残され女王の復讐 〜これで勘弁してください〜
狭く、暗い空間に、俺は伏せていた。左右と上下の幅は俺の肩幅より少し広く前後に長い。閉所恐怖症の人間ならば息が詰まってしまうだろう。
俺はそんな中を、腕と膝を石造りの床面に突き、這いずるようにして進んでいた。
「息苦しいかもしれんが、我慢しておくれ」
前方から、いくらかくぐもった女の声が響く。
いつの間にか身体を支えながら這い進む両腕に落としていた視線を上げると、俺より少し先のところに包帯のような布できっちり巻かれた二本の脚と、それに続く尻が目に入った。
「あの犬コロのいいところは、ミイラの行動を時間で区切っているところじゃ。この時間帯は家具倉庫ががら空きになるんじゃが、そこまでの通路にミイラが来るんじゃよ。じゃからこうして通気孔を通るしかないんじゃよ」
「大丈夫だ、このぐらい慣れている」
通気孔を這い進むのに合わせて左右に揺れる、ハプトネシェプスの尻に向けて、俺はそう返した。
「苦労をかけてすまんのう。じゃが、家具倉庫に次のドラまでに着けば、作戦が実行できる。やり方は思い出せるな?」
「ああ」
俺は頭頂に突き刺さり、時折通気孔の天井に擦れる金属の器具を意識する。
砂に埋もれた遺跡の盗掘に来た俺に、この遺跡の本来の主であるハプトネシェプスが打ち込んだ魔術器具、王の冠だ。
これには、彼女の夫だった人物の記憶や知識が刻み込まれている上、ある程度のミイラに対する操作能力も備えている。
ハプトネシェプスはこれを使って、ミイラ操作器具である王の杖でこの遺跡を支配するアヌビスから、遺跡を取り戻そうという魂胆なのだ。
盗掘者の俺としては、うまく立ち回って漁夫の利を得るように仕向けるべきなのだろうが、俺には彼女に匿われた恩がある。それに、彼女の境遇を聞かされた以上、拒否することなどできそうになかった。
ああ、可愛そうなハプトネシェプス。
「止まれ」
不意に彼女の声が響き、揺れながら前進していた尻が止まった。
見ると、通気孔の出口に近いらしく、彼女の尻が通気口から差し込む光を受けて後光が差しているようになっていた。
「よし、やはり誰もいないな」
直後、がちゃんという金属音が響き、彼女の尻が光の中へ消えていった。
家具倉庫へ這い出て行ったのだ。
「大丈夫か?」
すぐに彼女は床に屈み、通気口から俺を覗き込んだ。
口元こそ包帯に覆われているが、そこに浮かんだ感情は読み取れる。
「大丈夫だ」
俺はそう応えると、彼女に続いて光の中へ這い出て行った。
――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・・・・ふぅ・・・」
私は集中を解くと、握っていた杖から手を離した。
私の支配下にある、遺跡のミイラたちに対する命令がひと段落着いた為だ。
これで、しばらくの間は私の命令がなくとも、ミイラたちは黙々と仕事をこなすだろう。自分の居室に戻れば、時計の歯車のように一分の狂いもなく広間を行き交う様が、窓から見下ろせるだろう。
だが、私にはそんな分かりきったことを確認する気はなかった。
杖を執務机に置き、軽く伸びをする。黒く柔らかに覆われた両腕が頭に当たり、肩回りの強張った筋が引き伸ばされる。
「んんー、ん・・・」
肺から絞り出された呼気が鼻へ抜け、低いうめきを響かせた。
「っはぁ・・・」
私は伸びを解くと、全身を脱力させた。
連日の執務で固まっていた筋肉が解れるのは心地よいが、いくらかの不満は残る。
やはり、疲労を取るには、専門のものに任せなければ。
「さて、行くか」
私は机の上に置いていた杖を手に取ると、椅子から立ち上がり、執務室を出た。
同時に、執務室の窓からドラの音が飛び込んだ。予定通りの時間だ。
そして、私はマミーの行き交う遺跡の通路を通り抜け、目的の一室にたどり着いた。
入り口に垂らした布を手で持ち上げてくぐると、大きな平たい籠と部屋の中央に置かれた石の台、そして台の上の壷が私を迎えた。
「お待ちしておりました」
布をかけられた台の傍らに並んで立つ三体のマミーが、一礼と共にそう告げる。
いずれも他の場所で労役に就いているのと同じごく普通のマミーだが、その両肘から先は包帯に覆われておらず、張りのある褐色の肌を晒していた。
「いつものように頼む」
「はい、かしこまりました」
「では着物をお預かりいたします」
マミーの二体が歩み出て、私の傍に立つと、彼女らは私の衣服に手をかけた。
私は彼女らに身を任せる。マミーの手が装身具を外し、衣服を脱がすのに合わせ、手を上げ脚を上げていくうちに、私は一糸纏わぬ姿になっていった。
「こちらへどうぞ」
二体のマミーが私の衣服を皺にならぬよう気をつけながら籠に収める中、台のそばに立っていたもう一体がそう告げた。
私は台に歩み寄ると、布を被せられたその上にうつぶせに横たわる。
「始めさせていただきます」
マミーがそう言い放つと、しばしの間をおいて彼女の手が私の背中に触れた。
その手は水よりも粘度の高いぬるりとした液体に覆われており、私の背中を良く滑った。台の上に置かれた壷の中の、マッサージ用の油である。
マッサージの効果を高め、皮膚に擦り込むことで疲労回復などの効能をもたらす、極上の油だ。
この油を用いてのマッサージこそ、私にとっての最高の癒しのひと時である。
「あ、あぁ〜〜〜」
首の付け根から肩甲骨に沿って、背中の方へと下がっていく圧迫感が心地よい。
固まった筋肉が徐々に解され、滞っていた血流が流れを取り戻していく。
やがてマミーの両掌は肩甲骨に沿って背中の縁にたどり着き、圧迫に微かな痛みが混ざり始めた。するとマミーはそれを察したかのように手を離し、再び首の付け根から圧迫を始めた。
今度は指先でだ。
点による圧迫が、筋をピンポイントに刺激する。
「あぁ、い、いた・・・いた、い・・・!」
こりこりと固まった筋を転がすマミーの指先に、私の口から痛いなどという単語が紡ぎだされる。
無論、ただ痛いわけではなく、そこにはマッサージのもたらす独特の快感、まさに『痛気持ちいい』としか表現しようのない独特の感触がもたらされていた。
「あ、ああああ、あっ・・・あー、い、痛・・・あー」
「・・・・・・」
痛気持よさに、口から苦鳴めいた声が漏れてしまう。だがマッサージ係のマミーも、私の感覚が分かっているのか、いくら痛いと漏らそうともマッサージを止めようとははしない。
むしろ、私の語調の変化に合わせ、圧迫を変えてくるぐらいだ。
弱すぎず痛すぎずの絶妙な力加減に、私はただ身を任せた。
「あ、あ、あー…あ…」
肩甲骨から指先が離れ、今度は首の付け根が圧迫される。
ぐっ、ぐっ、と軽く体重を乗せた指先が、次第に背中へ降りていく。
上半身を支える筋肉に日々蓄積されたコリを押し出すかのようだ。
マミーの指先は、時折背骨に弱いながらも鋭い痛みを与えながら徐々に下降し、腰にたどり着いた。
毎度のことながら、私のそこは想像以上に凝っているらしく、ほんの少しの圧迫でもそれとわかるほどのしこりが感じられた。
もちろん、マッサージによる刺激もかなり強いが、マミーは手を止めない。少々私が喚いたぐらいで止めていたら、マッサージにはならないからだ。
腰への圧迫を指先から掌に広げ、軽く体重を掛けるのを何度も繰り返す揉み方から、やや長く強めに力を加える揉み方に切り替わる。
点から面への圧迫の変化に、腰を苛む痛気持ちよさがやわらかいものになった。
「あー…あ、あ〜」
力を加えては緩め、場所を変えては力を加える。
この繰り返しに、私は全身を弛緩させてだらしのない声を漏らした。
「失礼します」
「失礼します」
私の衣服を納め終えたのか、二体のマミーがマッサージに加わる。
油を手に掬い取り、一体が脚に、もう一体が腕に手を添えた。
そしてそれぞれ、手足の付け根から末端へ、肉を、血を、疲労を搾り出すように擦り始める。
油のおかげで彼女らの手は滑らかに私の体表面を滑っていくが、指圧と圧迫は問題なく私の手足を刺激していた。
六本の油にぬれた掌が体を這い回り、疲労を取り去っていく。
背骨が、二の腕が、腰が、太ももが、肩甲骨が、脹脛が、前腕が、かすかな痛みを孕んだ心地よさに満たされていく。
ああ、気持ちいい。
いつしか私は、マミー達のマッサージに身を任せたまま、眠りについていた。
――――――――――――――――――――
「・・・眠った」
「そうか、ならば決行じゃ」
「細かいやり方は、連中に任せるのか?」
「うむ、その方がお前が一々命令するよりはよいだろう」
「確かに、な」
「それでは」
「始める」
――――――――――――――――――――
最初に感じたのは、身体の妙な火照りだった。
走り回った後のような、あの火照りだ。
だが、運動の後の疲労感などは一切なく、呼吸もどちらかといえば落ち着いたものだ。
風邪を引いたときの症状とも一部似ている気はするが、独特の倦怠感はない。
強引に似ているものを挙げるとすれば、昂ぶりを一人で慰めているとき、だろうか?
だが、心当たりはない。
そこまで考えたところで、私の肌をぬめる何かが這った。
「んっ」
真っ暗な中、背中や内腿や脇を這う何かの感触に、私は小さく息を漏らした。
何だ、これは?
胸中に疑問が沸き起こる中、私はようやく自分がマッサージ中に眠ってしまったことを思い出した。
朦朧とした意識を強引に掻き集めて覚醒させ、目を開く。
すると目に入ったのは、私の身体を寝入る前とはまったく別の動きでマッサージする、三体のマミーの姿だった。
「な、何を…んひっ…!」
脇から乳房の横をくすぐる様に撫でるマミーに向けての問いが、背筋を駆け上ったむず痒さにかき消された。
「マッサージでございます」
皮膚と肉越しに肋骨を指先でなぞりながら、マミーが答える。
「ご主人様はお疲れの様子」
「どうか我らにお任せください」
「任せろ、って…んぁ!」
続く二体の言葉に抗弁しようとするが、尻と内腿への愛撫がそれを阻んだ。
皮膚と油を隔てているというのに、マミーの指は私の神経を直に刺激したかのような、ゾクゾクとした感覚をもたらす。
「く、ぅ・・・ん・・・!」
意識を侵す快感を堪えながら、私はどうにかマミーたちの手から逃れようと、身をくねらせようとした。
だが、それもすぐに徒労に終わった。
「じっとしていてください」
マミーの一体が私の動きにそう言い渡すと、黒く長い毛の生え揃った尾の根元を指で摘んだ。
「ひぐぅ!?」
尻尾の付け根から背骨を刺激が駆け上る。
とっさに四肢を抑えるマミーを振り払おうとするが、マッサージによって力が萎えた私の手足ではそれは叶わなかった。
「台から落ちるため危険です。どうか動かないで下さい」
身動きすら取れなくなった私に彼女はそう告げると、そのままぐりぐりと尻尾の付け根を揉んだ。
一揉みごとに、強烈な感覚が尻から生じる。
「あぁ・・・!ふぎぃ・・・!ひ、い・・・!」
尻尾の付け根を摘み、捻り、揺する。親指と人差し指による、ごくごく弱い刺激にも拘らず、私はマミーの責めに、抵抗する力を奪われていった。
そして、数十分にも感じられる時間を挟んで、マミーの指が尻尾からはなれたころには、私はぐったりと台に身を任せていた。
「マッサージを再開します」
四肢を押さえていたマミーたちが、仲間の言葉に淫猥な手つきで再び手足を擦り始める。
私の身体表面に油を擦り込み、皮膚の下に走る神経を撫で回す。
六つの掌の動きは、まるで私の全身を蕩かすようであった。
「あぁ・・・あぅ・・・うぁ・・・」
もはや私の口から漏れるのは、意味のある言葉どころか喘ぎ声ですらなく、ただの喉を震わせる吐息だった。
だが、マミーたちはそんな私に対する責めを緩めるつもりはないようだった。
三つの手が、私の両脚の付け根へ、脇へ、うなじへ移動する。
「うぅ・・・う・・・ひぐっ!?」
喉を震わせていた吐息が、突然の股間への刺激に跳ね上がった。
油に塗れたマミーの手が、私の両脚の付け根に走る亀裂を撫でたのだ。
全身への愛撫と尻尾への刺激により、そこは薄く口を開いていた。
マミーは物欲しげに体液を垂れ流すそこに指を軽く当てると、指先の油と亀裂から滲み出る粘液を混ぜ合わせるように軽く回した。
ぐちゅ、と湿った音が私の耳に届く。
「やぁ・・・あぁ・・・」
マミーが指を動かすたびにそこは音を立てる。まるで己の興奮を指摘されたようで、羞恥が湧き起こった。
だが、ひと混ぜごとに快感が湧き起こり、羞恥に耐える余裕などない。
加えて、あばらの浮かんだ脇腹を擦る手と、うなじを撫でる手による刺激が次第に無視できないほど大きなものになりつつあった。
「ん・・・!ひ・・・ふ・・・!」
浮かぶあばらをなぞり、押し潰された乳房を擦る指。
うなじを左右に、あるいは上下にくすぐる指。
こそばゆく、なおかつほのかに甘い快感が、性器への責めとは異なる快感を全身へ広げていく。それは水を張った桶に垂らした血が、徐々に薄く広がっていくようであった。
「マッサージを効率的に行う為、姿勢を変えさせていただきます」
「よろしいですね」
不意に、マミーが私に向けてそう問いかけた。勿論応える余裕などあるはずもない。
「失礼します」
沈黙を肯定と受け取ったのか、彼女らは私の身体から手を離すと、腰や肩に指を添えて力を込め、うつ伏せから右を下にした横臥の姿勢に変えた。
圧迫されていた乳房が開放され、いくらか呼吸が楽になった気がする。
だが、それも束の間、私の身体に再び六つの手が触れた。
「マッサージを再開します」
宣告と共に、愛撫が再開される。
うなじを、背筋を、乳房を、脇腹を、そして女陰を丁寧に擦られる。
ゆるゆるとした快感が注ぎ込まれ、勢いが衰えつつあった興奮を煽り始める。
「ひ・・・い・・・や、ぁ・・・!」
自然と漏れ出した声に、マミーたちの責めが激しさを増していく。
あばらを、乳房を擦った指が、乳房を這って乳輪をくすぐる。
うなじを這いまわっていた指が、首の骨を挟むように添えられ、そのまま背骨をたどって行く。
膝の間に手を差し込み、軽く脚を持ち上げた上で、女陰の亀裂に沿って指を這わせて擦る。
責めが大きく、広く、強くなる。
そして彼女らの指が、私の乳首を、背筋を、亀裂の上端から除く淫核を刺激した瞬間、私の興奮が弾けた。
「はひぃああああ・・・!」
気の抜けたような嬌声と共に、私は絶頂に達した。
弛緩した全身が小さく痙攣し、両足の付け根からいくらかの体液が勢い良く噴き出る。
意識も身体もどろどろに蕩かされた上での絶頂に、私は全身を委ね、思いのままにそれを味わった。
焼けるような絶頂に多幸感が意識を支配し、思考が溶け崩れていく。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
一瞬の硬直の後、全身の筋肉が緩んだ。私は頭を蕩かす快感に浸りながら、荒い息を重ねていた。
「大分、解れてきましたね」
「あ、あぅ・・・」
女陰に指を埋め、ぐちゅぐちゅとかき回しながらのマミーの言葉に、私は呻き声で応えた。絶頂の余韻と、鈍い快感による倦怠感で、呼吸をするのも億劫だというのに。
「それでは、マッサージの仕上げを行いたいと思います」
マミーがその言葉と共に、自身の身体を覆う包帯を解き始めた。
砂埃の汚れで薄く色づいた包帯の下から、張りのある瑞々しい褐色の肌が露になる。
「ん・・・」
敏感な皮膚を保護する包帯を解いた為か、彼女らの顔が少しだけ赤らんだように見えた。
しかし彼女らは手の動きを緩めることなく、包帯を全て解くと、つぼから掬い取った油を全身に塗りたくり始めた。
「ん・・・」
「・・・ぁ・・・」
褐色の肌に油がまぶされ、光沢を帯びるのにあわせて彼女らの口から微かな喘ぎ声が漏れる。
そして頬の赤みがますます強くなり、彼女らの手が細かに震え出した。
「準備・・・出来、ました」
「お傍、失礼します・・・」
快感を堪えるように、言葉に間を挟みながら彼女らはそう紡ぐと、台の上に上がってきた。
そして、気だるさに身を任せる私の前後を挟むように、二体のマミーが身を寄せて横たわり、もう一体が私の足の傍に座った。
「な、なに・・・」
「マッサージの仕上げ、でございます・・・」
「どうか・・・ご堪能、下さい・・・」
問いに答えると同時に、私の前後に横たわるマミーが油に塗れた身体を私に押し付けた。
すべすべとした、柔らかで熱い肌が身体を挟み込み、彼女らの指先とはまた違った感触が注ぎ込まれる。
「ひ・・・!?」
「ん・・・んん・・・」
「ん・・・!」
マミーの肌の感触に声を上げる私に構うことなく、二体は低く声を漏らしながら身体を動かし始めた。
柔らかな皮膚が面で私の背中を、胸を擦り、撫で、くすぐる。加えて、二体の乳房の超点で屹立する乳首が、纏わりつくような二人のマッサージにアクセントを添えていた。
「んひ・・・!ひ、い・・・!」
肉が絡み、肌が纏わりつき、乳首が擦れ、油が濡れた音を立てる。
マミー達の身体が、肌が、熱が、私を責め立てていた。
「おみ足、失礼します・・・」
足下に座っていたマミーが、微かに震える声でそう告げた。
私に返答する余裕はなかったが、彼女は構うことなく私の足首に手を添え、持ち上げた。
マミーの手により、股が大きく開いていく。
「っ!や、あ・・・ん!」
とっさに声を上げて閉じようとするが、マッサージによる絶頂と、二体のマミーの擦り付けにより私の体に力は残っていなかった。
微かな抵抗をマミーの手に加えつつも、私の両足の付け根が露になる。
無毛のそこは普段ならばきつく閉じているはずだが、絶頂と快感によって薄く口を開き、桃色の肉を晒している。
自分でもあまり見る機会のない胎内を他人に、しかも自分の部下であるマミーに見られているという屈辱に、私は出来ることなら両手で顔を隠したかった。
だが、私の手は前後から身体を挟み込むマミーの両手に絡め取られており、肘の内側や二の腕を擦る彼女らの肌に苛まれていた。
私の足を持ち上げていたマミーが手を止めると、不意に台の上に残された足の太腿に、やわらかいものが触れるのを感じた。マミーが残された足に跨ったのだ。
「・・・ん・・・」
彼女は腰を私の太腿の上に下ろすと、小さく息を漏らした。太腿に柔らかな感触と共に、彼女の高い体温と濡れた感覚が加わる。
その湿りは油によるものか、興奮によるものか。どちらかは分からなかったが、直後胴でも良くなった。
マミーが私の太腿の上で、身体を前後に揺すり始めたのだ。
「んぁ!あぁ・・・!」
内腿を擦る、マミーの女陰のぬるぬるとした感触が内腿の肌を苛む。
油と女陰から滲みだした体液が混ざり合い、室内に響く水音を大きくする。
「ん・・・ん・・・」
「あ・・・ぅ、ん・・・」
「・・・っ・・・」
「ひぐっ・・・ぅ、うぅ・・・!」
マミー達の微かな喘ぎ声に、私の引きつるような嬌声が混ざる。
三人のもたらす快感は掌の比ではなく、既に絶頂寸前まで追いやられていた。
すると、私の喘ぎ声か身体に生じた僅かな力みを察知したのか、彼女らが止めとばかりに身体を動かす。
前のマミーが屹立した乳首を私のそれに擦りつけ、後ろのマミーの手が私の下腹部に回り、膨らんだ淫核を摘む。更に、持ち上げられた方の足をマミーが抱きすくめ、身体を擦り付けた。
三箇所からの大きな刺激の波に、私は容易く絶頂へと押し上げられた。
「っひぃいい・・・っ・・・!」
力が篭らず、緩く食いしばった歯の間から引き絞るような、悲鳴めいた嬌声が漏れた。
快感に力を奪われたはずの四肢が、頭の中に散る稲光のような快感に反応し、がくがくと痙攣を起こす。
すると震える身体が、マミー達の乳首を、女陰を擦り、彼女らに刺激を返した。
「!」
「っ!?」
「うぁ・・・!」
彼女らの敏感な箇所を擦った為か、マミー達の身体が強張って動きが止まり、一瞬声を漏らす。
私自身の意思が全く関わっていない、ほぼ偶発的な手の動きだったが、身体を覆う包帯を解き敏感な肌を晒す彼女らにとっては、十分な刺激だったようだ。マッサージという建前を忘れさせるには。
「・・・はぁ、はぁ・・・ひぅ!?」
彼女らの動きが止まったおかげで、早々に絶頂から降りることが出来た私の脳髄に、再び絡みつく油に塗れた肌の感触が注ぎ込まれる。
マミー達は私の身体に四肢を絡ませ、自身の肌の火照りを私に伝染そうとするかのように、猛然とぬめる肌を擦り付けていた。
「ひ・・・や、やめ・・・!もう・・・ぅ・・・!」
必死に懇願の声を紡ごうとするが、マミー達はもはやマッサージだという言い訳すらせず、黙々と身体を絡み付けてくる。
尖った乳首が、体液を奥から滴らせる女陰が、私の四肢や肌の上を這いまわり、彼女らの興奮を存分に伝染えようとする。
「ひぐ・・・ひぐぅ・・・!」
無様な、何かの動物の鳴き声のような喘ぎ声と共に、私は三度目の絶頂へと押し上げられた。
だが、彼女らは私の絶頂に構うことなく、黙々と身体を動かし続けた。
乳房と乳房が絡み合い、へそと腹が擦れあう。
背中と乳首が擦り合わされ、股間に伸びる指が私の陰核を摘む。
太腿の上を女陰が這いまわり、時折下腹がわたしの女陰と触れ合う。
時折地上を襲う砂嵐のように猛烈な彼女らの責めに、時折稲光のように強烈なものが加わる。
絶頂に押し上げられたままの私の精神は、マミー達のもたらす強い刺激の度に、より高い場所へ一瞬押し上げられた。
今が分からなくなり、ここが分からなくなり、自分が分からなくなる。まさに、忘我の極致とも言うべき境地であった。
「ひっ・・・ひっ・・・ひっ・・・」
連続絶頂により、私の両の目からは涙が溢れ出し、口を出入りする呼吸は全力で走り抜けているかのように激しく早くなっている。
心臓は早鐘のように打ち、耳の奥ではごうごうと血の流れる音がする。
全身が、限界を訴えている。
だが、マミー達の責めは間断なく加えられ、絶頂に押し上げられ随喜に打ち震える私の精神も、肉体の発する悲鳴から目を背けていた。
油が、汗が、愛液が、涎が、肌が、乳房が、腕が、足が、女陰が、乳首が、淫核が、絡み、擦れ、縺れ、纏わりつく。
私の意識がどろどろと溶け崩れ、肉体と共にマミー達のそれと混ざり合い、一つになっていく。
そして最後に、マミー達が一際強く身体を擦り付けた瞬間、私の意識が絶頂より上の高みへ押し上げられ、そのまま放り出された。
辺りが暗くなり、何も分からなくなった。
――――――――――――――――――――
「終わったようだ」
俺は目を開くと、床に座り込んだまま顔を上げた。
目に映るのは三方から見た、失神したアヌビスの姿などではなく、壁にもたれ掛かって俺に視線を向けるミイラの姿だった。
きっちりと巻かれた包帯に、頭に戴く金色の輪。ミイラの女王、ハプトネシェプスだ。
「今、ミイラの一体に王の杖を運ばせている」
「そうか、ご苦労だったな」
「礼を言うのならあの三人だ。俺は命令しただけだからな」
「ほう・・・」
口元を覆う包帯の下で、彼女が口の端を吊り上げた。
「どうした?」
「いやな、妾の夫も昔、良くそう言っていたのでな」
「・・・こいつのせいか」
俺は頭に突き刺さった王の冠を軽く撫でながら呟いた。
彼女の言葉によれば、王の冠には彼女の夫の知識や記憶が刻み込まれているという。
それが俺の思考にまで影響を及ぼしているのだろうか。
「なに、事が終われば取り去ってやる。それまでの辛抱だ」
彼女は笑みを浮かべながらそう言うが、俺は頭を振って応えた。
「いや、問題ない。このままでいい」
「何?」
俺の返答に、彼女は怪訝な表情を浮かべる。
「いや、この遺跡を治める上で、あんたもアヌビスも知らなかったことがあるようだ。遺跡の隠し部屋や、稼動してない施設の知識なんかが、俺の頭の中に幾つもある」
こつこつと、俺は頭に突き刺さった王の冠を突付きながら続けた。
「それに、俺の中のあんたの夫が言っているんだよ『妻を助けてくれ』って」
「・・・そうか」
ハプトネシェプスは、低くそう返すと顔を逸らした。
廊下の向こうから、半ば引き摺るような湿った足音が近づいてくる。
「ならば、妾の傍で見守っていてくれるのか・・・?」
「ああ、勿論だ」
彼女の問いに、俺はそう答えた。
同時に、部屋の出入り口に一体のミイラが姿を現した。
身体を覆う包帯はどこにもなく、油で濡れた身体もそのままの、ミイラだ。
「お待たせしました。杖を、お持ちしました」
彼女は微かにふらつきながら、ハプトネシェプスの下まで歩くと、跪きつつ手にしていた杖を差し出した。
ほんのついさっきまで、アヌビスが持っていた王の杖だ。
「・・・・・・」
ハプトネシェプスが無言で、俺に視線を向ける。
俺は微かに不安そうな気配を滲ませる彼女に向けて、口を開いた。
「『大丈夫。君のものだ』」
口から紡がれたのは、俺の言葉ではなかった。だが、彼女はその言葉に後押しされたらしく、表情を輝かせると、大きく頷いて見せた。
「当たり前だ。お前さんから、任されたのだからな」
彼女はそう俺に向けて、俺ではない誰かに宛ててそう返すと、差し出された杖を握った。
俺はそんな中を、腕と膝を石造りの床面に突き、這いずるようにして進んでいた。
「息苦しいかもしれんが、我慢しておくれ」
前方から、いくらかくぐもった女の声が響く。
いつの間にか身体を支えながら這い進む両腕に落としていた視線を上げると、俺より少し先のところに包帯のような布できっちり巻かれた二本の脚と、それに続く尻が目に入った。
「あの犬コロのいいところは、ミイラの行動を時間で区切っているところじゃ。この時間帯は家具倉庫ががら空きになるんじゃが、そこまでの通路にミイラが来るんじゃよ。じゃからこうして通気孔を通るしかないんじゃよ」
「大丈夫だ、このぐらい慣れている」
通気孔を這い進むのに合わせて左右に揺れる、ハプトネシェプスの尻に向けて、俺はそう返した。
「苦労をかけてすまんのう。じゃが、家具倉庫に次のドラまでに着けば、作戦が実行できる。やり方は思い出せるな?」
「ああ」
俺は頭頂に突き刺さり、時折通気孔の天井に擦れる金属の器具を意識する。
砂に埋もれた遺跡の盗掘に来た俺に、この遺跡の本来の主であるハプトネシェプスが打ち込んだ魔術器具、王の冠だ。
これには、彼女の夫だった人物の記憶や知識が刻み込まれている上、ある程度のミイラに対する操作能力も備えている。
ハプトネシェプスはこれを使って、ミイラ操作器具である王の杖でこの遺跡を支配するアヌビスから、遺跡を取り戻そうという魂胆なのだ。
盗掘者の俺としては、うまく立ち回って漁夫の利を得るように仕向けるべきなのだろうが、俺には彼女に匿われた恩がある。それに、彼女の境遇を聞かされた以上、拒否することなどできそうになかった。
ああ、可愛そうなハプトネシェプス。
「止まれ」
不意に彼女の声が響き、揺れながら前進していた尻が止まった。
見ると、通気孔の出口に近いらしく、彼女の尻が通気口から差し込む光を受けて後光が差しているようになっていた。
「よし、やはり誰もいないな」
直後、がちゃんという金属音が響き、彼女の尻が光の中へ消えていった。
家具倉庫へ這い出て行ったのだ。
「大丈夫か?」
すぐに彼女は床に屈み、通気口から俺を覗き込んだ。
口元こそ包帯に覆われているが、そこに浮かんだ感情は読み取れる。
「大丈夫だ」
俺はそう応えると、彼女に続いて光の中へ這い出て行った。
――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・・・・ふぅ・・・」
私は集中を解くと、握っていた杖から手を離した。
私の支配下にある、遺跡のミイラたちに対する命令がひと段落着いた為だ。
これで、しばらくの間は私の命令がなくとも、ミイラたちは黙々と仕事をこなすだろう。自分の居室に戻れば、時計の歯車のように一分の狂いもなく広間を行き交う様が、窓から見下ろせるだろう。
だが、私にはそんな分かりきったことを確認する気はなかった。
杖を執務机に置き、軽く伸びをする。黒く柔らかに覆われた両腕が頭に当たり、肩回りの強張った筋が引き伸ばされる。
「んんー、ん・・・」
肺から絞り出された呼気が鼻へ抜け、低いうめきを響かせた。
「っはぁ・・・」
私は伸びを解くと、全身を脱力させた。
連日の執務で固まっていた筋肉が解れるのは心地よいが、いくらかの不満は残る。
やはり、疲労を取るには、専門のものに任せなければ。
「さて、行くか」
私は机の上に置いていた杖を手に取ると、椅子から立ち上がり、執務室を出た。
同時に、執務室の窓からドラの音が飛び込んだ。予定通りの時間だ。
そして、私はマミーの行き交う遺跡の通路を通り抜け、目的の一室にたどり着いた。
入り口に垂らした布を手で持ち上げてくぐると、大きな平たい籠と部屋の中央に置かれた石の台、そして台の上の壷が私を迎えた。
「お待ちしておりました」
布をかけられた台の傍らに並んで立つ三体のマミーが、一礼と共にそう告げる。
いずれも他の場所で労役に就いているのと同じごく普通のマミーだが、その両肘から先は包帯に覆われておらず、張りのある褐色の肌を晒していた。
「いつものように頼む」
「はい、かしこまりました」
「では着物をお預かりいたします」
マミーの二体が歩み出て、私の傍に立つと、彼女らは私の衣服に手をかけた。
私は彼女らに身を任せる。マミーの手が装身具を外し、衣服を脱がすのに合わせ、手を上げ脚を上げていくうちに、私は一糸纏わぬ姿になっていった。
「こちらへどうぞ」
二体のマミーが私の衣服を皺にならぬよう気をつけながら籠に収める中、台のそばに立っていたもう一体がそう告げた。
私は台に歩み寄ると、布を被せられたその上にうつぶせに横たわる。
「始めさせていただきます」
マミーがそう言い放つと、しばしの間をおいて彼女の手が私の背中に触れた。
その手は水よりも粘度の高いぬるりとした液体に覆われており、私の背中を良く滑った。台の上に置かれた壷の中の、マッサージ用の油である。
マッサージの効果を高め、皮膚に擦り込むことで疲労回復などの効能をもたらす、極上の油だ。
この油を用いてのマッサージこそ、私にとっての最高の癒しのひと時である。
「あ、あぁ〜〜〜」
首の付け根から肩甲骨に沿って、背中の方へと下がっていく圧迫感が心地よい。
固まった筋肉が徐々に解され、滞っていた血流が流れを取り戻していく。
やがてマミーの両掌は肩甲骨に沿って背中の縁にたどり着き、圧迫に微かな痛みが混ざり始めた。するとマミーはそれを察したかのように手を離し、再び首の付け根から圧迫を始めた。
今度は指先でだ。
点による圧迫が、筋をピンポイントに刺激する。
「あぁ、い、いた・・・いた、い・・・!」
こりこりと固まった筋を転がすマミーの指先に、私の口から痛いなどという単語が紡ぎだされる。
無論、ただ痛いわけではなく、そこにはマッサージのもたらす独特の快感、まさに『痛気持ちいい』としか表現しようのない独特の感触がもたらされていた。
「あ、ああああ、あっ・・・あー、い、痛・・・あー」
「・・・・・・」
痛気持よさに、口から苦鳴めいた声が漏れてしまう。だがマッサージ係のマミーも、私の感覚が分かっているのか、いくら痛いと漏らそうともマッサージを止めようとははしない。
むしろ、私の語調の変化に合わせ、圧迫を変えてくるぐらいだ。
弱すぎず痛すぎずの絶妙な力加減に、私はただ身を任せた。
「あ、あ、あー…あ…」
肩甲骨から指先が離れ、今度は首の付け根が圧迫される。
ぐっ、ぐっ、と軽く体重を乗せた指先が、次第に背中へ降りていく。
上半身を支える筋肉に日々蓄積されたコリを押し出すかのようだ。
マミーの指先は、時折背骨に弱いながらも鋭い痛みを与えながら徐々に下降し、腰にたどり着いた。
毎度のことながら、私のそこは想像以上に凝っているらしく、ほんの少しの圧迫でもそれとわかるほどのしこりが感じられた。
もちろん、マッサージによる刺激もかなり強いが、マミーは手を止めない。少々私が喚いたぐらいで止めていたら、マッサージにはならないからだ。
腰への圧迫を指先から掌に広げ、軽く体重を掛けるのを何度も繰り返す揉み方から、やや長く強めに力を加える揉み方に切り替わる。
点から面への圧迫の変化に、腰を苛む痛気持ちよさがやわらかいものになった。
「あー…あ、あ〜」
力を加えては緩め、場所を変えては力を加える。
この繰り返しに、私は全身を弛緩させてだらしのない声を漏らした。
「失礼します」
「失礼します」
私の衣服を納め終えたのか、二体のマミーがマッサージに加わる。
油を手に掬い取り、一体が脚に、もう一体が腕に手を添えた。
そしてそれぞれ、手足の付け根から末端へ、肉を、血を、疲労を搾り出すように擦り始める。
油のおかげで彼女らの手は滑らかに私の体表面を滑っていくが、指圧と圧迫は問題なく私の手足を刺激していた。
六本の油にぬれた掌が体を這い回り、疲労を取り去っていく。
背骨が、二の腕が、腰が、太ももが、肩甲骨が、脹脛が、前腕が、かすかな痛みを孕んだ心地よさに満たされていく。
ああ、気持ちいい。
いつしか私は、マミー達のマッサージに身を任せたまま、眠りについていた。
――――――――――――――――――――
「・・・眠った」
「そうか、ならば決行じゃ」
「細かいやり方は、連中に任せるのか?」
「うむ、その方がお前が一々命令するよりはよいだろう」
「確かに、な」
「それでは」
「始める」
――――――――――――――――――――
最初に感じたのは、身体の妙な火照りだった。
走り回った後のような、あの火照りだ。
だが、運動の後の疲労感などは一切なく、呼吸もどちらかといえば落ち着いたものだ。
風邪を引いたときの症状とも一部似ている気はするが、独特の倦怠感はない。
強引に似ているものを挙げるとすれば、昂ぶりを一人で慰めているとき、だろうか?
だが、心当たりはない。
そこまで考えたところで、私の肌をぬめる何かが這った。
「んっ」
真っ暗な中、背中や内腿や脇を這う何かの感触に、私は小さく息を漏らした。
何だ、これは?
胸中に疑問が沸き起こる中、私はようやく自分がマッサージ中に眠ってしまったことを思い出した。
朦朧とした意識を強引に掻き集めて覚醒させ、目を開く。
すると目に入ったのは、私の身体を寝入る前とはまったく別の動きでマッサージする、三体のマミーの姿だった。
「な、何を…んひっ…!」
脇から乳房の横をくすぐる様に撫でるマミーに向けての問いが、背筋を駆け上ったむず痒さにかき消された。
「マッサージでございます」
皮膚と肉越しに肋骨を指先でなぞりながら、マミーが答える。
「ご主人様はお疲れの様子」
「どうか我らにお任せください」
「任せろ、って…んぁ!」
続く二体の言葉に抗弁しようとするが、尻と内腿への愛撫がそれを阻んだ。
皮膚と油を隔てているというのに、マミーの指は私の神経を直に刺激したかのような、ゾクゾクとした感覚をもたらす。
「く、ぅ・・・ん・・・!」
意識を侵す快感を堪えながら、私はどうにかマミーたちの手から逃れようと、身をくねらせようとした。
だが、それもすぐに徒労に終わった。
「じっとしていてください」
マミーの一体が私の動きにそう言い渡すと、黒く長い毛の生え揃った尾の根元を指で摘んだ。
「ひぐぅ!?」
尻尾の付け根から背骨を刺激が駆け上る。
とっさに四肢を抑えるマミーを振り払おうとするが、マッサージによって力が萎えた私の手足ではそれは叶わなかった。
「台から落ちるため危険です。どうか動かないで下さい」
身動きすら取れなくなった私に彼女はそう告げると、そのままぐりぐりと尻尾の付け根を揉んだ。
一揉みごとに、強烈な感覚が尻から生じる。
「あぁ・・・!ふぎぃ・・・!ひ、い・・・!」
尻尾の付け根を摘み、捻り、揺する。親指と人差し指による、ごくごく弱い刺激にも拘らず、私はマミーの責めに、抵抗する力を奪われていった。
そして、数十分にも感じられる時間を挟んで、マミーの指が尻尾からはなれたころには、私はぐったりと台に身を任せていた。
「マッサージを再開します」
四肢を押さえていたマミーたちが、仲間の言葉に淫猥な手つきで再び手足を擦り始める。
私の身体表面に油を擦り込み、皮膚の下に走る神経を撫で回す。
六つの掌の動きは、まるで私の全身を蕩かすようであった。
「あぁ・・・あぅ・・・うぁ・・・」
もはや私の口から漏れるのは、意味のある言葉どころか喘ぎ声ですらなく、ただの喉を震わせる吐息だった。
だが、マミーたちはそんな私に対する責めを緩めるつもりはないようだった。
三つの手が、私の両脚の付け根へ、脇へ、うなじへ移動する。
「うぅ・・・う・・・ひぐっ!?」
喉を震わせていた吐息が、突然の股間への刺激に跳ね上がった。
油に塗れたマミーの手が、私の両脚の付け根に走る亀裂を撫でたのだ。
全身への愛撫と尻尾への刺激により、そこは薄く口を開いていた。
マミーは物欲しげに体液を垂れ流すそこに指を軽く当てると、指先の油と亀裂から滲み出る粘液を混ぜ合わせるように軽く回した。
ぐちゅ、と湿った音が私の耳に届く。
「やぁ・・・あぁ・・・」
マミーが指を動かすたびにそこは音を立てる。まるで己の興奮を指摘されたようで、羞恥が湧き起こった。
だが、ひと混ぜごとに快感が湧き起こり、羞恥に耐える余裕などない。
加えて、あばらの浮かんだ脇腹を擦る手と、うなじを撫でる手による刺激が次第に無視できないほど大きなものになりつつあった。
「ん・・・!ひ・・・ふ・・・!」
浮かぶあばらをなぞり、押し潰された乳房を擦る指。
うなじを左右に、あるいは上下にくすぐる指。
こそばゆく、なおかつほのかに甘い快感が、性器への責めとは異なる快感を全身へ広げていく。それは水を張った桶に垂らした血が、徐々に薄く広がっていくようであった。
「マッサージを効率的に行う為、姿勢を変えさせていただきます」
「よろしいですね」
不意に、マミーが私に向けてそう問いかけた。勿論応える余裕などあるはずもない。
「失礼します」
沈黙を肯定と受け取ったのか、彼女らは私の身体から手を離すと、腰や肩に指を添えて力を込め、うつ伏せから右を下にした横臥の姿勢に変えた。
圧迫されていた乳房が開放され、いくらか呼吸が楽になった気がする。
だが、それも束の間、私の身体に再び六つの手が触れた。
「マッサージを再開します」
宣告と共に、愛撫が再開される。
うなじを、背筋を、乳房を、脇腹を、そして女陰を丁寧に擦られる。
ゆるゆるとした快感が注ぎ込まれ、勢いが衰えつつあった興奮を煽り始める。
「ひ・・・い・・・や、ぁ・・・!」
自然と漏れ出した声に、マミーたちの責めが激しさを増していく。
あばらを、乳房を擦った指が、乳房を這って乳輪をくすぐる。
うなじを這いまわっていた指が、首の骨を挟むように添えられ、そのまま背骨をたどって行く。
膝の間に手を差し込み、軽く脚を持ち上げた上で、女陰の亀裂に沿って指を這わせて擦る。
責めが大きく、広く、強くなる。
そして彼女らの指が、私の乳首を、背筋を、亀裂の上端から除く淫核を刺激した瞬間、私の興奮が弾けた。
「はひぃああああ・・・!」
気の抜けたような嬌声と共に、私は絶頂に達した。
弛緩した全身が小さく痙攣し、両足の付け根からいくらかの体液が勢い良く噴き出る。
意識も身体もどろどろに蕩かされた上での絶頂に、私は全身を委ね、思いのままにそれを味わった。
焼けるような絶頂に多幸感が意識を支配し、思考が溶け崩れていく。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
一瞬の硬直の後、全身の筋肉が緩んだ。私は頭を蕩かす快感に浸りながら、荒い息を重ねていた。
「大分、解れてきましたね」
「あ、あぅ・・・」
女陰に指を埋め、ぐちゅぐちゅとかき回しながらのマミーの言葉に、私は呻き声で応えた。絶頂の余韻と、鈍い快感による倦怠感で、呼吸をするのも億劫だというのに。
「それでは、マッサージの仕上げを行いたいと思います」
マミーがその言葉と共に、自身の身体を覆う包帯を解き始めた。
砂埃の汚れで薄く色づいた包帯の下から、張りのある瑞々しい褐色の肌が露になる。
「ん・・・」
敏感な皮膚を保護する包帯を解いた為か、彼女らの顔が少しだけ赤らんだように見えた。
しかし彼女らは手の動きを緩めることなく、包帯を全て解くと、つぼから掬い取った油を全身に塗りたくり始めた。
「ん・・・」
「・・・ぁ・・・」
褐色の肌に油がまぶされ、光沢を帯びるのにあわせて彼女らの口から微かな喘ぎ声が漏れる。
そして頬の赤みがますます強くなり、彼女らの手が細かに震え出した。
「準備・・・出来、ました」
「お傍、失礼します・・・」
快感を堪えるように、言葉に間を挟みながら彼女らはそう紡ぐと、台の上に上がってきた。
そして、気だるさに身を任せる私の前後を挟むように、二体のマミーが身を寄せて横たわり、もう一体が私の足の傍に座った。
「な、なに・・・」
「マッサージの仕上げ、でございます・・・」
「どうか・・・ご堪能、下さい・・・」
問いに答えると同時に、私の前後に横たわるマミーが油に塗れた身体を私に押し付けた。
すべすべとした、柔らかで熱い肌が身体を挟み込み、彼女らの指先とはまた違った感触が注ぎ込まれる。
「ひ・・・!?」
「ん・・・んん・・・」
「ん・・・!」
マミーの肌の感触に声を上げる私に構うことなく、二体は低く声を漏らしながら身体を動かし始めた。
柔らかな皮膚が面で私の背中を、胸を擦り、撫で、くすぐる。加えて、二体の乳房の超点で屹立する乳首が、纏わりつくような二人のマッサージにアクセントを添えていた。
「んひ・・・!ひ、い・・・!」
肉が絡み、肌が纏わりつき、乳首が擦れ、油が濡れた音を立てる。
マミー達の身体が、肌が、熱が、私を責め立てていた。
「おみ足、失礼します・・・」
足下に座っていたマミーが、微かに震える声でそう告げた。
私に返答する余裕はなかったが、彼女は構うことなく私の足首に手を添え、持ち上げた。
マミーの手により、股が大きく開いていく。
「っ!や、あ・・・ん!」
とっさに声を上げて閉じようとするが、マッサージによる絶頂と、二体のマミーの擦り付けにより私の体に力は残っていなかった。
微かな抵抗をマミーの手に加えつつも、私の両足の付け根が露になる。
無毛のそこは普段ならばきつく閉じているはずだが、絶頂と快感によって薄く口を開き、桃色の肉を晒している。
自分でもあまり見る機会のない胎内を他人に、しかも自分の部下であるマミーに見られているという屈辱に、私は出来ることなら両手で顔を隠したかった。
だが、私の手は前後から身体を挟み込むマミーの両手に絡め取られており、肘の内側や二の腕を擦る彼女らの肌に苛まれていた。
私の足を持ち上げていたマミーが手を止めると、不意に台の上に残された足の太腿に、やわらかいものが触れるのを感じた。マミーが残された足に跨ったのだ。
「・・・ん・・・」
彼女は腰を私の太腿の上に下ろすと、小さく息を漏らした。太腿に柔らかな感触と共に、彼女の高い体温と濡れた感覚が加わる。
その湿りは油によるものか、興奮によるものか。どちらかは分からなかったが、直後胴でも良くなった。
マミーが私の太腿の上で、身体を前後に揺すり始めたのだ。
「んぁ!あぁ・・・!」
内腿を擦る、マミーの女陰のぬるぬるとした感触が内腿の肌を苛む。
油と女陰から滲みだした体液が混ざり合い、室内に響く水音を大きくする。
「ん・・・ん・・・」
「あ・・・ぅ、ん・・・」
「・・・っ・・・」
「ひぐっ・・・ぅ、うぅ・・・!」
マミー達の微かな喘ぎ声に、私の引きつるような嬌声が混ざる。
三人のもたらす快感は掌の比ではなく、既に絶頂寸前まで追いやられていた。
すると、私の喘ぎ声か身体に生じた僅かな力みを察知したのか、彼女らが止めとばかりに身体を動かす。
前のマミーが屹立した乳首を私のそれに擦りつけ、後ろのマミーの手が私の下腹部に回り、膨らんだ淫核を摘む。更に、持ち上げられた方の足をマミーが抱きすくめ、身体を擦り付けた。
三箇所からの大きな刺激の波に、私は容易く絶頂へと押し上げられた。
「っひぃいい・・・っ・・・!」
力が篭らず、緩く食いしばった歯の間から引き絞るような、悲鳴めいた嬌声が漏れた。
快感に力を奪われたはずの四肢が、頭の中に散る稲光のような快感に反応し、がくがくと痙攣を起こす。
すると震える身体が、マミー達の乳首を、女陰を擦り、彼女らに刺激を返した。
「!」
「っ!?」
「うぁ・・・!」
彼女らの敏感な箇所を擦った為か、マミー達の身体が強張って動きが止まり、一瞬声を漏らす。
私自身の意思が全く関わっていない、ほぼ偶発的な手の動きだったが、身体を覆う包帯を解き敏感な肌を晒す彼女らにとっては、十分な刺激だったようだ。マッサージという建前を忘れさせるには。
「・・・はぁ、はぁ・・・ひぅ!?」
彼女らの動きが止まったおかげで、早々に絶頂から降りることが出来た私の脳髄に、再び絡みつく油に塗れた肌の感触が注ぎ込まれる。
マミー達は私の身体に四肢を絡ませ、自身の肌の火照りを私に伝染そうとするかのように、猛然とぬめる肌を擦り付けていた。
「ひ・・・や、やめ・・・!もう・・・ぅ・・・!」
必死に懇願の声を紡ごうとするが、マミー達はもはやマッサージだという言い訳すらせず、黙々と身体を絡み付けてくる。
尖った乳首が、体液を奥から滴らせる女陰が、私の四肢や肌の上を這いまわり、彼女らの興奮を存分に伝染えようとする。
「ひぐ・・・ひぐぅ・・・!」
無様な、何かの動物の鳴き声のような喘ぎ声と共に、私は三度目の絶頂へと押し上げられた。
だが、彼女らは私の絶頂に構うことなく、黙々と身体を動かし続けた。
乳房と乳房が絡み合い、へそと腹が擦れあう。
背中と乳首が擦り合わされ、股間に伸びる指が私の陰核を摘む。
太腿の上を女陰が這いまわり、時折下腹がわたしの女陰と触れ合う。
時折地上を襲う砂嵐のように猛烈な彼女らの責めに、時折稲光のように強烈なものが加わる。
絶頂に押し上げられたままの私の精神は、マミー達のもたらす強い刺激の度に、より高い場所へ一瞬押し上げられた。
今が分からなくなり、ここが分からなくなり、自分が分からなくなる。まさに、忘我の極致とも言うべき境地であった。
「ひっ・・・ひっ・・・ひっ・・・」
連続絶頂により、私の両の目からは涙が溢れ出し、口を出入りする呼吸は全力で走り抜けているかのように激しく早くなっている。
心臓は早鐘のように打ち、耳の奥ではごうごうと血の流れる音がする。
全身が、限界を訴えている。
だが、マミー達の責めは間断なく加えられ、絶頂に押し上げられ随喜に打ち震える私の精神も、肉体の発する悲鳴から目を背けていた。
油が、汗が、愛液が、涎が、肌が、乳房が、腕が、足が、女陰が、乳首が、淫核が、絡み、擦れ、縺れ、纏わりつく。
私の意識がどろどろと溶け崩れ、肉体と共にマミー達のそれと混ざり合い、一つになっていく。
そして最後に、マミー達が一際強く身体を擦り付けた瞬間、私の意識が絶頂より上の高みへ押し上げられ、そのまま放り出された。
辺りが暗くなり、何も分からなくなった。
――――――――――――――――――――
「終わったようだ」
俺は目を開くと、床に座り込んだまま顔を上げた。
目に映るのは三方から見た、失神したアヌビスの姿などではなく、壁にもたれ掛かって俺に視線を向けるミイラの姿だった。
きっちりと巻かれた包帯に、頭に戴く金色の輪。ミイラの女王、ハプトネシェプスだ。
「今、ミイラの一体に王の杖を運ばせている」
「そうか、ご苦労だったな」
「礼を言うのならあの三人だ。俺は命令しただけだからな」
「ほう・・・」
口元を覆う包帯の下で、彼女が口の端を吊り上げた。
「どうした?」
「いやな、妾の夫も昔、良くそう言っていたのでな」
「・・・こいつのせいか」
俺は頭に突き刺さった王の冠を軽く撫でながら呟いた。
彼女の言葉によれば、王の冠には彼女の夫の知識や記憶が刻み込まれているという。
それが俺の思考にまで影響を及ぼしているのだろうか。
「なに、事が終われば取り去ってやる。それまでの辛抱だ」
彼女は笑みを浮かべながらそう言うが、俺は頭を振って応えた。
「いや、問題ない。このままでいい」
「何?」
俺の返答に、彼女は怪訝な表情を浮かべる。
「いや、この遺跡を治める上で、あんたもアヌビスも知らなかったことがあるようだ。遺跡の隠し部屋や、稼動してない施設の知識なんかが、俺の頭の中に幾つもある」
こつこつと、俺は頭に突き刺さった王の冠を突付きながら続けた。
「それに、俺の中のあんたの夫が言っているんだよ『妻を助けてくれ』って」
「・・・そうか」
ハプトネシェプスは、低くそう返すと顔を逸らした。
廊下の向こうから、半ば引き摺るような湿った足音が近づいてくる。
「ならば、妾の傍で見守っていてくれるのか・・・?」
「ああ、勿論だ」
彼女の問いに、俺はそう答えた。
同時に、部屋の出入り口に一体のミイラが姿を現した。
身体を覆う包帯はどこにもなく、油で濡れた身体もそのままの、ミイラだ。
「お待たせしました。杖を、お持ちしました」
彼女は微かにふらつきながら、ハプトネシェプスの下まで歩くと、跪きつつ手にしていた杖を差し出した。
ほんのついさっきまで、アヌビスが持っていた王の杖だ。
「・・・・・・」
ハプトネシェプスが無言で、俺に視線を向ける。
俺は微かに不安そうな気配を滲ませる彼女に向けて、口を開いた。
「『大丈夫。君のものだ』」
口から紡がれたのは、俺の言葉ではなかった。だが、彼女はその言葉に後押しされたらしく、表情を輝かせると、大きく頷いて見せた。
「当たり前だ。お前さんから、任されたのだからな」
彼女はそう俺に向けて、俺ではない誰かに宛ててそう返すと、差し出された杖を握った。
10/11/06 20:53更新 / 十二屋月蝕