。
自身の身体に流れ込んでくる精液に、マンティコアの女性が、甲高い喘ぎ声を上げながら、アンリを煽っていく。
「うわぁぁぁ、もうわかんないよぉ! たすけてぇ……!」
快楽を拒絶したいのに、身体は素直に受け入れてしまっている。
そんな矛盾を孕んだ自らの状態に、彼の幼い心は壊れかけていた。
「それなら素直に認めなよ……楽になれるよ?」
その時、アンリの身体はぴたっと止まった。
尻尾を持つアンリの手に、彼女が自らの手を重ねてきたのだ。
先ほどは獣の手だったはずなのに、今はアンリよりも大きく、細い人間の女性の手になっていた。
「あぁ、ぅ……んくぅ……」
だが、尻尾からは焦らすように、緩慢な動きで弱い刺激を与えられてきている。
先ほどの気が遠くなりそうなほどの快感が無くなって開放されるかと思えば、次に襲ってきたのは狂おしいほどの物足りなさだった。
「んっふふ、これじゃ物足りないだろう? アタシの尻尾で気持ちよくなりたい、って素直に認めたら好きにさせてやるよ……?」
「え……あぅぅ、でもぉ……」
肉壁の蠕動運動は先ほどよりもずっと緩く、ひだは亀頭に触れるか触れないかの距離で蠢き、さわさわと微弱な快感をもたらしてくる。
一転してもどかしすぎる快感に、腰を横に動かしてさらに快感を得ようとするが、まるで金縛りにでもあってしまったかのように、動かすことが出来なかった。
強烈な快感に身体が慣れ、そして求めてしまっていたのだ。
下火で燻ってくるようなじれったい感覚に、今度は別の意味で心がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「うぅ……あぅぅ……」
「ほらほら、言わなくていいのかなぁ? 言わなきゃこうやってチンポいじめられたままなんだけどなぁ……?」
じわじわとした刺激が、彼の心までも溶かし、抵抗する気力を確実に削いでいく。
思いっきりを尻尾を上下に動かしたいのに、彼女の手が自分の手に絡みつき、全く動かせない。
アンリの身体の支配権は、アンリではなく、彼女にあった。
快感を求める身体に、心が寄っていく。
「うぅ、もっと……」
「もっと……なに?」
小さく、震える声で言うアンリに、マンティコアの女性は、今までとはらしからぬ声で続きを促す。
まるで、全てを許してくれそうなほどに、優しい声で。
その声で、アンリの心は、完全に屈した。
「もっと、尻尾で気持ちよくしてぇ……」
その言葉を聞いて、マンティコアの女性は、にんまりと笑った。
「アタシの尻尾、そんなに気に入った?」
アンリはこくんと頷いた。
「んふ♪ なら――好きにしなよ」
彼女の手が、アンリの手からそっと離れていく。
それと同時に、彼の身体の支配権が戻ってきた。
今ならば、尻尾を股間から引き剥がすことも可能だろう。
しかし、彼は尻尾を引き抜くことはせず――快楽を求めて、激しく上下に動かした。
「ふあぁぁぁぁ……!」
弱い刺激ばかりだった尻尾の肉壁に、突然みっちりと締められ、さらに蠕動運動を始めた。
待ち望んでいた快感に、四回も射精していると言うのに、ペニスは早くも絶頂を訴えてビクビクと震え上がった。
「くっく、もうチンポびくびくしてるじゃないか。そんなにいいのかなぁ?」
嘲笑するような彼女の言葉も、どこか色っぽく湿っており、最初の時ほど凶悪な声色では無くなっていた。
アンリを見る目も熱っぽく、熱い吐息で彼の顔をくすぐる。
「ふはぁ、あぁぅ……いいよぉ……おねえちゃんのしっぽいいよぉ……!」
もはやアンリは尻尾の虜になっていた。
虚空を見つめて、ひたすら尻尾を使って快感を貪り、絶頂へと駆け上っていく。
その姿に、マンティコアのお姉さんはんっふふ、と愉快そうに笑った。
「もう出ちゃうねぇ? またアタシの尻尾に一杯ドクドク漏らしちゃうねぇ?」
興奮に息を荒くしながら言うお姉さんに呼応するように、尻尾の蠕動運動が早くなる。
それに合わせるように、尻尾を上下させるアンリの動きも早くなっていく。
「出しちまえ出しちまえ♪ アタシの尻尾の中、白く染めるくらい、いっぱい出しちまえ♪」
お姉さんが言うと同時に、ひだが螺旋状にペニスを絡め取り、そして根元から強く絞り上げられる。
今まで一番強烈な搾精に、ペニスは大きく震えながら白濁液を尻尾内に射出した。
「うぁああああ!!」
五回目でも、変わらぬ質量の白濁液が尻尾内に満たされる。
それはすぐさま尻尾の奥へと飲み込まれ、彼女の体内に循環していく。
「ふっくぅぅぅぅぅぅ♪♪」
マンティコアのお姉さんが、身体を震わせながら今までに無い嬌声をあげた。
その黒いビキニで覆われた秘部からぷしゃぁっと透明な粘液が溢れ出し、既に股下の地面に出来ていた水溜りに落ちていく。
「はぁ……あはぁ……♪ もう、最ッ高……♪」
射精したにも関わらず、夢中になって尻尾と腰を上下に動かすアンリから尻尾を引き抜くと、お姉さんは恍惚とした表情のまま、樹に背中を預けているアンリの目の前に跨り、その首に両手を回す。
そして上気しきった顔をアンリに寄せると、だらしなく涎を垂らす彼の唇に吸い付いた。
「はむっ、んむれろっ、じゅっ、じゅるるっ」
舌を入れられ、口内に溜まった唾液を啜られる。
アンリは抵抗する事なく受け入れ、自分から舌を絡めようとする。
「……ふふん♪」
その反応に満更でもなさそうに表情を歪め、さらにアンリの口内を蹂躙していく。
「れるっ、んくっ、ぬちゅっ、んづぢゅ、んくっんくっ、ずじゅるるるっ!」
口内を荒し回される乱暴な快楽に、意識が飛びそうになる。
しかし、そんな意識を繋ぎとめるのもまた、同じ快感だった。
唾液を全て吸われ、彼女の喉を通っていく。
それだけの被虐的な快楽に、アンリは知らず身体を震わせた。
「っはぁ……んっふ、悪くないなぁこれも……♪」
「ぁぅ……」
「ほら、しっかりしろよ。まだ終わりじゃないんだよ?」
虚ろな瞳で見てくるアンリの顔を、マンティコアのお姉さんはいつの間にか戻っていた黒獅子の手で、ぽふぽふと叩く。
柔らかい肉球の不思議な感触がぷにぷにと頬に当たり、彼の目に少しだけ光が戻った。
「しっかりしてもらわないとねぇ……こっからが本番なんだから」
「あ、えっ…………えっ」
彼女の言うことが理解できず、アンリは目を白黒させながらマンティコアのお姉さんを見上げる。
もはや最初の頃とは全く印象の違う、どこか期待を孕んだ淫らな笑みで、彼女は見下ろしてきていた。
「誰も尻尾だけで食べるとは言ってないよ? だから、今度はこっちで食べてやるからな……んふっ♪」
そう言いながら、アンリに見せ付けるように膝立ちになると、人間の手で黒いビキニの布地をずらしていく。
彼女の秘部が完全に露出すると、まるで栓を抜いたように、愛液がどろりと垂れ落ち、股下にあったアンリの股間を濡らしていく。
「……うぁ」
熱い愛液がいきり立ったペニスにかかり、快感と興奮にアンリが跳ねる。
その様子を見て嬉しそうに口角を歪ませると、膝立ちのままアンリに詰め寄ってきた。
「そうだ……せめて名前ぐらいは聞いておかなきゃな?」
「え……?」
そうして、彼女の口から出てきた言葉は、興奮が限界にまで引き上げられたアンリにとって、全く予想していなかったものであった。
言われて、初めて彼女に対して名前を明かさず、そして明かしてもらっていないことに気付いた。
「名前だよ、名前」
早く言えよ、と言わんばかりに、獅子の手にある鋭い爪を首筋に当てて威嚇してくる。
アンリはその威嚇に身体をわずかに震わせながら、答えた。
「あ、アンリ」
「へぇ、アンリか、アンリねぇ……アンリ……」
聞いておきながら、大して興味も無さそうに何度も名前を呟きながら、首筋の爪を引いた。
そうして、下半身を動かして、屹立したペニスの上にその秘所を合わせる。
「おねえちゃん、は?」
「ん? んー、アタシはねぇ、ティナっていうんだよ」
アンリの勃起したペニスを人間の手で掴んで、自らのヴァギナに宛がいながら、彼女――ティナは答えた。
それ以上、アンリが何かを言うことは許されなかった。
亀頭が陰唇に振れ、くちゅりと熱い膣壁の入り口に包まれ、快感が走る。
「あうぅぅ!」
「んはぁ……これだけで、もう、上々っ♪」
身を固くするアンリをちらりと見てから、ティナが二人の繋がる場所を見て、快感に熱い吐息を漏らした。
「はぁ、はぁ、アンリ、行くよ? アンタのこと、食べちゃうよ?」
情欲に塗れた表情でアンリに問いかける。
彼は目を閉じたまま、何度も何度も頷いた。
それを確認すると、ティナは一度舌なめずりをしてから――ずっぷり、とアンリの男根を飲み込んだ。
「うぁっ――あぁぁぁぁ!!」
「あっは――え、ちょっ、くはぁぁぁぁん♪♪」
尻尾とはまた違う、強大な快感がペニスに襲い掛かり、アンリはたまらず射精してしまった。
ティナも、まさか射精されるとは思っていなかったようで、膣内で精を受けて戸惑いながらもガクガクと身体を震わせて絶頂に達する。
「早すぎるだろ、このバカ……んくぅ♪ でも、尻尾の時より、すごく、イィ……♪」
「だ、だってぇ……ひぁっ!」
ティナが怒ったように言うが、快感に蕩けた顔に、聞き慣れた声よりも幾分かトーンが高いせいで、全く怖くはなかった。
だが、それ以上に未だ送られてくる快感に、アンリはまともに答えることができなかった。
彼女の膣内は、既にアンリ専用の物として、完成されていたのだ。
動かずに挿入しているだけで、今でも膣壁はペニスに密着し、膣内のひだが吸い付いてアンリに強烈な快感を送り続けてくる。
「ティナねえちゃんのナカ、きもち、よすぎるよぉ……!」
「んふぅ♪ もう、手のかかるガキだなぁ、アンリは♪」
泣きそうな声で告白するアンリに、どこか弾んだような声でティナが応えると、アンリの頭を抱え込んで胸の内に抱き締める。
そして、愛しくてたまらないと言った表情で、アンリの後頭部を優しい手つきで撫でた。
アンリに、その顔は見えていない。
「んぁっ、ふぐぅ……」
「ほら、今度は動くからな? ちゃんと耐えろよ……?」
そうアンリに耳を寄せて優しく囁くティナに、アンリは胸に顔を埋めながら、こくこくと頷く。
しかし、彼女はニィッと笑うと、腰を激しく動かし始めた。
「んぐぅぅぅぅ!」
「ゆっく、んっ♪ りっ、動いてっ、んくっ♪ アタシが満足、できるわけ、んはぁ♪ ないだろっ……!」
激しすぎる腰の動きに、アンリは今までに無い快感に晒された。
熱い膣内から引き抜かれる際、密着していた膣壁が敏感なカリ首に擦れ、膣内に挿入する際には、閉じていた膣壁を切り開くように進むため、ぎゅうっと強烈な締め付けを受ける。
さらに前後に動くたび、裏筋をひだがちろちろ、と舐め上げてくる。
「ふぁっ、あっ、おねえ、ちゃんっ、まっ、てっ、むり、だよぉ!」
挿れた時点で耐えられなかった彼に、これほどの刺激に耐えることなどできるはずなかった。
乳房から顔を上げてティナに早い限界を訴える。
「んっ、くっ、ふくっ、はっ、もうっ、ほんとに、アンタって、奴はぁ♪」
身体を弾ませ、不満には聞こえない声色で不満を言いながら、それでも彼女は動きを緩めることはなかった。
それでも耐えろ、というティナの無言の言葉を悟り、ティナの乳房に顔を埋めて歯を食い縛る。
膣内で愛液と精液がぐちゅぐちゅと混ざり合い、ペニスがビクビクと激しく痙攣して膣壁にぶつかり抉るように擦っていく。
その度に、アンリの腰からは快感が駆け抜けて、下腹部の底から白濁が急速に吹き上がってきた。
「ふっくぅ、くはぁ♪ あっは、これっ、やば、いぃ♪」
ティナもかなりの快感を得ているらしく、その顔が淫らにだらしなくなり、腰の動きが小刻みになっていく。
「はぁ、ふはっ、おねえ、ちゃん、ティナ、ねえちゃん!」
「ア、ンリっ、アンリっ! アンリアンリアンリ♪」
お互いの名前を呼び、お互いを強く抱き締めながら、絶頂へと昇っていく。
膣内の最奥付近で上下に動かされ、快感に降りてきたらしい子宮口が、こつっこつっ、と肉棒の先に当たる。
柔らかな膣壁に扱かれる中で、いきなり現れた強い刺激に、耐えていた彼の努力をあっという間に破り、限界まで数段飛ばしで駆け上がっていく。
「はぁ、うぁ、ごめん、なさっ、もうっ……!」
「んっはぁ、だい、じょうぶっ、アタシもっ、もうすぐっ、だからぁ♪」
彼の言葉どおり、亀頭が限界を訴えるように、さらに膨張し打ち震える。
それを知った彼女の膣肉が締まり、陰茎全体にひだひだが覆いかぶさり、ぐちゅぐちゅと咀嚼されるように蠢いた。
「あひぃ! なにこれぇ! もう、だめぇ、でるっ、でるぅ!!」
「イイ、よっ、んっはぁ、出し、なっ♪ いっぱいっ♪ アタシ、のなか、にぃ♪」
とどめとばかりに、膣壁に今までにないほどの締め付けで絞り上げられ、視界が明滅して意識が飛びそうになるほどの快感の中、彼女の膣内で精液を爆発させた。
「っああぁぁぁぁぁ!!」
「んっくぃ、ひきゃぁぁぁぁぁん♪♪♪」
彼女の膣内で、射精するペニスが白濁を撒き散らして暴れ回る。
既に何度目かも覚えてないほどの射精ではあるが、その量は今まで一番多かった。
気の遠くなるほどの射精に、アンリはティナを強く抱き締める。
「あふぅ、あんぅ♪ ふはぁ……♪」
膣内で大量の精液を浴びながら、ティナは恍惚に呆けた表情で身体をびくん、びくんっと跳ねさせる。
無意識なのか、抱きつかれてアンリの腰と頭に手を回し、しっかりと抱き締めていた。
「あはぁ……♪ んっふっ、まったくどうしてくれるんだ? もうアンリ無しじゃ生きていけないじゃないか……♪」
長かった射精が終わると、うっとりとした表情で吐息を漏らしながら、ティナがアンリの耳元で呟くように囁いた。
「あうぅ、ティナねえちゃん、ティナねえちゃぁん……」
しかし、それはアンリも同じようで、ティナの胸に埋もれて、顔を揺すって甘えてきていた。
「んっふふ♪ なーんだ、アンリもアタシ無しじゃもう生きられないみたいだなぁ♪ それなら仕方ない、二人でずっと一緒に生きるしかないねぇ♪」
ひどく弾んだ声でそう言いながら、ティナはアンリの頭を優しく撫でる。
その言葉は、魔物娘にとって、もう一生離さない、というプロポーズにも近い言葉だった。
とは言え、既にティナの虜になってしまっているアンリには、ティナから離れるという選択肢など、生まれるはずもないのであった。
ティナに破かれた、アンリの服の代わりを森の中を全裸で歩き回りながら何とか見繕い、服を身に付けて一段落着いたときのことである。
「ティナねえちゃん、さっきふたりでいきるしかないっていってたけど」
「んー? それがどうしたの?」
アンリとは変わらず、露出の多い黒いビキニを衣服として身に付けたティナが、獅子の手の肉球で彼の頭をぽふぽふと軽く叩きながら聞き返した。
確かに、彼女は先ほどそのようなことを言っていた。
しかし、それはアンリにとって、ある一つの問題を抱えていた。
「あの、おかあさんとおとうさんが……」
彼の両親の問題である。
まだまだ年齢的にも精神的にも幼いアンリは、安易に手放すことが出来るほど成長してはいない。
そして、何よりも重大な問題。
「んー? あー……それならアタシが何とかするよ」
「だ、ダメだよ! ティナねえちゃんころされちゃうよ!」
「あぁ?」
アンリの家は、反魔物国家にあるということだった。
魔物であるティナが入れば、すぐに討伐対象に晒され、現れてきた教団の人間たちに、倒されてしまうだろう。
「あー、なんだそんなことかよ。大丈夫だよ、アタシはバレないから」
「……えー……」
適当に流そうとするティナを、アンリは信じていない表情で見つめていた。
それもそのはずである、彼女の胴体部分は人間と言っても遜色ないのだが、それ以外はどう見ても魔物なのだ。
手足は黒獅子のような獣のモノで、頭の上には狼の耳が生え、背中には蝙蝠の羽を生やし、さらに尻尾はもはや一個体の生物みたいに動くのである。
この状態でバレないわけがない。
その視線を、ティナは鬱陶しそうな表情で嘆息して返した。
「……あのさぁ、バカじゃないんだから、この姿のまま行くわけないだろ。アタシが反魔物国家に乗り込む時は――」
瞬間、先ほどまで存在した彼女の羽も、尻尾も、犬耳も、そして白いもふもふの毛も、全て消え去っていた。
黒獅子だった手足は肌色の人間の物へと変化し、海でもないのに黒いビキニという露出の多い格好であることを除けば、誰が見てもその姿は普通の人間女性であった。
「わー、すごい! ティナねえちゃんすごい!」
「へっへ、アタシだってこれくらいできるんだよ」
はしゃぐアンリに、ティナはやや得意そうな表情を浮かべている。
「あ、でもおとうさんとおかあさんには、何て言うの?」
「あー……うーん……まぁ何とかなるだろ」
人間の手で自らの頭を掻きながら、アンリに空いていた片手を差し出す。
それを見て、彼は嬉しそうな表情で差し出された手を取――ろうとして、その手が黒獅子の手に戻っていることに気がついた。
「あ……」
「ん……」
残念そうな表情を浮かべるアンリに、ティナは何だか申し訳ない気持ちになった。
とは言え、これから反魔物領に足を踏み入れるのだ。無駄に疲れることはあまりしたくないのだろう。
しかし、それ以上に悲しそうなアンリを見ると、胸が張り裂けそうな気持ちになる。
彼女は自分の手を見ながら、自分が疲れず、且つ彼を喜ばせる方法を考えて。
「……うりゃー!」
「ふわぁぁー!」
両手の肉球でアンリの顔を揉みくちゃにしてやる、という結論に至った。
彼も最初こそ驚いて逃げようとしていたが、次第にぷにぷにな肉球の感触に癒しを覚え、されるがままになっていく。
「うりゃりゃー♪」
気を良くしたティナが、さらに肉球をアンリの顔に押し当てる。
「ふぁー」
アンリは棒立ちで肉球の至福な攻撃を顔に受け続ける。
そんな、はたから見れば、異様とも奇妙とも言える光景を、二人は森を出る数刻までずっと続けていた。
13/06/19 23:57更新 / edisni