(60)アマゾネス
シャリシャリと、玄関先から音が響いていた。
ふと玄関に出てみると、浅黒い肌の女が一人、庭と玄関の境ほどに屈み込んでいた。女は、僕の妻のアマゾネスであった。
彼女の前には小さな盥が置いてあり、傍らに広げられた布の上には、濡れた包丁が並んでいた。
「刃物を研いでるの?」
「うむ」
前後に小さく揺れる彼女の背中に声をかけると、アマゾネスは振り返りもせずに応じた。
「包丁の切れ味が落ちて、な」
「言ってくれれば僕が研いだのに。代わろうか?」
「いやいい」
僕の申し出に、彼女は首を振った。
「アマゾネスの集落では、自分の使うものは自分で手入れするのが掟だったからな。集落を離れて久しいが、この習慣は大事にしておきたい」そういう彼女の背中は、住む場所が変わっても、自身がアマゾネスであると主張しているようだった。
狩猟もできず、傷跡や入れ墨を衣服の下に隠し、褐色の肌や銀色の髪でしか出自を示せないと思っていたのに。
「・・・よし・・・」
砥石の上で前後に動かしていた手を止め、指を軽く包丁の刃に当てて鋭さを確かめると、彼女はそうつぶやいた。
どうやら、全部研ぎ終えたようだった。
彼女は刃物を布で丸めてまとめると、盥の水を捨ててから立ち上がった。
「ちょっと通してくれ」
「ああ、ごめんごめん」
玄関に向けて歩いてきた彼女のため道をあけてやると、アマゾネスは僕の横を通り抜けていった。
その瞬間、彼女の背中の半ばに届くほどの、緩やかに波打つ銀色の髪の毛に、僕は自然と手を伸ばしていた。
髪の半ば、うなじの辺りに触れ、そのまま毛先へ指を滑らせる。
さらさらとした感触が指先に残った。
「・・・・・・・・・」
彼女は言葉こそなかったものの、一瞬呼吸のペースを乱した。だが、僕に対し何か言うわけでも、一瞥するわけでもなく、そのまま玄関から家に上がっていった。
それから、僕と彼女は特に何事もなく、いつものように用事を片づけ、夕食や風呂をすませてベッドに入った。
いつもならば彼女が僕に手を伸ばし、互いの体をさぐり合うのだが、今夜は彼女が手を伸ばす様子はなかった。
もしかして、待っているのだろうか?年に一度あるかないかの、今夜は責められたい気分なのかと考えていると、ふと彼女が言葉を漏らした。
「なあ・・・昼間のあれ、いったい何だったんだ・・・?ずっと考えていたが、わからないんだ・・・」
「昼間のあれ?」
彼女の言葉に、僕は昼間にやったことを思い返した。
「ええと・・・」
「包丁を研いだ後のことだ。じらさないでくれ」
薄闇の中、彼女が唇を尖らせるのが語調だけでわかった。
「あー、あれかー・・・」
「なぜあのとき、私の髪に触れたんだ?尻とかなら、まだわからないでもないんだが・・・」
「ええとね、本当のことを言うと僕にもよくわからない。触りたくなったとか、そういう考えと関係なく、気が付いたら触ってたんだよ」
「・・・なんだ、それは・・・」
彼女の言葉に、若干の呆れが混じる。
「いやあ、でもたまにあるでしょ?きれいな泉を見つけたら水に手を入れていたとか、丹念に研がれた刃物を手渡されたら刃先に触れていたとか。そういうのに近いと思う」
そこまで言ってしまってから僕は、自分が割と恥ずかしいことを言っていることに気が付いたが、止めるつもりはなかった。
「つまり、あのときアマゾネスにもどっていた君の姿が、それだけきれいだったということかな」
「きれい、か・・・」
彼女はその一言を繰り返してから、ふふ、と小さく笑った。
「お前からは何度も言われたが、改めて口にされるとどうもこそばゆいな・・・だが、悪い気分じゃない」
もぞもぞと、闇の中で寝間着とシーツのこすれる音が響き、彼女が寝返りを打ったのがわかった。
「なあ・・・」
「ああ、その前に、一つだけいいかな?もう一度、髪を触らせてくれないかな?」
「むぅ・・・」
彼女が何か言おうとした瞬間、僕が口を挟んだことで、彼女の語調に戸惑いが混ざった。
「さっきの話で、また触りたくなっちゃったんだよ。代わりに大体のお願いは聞くから、ねえ・・・」
「仕方ない・・・好きなだけ撫でろ」
「ありがと」
僕はシーツの下で、少しだけ彼女に体を寄せた。
僕の予想通り、彼女は僕の方を向くように横になっており、彼女の膝や乳房が寝間着越しに僕の体に触れた。
僕も彼女に倣って横向きになると、彼女の頭に手を伸ばした。
薄闇の中におぼろげに浮かび上がる彼女の頭、こめかみの辺りから張り出す角の下の辺りに、指が触れる。
「ん・・・」
こめかみから耳に沿って後頭部に回り、うなじへと流れ落ちていく髪の毛に指を通すと、彼女が低く声を漏らした。
指先に触れるのは、直接目にせずともわかるほどさらさらした、緩やかにウェーブする彼女の髪の毛だ。
アマゾネスの集落にいたころは、手入れなど無頓着だったため、だいぶ固かった髪の毛だったが、今では極上の絹糸でも叶わぬほどのしなやかさとすべりを持っている。
元々の髪質が素晴らしかったのだろうが、環境と無知が原石の輝きを鈍らせていたのだ。事実、僕と知り合って髪の手入れを覚えてからと言うもの、彼女の銀髪は本物の銀のように艶を帯び、こっちに引っ越してからはしなやかさを手に入れた。
そして毎朝夕に鏡に向かい櫛を入れる彼女の姿は、いつもどこかうきうきとしている。彼女に聞いたところ、自分の手入れでいくらでもきれいになれるというのが楽しいらしい。もう一度、今度は僕の方から求婚したくなるじゃないか。
しかし、そんな気を抜けばもう一度求婚してしまいそうな日々の彼女のお手入れにも、一つだけ困ったことがある。
それは、僕がそこまで関われないと言うことだ。
確かに彼女と一緒に鏡台の前に立ち、彼女の代わりに僕が櫛を入れるという方法もある。しかしそれではあまり髪に触れないし、髪の手入れには本人の感覚に依るところも多いから、僕には手伝いレベルのことしかできない。
じゃあ、どうすればこの月光を紡いだがごとき奇跡の糸に、毎日触れることができるのだろう?
真っ暗なため色など全く見えないが、目を閉じれば脳裏に浮かぶ彼女の姿と、指先のさらさらとした感触を重ね合わせながら、僕は自問した。
「ふ・・・」
彼女が小さく息を漏らし、生温かな風が僕の首元を撫でる。決して、いや全く不快ではない。むしろ彼女が吐息を感じられる距離にいると言うだけで心地よいぐらいだ。
正直な話、こうして夜の間彼女とベッドに入って、彼女の温もりを感じられないと困るのだ。
こうして彼女の温もりを覚えていれば、昼間肌が触れることがなくても、彼女の姿を見、彼女の残り香を感じられるだけで温もりが思い出せる。
同様に、温もりがあれば姿が見えずとも脳裏に彼女の姿が浮かび、彼女のことを考えるだけで彼女の存在を感じられるのだ。
可能ならば昼も夜もなく四六時中感じあっていたいぐらいだが、この過酷な社会はそれを赦さない。それ故に、僕はこうして彼女と離れていても彼女分(僕の中に占める妻の成分。欠乏すると動悸、目眩、息切れ、不安感などの症状がでる。彼女との接触により補給可能)の欠乏を先延ばしする技術を生み出したのだ。
こうして、ベッドの中で触れ合い、彼女の香りを嗅ぎ、温もりを腕の中に抱き、まどろみの中で夜明けの光に照らされる彼女の姿を見るだけで、僕は一日頑張れるのだ。
逆に言うと、こうして髪の毛を念入りに触れる機会などそうそうないため、触れられるだけ触れて感触を覚えておかねば。彼女の身動きにあわせてさらさらと揺れる天の川の支流を見て、その感触を思い出せるように。
(ん?待てよ・・・今まで、僕は何を考えていた・・・?)
僕は一瞬、彼女の髪を撫でる手を止めて自問した。今、解決の糸口のようなものがつかめそうな気がしたからだ。
確か先ほどまで、彼女の日々の髪の手入れに関わりたいけど関われない、と困っていた。
だが、彼女の吐息が首筋を撫でた辺りからその思考を中断し、後で互換して感じられるように、今五感で彼女を感じなければという考えに至った。
しかし、その二つの何が・・・?
「あ」
「ん・・・?どうした・・・?」
脳裏で二つの思考がつながり、うっかり僕が漏らした声に、彼女が小さく声を漏らした。
「ご、ごめん・・・ちょっと・・・うん、どうでもいいことを思い出して・・・」
「・・・・・・ベッドの中で考えていいのは、私のことだけだ・・・」
「ごめんなさい・・・」
彼女に嘘を吐いたことに謝りながら、僕は再び手を動かし始めた。
今し方思い浮かんだのは、彼女が櫛で髪の手入れをする姿を見て、その髪の毛の感触を感じることができれば、それは直接関わっているのと同じではないかということだった。
問題は、どうやって彼女の櫛と感覚を同期するかだ。理論上は今のままでも十分可能だが、木製の櫛と僕の手は違いが大きすぎる。理想を言えば、僕の手を切り落として文字通り彼女に手櫛として使ってもらうのが一番だが、かなり使いづらくて彼女が不便そうだ。
間をとるとすれば、僕の手を櫛に加工して使ってもらうのが妥当なところだが、一体どうすればいいのだろう?
いや、一応ヒントになりうる知識はある。聞くところによると、遙か東方には遺体を加工して死者を偲ぶための品物を作る風習があるらしい。伝聞では、死者の皮で装丁した本や頭蓋骨の杯、喉の骨を細工して作った小さな神像があるという。
喉の骨で神像を細工できるのならば、腕の骨で櫛を作り出すことも可能ではないのか?
僕は脳裏で、彼女が使っている櫛と腕の長さを照らし合わせ、作れると確信した。
ならば遺言状に、僕の腕の骨を加工して櫛を作ってほしい、と記しておけば彼女の髪の手入れに関われるようになる。いや、やはりだめだ。
「ぅ・・・ん・・・」
大人しく髪を撫でられながら、小さく声を漏らして身じろぎする彼女に感じられぬよう、僕は内心で首を振った。
遺言状では、僕が死ぬまで彼女は櫛を手にできないじゃないか。そもそも、僕が死んでしまったら彼女が悲しむ。彼女が悲しむところなど考えたくもないから、遺体加工はボツだ。
やはり、僕が生きている間に加工して贈った方がいい。
確か倉庫に鋸が有ったはずだが、どこから切ったらいいだろう?肘?肩?それに、切った後は腕ごと加工のため東方に送るべきか、それとも骨を取り出して送るべきか。骨を取り出すにしても、肉を削ぐか、焼くか、腐らせるか。
考えなければいけないことは山ほどあるのに、知識が全く足りないから答えの出し方も思いつかない。
いっそのこと、東方を実際に訪れて遺体加工の職人を見つけ、直々に頼み込んだ方がいいだろう。
うんそうだ。餅は餅屋。腕の扱いは医者と加工職人だ。そうしよう。
「・・・ありがとう・・・」
僕は延々と続けていた思考を中断すると、彼女の耳元に口を寄せてささやいた。
「ん・・・終わり、か・・・」
「僕のわがままにつきあわせてごめん・・・代わりに、何でもするよ・・・」
「そう謝るな。私も心地よかったからな・・・だが、代償は代償だ・・・代わりには、そうだな・・・」
薄闇の中、うーん、と小さな声を挟んでから、彼女は続けた。
「もっと頭を撫でてくれ・・・と、言いたかったがもう私も満足してしまったからな・・・今夜もたっぷり愛してくれ、ならどうだ?」
「わかった」
彼女の求めに、僕は頷いた。
僕と彼女は互いに距離を詰めると、触れ合っていた体をさらに密着させた。
乳房と二の腕、膝と太腿など点と点で触れ合っていた部分が、面と面で触れ合い、温もりを交わす。
昨夜の記憶を元に、彼女の体の柔らかさを脳裏に浮かべていたが、やはり本物の彼女の柔らかさには叶わない。互換の記憶など、やはり慰め程度にしかならないのだ。
彼女は言葉もなく顔を寄せると、僕の唇に自信のそれを重ね、情熱的に吸った。砂漠を遭難した彼女が、そうすれば水を飲めると信じきっているかのように、僕の唇に唇を重ねて押し開き、舌を絡みつけてくるのだ。
舌の表を軽くこすり、裏へ回って優しくさする。じわりと僕の口中にあふれた涎を掬いとると、彼女は舌を自信の口へと引っ込めていった。
唇は重なったままなので、思わず僕は彼女を追って、舌を彼女の口腔へと差し入れていた。大きく開いた歯列を越え、口の奥に引っ込んだ彼女の舌に触れる。その瞬間、彼女の唇が窄まり、僕は舌を捕らわれてしまった。
捕らわれたといっても、そう強い力で締め付けられているわけでもなく、顔を離せば逃れられるほどの拘束だ。だが、逃れるつもりは毛頭なかった。彼女の熱烈な歓待を、まだ楽しんでいないのだから。
舌としたが絡み合い、結ばれて解けなくなるのではないかと錯覚するほどの愛撫を受けながら、僕は両腕を彼女の体に回していた。
アマゾネスという種族と、育った環境のためか、寝間着の下の体は柔らかさと固さを合わせ持っていた。
僕は一方の手で背中をさすりながらもう一方の手を前に持ってくると、彼女の寝間着のボタンを一つずつ外していった。
寝間着の下の彼女の体が徐々に露わになり、寝間着一枚分隔てていた体温と感触が高まる。そして、彼女の寝間着の上をはだけさせると、彼女ももどかしげに僕のボタンを外し始めた。
一枚脱がしては一枚脱がされ、また一枚脱がしては一枚脱がされる。舌を絡めあい、吸いあい、相手の肌に触れながら、やがて僕たちは一死惑わぬ姿になっていた。
彼女の乳房の先端は堅く尖っており、僕の胸に押しつけられる柔らかさの中に堅いものが二つ感じられた。一方、僕もすでに股間の分身は屹立しきっており、彼女の下腹をぐいと圧迫しながら、彼女の肌が少しだけひんやりと感じられるほどの熱を発していた。
「ん・・・」
彼女が小さく声を漏らし、腰の辺りをもぞりと動かす。言葉は要らない。それだけで十分だ。
僕は一度腰を引くと、彼女が広げた両脚の間に腰を入れ、肉棒を彼女の愛液溢れる女陰へと挿し入れた。
「く、ふぅ・・・!」
舌の動きを止め、口を開きながら彼女が声を漏らす。
いかにも苦しげな声音だったが、彼女の膣内はとろとろに濡れ、緩く広がり、僕の屹立を優しく受け入れた。
ずぶずぶと、肉の筒の中を男根が突き進み、亀頭が柔らかな行き止まりに包み受け止められる。すると、直後彼女の膣がきゅっと締まった。
肉棒の根本から先までが、身動きがとれないほどに締め上げられている。
「うぅ・・・!」
「ふふ・・・」
軟らかな肉の穴から、屹立を捕らえる肉の罠への変貌に僕がうめくと、彼女は小さく声を漏らしてから膣内をうごめかせた。
全体の締め付けはそのままに、膣口の締め付けを少しだけ強める。そして締め付けを上へ上へ、膣奥へと移動させて、身動きすることなく屹立をしごいた。
アマゾネスとして体を鍛えた彼女だからできる、筋肉の操作。腹の中から手でしごかれているかのような感触に、僕は体を震わせた。
だが、ここで僕だけが気持ちよくなっては意味がない。彼女は、愛してほしいと僕に頼んだのだから。
彼女の背中を撫でていた手を、腰の方、尻の方へと移動させ、彼女の柔らかな尻を人撫でしてから魅惑の谷間へ滑り込ませる。
しかし指先が向かうのは、屹立を咥え込む女陰ではなく、その手前の窄まり立った。
軽く指先で触れると、彼女のそこはがちがちに引き締まっていた。どうも膣の筋肉と尻の筋肉は繋がっているらしく、彼女が膣を操ると、こちらも締まるのだ。
僕は軽く窄まりに指を当てると、一度指を離してから、軽くコツンと叩いた。
「っ!」
彼女がびくん、と体を震わせ、直後膣の締め付けと尻の窄まりが少しだけ緩んだ。しかしそれも一瞬のことで、すぐに肉棒全体が締め上げられ、締め付けの輪が屹立をしごいていく。
だが、僕は彼女の尻の窄まりをこつんこつん、と間を挟みながら打ち続けた。そのたびに彼女の体は面白いように震え、膣が弛緩する。
そして、数度目かの『ノック』に合わせて、僕は腰を軽く動かした。肉棒を抜き挿しするわけではなく、単なる身じろぎ程度の動きだ。
だが、肛門を打たれて緩んだ膣肉の中での肉棒の身動きは、彼女に大きな刺激を与えたらしい。
「あふ・・・!」
一瞬甘い声が彼女の口から溢れ、指先に触れる窄まりが少しだけ力を失う。
その瞬間をねらって、僕は指を押しつけ、軽く浮上の窄まりに押し込んだ。
「ん・・・!」
肛門に入り込んだ僕の指に、彼女が驚いたような声と気配を漏らす。爪の根本ぐらいまでが入っているにすぎないと言うのに、窄まりが押し広げられている感覚は彼女に相当な違和感をもたらしているらしい。
指を押し出そうと、あるいはそのまま締めちぎろうとでもするかのように、彼女の肛門がぐいぐい僕の指を締め上げる。それに合わせ、膣の方でも僕の分身が遺体ほどの締め付けを受けていた。膣壁越しの彼女の血の流れが生み出す、ごく微細な振動やうねりが密着した粘膜越しに伝えられ、刺激を生み出す。
だが、僕はその刺激と快感に意識を委ねてしまうより先に、肛門に締め付けられている指を軽く動かした。
異物の蠢きによる違和感と、出ていく場所に留まる何かが動くという未知の感覚。
その二つが彼女の必死の抵抗を、再び無力化した。
「くひっ・・・!?」
彼女が甲高い声を漏らすと同時に、僕は再び腰を動かした。一度だけでなく、二度三度と小さく小さく腰を揺する。
ただでさえ奥に達していた肉棒が、さらなる奥へ突き込まれ、彼女の口から吐息を絞り出す。
時折、思い出したように膣が肉棒を締め上げるが、それも尻の巣簿鞠を軽く指先でかき回してやるだけで緩んだ。
「んっ、んっ、んっ〜〜〜・・・!」
必死に口を閉ざし、何かを堪えるようにうめき声を漏らす彼女。
寝室の薄闇では全く表情は見えないが、それでも彼女がどんな顔をしているのか想像はつく。
ああ、愛おしい。
僕は、直接触れる彼女の体とその温もり、鼻をくすぐる香りとあえぎ声を元に、脳裏に彼女の顔を浮かべると、その真横一文字に結ばれた唇に向けて自分のそれを近づけた。
すると、脳裏の姿と寸分違わぬ場所に彼女の唇はあった。
大きく口を開き、真横一文字の唇を丸ごと吸う。そして舌先で唇の合わせ目をなぞった。
「・・・っ・・・!」
すると、彼女もがばと口を開いて僕の接吻に応え、歯と歯がぶつかり合うような激しいキスを交わした。
唇をなめ、舌をしゃぶり、頬の裏側をなぞり、前歯の裏を探る。互いに貪り合うような、強烈なキス。
下半身からの甘い快感が、キスと共に興奮を高めていく。
そして、彼女の膣が締め付けを強めた瞬間、ついに僕に限界が訪れた。ただ、僕一人だけで楽しむつもりはない。
下半身を溶かしていく絶頂の予兆に意識を奪われながらも、僕は指先で彼女の尻を軽くかき回した。
そして意識がはじけ、肉棒の中をどろどろに煮えた欲望がかけ上っていく瞬間、彼女の膣奥に向けて腰を突き入れた。
「ん・・・!」
唇を重ねたまま、彼女の鼻から溢れだした吐息が僕の顔をなでると同時に、射精が始まった。どくんどくんと肉棒が脈打ちながら精を放つ感覚は、血が直接噴き出しているかのような感覚だった。
そして、女陰の一番深いところを突かれながら、その奥に白濁を注がれたことで、彼女もまた達した。
「っ・・・!」
脳裏の彼女が眉根を寄せて眉間に皺を作り、僕と体を重ねる本物の彼女が短く吐息を漏らす。そして脳裏と本物の彼女の二人が、同時に僕の背中に手を回し、強く僕を抱きしめた。
密着感が増し、彼女と一体となっている感覚が強まる。
その実感が、僕の射精の勢いを増した。
僕の胸と彼女の乳房が押し当てられ、かなり距離はあるというのに二人分の鼓動が感じられた。
そして、僕と彼女は一つになったまましばし快感の海を漂い、僕の射精が止むと同時にベッドの中へ引き戻された。
「ぷはぁ・・・はぁ、はぁ・・・」
唇を離し、彼女が大きく喘ぐ。
しかし、小休止は呼吸数回分だったらしく。彼女は再び唇を重ねてきて、白濁に塗れた膣を蠢かせた。
どうやら第二ラウンドはすぐらしい。未だ固さを保つ屹立に絡む膣肉を感じながら、僕は内心苦笑した。
それから、互いに一度疲れきってしまうほど体を重ね合ってから、僕と彼女はただ静かに横になっていた。
心臓の鼓動も呼吸も落ち着き、汗も引いている。
ただ体に疲労感と繰り返した絶頂の余韻が取り残されているだけだった。
「・・・・・・なあ・・・」
「うん?」
「子供、欲しくないか・・・?」
「・・・・・・うん」
僕は彼女の不意の問いかけに、一瞬考えてから頷いた。
特に今まで避妊などしていなかったが、なぜか今まで彼女が身ごもることはなかった。
おかげで、引っ越しなどのばたばたが楽に片づき、だいぶ落ち着いてきた。今なら、子供も育てられるだろう。
「どうやったらできるんだろうな・・・?」
「それは・・・毎日がんばって・・・あと、子供が欲しい、って本気で思えばいいんじゃないかな?」
「そうだな・・・うん、お前に似た、優しい子が産まれるといいなあ・・・」
「まだ身ごもってもないのに、気が早いなあ・・・」
まるで、妊娠中の母親のような彼女の台詞に、僕は思わず笑ってしまった。
「でも、せっかくのお前と私の子なんだから、お前のいいところに似て欲しいじゃないか」
「大丈夫だよ。きっといいところばっかりを受け継いだかわいい子が産まれるよ。だって、君と僕の子なんだから」
そう、きっと彼女に似た、髪のきれいな子が産まれるのだろう
「じゃあ、今度こそすてきな子が授かるように・・・あと、もう一回・・・」
「わかった」
僕は頷き、彼女と唇をそっと重ね合わせた。
さて、彼女といずれ生まれるかもしれない娘達。この先、櫛は一本で足りるのだろうか。
ふと玄関に出てみると、浅黒い肌の女が一人、庭と玄関の境ほどに屈み込んでいた。女は、僕の妻のアマゾネスであった。
彼女の前には小さな盥が置いてあり、傍らに広げられた布の上には、濡れた包丁が並んでいた。
「刃物を研いでるの?」
「うむ」
前後に小さく揺れる彼女の背中に声をかけると、アマゾネスは振り返りもせずに応じた。
「包丁の切れ味が落ちて、な」
「言ってくれれば僕が研いだのに。代わろうか?」
「いやいい」
僕の申し出に、彼女は首を振った。
「アマゾネスの集落では、自分の使うものは自分で手入れするのが掟だったからな。集落を離れて久しいが、この習慣は大事にしておきたい」そういう彼女の背中は、住む場所が変わっても、自身がアマゾネスであると主張しているようだった。
狩猟もできず、傷跡や入れ墨を衣服の下に隠し、褐色の肌や銀色の髪でしか出自を示せないと思っていたのに。
「・・・よし・・・」
砥石の上で前後に動かしていた手を止め、指を軽く包丁の刃に当てて鋭さを確かめると、彼女はそうつぶやいた。
どうやら、全部研ぎ終えたようだった。
彼女は刃物を布で丸めてまとめると、盥の水を捨ててから立ち上がった。
「ちょっと通してくれ」
「ああ、ごめんごめん」
玄関に向けて歩いてきた彼女のため道をあけてやると、アマゾネスは僕の横を通り抜けていった。
その瞬間、彼女の背中の半ばに届くほどの、緩やかに波打つ銀色の髪の毛に、僕は自然と手を伸ばしていた。
髪の半ば、うなじの辺りに触れ、そのまま毛先へ指を滑らせる。
さらさらとした感触が指先に残った。
「・・・・・・・・・」
彼女は言葉こそなかったものの、一瞬呼吸のペースを乱した。だが、僕に対し何か言うわけでも、一瞥するわけでもなく、そのまま玄関から家に上がっていった。
それから、僕と彼女は特に何事もなく、いつものように用事を片づけ、夕食や風呂をすませてベッドに入った。
いつもならば彼女が僕に手を伸ばし、互いの体をさぐり合うのだが、今夜は彼女が手を伸ばす様子はなかった。
もしかして、待っているのだろうか?年に一度あるかないかの、今夜は責められたい気分なのかと考えていると、ふと彼女が言葉を漏らした。
「なあ・・・昼間のあれ、いったい何だったんだ・・・?ずっと考えていたが、わからないんだ・・・」
「昼間のあれ?」
彼女の言葉に、僕は昼間にやったことを思い返した。
「ええと・・・」
「包丁を研いだ後のことだ。じらさないでくれ」
薄闇の中、彼女が唇を尖らせるのが語調だけでわかった。
「あー、あれかー・・・」
「なぜあのとき、私の髪に触れたんだ?尻とかなら、まだわからないでもないんだが・・・」
「ええとね、本当のことを言うと僕にもよくわからない。触りたくなったとか、そういう考えと関係なく、気が付いたら触ってたんだよ」
「・・・なんだ、それは・・・」
彼女の言葉に、若干の呆れが混じる。
「いやあ、でもたまにあるでしょ?きれいな泉を見つけたら水に手を入れていたとか、丹念に研がれた刃物を手渡されたら刃先に触れていたとか。そういうのに近いと思う」
そこまで言ってしまってから僕は、自分が割と恥ずかしいことを言っていることに気が付いたが、止めるつもりはなかった。
「つまり、あのときアマゾネスにもどっていた君の姿が、それだけきれいだったということかな」
「きれい、か・・・」
彼女はその一言を繰り返してから、ふふ、と小さく笑った。
「お前からは何度も言われたが、改めて口にされるとどうもこそばゆいな・・・だが、悪い気分じゃない」
もぞもぞと、闇の中で寝間着とシーツのこすれる音が響き、彼女が寝返りを打ったのがわかった。
「なあ・・・」
「ああ、その前に、一つだけいいかな?もう一度、髪を触らせてくれないかな?」
「むぅ・・・」
彼女が何か言おうとした瞬間、僕が口を挟んだことで、彼女の語調に戸惑いが混ざった。
「さっきの話で、また触りたくなっちゃったんだよ。代わりに大体のお願いは聞くから、ねえ・・・」
「仕方ない・・・好きなだけ撫でろ」
「ありがと」
僕はシーツの下で、少しだけ彼女に体を寄せた。
僕の予想通り、彼女は僕の方を向くように横になっており、彼女の膝や乳房が寝間着越しに僕の体に触れた。
僕も彼女に倣って横向きになると、彼女の頭に手を伸ばした。
薄闇の中におぼろげに浮かび上がる彼女の頭、こめかみの辺りから張り出す角の下の辺りに、指が触れる。
「ん・・・」
こめかみから耳に沿って後頭部に回り、うなじへと流れ落ちていく髪の毛に指を通すと、彼女が低く声を漏らした。
指先に触れるのは、直接目にせずともわかるほどさらさらした、緩やかにウェーブする彼女の髪の毛だ。
アマゾネスの集落にいたころは、手入れなど無頓着だったため、だいぶ固かった髪の毛だったが、今では極上の絹糸でも叶わぬほどのしなやかさとすべりを持っている。
元々の髪質が素晴らしかったのだろうが、環境と無知が原石の輝きを鈍らせていたのだ。事実、僕と知り合って髪の手入れを覚えてからと言うもの、彼女の銀髪は本物の銀のように艶を帯び、こっちに引っ越してからはしなやかさを手に入れた。
そして毎朝夕に鏡に向かい櫛を入れる彼女の姿は、いつもどこかうきうきとしている。彼女に聞いたところ、自分の手入れでいくらでもきれいになれるというのが楽しいらしい。もう一度、今度は僕の方から求婚したくなるじゃないか。
しかし、そんな気を抜けばもう一度求婚してしまいそうな日々の彼女のお手入れにも、一つだけ困ったことがある。
それは、僕がそこまで関われないと言うことだ。
確かに彼女と一緒に鏡台の前に立ち、彼女の代わりに僕が櫛を入れるという方法もある。しかしそれではあまり髪に触れないし、髪の手入れには本人の感覚に依るところも多いから、僕には手伝いレベルのことしかできない。
じゃあ、どうすればこの月光を紡いだがごとき奇跡の糸に、毎日触れることができるのだろう?
真っ暗なため色など全く見えないが、目を閉じれば脳裏に浮かぶ彼女の姿と、指先のさらさらとした感触を重ね合わせながら、僕は自問した。
「ふ・・・」
彼女が小さく息を漏らし、生温かな風が僕の首元を撫でる。決して、いや全く不快ではない。むしろ彼女が吐息を感じられる距離にいると言うだけで心地よいぐらいだ。
正直な話、こうして夜の間彼女とベッドに入って、彼女の温もりを感じられないと困るのだ。
こうして彼女の温もりを覚えていれば、昼間肌が触れることがなくても、彼女の姿を見、彼女の残り香を感じられるだけで温もりが思い出せる。
同様に、温もりがあれば姿が見えずとも脳裏に彼女の姿が浮かび、彼女のことを考えるだけで彼女の存在を感じられるのだ。
可能ならば昼も夜もなく四六時中感じあっていたいぐらいだが、この過酷な社会はそれを赦さない。それ故に、僕はこうして彼女と離れていても彼女分(僕の中に占める妻の成分。欠乏すると動悸、目眩、息切れ、不安感などの症状がでる。彼女との接触により補給可能)の欠乏を先延ばしする技術を生み出したのだ。
こうして、ベッドの中で触れ合い、彼女の香りを嗅ぎ、温もりを腕の中に抱き、まどろみの中で夜明けの光に照らされる彼女の姿を見るだけで、僕は一日頑張れるのだ。
逆に言うと、こうして髪の毛を念入りに触れる機会などそうそうないため、触れられるだけ触れて感触を覚えておかねば。彼女の身動きにあわせてさらさらと揺れる天の川の支流を見て、その感触を思い出せるように。
(ん?待てよ・・・今まで、僕は何を考えていた・・・?)
僕は一瞬、彼女の髪を撫でる手を止めて自問した。今、解決の糸口のようなものがつかめそうな気がしたからだ。
確か先ほどまで、彼女の日々の髪の手入れに関わりたいけど関われない、と困っていた。
だが、彼女の吐息が首筋を撫でた辺りからその思考を中断し、後で互換して感じられるように、今五感で彼女を感じなければという考えに至った。
しかし、その二つの何が・・・?
「あ」
「ん・・・?どうした・・・?」
脳裏で二つの思考がつながり、うっかり僕が漏らした声に、彼女が小さく声を漏らした。
「ご、ごめん・・・ちょっと・・・うん、どうでもいいことを思い出して・・・」
「・・・・・・ベッドの中で考えていいのは、私のことだけだ・・・」
「ごめんなさい・・・」
彼女に嘘を吐いたことに謝りながら、僕は再び手を動かし始めた。
今し方思い浮かんだのは、彼女が櫛で髪の手入れをする姿を見て、その髪の毛の感触を感じることができれば、それは直接関わっているのと同じではないかということだった。
問題は、どうやって彼女の櫛と感覚を同期するかだ。理論上は今のままでも十分可能だが、木製の櫛と僕の手は違いが大きすぎる。理想を言えば、僕の手を切り落として文字通り彼女に手櫛として使ってもらうのが一番だが、かなり使いづらくて彼女が不便そうだ。
間をとるとすれば、僕の手を櫛に加工して使ってもらうのが妥当なところだが、一体どうすればいいのだろう?
いや、一応ヒントになりうる知識はある。聞くところによると、遙か東方には遺体を加工して死者を偲ぶための品物を作る風習があるらしい。伝聞では、死者の皮で装丁した本や頭蓋骨の杯、喉の骨を細工して作った小さな神像があるという。
喉の骨で神像を細工できるのならば、腕の骨で櫛を作り出すことも可能ではないのか?
僕は脳裏で、彼女が使っている櫛と腕の長さを照らし合わせ、作れると確信した。
ならば遺言状に、僕の腕の骨を加工して櫛を作ってほしい、と記しておけば彼女の髪の手入れに関われるようになる。いや、やはりだめだ。
「ぅ・・・ん・・・」
大人しく髪を撫でられながら、小さく声を漏らして身じろぎする彼女に感じられぬよう、僕は内心で首を振った。
遺言状では、僕が死ぬまで彼女は櫛を手にできないじゃないか。そもそも、僕が死んでしまったら彼女が悲しむ。彼女が悲しむところなど考えたくもないから、遺体加工はボツだ。
やはり、僕が生きている間に加工して贈った方がいい。
確か倉庫に鋸が有ったはずだが、どこから切ったらいいだろう?肘?肩?それに、切った後は腕ごと加工のため東方に送るべきか、それとも骨を取り出して送るべきか。骨を取り出すにしても、肉を削ぐか、焼くか、腐らせるか。
考えなければいけないことは山ほどあるのに、知識が全く足りないから答えの出し方も思いつかない。
いっそのこと、東方を実際に訪れて遺体加工の職人を見つけ、直々に頼み込んだ方がいいだろう。
うんそうだ。餅は餅屋。腕の扱いは医者と加工職人だ。そうしよう。
「・・・ありがとう・・・」
僕は延々と続けていた思考を中断すると、彼女の耳元に口を寄せてささやいた。
「ん・・・終わり、か・・・」
「僕のわがままにつきあわせてごめん・・・代わりに、何でもするよ・・・」
「そう謝るな。私も心地よかったからな・・・だが、代償は代償だ・・・代わりには、そうだな・・・」
薄闇の中、うーん、と小さな声を挟んでから、彼女は続けた。
「もっと頭を撫でてくれ・・・と、言いたかったがもう私も満足してしまったからな・・・今夜もたっぷり愛してくれ、ならどうだ?」
「わかった」
彼女の求めに、僕は頷いた。
僕と彼女は互いに距離を詰めると、触れ合っていた体をさらに密着させた。
乳房と二の腕、膝と太腿など点と点で触れ合っていた部分が、面と面で触れ合い、温もりを交わす。
昨夜の記憶を元に、彼女の体の柔らかさを脳裏に浮かべていたが、やはり本物の彼女の柔らかさには叶わない。互換の記憶など、やはり慰め程度にしかならないのだ。
彼女は言葉もなく顔を寄せると、僕の唇に自信のそれを重ね、情熱的に吸った。砂漠を遭難した彼女が、そうすれば水を飲めると信じきっているかのように、僕の唇に唇を重ねて押し開き、舌を絡みつけてくるのだ。
舌の表を軽くこすり、裏へ回って優しくさする。じわりと僕の口中にあふれた涎を掬いとると、彼女は舌を自信の口へと引っ込めていった。
唇は重なったままなので、思わず僕は彼女を追って、舌を彼女の口腔へと差し入れていた。大きく開いた歯列を越え、口の奥に引っ込んだ彼女の舌に触れる。その瞬間、彼女の唇が窄まり、僕は舌を捕らわれてしまった。
捕らわれたといっても、そう強い力で締め付けられているわけでもなく、顔を離せば逃れられるほどの拘束だ。だが、逃れるつもりは毛頭なかった。彼女の熱烈な歓待を、まだ楽しんでいないのだから。
舌としたが絡み合い、結ばれて解けなくなるのではないかと錯覚するほどの愛撫を受けながら、僕は両腕を彼女の体に回していた。
アマゾネスという種族と、育った環境のためか、寝間着の下の体は柔らかさと固さを合わせ持っていた。
僕は一方の手で背中をさすりながらもう一方の手を前に持ってくると、彼女の寝間着のボタンを一つずつ外していった。
寝間着の下の彼女の体が徐々に露わになり、寝間着一枚分隔てていた体温と感触が高まる。そして、彼女の寝間着の上をはだけさせると、彼女ももどかしげに僕のボタンを外し始めた。
一枚脱がしては一枚脱がされ、また一枚脱がしては一枚脱がされる。舌を絡めあい、吸いあい、相手の肌に触れながら、やがて僕たちは一死惑わぬ姿になっていた。
彼女の乳房の先端は堅く尖っており、僕の胸に押しつけられる柔らかさの中に堅いものが二つ感じられた。一方、僕もすでに股間の分身は屹立しきっており、彼女の下腹をぐいと圧迫しながら、彼女の肌が少しだけひんやりと感じられるほどの熱を発していた。
「ん・・・」
彼女が小さく声を漏らし、腰の辺りをもぞりと動かす。言葉は要らない。それだけで十分だ。
僕は一度腰を引くと、彼女が広げた両脚の間に腰を入れ、肉棒を彼女の愛液溢れる女陰へと挿し入れた。
「く、ふぅ・・・!」
舌の動きを止め、口を開きながら彼女が声を漏らす。
いかにも苦しげな声音だったが、彼女の膣内はとろとろに濡れ、緩く広がり、僕の屹立を優しく受け入れた。
ずぶずぶと、肉の筒の中を男根が突き進み、亀頭が柔らかな行き止まりに包み受け止められる。すると、直後彼女の膣がきゅっと締まった。
肉棒の根本から先までが、身動きがとれないほどに締め上げられている。
「うぅ・・・!」
「ふふ・・・」
軟らかな肉の穴から、屹立を捕らえる肉の罠への変貌に僕がうめくと、彼女は小さく声を漏らしてから膣内をうごめかせた。
全体の締め付けはそのままに、膣口の締め付けを少しだけ強める。そして締め付けを上へ上へ、膣奥へと移動させて、身動きすることなく屹立をしごいた。
アマゾネスとして体を鍛えた彼女だからできる、筋肉の操作。腹の中から手でしごかれているかのような感触に、僕は体を震わせた。
だが、ここで僕だけが気持ちよくなっては意味がない。彼女は、愛してほしいと僕に頼んだのだから。
彼女の背中を撫でていた手を、腰の方、尻の方へと移動させ、彼女の柔らかな尻を人撫でしてから魅惑の谷間へ滑り込ませる。
しかし指先が向かうのは、屹立を咥え込む女陰ではなく、その手前の窄まり立った。
軽く指先で触れると、彼女のそこはがちがちに引き締まっていた。どうも膣の筋肉と尻の筋肉は繋がっているらしく、彼女が膣を操ると、こちらも締まるのだ。
僕は軽く窄まりに指を当てると、一度指を離してから、軽くコツンと叩いた。
「っ!」
彼女がびくん、と体を震わせ、直後膣の締め付けと尻の窄まりが少しだけ緩んだ。しかしそれも一瞬のことで、すぐに肉棒全体が締め上げられ、締め付けの輪が屹立をしごいていく。
だが、僕は彼女の尻の窄まりをこつんこつん、と間を挟みながら打ち続けた。そのたびに彼女の体は面白いように震え、膣が弛緩する。
そして、数度目かの『ノック』に合わせて、僕は腰を軽く動かした。肉棒を抜き挿しするわけではなく、単なる身じろぎ程度の動きだ。
だが、肛門を打たれて緩んだ膣肉の中での肉棒の身動きは、彼女に大きな刺激を与えたらしい。
「あふ・・・!」
一瞬甘い声が彼女の口から溢れ、指先に触れる窄まりが少しだけ力を失う。
その瞬間をねらって、僕は指を押しつけ、軽く浮上の窄まりに押し込んだ。
「ん・・・!」
肛門に入り込んだ僕の指に、彼女が驚いたような声と気配を漏らす。爪の根本ぐらいまでが入っているにすぎないと言うのに、窄まりが押し広げられている感覚は彼女に相当な違和感をもたらしているらしい。
指を押し出そうと、あるいはそのまま締めちぎろうとでもするかのように、彼女の肛門がぐいぐい僕の指を締め上げる。それに合わせ、膣の方でも僕の分身が遺体ほどの締め付けを受けていた。膣壁越しの彼女の血の流れが生み出す、ごく微細な振動やうねりが密着した粘膜越しに伝えられ、刺激を生み出す。
だが、僕はその刺激と快感に意識を委ねてしまうより先に、肛門に締め付けられている指を軽く動かした。
異物の蠢きによる違和感と、出ていく場所に留まる何かが動くという未知の感覚。
その二つが彼女の必死の抵抗を、再び無力化した。
「くひっ・・・!?」
彼女が甲高い声を漏らすと同時に、僕は再び腰を動かした。一度だけでなく、二度三度と小さく小さく腰を揺する。
ただでさえ奥に達していた肉棒が、さらなる奥へ突き込まれ、彼女の口から吐息を絞り出す。
時折、思い出したように膣が肉棒を締め上げるが、それも尻の巣簿鞠を軽く指先でかき回してやるだけで緩んだ。
「んっ、んっ、んっ〜〜〜・・・!」
必死に口を閉ざし、何かを堪えるようにうめき声を漏らす彼女。
寝室の薄闇では全く表情は見えないが、それでも彼女がどんな顔をしているのか想像はつく。
ああ、愛おしい。
僕は、直接触れる彼女の体とその温もり、鼻をくすぐる香りとあえぎ声を元に、脳裏に彼女の顔を浮かべると、その真横一文字に結ばれた唇に向けて自分のそれを近づけた。
すると、脳裏の姿と寸分違わぬ場所に彼女の唇はあった。
大きく口を開き、真横一文字の唇を丸ごと吸う。そして舌先で唇の合わせ目をなぞった。
「・・・っ・・・!」
すると、彼女もがばと口を開いて僕の接吻に応え、歯と歯がぶつかり合うような激しいキスを交わした。
唇をなめ、舌をしゃぶり、頬の裏側をなぞり、前歯の裏を探る。互いに貪り合うような、強烈なキス。
下半身からの甘い快感が、キスと共に興奮を高めていく。
そして、彼女の膣が締め付けを強めた瞬間、ついに僕に限界が訪れた。ただ、僕一人だけで楽しむつもりはない。
下半身を溶かしていく絶頂の予兆に意識を奪われながらも、僕は指先で彼女の尻を軽くかき回した。
そして意識がはじけ、肉棒の中をどろどろに煮えた欲望がかけ上っていく瞬間、彼女の膣奥に向けて腰を突き入れた。
「ん・・・!」
唇を重ねたまま、彼女の鼻から溢れだした吐息が僕の顔をなでると同時に、射精が始まった。どくんどくんと肉棒が脈打ちながら精を放つ感覚は、血が直接噴き出しているかのような感覚だった。
そして、女陰の一番深いところを突かれながら、その奥に白濁を注がれたことで、彼女もまた達した。
「っ・・・!」
脳裏の彼女が眉根を寄せて眉間に皺を作り、僕と体を重ねる本物の彼女が短く吐息を漏らす。そして脳裏と本物の彼女の二人が、同時に僕の背中に手を回し、強く僕を抱きしめた。
密着感が増し、彼女と一体となっている感覚が強まる。
その実感が、僕の射精の勢いを増した。
僕の胸と彼女の乳房が押し当てられ、かなり距離はあるというのに二人分の鼓動が感じられた。
そして、僕と彼女は一つになったまましばし快感の海を漂い、僕の射精が止むと同時にベッドの中へ引き戻された。
「ぷはぁ・・・はぁ、はぁ・・・」
唇を離し、彼女が大きく喘ぐ。
しかし、小休止は呼吸数回分だったらしく。彼女は再び唇を重ねてきて、白濁に塗れた膣を蠢かせた。
どうやら第二ラウンドはすぐらしい。未だ固さを保つ屹立に絡む膣肉を感じながら、僕は内心苦笑した。
それから、互いに一度疲れきってしまうほど体を重ね合ってから、僕と彼女はただ静かに横になっていた。
心臓の鼓動も呼吸も落ち着き、汗も引いている。
ただ体に疲労感と繰り返した絶頂の余韻が取り残されているだけだった。
「・・・・・・なあ・・・」
「うん?」
「子供、欲しくないか・・・?」
「・・・・・・うん」
僕は彼女の不意の問いかけに、一瞬考えてから頷いた。
特に今まで避妊などしていなかったが、なぜか今まで彼女が身ごもることはなかった。
おかげで、引っ越しなどのばたばたが楽に片づき、だいぶ落ち着いてきた。今なら、子供も育てられるだろう。
「どうやったらできるんだろうな・・・?」
「それは・・・毎日がんばって・・・あと、子供が欲しい、って本気で思えばいいんじゃないかな?」
「そうだな・・・うん、お前に似た、優しい子が産まれるといいなあ・・・」
「まだ身ごもってもないのに、気が早いなあ・・・」
まるで、妊娠中の母親のような彼女の台詞に、僕は思わず笑ってしまった。
「でも、せっかくのお前と私の子なんだから、お前のいいところに似て欲しいじゃないか」
「大丈夫だよ。きっといいところばっかりを受け継いだかわいい子が産まれるよ。だって、君と僕の子なんだから」
そう、きっと彼女に似た、髪のきれいな子が産まれるのだろう
「じゃあ、今度こそすてきな子が授かるように・・・あと、もう一回・・・」
「わかった」
僕は頷き、彼女と唇をそっと重ね合わせた。
さて、彼女といずれ生まれるかもしれない娘達。この先、櫛は一本で足りるのだろうか。
12/10/19 21:05更新 / 十二屋月蝕
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