連載小説
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(128)マンティコア
 夜の森の中、開けた空き地に少年が一人立っていた。軽装鎧を身につけ、手には剣を握った少年だ。肩を上下させながら、あちこちに視線をさまよわせている。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 彼の目に映るのは、消えかけたたき火に倒れたテント、そして散らばった彼の荷物だった。
「はぁ、はぁ…」
 たき火のほかに明かりはなく、かろうじて見える木々の合間で影が揺れている。揺れる炎が影を動かし、そよぐ風が微かな音を奏でる。ただそれだけで少年には、自身の周りに何十もの気配が身を潜め、こちらの隙をうかがっているかのように感じられた。
 もちろん錯覚だ。実際に身を潜めているのは、一体にすぎない。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 ほんのつい先ほど、夕食をとって眠ろうかとしていたところで、何者かが彼を襲ったのだ。とっさにテントを飛び出すと、何者かは荷物をひっくり返してから木々の間に飛び込んでいった。そして彼はこうして、次の一撃に備えて身構えているのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 喉が渇く。手に汗がにじむ。全身が震える。
 逃げたい。帰りたい。そんな思いが彼を襲う。だが、少年の軽装鎧の胸部に掲げられた紋章は、それを許さないだろう。勇敢で有能な騎士に授与される一ツ星銀紋章。国が、王が、そして教団と主神が彼を認めたという証だ。たとえその紋章が、一定の訓練課程を修了した者全てに与えられるとしても、彼のうちから逃げ出すという選択肢は消えていた。
「こ、こい…!」
 一ツ星銀紋章を授与式の様子を思いだし、彼は心を奮い立たせた。
 すると、彼の奮起に応じるように、張り出した木々の枝の間から、影が一つ地面へと降り立った。
「っ…!?」
 たき火の揺れる光に照らされた『敵』の姿に、少年の心臓は口から飛び出しかねないほど大きく打った。
 木々を背にたつのは、どこか野生的な印象を与える、二十歳ほどの女だった。しかしその両手両足は、獅子や虎を思わせる猛獣の四肢を形作っており、彼女の腰からは蛇のようなモノが垂れ下がっていた。いや、蛇ではない。尻尾だ。先端に棘を生やした膨らみのある尻尾を、彼女は備えていた。
「ま、マンティコア…」
 目の前の女の特徴から、少年はその種族に思い至っていた。人面獣身の人喰い魔獣として恐れられる魔物だ。座学の一環で見せられた昔の図鑑では、紳士然とした穏やかな顔立ちの男のマンティコアが描かれていたが、口内にこれでもかとばかりに詰め込まれた牙は少年に恐怖を抱かせるに十分だった。だが、今相対しているマンティコアは、整った顔立ちの女のため、いくらか恐怖が紛れた。
「いけない…!」
 少年は剣を握りなおしながら自戒した。相手が美人の顔を備えていても、マンティコアであることに変わりはない。慢心が、致命的な過ちにつながると学んだではないか。少年は、小さく頭を振って、脳裏に芽生えていた微かな安堵感を追い払おうとした。
 そして、改めてマンティコアに目を向けると、彼女がすぐ目の前にたっていた。
「え…?」
 音もなく、剣の射程内に、それも手を伸ばす必要がないほどの距離に立っていたマンティコアの姿に、少年は声を漏らしていた。
 直後、彼の両手を衝撃がおそった。そしてしびれが遅れてやってきたところで、少年は近くの木の幹に金属が叩きつけられる音を聞いた。剣だ。握っていた剣が弾きとばされたのだ。
 普段使いのナイフを抜くか、無手で挑むか。少年が逡巡したところで、マンティコアが右足を持ち上げた。肉付きのよい太腿が掲げられ、腰のあたりを覆っていた毛皮の裾が持ち上がる。少年の目が、思わず太腿の曲線をなぞる間に、彼女は少年に向けて蹴りを放った。
 軽装鎧の胸部、一ツ星銀紋章にマンティコアの足裏が打ち込まれ、少年の背部へと衝撃が抜ける。蹴りの勢いは彼の体を地面から浮かし、抵抗する間もなく吹き飛ばした。そして、空き地の縁に生えていた樹木に、少年は背中から叩きつけられた。
「…っはぁ…!」
 少年は肺から息を絞り出しながら、樹木の根本に崩れ落ちた。
 立たねば。戦わねば。
 しかし少年はナイフを抜いて構えることはおろか、立つことすらできなかった。肘や膝がわずかに曲がり、伸び、地面を軽くひっかくばかりだ。
「うぅぅ…」
 少年がうめきながらなおももがいていると、その目の前に毛皮に包まれた獣の足が降り立った。マンティコアだ。
「うぁ…あぁ…!」
 逃れようとしていたのか、戦おうとしていたのかはわからないが、ただもがく少年のわき腹につま先を差し込むと、マンティコアはひょいと彼の体を裏返した。
「へへへ、なかなかかわいいガキじゃねえか」
 少年を見下ろしながら、マンティコアが口の端をつり上げた。
「オレの縄張りに入り込んだものだから、よっぽど自信があるのかと思ったら…ああ、お前村の連中がよこしたイケニエか?」
「ち、ちが…」
 少年はマンティコアの言葉に、否定しようとした。このあたりがマンティコアの縄張りであることを知らなかったということと、マンティコアのための生贄ではないということをこめてだ。
「じゃあ何だ?お前は」
「ぼ、ぼくは…」
 少年は答えようとして、逡巡した。このまま馬鹿正直に、教団の騎士であることを明らかにすれば、この魔物が嬉々として襲いかかってくるであろうことが目に見えていたからだ。一瞬の接近に、剣を弾いた尻尾、そして蹴りの威力の前に彼の闘志は萎えてしまっていた。
「ぼ、僕は…」
「ん?お前、騎士だな?」
 何とか誤魔化そうとしたところで、マンティコアは彼の身分を言い当てた。
「この鎧の印、オレの姉貴の旦那が同じの持ってたな」
「こ、これは…」
 少年はどうにか言い訳をしようとした。だが、即座にもっともらしい言葉が浮かぶはずもない。
「騎士ってのは鍛えられていて、旨いらしいからなぁ…」
 じゅるり、と音を立てながら、マンティコアが唇をなめ回した。
「あ、あ…!」
 食べられる。本能的な恐怖の前に、少年の中から騎士としての誇りも、胸の一ツ星銀紋章も消え去った。彼は仰向けに寝転がったまま、不格好に手足を振り回し、地面をひっかきながらマンティコアから距離を置こうとした。
「おいおい、じっとしなって…」
 カタツムリよりものろのろと動く少年に、マンティコアはニヤリと笑みを浮かべ、棘の生えそろった尻尾を軽く掲げた。
「うりゃ」
 軽い一声とともにマンティコアの尻尾が翻り、少年のズボンに一筋の切れ目を作った。すると、布地の切れ目からのぞく少年の肌に、一条の赤い筋が浮かび上がった。尻尾の棘で引っかかれたのだ。
「あ、あぁ…」
 少年はゆっくりと血を滲ませる傷口に声を漏らした。だが、足から這い上ってきたのは痛みではなく、痺れだった。
「あ、あれ…?」
 すぐに痺れは少年の全身に広がり、彼の四肢の動きを鈍らせた。やがて少年は、目の他には殆ど体を動かすことができなくなっていた。
「おー効いてきて効いてきた」
 マンティコアは動きを止めた少年に、満足げにうなづいて見せた。そして彼女は片足を掲げると、少年のズボンの腰のあたりにひょいと乗せた。体重が殆どかかっていないとは言え、女性に股間を踏まれるという状況に、少年は幾ばくかの恐怖と微かな屈辱を覚えた。だが、そんな心地も、マンティコアが軽く足を振るだけで吹き飛んだ。
 ズボンの股間をつま先で軽くこする。ただそれだけの動きだったが、いつの間にか湾曲した爪を露出させていたマンティコアの足は、少年のズボンはおろか、下着までを切り裂いていた。
「ひぃゃぁあ…」
 露出した下腹を撫でる夜気の冷たさに、少年は回らない舌で悲鳴を漏らした。
「へへへ、縮こまりやがって…」
 マンティコアは露出した少年の肉棒を目に、軽く笑うと、少年の両足の間に屈んだ。
「ほら、見えるか?」
 彼女の尻尾が、マンティコアの肩越しにのばされ、少年の目の前で止まる。膨れた尻尾の先端には、小さな窄まりがあった。
「この穴、何のためについてるか教わったか?」
 何だろう。少年はマンティコアの問いかけに、座学で教わった内容を思い出していた。だが、マンティコアの特徴をいくら思い出してみても、尻尾の先端の穴については思い出せなかった。
「こいつはな…お前をおいしくいただくための穴なんだよ」
 マンティコアの言葉とともに、尻尾の窄まりが広がった。肉の輪の中にあったのは桃色の軟らかそうな肉だった。
「ほら、この穴でお前をほんのちょっぴり味見してやるんだ」
「あ、ひゃ…」
 涎だろうか、穴の奥から溢れだした透明な粘液を滴らせながら、尻尾の内壁が波打った。
「さーて、味見してやろう…」
 そう言いながら、彼女は尻尾の先端をゆっくりと動かした。尻尾の穴は思いの外狭く、少年の頭や腕や足が入るとは思えない。せいぜい手ぐらいだろう。だというのに、彼女の尻尾は胸の上を通り過ぎ、下腹部を目指していた。そして、尻尾が動きを止め、滴りが少年の下腹に落ちたところで、彼は彼女のねらいに気がついた。
「うゃ…あぁ…!」
「へへへ、旨そうなちんぽだな」
 少年はマンティコアの言葉のおぞましさと裏腹に、胸の奥で妙な感覚が芽生えるのを感じていた。寂しいような、誰かに抱きつきたくなるような、胸に穴があいたような感覚だ。
「ほーら、よく見てろよ」
 尻尾の先端が大きく広がり、少年の肉棒に覆い被さった。瞬間、少年は指ほどの大きさに縮こまった泌尿器からの感覚に、全身を震わせた。温もり、ぬめり、柔らかさ。マンティコアの声音や外見とは真逆の、優しささえ感じさせる肉の抱擁が、少年の肉棒に加えられたからだ。
「…!」
 少年は唯一自由になる目を見開き、股間からの甘い刺激に胸中でおののいた。しかし、彼の胸の内とは裏腹に、肉体は微かに痙攣し、肉棒を屹立させていった。目に見えずとも、肉棒が膨張していく感覚に、少年は動揺していた。
「ん…やっぱり、な…」
 尻尾を軽く動かし、肉棒の感触を確かめながら、マンティコアが言葉を漏らす。
「どうだ?気持ちいいか?」
 彼女は尻尾をぐいぐいと少年の下腹に押しつけながら、そう問いかけた。屹立が尻尾の内側の奥に食い込み、入り口よりもいっそう柔らかな肉が、彼の未熟な亀頭を包み込む。
「…っ…!」
 少年はマンティコアの問いかけに答えることもできず、ただ喘いだ。全身の痺れのせいもあったが、それ以上に尻尾の内側の肉の感触が、彼の脳裏から言葉を奪っていたのだ。
 根本を窄まりがきゅうきゅうと締め付け、屹立の半ばまでを粘液をまとった滑らかな粘膜が緩く波打ちながらこする。そして先端部は、微かな凹凸を備えた袋状の粘膜によって包み込まれ、触れる程度の力でもまれていた。
「気持ちいいみたいだな」
 少年の心臓の鼓動と同じく、今にも破裂しそうなほどに膨張して脈打つ屹立の感触に、マンティコアは愉悦のこもった表情を浮かべた。
 一方少年は、今までにないほど脈打つ心臓と、屹立から上ってくる尿意にも似た感覚に戸惑っていた。体の一部をマンティコアに咥え込まれ、今にも喰われそうだというのに、尿意を覚えている。
 そのとき、少年の意識の一角に、かすかに一ツ星銀紋章が浮かんだ。一度は命惜しさに身分を偽ろうとしたが、どうあがいても少年は騎士なのだ。だから、マンティコアに喰われるかもしれないという恐怖があっても、子供のように漏らしたりしない。
 少年はそう心に誓い、奥歯を噛みしめた。ぎりり、と頭の内側で、歯と歯のこすれる音が響いた。
「なんだ?我慢してるのか?」
 少年の表情の変化に、マンティコアが気がついた。
「ははー、騎士だからって、片意地張ってるのか?え?」
「…」
 少年は答えなかった。マンティコアの言葉を意識から追いやり、ただただ股間を苛む尿意に似た感覚を無視しようとしていた。だが、肉棒を包み込む肉の柔らかさとくすぐったさは、少年の我慢を溶かしていくようだった。
「どうせ我慢しきれなくなるんだから、素直によがれよ。ほら、ほら」
 マンティコアが尻尾を右に左にと回転させ、内側の粘膜で屹立をこすった。やわやわと揉まれ、こすられる程度だった感触が不意に鋭くなり、少年は全身をこわばらせた。肉棒の半ばまで、何かが達している。
我慢、しなければ。
「あー、もしかしてこいつがじゃまなのか?」
 マンティコアは少年の必死の抵抗をよそに、軽く身を屈めて彼の胸元に手を伸ばした。そして、彼の胸を覆っていた軽装鎧に爪を引っかけると、縁に沿って軽く滑らせ、内側の留め紐を切り裂いた。
「へへへ、とれたとれた」
 カニの甲羅でもはがすように、少年の軽装鎧の胸当てを拾い上げながら、マンティコアは笑った。
「こんなモノをつけてるから、妙な我慢をしちまうんだ」
 彼女はそういいながら、胸当てに刻まれた一ツ星銀紋章を少年に向ける。
「これを、こうしてやれば…」
「や、や…!」
 マンティコアの意図を察した少年が、痺れる舌で言葉を紡ごうとした。しかし、意味をなす文を作り上げるよりも先に、マンティコアの手の中で胸当てが、一ツ星銀紋章が、真っ二つに割れた。
「…ぁ…!」
 少年の騎士としての心が、同時に割れた。そして彼の意識の虚を突いて、様々なモノが押し寄せてきた。恐怖、尿意に似た何か、諦念、頭の芯が痺れる感覚。そして、彼の肉体に根ざしていた欲求が、瞬間的に弾ける。
 少年が感じたのは、肉棒の脈動だった。マンティコアの尻尾に包まれた分身が、ふるえながら液体を迸らせているのだ。
 途切れ途切れの排尿感は、少年に開放感と違和感をもたらしていた。限界まで我慢した末の排尿にしては、勢いが変だからだ。
「んぅ…ん…!」
 少年の胸中の疑問をよそに、マンティコアは口を一文字に閉じ、震えながら迸る体液を尻尾で受け止めていた。頬に赤みが差し、目元はかすかに潤んでいるように見える。
 やがて、奇妙な排尿が終わり、少年の体に疲労感だけが取り残された。
「ふぁ…はぁ…はぁ…」
 痺れてはいるものの、どうにか自由になる吐息を重ね、心臓の鼓動を落ち着かせながら、少年は妙な疲労感と快感の残滓を味わっていた。
「へへへ…この味…お前、初めてだったんだな?」
「うぁ…!」
 マンティコアが尻尾を軽く動かしながらの言葉に、少年は上擦った喘ぎを漏らした。
 初めて?何が?
「初物の子種って、こんなにうめえんだなぁ…」
 少年の胸中の問いに答えるように、マンティコアは恍惚とした様子で呟いた。
「ほら、見えるか?」
 マンティコアは少年の腹の上ほどを跨ぐと、腰に巻き付けた獣の毛皮をめくって見せた。
「!」
 魔物とはいえ、女性の股間を見ることに対し少年の胸中に拒否感が芽生えるが、全身の痺れのために顔を背けることはできなかった。もっとも、自由になる目は彼女の両足の付け根に釘付けになっており、痺れなど言い訳にすぎないことに彼は気がついていない。
「ほーら、お前の子種でこんなになってんだ…」
 両足の付け根、下腹を微かに覆う縮れた体毛の下に、桃色の亀裂が刻まれていた。そこからは透明な滴が溢れだし、彼女の太腿へと伝っていた。
 少年が初めて見る異性の秘所に呆然としていると、マンティコアは片方の手を亀裂に伸ばし、軽く触れた。くちゅり、と濡れた亀裂に指が沈み、指先を覆う体毛が濡れる。そして彼女が軽く指をかき回すと、亀裂の間の桃色が広がり、奥まで見えるようだった。
「……」
 少年は呼吸をするのも忘れたかのように、マンティコアの行為を眺めていた。先ほど、尻尾の窄まりの内側を見せられたときは、単に肉を見た程度の意識しかなかった。だが、こうして両足の付け根の亀裂をみせられた今は、魔物とはいえ異性の体を見ているという意識が強まっていた。
 相手は魔物。相手はマンティコア。そのような意識など、彼女の整った面立ちや、毛皮に押さえ込まれた乳房、両足の付け根の前には紙切れほどの守りにならなかった。
「ほら、こうすればよく見えるだろ…?」
 マンティコアは両足を広げ、少年の上で中腰になった。大きく広げられた両足が腰の毛皮をまくりあげ、両手が自由になる。彼女は陰部に差し入れていた指を抜くと、毛皮に絡みつく自信の体液を艶めかしく舐めとってみせた。
 唇から顔を出す舌が、毛皮の上を這い回る様子に、少年の心臓が高鳴っていく。
「なぁ…」
 マンティコアは両手を太腿の根本付近に添えながら続けた。
「ここ、こんなになってんだ…」
 彼女がぐい、と手を左右に広げると、皮膚が引っ張られて股間の亀裂が開いた。奥まで詰まった桃色の肉と、溢れ出す体液が少年の腹に滴り落ちる。
「食べても…いいだろ…?」
 マンティコアの問いかけに、少年は即座に脳裏で返答した。食べてほしい。食べてもらいたい。
 未だマンティコアの尻尾に包まれたままの肉棒が、再び屹立していく。
「…ぅ…」
 少年は屹立する肉棒と、尻尾の内側の粘膜がこすれる刺激に、表情を歪めた。
「ん?イヤか?」
 彼の表情の変化を曲解して、マンティコアはそう問いかけた。
「イヤだったら、そう言ってみたらどうだ?ほら」
 彼女の言葉とともに、尻尾が持ち上げられる。粘膜がしばし少年の屹立をくすぐるが、すぐに肉棒は虚空へと放り出されてしまう。尻尾に飲まれる前は縮こまっていた肉棒が、二回り以上大きくなっているのが少年の目にはいるが、彼は自身の股間よりも離れていく尻尾の窄まりに目を向けていた。
「あぁ…」
 肉棒の先端との間に粘液の糸を張る尻尾に向け、少年はそう声を漏らしていた。そして、はたと気がついた。自身の舌の痺れが、いつの間にか引いていることに。
「お、口が利けるようになったな」
 少年の声に、麻痺毒が引いていることをマンティコアは悟った。
「それじゃあ、もうどうしてほしいか自分で言えるよな?」
 すると彼女はそう、意地悪そうな笑みを浮かべながら続けた。
「ほら、立派な騎士様はオレみたいな魔物に食われるのはイヤなんだろ?」
 そうだ。自分は教団の騎士だ。騎士が、魔物に打ち倒されることはあっても、自ら身を差し出すような真似をしてはいけない。
 股間への刺激が消え、いくらか冷静になった少年の脳裏に、そんな言葉が浮かぶ。
「こんな、ヨダレでぬちゃぬちゃになった魔物の『口』に食われたくなんかないんだよな?」
 マンティコアが太腿に当てた両手を、軽く広げては緩めを繰り返し、女陰をゆっくりと開閉させた。奥から滲む粘液が肉と絡み合い、濡れた音を立てる。
 折り重なる肉を目にした少年は、その質感をつい先ほどまで肉棒を包んでいた尻尾内粘膜から連想していた。そして、今となっては脳裏の内にのみ存在する、屹立を包み、擦り、揉み、舐め、しゃぶり、すする粘膜の感触は、少年に一つの衝動をもたらしていた。自身の分身を、そこに突き入れたいという衝動だ。だが相手は魔物であり、相手は異性である。軽々しく、そんなことを思い描いてはいけない。
「ほら…言ってみろよ…」
「た、べて…!」
 少年はマンティコアの問いかけに対し、何の躊躇いもなくそう応じていた。常識に基づく忌避感はもちろん、食べられるという本能的な恐怖さえもが、彼の内側から消滅していたからだ。
「はや、く…!」
「へへ、我慢できねぇみたいだな…」
 切迫した様子の少年の言葉に、マンティコアはどこかぎこちない笑みを浮かべた。
「ま、我慢できないってのは、オレも同じなんだけどな…」
 彼女はそう付け加えると、膝を折り曲げ、少年の屹立めがけて腰を落としていった。上体を倒し、太腿に添えていた手の片方を地面について、もう片方を肉棒にそっと添える。マンティコアの尾の粘液にまみれていた肉棒に、彼女の体毛が触れ、くすぐったさをもたらした。しかし、身体を震わせるような刺激に、少年は耐えた。
 それ以上の刺激が、肉棒のすぐ上まで迫っていたからだ。
「はい、るぞ…」
 姿勢のせいか興奮のせいか、マンティコアはそう言葉と身体を小さく揺らしながら、少年の屹立を女陰の入り口に触れさせた。亀裂の奥にのぞく粘膜と、包皮に半ば覆われた亀頭の粘膜が接した瞬間、少年は腰の奥から脳天まで痺れが走るのを感じた。
「ぃ…!?」
 生まれてこの方包皮に保護され続け、マンティコアの尻尾内粘膜によって刺激された敏感な亀頭。そこへのキスにも似た接触に、少年は思わず声を漏らし、身体を反らせていた。
 結果、少年の肉棒は、マンティコアの女陰に深く突き入れられることとなった。
「…あ…?」
 不意に膣内を突かれたマンティコアが、声を漏らす。直後、彼女の両目がぐるりと上を向き、地面に膝を突くと同時に上体を支えていた肘が折れ曲がる。
「わ…あ!?」
 不意に覆い被さってきたマンティコアの乳房に顔を覆われながら、少年が驚きの声を漏らそうとした。しかし、その言葉は半ばから快感の喘ぎとなっていた。屹立を包み込むマンティコアの膣粘膜が、波打ったからだ。
 緩く口を開いていた外見とは裏腹に、女陰の入り口は少年の肉棒の根本を締め上げていた。屹立の根本からカリ首までを膣道を横切るような横方向の襞が囲んでいる。そして亀頭は凹凸を備えた袋状のひときわ柔らかい粘膜によって包み込まれていた。
 膣粘膜が波打ち、折り重なる襞が竿を撫でる。冷静に考えてみれば、膣の各箇所が圧迫されては緩むを繰り返しているだけであったが、少年には屹立を奥へ奥へと誘うように襞が波打っているように感じられた。加えて、襞の蠢動にあわせて締まっては緩むを繰り返す膣口と相まって、屹立がしゃぶられているかのような錯覚をもたらしていた。
 肉棒を、自身の一部を食べられている。
 獣の毛皮越しにマンティコアの乳房で圧迫されながら、少年は彼女の言葉が真実であったことを痛感していた。
「ん…ぶ…!ん、ぅ…!」
 狼だろうか、短く、ちくちくとする毛に顔を覆われながらも、少年は鼻や口をマンティコアの乳房によって塞がれ、柔らかさとともに息苦しさを覚えていた。
 麻痺毒が十分に抜けていないのか、手足はあまり動かない。それでも身をよじることはできたが、マンティコアの乳房は少年の顔を柔らかに覆い、彼のわずかな抵抗を優しく受け止めていた。やがて、少年の意識がゆっくりと薄らぎ始めた。
 手足の感覚が、末端から消えていく。マンティコアの毒のせいもあってか、少年には手足が溶けてなくなっていくようだった。そして肘や膝までの感覚が消えたところで、今度は少年に覆い被さるマンティコアの重みが消えていった。やがて耳が遠くなり、目を瞑っているのか目が見えなくなっているのかがわからなくなってくる。何もかもが、少年自身の肉体の感覚さえもが消えていく。
 その中で、少年の屹立を包み込む温もりと柔らかさだけが、取り残されていた。虚空に取り残されていく少年の意識が、甘い快感に飛びつくのは当たり前のことだった。分身にもたらされる粘膜の愛撫は、肉体の大部分の感覚を失った少年にとっては、全身を抱擁されるようだった。
 やがて、意識さえもが溶け崩れてしまった少年は、自身も知らぬ内に絶頂に達していた。
 屹立が脈打ち、体奥から白濁を搾り出す。少年の興奮が宿った精液は、マンティコアの体内においてもなお熱かった。
「…ぉ…」
 すると、不意にマンティコアが声を漏らした。彼女は微かに身じろぎすると、うめきながらゆっくりと身体を浮かした。
「な、なんで…オ、れぇぇ…!?」
 自らの不意の失神に自問しようとしたところで、マンティコアの声が裏返った。下腹部から背骨へと、快感が走り抜けていったからだ。それもそのはず、マンティコアの体内に収まった肉棒が、彼女の身じろぎによる膣壁の蠢きに反応して脈打ったからだ。
「こ、こんな、ぁぁ…!」
 背筋を這い回るゾクゾクするような震えに、彼女は舌も回らなくなっていた。マンティコアは尾で咥えた肉棒にあわせて、自身の女陰を変化させる。だが、これほどしっくりくるとは思ってもいなかった。
「お、いぃぃ…おきろぉ…!」
 彼女は歯を食いしばり、寄せては返す快感の波をこらえながら、組みしいた少年を揺すった。すると、いつの間にか気を失っていた少年が、小さく呻いた。
「ん…うぅ…ん…う、うぅぁぁぁ…?」
 寝起きの呻きに上擦ったものが混ざり、いつしか色を帯びる。屹立からの快感が、目覚めたての少年にそそぎ込まれたからだ。
「ほらぁ…わかっ、るかぁ?おまえ、くわれてる…ん…!」
 少年が快感に表情をゆがませる様に、マンティコアは嗜虐心を満たすべく言葉を紡ごうとした。しかし、膣内で脈打って粘膜を押し広げる屹立の感触は、ついに彼女の言葉を完全に断ち切った。
「ぃ…い…!も、もう…すっげ…!」
 感想にもなりきっていない感嘆を漏らしつつ、彼女は身を起こした。少年にまたがる姿勢をとり、少しでも優位に立つためだ。しかし彼女の行いにより、少年の屹立はいっそう深く胎内に食い込むこととなった。
「…はぁ…!」
 腹の底から搾り出すように、マンティコアは声を漏らした。目で見て、尾で感じた少年の分身の大きさと異なり、まるで腹の中が屹立でいっぱいになったような気分である。事実、そうだった。少年の肉棒にあわせて適度な大きさに膣道がせばまっていたからだ。
「ん…ふ、ぅ…!」
 快感をこらえ、どうにか尻を浮かし、もう一度おろそうとする。だが、包皮に包まれたカリ首や、微かに反った屹立が胎内を擦る感触は、彼女の動きをぎこちないものにした。
 マンティコアが自ら窮地に立つ一方、少年も限界を迎えつつあった。尻尾と膣内での二度の射精を迎えて敏感になった屹立に、粘膜が猛然と絡みついてくるからだ。射精したおかげで、絶頂への道のりは遠い。だがそれでも、マンティコアの膣壁は少年の分身を包み、絡み付き、しゃぶっていた。
「ぁぁああ…!んっ、いぃぃ…!」
 下半身を蕩かされる錯覚を覚えながら、少年は喘ぎを漏らしつつ身体を震わせた。不規則な痙攣は、マンティコアの膣奥を肉棒でつつく結果となり、マンティコアの身体をぐらぐら揺らすこととなった。
「んっ…あぁ…!いぃ…!ぃ…!」
 何度目だろうか、腰の奥から脳天へ痺れが駆け抜けるのを味わう内、マンティコアは不意に胸の奥に穴があいたような感覚を覚えた。寂しい、という感情が形を持って胸に突き刺さっているかのようだ。何かにしがみつきたい。何かに抱かれたい。何かを抱きたい。
 マンティコアの胸の奥で衝動が膨れ上がる内に、彼女は目の前にそのはけ口を見いだした。
「こい…!」
 マンティコアは再び少年に覆い被さると、地面と背中の間に手を差し入れ、ぎゅっと抱きしめた。一方少年は、押し当てられるマンティコアの全身の肌の温もりと柔らかさに、屹立にそそぎ込まれているのとは別の心地よさを覚えた。
 性器と精神、二つが満たされていく感覚に、マンティコアと少年の意識が緩む。
「…!」
 どちらからともなく吐息が漏れ、同時に二人は絶頂に達した。精液がほとばしり、膣肉が屹立を締め付ける。白濁の熱にマンティコアの胎内が痙攣しているのか、膣壁の蠢きが少年の肉棒を脈打たせているのか、もはや両者に区別は付いていなかった。
 ただただ、少年が放つ絶頂の証を、マンティコアが女陰から啜り上げているだけだった。
「…っ…!」
「…!…!」
 目をぎゅっと瞑り、互いに腕と足で抱きしめあいながら、二人は温もりはおろか、心臓の鼓動さえ共にしていた。
 そして、肉棒の脈動が弱まり、射精が止んで、屹立がいくらか萎えてもなお、二人は繋がりあったままであった。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 マンティコアと少年の入り混ざった吐息が紡がれる。
 マンティコアの性質に従い、膣内が肉棒にて適した形になっただけ。とはいえ、二人は互いに相手のこと以外見えなくなっていた。
「……」
 いくらか呼吸が落ち着いてきたところで、二人の視線がふと絡み合った。
 騎士と魔物。
 補食者と獲物。
 雄と雌。
 いくつもの関係を二人は重ねてきたが、まだもう一つだけあることに二人は同時に気がついた。
「なぁ…」
「…うん」
 短い言葉を交わすだけで、二人の気持ちは通じた。
 そして、マンティコアと少年はどちらからともなく顔を寄せると、そっと唇を重ねた。
 微かな心地よさと安らぎをもたらすそれは、二人が雄と雌から、夫と妻になった証だった。
14/04/07 22:38更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
 手足を縛り付けた少年の前に、マンティコアは立った。おびえる少年とは対照的に、彼女の表情には嗜虐的な笑みが浮かんでいる。
「は、なーにビビってんだ?命乞いして助かったのに、まだ怖いのか?」
「だ、だって…」
 相手は魔物。言葉で交わした約束が成立するとは、彼にはにわかには信じがたかったのだ。
「だったら、お前なりの降伏の証をみせてもらおうか」
 マンティコアは尻尾を掲げると、その先端の窄まりを少年の眼前に寄せた。
「尻尾にキスしな」
「う…」
 少年は呻いた。靴を舐めろ、ケツに接吻しろ、など相手の恭順を試す言葉はあるが、こうくるとは思わなかったからだ。
「何なら今から火をおこして、フライにしてやってもいいんだぞ?」
「し、します…!」
 少年はあわてた様子で答えると、呼吸を落ち着かせて尻尾に顔を寄せた。
「…」
 唇を堅く引き締め、尻の穴を連想させるような窄まりにちょんと触れさせる。
「お?へへへ、結構柔らかいな」
 少年の唇の感触に、マンティコアは満足そうに言った。
 これで大丈夫。
 少年が胸をなで下ろした直後、彼の顔に尻尾の先端が押し当てられる。
「っ!?」
「ほれほれ、もっとしっかりキスしろ」
 少年の顔の凹凸を感じながら、マンティコアはぐりぐりと彼の顔面に尻尾を押し当てた。少年は鼻と口をふさがれた驚きに、必死に顔をはなそうとしていた。だが、マンティコアはその動きを先読みし、尻尾で追いかけつつ圧迫した。少年の鼻や唇が、尻尾の先端の窄まりに押し当てられ、締まった括約筋を押し広げる。
「んぶ…!ん、ぅ…!」
 少年が声を漏らすと、尻尾の先端が徐々にゆるみ、濡れた内側を擦りつけ始めた。マンティコアの興奮の高まりに、尻尾が受け入れる準備を始めたのだ。だが、彼女は湿り気を帯びてきた尻尾の先端を、彼の顔により強く押し当てるばかりだった。
 窄まりが広がって粘膜が露出し、少年の顔面を擦っていく。軟らかな肉のもたらす心地よさは、マンティコアをいっそう駆り立てるものだった。
 彼女の目に愉悦が宿り、頬に赤みが差す。そして呼吸が徐々に乱れ、少年の顔を擦る尻尾の動きも徐々に強くなっていった。
 いつしか窄まりは大きく広がり、少年の顔を覆うほどになっていた。
 少年の顔の起伏が尻尾内側の粘膜を擦るのが心地よい。窄まりが大きく広がっているのも、極太の剛直を突き入れられているようだ。
 彼女は夢中になり、少年の顔で辞意を続けていた。
 やがて、マンティコアはぎゅっと目を瞑ると、身体をびくんと震わせた。
「…っ…!」
 数度の痙攣を経て、彼女は絶頂の快感を味わった。
 そして、ゆっくりと呼吸を落ち着けると、顔を完全に尻尾で覆われた少年に問いかけた。
「ふふふ…情熱的なキスだったな…」
 だが、少年はマンティコアの言葉に返答をしなかった。
「おい、聞いてるのか?これでお前はオレの…っ!?」
 マンティコアが途中まで問いかけたところで、彼女はようやく異常に気が付いた。
「こ、こいつ…死んでる…」

一ツ星銀紋章の少年 死亡
しかし彼の顔をご覧なさい。とても穏やかで安らかでしょう。
あなたはこんな顔で死ねますか?

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