(124)サンドウォーム
迂闊だった。ケチって駱駝を値切ったのが、そもそもの間違いだった。俺は焼けるように熱い岩に身を寄せ、手持ちの着替えや袋を使って作った簡易日除けに身を隠しながらうめいていた。
ここは…砂漠だ。砂漠としか言いようがない。右も左も砂と岩ばかりで、空は抜けるように青い。幸い、現在位置と最寄りの水場までの道のりはわかっているが、駱駝を失ってしまった今、そんな情報は露ほどの役にも立たなかった。いや、この場所なら唇を湿らせられる露の方が、よっぽど貴重だ。
「くそ…」
俺は日除けの中でうめきながら、体と砂の間に隠した巻き紙の感触を確かめた。この砂漠をわたった向こうにある町の、とある男に届けるのが俺の仕事だった。封印はされていないが、広げたところで所々書き間違いのある、頭の足りない奴が書いた手紙のようなものだ。暗号には間違いないが、読めない俺にはどれほど重要なものかはわからなかった。
「まあ、俺一人にあんなはした金で任せるんだ…そんなもんだろう…」
喉の渇きが強まるのもかまわず、俺はそう呟いた。おそらく、この任務は失敗だろう。それでも、自分の命を守るためにも、近くの水場を目指す必要はある。通りがかった商人か旅人が拾ってくれるかもしれないからだ。
そのためには、まずは夜を待たなければ。太陽がかんかんに照りつける昼間の移動は出来ない。眠って待つ、ことは無理だとしても、目蓋を下ろして体力の消耗を防がなければ。
「…ん…？」
ふと、俺は背中に触れる砂越しに、振動を感じた。何かが砂の上を移動するのが伝わったのだ。遠くの駱駝の足音などではない。もっと無数の何かが、近くを通ろうとしている。
「隊商か…！？」
無数の馬や駱駝で大量の物資を抱え、物量作戦で砂漠の踏破を行う商人たち。彼らがこのそばを通っているのだろうか。だとすれば、拾ってもらえるかもしれない。俺は手製の日除けの中から這い出ると、砂の上に立って、辺りを見回した。
「…お！おーい！おーい！」
陽炎に揺らぐ砂の彼方に、俺は何かの影を見るなり、着替えのシャツの一枚を振り回しながら声を上げた。陽炎や蜃気楼のせいで距離や方角が違っているかもしれないが、それでもあの振動はすぐそばのものだった。きっと、隊商はすぐそばにいる。
「おーい！ここだー！おーい！」
俺がシャツを振り回していると、何かは俺に気がついたようにこちらに向きを変えた。
そして次の瞬間、揺らめく陽炎を突き破るように、何かは一瞬のうちに距離を詰め、俺に向かって飛びかかってきた。
俺が見たのは、甲殻に覆われた長い身体と、暗い暗い洞窟のような口だった。
全身が生温かい。暑いわけでも、温いわけでもなく、心地よい温かさだった。
「うぅ…」
俺は薄闇の中で目を開いた。だが、なにも見えない。全身を妙にぬるぬるする温かな何かが包み込んでいるほかは、なにもわからなかった。
「おい…おーい！」
声を上げてみるが、俺の声は妙に籠もって響くばかりで、返答はなかった。
「どこだよ、ここ…」
鼻をつままれてもわからないほどの暗闇の中で、俺は呟いた。炙るような日の光から逃れられたのはありがたいが、どこにいるのかわからないのでは、状況は悪化したとしか言いようがない。
すると不意に、俺を光が照らした。
「う…！」
見えなかったとはいえ、完全に闇に慣れていた俺の目が眩むが、どうにか照らし出されたものを目に納めようとした。
だが、そんなことは無意味だった。目にはいるのは赤い肉だったからだ。鮮やかな血の色をした赤い肉がひしめき合っていた。ちょうど俺の腕の長さほどの筒状の空間に、俺一人が寝転がっている格好だ。そしてびくびくと脈打つ肉の壁面の所々に、光を放つ部分があった。
「なんだよこれ…」
手を伸ばし、肉の壁面にふれると、にちゃりと粘液が指に絡み付いた。夢、それも悪夢を見ているようだが、その余りに現実的な感覚は夢ではないことを示していた。
「出口は…」
俺は首をひねり、頭の方を見上げたが、そこにあったのは窄まって閉じる肉の穴だった。あそこを広げれば、少なくともここから出ていけそうだ。
そう考え、肉の穴ににじり寄ろうとしたところで、その窄まりが不意に緩んだ。
「な…」
俺の考えを読みとったかのような動きに驚いていると、肉の窄まりから淡い桃色の何かが姿を現した。粘液にまみれたそれは、窄まりをくぐり抜けるうち、淡い桃色の頭髪につつまれた頭だとわかった。糸を引きながら肉の穴から顔が露わになる。肉の壁面から放たれる光に照らされたその顔は、日に当たったことがないかと思えるほど白い肌の、整った顔立ちの女のものだった。
「お、おい！あんた、大丈夫か！？」
目を閉ざしたままの彼女に呼びかけると、その目蓋が緩やかにあがった。眠たげに半ば姿を隠した瞳は金色で、切れ長の鼻筋や白い肌と相まって、ぞっとするような美貌を形作っていた。
「おい、返事してくれ！」
彼女は俺の言葉に応えぬまま、肉の穴からひり出されていく。窄まりが大きく広がり、彼女の細い肩を通し、やがてその細面とは不釣り合いなほど豊満な乳房が露わになった。
「なあ、大丈夫か！？返事してくれ！」
白い肌の頂の、桜色の先端から視線を引きはがし、俺は彼女に呼びかけた。すると彼女は、視線だけを俺に向け、にぃ、と唇の端をつり上げて見せた。
蛙を前にした蛇が笑ったらこんな顔だろうか。
そんな考えが俺の脳裏を一瞬通り過ぎる。
そうするうちに、女の顔は俺のすぐそば、つまりは俺の隣にまで至った。肉の穴に頭を向ける俺と、窄まりからひり出された彼女は、ちょうど上下が逆であったが、彼女の視線から目を離すことはできなかった。
「うふふ…げんき…」
どこかたどたどしい口調で彼女はそう紡ぐと、俺に唇を寄せた。
「なにを…！」
不意の接近に逃れようとするが、ぬるぬるの肉の筒の中ではろくに身動きもできず、俺は彼女と唇を重ねることとなった。肉穴を通り過ぎたままの、粘液にまみれた彼女の唇は、甘く感じられた。
「ん…ちゅ…」
女が俺の口をなめ回し、粘液を乾いた唇に擦り込んでいく。乾ききっていた俺の体は、彼女がもたらす粘ついた水気に打ち震え、思わず舌先で唇をぬらす粘液を舐めてしまっていた。粘液は、俺の口内で溶け広がり、乾きをごくわずかであったが潤した。ほんの一滴ほどの粘液だが、それでも俺の体が渇ききっていることを自覚させるには十分だった。
「ん…ちゅ…うぅ…」
改めて自覚した渇きを癒すため、俺は女の唇を貪るように吸った。唇を啜り、口の周りを舐め、そして舌先が頬に至ろうと言うところで、女の手が俺の頬に添えられた。
「うふふ…もっと」
女は俺の唇に自身のそれを密着させた。女の舌先が俺の唇を押し開き、口内へと入り込む。そして彼女の口内から液体、おそらくは唾液が溢れだした。唇を密着させているため、液体は俺の口に難なく流れ込んでくる。だが、不潔感や嫌悪感はなかった。液体は水のようにさらさらとしており、彼女の唇や舌の温もりとは裏腹にひんやりとしていたからだ。
俺は、注ぎ込まれるがままに液体を飲んだ。
「…っ…っ…っ…！」
口内に注がれる液体を、間を置きながら飲み込んでいく。女の口から溢れる液体は、後から後から湧いているかのようだった。目の前に見える女の白い喉は、まるで飲み物でも飲むときのように上下に動いていた。そしてその艶めかしい喉の動きを見ながら、渇きを癒すうちに、女の口からあふれていた液体が止まった。
「ん…！」
これで終わりだ。
俺は直感的にそう悟ると、彼女の舌に自身のそれを絡め、わずかに残る液体を舐めとった。そして女の顔が離れる瞬間まで唇を吸い、ほんの少しの液体を舐めとっていく。
「うふ…」
女は顔を離すと、俺を見下ろしながら眠たげな目つきのままで笑った。
「おいしかった…？」
「あ、ああ…」
女の問いに、俺はそう答えた。
「もっと、のみたい？」
続いた彼女の問いかけに、俺は頷いた。今し方飲んだモノは、俺が今まで飲んだ水や酒、それこそ昔砂漠で水を失いながらもオアシスにたどり着いて飲んだ湧き水よりも、遥かに美味かったのだ。
もう一度、あれを味わいたい。俺は、美女との口づけ以上に、あの滴を求めていた。
「じゃあ、こんどはこっち…」
女は笑みを浮かべると、ずるずると俺の上に覆い被さるように這い出てきた。周囲の肉壁からにじむ粘液塗れの肩が通り過ぎ、俺の顔のすぐ上に彼女の乳房がくる。目の前に垂れ下がるたわわに実った果実は、彼女の心臓の鼓動やかすかな身じろぎに合わせて、わずかに揺れていた。
「おぉ…」
白い肌と、乳房の大きさにふさわしい桃色の円、そして円の中央に鎮座する小指の先ほどの突起が、俺の吐息の温もりが感じられそうなほどすぐそばにあった。すると、桜色の乳頭の先端に、白い滴が滲み始めた。彼女の乳だ。
飲みたい。滲む滴に衝動が芽生えた瞬間、女は浮かしていた上体を下げた。俺の唇の間に乳房の頂が入り、口に収まりきれなかった乳肉が、顔の下半分を押しつぶすように乗せられた。
「…！」
口をふさがれたものの、俺は声を上げようとした。だが、くぐもった呻きを紡ぐはずだったのどの奥に向けて、甘い液体がそそぎ込まれた。
口内の乳頭から、母乳がほとばしったのだ。
「うふ…うふふ…」
女は笑みを漏らしながら、ぐりぐりと俺の顔に乳房を押しつけた。柔らかな乳肉に加えられる圧力が、その内側に蓄えられた母乳を俺の口内へと迸らせていく。
「…んっ…ぐ…ぅ…！」
俺は舌と喉を必死に操り、あふれ出す甘い体液を胃袋へと送り込んでいった。すると、母乳を嚥下する口の動きにより、唇が彼女の乳輪を擦り、舌先が乳頭をくすぐった。
「ぁん…」
俺の目の前には、俺の顔面で押しつぶされた乳房の下半分が描く曲線しか見えない。だがそれでも、脳裏に甘い表情を浮かべる彼女を浮かべられるほど、蕩けた声が女の口から溢れた。
「んっぐ…」
俺は口中の母乳を飲み干すと、唇に力を込め、彼女の乳頭を吸った。母乳の勢いが強くなり、口蓋や舌、時には喉奥にまで白い液体が叩きつけられる。俺は、溢れる母乳を一滴も無駄にせぬよう、ただただ飲み続けた。いくらか癒えたとはいえ、まだ体は渇いている。口内にそそぎ込まれる母乳は、俺の胃袋に流れ込むなり血管に染み込み、全身へと流れ広がってくようだった。体の隅々がじんわりと熱を帯び、俺が半ば死んでいたのだと気づかせられる。
飲んでも飲んでも飲み足りない。もっと吸わねば。俺は衝動の命ずるがままに母乳を吸おうとするが、ふと彼女の乳房からの白い迸りがその勢いを弱めた。
「ん…こっち…」
女が体を浮かし、乳房を俺の口から外す。俺は思わず頭を持ち上げ、乳房の先端を追おうとした。だが追跡はかなわず、俺の頭は肉筒の壁面に押し当てられることとなった。彼女のもう一方の乳房が、口元に乗せられたからだ。
「んぅ…！」
ただ乗せているだけで迸る母乳に、俺は夢中になって貪りついた。彼女の母乳はいくら飲んでも腹にたまらず、むしろ体の渇きが強まるような思いがした。しかしそんな意識とは裏腹に、俺の全身には着実に力が戻り、徐々に体内に残っていた砂漠の熱が俺自身の体温へと変わっていくようだった。
「ん…ぐ…ん…！」
そして、どれほど乳を吸い続けていただろうか。ついに、もう片方の乳房も、俺の口元から浮いて離れた。
「あぁ…」
かなり渇きが癒えたとはいえ、まだ飲み足りない。俺は端から聞けばかなり情けない声を上げてしまっていた。
「ふふ、おっぱいは…おしまい…」
頭を少しだけ上げてみると、揺れる乳房の向こうで、女が首を曲げて俺の方を見ていた。上下逆になったとはいえ、彼女のほほえみはある感情をかき立てられるようなものだった。
すると彼女は、再びずるずると男の体の上を這い進んだ。乳房が男の顔の上から、胸元を過ぎて腹の上に至る。一方男の視界を、女の引き締まった腹や形のよい臍が流れていく。そして放漫な腰回りに至ったところで、男は気がついた。彼女の腰から下が、周囲を包む肉色の壁と同じような、粘膜に包み込まれていることに。彼女の両足の代わりとなっている肉は、そのまま彼女が出てきた肉の窄まりへと繋がっている。そうだ、考えてみれば当たり前だ。男は何かに頭から飲み込まれたのだ。そして、彼女は、男の頭の方から出てきた。だとすればこの女は、男を飲み込んだ何かの一部分なのだろう。
そんな魔物の話を、男は昔聞いたような気がしたが、もはやどうでもよかった。
「うふ…ん…」
男の股間に至った女が、笑みをこぼしながら彼のズボンを開く。女から口移しに飲ませてもらった体液と、彼が無心になって吸った母乳。その二つの効果もあって、彼の分身は痛いほどに屹立していた。
「あは…」
女はうれしげに声を漏らすと、屹立に指を添え、その先端を口に含んだ。柔らかな唇が膨れ上がった亀頭を包み込み、濡れた唾液の感触が股間に加わる。
「うぅ…」
男は、腰のあたりから上ってくる快感に呻いた。彼女が魔物であろうとなかろうと、こうして与えてくれる快感に変わりはない。その事実に重い至ったとき、彼は胸の奥底に湧いた情欲に対して素直になることにした。
そして、その決心の現れとして、男は目の前にあった女の下腹に顔を寄せた。
「ん…！」
男の亀頭を口に含んだまま、女が低く声を漏らした。女の白い肌と肉色の粘膜の境界に刻まれた亀裂に、男が唇を重ねたからだ。肌と粘膜の境界をまたぐような亀裂と男の口は、ちょうど十文字を描くように重ねられる。男は亀裂を唇で押し広げると、軟らかな肉の押し込められたその内側に舌を潜り込ませた。
柔らかな粘膜が織りなす襞を舌先でなぞり、奥から溢れる粘液を舐めとる。
「ん…ぅ…」
女は男の舌技に小さく声を漏らしながら、屹立に舌を絡めた。唇をすぼめ、肉棒を吸いながら、敏感な亀頭を舐め、カリ首の張り出した部分をくすぐる。互いの奉仕は、少なくとも男の情欲を煽り、腹の奥で興奮を煮えたぎらせた。
男は興奮の命ずるままに、女の亀裂に口を押し当て、舌で深くをかき回した。
女は時折体をふるわせながらも、屹立を指で擦り、亀頭を吸い、やがて肉棒の根本までを口内に納めた。
肉棒と口、舌と亀裂の織りなす水音が、肉の洞窟に淫らに響く。
そして、どれほどそうしていただろうか、ついに男が低いうめき声とともに全身を震わせた。
「……！」
女の下腹に口を押し当てていたため、声はだいぶ押し殺されていたものの、男は確かに呻きとともに精を放っていた。屹立から迸る白濁は、女の喉奥へと直接注ぎ込まれる。彼女は肉棒を吸い、粘つく男の体液を嚥下していった。
「ん…ん…ぷはぁ…」
男の精の迸りをすべて喉で受け止めると、彼女は口内から屹立を解放した。
「ふふ…こんなにたくさん…」
女は体を浮かし、たわわな乳房の下ほどを軽く擦りながら微笑んだ。
「もっと、もっと…ね…？」
ねだるような女の言葉に、男は腹の奥底が震えるような感覚を覚えた。そう、ここにいれば命の危険もなく、彼女と交わり続けられるのだ
もはや彼の脳裏から砂漠や仕事のことはおろか、肉の洞窟の外のことは消えてしまっていた。
ここは…砂漠だ。砂漠としか言いようがない。右も左も砂と岩ばかりで、空は抜けるように青い。幸い、現在位置と最寄りの水場までの道のりはわかっているが、駱駝を失ってしまった今、そんな情報は露ほどの役にも立たなかった。いや、この場所なら唇を湿らせられる露の方が、よっぽど貴重だ。
「くそ…」
俺は日除けの中でうめきながら、体と砂の間に隠した巻き紙の感触を確かめた。この砂漠をわたった向こうにある町の、とある男に届けるのが俺の仕事だった。封印はされていないが、広げたところで所々書き間違いのある、頭の足りない奴が書いた手紙のようなものだ。暗号には間違いないが、読めない俺にはどれほど重要なものかはわからなかった。
「まあ、俺一人にあんなはした金で任せるんだ…そんなもんだろう…」
喉の渇きが強まるのもかまわず、俺はそう呟いた。おそらく、この任務は失敗だろう。それでも、自分の命を守るためにも、近くの水場を目指す必要はある。通りがかった商人か旅人が拾ってくれるかもしれないからだ。
そのためには、まずは夜を待たなければ。太陽がかんかんに照りつける昼間の移動は出来ない。眠って待つ、ことは無理だとしても、目蓋を下ろして体力の消耗を防がなければ。
「…ん…？」
ふと、俺は背中に触れる砂越しに、振動を感じた。何かが砂の上を移動するのが伝わったのだ。遠くの駱駝の足音などではない。もっと無数の何かが、近くを通ろうとしている。
「隊商か…！？」
無数の馬や駱駝で大量の物資を抱え、物量作戦で砂漠の踏破を行う商人たち。彼らがこのそばを通っているのだろうか。だとすれば、拾ってもらえるかもしれない。俺は手製の日除けの中から這い出ると、砂の上に立って、辺りを見回した。
「…お！おーい！おーい！」
陽炎に揺らぐ砂の彼方に、俺は何かの影を見るなり、着替えのシャツの一枚を振り回しながら声を上げた。陽炎や蜃気楼のせいで距離や方角が違っているかもしれないが、それでもあの振動はすぐそばのものだった。きっと、隊商はすぐそばにいる。
「おーい！ここだー！おーい！」
俺がシャツを振り回していると、何かは俺に気がついたようにこちらに向きを変えた。
そして次の瞬間、揺らめく陽炎を突き破るように、何かは一瞬のうちに距離を詰め、俺に向かって飛びかかってきた。
俺が見たのは、甲殻に覆われた長い身体と、暗い暗い洞窟のような口だった。
全身が生温かい。暑いわけでも、温いわけでもなく、心地よい温かさだった。
「うぅ…」
俺は薄闇の中で目を開いた。だが、なにも見えない。全身を妙にぬるぬるする温かな何かが包み込んでいるほかは、なにもわからなかった。
「おい…おーい！」
声を上げてみるが、俺の声は妙に籠もって響くばかりで、返答はなかった。
「どこだよ、ここ…」
鼻をつままれてもわからないほどの暗闇の中で、俺は呟いた。炙るような日の光から逃れられたのはありがたいが、どこにいるのかわからないのでは、状況は悪化したとしか言いようがない。
すると不意に、俺を光が照らした。
「う…！」
見えなかったとはいえ、完全に闇に慣れていた俺の目が眩むが、どうにか照らし出されたものを目に納めようとした。
だが、そんなことは無意味だった。目にはいるのは赤い肉だったからだ。鮮やかな血の色をした赤い肉がひしめき合っていた。ちょうど俺の腕の長さほどの筒状の空間に、俺一人が寝転がっている格好だ。そしてびくびくと脈打つ肉の壁面の所々に、光を放つ部分があった。
「なんだよこれ…」
手を伸ばし、肉の壁面にふれると、にちゃりと粘液が指に絡み付いた。夢、それも悪夢を見ているようだが、その余りに現実的な感覚は夢ではないことを示していた。
「出口は…」
俺は首をひねり、頭の方を見上げたが、そこにあったのは窄まって閉じる肉の穴だった。あそこを広げれば、少なくともここから出ていけそうだ。
そう考え、肉の穴ににじり寄ろうとしたところで、その窄まりが不意に緩んだ。
「な…」
俺の考えを読みとったかのような動きに驚いていると、肉の窄まりから淡い桃色の何かが姿を現した。粘液にまみれたそれは、窄まりをくぐり抜けるうち、淡い桃色の頭髪につつまれた頭だとわかった。糸を引きながら肉の穴から顔が露わになる。肉の壁面から放たれる光に照らされたその顔は、日に当たったことがないかと思えるほど白い肌の、整った顔立ちの女のものだった。
「お、おい！あんた、大丈夫か！？」
目を閉ざしたままの彼女に呼びかけると、その目蓋が緩やかにあがった。眠たげに半ば姿を隠した瞳は金色で、切れ長の鼻筋や白い肌と相まって、ぞっとするような美貌を形作っていた。
「おい、返事してくれ！」
彼女は俺の言葉に応えぬまま、肉の穴からひり出されていく。窄まりが大きく広がり、彼女の細い肩を通し、やがてその細面とは不釣り合いなほど豊満な乳房が露わになった。
「なあ、大丈夫か！？返事してくれ！」
白い肌の頂の、桜色の先端から視線を引きはがし、俺は彼女に呼びかけた。すると彼女は、視線だけを俺に向け、にぃ、と唇の端をつり上げて見せた。
蛙を前にした蛇が笑ったらこんな顔だろうか。
そんな考えが俺の脳裏を一瞬通り過ぎる。
そうするうちに、女の顔は俺のすぐそば、つまりは俺の隣にまで至った。肉の穴に頭を向ける俺と、窄まりからひり出された彼女は、ちょうど上下が逆であったが、彼女の視線から目を離すことはできなかった。
「うふふ…げんき…」
どこかたどたどしい口調で彼女はそう紡ぐと、俺に唇を寄せた。
「なにを…！」
不意の接近に逃れようとするが、ぬるぬるの肉の筒の中ではろくに身動きもできず、俺は彼女と唇を重ねることとなった。肉穴を通り過ぎたままの、粘液にまみれた彼女の唇は、甘く感じられた。
「ん…ちゅ…」
女が俺の口をなめ回し、粘液を乾いた唇に擦り込んでいく。乾ききっていた俺の体は、彼女がもたらす粘ついた水気に打ち震え、思わず舌先で唇をぬらす粘液を舐めてしまっていた。粘液は、俺の口内で溶け広がり、乾きをごくわずかであったが潤した。ほんの一滴ほどの粘液だが、それでも俺の体が渇ききっていることを自覚させるには十分だった。
「ん…ちゅ…うぅ…」
改めて自覚した渇きを癒すため、俺は女の唇を貪るように吸った。唇を啜り、口の周りを舐め、そして舌先が頬に至ろうと言うところで、女の手が俺の頬に添えられた。
「うふふ…もっと」
女は俺の唇に自身のそれを密着させた。女の舌先が俺の唇を押し開き、口内へと入り込む。そして彼女の口内から液体、おそらくは唾液が溢れだした。唇を密着させているため、液体は俺の口に難なく流れ込んでくる。だが、不潔感や嫌悪感はなかった。液体は水のようにさらさらとしており、彼女の唇や舌の温もりとは裏腹にひんやりとしていたからだ。
俺は、注ぎ込まれるがままに液体を飲んだ。
「…っ…っ…っ…！」
口内に注がれる液体を、間を置きながら飲み込んでいく。女の口から溢れる液体は、後から後から湧いているかのようだった。目の前に見える女の白い喉は、まるで飲み物でも飲むときのように上下に動いていた。そしてその艶めかしい喉の動きを見ながら、渇きを癒すうちに、女の口からあふれていた液体が止まった。
「ん…！」
これで終わりだ。
俺は直感的にそう悟ると、彼女の舌に自身のそれを絡め、わずかに残る液体を舐めとった。そして女の顔が離れる瞬間まで唇を吸い、ほんの少しの液体を舐めとっていく。
「うふ…」
女は顔を離すと、俺を見下ろしながら眠たげな目つきのままで笑った。
「おいしかった…？」
「あ、ああ…」
女の問いに、俺はそう答えた。
「もっと、のみたい？」
続いた彼女の問いかけに、俺は頷いた。今し方飲んだモノは、俺が今まで飲んだ水や酒、それこそ昔砂漠で水を失いながらもオアシスにたどり着いて飲んだ湧き水よりも、遥かに美味かったのだ。
もう一度、あれを味わいたい。俺は、美女との口づけ以上に、あの滴を求めていた。
「じゃあ、こんどはこっち…」
女は笑みを浮かべると、ずるずると俺の上に覆い被さるように這い出てきた。周囲の肉壁からにじむ粘液塗れの肩が通り過ぎ、俺の顔のすぐ上に彼女の乳房がくる。目の前に垂れ下がるたわわに実った果実は、彼女の心臓の鼓動やかすかな身じろぎに合わせて、わずかに揺れていた。
「おぉ…」
白い肌と、乳房の大きさにふさわしい桃色の円、そして円の中央に鎮座する小指の先ほどの突起が、俺の吐息の温もりが感じられそうなほどすぐそばにあった。すると、桜色の乳頭の先端に、白い滴が滲み始めた。彼女の乳だ。
飲みたい。滲む滴に衝動が芽生えた瞬間、女は浮かしていた上体を下げた。俺の唇の間に乳房の頂が入り、口に収まりきれなかった乳肉が、顔の下半分を押しつぶすように乗せられた。
「…！」
口をふさがれたものの、俺は声を上げようとした。だが、くぐもった呻きを紡ぐはずだったのどの奥に向けて、甘い液体がそそぎ込まれた。
口内の乳頭から、母乳がほとばしったのだ。
「うふ…うふふ…」
女は笑みを漏らしながら、ぐりぐりと俺の顔に乳房を押しつけた。柔らかな乳肉に加えられる圧力が、その内側に蓄えられた母乳を俺の口内へと迸らせていく。
「…んっ…ぐ…ぅ…！」
俺は舌と喉を必死に操り、あふれ出す甘い体液を胃袋へと送り込んでいった。すると、母乳を嚥下する口の動きにより、唇が彼女の乳輪を擦り、舌先が乳頭をくすぐった。
「ぁん…」
俺の目の前には、俺の顔面で押しつぶされた乳房の下半分が描く曲線しか見えない。だがそれでも、脳裏に甘い表情を浮かべる彼女を浮かべられるほど、蕩けた声が女の口から溢れた。
「んっぐ…」
俺は口中の母乳を飲み干すと、唇に力を込め、彼女の乳頭を吸った。母乳の勢いが強くなり、口蓋や舌、時には喉奥にまで白い液体が叩きつけられる。俺は、溢れる母乳を一滴も無駄にせぬよう、ただただ飲み続けた。いくらか癒えたとはいえ、まだ体は渇いている。口内にそそぎ込まれる母乳は、俺の胃袋に流れ込むなり血管に染み込み、全身へと流れ広がってくようだった。体の隅々がじんわりと熱を帯び、俺が半ば死んでいたのだと気づかせられる。
飲んでも飲んでも飲み足りない。もっと吸わねば。俺は衝動の命ずるがままに母乳を吸おうとするが、ふと彼女の乳房からの白い迸りがその勢いを弱めた。
「ん…こっち…」
女が体を浮かし、乳房を俺の口から外す。俺は思わず頭を持ち上げ、乳房の先端を追おうとした。だが追跡はかなわず、俺の頭は肉筒の壁面に押し当てられることとなった。彼女のもう一方の乳房が、口元に乗せられたからだ。
「んぅ…！」
ただ乗せているだけで迸る母乳に、俺は夢中になって貪りついた。彼女の母乳はいくら飲んでも腹にたまらず、むしろ体の渇きが強まるような思いがした。しかしそんな意識とは裏腹に、俺の全身には着実に力が戻り、徐々に体内に残っていた砂漠の熱が俺自身の体温へと変わっていくようだった。
「ん…ぐ…ん…！」
そして、どれほど乳を吸い続けていただろうか。ついに、もう片方の乳房も、俺の口元から浮いて離れた。
「あぁ…」
かなり渇きが癒えたとはいえ、まだ飲み足りない。俺は端から聞けばかなり情けない声を上げてしまっていた。
「ふふ、おっぱいは…おしまい…」
頭を少しだけ上げてみると、揺れる乳房の向こうで、女が首を曲げて俺の方を見ていた。上下逆になったとはいえ、彼女のほほえみはある感情をかき立てられるようなものだった。
すると彼女は、再びずるずると男の体の上を這い進んだ。乳房が男の顔の上から、胸元を過ぎて腹の上に至る。一方男の視界を、女の引き締まった腹や形のよい臍が流れていく。そして放漫な腰回りに至ったところで、男は気がついた。彼女の腰から下が、周囲を包む肉色の壁と同じような、粘膜に包み込まれていることに。彼女の両足の代わりとなっている肉は、そのまま彼女が出てきた肉の窄まりへと繋がっている。そうだ、考えてみれば当たり前だ。男は何かに頭から飲み込まれたのだ。そして、彼女は、男の頭の方から出てきた。だとすればこの女は、男を飲み込んだ何かの一部分なのだろう。
そんな魔物の話を、男は昔聞いたような気がしたが、もはやどうでもよかった。
「うふ…ん…」
男の股間に至った女が、笑みをこぼしながら彼のズボンを開く。女から口移しに飲ませてもらった体液と、彼が無心になって吸った母乳。その二つの効果もあって、彼の分身は痛いほどに屹立していた。
「あは…」
女はうれしげに声を漏らすと、屹立に指を添え、その先端を口に含んだ。柔らかな唇が膨れ上がった亀頭を包み込み、濡れた唾液の感触が股間に加わる。
「うぅ…」
男は、腰のあたりから上ってくる快感に呻いた。彼女が魔物であろうとなかろうと、こうして与えてくれる快感に変わりはない。その事実に重い至ったとき、彼は胸の奥底に湧いた情欲に対して素直になることにした。
そして、その決心の現れとして、男は目の前にあった女の下腹に顔を寄せた。
「ん…！」
男の亀頭を口に含んだまま、女が低く声を漏らした。女の白い肌と肉色の粘膜の境界に刻まれた亀裂に、男が唇を重ねたからだ。肌と粘膜の境界をまたぐような亀裂と男の口は、ちょうど十文字を描くように重ねられる。男は亀裂を唇で押し広げると、軟らかな肉の押し込められたその内側に舌を潜り込ませた。
柔らかな粘膜が織りなす襞を舌先でなぞり、奥から溢れる粘液を舐めとる。
「ん…ぅ…」
女は男の舌技に小さく声を漏らしながら、屹立に舌を絡めた。唇をすぼめ、肉棒を吸いながら、敏感な亀頭を舐め、カリ首の張り出した部分をくすぐる。互いの奉仕は、少なくとも男の情欲を煽り、腹の奥で興奮を煮えたぎらせた。
男は興奮の命ずるままに、女の亀裂に口を押し当て、舌で深くをかき回した。
女は時折体をふるわせながらも、屹立を指で擦り、亀頭を吸い、やがて肉棒の根本までを口内に納めた。
肉棒と口、舌と亀裂の織りなす水音が、肉の洞窟に淫らに響く。
そして、どれほどそうしていただろうか、ついに男が低いうめき声とともに全身を震わせた。
「……！」
女の下腹に口を押し当てていたため、声はだいぶ押し殺されていたものの、男は確かに呻きとともに精を放っていた。屹立から迸る白濁は、女の喉奥へと直接注ぎ込まれる。彼女は肉棒を吸い、粘つく男の体液を嚥下していった。
「ん…ん…ぷはぁ…」
男の精の迸りをすべて喉で受け止めると、彼女は口内から屹立を解放した。
「ふふ…こんなにたくさん…」
女は体を浮かし、たわわな乳房の下ほどを軽く擦りながら微笑んだ。
「もっと、もっと…ね…？」
ねだるような女の言葉に、男は腹の奥底が震えるような感覚を覚えた。そう、ここにいれば命の危険もなく、彼女と交わり続けられるのだ
もはや彼の脳裏から砂漠や仕事のことはおろか、肉の洞窟の外のことは消えてしまっていた。
14/04/03 19:59更新 / 十二屋月蝕
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