連載小説
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(107)龍(リュウ)
あるところに、小さな神社があった。神主もいない小さな神社だった。
祭られているのは、一体の龍だ。
力の弱い、雨乞いもできないような龍である。
実際、近隣の住民は彼女の力などアテにしておらず、せいぜい神社に住み着いている龍程度にしか考えていないようだった。
しかしその方が、力の弱い龍にとっては居心地のよいものだった。
「よいしょ、よいしょ・・・」
神社の近くを流れる川で、龍が盥を傍らに置いて洗濯をしていた。
下半身が鱗に覆われた細長いものでなければ、村娘が洗濯をしているのと代わりがなかった。
「おーい、龍ちゃーん!」
不意に、年を召した女の声が響き、龍が手を止めて顔を上げた。
「あ、ツネさん」
神社の近くに住むおばちゃんの声に、彼女は会釈した。
「洗濯かい、精がでるねえ」
「ありがとうございます」
龍は、ツネと言葉を交わしながら、止めていた手を動かした。
「全く、龍ちゃんみたいなべっぴんさんが、ウチの息子の嫁になってくれればいいのに・・・」
「またまたあ・・・ご冗談ばっかり」
「ありゃ、これでも本気だよ?」
クスクスと笑う龍に、ツネは続けた。
「それより・・・昨日の話、考えてくれた?」
「お見合い、ですか」
龍の言葉が少しだけ曇るが、ツネは変わらぬ調子で続けた。
「うん、向こうさんもいい人だから、とりあえず会うだけ会ってみなさいよ」
「でも、私・・・」
「龍ちゃんみたいな気だてのいいべっぴんさんが、言っちゃ悪いけどこんな小さな神社で埋もれてちゃダメよ。いい人のところに行って、幸せに・・・」
「おーい、龍ー?」
不意に野太い声が響き、ツネの言葉が途切れた。
ツネの顔が険しくなり、龍の顔がぱっと輝く。
「はーい、ゴンジさん!」
龍の呼び声に、神社の方からのっそりと、一人の男が姿を現した。
「お帰りなさい!ゴンジさん!」
「おう、帰ったぞ、龍」
龍の言葉に、男が応える。
「なんだ、洗濯してたのか」
川のそばに屈む龍の姿を確認したのは、クマのような男だった。
でっぷりと肉の付いた腹を着物の内に押し込め、太い四肢を取り付けた、中年の男だった。
顔は鬼瓦のように厳つく、辺りに威圧感を与えている。
「悪かったな、邪魔したみたいで」
「いいんです。すぐに片づけちゃいますから、上がって待っててください」
「おうよ・・・ああ、そうだ龍、今日はいいものを買ってきたぞ」
「もー、無駄遣いしないでくださいって言ったじゃないですか。誤魔化されませんよ?」
「無駄遣いじゃねえよ。必要な投資だ」
ゴンジはそう龍に応えると、ちらりとツネの方を見た。
「えーっと、ご近所の・・・ああ、とにかくいつも龍がお世話になってます」
ツネの名前は思い出せないようだったが、それでもゴンジはツネに向けて頭を下げた。
「ああ、こっちも龍ちゃんにはいろいろしてもらってるからねえ。お互い様よ。本当、そこらの男にはもったいないお嬢さんだよ」
「もー、ツネさんったら」
ゴンジに向けた牽制の言葉に、龍がどこか恥ずかしそうに言った。
「私なんて、格好こそ龍ですけど、本当のところ蛇に角が生えたぐらいのものですよ?それをこうやっていろいろやって補ってるだけで・・・」
「龍、あんまり卑下するな。誉めてもらってるんだぞ?」
「ゴンジさんまで・・・」
嬉しさと恥ずかしさを同居させたまま、龍は洗濯物を片づけていった。
「全く・・・龍ちゃん、今日は邪魔したね。じゃあ、またね」
「はいツネさん、お気をつけて」
龍の言葉に手を振って応えながら、ツネは川のそばを離れていった。
ゴンジが視線を向けてくるのをツネは背中で感じていたが、それ以上のことは特になにもない。
そう、このゴンジという男は、なにもしないのだ。
ふらりとこの村に現れ、龍の神社に住み着き、時折数日間姿をを消す。
ゴンジという名前以外、来歴も普段なにをしているかもよくわからない、怪しい男だ。
だというのに、龍はゴンジに対して好意を抱いているらしく、ツネが見合いの話を持っていっても断るばかりだ。
本人が互いに好意を抱いているのなら、それでもよかろう。
だが、ゴンジはダメだ。ツネは本能的なところで、ゴンジをそう踏んでいた。
今日も、おおかた町に出かけていて数日ぶりに戻ってきたのだろう。
バクチか何かで手持ちの金を失ったのだ。ただ、手ぶらで帰るのも気まずいため、何かおみやげでも持っているのだろう。
龍は誤魔化されない、などと言っていたが、その言葉はどこかうれしそうだった。
何とかして、龍をあの男から助け出さなければ。
ツネはそう決意を固めていた。



龍が洗濯物を干し、神社の本殿にひっつくようにして建てられた小屋に入ると、お茶の香りが彼女の鼻をくすぐった。
見ると、ゴンジがちゃぶ台につき、お茶をすすっていた。
「ゴンジさん」
「おう、龍。茶、飲むか?」
「はい」
龍が席に着くと、ゴンジは用意していた龍の湯呑みに、急須から茶を注いだ。
あらかじめ半分ほど注がれていた茶に、温かな茶が加わり、程良いぬるさになる。
「いただきます」
龍はそう言うと、両手で湯呑みをとり、唇をつけた。
「はぁ・・・」
龍の口から、ため息とともにお茶の熱で暖まった吐息が溢れた。
川での洗濯のおかげでかじかんだ両手が、湯呑みの熱でほぐれていく。
「とりあえず、味噌と醤油はいつもの場所に入れておいた。あと、乾物がいくつか手に入ったから、後で見ておいてくれ」
「いつも助かります」
ゴンジの報告に、龍は頭を下げた。
「それで、今度のお仕事は?」
「いつも通り、荷物の積み卸しだ。やっぱり町はものが出入りしているからなあ。俺みたいな力自慢は大歓迎だとよ」
ゴンジは腕を曲げ、力こぶを作りながらハハハと笑った。
「ああそうだ、忘れてた。五日分の銭だ」
着物の袂から布袋を取り出すと、ゴンジはそれをちゃぶ台に乗せ、龍の方に押した。
「半分ぐらいになったら、また言ってくれ。稼ぎに行くからな」
「いつもありがとうございます」
「それと、こいつは土産だ」
そういいながら、ゴンジは懐から細長い紙の包みを出した。
「これは・・・?」
「開けてみな」
龍は、言われるがまま紙包みを解いた。すると紙の内側から、銀のかんざしが現れた。
「わぁ・・・」
きらきらと光を照り返すかんざしに、龍の目が見開かれる。
「こんな綺麗なもの・・・どうしたんですか?」
いつも土産だと言って、ゴンジは自分の小遣いから饅頭や菓子を買ってくることはあったが、こんな装身具は珍しい。
「なに、最近やすい飯屋を見つけてな。町に出たとき、ほかの飯屋に行ったつもりで金をためてたんだよ」
照れくさそうに頭の後ろを掻きながら、ゴンジは答えた。
「そんな・・・私のために買ってくれたのは嬉しいんですけど、ゴンジさんが無理してご飯を我慢したのなら・・・」
「大丈夫、いつもたっぷり食べてるからな。健康だ」
龍の心配を吹き飛ばそうと、ゴンジは腹をぱちん、と平手で叩きながら笑った。
「それより付けてくれないか?似合うかどうか確かめたいんだよ」
「はい・・・」
龍は包み紙をちゃぶ台におくと、かんざしを結った髪に刺した。
「うん、思った通りだ。似合ってる」
鏡を見ていないため、位置や角度は適当だったが、ゴンジはそう龍に向けて頷いた。
「似合ってますか・・・えへへ・・・」
あの綺麗なかんざしが、自分に似合っている。
ゴンジの言葉に、龍は思わず笑みをこぼした。
「どうだ、無駄遣いじゃなかっただろ?お前は嬉しいし、嬉しそうなお前を見られて俺も嬉しいからな」
「はい・・・でも、私の為にあんまりご飯を我慢するのはダメですよ?」
「程々に気を付けるさ、ハハハ」
ゴンジはそう、鬼瓦のような顔をほころばせて笑った。



それから龍とゴンジは、ゴンジが町に出かけていた間のことを互いに話した。
神社の境内にウグイスが来ただの。
町で西方の魔物を見ただの。
一昨日ツネからもらったお菓子がおいしかっただの。
行きつけの飯屋で、ようやく『いつもの』で注文が通じただの。
他愛もない話を、二人は楽しげに交わした。
いつしか日が傾き、二人は夜気が小屋に忍び寄る前に、囲炉裏に火をおこした。
忍び寄る夜気を囲炉裏の火で防ぎながら、ゴンジは囲炉裏に鍋を掛け、龍は刻んだ野菜を鍋に入れた。
今夜はゴンジが町で手に入れてきた味噌を使った鍋だ。
時折龍が蓋を開けて様子を見、味付けをする。そして、ぐつぐつと鍋が音を立て始めたところで、食事を始めることとなった。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
手を合わせるゴンジに、龍はにこにこと笑みを浮かべながら応えた。
ゴンジは、そこの深い取り皿に煮えた白菜やキノコをとると、口を付けた。
「うん、旨い」
白菜にもよく味がしみており、具の温かさは体を芯から温めるようだった。
「よかった」
龍がゴンジの感想に、ほっと胸をなで下ろした。
ちゃんと味見もしているのだが、こうして食事をするとなると、未だに妙な緊張をしてしまうのだ。
だが、緊張している状態で言われるゴンジの『旨い』は、彼女に大きな喜びをもたらした。
「ほら龍、お前も」
「はい」
龍はゴンジの言葉に、自分も取り皿を手にすると、やや野菜を多めにとった。
そして、湯気を立てる具を一切れ口に運び、数度咀嚼する。
味付けをした彼女自身が言うのもアレだが、美味しかった。
「うん、おいしい・・・やっぱり、ゴンジさんが買ってきてくださったお味噌がよかったんですね」
「おいおい、俺はいつもの店で買ったぞ?旨いのはお前の腕が上がったからだろう」
「そんな、私はまだまだ・・・」
そう、ゴンジがくるまで龍は料理などしたことがなく、ようやく最近まともなものが作れるようになったと、自分で考えていた。
一人でこの神社に住んでいた頃は、あたりに満ちる気や精を吸い、時折近所の人々のお裾分けの品をかじる程度でよかった。
だが、ゴンジと暮らすようになってから、彼女は変わった。
食事が単なる生命を維持するための手段でなく、ゴンジと過ごす時間をいっそう彩る要素になっていた。
もっとゴンジと楽しく食事をしたい。
もっとゴンジにおいしいものを食べてもらいたい。
もっとゴンジに誉めてもらいたい。
龍に宿った欲望は、彼女の料理の腕をめきめき伸ばしていった。
「それで、龍。今日の風呂はどういう順にする?」
「今日はゴンジさんが先でいいですよ。私が沸かしますから」
「だったら、俺が皿を洗ったりしておくから、その間に沸かしてくれないか?」
「でも・・・」
ゴンジの言葉に、龍は一瞬言葉を濁らせた。だが、直後彼女の脳裏で、彼の言わんとしていることが理解できた。
「あ、そっちの方がいいですね」
ゴンジが皿を洗っている間に風呂を沸かせば、食器が片づく頃にはいい湯加減になっている。
これなら、どちらかが妙に待ったりする必要がない。
「いつもお前に片づけとかしてもらっているからな、今日ぐらいは俺がしないと」
「でも、ゴンジさん今日は町から帰って疲れてるでしょう?」
「だから、先に風呂に入れさせてもらうんだよ」
実際のところ、風呂に入る順番と疲れの癒え方に関係はない。だが、龍の手料理と彼女の沸かしてくれた風呂に入れると言うだけで、彼の疲れは消し飛ぶようだった。
「それじゃあ、そうさせてもらいますね」
ゴンジ自身の望みだし、そちらの方が疲れが取れるというのならそうしよう。
龍は頷いた。
そして、二人は鍋を腹に納めると、めいめい食事中に決めた役割をこなし始めた。
龍は小屋の外に出て、風呂窯に火をおこす。
ゴンジは鍋と皿を手に川に出て、食器を洗う。
夜気は容赦なくゴンジの体に絡みつき、熱を奪っていくが、体に残る鍋の温もりと風呂に入れるという希望が、彼に寒さを感じさせなかった。
最後に鍋と取り皿をすすぎ、軽く指でこすって汚れが落ちているのを確認する。
「よし・・・」
ゴンジは川のそばから立ち上がると、鍋と皿の水気を切りながら、神社に戻った。
台所に食器を起き、風呂窯の方をのぞく。
「食器洗ったぞ、龍」
「はーい、こっちももうそろそろいい湯加減だと思います」
風呂窯の前で、蛇のような下半身でとぐろを巻き、火加減を調整している龍がそう応えた。
ゴンジは風呂場にはいると、風呂窯の湯をよくかき混ぜてから温度を確かめた。
かじかんだ指先に温もりが突き刺さる。少々熱い気もするが、肌が冷えているところを考えると、ちょうどいいぐらいだろう。
「いい湯加減だぞー」
「はーい、ごゆっくりどうぞー」
風呂場の外に向けて呼びかけると、龍の声が響いた。
ゴンジは、替えの褌などを用意すると、裸で風呂場に戻った。
手桶に風呂窯の湯をくみ、体に浴びせる。ざっと一日の汗と汚れを洗い流すと、彼は風呂桶に身を浸していった。
「お、お、お・・・おぉ・・・」
つま先から徐々に広がっていく温もりに、彼は思わず声を漏らし、肩まで浸かる頃には肺の底から搾り出されるような声を漏らした。
温もりが体にしみいり、疲れを癒していく。
「ああぁ・・・」
ゴンジは、その鬼瓦のような厳つい顔を少しだけゆるめながら、そう声を漏らした。
「いーい湯加減だ・・・」
意識がぼやけていく感覚に身を任せながら、彼は風呂場の外に向けて声をかけた。
しかし、風呂窯の方から返事は返ってこない。
「龍・・・龍・・・?」
風呂窯の前にいるはずの龍を呼ぶが、返答はおろか何の気配もなかった。
風呂窯から生じる煙を吸って、倒れてしまったのだろうか。
ゴンジの胸に不安が膨れ上がった瞬間、風呂場の戸が開いた。
「お背中流しにきました、ゴンジさん・・・」
「なんだ、こっちに来てたのか。少し心配・・・」
ゴンジのほっとした声音が突然断ち切られた。
風呂場に入ってきたのが、一糸まとわぬ姿の龍だったからだ。
手に手ぬぐいこそ握っていたが、それで胸を隠すわけでもなく、手に余るほどの大きな乳房や、上半身と蛇のような下半身の継ぎ目を堂々と晒していた。
「あ、あまり見ないでください・・・ちょっと、恥ずかしいです・・・」
突然の龍の来訪に驚いていたゴンジの視線に、龍がようやく身を隠すような仕草をした。
「ああ、いやあまり突然だったから、少し驚いて・・・」
そう、背中を流してもらったことはあるが、それも龍が着物をまとった状態での話だ。
それに、そのときはゴンジの方も一人で入浴できる状況ではなかった。
「でも、何で急に・・・?」
「その、私がゴンジさんのことを労りたくて・・・では、ダメですか?」
「いや、ダメじゃない。大丈夫だ」
むしろ、こちらから頭を下げたいほどだ、と言う言葉を胸の中にとどめながら、ゴンジは頷いた。
「では、背中を流しますので、上がってください」
龍の言葉に、ゴンジは湯船の中で立ち上がった。
体に絡みついていた湯がざぶりと音を立てて、いくらかゴンジの体毛にとどまりながらも、肌を流れ落ちる。
そしてゴンジは濡れた体を湯船から引き上げ、洗い場に降りた。
「どうぞ」
龍がとぐろを巻いて浴室の床に座り、自身の前に置いたいすを示した。
「お、おう」
ゴンジは龍に言われるまま、彼女の前に腰を下ろした。
「ふふ、立派な背中・・・」
ゴンジの後ろから、どこか楽しそうに声が響く。
「では、洗いますね」
石鹸を手ぬぐいにこすり付けていたのだろうか。ごそごそと龍がしばらく動いた後、彼女がそう言った。
しかし、直後彼の背中に触れたのは、濡れた手ぬぐいの感触ではなく、柔らかな二つの塊だった。
「龍・・・」
「少し、こうさせてください」
首のあたりに腕を回し、うなじに頬を押し当てながら、龍はゴンジの背中に抱きついてそう言った。
「傷・・・よくなりましたね」
ゴンジの首に回った両腕を彼の胸板に伸ばし、胸毛の間を指先でかき分けながら、彼女がそう漏らした。
彼女の指先は、体毛に紛れて見えないが、彼の胸に刻まれていた刃物傷をなぞっていた。
「ここも、ここも、ここも・・・」
胸板から腹、腕など、濃い体毛に隠された古い傷跡を、彼女は一つずつ確かめていく。
「ああ、お前のおかげで命を取り留めたからな・・・」
龍は、ゴンジがこの神社に来たときの頃を思い出した。
雨の中、境内の片隅を赤く染めながら倒れ伏していたゴンジは、一見すると死体と区別が付かなかった。
だが、龍は彼のかすかな息づかいを聞き取り、彼を小屋へ引き上げた。
そして、胸板にばっさりと刻まれた大きなものをはじめとする、大小さまざまな刃物傷を塞ぎ、彼の看病に努めたのだった。
結果、ゴンジは一命を取り留めた。
「ふふ、ここも元気ですね・・・」
傷跡をなでていた指が、ゴンジの太鼓腹を通り過ぎ、両足の間にふれる。
そこには、腹の肉に埋もれてもなお大きさを誇る肉棒が屹立していた。
太く長い、下手をすれば赤子の腕ほどはありそうな屹立に、龍の白魚のような細い指が絡みつく。
「龍」
「ゴンジさん・・・ん・・・」
互いを呼びあうと、ゴンジは首をひねって後ろを振り向きながら、肩越しに龍と唇を重ねた。
唇と唇の触れ合う感触に、陰茎に絡みつく龍の指に力がこもる。
「ん・・・ちゅ・・・んむ・・・」
濡れた音を立てながら唇を吸い合ううち、ゴンジの体の向きが変わっていく。
龍に背中を向けていたのが、いつしか向き合うようになり、肉棒を握っていた龍の指はゴンジの背中に移動していた。
二人は抱き合いながら互いの唇を楽しんでいた。
「ん・・・ふ・・・ちゅ・・・んむ・・・」
唇と唇、舌と舌の奏でる濡れた音に、吐息が混ざり始めた。
二人の高ぶりが、呼吸を強めているのだ。
そして、とぐろを巻く下半身の頂で、龍の腰が小さく揺れる。
彼女の体の奥で膨れていく情欲が、彼女の体を操っていた。
下腹の疼きが熱とともに彼女の全身に広がり、無意識のうちにゴンジに体をこすり付かせる、
柔らかな体毛が龍の肌をこすり、皮膚の下の脂が彼女の体を受け止め、四肢の芯を成す堅い筋肉が彼女を抱きしめる。
三つの感触を肌で感じながら、彼女は唇を離した。
「ゴンジさん、もう・・・」
口から吐息を溢れさせ、瞳を涙で潤ませながらの彼女の訴えは、小さく震えていた。
「ああ、俺もだ」
龍の情欲の吐露にゴンジも応え、屹立を彼女の下腹に押し当てた。
そしてゴンジの腕に力がこもり、龍の体をゆっくりと風呂場の床の上に仰向けに押し倒した。
とぐろを成していた下半身がほどけ、龍の濡れた瞳が彼を見つめる。
「来てください・・・」
「ああ」
ゴンジが小さく応え、龍の胴を跨ぐようにしながら、屹立を彼女の女陰に挿し入れた。
「ん・・・」
濡れた肉の穴を押し広げていく、慣れ親しんだ肉棒の感触に、彼女は声を漏らした。
こうして膣を広げられる感覚は、何度味わっても心地よい。
腹の中がゴンジの肉棒で満たされ、彼女の体内で脈を打つ。
力強く、やや早い脈動は、彼の興奮を表しているようだった。
「動くぞ」
ゴンジが低い声でそう言い、腰を動かし始めた。
小さい幅で前後に体を揺らし、屹立の先端で龍の膣奥を突く。
腹の奥を押し上げる、屹立の熱と固さに、龍の口から喘ぎが漏れた。
屹立の先端、膨れた亀頭がこりこりと弾力あるものに触れた。
龍の子宮口だ。子を宿し、育てるための神聖な場所が、ゴンジの子種を求めるように亀頭と接吻を繰り返す。
「うぅ・・・」
ゴンジは、腹の奥からこみ上げてくる射精感にうめくと、前後に揺すっていた腰の動きを変えた。
根本付近まで肉棒を挿し入れ、腰を右に左に揺らす。
「あぁ・・・!」
膣内をかき回される感触に、龍の喘ぎが艶を帯びる。
そして、膣道を押し広げようとする肉棒の動きに、彼女の下半身が震える。
風呂場の床を、鱗に覆われた龍の下半身がこする。しっぽの先端が浮かび、風呂場の床を叩き、やがてゴンジの腹に巻き付いた。
すべすべとした鱗越しに、龍の体温が感じられる。
「く・・・う・・・!」
蛇のような下半身に巻き付かれ、動きづらくなったものの、ゴンジは全身に力を込めて肉棒をのの字に動かし続けた。
ゴンジ自身が快感を得るためでなく、龍に気持ちよくなってほしいが故の動きだ。
腰を回し、奥を軽く小突く。
膣をかき回され、子宮口を突かれる度、龍の口から声が溢れた。
そして、瞬間的にゴンジの腹に巻き付く蛇体が、彼を強く締め付けた。
息苦しさと動きづらさに耐えながら、ゴンジは彼女を突き、その肌に指を這わせた。
首筋から、肩口を軽く撫でる。そしてゴンジの胸板に突き刺さらんばかりに屹立する、乳房の先端を体全体を揺すって擦る。
そして、龍が目をぎゅっと閉じ、小さく体をふるわせた。
達したのだ。
だが、ゴンジは腰の動きも、愛撫も止めなかった。
彼女が高みにとどまり続けるように、彼女が達し続けるように、震えるからだを抱きしめ、けいれんする肉壷をかき回し続ける。
やがて、ゴンジにも限界が訪れた。
断続的に繰り返される肉棒への締め付けに、彼はついに腹の奥から精を迸らせた。
屹立に押し当てられた子宮口を、指で摘めるほど固く熱い粘液が叩き、龍の背筋をのけぞらせた。
「ーーーっ!」
声にならない叫びが、彼女の口から溢れだし、ゴンジの腹に巻き付く蛇体に力がこもった。
肉の付いた太鼓腹が締め上げられ、ゴンジの口から息が漏れる。
だが、彼は龍の締め付けに耐え、精を彼女の胎内に注ぎ続けた。
やがて、ゴンジの射精の勢いが弱まり、ついに絶頂がやんだ。
射精後の披露感がゴンジを遅い、彼の動きが止まる。
そして愛撫と肉棒の動きが収まったことで、龍に注がれていた快感も弱まった。
「はぁはぁはぁ・・・」
甘い絶頂の名残に意識を蕩けさせながら、二人は全身を脱力させて荒く呼吸を重ねた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
快感と興奮に潤んだ二対の瞳が、互いの姿をとらえた。
すると二人は、どちらからともなく唇を重ねていた。



「・・・そう言えば、まだ聞かれてなかったな・・・」
風呂場から布団の上に場所を移し、数度体を重ねた後、傷跡をなでる龍の指を感じながら、ゴンジがふと思い出したように呟いた。
「なにをですか?」
「俺がなぜ、あの日あそこに転がっていたのか」
「私は聞きませんよ」
龍が小さく首を振った。
「ゴンジさんがこれまでなにをしてきて、なぜ大けがをしていたのか。興味はありますけど、私は聞きません」
「なぜだ?」
「ゴンジさんは話したくないからです。ゴンジさんに話す決心が付いたとき、私は聞きます」
布団の中で、ゴンジと名乗る男の腕に抱かれたまま、龍はそう応じた。
「なら・・・話すのはまた今度にしよう」
「はい」
彼女はそう頷いた。
13/01/30 18:20更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
おっさんいいよね。
毛むくじゃらの太った精力絶倫元気ビンビン丸なおっさん。
おやじペニスパークに展示されているような巨根持ちで、年を重ねて身につけた技術でねっとりと責める。
いいじゃないですか。
後、そういうおっさんとのファックス書いたことないなあと思って、今回の話を書きました。
テクニックで若いお嬢さんのヒモになるおっさんかと思いきや、ゴンジさんは普通に働いてます。
実は町に出ていって、あまり大きな声では癒えないような仕事をしている、というわけでもありません。
言葉通り、荷物の積み卸しの仕事をやったりしてます。
そう言う、端から見るとろくでもないおっさんとかわいそうな若いお嬢さんだけど、実際のところ相思相愛で互いに支え合ってるカップルいいですよね。

あと、図鑑世界ではパートナーの望む姿にカップルは変わっていくそうですが、魔物娘さんが望めばかわいいショタが数年で脂ぎった毛深いおっさんになりうるんですよね。
素敵。

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