ふと気が付くと、俺は木々の合間を進んでいた。森の中を通る細い道をいつの間にか外れていたようだ。
だが、俺の脳裏に危機感は欠片も浮かばず、足取りも変わることなく木々の合間を進み続けていた。
どういうことだろう？
妙に考えのまとまらない頭で、俺は考えた。
そもそも何をしていたのか、どこへ行こうとしていたのか。目的地を思い出そうにも、完全に手ぶらのため見当もつかなかった。
いや、森の中を進むうちに落としたか捨ててしまったのだろう。
猛獣に襲われれば、身を守る手立てもないというのに、俺は妙に心穏やかだった。
おそらく、辺りに漂う甘い香りが、俺の心から危機感や思考力を奪っているのだろう。
だが、俺はそう思い至ったというのに、匂いから離れようともせず、逆に匂いの源に向かって森の奥へ奥へと進んでいた。
程なくして、張り出した木の枝をくぐったところで、木々の間に生じた広場に出た。
剥き出しの地面には、辺りの木々とは異なる植物の根か蔓が張っており、広場の中央にその源が鎮座していた。
それは巨木の切り株のようだった。人の腰ほどの高さもないくせに、その上で食事が出来そうなほど太かった。
そして低くて太い幹の上に、それはそれは巨大な花のつぼみが生えていた。花弁が幾重にも折り重なった桃色のつぼみである。
つぼみの窄まった先端から、甘い香りは溢れているようだった。
俺は香りをもっと嗅ぐため、ふらふらと花のつぼみに歩み寄っていた。
視界の端で、地面を這いまわる蔓が動いたように思えたが、俺は気にせず足を進める。
やがて花の目の前にたどり着くと、地面を這いずり俺を取り囲んでいた蔓が、俺の身体に巻き付いて持ち上げた。
俺とつぼみの距離がより一層縮まり、俺の眼前で鼻が開く。むせ返るような甘い香りが辺りに溢れ出し、俺の思考を麻痺させていった。
気が付けば森の仲という状況も、身体に巻きつく蔓も、巨大な花も、何もかもが夢のように感じられた。
何より極め付けだったのは、朦朧とする俺の目に飛び込んだ、花の中央で自身を抱きしめる美女の姿だった。
太ももの半ばより下は花弁に隠れて見えないが、豊かな乳房や引き締まった腰はむしゃぶりつきなるほどで、花の蜜に濡れて細い蔓が絡む様子は実に扇情的だった。
今、俺が蔓に全身を絡め取られていなければ、この場で押し倒しているほどだ。
そんな俺の劣情を察知したのか否か、美女が閉ざしていた両の目をゆっくり開いた。
青い瞳が俺の姿を捉えると、彼女は目を細めてにっこりとほほ笑んだ。まるで、俺という訪問者を歓迎するようにだ。
すると俺に絡み付く蔓が再び動き、彼女との距離を詰めさせた。
彼女は、自身を抱きしめていた両腕を解くと、俺に向けて掌を差し出し、蔓越しに俺の形をなぞるように撫で始めた。
衣服と蔓を隔てているというのに、彼女の手の動きはひどく淫靡で、直に愛撫されているような錯覚を覚えた。
やがて彼女の掌は俺の下半身へと移り、蔓とズボン越しに股間に触れた。
俺のそこはすでに屹立しており、蔓を内側から押し上げるものの存在に、彼女は少しだけ微笑みを深めた。
股間を覆う蔓が緩んで退き、彼女の指がズボンの内側から俺の屹立を取り出した。
花の蜜に滑る指に触れられるだけで達してしまいそうだったが、俺は朦朧とした意識なりに踏ん張って、快感を堪えた。
女はびくびくと震える肉棒を愛おしげに一撫ですると、顔を寄せて口に含んだ。
飴でも転がすように、唾を塗りたくるように、女の口内の肉が動き回り、舌が絡みついてくる。
女の唾は、花の蜜のようにねっとりとしており、舌を軽く巻きつけるように動かしているだけだというのに、まるで何枚もの舌に絡まれているようだった。
蜜状の唾液と彼女の舌技により、限界まで追い込まれていた俺はあっという間に達した。
彼女の口中で屹立が跳ね、白濁を迸らせる。
彼女はあっという間の絶頂に何の感情も見せず、ただ唇を窄めて、白濁を一滴も漏らさぬよう受け止めていた。
そして、射精が終わるころになって、ようやく口内に溜め込んだ体液を飲み干して、屹立を解放した。
女は唇と亀頭の間に糸を引きながら、にっこりと笑みを浮かべた。
その淫靡な表情に、俺の肉棒にじんわりと血が集まるようだった。
すると彼女は勃起の気配を察したのか、花の中でぐるりと身を回転させ、俺に背を向けた。
そしてその状態で腰を浮かし、肩越しに振り返りつつ尻に指を添える。
まるで、後ろから突っ込んでくれと言わんばかりの姿勢だ。
いや、事実そうなのだろう。俺を拘束していた蔓は、俺を花の上に下ろすといつの間にかほどけ、退いて行ったからだ。
おそらく、蔓も花も彼女の一部なのだろう。アルラウネという花の魔物が存在し、男を誘うという話を、俺は朦朧とした頭のどこかで思い出した。
アルラウネは誘った男を花弁の中に閉じ込めてしまうという。
今の俺は、閉じ込められる寸前といったところだろうか。
蔓による拘束もない今なら逃げられるのだろうが、俺にはそんなつもりは無かった。
俺は彼女の尻をつかむと、屹立の先端をその割れ目に当てがい、濡れた亀裂の奥へと一息に挿し込んだ。
柔らかな襞が俺を包み込む。
襞の一枚一枚が屹立の凹凸に絡みつき、優しいながらも強く締めあげてきた。
奥へ奥へと誘うようなその動きは、まるで肉棒から精液を啜りあげようとしているようだった。
俺はかろうじて射精を堪えながらも、絡み付く肉壷の感触を味わおうとするかのように、女の腰を掴んで腰を揺すり始めた。
だがそれは能動的な動きなどではなく、肉壷のもたらす快感をより味わいたいという、欲求に負けた動きだった。
腰を前後に揺する度に、屹立に浮かんだ血管を襞が撫で上げ、カリ首に絡み付き、快感を注ぎ込んでいく。
彼女の腰を掴み、ぎこちなく前後に腰を揺する俺は、彼女を犯しているようだったが実のところ犯されているのであった。
肩越しに振り返りつつ、俺の様子をうかがう彼女は、俺の肉棒から何も感じていないようで、慈しむような笑みを浮かべていた。
そして、彼女が微かにその笑みを深めたと思った瞬間、彼女の肉穴がきゅっと狭まった。
深々と突き入れた肉棒の先端から根元までが、肉襞にくるみこまれ、圧迫される。
そのまま律動を続けようとしていたため、肉棒は一際強烈な襞による愛撫を受けることとなった。
瞬時に快感が俺の限界を突破し、絶頂へと至る。腹奥でたぎっていた興奮が、煮える白濁となって女の胎へ迸っていった。
彼女の膣壁は、俺の逸物を締め上げながらも、迸った粘液を奥へ奥へと波打ちながら導いて行く。その動きが亀頭を刺激し、さらなる快感と絶頂を生む。
やがて射精が終わるころには、俺はへとへとに疲れ切り、彼女の背中にもたれかかるようにして崩れた。
だが、彼女は俺の重さを気にしないかのように、うふふ、と低く笑い、肩越しに唇を重ねてきた。
彼女の唇はとても甘く、俺の身体に力をみなぎらせた。
大量の射精により、その中身を吐き出しきったかのように萎えていた肉棒が、再び屹立していく。
勃起に合わせて屹立と彼女の肉襞がこすれ合い、鈍い快感を生んでいく。
だが、完全に屹立する前に、女の身体に絡み付いていた細い蔓が、俺の身体にもまとわりついてきたのだ。
細い蔓は俺を彼女の背中にしがみつくような姿勢で固定するが、軽く力を籠めれば簡単に解けそうだった。だが、蜜に滑り、脇や背中などに絡み付く蔓からは微かなくすぐったさが生じており、俺の興奮と快感を煽っていた。
そして、俺と女を囲むように広がっていた巨大な花弁が、ゆっくりと立ち上がってきたのを、俺は視界の端で捕えた。
このまま閉じ込めるつもりなのだ。だが、俺にとってはどうでもいいことだった。
俺は身体に絡み付く蔓の許す限り腕を動かし、彼女に覆い被さるようにしながら、その豊かな乳房を鷲掴みにした。
俺の下で、彼女がようやく甘い声を漏らした。
しかし掌に吸い付くような乳房の感触と、彼女の肌の滑らかさ、そして肉壷の蠢きは、彼女が感じている以上の快感を折れにもたらした。
この女を、このままずっと犯していたいという欲求が、むせ返るような甘い香りに満たされた脳裏を満たしていく。
身体に絡み付く蔓が蠢き、くすぐったさが興奮を煽る。
肉壷の収縮と蠢動が次第に強まり、花弁が俺達を包み込んでいく。
そして、俺が三度目の絶頂に至った瞬間、巨大な花は最初の頃のように完全に閉じてしまった。
俺を中に閉じ込めたままでだ。
花弁と女の身体に挟まれた異常な密着間の中、俺は射精とともに蕩けていく意識の中、強烈な甘い香りが体を満たしていくのを感じていた。
ああ、なんて幸せなんだろう。
それだけが、快感とともに俺の中を満たしていた。

■作者メッセージ
この時はまだ元気だった。
なんだ、意外といけそうじゃないか、などと考えていた