(95)マンティス
秋の半ば頃、村の原っぱで少年は二匹のカマキリを見つけた。
細長く鋭角的な姿に、両手に武器を備えたカマキリは、少年の好きな虫の一つであった。
だが、少年が見つけたカマキリは、少々様子がおかしかった。
普通ならば、カマキリはチョウなど他の虫を大きな鎌でとらえて食べる。
だがその二匹は違った。体格の大きな一方が、小柄なもう一方を捕らえ、かじっているのだ。
小さい方の抵抗もむなしく、すでに頭はなくなっていた。
「うわぁ・・・共食いかぁ・・・」
少年は、残酷きわまりないカマキリの食事にかすかな恐怖を抱きつつも、ある種の怖いもの見たさに目を離せなかった。
「おいどうした?」
少年の横から、彼の友人が声をかけた。
「カマキリ見つけたんだけど、共食いしてるんだよ。餌がないのかな?」
「共食い?バッタやらいくらでもいるだろうに・・・」
興味を引かれたのか、友人も少年の側に屈み込んで、二匹のカマキリを見た。
「ああ、こりゃ共食いじゃないよ。コービだ」
「コービ?」
友人の言葉に、少年は首を傾げた。
「ほら、このカマキリの尻尾の先、くっついてるだろ?」
友人の言うとおり、二匹の膨れた腹部の先端は、くっつきあっていた。
「デカい方がメスで、卵を生むためにコービしてるんだよ」
「へえ・・・でも、何でメスはオスを食べてるんだろう」
「それは、卵を作るための栄養が必要だからだよ。だから、オスもおとなしく食べられてるんだ」
「ふーん・・・」
メスとその卵のために身を捧げる。
カマキリは虫故恐怖を感じないのかもしれないが、それでもオスの献身は、少年には理解しがたいものだった。
「でも、人間もカマキリも似たもんだって、父ちゃんが言ってた。俺の一生は、母ちゃんと俺たちを食わせるためにあるんだ、ってね」
友人はそう会話を締めくくると、カマキリから興味を失ったのか立ち上がった。
「ほら、森に行ってみようぜ」
「ええ?でも、森は・・・」
足を踏み入れてはならないと、大人たちから口酸っぱく言われているため、少年は友人の誘いに渋った。
「大丈夫だって。それに、何年か前に森でデケエバッタ掴まえた奴がいるって、兄ちゃんから聞いたんだ。俺たちも掴まえてやろうぜ」
「バッタ・・・」
バッタも、少年にとっては好きな虫の一つだった。
それどころか、ただのバッタではなく大きなバッタだという。
少年の心の天秤は、バッタに大きく傾いていた。
「いこうか」
「そうこなくっちゃ!」
少年の返答に、友人は嬉しげに応じると駆けだした。
「あ、待ってよ!」
少年が遅れて、友人の背を追って走り出す。
後には、交尾を続けたままオスをかじり続けるメスのカマキリが取り残された。
それから、少年が友人とはぐれ、森の中を一人でさまようのに、一時間とかからなかった。
森に入る前は、『大人たちは楽しい遊び場所に行くのをじゃましている』などと友人と決めつけていたが、今では禁じられている理由がよくわかる。
方向感覚が消失するのだ。
どっちから森に入り、どう進んできたのか、もはや少年にはわからなかった。
「おーい・・・どこー・・・?」
はぐれた友人を探そうと声を上げるが、その声は心細さを表すように細く小さく、木々の間に消えていった。
がさがさと落ち葉を踏みならし、草をかき分けながら少年は足を進めていく。
森を出ようとしているのか、友人を捜そうとしているのか、その両方か。
少年は森の中をさまよっていた。
すると、不意に前方の草むらが小さく揺れ、音を立てた。
「っ!?」
不意の物音に、少年は身をこわばらせた。
風ではない。風の音ならば、頭上の木々の枝も揺れるし、草ももっと広く揺れるはずだ。
だが、先ほどの揺れは、あきらかに何かが揺らした音だった。
「だ、誰・・・?」
少年は足を止め、先ほど揺れた草のあたりに向けて、そう声をかけていた。
「ねえ・・・誰かいるの・・・?」
不安感のあまり、友人だという可能性を忘れ去り、それでいて言葉が通じる相手であるという期待を込めて、彼は呼びかけた。
だが、正面の草むらから、返答するものはなかった。
「リスかなにかだよね・・・」
言葉の通じない動物。それも自分に無害な小動物の立てた音だと、少年は自信を納得させようとした。
だが、自らにそう言い聞かせている間に、彼の傍らの草むらを突き破り、緑色の何かが彼に襲いかかった。
「わ・・・!?」
驚きのあまり悲鳴を途中でかき消されながら、少年は襲いかかってきた何かに押し倒される。
数年分の落ち葉が降りつもってできた地面に、彼は仰向けに横たわった。
「あぁ・・・あ・・・!」
混乱と恐怖に目を白黒させながら、少年は自分に覆い被さる者を見た。
それは、美しい顔立ちの女性だった。
少年より年上の、大人に足を踏み入れた、緑髪の女性。
こめかみの上のあたりに、楕円形の光沢を帯びた何かを付けており、髪の間からは二本の突起が飛び出ていた。
だが、そんな点も気にならないほど、少年は女性に見とれていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
口をぽかんと開き、惚けた様子で見上げる少年。
瞳に何の色も浮かべず、ただ見下ろす女。
二人の視線が無言のまま絡み合っていた。
すると、不意に女性が右手を掲げた。
女性的なラインを描く鎧の籠手のような物に覆われた、ほっそりとした右手だ。
すらりと長い右手は、少年が知る女性の誰よりも魅力的であった。
だが、少年が彼女の右手を見るうち、彼女の手首から何かが飛び出た。
肘から手首までの長さはあろうかという、緩く湾曲した緑色の刃だ。
まるで、大きな鎌のようだ。
その瞬間、少年は目の前の女性が人間ではないことをようやく悟り、その正体に思い至った。
緑の甲殻をまとい、鎌を備えた魔物。マンティスだ。
人の姿こそしている物の、目の前にいるのは人間大のカマキリだ。
「うわああ・・・」
カマキリが獲物を捕らえたらどうするか。少年は遅れて芽生えてきた恐怖に、身を震わせた。
「・・・」
マンティスは、少年の首のあたりに、鋭く尖った鎌の先端を触れさせた。
少年の柔らかなのどの皮膚に浅く刃が食い込み、甲殻を通じて彼女の温もりが伝わる。
甲殻越しの仄かな体温など普段ならば感じないのだろうが、、全身をぬらす冷や汗と全身の震えが、少年の全身を冷え切らせていたため感じられたのだ。
刻まれて、食われる。
少年は恐怖に震えながらも、心のどこかで覚悟を決めた。
直後、マンティスの右腕が喉から腹の方へ、一直線に動いていった。
皮膚を擦っていく感触を残して、刃の通った後に冷気が生じる。
喉から腹を切り裂かれ、体の内側に冷えた秋の空気が入り込んでいるのだ。少年はぎゅっと目をつぶり、遅れてくるだろう痛みがそう強いものでないよう祈った。
だが、いくら待てども痛みはこず、ただ冷たさだけが取り残されていた。
「・・・あ、れ・・・?」
少年は薄く目を開くと、顔を少しだけ持ち上げて自分の体を見た。
身にまとったシャツやズボンには縦一文字の切り目が入っていたが、土汚れの他は何の染みも付いていない。
つまり、血が出てないということだ。
「え?」
少年が混乱していると、マンティスは右手の鎌を腕の中に引っ込め、緑の甲殻に覆われた指をシャツに触れさせた。
左右に切られたシャツが広げられ、少年の傷一つない上半身が露わになる。
マンティスは、服だけを切ったのだ。
自分が怪我をしていないという事実に、少年は安堵感を覚えた。しかし直後、少年の脳裏に次の疑問が浮かび上がる。何のために、マンティスは自分の服だけを切ったのか。
少年の疑問をよそに、マンティスは少年を跨ぐように立ち上がった。
すらりとした両足が伸び、濃い緑色の薄い布のように覆われた引き締まった腹から胸、肩から腕へと続く甲殻、そして肩の上の整った顔までが少年の目にさらされる。
少年が地面に横倒しになっているせいもあるだろうが、彼女は見上げるほど大きく、つい先ほどまでの恐怖を忘れるほど美しい体つきだった。
彼女は少年の腹の辺りを跨いだままひざを曲げると、ゆっくりと腰を下ろし始めた。
太腿が左右に広がり、胸や腹を包む濃い緑色の薄布に覆われた股間が迫ってくる。
布越しとはいえ、ほぼ初めて見るに等しい女性の股間であったが、少年の目は彼女の両足の付け根ではなく、その向こうに向けられていた。
両足を広げることで露わになった、尻の丸いラインの向こう。楕円形の何かが彼女の尻から下がっていたのだ。
筒型の甲殻が何段にも重なり、滑らかな流線を描く楕円形の器官を構成している。
カマキリの胴に比べると遙かに寸詰まりではあったが、少年はそこがマンティスにとってカマキリの胴のようなものだと悟った。
そして、『胴』の先端、普段は閉じているのであろう甲殻が開き、桃色の肉がさらされているのを、少年は見た。
ひくひくと甲殻の内側の肉を蠢かせながら、マンティスは腰を下ろしていく。
やがて、『胴』の先端が少年の剥き出しの腹に触れた。
最初に感じたのは、腹を唇で吸われたような吸着感だった。
『胴』の先端の穴が、少年の腹の肌をちゅうちゅうと吸っているのだ。
「・・・・・・」
マンティスは無言のまま腰を上下させ、『胴』の先端を付けては離しを繰り返した。
「な、なにこれ・・・」
意味の分からないマンティスの行動に、少年は不安を覚える。だが同時に、腹に吸いつく柔らかな肉穴の縁と、マンティスが腰を上げた際に見える『胴』の先端は、彼の胸中にもやもやした物をもたらした。
今まで感じたことのない、感情とも感触ともつかない物が、彼の内側で大きくなっていく。
「や、やだ・・・」
自分が変わりつつあるという実感に、少年は思わずそう声を漏らしていた。
しかし、マンティスは動きを止めず、少年の腹を『胴』の先端で吸い続けていた。
「・・・・・・」
幾度かの奇妙な接吻を繰り返したところで、マンティスが大きく腰を上げた。
彼女の『胴』に隠れて見えなかった彼の股間のあたりが、少年の目に入る。
下着ごとズボンを切り裂かれているため、少年の肉棒が露わになっていた。
先ほどから妙にむずむずしていた少年のそこは、なぜか大きく膨らんでいた。
「な、な・・・」
自信の肉体の変貌に、少年は声を漏らした。
今まで幾度かそこが膨れたことはあったが、なぜこのタイミングで。
少年の脳裏を疑問が巡るが、マンティスは少年が答えを出す前に、腰を下ろした。
未熟な少年の肉棒が、マンティスの『胴』の穴に飲み込まれていく。
「ああ・・・ああ・・・!」
少年は、幼い屹立を飲み込んでいく肉穴に、そう声を上げた。
なま暖かく、濡れて柔らかな感触が少年の肉棒を包み込み、少年の背筋をゾクゾクと何かがなで上げていった。
やがて、少年の肉棒は根本までマンティスの『胴』に飲み込まれた。
最大限に勃起してるにも関わらず、まだ皮を被ったままの肉棒を、『胴』の肉がきゅっと締め付ける。
その瞬間、彼の腹の底から何かがわき起こり、肉棒の内側を駆け上っていった。
「お、おしっこ・・・でちゃう・・・!」
強烈な尿意にも似た感覚に、少年は思わずそう漏らし、マンティスの体内に何かを迸らせた。
「あああ!」
初めての性的絶頂と、初めての射精を同時に迎え、少年は悲鳴めいたあえぎ声をあげた。
絶頂感に揺さぶられる意識の中、尿道を擦る、妙に固い液体の感触に、少年は自分が尿以外の物を出したことを悟った。
だが、意識の片隅でそんなことを認識しても、射精が収まるわけでもなく、少年は白濁を彼女の『胴』内に迸らせた。
「ああぁ!あぁっ!ああぁ・・・!あぁ・・・!あ・・・ぁ・・・!あ・・・」
どくん、と尿道から粘液が迸る度、少年の口から嬌声が溢れ、勢いが弱まるにつれ声も小さくなっていった。
そして、少年の初めての絶頂が収まった。
「あぁ・・・ぁ・・・ぁ・・・」
全身を満たす倦怠感と、射精の余韻の鈍い快感に身を浸しながら、少年は途切れ途切れの声を漏らした。
指一本動かせないほどの疲労が、彼を満たしている。
その一方で、彼の意識は妙に冷静だった。体は動かず、口からはあえぎ声のなり損ないしかでないが、彼の意識はマンティスが何をしたのかを類推していた。
カマキリの胴に当たるマンティスの『胴』の先端。そこと少年の肉棒がつながった。
季節は秋でカマキリは卵を生むために交尾をしている。ということはマンティスも今の時期、卵を生むために交尾をするのだろう。
そして今、マンティスは少年と交尾をした。
カマキリの交尾の先に待っているのは、メスのためにオスが身を捧げる究極の献身だ。
では、マンティスと交尾した少年を待っているのは・・・
「あ・・・」
少年は、自分の運命を悟り、小さく声を漏らした。
だが、不思議と恐怖感はなかった。マンティスのもたらした快感のおかげで、意識のどこかがマヒしているのかもしれない。
それでも、少年の内には恐怖より、美しいマンティスに元気な子を産んでほしいという、期待のような物があった。
精通を迎え、童貞をマンティスに捧げたおかげだろうか。
少年は、どこか穏やかな心で、マンティスを見上げていた。
「・・・・・・」
マンティスは、『胴』の中に少年の肉棒を納めたまま、彼を見下ろしていた。
しかし、草むらから飛び出して少年を押し倒したときとは異なり、その頬には微かな赤みを帯びている。
少年との交尾の快感の残滓だろうか。少年には、先ほどまでは何の感情も宿っていなかったその瞳が、微かに濡れているようにも見えた。
すると、マンティスが少年の顔に向けて、上半身を倒してゆっくりと顔を近づけてきた。
身を捧げるときがきたのだ。
鎌でひと思いにしとめるのではなく、カマキリのようにかじるつもりらしい。
少年は胸中で、あまり痛くないといいなあ、と思った。そこに恐怖感はなかった。
「・・・」
マンティスの唇が薄く開き、彼女の顔が少年の視界一杯に広がる。
そして、少年の唇とマンティスの唇が重なった。
食われることへの恐怖はないものの、痛みへの覚悟をしていた少年にとって、マンティスの唇の柔らかさは虚を突かれるようだった。
彼女の唇の柔らかさが意識に流れ込み、遅れて自分とマンティスがキスをしていることに、彼は気がついた。
「・・・っ・・・」
唇を重ねたまま、噛みつくように彼女の顎が小さく開閉する。そのたびに少年の唇をマンティスの唇が撫でていき、快感が生じた。
そして、たっぷりと少年の唇に食らいついてから、マンティスは顔を上げた。
「・・・・・・!」
呼吸を乱れさせ、小さく肩を上下させながら見下ろす彼女の顔つきが、一変していた。
赤みを帯びながらも無表情であった先ほどとは違い、明らかに感情が彼女の顔に宿っていたのだ。
瞳は興奮に潤み、眉尻は下がって優しげなラインを描き、口元には嬉しげな、小さな笑みが浮かんでいた。
「・・・ぁああっ!」
マンティスの表情に見とれていると、『胴』に飲み込まれたままの肉棒が揉まれた。
彼女が『胴』の内側の肉襞を波打たせたのだ。
「あ・・・!また、大きく・・・!」
肉棒に吸いつき、揉み立てられる感触に、少年は自信の分身が再び勃起していくのを感じていた。
彼は意識をさいなむ快感に、眉間に皺を寄せて声を上げた。
「・・・!」
少年の痴態に、マンティスはたまらないといった様子で再び上半身を倒した。
だが、今度は両手を少年の側の地面につき、体全体を倒して覆い被さるようにしながらだ。
肉棒を咥えたままの『胴』が湾曲し、少年の体がマンティスの肉体の下敷きになる。
体格差と『胴』のズレがあるため、少年の顔がマンティスの乳房の間に埋まった。
「・・・んっ!?んぁ・・・!」
マンティスは膝と両手をついているものの、彼女は遠慮なく乳房を少年の顔に押し当てているため、少年の声が不明瞭に響いた。
すべすべとした、布のようなものに覆われた乳房が少年を押しつぶし、彼女の匂いをたっぷりと彼に伝える。
「・・・っ・・・!」
マンティスのもたらす息苦しさに、思わず少年はもがいた。
両手両足がむなしく落ち葉のつもった地面をひっかき、彼の胴がマンティスを小さく押し上げる。
体格の差と、人間と魔物の違いの前には、全く意味のない抵抗であった。
だが、彼の腰が小さく跳ね、マンティスの『胴』を突き上げる。
粘膜で包み込んでいた肉棒の不意の動きは、マンティスに予想外の快感をもたらした。
「・・・!」
マンティスの背筋が小さく反り、少年の顔に乳房が強く押しつけられる。
増した圧迫感に彼はなおもがき、その動きがマンティスを刺激する。
快感と息苦しさの応酬が続き、少年とマンティスの心臓の鼓動が高まっていく。
マンティスは少年のもたらす快感によって。
少年は、彼女の乳房のもたらす息苦しさと、肉棒に絡みつく粘膜の刺激によって。
マンティスの眉根が悩ましげに寄せられ、少年の屹立が『胴』内で脈打つ。
息苦しさとマンティスの匂いに、やがて少年の意識が朦朧としていった。
そして、呼吸が妨げられるという生命の危機と、肉棒にもたらされる快感に、彼の肉体は意識の束縛を離れ、絶頂に至った。
「・・・っ・・・!」
マンティスの体の下で、もがいていた少年の体が不意に硬直し、指先が小さく痙攣した。
同時に、少年の肉棒から白濁が、彼女の『胴』の内側に迸った。
「・・・ぁ・・・!」
『胴』の中に再びそそぎ込まれる、熱い粘液の感触に、マンティスの唇が開き、か細い声が漏れた。
マンティスと少年の二人は、全身を硬直させ、射精のもたらす快感に身を浸していた。
やがて、少年の肉棒の脈動が収まり、少年の全身が弛緩する。
同時に、彼の意識が薄れ始めた。
立て続けの射精に、ようやく男となった少年の体と精神が限界を迎えたためだ。
急速に暗くなっていく意識の中、少年はマンティスの匂いに包まれたまま、意識を手放した。
それからしばらくして、少年は森の中を歩いていた。
彼の傍らにマンティスが立ち、手をつなぎながら二人は歩いていた。
あの後、意識を取り戻した少年は、マンティスに頼んで森の出口へと案内してもらうよう頼んだのだ。
「・・・・・・」
マンティスは足を進めながら、時折少年の方を見下ろし、嬉しげににこにことしていた。
そこには、少年と初めてあったときのような、感情の宿っていない無機質な美しさはなかったが、ふと目があった瞬間少年の心臓をどくんと跳ねさせるだけの異なる美があった。
「・・・・・・」
マンティスの視線を受けながら、少年は恥ずかしげに視線を前に向け、彼女の手を握る指に力を込めた。
先ほど体を重ねていたのも気持ちよかったが、こうして手をつないでいるだけでも心地よい。
できることなら、このままずっとつないでいたかった。
だが、二人が足を進める内、少年は森の景色に見覚えがあることに気がついた。出口が近いのだ。
マンティスが少年と手をつないでいない方の手首から鎌を出し、背の高い草を切り払うと、不意に視界が開けた。
草の向こうにあったのは、草原と田園と、少年の住む村だった。
もう、森を出たに等しかった。
「あ、ありがとう・・・」
少年はマンティスを見上げると、そう礼の言葉を口にした。
通じたらしく、マンティスは笑みを深め、少年を見下ろす。
森を出られたという嬉しさが少年の内にあったが、素直に喜ぶことはできなかった。
森を出たら、彼女と別れなければならないからだ。
このまま森に戻り、彼女と一緒に過ごしたい。
だが、家族と会いたいという気持ちもあった。
マンティスへの気持ちと、家族への気持ちに、少年は揺れた。
「ねえ・・・」
「?」
少年の言葉に、マンティスが首を傾げた。
「その・・・森を出て、あの村で僕と一緒に暮らさない?」
頭に浮かんだ、ほとんど思いつきのアイデアを、少年は口にする。
「これから村では収穫の時期だし、君みたいな草刈りのうまい人はほしがられると思うんだ。だから・・・その・・・僕と一緒に、あの村にすんでください!」
マンティスと離れたくない。
家族や村とも分かれたくない。
その二つを成立させるための言葉を、少年は口にした。
「・・・・・・」
マンティスは、しばし考え込むと小さく頷いた。
「え・・・じゃあ・・・!」
「・・・・・・」
顔を輝かせる少年に、マンティスは自分の顔を指すと、続けて腹の辺りを撫で、頭を下げた。
自分と子供をよろしくお願いします。
マンティスは、そういっているようだった。
「うん!まだ僕は子供だけど、がんばって君も、赤ちゃんも守るから!」
少年は彼女にそう言った。
彼女と子供のためならば、いくらでも自分の身を捧げよう。
今この瞬間、カマキリのオスの気持ちが、少年にはよくわかるようだった。
細長く鋭角的な姿に、両手に武器を備えたカマキリは、少年の好きな虫の一つであった。
だが、少年が見つけたカマキリは、少々様子がおかしかった。
普通ならば、カマキリはチョウなど他の虫を大きな鎌でとらえて食べる。
だがその二匹は違った。体格の大きな一方が、小柄なもう一方を捕らえ、かじっているのだ。
小さい方の抵抗もむなしく、すでに頭はなくなっていた。
「うわぁ・・・共食いかぁ・・・」
少年は、残酷きわまりないカマキリの食事にかすかな恐怖を抱きつつも、ある種の怖いもの見たさに目を離せなかった。
「おいどうした?」
少年の横から、彼の友人が声をかけた。
「カマキリ見つけたんだけど、共食いしてるんだよ。餌がないのかな?」
「共食い?バッタやらいくらでもいるだろうに・・・」
興味を引かれたのか、友人も少年の側に屈み込んで、二匹のカマキリを見た。
「ああ、こりゃ共食いじゃないよ。コービだ」
「コービ?」
友人の言葉に、少年は首を傾げた。
「ほら、このカマキリの尻尾の先、くっついてるだろ?」
友人の言うとおり、二匹の膨れた腹部の先端は、くっつきあっていた。
「デカい方がメスで、卵を生むためにコービしてるんだよ」
「へえ・・・でも、何でメスはオスを食べてるんだろう」
「それは、卵を作るための栄養が必要だからだよ。だから、オスもおとなしく食べられてるんだ」
「ふーん・・・」
メスとその卵のために身を捧げる。
カマキリは虫故恐怖を感じないのかもしれないが、それでもオスの献身は、少年には理解しがたいものだった。
「でも、人間もカマキリも似たもんだって、父ちゃんが言ってた。俺の一生は、母ちゃんと俺たちを食わせるためにあるんだ、ってね」
友人はそう会話を締めくくると、カマキリから興味を失ったのか立ち上がった。
「ほら、森に行ってみようぜ」
「ええ?でも、森は・・・」
足を踏み入れてはならないと、大人たちから口酸っぱく言われているため、少年は友人の誘いに渋った。
「大丈夫だって。それに、何年か前に森でデケエバッタ掴まえた奴がいるって、兄ちゃんから聞いたんだ。俺たちも掴まえてやろうぜ」
「バッタ・・・」
バッタも、少年にとっては好きな虫の一つだった。
それどころか、ただのバッタではなく大きなバッタだという。
少年の心の天秤は、バッタに大きく傾いていた。
「いこうか」
「そうこなくっちゃ!」
少年の返答に、友人は嬉しげに応じると駆けだした。
「あ、待ってよ!」
少年が遅れて、友人の背を追って走り出す。
後には、交尾を続けたままオスをかじり続けるメスのカマキリが取り残された。
それから、少年が友人とはぐれ、森の中を一人でさまようのに、一時間とかからなかった。
森に入る前は、『大人たちは楽しい遊び場所に行くのをじゃましている』などと友人と決めつけていたが、今では禁じられている理由がよくわかる。
方向感覚が消失するのだ。
どっちから森に入り、どう進んできたのか、もはや少年にはわからなかった。
「おーい・・・どこー・・・?」
はぐれた友人を探そうと声を上げるが、その声は心細さを表すように細く小さく、木々の間に消えていった。
がさがさと落ち葉を踏みならし、草をかき分けながら少年は足を進めていく。
森を出ようとしているのか、友人を捜そうとしているのか、その両方か。
少年は森の中をさまよっていた。
すると、不意に前方の草むらが小さく揺れ、音を立てた。
「っ!?」
不意の物音に、少年は身をこわばらせた。
風ではない。風の音ならば、頭上の木々の枝も揺れるし、草ももっと広く揺れるはずだ。
だが、先ほどの揺れは、あきらかに何かが揺らした音だった。
「だ、誰・・・?」
少年は足を止め、先ほど揺れた草のあたりに向けて、そう声をかけていた。
「ねえ・・・誰かいるの・・・?」
不安感のあまり、友人だという可能性を忘れ去り、それでいて言葉が通じる相手であるという期待を込めて、彼は呼びかけた。
だが、正面の草むらから、返答するものはなかった。
「リスかなにかだよね・・・」
言葉の通じない動物。それも自分に無害な小動物の立てた音だと、少年は自信を納得させようとした。
だが、自らにそう言い聞かせている間に、彼の傍らの草むらを突き破り、緑色の何かが彼に襲いかかった。
「わ・・・!?」
驚きのあまり悲鳴を途中でかき消されながら、少年は襲いかかってきた何かに押し倒される。
数年分の落ち葉が降りつもってできた地面に、彼は仰向けに横たわった。
「あぁ・・・あ・・・!」
混乱と恐怖に目を白黒させながら、少年は自分に覆い被さる者を見た。
それは、美しい顔立ちの女性だった。
少年より年上の、大人に足を踏み入れた、緑髪の女性。
こめかみの上のあたりに、楕円形の光沢を帯びた何かを付けており、髪の間からは二本の突起が飛び出ていた。
だが、そんな点も気にならないほど、少年は女性に見とれていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
口をぽかんと開き、惚けた様子で見上げる少年。
瞳に何の色も浮かべず、ただ見下ろす女。
二人の視線が無言のまま絡み合っていた。
すると、不意に女性が右手を掲げた。
女性的なラインを描く鎧の籠手のような物に覆われた、ほっそりとした右手だ。
すらりと長い右手は、少年が知る女性の誰よりも魅力的であった。
だが、少年が彼女の右手を見るうち、彼女の手首から何かが飛び出た。
肘から手首までの長さはあろうかという、緩く湾曲した緑色の刃だ。
まるで、大きな鎌のようだ。
その瞬間、少年は目の前の女性が人間ではないことをようやく悟り、その正体に思い至った。
緑の甲殻をまとい、鎌を備えた魔物。マンティスだ。
人の姿こそしている物の、目の前にいるのは人間大のカマキリだ。
「うわああ・・・」
カマキリが獲物を捕らえたらどうするか。少年は遅れて芽生えてきた恐怖に、身を震わせた。
「・・・」
マンティスは、少年の首のあたりに、鋭く尖った鎌の先端を触れさせた。
少年の柔らかなのどの皮膚に浅く刃が食い込み、甲殻を通じて彼女の温もりが伝わる。
甲殻越しの仄かな体温など普段ならば感じないのだろうが、、全身をぬらす冷や汗と全身の震えが、少年の全身を冷え切らせていたため感じられたのだ。
刻まれて、食われる。
少年は恐怖に震えながらも、心のどこかで覚悟を決めた。
直後、マンティスの右腕が喉から腹の方へ、一直線に動いていった。
皮膚を擦っていく感触を残して、刃の通った後に冷気が生じる。
喉から腹を切り裂かれ、体の内側に冷えた秋の空気が入り込んでいるのだ。少年はぎゅっと目をつぶり、遅れてくるだろう痛みがそう強いものでないよう祈った。
だが、いくら待てども痛みはこず、ただ冷たさだけが取り残されていた。
「・・・あ、れ・・・?」
少年は薄く目を開くと、顔を少しだけ持ち上げて自分の体を見た。
身にまとったシャツやズボンには縦一文字の切り目が入っていたが、土汚れの他は何の染みも付いていない。
つまり、血が出てないということだ。
「え?」
少年が混乱していると、マンティスは右手の鎌を腕の中に引っ込め、緑の甲殻に覆われた指をシャツに触れさせた。
左右に切られたシャツが広げられ、少年の傷一つない上半身が露わになる。
マンティスは、服だけを切ったのだ。
自分が怪我をしていないという事実に、少年は安堵感を覚えた。しかし直後、少年の脳裏に次の疑問が浮かび上がる。何のために、マンティスは自分の服だけを切ったのか。
少年の疑問をよそに、マンティスは少年を跨ぐように立ち上がった。
すらりとした両足が伸び、濃い緑色の薄い布のように覆われた引き締まった腹から胸、肩から腕へと続く甲殻、そして肩の上の整った顔までが少年の目にさらされる。
少年が地面に横倒しになっているせいもあるだろうが、彼女は見上げるほど大きく、つい先ほどまでの恐怖を忘れるほど美しい体つきだった。
彼女は少年の腹の辺りを跨いだままひざを曲げると、ゆっくりと腰を下ろし始めた。
太腿が左右に広がり、胸や腹を包む濃い緑色の薄布に覆われた股間が迫ってくる。
布越しとはいえ、ほぼ初めて見るに等しい女性の股間であったが、少年の目は彼女の両足の付け根ではなく、その向こうに向けられていた。
両足を広げることで露わになった、尻の丸いラインの向こう。楕円形の何かが彼女の尻から下がっていたのだ。
筒型の甲殻が何段にも重なり、滑らかな流線を描く楕円形の器官を構成している。
カマキリの胴に比べると遙かに寸詰まりではあったが、少年はそこがマンティスにとってカマキリの胴のようなものだと悟った。
そして、『胴』の先端、普段は閉じているのであろう甲殻が開き、桃色の肉がさらされているのを、少年は見た。
ひくひくと甲殻の内側の肉を蠢かせながら、マンティスは腰を下ろしていく。
やがて、『胴』の先端が少年の剥き出しの腹に触れた。
最初に感じたのは、腹を唇で吸われたような吸着感だった。
『胴』の先端の穴が、少年の腹の肌をちゅうちゅうと吸っているのだ。
「・・・・・・」
マンティスは無言のまま腰を上下させ、『胴』の先端を付けては離しを繰り返した。
「な、なにこれ・・・」
意味の分からないマンティスの行動に、少年は不安を覚える。だが同時に、腹に吸いつく柔らかな肉穴の縁と、マンティスが腰を上げた際に見える『胴』の先端は、彼の胸中にもやもやした物をもたらした。
今まで感じたことのない、感情とも感触ともつかない物が、彼の内側で大きくなっていく。
「や、やだ・・・」
自分が変わりつつあるという実感に、少年は思わずそう声を漏らしていた。
しかし、マンティスは動きを止めず、少年の腹を『胴』の先端で吸い続けていた。
「・・・・・・」
幾度かの奇妙な接吻を繰り返したところで、マンティスが大きく腰を上げた。
彼女の『胴』に隠れて見えなかった彼の股間のあたりが、少年の目に入る。
下着ごとズボンを切り裂かれているため、少年の肉棒が露わになっていた。
先ほどから妙にむずむずしていた少年のそこは、なぜか大きく膨らんでいた。
「な、な・・・」
自信の肉体の変貌に、少年は声を漏らした。
今まで幾度かそこが膨れたことはあったが、なぜこのタイミングで。
少年の脳裏を疑問が巡るが、マンティスは少年が答えを出す前に、腰を下ろした。
未熟な少年の肉棒が、マンティスの『胴』の穴に飲み込まれていく。
「ああ・・・ああ・・・!」
少年は、幼い屹立を飲み込んでいく肉穴に、そう声を上げた。
なま暖かく、濡れて柔らかな感触が少年の肉棒を包み込み、少年の背筋をゾクゾクと何かがなで上げていった。
やがて、少年の肉棒は根本までマンティスの『胴』に飲み込まれた。
最大限に勃起してるにも関わらず、まだ皮を被ったままの肉棒を、『胴』の肉がきゅっと締め付ける。
その瞬間、彼の腹の底から何かがわき起こり、肉棒の内側を駆け上っていった。
「お、おしっこ・・・でちゃう・・・!」
強烈な尿意にも似た感覚に、少年は思わずそう漏らし、マンティスの体内に何かを迸らせた。
「あああ!」
初めての性的絶頂と、初めての射精を同時に迎え、少年は悲鳴めいたあえぎ声をあげた。
絶頂感に揺さぶられる意識の中、尿道を擦る、妙に固い液体の感触に、少年は自分が尿以外の物を出したことを悟った。
だが、意識の片隅でそんなことを認識しても、射精が収まるわけでもなく、少年は白濁を彼女の『胴』内に迸らせた。
「ああぁ!あぁっ!ああぁ・・・!あぁ・・・!あ・・・ぁ・・・!あ・・・」
どくん、と尿道から粘液が迸る度、少年の口から嬌声が溢れ、勢いが弱まるにつれ声も小さくなっていった。
そして、少年の初めての絶頂が収まった。
「あぁ・・・ぁ・・・ぁ・・・」
全身を満たす倦怠感と、射精の余韻の鈍い快感に身を浸しながら、少年は途切れ途切れの声を漏らした。
指一本動かせないほどの疲労が、彼を満たしている。
その一方で、彼の意識は妙に冷静だった。体は動かず、口からはあえぎ声のなり損ないしかでないが、彼の意識はマンティスが何をしたのかを類推していた。
カマキリの胴に当たるマンティスの『胴』の先端。そこと少年の肉棒がつながった。
季節は秋でカマキリは卵を生むために交尾をしている。ということはマンティスも今の時期、卵を生むために交尾をするのだろう。
そして今、マンティスは少年と交尾をした。
カマキリの交尾の先に待っているのは、メスのためにオスが身を捧げる究極の献身だ。
では、マンティスと交尾した少年を待っているのは・・・
「あ・・・」
少年は、自分の運命を悟り、小さく声を漏らした。
だが、不思議と恐怖感はなかった。マンティスのもたらした快感のおかげで、意識のどこかがマヒしているのかもしれない。
それでも、少年の内には恐怖より、美しいマンティスに元気な子を産んでほしいという、期待のような物があった。
精通を迎え、童貞をマンティスに捧げたおかげだろうか。
少年は、どこか穏やかな心で、マンティスを見上げていた。
「・・・・・・」
マンティスは、『胴』の中に少年の肉棒を納めたまま、彼を見下ろしていた。
しかし、草むらから飛び出して少年を押し倒したときとは異なり、その頬には微かな赤みを帯びている。
少年との交尾の快感の残滓だろうか。少年には、先ほどまでは何の感情も宿っていなかったその瞳が、微かに濡れているようにも見えた。
すると、マンティスが少年の顔に向けて、上半身を倒してゆっくりと顔を近づけてきた。
身を捧げるときがきたのだ。
鎌でひと思いにしとめるのではなく、カマキリのようにかじるつもりらしい。
少年は胸中で、あまり痛くないといいなあ、と思った。そこに恐怖感はなかった。
「・・・」
マンティスの唇が薄く開き、彼女の顔が少年の視界一杯に広がる。
そして、少年の唇とマンティスの唇が重なった。
食われることへの恐怖はないものの、痛みへの覚悟をしていた少年にとって、マンティスの唇の柔らかさは虚を突かれるようだった。
彼女の唇の柔らかさが意識に流れ込み、遅れて自分とマンティスがキスをしていることに、彼は気がついた。
「・・・っ・・・」
唇を重ねたまま、噛みつくように彼女の顎が小さく開閉する。そのたびに少年の唇をマンティスの唇が撫でていき、快感が生じた。
そして、たっぷりと少年の唇に食らいついてから、マンティスは顔を上げた。
「・・・・・・!」
呼吸を乱れさせ、小さく肩を上下させながら見下ろす彼女の顔つきが、一変していた。
赤みを帯びながらも無表情であった先ほどとは違い、明らかに感情が彼女の顔に宿っていたのだ。
瞳は興奮に潤み、眉尻は下がって優しげなラインを描き、口元には嬉しげな、小さな笑みが浮かんでいた。
「・・・ぁああっ!」
マンティスの表情に見とれていると、『胴』に飲み込まれたままの肉棒が揉まれた。
彼女が『胴』の内側の肉襞を波打たせたのだ。
「あ・・・!また、大きく・・・!」
肉棒に吸いつき、揉み立てられる感触に、少年は自信の分身が再び勃起していくのを感じていた。
彼は意識をさいなむ快感に、眉間に皺を寄せて声を上げた。
「・・・!」
少年の痴態に、マンティスはたまらないといった様子で再び上半身を倒した。
だが、今度は両手を少年の側の地面につき、体全体を倒して覆い被さるようにしながらだ。
肉棒を咥えたままの『胴』が湾曲し、少年の体がマンティスの肉体の下敷きになる。
体格差と『胴』のズレがあるため、少年の顔がマンティスの乳房の間に埋まった。
「・・・んっ!?んぁ・・・!」
マンティスは膝と両手をついているものの、彼女は遠慮なく乳房を少年の顔に押し当てているため、少年の声が不明瞭に響いた。
すべすべとした、布のようなものに覆われた乳房が少年を押しつぶし、彼女の匂いをたっぷりと彼に伝える。
「・・・っ・・・!」
マンティスのもたらす息苦しさに、思わず少年はもがいた。
両手両足がむなしく落ち葉のつもった地面をひっかき、彼の胴がマンティスを小さく押し上げる。
体格の差と、人間と魔物の違いの前には、全く意味のない抵抗であった。
だが、彼の腰が小さく跳ね、マンティスの『胴』を突き上げる。
粘膜で包み込んでいた肉棒の不意の動きは、マンティスに予想外の快感をもたらした。
「・・・!」
マンティスの背筋が小さく反り、少年の顔に乳房が強く押しつけられる。
増した圧迫感に彼はなおもがき、その動きがマンティスを刺激する。
快感と息苦しさの応酬が続き、少年とマンティスの心臓の鼓動が高まっていく。
マンティスは少年のもたらす快感によって。
少年は、彼女の乳房のもたらす息苦しさと、肉棒に絡みつく粘膜の刺激によって。
マンティスの眉根が悩ましげに寄せられ、少年の屹立が『胴』内で脈打つ。
息苦しさとマンティスの匂いに、やがて少年の意識が朦朧としていった。
そして、呼吸が妨げられるという生命の危機と、肉棒にもたらされる快感に、彼の肉体は意識の束縛を離れ、絶頂に至った。
「・・・っ・・・!」
マンティスの体の下で、もがいていた少年の体が不意に硬直し、指先が小さく痙攣した。
同時に、少年の肉棒から白濁が、彼女の『胴』の内側に迸った。
「・・・ぁ・・・!」
『胴』の中に再びそそぎ込まれる、熱い粘液の感触に、マンティスの唇が開き、か細い声が漏れた。
マンティスと少年の二人は、全身を硬直させ、射精のもたらす快感に身を浸していた。
やがて、少年の肉棒の脈動が収まり、少年の全身が弛緩する。
同時に、彼の意識が薄れ始めた。
立て続けの射精に、ようやく男となった少年の体と精神が限界を迎えたためだ。
急速に暗くなっていく意識の中、少年はマンティスの匂いに包まれたまま、意識を手放した。
それからしばらくして、少年は森の中を歩いていた。
彼の傍らにマンティスが立ち、手をつなぎながら二人は歩いていた。
あの後、意識を取り戻した少年は、マンティスに頼んで森の出口へと案内してもらうよう頼んだのだ。
「・・・・・・」
マンティスは足を進めながら、時折少年の方を見下ろし、嬉しげににこにことしていた。
そこには、少年と初めてあったときのような、感情の宿っていない無機質な美しさはなかったが、ふと目があった瞬間少年の心臓をどくんと跳ねさせるだけの異なる美があった。
「・・・・・・」
マンティスの視線を受けながら、少年は恥ずかしげに視線を前に向け、彼女の手を握る指に力を込めた。
先ほど体を重ねていたのも気持ちよかったが、こうして手をつないでいるだけでも心地よい。
できることなら、このままずっとつないでいたかった。
だが、二人が足を進める内、少年は森の景色に見覚えがあることに気がついた。出口が近いのだ。
マンティスが少年と手をつないでいない方の手首から鎌を出し、背の高い草を切り払うと、不意に視界が開けた。
草の向こうにあったのは、草原と田園と、少年の住む村だった。
もう、森を出たに等しかった。
「あ、ありがとう・・・」
少年はマンティスを見上げると、そう礼の言葉を口にした。
通じたらしく、マンティスは笑みを深め、少年を見下ろす。
森を出られたという嬉しさが少年の内にあったが、素直に喜ぶことはできなかった。
森を出たら、彼女と別れなければならないからだ。
このまま森に戻り、彼女と一緒に過ごしたい。
だが、家族と会いたいという気持ちもあった。
マンティスへの気持ちと、家族への気持ちに、少年は揺れた。
「ねえ・・・」
「?」
少年の言葉に、マンティスが首を傾げた。
「その・・・森を出て、あの村で僕と一緒に暮らさない?」
頭に浮かんだ、ほとんど思いつきのアイデアを、少年は口にする。
「これから村では収穫の時期だし、君みたいな草刈りのうまい人はほしがられると思うんだ。だから・・・その・・・僕と一緒に、あの村にすんでください!」
マンティスと離れたくない。
家族や村とも分かれたくない。
その二つを成立させるための言葉を、少年は口にした。
「・・・・・・」
マンティスは、しばし考え込むと小さく頷いた。
「え・・・じゃあ・・・!」
「・・・・・・」
顔を輝かせる少年に、マンティスは自分の顔を指すと、続けて腹の辺りを撫で、頭を下げた。
自分と子供をよろしくお願いします。
マンティスは、そういっているようだった。
「うん!まだ僕は子供だけど、がんばって君も、赤ちゃんも守るから!」
少年は彼女にそう言った。
彼女と子供のためならば、いくらでも自分の身を捧げよう。
今この瞬間、カマキリのオスの気持ちが、少年にはよくわかるようだった。
12/12/16 17:57更新 / 十二屋月蝕
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