アルとマティのWAY 第五話「蜘蛛と蜥蜴は這い回る」
エルンデルストに住むようになって三日経った。
俺はその日も、村で飼われている雄鶏の声によって目を覚ました。
「ふぁ・・・」
俺は小さく欠伸をすると、二度寝の誘惑を追い払いながらベッドを出た。
『んー?もう朝ー?』
服を着ていると、小屋の屋根を支える梁の上から少女の声が届く。
「別に寝てていいぞ。昨日も夜更かししたんだろ」
『んー。そうするー』
梁の上から白い腕が伸び、二三度揺れると引っ込んでいった。
そして遅れて、小さな寝息の音が響いてくる。
「・・・・・・」
俺は同居者の二度寝を少々うらやましく思いながら、木桶を手に小屋の戸を開いた。
かすかに覗く朝日と共に、ひんやりとした清浄な風が小屋の中に吹き込む。
「うぅ・・・寒・・・」
俺は小さく呟きながら戸を閉めると、村の中心部にある井戸の方へ向かっていった。
村での一日は、井戸まで水汲みに行くことから始まる。
以前はこの村の側を流れる濁った川の水を汲み、一昼夜置いてその上澄みを使っていたらしい。
エルンデルストを話の上でしか知らなかった頃は、川があるのに井戸を掘る必要があるだろうか、と思っていたのに、数日暮らすだけでそのありがたみが身に染みる。
「おう、おはようさん」
「あ、おはようございます」
井戸までの道中、他の村人と挨拶を交わす。
そこには既によそ者に対する不信感などは無い。
俺を受け入れたのか、俺を紹介したあの三人が信頼されているのか。
どちらにせよありがたいことだ。
そうこうしているうちに、井戸にたどり着く。
俺は雨除けを兼ねた屋根の下に入ると、ロープを巻き上げて井戸水をくみ上げ始めた。
「よーう、おはよう」
水を汲む俺に、声がかけられた。
手を止めて顔を上げると、木桶を手にした四十前後ほどの男が立っているのが目に入った。
「ああ、おはよう、ソクセン」
俺を村人に紹介し、住居やら何やらの世話をしてくれた三人のうちの一人に俺は挨拶した。
「村の生活はどうだ、慣れそうかい?」
「ああ、村の皆も親切だし、うまいことやっていけそうだ」
「そりゃ良かった」
水汲みを再開しながら、俺は彼と言葉を交わす。
「ところで、さっきヨーガンが用事があるとか何とか言ってたぜ」
「用事?」
何のことだろうかと思いをめぐらすが、心当たりは無い。
「今日の予定は町まで行って仕事を取ってこさせるんだったが、昨日マティちゃんの話を聞いたらしくてな」
「話、というと?」
「死霊使いのゾンビ相手に碌に何も出来なかったこと、だ」
「あいつ・・・」
ニヤニヤするソクセンの前で、俺は溜息をついた。
「話は聞いた。お前は弱い」
村はずれの小屋に向かうと、入り口にヨーガンが立っており、開口一番そう告げた。
「・・・・・・いきなり言わなくてもいいじゃないか・・・」
「マティ君からの伝聞だったが、正確だったようだな」
いきなりへこまされた俺を見ながら、ヨーガンは続けた。
「とにかく、今のままではいざというとき何の役にも立たない」
「自覚はしてるんだから、そう言わなくてもいいじゃないか・・・」
的確すぎる事実の指摘によろめきつつも、俺は抗議の声を上げた。
「自覚はしている、といった所でお前が弱いことに変わりは無いだろう。我々が必要なのはそこそこの戦力だ。ゾンビ一体碌に相手も出来ないとは思わなかったがな」
ヨーガンは容赦なく俺に攻撃を続ける。
「そもそもお前と取引をしたのは、お前の旅の経験を買ったからだ。お前が弱いままならば、取引も白紙に返させてもらう」
「そんな・・・」
「だが、安心するといい。チャンスはある」
彼は腕を上げ、小屋の裏側にそびえる山を指差した。
「あの山にお前を訓練してくれる者がいる」
「山に?」
「ああ、山には少々事情があって村に住めない者達がいてな、その一人だ」
ヨーガンは腕を下ろし、視線を俺に向ける。
「とりあえず、そこでしばらく経験を積むといい。全てはその後だ」
「はぁ・・・」
「話はズイチューを通してつけてある。地図はこれだ」
彼はそう言いながら、紙切れを取り出してきた。
エルンデルストを囲む山はいずれも低く、そう険しいものではなかった。
俺は簡単な荷物と共に、地図に示された僅かな獣道を歩いている。
ヨーガンが言うには、朝に出れば昼までに二往復できる程度の距離に、その人は住んでいるらしい。
しかしそれでも斜面を歩き続けるというのは辛いものだ。
「はぁはぁ・・・おっと・・・」
生い茂る木々の向こうから、不意に大きな岩が姿を現した。
俺は背嚢から渡された地図を取り出すと、岩の場所を探った。
「ええと、大岩に出たら右に曲がって・・・」
と、その時位置を確認する俺の耳を、草の揺れる音が打つ。
突然の物音に、俺はとっさに音の源へ身を向けた。
「・・・・・・あら・・・?」
俺の視線の先で、驚きの声と共に目を丸くしていたのは、黒髪の女性だった。
着物、とかいうジパングのほうの民族衣装を纏っていたが、その襟元は彼女の豊かな乳房によって大きく開いていた。
整った、ややおっとりとした印象を受ける顔立ちではあったが、その下半身は、黄と黒の縞模様に彩られた蜘蛛の形をしている。
モンスターのアラクネだ。
「あなた・・・ツバサちゃんの言ってた・・・アルベルト・ラストスって人?」
小さく首をかしげながら、彼女はそう問いかけた。
ツバサちゃんなる人物のことは知らないが、彼女は俺のことを知っているようだった。
「え?あ・・・はい、そうです」
「そう・・・私はアヤ・イガシラ。あなたのことはツバサちゃん、いえ、ズイチューさんから話は窺ってるわ。よろしく」
彼女は両手を前に揃えると、小さく頭を下げた。
彼女の仕草や衣装や名前から察するに、恐らくジパングの出身なのだろう。
「俺こそよろしく・・・それで、ヨーガンから俺を訓練してもらえるって聞いたんですが・・・」
「え?あぁ、そうでしたね」
彼女はニコニコ微笑みながら続けた。
「そのことに関しては、私の家で続けましょう」
俺はアヤさんに連れられ、山の中を進んでいった。
大岩から離れた時点で地図の道から外れていたが、アヤさんが言うにはそこは昔住んでいたところらしい。
「そこは確かに広いんだけど、少々水漏りがあって・・・」
なれぬ山道で疲労した俺にペースを合わせて歩きながら、彼女は山のことや自分たちのことについて話してくれた。
「この辺りの山は、私達のような麓で暮らすことの出来ない者たちの住まいなんのよ」
木々の隙間からのぞく山々を示しながら彼女は言った。
「故郷を失った者、住処を追われた者。そういった放浪する魔物を、ヨーガンさんたちは積極的に受け入れているの。
勿論、山で暮らす代わりにいくつかの約束は交わさなければならないけどね」
「約束?」
俺の問いに彼女は答えた。
「ええ、簡単に言うと、この三つ。
『村の者や定められた道を行き来するものを襲ってはならない』
『村からの指示には従わなければならない』
『山の住人同士で争ってはならない』」
指を折りながら、彼女は約束を数え上げた。
「たったこれだけの約束を守っていれば、住処が保証されるんだから安いもの・・・本当に、ヨーガンさんたちには感謝してるわ」
「それ・・・本当にあの三人が?」
あまりに高すぎる三人への評価に、俺は思わず問いかけていた。
「ええ、勿論よ」
笑みを浮かべて応える彼女の言う三人と、俺が知るあの三人が別人なのではないかという気がしてくる。
その時俺たちは木々の間を抜け、森の中の開けたスペースに出ていた。
「さ、ついたわ。あそこが私の家」
広場の真ん中にそびえる背が低い割には幹の太い木を示しながら、彼女は言った。
見ると、巨木の根元には大きな穴が開いていた。
「さあ、入って入って」
「は、はぁ・・・」
彼女はいささか楽しげに俺を穴の中へと招いた。
腰を屈め、大木に開いた穴をくぐって中に入る。
中は意外と広々としており、床にはベッドやテーブル、椅子といった木製の家具と、楽器と机を組み合わせたような機械が置いてあった。
また、中はなぜか明るかったが、顔を上に向けるとその答えが明らかになった。
俺の立っている底から遥か上方までが吹き抜けになっており、その天井は生い茂る葉によって覆われている。
そして日の光が葉っぱを透かして差し込んでいるのだった。
「かなり古い木で、中が完全にウロになってるの」
上方を仰ぎ見てぼんやりとする俺に、アヤさんが解説する。
「木の葉は一年中茂ってるから雨が降り込むことはほとんど無いし、冬は暖かくて夏は涼しくて・・・ほんといいところよ」
「はぁ・・・ところでアヤさん」
「なぁに?」
彼女の声によって俺はようやく己を取り戻し、本題について聞いた。
「俺を訓練してくれる、って話なんですが・・・」
「あぁ、そうだったわね・・・ふふ・・・」
彼女はウロのそこを踏みしめる六本の足を操って俺の側まで歩み寄ると、俺の肩にふわりと両の手を乗せてきた。
「っ!何を・・・!?」
「何を、って・・・訓練よ・・・」
俺を抱き寄せ、着物越しに豊かな乳房を押し付けながら、彼女は囁いた。
「これから先、あなたは私達みたいな魔物と多く戦うことになるわ・・・そんな時、一番重要なのが何か知ってる・・・?」
「さ、さぁ・・・」
シャツやズボンの上から妖しく這い回る彼女の両手に動揺しながらも、俺は何とか応じた。
「重要なのはね・・・機を待つこと・・・」
床を踏みしめる六本の蜘蛛脚のうち、前の二本を俺の脚に絡めながら彼女は続ける。
「魔物の身体能力は人間を上回るわ・・・これは絶対に覆しようの無い事実・・・」
俺の首筋に顔を寄せ、すんすんと小さく鼻を鳴らす。
「仮にあなたがその差を埋めるほどの才能を持っていたとしても、いつかは敗れてしまう・・・そうなれば、魔物はあなたを犯すのよ・・・強いオスの子種を求めてね・・・」
俺の体臭を満喫したのか、彼女は首筋に舌を這わせた。
ぞくり、と痺れのようなものが背筋を走る。
「でも、ここで大体の男は屈辱のあまり現実から逃避するのよ・・・自分から屈服したり、理性を手放したり・・・肝心なのはこのときなのに・・・」
俺の汗の味が気に入ったらしく、アヤさんは言葉と言葉の合間に首筋を舐めていく。
「知ってるかしら・・・?どんな魔物でも、交わっている間に隙を晒すものなのよ・・・ほんの一瞬で、立場も逆転させられるほど大きな隙をね・・・」
二本の蜘蛛脚は俺の両脚を捕らえて放さず、彼女の両腕も俺を抱きしめるのみに留まっていた。
力はそこまで篭っておらず、ほんの少し身をねじれば振り払える程度のものだ。
「そりゃもちろん、常に辺りに気を配るって武人のような魔物もいるわよ・・・」
だが、俺は耳から入る彼女の言葉と、首筋や肩口、はては頬までを這いまわる舌によって、抵抗の意識を完全に削がれていた。
「でも、自分が貪っているオスにまで注意を払う者が・・・いるかしら・・・?」
そこまで言ったところで、彼女の両腕が緩み、密着していた俺たちの上体が離れた。
「私が教えるのは・・・魔物の責めに耐え、隙を晒すまで忍ぶ技術・・・」
それまでの言葉にさえ滲んでいた妖艶さを掻き消して、彼女は言葉を紡いだ。
「訓練は辛いけど・・・あなたは耐えられるかしら・・・?」
「・・・・・・はい・・・俺、耐えて見せます・・・」
真剣な彼女の問いに、俺はそう答えた。
蜘蛛脚から俺を開放するなり、アヤさんは服を脱ぐよう命じた。
そして家の隅に置かれたベッドに仰向けで横になり、じっとしているよう言った。
言われるままにベッドに身を横たえると、すべすべとしたシーツの生地が俺を受け入れてくれた。
「魔物はあなたに身動きできないほどの怪我を負わせるか、疲労困憊させるか、毒でも使うか・・・なんにせよ、あなたの体の自由を奪ってくるわ・・・」
着物の帯を解き、皺がつかぬよう畳みながら彼女は解説する。
「あなたの動きを封じた後は・・・鎧や衣服を引き剥がして、無理矢理交わるのよ・・・自身が孕むまで、ね・・・」
着物を脱ぎ、彼女の裸身が俺の目に晒された。
新雪を思わせる白さときめ細やかさを湛えた彼女の肌は、まるでシルクを思わせる美しさに満ちていた。
「あなたにはその状況を体感してもらうため、無抵抗のまま私に犯されてもらうわ・・・」
張りのある豊かな乳房を揺らしながら、彼女がベッド脇まで歩み寄る。
そして蜘蛛脚を操ってベッドに上ると、彼女は俺の体を跨いだ。
「大丈夫・・・手加減はしてあげるわ・・・」
上体を倒し、脚を屈めて顔を寄せると、アヤさんは俺の頬に手を当てて囁いた。
「じゃあ、いいわね・・・」
甘い吐息が、俺の顔に掛かる。
「始めるわよ・・・」
「は・・・い・・・」
興奮と緊張に支配された俺の意識が、そう応えさせた。
「・・・・・・」
彼女の目が無言のうちに細まり、彼女を支える六本の蜘蛛脚がゆっくりと動いていく。
しかし彼女の身体は俺に接近するどころか、上がっていくのだった。
「・・・?」
疑問符を浮かべる俺の眼前で。大きく膨れた蜘蛛腹が僅かに曲がり、僅かに尖った先端が俺の体に向けられる。
すると先端の窄まりが大きく開き、その内面を晒したのだ。
見えたのはピンクと白。
穴の奥へと幾重にも連なる肉襞のピンク色と、その谷間に溜まった白い粘液。
その二色が織り成す淫靡な穴だった。
だが一瞬の後、それは溢れ出した白によって塗りつぶされていった。
穴の奥から、白い粘液が迸ったのだ。
粘液は糸を引きながら噴出すると、俺の右腕とベッドにべったりとへばりついた。
一瞬の冷たさと、粘りつくような感触が腕を襲う。
「うわ・・・!?」
何をかけられたのか理解する前に、彼女の蜘蛛腹は小さく角度を変え、同様に俺の左手と両脚に粘液を噴き掛けた。
「一応、動きを封じさせてもらったわ・・・」
笑みを浮かべながら、アヤさんは蜘蛛脚を屈めていく。
その言葉に、俺はとっさに両手両脚に力を込めるが、びくともしなかった。
よくよく腕を見てみれば、腕とシーツにへばりついているのは粘液ではなく、細く白い糸が幾重にも絡み合ったものと化していた。
「く・・・!?」
「私の糸を編んだシーツだから、あなたがどんなに暴れても破れないわよ・・・」
俺のささやか抵抗に、彼女は微笑む。
「まずはお腹で・・・」
六本の蜘蛛脚が言葉と共に屈み、宙に浮いていた蜘蛛腹が俺の下半身に重なった。
黄と黒の縞模様に彩られた彼女の腹は、短く柔らかな毛に覆われており、その感触が両脚や腹、そして屹立した肉棒までを包み込んだ。
そして一瞬遅れて、大きな蜘蛛腹の重量感が下半身を覆う。
「ふふ・・・とっても元気ね・・・」
繊毛越しに弾力のある腹を圧迫する俺のペニスに、彼女は楽しげに囁いた。
「擦ってあげる・・・」
彼女の全身がゆっくりと前後に揺れ始め、俺の下半身を繊毛が擦っていく。
「うぁぁ・・・!」
柔らかな繊毛が前後する感触に、俺は声を漏らした。
まず最初に襲ってきたのは、身をよじって逃れたくなるようなくすぐったさだった。
だが、直後に屹立した肉棒から快感が滲み出してきたのだ。
繊毛と圧迫感、そして彼女の体温。
裏筋を襲うくすぐったさと、下半身に加えられる重さと温もりが、心地よさを織り成しているのだ。
「うぁぁ・・・あぁ・・・」
「もう良くなってきたみたいね・・・ふふ・・・」
拘束されながらも小さく身悶えする俺に、彼女は体を揺すりながら言った。
だが、俺には既に応えるだけの余裕は無かった。
ペニスだけから生じていた快感は、下半身の前面全体に広がっており、肉棒からは先走りが滲み出しつつあるのだ。
心臓の鼓動にあわせてペニスが脈打ち、収縮のたびに蜘蛛腹との密着感が変化する。
繊毛と重量感と温もりに、俺自身の先走りと脈動が加わり、会館が膨れ上がっていく。
「そろそろ限界かしら・・・?」
俺の反応から限界を察したのだろう。
彼女がそう呟く。
だが、彼女は体の動きを止めるどころか、加速させていった。
「ああ・・・あぁっ・・・・・・!」
あっという間に俺の意識は上り詰め、ペニスから精液が迸っていった。
熱く、つまめるほど固い粘液が、俺とアヤさんの腹に纏わりついていく。
「うぁぁ・・・・・・!」
彼女は俺の射精にあわせて大きな動きを止めると、先走りに塗れた腹で持って脈打つペニスをぐりぐりと圧迫した。
鈍い快感が肉棒に注ぎ込まれ、射精が長引いていく。
そして、普段よりも長い時間をかけて精液を吐き終えると、ペニスは脈動を止めた。
「ふふふ・・・お腹がべとべと・・・」
屈めていた蜘蛛脚を伸ばし、身を離しながら彼女が呟いた。
射精後のけだるさに身を任せたまま目を向けると、彼女の腹の繊毛は俺の先走りと精液に塗れ、水で濡れたように自身の腹にへばりついていた。
「ちょっと勿体無いわね・・・」
アヤさんは白魚のような指を伸ばし、へばりついた白濁をこそぎとって口元へ運んでいく。
「ん・・・美味し・・・」
桃色の舌で指先に纏わりつく粘液を舐め取ると、彼女は再び腹へ手を伸ばしていった。
そして今度は広げた掌を腹に押し当て、白濁をこそぎ取る。
「あぁ・・・こんなに・・・」
指先から手首までが精液に塗れた手を掲げると、彼女は迷うこと無く唇をすぼめ、盛り上がった白濁に吸い付いた。
じゅぞ ずぞぞぞぞ
下品な音と共に精液を啜り上げ、白い喉を小さく上下させながら嚥下していく。
淫靡でありながらもある種の美しさに満ちた彼女の姿に、俺の目は釘付けになっていた。
「あぁ、美味しかった・・・待たせてごめんなさいね・・・あら・・・?」
掌を一通り舐めた彼女の目が、俺の股間で止まる。
そこには、彼女の姿によって再び屹立したペニスがあった。
「大きくなるのが早いわねえ・・・若いからかしら・・・ふふ・・・」
いささか楽しげな様子で呟きながら、彼女は蜘蛛脚を操り僅かに前に進んだ。
そして、大きく膨れた蜘蛛腹を曲げ、その先端を下に向ける。
「今度はこっちで・・・ね・・・?」
先端の窄まりが大きく広がり、腹の奥へと続く穴が露出した。
俺に見せ付けるように広げられたそこは、呼吸するようにひくひくと蠢き、折り重なる肉襞と絡みつく粘液を晒していた。
そして腹の角度が変わり、穴が見えなくなる。
だがそれは、腹の真下で屹立するペニスを挿入するためだった。
「入れるわよ・・・」
蜘蛛脚が屈み、黄と黒の縞に覆われた腹が下がっていく。
「あぁ・・・!」
淫靡に蠢動していた彼女の穴の感触を思い描きながら、俺は興奮のあまり声を漏らしていた。
やがて穴の縁が俺の亀頭を捉え、かすかに引っかかりながらも肉棒を飲み込んでいった。
「うぉ・・・!」
ペニスを先端から包み込んでいく柔らかな肉の感触に、全身が硬直していく。
みっちりと詰まった襞が、粘液と共にペニスに絡みつきながら、肉棒を包み込んでいく。
やがて、穴の縁が俺のペニスの根元にぶつかって挿入が止まった。
「さ、全部はいりましたよ・・・」
アヤさんは動きを止めたまま、俺を見下ろしながら笑った。
穴の内側を覆う肉襞は、外見より遥かに起伏は富んでいる。
穴の奥では襞に代わって、先ほどは見えなかった小さないぼ状の突起が粘膜を覆っていた。
そしてゆっくりと収縮する内壁にあわせて、肉棒を締め付けては緩めを繰り返している。
そのため挿入したまま動いていない今の状態でも、ペニスには十分すぎるほどの快感が加えられているのだ。
「う・・・ぉ・・・ぉ・・・!」
じわじわと体に染み込んでくる快感に全身を硬直させながら、俺は声を漏らしていた。
先程射精していなかったら。
いや、今も気を抜けば射精しかねないほどの快感が、じりじりと俺を追い詰めつつあった。
「・・・ふふ・・・もう我慢できない・・・って所かしら・・・?」
彼女が淫靡に唇を吊り上げる。
「ぐぁ・・・あ・・・!」
「返事はいいわ・・・今は犯される感覚を覚えて・・・」
直後、穴の内壁がもぞり、と蠢いた。
実際のところ、それは内壁が小さく波打った程度だったのかもしれない。
だが、折り重なる肉襞と生え揃ったいぼ状の突起のうねりは、俺に強すぎるほどの快感を与えていた。
「・・・・・・っ・・・!」
ペニスが破裂しそうなほど大きく膨れ上がり、先走りが僅かな精液と共に穴の奥で迸る。
「我慢は体に毒よ・・・ふふ・・・」
俺の表情や胎内の肉棒から、俺が絶頂寸前であることを察し、彼女は射精を促すように粘膜を繰り返し蠢動させた。
膨れ上がった裏筋に、幾重もの襞が絡みつく。
浮かび上がった血管に、襞と襞の谷間が纏わりつく。
張り出したカリ首に、無数の突起がむしゃぶりつく。
パクパクと開閉を繰り返す鈴口に、柔らかないぼが押し当てられる。
肉棒を包み込む粘膜が、俺を絶頂に導くという目的の元、一度に蠢く。
そして俺の意識は、彼女の意志と肉穴の前に、あっという間に屈服してしまった。
「ぐぁぁぁぁ・・・!」
腹の奥底から、かすかな鈍痛と共に熱い塊が尿道を駆け上り、アヤさんの胎内へ迸っていく。
噴出した精液を受け止めると、一滴もこぼさぬよう肉穴はペニスごと穴を締め、いぼ状の突起の並んだ粘膜を蠕動させて奥へ奥へ導いていった。
「うぉ・・・おぉぉ・・・!」
竿をぎちぎちと締め上げられ、亀頭とカリ首を柔らかな突起で刺激される感触に、痛いほどの快感が生まれる。
だが快感とは裏腹に、裏筋を圧迫することで尿道が押し潰され、射精の勢いが衰えていく。
そして数度の脈動と共に漏れる精液を最後に、射精が止まった。
「・・・っはぁ、はぁ、はぁ・・・」
「これで二度目・・・そこそこ出たわね・・・」
白い手で、黄と黒の二色に包まれた腹を撫で回しながら、アヤさんは続けた。
「じゃあ、このまま後四、五回・・・頑張れるわよね・・・?」
「ま、待って・・・やす・・・ませ・・・」
「休ませて・・・?」
息も絶え絶えに漏らした俺の言葉に、彼女は小首をかしげる。
「ここはまだ硬いままなのに・・・?」
「あぐっ・・・!?」
彼女が蜘蛛腹を小さく揺らすと、鈍い快感が俺の意識を打った。
俺の肉棒は彼女の胎内で、俺の意志とは裏腹に屹立していた。
裏筋を圧迫されることで射精が阻害され、不完全な絶頂がくすぶっているからだ。
肉穴が収縮するたびに、ペニスが呼応するように脈動する。
「もっと出したい・・・って言っているようねえ・・・?」
俺の肉棒を弄びながら、彼女は淫靡に笑った。
確かに、俺の身体は彼女の言う通り、更なる快感と絶頂を求めている。
だが、俺の精神は強すぎる快感によって疲弊していた。
「どうする・・・?やめて欲しいのなら・・・止めてあげるけど・・・?」
囁きながら彼女は俺の首筋に顔を寄せると、新たに浮かんだ汗の雫に舌を這わせた。
柔らかな舌先の感触が、首筋を伝わって脳に届く。
「つづ・・・けて・・・」
頭で考える間もなく、俺の唇が勝手に言葉を紡ぎだしていた。
その瞬間俺は、俺の理性が快感によって溶かされていたのを自覚した。
「ふふ・・・分かったわ・・・残念だけど・・・」
彼女は顔を俺から離すと、唇を舐めながら続けた。
「とりあえず・・・このまま失神するまでしてあげる・・・!」
彼女の言葉にかすかな熱を感じた直後、ペニスが大きく振動を始めた。
いや違う。
肉棒を包み込む彼女の粘膜が、大きく蠕動しているのだ。
竿に絡みつく襞も、亀頭を包み込む突起も、小刻みでありながらも大きく波打つ粘膜にあわせて蠢動している。
まるで、彼女の粘膜越しに何十本もの指で揉み立てられているようだった。
「あぁっ・・・!あぁ・・・!」
くすぶっていた興奮が一気に燃え上がり、中途半端なところで引き摺り下ろされた意識が、再び絶頂へ上り詰める。
そして幾つも数えない間に、俺は再び彼女の胎内に精液を放っていた。
だが、彼女はペニスを締めたり、粘膜を蠕動させること無く、ただ内壁を蠢かせて俺を責めていた。
興奮が強引に引き伸ばされ、射精の勢いが増していく。
やがて迸る精液はペニスと襞を伝わって、彼女の穴から漏れ出していった。
「あぁ・・・勿体無い・・・」
彼女は漏れ出していた精液に気が付くと、ようやく粘膜の蠢動を止めた。
刺激が中断されてから数度精液を迸らせて、ようやく射精が止まる。
「零れないように蓋をするわね・・・」
直後、射精が止まって少しずつ萎えつつあった肉棒に、彼女の体奥から溢れ出した粘液が絡みついた。
「うぁ・・・!」
粘液の熱さと強い粘りに、一瞬精液が逆流してきたのかと錯覚する。
だがそれは、俺の放った精液の数十倍の量はあり、あっという間に彼女の胎内を満たすと、俺と彼女の結合部から溢れ出した。
そして、漏れ出した白い粘液が俺の下腹部と蜘蛛腹の先端を完全に包み込むと、彼女は粘液の分泌を止めた。
「これでいいわ・・・」
数度蜘蛛腹を揺すり、完全に俺の下半身と腹の先端が固定されているのを確認する。
「これで、あなたが射精するたびに精液を啜る必要がなくなったわ・・・」
顔を寄せ、頬を両手で挟みながら、彼女は続きを囁いた。
「射精してもずっと責めて・・・あなたが失神してから飲んであげる・・・」
彼女の胎内で、折り重なる肉襞が蠢いた。
俺のペニスと彼女の胎内粘膜は、先程分泌された粘液に塗れている。
そのため、蠢動する肉襞はさっきよりも淫猥にペニスに絡み付いてくるのだ。
襞が刷毛か筆のように、肉棒表面の粘液を塗り広げ刷り込んでくる。
その動きは、実際には彼女の蜘蛛腹と粘液によって遮られているというのに、ぐちゅぐちゅという音さえ聞こえてきそうなほどだった。
そして音の錯覚と同時に、快感が腰を蕩かしながら背筋を這い登ってくる。
「ぐ・・・う・・・!」
粘つきと温もりと柔らかさのもたらす快感が、肉棒を強引に勃起させていく。
一方亀頭の方でも、いぼ状突起の並んだ粘膜は責めを再開させていた。
亀頭は突起に包み込まれ、圧迫されていた。
彼女の鼓動によって粘膜が僅かに動き、突起の頭一つ一つが敏感な粘膜を刺激している。
カリ首の段差や、亀頭と裏筋の継ぎ目、鈴口までが満遍なく僅かに動く突起に包まれている。
その温もりと圧迫感は、俺に柔らかな快感を注いでいた。
だが、それはただの準備段階でしかなかった。
肉襞に遅れて、突起の並ぶ粘膜もまた蠕動を始める。
カリ首から亀頭の先端へ、ごく小さな締め付けの輪が登り、降りていく。
突起の感触と相まって、それはまるで柔らかなリング状のブラシで扱かれているかのようだった。
通常ならば快感より先に痛みを覚えるのだろうが、彼女の胎内はさっきの粘液に塗れている。
その滑りと粘つきは、突起による刺激から亀頭を守り、快感だけを与えるには十分だった。
「うぅ・・・あぁ・・・!」
にゅるにゅると亀頭を扱き上げられ、俺の全身が硬直していく。
「ほら、我慢せずに出しなさい・・・!」
アヤさんが言葉に微かな昂ぶりを滲ませながら、粘液による固定の許す範囲で蜘蛛腹をゆすった。
それはごく小さな揺れであったが、蠢動する胎内に不規則な密着間を生み出し、俺を絶頂に追いやるには十分すぎた。
「あぁぁぁ・・・!」
固定された手足を突っ張り、体を僅かに反り返らせながら俺は声を上げた。
蜘蛛腹の内側では、蠕動する粘膜に包まれたペニスが、精液を迸らせている。
度重なる射精により、俺は下腹に微かな鈍痛を覚えていたが、彼女は構うことなく刺激を加え、射精を促す。
それはまさに、俺の肉棒から精液を搾っているようだった。
「ふふ・・・ちょっと勢いが弱くなったわね・・・」
彼女の言葉と共に肉襞が竿を締め上げ、亀頭を扱く突起がその圧力を増す。
増大した刺激と快感が、ゆっくりと醒めつつあった俺の意識を、強引に絶頂へ押し上げる。
「ぐぉぉぉぉぉ!」
ペニスから注ぎ込まれる快感は、もはや苦痛に変わっていたが、俺の肉体は律儀に射精で応じた。
「ほらぁ・・・もっともっと・・・」
肉襞の蠢動が大きくなり、亀頭を扱く締め付けの輪がその数を増す。
快感と刺激が高まるたび肉体は力を振り絞って、最後の一滴といってもいいほどの勢いと量の精液を放っていく。
だが、彼女は精液を注がれるたびにペニスへの責めを強くし、最後の一滴を強引に引き伸ばしていくのだった。
「あぁぁぁ・・・あぁぁ・・・」
力を込めているはずの手足はいつの間にか脱力しており、指先にいたっては感覚も無い。
声を上げていたはずの口は、もはや声が漏れているといった程度になっている。
そして、俺の意識もまた、少しずつ溶け崩れつつあった。
「流石に限界かしら・・・?」
どこか遠いところから、アヤさんの声が聞こえる。
だが、その内容に理解が及ぶ前に、股間から這い登ってきた快感が意識を焦がす。
「ぐぁ・・・・・・ぁ・・・・・・」
「まあ、失神するまでって約束だったから・・・いいわよね・・・?」
無論返答することは出来ない。
彼女の胎内で嫐られるペニスだけが、今の俺の全てだからだ。
「それじゃあ、ゆっくり・・・」
幾重にも折り重なった肉襞と、規則正しく並んだいぼ状の突起が肉棒を一際強く締め上げる。
その刺激が俺から精液を搾り取ると、俺の意識は闇に沈んでいった。
「おやすみなさい・・・・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
最初に感じたのは、右手の微かなくすぐったさだった。
薄く目を開くと、遥か上方に光を透かす緑色の天井があった。
起き上がろうという気が一瞬芽生えるが、全身のけだるさがそれを拒んだ。
「・・・・・・・・・」
「目が覚めたか」
無言で天井を見詰める俺の左耳を、ややかすれた低めの女声が打った。
初めて聞く声だ。
視線を左に向けると、若干困ったような表情を浮かべた女の顔があった。
髪の両脇からのぞく特徴的な形の耳と、頬の辺りに生えた鱗から察するに、リザードマンなのだろう。
「全く・・・お前が無茶するから今日の訓練が潰れたではないか」
「私と一緒の時に伝言を伝えたツバサちゃんも、少しは悪いじゃないのよぉ」
右手のくすぐったさが消え、アヤさんの若干困ったような声が響いた。
「確かにお前と一緒にいるときに言伝したツバサにも問題があるが・・・そもそも手に入れた情報を悪用するお前が悪い」
「会ったのはただの偶然よ・・・」
「言い訳はいいから続けろ」
「うー・・・」
アヤさんが小さくうめいた直後、再び右手にくすぐったさが戻る。
「さて・・・アルベルト・ラストスだな?」
リザードマンの女が、俺に視線を向けた。
「あ・・・あぁ・・・そうだ・・・」
けだるさを堪えてどうにか返答を返す。
「ところで、寝られたままだと話し難いのだが、起き上がれるか?
ああ、アヤの糸はほぼ解いてある」
彼女の言葉に左手を動かしてみると、確かに拘束は解けているようだった。
全身を支配する疲労感に逆らって、俺はゆっくりと身を起こした。
天井に向けられていた視線が下がり、見覚えのある家具の並びと、俺の下半身を覆う大きなタオルが目に入った。
どうやらここはアヤさんの家のままのようだ。
そして未だ動かず、くすぐったさを発し続ける右手に目を向けると、アヤさんが俺の右手を固定する糸の塊を舐めているところだった。
「うぅ・・・」
「アヤの事は今は無視していてくれ」
リザードマンの女の言葉に、俺は彼女に顔を向けた。
「私はセーナ・タリザルタ。三賢人からお前の訓練を、正式に請け負った者だ」
衣服に包まれたやや小ぶりな胸元に手を当てながら、彼女は名乗る。
「来るのが遅かったから道に迷ったのではないかと心配していたが・・・まさかアヤに騙されていたとはな」
「うぅ・・・」
「今日のところは、そいつの言う『不幸な事故』によって訓練が潰れたわけだ」
「うぅ・・・」
やれやれ、とばかりに顔を振るセーナと、うめくアヤ。
二人のやりとりがしばし続いた後、不意にセーナは俺に顔を向けた。
「それで・・・一応聞いておきたいのだが、お前は私の訓練を受ける覚悟はあるか?」
彼女は俺の眼を見据えたまま続ける。
「見たところお前には体力や筋力など足りないものが山ほどある。それなりに調整はするつもりだが、かなりきついぞ・・・。
それでも受けるか?」
微かに脅すような気配を滲ませながら、セーナは問いかける。
「や、止めておきなさい!きっと後でやめときゃよかった、って後悔するわよ!」
アヤさんが声を上げるが、セーナの一瞥に小さく悲鳴を上げると、再び糸を解く作業に戻っていった。
「それで・・・どうする?」
「・・・・・・・・・」
俺は口をつぐみ、黙考していた。
仮にここで断ったとしても、俺はエルンデルストで一村人として受け入れられ、一生を過ごす事が出来るかもしれない。
仮に村から追い出されたとしても、また隊商に加わって国を移動し、故郷の村に戻ることも出来る。
だが、俺の脳裏には一人の少女の姿が浮かんでいた。
俺と同じ年頃の、衣服も髪も、その肌さえも真っ白な少女。
そう、マティアータの姿だった。
あの三人によれば、マティアータはただの幽霊などではなく、生きている人間から魂だけが抜け出たものだという。
だとすれば、彼女の正体を探るのは容易く、なぜ俺についているのかという疑問はともかく、彼女と別れることも可能だ。
物心ついた頃からの謎の氷解と、本当の一人きりの時間。
そのために俺はここまで旅をしてきたのだった。
「覚悟は・・・ある・・・」
自分の意志を言葉に乗せ、俺は声を紡ぐ。
「だから・・・俺を鍛えて下さい・・・お願いします・・・」
「・・・・・・分かった」
俺の言葉に乗った意思を読み取ったのか、小さくセーナが頷いて見せた。
「終わったわよ・・・」
不意にアヤさんが声をあげ、右手の拘束が解けているのに気が付いた。
「出来る範囲でビシバシ鍛えていくつもりだ。宜しくな」
アヤさんを無視しながら、セーナは右手を俺に差し出してきた。
「あぁ・・・よろしく・・・」
俺はやっと開放された右手で彼女の握手に応じると、そう返した。
「さて・・・挨拶も済んだし、今日は村へ帰るといい」
握手を解くなり、セーナは俺に向けてそう告げた。
「え・・・帰るって・・・え?」
彼女の言葉と、山を登っていた時の苦労が頭に浮かぶが、なぜか上手く結びつかない。
「ん?分からんのか?今日の訓練はなし。だから帰る。簡単じゃないか」
「いや、あの山道を俺一人で歩いて帰れって言うのか!?」
当たり前のように解説する彼女に、俺は声を上げていた。
「そうだが」
「そうだが、じゃ無くて!見ろよ!俺は疲労困憊でろくに動けません!分かる?」
「・・・分かった。今日の訓練は『一人で村まで帰る』だ」
「だから、そういうのじゃなくて!今日はうちに泊めてやる、とか麓まで送ってやる、とか!」
どうしても俺を送り返したがるセーナに、俺は例を挙げてやる。
「私の家は雨漏りするし、湿気がすごいんだ」
「だったら、このまま私の家に・・・」
「お前は黙っていろ、アヤ」
眼を輝かせながら提案しようとしたアヤさんを遮ると、セーナはしばし黙考した。
「分かった、こうしよう。今日のところはアヤがアルベルトを麓まで運んでやる。これでどうだ?」
「まあ、それなら・・・」
「えー!?」
一応納得する俺の脇から、明らかに不満そうにアヤさんが声を上げた。
「どうした、不満か?」
「不満も何も、何で私が人一人麓まで運ばなきゃいけないのよ、セーナちゃん!?」
「麓から人を住処に連れ込むことは出来るのにか?」
「行きと帰りじゃやる気が違うのよ」
「私は別に三賢人に申し立ててもいいのだが」
「喜んで運ぶわ」
アヤさんの抵抗がへし折れ、同意を得る。
「じゃあアルベルト君・・・乗りなさい・・・」
くるりと俺に背を向け、期と黒の縞に彩られた蜘蛛腹を示しながら彼女は言う。
俺は彼女に従い、若干重い体を操って、どうにかその上に乗った。
「うぅ・・・重い・・・」
ぶつぶつと呟きながら、アヤさんは住処の入り口をくぐった。
「では、アルベルトよ、また明日来い」
遅れて木の穴をくぐって外に出ると、アヤさんの蜘蛛腹に乗った俺にセーナはそう別れを告げる。
「ビシバシ鍛えてやるからな」
いくらか楽しそうな彼女の言葉に、俺は早くも後悔を覚えつつあった。
俺はその日も、村で飼われている雄鶏の声によって目を覚ました。
「ふぁ・・・」
俺は小さく欠伸をすると、二度寝の誘惑を追い払いながらベッドを出た。
『んー?もう朝ー?』
服を着ていると、小屋の屋根を支える梁の上から少女の声が届く。
「別に寝てていいぞ。昨日も夜更かししたんだろ」
『んー。そうするー』
梁の上から白い腕が伸び、二三度揺れると引っ込んでいった。
そして遅れて、小さな寝息の音が響いてくる。
「・・・・・・」
俺は同居者の二度寝を少々うらやましく思いながら、木桶を手に小屋の戸を開いた。
かすかに覗く朝日と共に、ひんやりとした清浄な風が小屋の中に吹き込む。
「うぅ・・・寒・・・」
俺は小さく呟きながら戸を閉めると、村の中心部にある井戸の方へ向かっていった。
村での一日は、井戸まで水汲みに行くことから始まる。
以前はこの村の側を流れる濁った川の水を汲み、一昼夜置いてその上澄みを使っていたらしい。
エルンデルストを話の上でしか知らなかった頃は、川があるのに井戸を掘る必要があるだろうか、と思っていたのに、数日暮らすだけでそのありがたみが身に染みる。
「おう、おはようさん」
「あ、おはようございます」
井戸までの道中、他の村人と挨拶を交わす。
そこには既によそ者に対する不信感などは無い。
俺を受け入れたのか、俺を紹介したあの三人が信頼されているのか。
どちらにせよありがたいことだ。
そうこうしているうちに、井戸にたどり着く。
俺は雨除けを兼ねた屋根の下に入ると、ロープを巻き上げて井戸水をくみ上げ始めた。
「よーう、おはよう」
水を汲む俺に、声がかけられた。
手を止めて顔を上げると、木桶を手にした四十前後ほどの男が立っているのが目に入った。
「ああ、おはよう、ソクセン」
俺を村人に紹介し、住居やら何やらの世話をしてくれた三人のうちの一人に俺は挨拶した。
「村の生活はどうだ、慣れそうかい?」
「ああ、村の皆も親切だし、うまいことやっていけそうだ」
「そりゃ良かった」
水汲みを再開しながら、俺は彼と言葉を交わす。
「ところで、さっきヨーガンが用事があるとか何とか言ってたぜ」
「用事?」
何のことだろうかと思いをめぐらすが、心当たりは無い。
「今日の予定は町まで行って仕事を取ってこさせるんだったが、昨日マティちゃんの話を聞いたらしくてな」
「話、というと?」
「死霊使いのゾンビ相手に碌に何も出来なかったこと、だ」
「あいつ・・・」
ニヤニヤするソクセンの前で、俺は溜息をついた。
「話は聞いた。お前は弱い」
村はずれの小屋に向かうと、入り口にヨーガンが立っており、開口一番そう告げた。
「・・・・・・いきなり言わなくてもいいじゃないか・・・」
「マティ君からの伝聞だったが、正確だったようだな」
いきなりへこまされた俺を見ながら、ヨーガンは続けた。
「とにかく、今のままではいざというとき何の役にも立たない」
「自覚はしてるんだから、そう言わなくてもいいじゃないか・・・」
的確すぎる事実の指摘によろめきつつも、俺は抗議の声を上げた。
「自覚はしている、といった所でお前が弱いことに変わりは無いだろう。我々が必要なのはそこそこの戦力だ。ゾンビ一体碌に相手も出来ないとは思わなかったがな」
ヨーガンは容赦なく俺に攻撃を続ける。
「そもそもお前と取引をしたのは、お前の旅の経験を買ったからだ。お前が弱いままならば、取引も白紙に返させてもらう」
「そんな・・・」
「だが、安心するといい。チャンスはある」
彼は腕を上げ、小屋の裏側にそびえる山を指差した。
「あの山にお前を訓練してくれる者がいる」
「山に?」
「ああ、山には少々事情があって村に住めない者達がいてな、その一人だ」
ヨーガンは腕を下ろし、視線を俺に向ける。
「とりあえず、そこでしばらく経験を積むといい。全てはその後だ」
「はぁ・・・」
「話はズイチューを通してつけてある。地図はこれだ」
彼はそう言いながら、紙切れを取り出してきた。
エルンデルストを囲む山はいずれも低く、そう険しいものではなかった。
俺は簡単な荷物と共に、地図に示された僅かな獣道を歩いている。
ヨーガンが言うには、朝に出れば昼までに二往復できる程度の距離に、その人は住んでいるらしい。
しかしそれでも斜面を歩き続けるというのは辛いものだ。
「はぁはぁ・・・おっと・・・」
生い茂る木々の向こうから、不意に大きな岩が姿を現した。
俺は背嚢から渡された地図を取り出すと、岩の場所を探った。
「ええと、大岩に出たら右に曲がって・・・」
と、その時位置を確認する俺の耳を、草の揺れる音が打つ。
突然の物音に、俺はとっさに音の源へ身を向けた。
「・・・・・・あら・・・?」
俺の視線の先で、驚きの声と共に目を丸くしていたのは、黒髪の女性だった。
着物、とかいうジパングのほうの民族衣装を纏っていたが、その襟元は彼女の豊かな乳房によって大きく開いていた。
整った、ややおっとりとした印象を受ける顔立ちではあったが、その下半身は、黄と黒の縞模様に彩られた蜘蛛の形をしている。
モンスターのアラクネだ。
「あなた・・・ツバサちゃんの言ってた・・・アルベルト・ラストスって人?」
小さく首をかしげながら、彼女はそう問いかけた。
ツバサちゃんなる人物のことは知らないが、彼女は俺のことを知っているようだった。
「え?あ・・・はい、そうです」
「そう・・・私はアヤ・イガシラ。あなたのことはツバサちゃん、いえ、ズイチューさんから話は窺ってるわ。よろしく」
彼女は両手を前に揃えると、小さく頭を下げた。
彼女の仕草や衣装や名前から察するに、恐らくジパングの出身なのだろう。
「俺こそよろしく・・・それで、ヨーガンから俺を訓練してもらえるって聞いたんですが・・・」
「え?あぁ、そうでしたね」
彼女はニコニコ微笑みながら続けた。
「そのことに関しては、私の家で続けましょう」
俺はアヤさんに連れられ、山の中を進んでいった。
大岩から離れた時点で地図の道から外れていたが、アヤさんが言うにはそこは昔住んでいたところらしい。
「そこは確かに広いんだけど、少々水漏りがあって・・・」
なれぬ山道で疲労した俺にペースを合わせて歩きながら、彼女は山のことや自分たちのことについて話してくれた。
「この辺りの山は、私達のような麓で暮らすことの出来ない者たちの住まいなんのよ」
木々の隙間からのぞく山々を示しながら彼女は言った。
「故郷を失った者、住処を追われた者。そういった放浪する魔物を、ヨーガンさんたちは積極的に受け入れているの。
勿論、山で暮らす代わりにいくつかの約束は交わさなければならないけどね」
「約束?」
俺の問いに彼女は答えた。
「ええ、簡単に言うと、この三つ。
『村の者や定められた道を行き来するものを襲ってはならない』
『村からの指示には従わなければならない』
『山の住人同士で争ってはならない』」
指を折りながら、彼女は約束を数え上げた。
「たったこれだけの約束を守っていれば、住処が保証されるんだから安いもの・・・本当に、ヨーガンさんたちには感謝してるわ」
「それ・・・本当にあの三人が?」
あまりに高すぎる三人への評価に、俺は思わず問いかけていた。
「ええ、勿論よ」
笑みを浮かべて応える彼女の言う三人と、俺が知るあの三人が別人なのではないかという気がしてくる。
その時俺たちは木々の間を抜け、森の中の開けたスペースに出ていた。
「さ、ついたわ。あそこが私の家」
広場の真ん中にそびえる背が低い割には幹の太い木を示しながら、彼女は言った。
見ると、巨木の根元には大きな穴が開いていた。
「さあ、入って入って」
「は、はぁ・・・」
彼女はいささか楽しげに俺を穴の中へと招いた。
腰を屈め、大木に開いた穴をくぐって中に入る。
中は意外と広々としており、床にはベッドやテーブル、椅子といった木製の家具と、楽器と机を組み合わせたような機械が置いてあった。
また、中はなぜか明るかったが、顔を上に向けるとその答えが明らかになった。
俺の立っている底から遥か上方までが吹き抜けになっており、その天井は生い茂る葉によって覆われている。
そして日の光が葉っぱを透かして差し込んでいるのだった。
「かなり古い木で、中が完全にウロになってるの」
上方を仰ぎ見てぼんやりとする俺に、アヤさんが解説する。
「木の葉は一年中茂ってるから雨が降り込むことはほとんど無いし、冬は暖かくて夏は涼しくて・・・ほんといいところよ」
「はぁ・・・ところでアヤさん」
「なぁに?」
彼女の声によって俺はようやく己を取り戻し、本題について聞いた。
「俺を訓練してくれる、って話なんですが・・・」
「あぁ、そうだったわね・・・ふふ・・・」
彼女はウロのそこを踏みしめる六本の足を操って俺の側まで歩み寄ると、俺の肩にふわりと両の手を乗せてきた。
「っ!何を・・・!?」
「何を、って・・・訓練よ・・・」
俺を抱き寄せ、着物越しに豊かな乳房を押し付けながら、彼女は囁いた。
「これから先、あなたは私達みたいな魔物と多く戦うことになるわ・・・そんな時、一番重要なのが何か知ってる・・・?」
「さ、さぁ・・・」
シャツやズボンの上から妖しく這い回る彼女の両手に動揺しながらも、俺は何とか応じた。
「重要なのはね・・・機を待つこと・・・」
床を踏みしめる六本の蜘蛛脚のうち、前の二本を俺の脚に絡めながら彼女は続ける。
「魔物の身体能力は人間を上回るわ・・・これは絶対に覆しようの無い事実・・・」
俺の首筋に顔を寄せ、すんすんと小さく鼻を鳴らす。
「仮にあなたがその差を埋めるほどの才能を持っていたとしても、いつかは敗れてしまう・・・そうなれば、魔物はあなたを犯すのよ・・・強いオスの子種を求めてね・・・」
俺の体臭を満喫したのか、彼女は首筋に舌を這わせた。
ぞくり、と痺れのようなものが背筋を走る。
「でも、ここで大体の男は屈辱のあまり現実から逃避するのよ・・・自分から屈服したり、理性を手放したり・・・肝心なのはこのときなのに・・・」
俺の汗の味が気に入ったらしく、アヤさんは言葉と言葉の合間に首筋を舐めていく。
「知ってるかしら・・・?どんな魔物でも、交わっている間に隙を晒すものなのよ・・・ほんの一瞬で、立場も逆転させられるほど大きな隙をね・・・」
二本の蜘蛛脚は俺の両脚を捕らえて放さず、彼女の両腕も俺を抱きしめるのみに留まっていた。
力はそこまで篭っておらず、ほんの少し身をねじれば振り払える程度のものだ。
「そりゃもちろん、常に辺りに気を配るって武人のような魔物もいるわよ・・・」
だが、俺は耳から入る彼女の言葉と、首筋や肩口、はては頬までを這いまわる舌によって、抵抗の意識を完全に削がれていた。
「でも、自分が貪っているオスにまで注意を払う者が・・・いるかしら・・・?」
そこまで言ったところで、彼女の両腕が緩み、密着していた俺たちの上体が離れた。
「私が教えるのは・・・魔物の責めに耐え、隙を晒すまで忍ぶ技術・・・」
それまでの言葉にさえ滲んでいた妖艶さを掻き消して、彼女は言葉を紡いだ。
「訓練は辛いけど・・・あなたは耐えられるかしら・・・?」
「・・・・・・はい・・・俺、耐えて見せます・・・」
真剣な彼女の問いに、俺はそう答えた。
蜘蛛脚から俺を開放するなり、アヤさんは服を脱ぐよう命じた。
そして家の隅に置かれたベッドに仰向けで横になり、じっとしているよう言った。
言われるままにベッドに身を横たえると、すべすべとしたシーツの生地が俺を受け入れてくれた。
「魔物はあなたに身動きできないほどの怪我を負わせるか、疲労困憊させるか、毒でも使うか・・・なんにせよ、あなたの体の自由を奪ってくるわ・・・」
着物の帯を解き、皺がつかぬよう畳みながら彼女は解説する。
「あなたの動きを封じた後は・・・鎧や衣服を引き剥がして、無理矢理交わるのよ・・・自身が孕むまで、ね・・・」
着物を脱ぎ、彼女の裸身が俺の目に晒された。
新雪を思わせる白さときめ細やかさを湛えた彼女の肌は、まるでシルクを思わせる美しさに満ちていた。
「あなたにはその状況を体感してもらうため、無抵抗のまま私に犯されてもらうわ・・・」
張りのある豊かな乳房を揺らしながら、彼女がベッド脇まで歩み寄る。
そして蜘蛛脚を操ってベッドに上ると、彼女は俺の体を跨いだ。
「大丈夫・・・手加減はしてあげるわ・・・」
上体を倒し、脚を屈めて顔を寄せると、アヤさんは俺の頬に手を当てて囁いた。
「じゃあ、いいわね・・・」
甘い吐息が、俺の顔に掛かる。
「始めるわよ・・・」
「は・・・い・・・」
興奮と緊張に支配された俺の意識が、そう応えさせた。
「・・・・・・」
彼女の目が無言のうちに細まり、彼女を支える六本の蜘蛛脚がゆっくりと動いていく。
しかし彼女の身体は俺に接近するどころか、上がっていくのだった。
「・・・?」
疑問符を浮かべる俺の眼前で。大きく膨れた蜘蛛腹が僅かに曲がり、僅かに尖った先端が俺の体に向けられる。
すると先端の窄まりが大きく開き、その内面を晒したのだ。
見えたのはピンクと白。
穴の奥へと幾重にも連なる肉襞のピンク色と、その谷間に溜まった白い粘液。
その二色が織り成す淫靡な穴だった。
だが一瞬の後、それは溢れ出した白によって塗りつぶされていった。
穴の奥から、白い粘液が迸ったのだ。
粘液は糸を引きながら噴出すると、俺の右腕とベッドにべったりとへばりついた。
一瞬の冷たさと、粘りつくような感触が腕を襲う。
「うわ・・・!?」
何をかけられたのか理解する前に、彼女の蜘蛛腹は小さく角度を変え、同様に俺の左手と両脚に粘液を噴き掛けた。
「一応、動きを封じさせてもらったわ・・・」
笑みを浮かべながら、アヤさんは蜘蛛脚を屈めていく。
その言葉に、俺はとっさに両手両脚に力を込めるが、びくともしなかった。
よくよく腕を見てみれば、腕とシーツにへばりついているのは粘液ではなく、細く白い糸が幾重にも絡み合ったものと化していた。
「く・・・!?」
「私の糸を編んだシーツだから、あなたがどんなに暴れても破れないわよ・・・」
俺のささやか抵抗に、彼女は微笑む。
「まずはお腹で・・・」
六本の蜘蛛脚が言葉と共に屈み、宙に浮いていた蜘蛛腹が俺の下半身に重なった。
黄と黒の縞模様に彩られた彼女の腹は、短く柔らかな毛に覆われており、その感触が両脚や腹、そして屹立した肉棒までを包み込んだ。
そして一瞬遅れて、大きな蜘蛛腹の重量感が下半身を覆う。
「ふふ・・・とっても元気ね・・・」
繊毛越しに弾力のある腹を圧迫する俺のペニスに、彼女は楽しげに囁いた。
「擦ってあげる・・・」
彼女の全身がゆっくりと前後に揺れ始め、俺の下半身を繊毛が擦っていく。
「うぁぁ・・・!」
柔らかな繊毛が前後する感触に、俺は声を漏らした。
まず最初に襲ってきたのは、身をよじって逃れたくなるようなくすぐったさだった。
だが、直後に屹立した肉棒から快感が滲み出してきたのだ。
繊毛と圧迫感、そして彼女の体温。
裏筋を襲うくすぐったさと、下半身に加えられる重さと温もりが、心地よさを織り成しているのだ。
「うぁぁ・・・あぁ・・・」
「もう良くなってきたみたいね・・・ふふ・・・」
拘束されながらも小さく身悶えする俺に、彼女は体を揺すりながら言った。
だが、俺には既に応えるだけの余裕は無かった。
ペニスだけから生じていた快感は、下半身の前面全体に広がっており、肉棒からは先走りが滲み出しつつあるのだ。
心臓の鼓動にあわせてペニスが脈打ち、収縮のたびに蜘蛛腹との密着感が変化する。
繊毛と重量感と温もりに、俺自身の先走りと脈動が加わり、会館が膨れ上がっていく。
「そろそろ限界かしら・・・?」
俺の反応から限界を察したのだろう。
彼女がそう呟く。
だが、彼女は体の動きを止めるどころか、加速させていった。
「ああ・・・あぁっ・・・・・・!」
あっという間に俺の意識は上り詰め、ペニスから精液が迸っていった。
熱く、つまめるほど固い粘液が、俺とアヤさんの腹に纏わりついていく。
「うぁぁ・・・・・・!」
彼女は俺の射精にあわせて大きな動きを止めると、先走りに塗れた腹で持って脈打つペニスをぐりぐりと圧迫した。
鈍い快感が肉棒に注ぎ込まれ、射精が長引いていく。
そして、普段よりも長い時間をかけて精液を吐き終えると、ペニスは脈動を止めた。
「ふふふ・・・お腹がべとべと・・・」
屈めていた蜘蛛脚を伸ばし、身を離しながら彼女が呟いた。
射精後のけだるさに身を任せたまま目を向けると、彼女の腹の繊毛は俺の先走りと精液に塗れ、水で濡れたように自身の腹にへばりついていた。
「ちょっと勿体無いわね・・・」
アヤさんは白魚のような指を伸ばし、へばりついた白濁をこそぎとって口元へ運んでいく。
「ん・・・美味し・・・」
桃色の舌で指先に纏わりつく粘液を舐め取ると、彼女は再び腹へ手を伸ばしていった。
そして今度は広げた掌を腹に押し当て、白濁をこそぎ取る。
「あぁ・・・こんなに・・・」
指先から手首までが精液に塗れた手を掲げると、彼女は迷うこと無く唇をすぼめ、盛り上がった白濁に吸い付いた。
じゅぞ ずぞぞぞぞ
下品な音と共に精液を啜り上げ、白い喉を小さく上下させながら嚥下していく。
淫靡でありながらもある種の美しさに満ちた彼女の姿に、俺の目は釘付けになっていた。
「あぁ、美味しかった・・・待たせてごめんなさいね・・・あら・・・?」
掌を一通り舐めた彼女の目が、俺の股間で止まる。
そこには、彼女の姿によって再び屹立したペニスがあった。
「大きくなるのが早いわねえ・・・若いからかしら・・・ふふ・・・」
いささか楽しげな様子で呟きながら、彼女は蜘蛛脚を操り僅かに前に進んだ。
そして、大きく膨れた蜘蛛腹を曲げ、その先端を下に向ける。
「今度はこっちで・・・ね・・・?」
先端の窄まりが大きく広がり、腹の奥へと続く穴が露出した。
俺に見せ付けるように広げられたそこは、呼吸するようにひくひくと蠢き、折り重なる肉襞と絡みつく粘液を晒していた。
そして腹の角度が変わり、穴が見えなくなる。
だがそれは、腹の真下で屹立するペニスを挿入するためだった。
「入れるわよ・・・」
蜘蛛脚が屈み、黄と黒の縞に覆われた腹が下がっていく。
「あぁ・・・!」
淫靡に蠢動していた彼女の穴の感触を思い描きながら、俺は興奮のあまり声を漏らしていた。
やがて穴の縁が俺の亀頭を捉え、かすかに引っかかりながらも肉棒を飲み込んでいった。
「うぉ・・・!」
ペニスを先端から包み込んでいく柔らかな肉の感触に、全身が硬直していく。
みっちりと詰まった襞が、粘液と共にペニスに絡みつきながら、肉棒を包み込んでいく。
やがて、穴の縁が俺のペニスの根元にぶつかって挿入が止まった。
「さ、全部はいりましたよ・・・」
アヤさんは動きを止めたまま、俺を見下ろしながら笑った。
穴の内側を覆う肉襞は、外見より遥かに起伏は富んでいる。
穴の奥では襞に代わって、先ほどは見えなかった小さないぼ状の突起が粘膜を覆っていた。
そしてゆっくりと収縮する内壁にあわせて、肉棒を締め付けては緩めを繰り返している。
そのため挿入したまま動いていない今の状態でも、ペニスには十分すぎるほどの快感が加えられているのだ。
「う・・・ぉ・・・ぉ・・・!」
じわじわと体に染み込んでくる快感に全身を硬直させながら、俺は声を漏らしていた。
先程射精していなかったら。
いや、今も気を抜けば射精しかねないほどの快感が、じりじりと俺を追い詰めつつあった。
「・・・ふふ・・・もう我慢できない・・・って所かしら・・・?」
彼女が淫靡に唇を吊り上げる。
「ぐぁ・・・あ・・・!」
「返事はいいわ・・・今は犯される感覚を覚えて・・・」
直後、穴の内壁がもぞり、と蠢いた。
実際のところ、それは内壁が小さく波打った程度だったのかもしれない。
だが、折り重なる肉襞と生え揃ったいぼ状の突起のうねりは、俺に強すぎるほどの快感を与えていた。
「・・・・・・っ・・・!」
ペニスが破裂しそうなほど大きく膨れ上がり、先走りが僅かな精液と共に穴の奥で迸る。
「我慢は体に毒よ・・・ふふ・・・」
俺の表情や胎内の肉棒から、俺が絶頂寸前であることを察し、彼女は射精を促すように粘膜を繰り返し蠢動させた。
膨れ上がった裏筋に、幾重もの襞が絡みつく。
浮かび上がった血管に、襞と襞の谷間が纏わりつく。
張り出したカリ首に、無数の突起がむしゃぶりつく。
パクパクと開閉を繰り返す鈴口に、柔らかないぼが押し当てられる。
肉棒を包み込む粘膜が、俺を絶頂に導くという目的の元、一度に蠢く。
そして俺の意識は、彼女の意志と肉穴の前に、あっという間に屈服してしまった。
「ぐぁぁぁぁ・・・!」
腹の奥底から、かすかな鈍痛と共に熱い塊が尿道を駆け上り、アヤさんの胎内へ迸っていく。
噴出した精液を受け止めると、一滴もこぼさぬよう肉穴はペニスごと穴を締め、いぼ状の突起の並んだ粘膜を蠕動させて奥へ奥へ導いていった。
「うぉ・・・おぉぉ・・・!」
竿をぎちぎちと締め上げられ、亀頭とカリ首を柔らかな突起で刺激される感触に、痛いほどの快感が生まれる。
だが快感とは裏腹に、裏筋を圧迫することで尿道が押し潰され、射精の勢いが衰えていく。
そして数度の脈動と共に漏れる精液を最後に、射精が止まった。
「・・・っはぁ、はぁ、はぁ・・・」
「これで二度目・・・そこそこ出たわね・・・」
白い手で、黄と黒の二色に包まれた腹を撫で回しながら、アヤさんは続けた。
「じゃあ、このまま後四、五回・・・頑張れるわよね・・・?」
「ま、待って・・・やす・・・ませ・・・」
「休ませて・・・?」
息も絶え絶えに漏らした俺の言葉に、彼女は小首をかしげる。
「ここはまだ硬いままなのに・・・?」
「あぐっ・・・!?」
彼女が蜘蛛腹を小さく揺らすと、鈍い快感が俺の意識を打った。
俺の肉棒は彼女の胎内で、俺の意志とは裏腹に屹立していた。
裏筋を圧迫されることで射精が阻害され、不完全な絶頂がくすぶっているからだ。
肉穴が収縮するたびに、ペニスが呼応するように脈動する。
「もっと出したい・・・って言っているようねえ・・・?」
俺の肉棒を弄びながら、彼女は淫靡に笑った。
確かに、俺の身体は彼女の言う通り、更なる快感と絶頂を求めている。
だが、俺の精神は強すぎる快感によって疲弊していた。
「どうする・・・?やめて欲しいのなら・・・止めてあげるけど・・・?」
囁きながら彼女は俺の首筋に顔を寄せると、新たに浮かんだ汗の雫に舌を這わせた。
柔らかな舌先の感触が、首筋を伝わって脳に届く。
「つづ・・・けて・・・」
頭で考える間もなく、俺の唇が勝手に言葉を紡ぎだしていた。
その瞬間俺は、俺の理性が快感によって溶かされていたのを自覚した。
「ふふ・・・分かったわ・・・残念だけど・・・」
彼女は顔を俺から離すと、唇を舐めながら続けた。
「とりあえず・・・このまま失神するまでしてあげる・・・!」
彼女の言葉にかすかな熱を感じた直後、ペニスが大きく振動を始めた。
いや違う。
肉棒を包み込む彼女の粘膜が、大きく蠕動しているのだ。
竿に絡みつく襞も、亀頭を包み込む突起も、小刻みでありながらも大きく波打つ粘膜にあわせて蠢動している。
まるで、彼女の粘膜越しに何十本もの指で揉み立てられているようだった。
「あぁっ・・・!あぁ・・・!」
くすぶっていた興奮が一気に燃え上がり、中途半端なところで引き摺り下ろされた意識が、再び絶頂へ上り詰める。
そして幾つも数えない間に、俺は再び彼女の胎内に精液を放っていた。
だが、彼女はペニスを締めたり、粘膜を蠕動させること無く、ただ内壁を蠢かせて俺を責めていた。
興奮が強引に引き伸ばされ、射精の勢いが増していく。
やがて迸る精液はペニスと襞を伝わって、彼女の穴から漏れ出していった。
「あぁ・・・勿体無い・・・」
彼女は漏れ出していた精液に気が付くと、ようやく粘膜の蠢動を止めた。
刺激が中断されてから数度精液を迸らせて、ようやく射精が止まる。
「零れないように蓋をするわね・・・」
直後、射精が止まって少しずつ萎えつつあった肉棒に、彼女の体奥から溢れ出した粘液が絡みついた。
「うぁ・・・!」
粘液の熱さと強い粘りに、一瞬精液が逆流してきたのかと錯覚する。
だがそれは、俺の放った精液の数十倍の量はあり、あっという間に彼女の胎内を満たすと、俺と彼女の結合部から溢れ出した。
そして、漏れ出した白い粘液が俺の下腹部と蜘蛛腹の先端を完全に包み込むと、彼女は粘液の分泌を止めた。
「これでいいわ・・・」
数度蜘蛛腹を揺すり、完全に俺の下半身と腹の先端が固定されているのを確認する。
「これで、あなたが射精するたびに精液を啜る必要がなくなったわ・・・」
顔を寄せ、頬を両手で挟みながら、彼女は続きを囁いた。
「射精してもずっと責めて・・・あなたが失神してから飲んであげる・・・」
彼女の胎内で、折り重なる肉襞が蠢いた。
俺のペニスと彼女の胎内粘膜は、先程分泌された粘液に塗れている。
そのため、蠢動する肉襞はさっきよりも淫猥にペニスに絡み付いてくるのだ。
襞が刷毛か筆のように、肉棒表面の粘液を塗り広げ刷り込んでくる。
その動きは、実際には彼女の蜘蛛腹と粘液によって遮られているというのに、ぐちゅぐちゅという音さえ聞こえてきそうなほどだった。
そして音の錯覚と同時に、快感が腰を蕩かしながら背筋を這い登ってくる。
「ぐ・・・う・・・!」
粘つきと温もりと柔らかさのもたらす快感が、肉棒を強引に勃起させていく。
一方亀頭の方でも、いぼ状突起の並んだ粘膜は責めを再開させていた。
亀頭は突起に包み込まれ、圧迫されていた。
彼女の鼓動によって粘膜が僅かに動き、突起の頭一つ一つが敏感な粘膜を刺激している。
カリ首の段差や、亀頭と裏筋の継ぎ目、鈴口までが満遍なく僅かに動く突起に包まれている。
その温もりと圧迫感は、俺に柔らかな快感を注いでいた。
だが、それはただの準備段階でしかなかった。
肉襞に遅れて、突起の並ぶ粘膜もまた蠕動を始める。
カリ首から亀頭の先端へ、ごく小さな締め付けの輪が登り、降りていく。
突起の感触と相まって、それはまるで柔らかなリング状のブラシで扱かれているかのようだった。
通常ならば快感より先に痛みを覚えるのだろうが、彼女の胎内はさっきの粘液に塗れている。
その滑りと粘つきは、突起による刺激から亀頭を守り、快感だけを与えるには十分だった。
「うぅ・・・あぁ・・・!」
にゅるにゅると亀頭を扱き上げられ、俺の全身が硬直していく。
「ほら、我慢せずに出しなさい・・・!」
アヤさんが言葉に微かな昂ぶりを滲ませながら、粘液による固定の許す範囲で蜘蛛腹をゆすった。
それはごく小さな揺れであったが、蠢動する胎内に不規則な密着間を生み出し、俺を絶頂に追いやるには十分すぎた。
「あぁぁぁ・・・!」
固定された手足を突っ張り、体を僅かに反り返らせながら俺は声を上げた。
蜘蛛腹の内側では、蠕動する粘膜に包まれたペニスが、精液を迸らせている。
度重なる射精により、俺は下腹に微かな鈍痛を覚えていたが、彼女は構うことなく刺激を加え、射精を促す。
それはまさに、俺の肉棒から精液を搾っているようだった。
「ふふ・・・ちょっと勢いが弱くなったわね・・・」
彼女の言葉と共に肉襞が竿を締め上げ、亀頭を扱く突起がその圧力を増す。
増大した刺激と快感が、ゆっくりと醒めつつあった俺の意識を、強引に絶頂へ押し上げる。
「ぐぉぉぉぉぉ!」
ペニスから注ぎ込まれる快感は、もはや苦痛に変わっていたが、俺の肉体は律儀に射精で応じた。
「ほらぁ・・・もっともっと・・・」
肉襞の蠢動が大きくなり、亀頭を扱く締め付けの輪がその数を増す。
快感と刺激が高まるたび肉体は力を振り絞って、最後の一滴といってもいいほどの勢いと量の精液を放っていく。
だが、彼女は精液を注がれるたびにペニスへの責めを強くし、最後の一滴を強引に引き伸ばしていくのだった。
「あぁぁぁ・・・あぁぁ・・・」
力を込めているはずの手足はいつの間にか脱力しており、指先にいたっては感覚も無い。
声を上げていたはずの口は、もはや声が漏れているといった程度になっている。
そして、俺の意識もまた、少しずつ溶け崩れつつあった。
「流石に限界かしら・・・?」
どこか遠いところから、アヤさんの声が聞こえる。
だが、その内容に理解が及ぶ前に、股間から這い登ってきた快感が意識を焦がす。
「ぐぁ・・・・・・ぁ・・・・・・」
「まあ、失神するまでって約束だったから・・・いいわよね・・・?」
無論返答することは出来ない。
彼女の胎内で嫐られるペニスだけが、今の俺の全てだからだ。
「それじゃあ、ゆっくり・・・」
幾重にも折り重なった肉襞と、規則正しく並んだいぼ状の突起が肉棒を一際強く締め上げる。
その刺激が俺から精液を搾り取ると、俺の意識は闇に沈んでいった。
「おやすみなさい・・・・・・」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
最初に感じたのは、右手の微かなくすぐったさだった。
薄く目を開くと、遥か上方に光を透かす緑色の天井があった。
起き上がろうという気が一瞬芽生えるが、全身のけだるさがそれを拒んだ。
「・・・・・・・・・」
「目が覚めたか」
無言で天井を見詰める俺の左耳を、ややかすれた低めの女声が打った。
初めて聞く声だ。
視線を左に向けると、若干困ったような表情を浮かべた女の顔があった。
髪の両脇からのぞく特徴的な形の耳と、頬の辺りに生えた鱗から察するに、リザードマンなのだろう。
「全く・・・お前が無茶するから今日の訓練が潰れたではないか」
「私と一緒の時に伝言を伝えたツバサちゃんも、少しは悪いじゃないのよぉ」
右手のくすぐったさが消え、アヤさんの若干困ったような声が響いた。
「確かにお前と一緒にいるときに言伝したツバサにも問題があるが・・・そもそも手に入れた情報を悪用するお前が悪い」
「会ったのはただの偶然よ・・・」
「言い訳はいいから続けろ」
「うー・・・」
アヤさんが小さくうめいた直後、再び右手にくすぐったさが戻る。
「さて・・・アルベルト・ラストスだな?」
リザードマンの女が、俺に視線を向けた。
「あ・・・あぁ・・・そうだ・・・」
けだるさを堪えてどうにか返答を返す。
「ところで、寝られたままだと話し難いのだが、起き上がれるか?
ああ、アヤの糸はほぼ解いてある」
彼女の言葉に左手を動かしてみると、確かに拘束は解けているようだった。
全身を支配する疲労感に逆らって、俺はゆっくりと身を起こした。
天井に向けられていた視線が下がり、見覚えのある家具の並びと、俺の下半身を覆う大きなタオルが目に入った。
どうやらここはアヤさんの家のままのようだ。
そして未だ動かず、くすぐったさを発し続ける右手に目を向けると、アヤさんが俺の右手を固定する糸の塊を舐めているところだった。
「うぅ・・・」
「アヤの事は今は無視していてくれ」
リザードマンの女の言葉に、俺は彼女に顔を向けた。
「私はセーナ・タリザルタ。三賢人からお前の訓練を、正式に請け負った者だ」
衣服に包まれたやや小ぶりな胸元に手を当てながら、彼女は名乗る。
「来るのが遅かったから道に迷ったのではないかと心配していたが・・・まさかアヤに騙されていたとはな」
「うぅ・・・」
「今日のところは、そいつの言う『不幸な事故』によって訓練が潰れたわけだ」
「うぅ・・・」
やれやれ、とばかりに顔を振るセーナと、うめくアヤ。
二人のやりとりがしばし続いた後、不意にセーナは俺に顔を向けた。
「それで・・・一応聞いておきたいのだが、お前は私の訓練を受ける覚悟はあるか?」
彼女は俺の眼を見据えたまま続ける。
「見たところお前には体力や筋力など足りないものが山ほどある。それなりに調整はするつもりだが、かなりきついぞ・・・。
それでも受けるか?」
微かに脅すような気配を滲ませながら、セーナは問いかける。
「や、止めておきなさい!きっと後でやめときゃよかった、って後悔するわよ!」
アヤさんが声を上げるが、セーナの一瞥に小さく悲鳴を上げると、再び糸を解く作業に戻っていった。
「それで・・・どうする?」
「・・・・・・・・・」
俺は口をつぐみ、黙考していた。
仮にここで断ったとしても、俺はエルンデルストで一村人として受け入れられ、一生を過ごす事が出来るかもしれない。
仮に村から追い出されたとしても、また隊商に加わって国を移動し、故郷の村に戻ることも出来る。
だが、俺の脳裏には一人の少女の姿が浮かんでいた。
俺と同じ年頃の、衣服も髪も、その肌さえも真っ白な少女。
そう、マティアータの姿だった。
あの三人によれば、マティアータはただの幽霊などではなく、生きている人間から魂だけが抜け出たものだという。
だとすれば、彼女の正体を探るのは容易く、なぜ俺についているのかという疑問はともかく、彼女と別れることも可能だ。
物心ついた頃からの謎の氷解と、本当の一人きりの時間。
そのために俺はここまで旅をしてきたのだった。
「覚悟は・・・ある・・・」
自分の意志を言葉に乗せ、俺は声を紡ぐ。
「だから・・・俺を鍛えて下さい・・・お願いします・・・」
「・・・・・・分かった」
俺の言葉に乗った意思を読み取ったのか、小さくセーナが頷いて見せた。
「終わったわよ・・・」
不意にアヤさんが声をあげ、右手の拘束が解けているのに気が付いた。
「出来る範囲でビシバシ鍛えていくつもりだ。宜しくな」
アヤさんを無視しながら、セーナは右手を俺に差し出してきた。
「あぁ・・・よろしく・・・」
俺はやっと開放された右手で彼女の握手に応じると、そう返した。
「さて・・・挨拶も済んだし、今日は村へ帰るといい」
握手を解くなり、セーナは俺に向けてそう告げた。
「え・・・帰るって・・・え?」
彼女の言葉と、山を登っていた時の苦労が頭に浮かぶが、なぜか上手く結びつかない。
「ん?分からんのか?今日の訓練はなし。だから帰る。簡単じゃないか」
「いや、あの山道を俺一人で歩いて帰れって言うのか!?」
当たり前のように解説する彼女に、俺は声を上げていた。
「そうだが」
「そうだが、じゃ無くて!見ろよ!俺は疲労困憊でろくに動けません!分かる?」
「・・・分かった。今日の訓練は『一人で村まで帰る』だ」
「だから、そういうのじゃなくて!今日はうちに泊めてやる、とか麓まで送ってやる、とか!」
どうしても俺を送り返したがるセーナに、俺は例を挙げてやる。
「私の家は雨漏りするし、湿気がすごいんだ」
「だったら、このまま私の家に・・・」
「お前は黙っていろ、アヤ」
眼を輝かせながら提案しようとしたアヤさんを遮ると、セーナはしばし黙考した。
「分かった、こうしよう。今日のところはアヤがアルベルトを麓まで運んでやる。これでどうだ?」
「まあ、それなら・・・」
「えー!?」
一応納得する俺の脇から、明らかに不満そうにアヤさんが声を上げた。
「どうした、不満か?」
「不満も何も、何で私が人一人麓まで運ばなきゃいけないのよ、セーナちゃん!?」
「麓から人を住処に連れ込むことは出来るのにか?」
「行きと帰りじゃやる気が違うのよ」
「私は別に三賢人に申し立ててもいいのだが」
「喜んで運ぶわ」
アヤさんの抵抗がへし折れ、同意を得る。
「じゃあアルベルト君・・・乗りなさい・・・」
くるりと俺に背を向け、期と黒の縞に彩られた蜘蛛腹を示しながら彼女は言う。
俺は彼女に従い、若干重い体を操って、どうにかその上に乗った。
「うぅ・・・重い・・・」
ぶつぶつと呟きながら、アヤさんは住処の入り口をくぐった。
「では、アルベルトよ、また明日来い」
遅れて木の穴をくぐって外に出ると、アヤさんの蜘蛛腹に乗った俺にセーナはそう別れを告げる。
「ビシバシ鍛えてやるからな」
いくらか楽しそうな彼女の言葉に、俺は早くも後悔を覚えつつあった。
10/01/20 19:02更新 / 十二屋月蝕