老人と娘 シルフにおける会話 |
かつてエアリアという薫風の精が居たらしい。
彼女は国々に季節をもたらし、人々を精神的飽和から救った。 その精霊はとても好き嫌いが激しく、ゆえに国からは絶大な信用を得ていた。 しかし、とある男に惚れ込み、結果として国を半壊させるまでの被害を与えた。 「シルフィードという精霊を知っておるかの」 「…ん、何でまた、女性を象ったシルフのことでしょ」 「おう、そうじゃそうじゃ」 「風の精霊。確か、そいつも魔王交代の夜にやらかしてたわよね」 「? 何じゃ、おまえさん。あれを解読できたのかい」 「一番最初に読み通したわよ。アレは知識もあんまり必要なかったからね」 「ワシが最も解読に時間を要した精霊文書なのじゃが…」 「えっ」 「えっ」 「…いいわ。じゃあ読んで証明してみましょうよ」 「強気じゃの。ほれ、ここから読んでみなさい」 エアリアは男を愛し、彼を誑かした。 彼は国王の最も若い甥であり、エアリアの見た目と同年齢程度の子供であった。 少年は純粋だった。好色の知識を持たず、日々勉学に励み、体を鍛え、作法を心得ていた。 少女は純粋だった。その本能を活用し、無垢である彼を振り向かせる技術を研鑽していた。 男女は、意図し、意図せずして親交を深めた。 そして契りを結び、恋仲となり、また道具と所有者になった。日々の努力の賜物か、同時に少年は国王を凌ぐ実力を手にした。 内部分裂が起きたのである。 その精神的圧迫から少年は少女を激しく乱雑に扱った。 しかし精霊は喜んで反乱の首謀者に協力し、より一層に少年を虜にした。 徐々に魔物となっていった自然の偶象は城下を越えた全領土に嵐を与えた。 三日を待たずして魔物に支配された国で、少年は天下を取った。 「…本当に全部訳せたのか?」 「まーねー。勿論このアタクシが天才だから!!」 「その割にはまともに解読できない文書が多いのう」 「なんか言った?」 「まだまだ未熟といったんじゃよ。恐らく相性の問題なんじゃよ。古文書との相性」 少年は成長し、魔王に最も近しい存在と言われるようになった。 周囲の国は彼の知略で沈み、名立たる有力な魔物で溢れた。 大陸のほぼ全土を自国の言葉で統一し、魔法学を科学と等しく深く推奨した。 彼自身もその類稀なる知力を用いて、科学と魔法を融合した全く新しいものを生んだ。 半永久機関としてミイラ-インキュバス機構を設計した。 増殖培養体としてスライム改良種を作り上げた。 軍需拡大に伴う摩訶不思議な兵器を備えた。 それらの過程で、男は莫大なエネルギー供給にエアリアを起用した。 彼女の力は枯渇することなく、またその増幅機能を持つ男の精も絶える事が無い存在となっていた。 或る日、男は魔王変革の予兆に気がついた。 元より魔王の侵攻を危惧していた国王は、種々の兵器を起動させ臨戦した。 唯一魔王の変革体制に抵抗したその大陸の中心都市は、五日後には陥落しようとしていた。 逞しく賢い王は、強く妖艶な伴侶に都市の核を風で浮かべるように指示した。 彼女は指示通り嵐で大地を削り、城下街を持ち上げた。 「どうよ?!」 「無い胸を張っても…いや、何でもない」 「うん。気分が最悪になりそうよ」 「それにしても、この文書の続きは無いんじゃよ」 「知ってる。探したけど無かったし正直がっかりだしありえないし」 「じゃあ、また続きを創造して見るかの」 「えー妄想じゃん」 「仮説とはそういうものなんじゃよ」 「じゃあ考える!まず、今も城は空を飛んでいる!!」 「それはいい仮説じゃの」 「それで、人間も魔物も死滅して、小動物とかしかいないの」 「…ほうほう」 「そしてねー、バルスとか言っちゃったら城は消えるの!!」 |
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