連載小説
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(81)カリュディプス
青い青い海の底、わたしは家からおへそより上を出して、上を見ていました。
銀色の海面には、大きな影が一つ浮かんでいます。
お船です。
「オラ!ちゃんと渦起こせよ!」
「沈められなかったら、分かってんだろうな!」
「うぅぅ・・・」
いつものように、スキュラさんたちに脅されながら、わたしは両手を上に向けました。
すこしだけあたりの海に力を込めると、わたしの中から何かがなくなっていきます。
そのかわり、ゆっくりと海水が動き始めました。最初は小さな水の流れです。ですけど、流れは少しずつあたりの海水を巻き込んで大きくなり、大きな大きな渦巻きになりました。
海面に浮かんでいたお船は、わたしの作った渦巻きに、くるくると回り始めました。
「よーし、そのままだ・・・」
「いいぞ、いいぞ・・・」
わたしの家の近くにいるスキュラさんたちが、くるくる回る船を見上げながら目を輝かせました。
そして、ついにお船がくるりとひっくり返りました。
船に積まれていたモノと一緒に、人が海の中に投げ出されます。
渦巻きに抵抗し、必死に海面にとどまろうとする人。渦に巻き込まれて、海底へ吸い込まれていく人。
そんな人たちの影に向かって、わたしの家のそばにいたスキュラさんたちが、一斉に泳ぎ出しました。
ゆっくりと沈んでくる人を抱きしめたり、海面でもがく人を職種で絡めたり、人を捕まえていきます。
「ありがとー、カリュディプスちゃん!」
「あんたもいい人見つかるといいわねー!」
人を捕まえたスキュラさんが、泳ぎながらわたしに手を振り、渦から離れていきました。
そして、泳ぐスキュラさんたちの姿が一つ、また一つと離れていき、諦めたように最後の何人かが渦を離れました。
後には、ゆっくり沈んでくる荷物と、海面に浮かぶ船と荷物ぐらいしかありません。
今日も、男の人は沈んできませんでした。
「うぅぅ・・・」
きゅぅぅ、と鳴るお腹に、わたしは泣きたくなりました。
カリュディプスの渦は、男の人を捕まえるためのものです。スキュラさんに旦那さんを用意するためのものじゃありません。
でも、でも。
「お腹すいたよ・・・」
また、海草で我慢しなければいけません。でも、もしかしたら今ひっくり返したお船から、何かいいものが沈んでくるかもしれません。
「何かないかなあ・・・」
わたしは海面の方を見上げました。
すると、渦が収まり、動きがゆっくりになった船の影から、大きな何かが沈んでくるのが見えました。
最初に見えたのは、太くて長い鎖。
そしてその上にくっついていたのは、男の人でした。



頭痛がする。そして息苦しい。気持ち悪い。
だが、一番耐え難かったのは、頭の中で響く声だった。
「ええか、ワシもこないなことするのはイヤなんや。やけどオジキの命令やからな、堪忍してな」
声だけで俺の目の前に、太った男の姿が浮かび上がる。太った男が背にしているのは大海原と青空に数人の手下で、俺とともに船に乗っているのが分かる。
そして、俺がいるのは船の縁だった。
足首を貫くフックの痛みさえもがよみがえってきた。
「幸いなことに、ワシの仕事はお前を海に突き落とすことやない、確かめることや」
太った男は、俺の痛みにもかまうことなく、大仰な調子で続けた。
「お前がお利口さんやったら、助けたる。アホやったら、この鎖を海にザブンでバイナラ、や」
その言葉に、俺は足首を貫くフックの先に、長く太い鎖が続いていることを思い出した。
この長さと太さでは、鎖を船の縁から海に落とされれば、引きずられて俺も海に落ちる。
「お前が賢いかどうかは、ワシが出すお題によって確かめる。ワシの出すお題に、四秒以内に六文字で答えて、ワシを笑わせられればセーフや。ええな?」
「は、はい・・・」
俺の口がかって動き、震える声でそう紡いだ。
「よし、はじめよか」
太った男は、両目を閉じ眉間に皺を寄せると、数秒の間をおいて続けた。
「お前は、巨乳に代わる画期的なデカ乳の呼び名を思いついた。それは何や?」
「・・・・・・ブラストボム!」
三秒考えての返答だった。
だが、太った男は薬とも笑わず、鎖に手を伸ばした。
「バイナラ」
だが、男の手が鎖にふれる寸前、船の乗組員が声を上げた。
「イナさん!海の様子が変です!」
「どうした、鯨でもでたか?」
「違います!渦潮です!」
太った男が面倒くさそうに答えるが、乗組員の声には妙な気迫が宿っていた。
「このままじゃ飲まれます!」
乗組員がそういった瞬間、船が傾き始めたのに俺は気がついた。
俺はとっさに船の縁に飛びつくと、両手両足で材木にしがみついた。
「貴様!アホウ!これから海にぼちゃんなのに、ンなことして何に」
「イナさん!早く何か丈夫なものにしがみついて!」
船員が、俺に向けて怒鳴る太った男に言うと同時に、甲板においてあった樽が、甲板を滑り始めた。
そして、何かに捕まることができなかった船員や、太った男の手下が、甲板を滑り落ちていく。
悲鳴が上がり、何かが落ちたらしい水音が響く。
だが、もはや俺には誰や何が落ちていったか、見る余裕はなかった。
船の縁にしがみついているので精一杯だった。
やがて、鎖がじゃらじゃらと音を立てて海面に向けて垂れ下がり、足が思い切り引っ張られる。
一瞬、足がちぎれるのではないかと思うほどの重みが加わるが、どうにか耐えた。
そのまま、垂直になっていく船にしがみつく。
海面に落ちた誰かの悲鳴が、耳を打つ。
そして、青空を眼下にとらえたところで、俺の両腕は限界に達した。
「く・・・!」
小さく呻くと同時に、俺の指が船の縁をはなした。
海水面にたたきつけられる瞬間は、感じなかった。


「・・・っ!?」
全身を打つはずだった、幻覚の衝撃に、俺は目を覚ました。
飛び起きると、どこかの大きな建物の中にいた。
円形の床に、壁からなめらかに続く半球形の天井。どこかの寺院だろうか。
だが、壁には扉や窓のようなものはなく、壁面に取り付けられた螺旋階段が、天井の頂点に取り付けられた円形の落とし戸のようなものに続いていた。
そして俺は、円形の床の一角におかれた、ベッドの上に横たわっていた。
「ここは・・・?」
「あ、目が覚めましたね!」
「っ!?」
不意に響いた声に横を向くと、そこには少女が一人たっていた。
体の各所に、フジツボのようなものを取り付けているほかには、何も身につけていない少女。
彼女の両足の付け根の筋に視線がすい寄せられ、俺は思わず目をそらした。
「ええと、俺の記憶が正しければ、俺は海に落ちたはずだけど・・・君が助けてくれたのかな?」
「はい、そうです」
そっぽを向いたままの俺の問いかけに、少女は視界の外から肯定した。
「それはありがとう。本当は君の方を向いて言わなければいけないんだろうけど、勘弁してほしい」
「何でですか?」
「君がほぼ全裸だからだ」
「?」
おそらく首を傾げているのだろう。
「とにかく、助かった。ありがとう・・・それで、僕のほかに助かった人っている?」
重要なのは、あの太った男の安否だ。奴が生きていたら、また海にたたき込まれる前に、逃れないと。
「他の人は、その・・・みんなスキュラさんに連れて行かれました・・・」
「スキュラ?」
海に生息する、触手を有する魔物だ。
「全員?」
「はい。スキュラさんがいなくなった後で、わたしがあなたを見つけましたから」
「そうか、全員か・・・ははは、あのデブめ、ザマミーロ」
魔物に連れて行かれた、という太った男の末路に、僕は痛快な気分になった。
「スキュラに連れて行かれたら、誰も生きて地上に帰ってはこないよね?」
「どうでしょう。スキュラさんたち、お婿さん捜しているだけですから、スキュラさんによっては結婚して落ち着いてから、陸にお家を造るかもしれません」
「何だと、結婚だと」
しかも彼女の口振りからすると、全員生きてるようだ。
「どうしよう・・・とっとと逃げないと・・・」
あの太った男が、彼を捕まえたスキュラの同意を得ることができれば、すぐにでも俺を捕まえにくるかもしれないのだ。
「どうしてですか?」
僕の漏らしたつぶやきに、少女が問いかける。
「ああ、実はあの船で、俺はもうすぐ殺されるところだったんだ。今は命が助かっているけど、船の連中が生きているなら、俺を捜しにくるかもしれないんだ」
「それなら大丈夫ですよ。ここは海の底ですし、この家にくるのも旦那さんのいないスキュラさんだけですし」
「・・・ん・・・?」
少女の言葉に、俺は違和感を覚えた。
「海の底?」
「はい」
「スキュラしかこない?」
「はい」
「どうして?」
「わたしがカリュディプスで、スキュラさんたちは旦那さんを手に入れるためにわたしに渦巻き作らせるからです」
少女の言葉に、俺は明後日の方向に向けていた顔を、彼女に向けた。
僕の視線の先には、一糸纏わぬ姿の、各所にフジツボのようなものを張り付けた少女が立っていた。
カリュディプス。フジツボ型の魔物。
「本物・・・?」
「はい!ほらほら!」
彼女は俺に向けて肘を見せつけるようにつきだした。折り曲げられた肘の先端には、フジツボ型の何かが張り付いている。
「ほら、ここ見ていてください・・・」
少女が、うーんと力を込めると、フジツボめいたなにかの蓋が開き、こぽっと豆粒のような泡がでた。
桃色をした小さな泡は、ふわふわと天井に向かって浮いていった。
ただ、それだけだった。
「うーん、やっぱり・・・」
少女は自らの出した桃色の泡を見上げると、そうつぶやいた。
「ほんのついさっき、お船をひっくり返すために渦巻きを作って、魔力を大分使っちゃったんです」
彼女はベッドに歩み寄って乗ると、両足を広げて、俺に剥き出しの股間を向けた。
「だから、ほら・・・」
股間の縦一筋の、幼さと無垢そのものといった女陰に指を当て、左右に広げると、桃色の内側とともに、再び桃色の泡がでた。
フジツボからでたものより、多少大きかったものの、人差し指と親指で作った輪ほどの大きさもなく、ふわふわと天井に浮いていった。
「うん・・・これだけしか出ません・・・」
股間から生じた泡を見送りながら、彼女は言った。
「ええと、今のは?」
「魔力です」
カリュディプスの少女は、俺の質問に答えた。
「わたしの魔力が泡の形で出てきてるんです。そして、おまたからの魔力は特別で、男の人を簡単に虜にできるんです」
「虜に、ってどういう風に?」
「おかあさんによると、目を合わそうとしなかった男の人をその気にして、壊れるかと思うぐらいしてもらったって・・・」
何かを思い出すようにしながらの彼女の言葉に、俺は自分の様子を確かめた。
特に何ともない。意識は冷静だし、呼吸も心拍も落ち着いている。
あえて変化を挙げるなら、ベッドに腰を下ろす少女の姿を、特に何の抵抗もなく見られるようになったことぐらいだろうか。薄い胸の先端に咲く、桜色のつぼみがかわいい。
「でも、わたしの魔力が切れ気味だから・・・」
「俺にあまり効果が出なかった、と言うことか」
効果は出てますよ、お嬢さん。と、俺は頷きながら、内心で呟いた。
「せっかく男の人が来たのに、これじゃ精をもらえません・・・」
彼女は残念そうに言った。
「精って・・・」
「はい、男の人のおちんちんから出る、精です。何日もじっとしていれば、魔力はゆっくり回復しますけど、精を使えば一瞬で回復するそうです。でも、せっかくチャンスなのに魔力切れのせいで・・・」
ぽろぽろと、彼女は涙をこぼし始めた。
「ど、どうした!?」
突然の彼女の涙に、俺はうろたえつつ身を起こした。
「ごめん、なさい・・・自分が臆病な上に、運も悪いのがいやになって・・・」
「運は悪くないよ。だから泣くなよ」
彼女の漏らした魔力のせいかもしれないが、彼女が涙を浮かべると俺まで悲しくなってくる。俺は、彼女を懸命に慰めた。
「ほら、スキュラが男は大分連れていったって言うのに、俺を拾えただろ?」
「でも、魔力切れのせいで・・・わたしみたいなやせっぽちの体じゃ、男の人は興奮できないんですよね・・・?」
「するさ」
「スキュラさんたちがいつも・・・」
俺は何かを続ける彼女に顔を近づけると、唇を軽く彼女のそれに重ねた。
唇同士がふれあう程度のキス。だが、それだけで少女は目を見開き、体を固まらせた。
「あ・・・」
唇をはなした瞬間、少女が声を漏らした。
「興奮するし・・・俺はしてる」
突然のことに硬直する彼女を抱きしめ、俺は続ける。
「ほら、ドキドキしてるのがわかるか?」
胸に彼女の頭を押し当て、フジツボが体に当たるのを無視しながら問いかける。すると、彼女は俺の心拍を感じ、小さく頷いた。
「さっきの魔力のおかげかも。ほんの少しでも、こんなになってる」
ふわふわとした彼女の頭髪をなで、立ち上る甘い香りを嗅ぎながら、俺は続けた。
「だから、な・・・?」
少し腕の力を緩めて、彼女の頭を胸からはなすと、少女は俺の方を見上げてきた。
その頬には朱が差し、瞳はすこしだけとろんとしている。
幼い外見には似つかわしくない、興奮している女の顔だ。
「・・・・・・」
彼女は顔を赤らめたまま、自身の腹に当たる固いものを感じながら、小さく頷いた。
そういう趣味はないと思っていたが、たまらない。
俺は一度彼女を解放すると、ズボンの合わせ目を開き、勃起した肉棒を取り出した。
彼女の魔力と先ほどの抱擁のおかげで、そこはすでに破裂寸前までになっていた。
「これが、男の人の・・・」
カリュディプスの少女が目を見開き、興味深そうに俺の股間をのぞき込む。
すると彼女の剥き出しの背中から腰、そして小さなお尻までが俺の視界に入った。うん、かわいい。
「これが・・・女の人の中にはいるんですね・・・」
小さく脈打つ屹立を見ながら、彼女が言う。
「そうだ。そして、女の中で先っちょから精液を出して、赤ん坊を作る」
「そうなんだ・・・」
少女は、この屹立が自分の胎内に入る可能性から目を逸らしているのか、他人事のように感心していた。
「そして、竿の下・・・袋があるな?」
「はい」
「そこで精液を作って、貯めておくんだ」
「ここでですか・・・」
彼女は手を伸ばし、玉袋に軽くふれた。
「ふにゃふにゃで・・・中に何か二つ・・・」
「それが金玉、睾丸だな。あまり強くさわるなよ?」
「はい・・・」
彼女は興味津々な様子で、皮越しに睾丸を軽く転がした。
少女の手で弄ばれているという事実は、俺の腰から背筋にぞくぞくする快感を立ち上らせた。
「あ、動いた・・・!」
少女の指から逃れるように、屹立の付け根へゆっくりと移動する睾丸に、少女が声をあげる。
「うん、男は興奮してくると、そうやって睾丸が動く時もある」
「そうなんですか・・・」
「それじゃあ、そろそろ竿の方にいってみようか」
「はい・・・」
彼女端間袋から手を離すと、おずおずと肉棒に指をふれた。
指先と肉棒の接触の瞬間、屹立が小さく震えて、少女が声をあげた。
「きゃ・・・!」
「大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけだ」
「そうですか・・・それなら・・・!」
少女は意を決したように、肉棒を握った。
彼女の柔らかな手のひらが屹立の半ばほどを包み込み、その体温が伝わる。
「わ・・・固いのに、なんかちょっと柔らかくて・・・どきどきしてる・・・!」
肉棒の脈動にあわせて、彼女の手のひらが屹立を締めてはゆるめるような錯覚が伝わる。
「そのままゆっくり、手で擦るんだ」
「は、はい・・・」
カリュディプスの少女は、俺の指示に頷くと、おっかなびっくり下様子でゆっくりとしごき始めた。
ぎこちない、ゆっくりとした上下の摩擦。
正直なところ、自分でこんな調子で擦っていたら、射精する前に萎えてしまいそうだ。
だが、魔物とはいえ幼い少女が屹立に顔を寄せ、擦っていると言うだけで俺の興奮はどんどん高まっていった。
「ん・・・ふぅ・・・」
股間から生じる快感に、俺は小さく吐息を漏らし、身じろぎした。
だが、少女は俺の変化に気がつく様子もなく、変わらぬ調子で肉棒をいじり続ける。
そして、俺に限界が訪れた。
「も、もう出る・・・ぐ・・・う・・・!」
肉棒が震え、腹の奥から興奮が白濁となって噴出する。
白い迸りは、少女の顔に勢いよくぶつかっていった。
「きゃ・・・!熱・・・!」
精液を顔に合びながら、彼女は一瞬驚いたように声をあげる。
だが、白濁の放つ香りが何かを引き起こしたのか、少女の瞳がとろんと揺れる。
「・・・!」
彼女は小さな唇を開き、白濁を放ち続ける肉棒に顔を寄せると、亀頭を咥えた。
柔らかく暖かな唇の締め付けを受け、射精の勢いが増す。
「うお・・・!?」
射精の間に加えられた刺激と快感に、俺は声を漏らす。
だが彼女は、口内にほとばしる精液を受け止め、飲み込んでいくので一杯なようだった。
亀頭を咥え、指で竿をしごき、精液を搾り取っていく。
「んぐ・・・ん゛・・・!」
そそぎ込まれる精液の量が飲み込む量を上回ったためか、彼女が小さく呻いて体を震わせる。
だが、彼女は吐き出したりすることはせず、頬の内側に精液を溜めながら、小さくえずいた。
その動きさえもが快感となるが、俺の射精の勢いが弱まり、ついに迸りが止まる。
すると彼女は肉棒から唇をはなし、身を起こした。
「ん・・・んん・・・」
小さく声を漏らしながら、彼女は口中の粘液を何度かに分け、飲み込んでいく。
そして、最後の一口を飲み干して、彼女は口を開いた。
「ぷは・・・おいしい・・・」
顔に白濁をまとわりつかせ、精液臭い吐息とともに紡がれた声は、ひどく淫らだった。
「あ・・・まだ、こんなに・・・」
顔に張り付く粘液を指で掬いとり、唇へと運ぶ様に、肉棒が固さを取り戻していく。
「どう、だった・・・?」
俺は、内心の衝動を押さえ込みながら、そう彼女に問いかけた。
「はい、とってもおいしかったです・・・でも、まだ足りないから、今度は・・・」
彼女が顔を赤らめながら言葉を続けようとした瞬間、天井が鳴り響いた。
顔を上げると、天井にもうけられた丸い扉が、小さく揺れているのが見える。
「おい!カリュディプス!開けろ!」
「てめえ、男隠してやがるな!?」
扉の向こうから、複数の女の声が響き、激しく扉が打ちならされる。
「あれは・・・」
「スキュラさんたちです・・・たぶん、お兄さんのことがばれちゃったんでしょうね」
少女は天井から俺に目を向けると、小さく微笑んだ。
「一回だけですけど、精ありがとうございました」
「いや、何をいって・・・」
「スキュラさんたちにお兄さんを渡すんです。でないと・・・ひどいことされますから・・・」
彼女は諦念を込めた表情で、寂しげに笑った。
「お兄さん、ありがとうございました」
「いや、待て・・・」
俺は彼女の肩をつかみ、考えた。
このままでは、彼女はスキュラにいいようにこき使われ続ける。どうにかしなければ・・・。
「そうだ」
「?」
「いいか、こうするんだ」
疑問符を浮かべる彼女に、俺はこれからすべきことを伝えた。



うちならされる扉に近づき、開きます。
すると、拳を握ったスキュラさんが、一瞬びっくりした顔をしていました。
「おい、カリュディプス!」
スキュラさんの一人が、つかみかかりそうな勢いで声をあげました。
「おめえ、男を隠してやがるな!?」
「姉貴の旦那から聞いたぞ!さっきの船に、あともう一人いるってな!」
「だから、何ですか」
わたしの言葉に、スキュラさんたちは何を言われたかわからない、という顔をしました。
「・・・つまり、その男を出せ、っつってるんだよ!」
「なめた口きいてると、ひどいぞ!」
いつものわたしらしくない言葉に、少しだけペースを乱されたのか、スキュラさんたちはいつも以上にすごんで見せます。
「ひどい、ってなんですか。この家から追い出すとでも言うんですか?」
腰の後ろに手を回して、ぎゅっと握りながら、わたしは続けます。
「そしたら大変ですねえ。わたしがいないのに、スキュラさんたちはどうやって旦那さんを見つけるんですか?」
「・・・てめえ、何が言いたい・・・?」
大丈夫、大丈夫。睨みつけてくるスキュラさんの目を見返しながら、わたしは言いました。
「わたしがいないと旦那さんも見つけられない、スキュラさんかわいそう」
「てめえ・・・!」
スキュラさんの一人が、わたしに向かって手を振り上げました。
その瞬間、わたしはぎゅっと握っていた手を、そのスキュラさんに向けて突き出しました。
回復した魔力で、手の前の水を動かし、小さな渦を作ります。
小さく小さく、でも勢いだけは大きいものにも負けない、小さな渦です。
そして、スキュラさんが手を振りおろす瞬間、わたしは渦をスキュラさんのおなかに当てました。
渦がスキュラさんのお腹をたたき、回転の勢いをスキュラさんに伝えます。
すると、渦はスキュラさん自身を巻き込みながら、海面に向かって飛んでいきました。
「・・・・・・!」
悲鳴もなく、スキュラさんが離れていき、手を振り上げなかった方のスキュラさんが取り残されます。
「次は、ぐるぐる巻きにしますよ」
飛んでいった友達を呆然と見送っていたスキュラさんに、わたしは言いました。
するとスキュラさんは、びくんと体を震わせて、わたしの家から離れていきました。
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
スキュラさんが離れていくのを確認してから、わたしは扉を閉め、ため息をつきました。
「やったじゃないか」
わたしの後ろ、壁の階段に立っていたお兄さんが、パチパチと拍手しました。
「ちゃんと力があるんだから、スキュラを怖がる必要なんてなかっただろ?」
「ちょっと・・・怖かったです・・・」
「それも今日までだ」
そう。もう、スキュラさんを怖がって、言うことを聞かなくていいんです。
だって、お兄さんがいるから。
「さ、邪魔ものがこないうちに、続きといこうか」
「はい」
わたしは頷きました。
12/11/22 21:54更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
ロリコンじゃないのにロリに誘惑されるっていいよね。
もしくは健康的な細い腕や足にドキッとして、自分の暗い欲望に気がつくとかもいいよね。

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