連載小説
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幕間肆-天崙山名産紹介〜天論甘瓜〜-
 登場人物

 ティエン
 仙石楼にて修行を積まんとしている拳士。
 宿敵たる三獣拳士の帰還を待ち望んでいる。

 タオフー(桃虎)
 雷爪のライフーの妹……なのだということを忘れかけている人虎の魔物娘。
 鍛え抜かれた完璧な肉体がティエンの好み。

 フオイン(火銀)
 炎嵐のフオジンの妹……である火鼠の魔物娘。
 耀かんばかりの健康的な肉体がティエンの好み。

 ヘイラン(黒蘭)
 岩流のバイヘイの妹……で兄が本当にいたか曖昧なレンシュンマオの魔物娘。
 柔雲の如き白く滑らかな肉体がティエンの好み。

 ナオ(脳)
 ヘイラン作“獣の脳の秘伝の薬味煮込み”が意思?を持ち動き出した料理。
 ティエンのことがとっても大好き。


 〇天崙山名産『天崙甘瓜』

 ……霧の大陸、その名の通り霧深く悠久の歴史を持つ広大な大陸である……
 それ故に、いくつもの国が栄え、そして多くの都が華やかにその歴史を彩っていた。
 そんな霧の大陸の都の一つにて、賑やかな歓楽街の一角、その通りを一組の男女……人間の男と魔物娘である刑部狸が仲睦まじい様子……刑部狸ががっちりと男の腕に組みつき……歩いていた。

 ……はぁ〜 まったく……旦那も人が悪いねぇ あっしがちょいと目を放せばあっという間に逃げちまうんだもの……
 で、も、ね あっしは言いましたよねぇ……こう見えて足や腕っぷしには自信があるんでさぁ いひひ でもでもぉ、旦那もやりますねぇ あっしからここまで逃げるったあ……なかなかできることじゃあありやせんよ

 なになにぃ? 話は済んだ? 金は払った? いやいや〜何をおっしゃいますかねぇ まだ旦那は何一つ買っちゃいないじゃあ、ないですかぁ〜 話だけでさよならたあ、他の狸に笑われちまいますよ
 しかしまあ、いささか喉が渇きやしたねえ……ここは一本、旦那の御絞りを……ぶへへ……なに? 水? いやですねえ、ここまで来て御預けなんて……い、け、ず……というやつでさあ……さぁさ、そこの隅で一本 えっ? なに? 喉?

 喉がどうしたんでさぁ ……あゝ、これはあっしとしたことが……旦那も、でしたねぇ 走り回って渇いてらっしゃるんで これは失敬……しっかしまあ、どうすれば……この辺にぃ……井戸は…… おっ

 なんですかい、旦那ぁ あっしが悪い顔をしている? またまたぁ……ちょいとばかり良いものを見つけただけでさあ

 おっちゃん、その瓜を二つばかりおくれよ 代金は獣仙窟までで頼むよ
 ……ありがとよ いやいや、こちらこそいつも助かってるよ ん〜? なんだい……ああ、この旦那はあっしのさ……ふひっ そう、そういうことだから、またね

 なんだい旦那、恥ずかしがっちゃってぇ……そんな顔されたらあっし、そそられちゃうねぇ……
 ん〜? 瓜、この瓜? ひひ、喉が乾いたろう、ちょうどいいと思ってね この瓜はこの辺じゃあなかなか見つからないものでねぇ、でも懐かしい味なのさ こいつはあっしの奢りだよ、ちょちょいと切ってやるから一緒に食べようじゃないかあ

 なんていう瓜だって?
 あ〜……こいつは天崙甘瓜っていうのさぁ そう、仙女様がいる天崙山に生える瓜なんだよ どんなに喉が乾いても、こいつを一つ齧ればあら不思議、すぅっと渇きが癒えるのさ 懐かしいねぇ……天崙山には仙女様がたくさんいてねぇ……その中の御一方がこの瓜を良く食べていたっけね

 ふふ……そうさね、気分がいいから一つこの瓜にまつわる話をしようじゃあないか なあに、さっき話した、この瓜が大好きな仙女様の話さ






 ……雲浮かぶ、遥かな大地より伸びたる天崙山の中腹でのんびりとした時間が流れていた。穏やかな午後の陽気の中、霧は薄く、視界は大きく開け遥か眼下ではもくもくと雲海の如く揺蕩う霧が小高い山や木々、そして麓の町を覆っていた。
 そんな長閑な昼下がりは、仙石楼でも変わることのない穏やかさであった。かつては襤褸のあばら家の如き朽ち楼であったが、この地に住み着いた修行者……ティエンの手によってすっかり見違えるほど、かつての栄華が甦るかのようにその荘厳な楼が再び立ち並びつつあった。尤も、最盛期の華やかな彩色の墨で塗られていた当時に比べたらやや質実剛健に見えたであろうが、それでも十分なくらいに建て直されていた。

 そんな仙石楼の中庭で、一仕事を終えたばかりのティエンが切り揃えられた木材の上に腰掛け、ゆっくりと切れ端を燃やす焚き火を眺めていた。
 薄霧の下、ほんのりとした陽気を運ぶ太陽の光を浴び、仕事終わりの充実感を伴う穏やかさの中でティエンは次の仕事の段取りについて考えていた。普段であれば、少しでもティエンがのんびりと休もうものならば即座に誰かしらが飛んで来たものであったが、今は珍しく誰もティエンの傍にはいなかった。そうというのも、フオインとヘイランは何処かへ散歩に出かけ、タオフーは夕餉のための狩りに出かけていたからである。粘性のナオは厨房にて、昼餉の片づけや皿洗いの最中であった。

 ……平和だ……

 しゅんしゅんと、焚き火の脇に放り置かれた鉄鍋に注がれた水が煮立ち、淡い湯気を立て始めた頃合い、ティエンは手杓をひょいと傾け湯を掬うと、それを手元の杯に注ぐ。
 そのままくっと、熱い白湯の杯を傾け、ティエンはほっと一息つく。

 ぼんやりと、眼前に揺蕩う空雲や霧のように和やかな心地のまま昼寝としゃれこんでもよかったかもしれないが、生憎とティエンにはそこまでの怠惰の情は持ち合わせていなかった。
 さて、と誰に聞こえるでもなしに呟くと、ふっと木材の上から飛び起きるように降りると次の仕事に取り掛かろうと気合を入れたその時であった。

 薄霧の向こう、山林広がる野山の方から一つ、握りこぶし二つ分ほどの大きさをした何かがティエンの後頭部目掛けて投擲される。
 微かに空を切る以外、音もなく投げ放たれたそれは勢い強くまっすぐに飛ぶも、あっさりと小気味よい音と共にティエンの手に掴まれる。振り返ることもなく、手に収められたそれはつるりとしており、ぱりっとした硬さがある木の実であった。

 「へっへーん! 流石だな兄ちゃん」

 「……フオイン、やめてください」
 ティエンがしっかりと防いだのを確認するように、しゅったりと中庭に降り立つ悪戯な紅が一つ、溌剌とした黄声でティエンを兄と慕う。仙石楼が獣仙の一、火鼠のフオインであった。
 野を駈け廻り、戻ったばかりなのであろう。全身はしっとりとした熱気を放ち、霧の中でもはっきりとわかるほどその若い肢体の薫りを立ち上らせていた。
 「でもよぉ ティエン兄ちゃんだったら平気だろ 実際あっさり取ってるし」
 そう言ってフオインは後ろから甘えるように抱き着く。ぽっぽと甘い熱がフオインの体を伝い、ティエンに染みる。見た目の通り、若い肉体は弾むようであり、なにより年不相応な大餅はティエンにとっては毒にも等しい誘惑を毎度の如く与えてくるものであった。そうと知ってか知らずか、フオインはむにむにとその豊かな実りを二つ遠慮なくティエンに押し付けてくる。
 「ンッ ふんっ その、フオイン……これは?」
 柔くしっとりとした谷間に自身の片腕が挟み込まれ、じゅっと吸い付く熱さをごまかすようにティエンは手にした木の実についてフオインに問う。
 事実、この黒縞模様を持つ薄黄色の木の実を、フオインはただ投げやすいから投げつけてきたのではないことは、フオインが肩から吊るすように幾つもの同じ実をぶら下げていることからも何かしら気に入る理由があって持って帰ってきていることは確かなことであった。
 「ああ これ? 瓜だよ、よくこの辺に生えてんだ」
 兄の素朴な疑問に、妹は甘えたまま元気よく答える。
 「瓜」
 「そう、甘くて美味いんだぜ そうだ! ここで一緒に食べようぜ、兄ちゃん」
 言うや否や、からりと笑って肩に下げた瓜をつるした束を木材のそばに放ると、ティエンの手からするりと瓜を抜き取り、ぷつりと自身の爪を突き立てる。そのまま薄く爪で器用に回し切ると、半分をティエンに渡し、もう半分はかぷりとかぶりつく。しゃくしゃくと気味の良い音がフオインの薄く湿った口から漏れ、ティエンも釣られるように瓜を齧る。
 「! 甘い」
 「へへっ」
 薄く、しかししっかりとした甘さが口の中にさっぱりと広がる。水気が多く、程よい硬さの身はただなんとなしにかみ砕いているだけでも心地よいものであった。
 瓜の中身は淡白な色合いで瑞々しく、舌の上で小気味よく砕けていくたびにどこに含まれていたのかわからないのほどの汁気が口の中に広がっていく。
 「甘いだろ!」
 にこやかな顔でぺろりと、艶やかな紅がフオインの小さな唇に乗る様子がティエンの目に映る。年相応なはずのその仕草に、誘蛾の如き誘惑を感じたティエンはそれを紛らわすように視線を瓜の方に向け、なんとなしにその滑らかな皮を撫でる。
 「……む」
 撫でて暫く、指の感触からティエンは瓜の皮が思うほど柔くないことに気が付く。滑らかな切り口に、さほど硬くはないのではと感じたものだったがそれはひとえにフオインの爪が鋭く、そして爪を使って切ることに習熟していたからに過ぎなかった。
 それほどまでにこの瓜の皮は硬い、恐らく、このままでは野山の獣や鳥にはとてもではないがこの瓜にありつけるとは思えなかった。内側から折り曲げるように折る分には、ティエンの力でも難なくできるが、しっかりと身の詰まったこの瓜を正面から砕き割るのはなかなかの難儀であると感じたのである。それこそ、爪で切るなどということは獣仙たるフオインだからこそできた芸当であろうことは間違いなかった。
 「兄ちゃん、もう一個食べるかい」
 ティエンが神妙な顔をしている横で、ささっと食べ終えたフオインは次の瓜を手にティエンに問いかける。ティエンの手にはまだ食べかけの瓜があったが、気にすることなく物欲しげにティエンを見つめるのであった。
 その顔を前に、ティエンも首を横に振ることはできず、少しばかり上の空気味ではあったが肯定の意を示すのであった。ティエンの同意に、フオインはぱっと顔を輝かせると、ちらりとティエンが焚いていた焚き火を見る。冷たい霧に覆われ、少しばかり火の勢いは弱まっていたが、まだ十分なほどぱちぱちと小気味よく音を立てて燃えていた。
 「へへ、それじゃあ良い食べ方があるんだ 教えてやるよ」
 そう少しばかり矢継ぎ早に言うと、フオインは手にした瓜を焚き火の中に放る。火が爆ぜる音と共に、瓜が焚き火の中に転がる。そのまま追い火とばかりにもう一つ瓜を火の中に放り、火の前にしゃがみ込むとわくわくした表情で火の中で転がる瓜を見つめ始める。
 フオインの行動にティエンは少し驚くも、理由があっての事だろうと思いなおしフオインの背を見つめるように木材に腰を掛けると、手の上に残った瓜を齧る。

 少しばかり、ちりちりと瓜の表面が焦げる音が響いた後、頃合いとばかりにフオインは火の中に手を突っ込み、一つ瓜を取り出す。
 そのまま、涼しい顔をしながら少しばかり黒ずんで膨らんだ瓜の表面に爪を突き立てると水気を含んだ空気が抜ける音と共に甘い香りが周囲に広がる。

 「えへへっ」
 すん、と一嗅ぎ匂いを楽しむや否やフオインはその小さな爪穴に口を吸いつかせ、くいっと大きく傾け瓜を“飲み下す”。こくりと、細いフオインの喉が動き、それに合わせるように豊かな胸がティエンの眼前でふるんと揺れる様子に、ティエンは口に含んだ瓜を噛み砕くのを忘れたように見惚れてしまう。
 「っ は〜っ!」
 熱く甘い吐息が、フオインの口から吐き出される。
 傾いた体が前のめり気味に戻る拍子に、大きくその実りが弾む。甘い香りの中に、微かに薫るフオインの燻ぶりにティエンも当てられたように体が火照る。
 「あっ 兄ちゃんごめん!」
 じっと、フオインの様子を見つめていた視線に気が付いたのであろう。ただ、その視線の意味を、ご馳走をお預けされたものと思ったフオインは慌てて焚き火の中からもう一つ、兄のために用意した瓜を拾い出すと先ほどと同じく爪を立て、穴を一つ開けると少しばかりはにかみながらティエンへと差し出す。
 その仕草に、我に返ったティエンは立ちあがりフオインの手から瓜を受け取ったその時であった、じゅっと皮膚を焼く音と共にティエンの手のひらに灼けるような、というよりもそのまま文字通り皮膚が焼ける痛みが走る。
 「熱ッ!」
 「ああっ!」
 怯むように体を硬直させてしまった刹那、ティエンの手から跳ね飛んだ瓜はそのままフオインの方に転がり落ち中身をぶちまけていく。
 (ッ 不覚……彼女は火鼠であった……炎を纏う身からすれば焼石であっても熱さを感じはしないだろうに……)
 幸いにして、ティエンの鍛え抜かれた厚い手のひらは少しひりひりするものの火傷を負ってはいなかった……が、驚いた拍子に瓜を放り投げてしまっていた。そして、放り投げられた瓜の中身……熱せられとろとろに溶けた甘汁は目の前の小柄な少女……フオインの体に浴びせかけてしまっていた。特に、何の因果かそのたわわな胸に瓜は転がり落ち、その谷間にとろとろと汁が流れ落ちるように滴ってしまっていた。
 火鼠ゆえ、熱湯にも等しい汁を浴びても平然としていたが、何とも言えない甘ったるい薫りがフオインから漂っていた。
 「あ〜……兄ちゃん」
 「すまない! 大丈夫か!」
 「もう〜もったいないなあ…… あ! いや、ごめん……俺、自分が平気だから兄ちゃんも平気だと勘違いしちゃった……」
 突然瓜汁を浴びせられ、むすっとしつつもすぐに自分の想い至らなさに気が付くと、フオインはしゅんとした様子でティエンの方を見つめる。
 その様子と、無事なことがわかりティエンはほっと一息つくと首を振りフオインを安心させるようにその頭と柔らかな鼠の耳を撫でる。
 「いや、自分も気付くべきでした すまない、フオイン」
 柔らかくもくりくりと心地よい耳を撫でながら、ティエンはちらりとフオインの方を見る。いつもきわどい格好をしているフオインだが、今日もまた薄布だけをまとったような格好で、その薄布に甘い香りの汁が染み込み、肌に張り付いている様子はやけに煽情的であり、ティエンはすぐにごまかすように目をそらす。
 「ううん、大丈夫 ……あ〜べたべた、それにやっぱりもったいない……」
 撫でられ、嬉しそうに目を細めつつもフオインは胸元をはだけると己の胸の上に薄く広がった汁を指先で救いちうちうと舐める。その様子に、ますますティエンは火照るような気持ちを感じ、一言“無事でよかった”と呟くとフオインの頭から手を放す。
 (あっ 終わり……? それに……う〜……せっかく兄ちゃんにもっと美味しい甘瓜を食べさせてあげたかったのに……)
 事故ではあったとはいえ、愛しい兄とのせっかくの交流が終わる気配を感じフオインは何とかしてこの時間を引き延ばそうとしたその瞬間であった、フオインの頭に一閃の閃光の如きひらめきが奔る。

 「では、フオイン また後で……」
 ティエンがそう言いながら視線をそらし、仕事に戻ろうとしたその時であった。
 「な、なあ兄ちゃん」

 「どうしま、し……」
 フオインに声をかけられ、何事かと振り向いたティエンの眼に、大きな柔餅が二つ……桜色の薄絹を頂にしたものがフオインの両手に支えられるようにして、薄布をはだけティエンの前に差し出されていた。
 甘瓜の汁でしっとりと濡れ輝くそれはむにゅんとした重さを主張すると同時に、隠しようのない瑞々しさを誇るように張り詰めており、決していたずらに垂れるばかりではないことを雄弁に物語るようであった。
 「っ フオイン……!」
 そしてそれはティエンにとっては大なる誘惑でもあった。
 紅髪の少女が、己の豊かな胸をはにかみながら両手で差し出すように支えているという様子を前に、応えぬというのは男と言えようか。
 しかし、あえてティエンは抗わんとするように息を呑みこむと、はしたない真似は止めるよう声をかけようとした時であった。
 「あ、あのさ……俺、その……火傷しちゃった……かもしれないからさ、その 兄ちゃんに確か……めて……ほしぃ」
 ぽそぽそと、目を伏せるように、しかしてその胸をくっと突き出すようにしながらフオインは懇願する。そのいじらしい様子に、ティエンの意志が揺らぐ。そんなティエンの気を知ってか知らずか、フオインはもじもじと腰を揺すらせながら、伏し目がちにちらちらと火照った視線を流す。
 「あ、あぁ……」
 そんなフオインの可愛らしさ、そして艶らしさにティエンは誘蛾の如く……確認、確認をするだけ……そう言いきかせるように、口の中で繰り返し呟きながらティエンは腰を落とすようにしてフオインの……若く健康的な肌へ……実りへと顔を近づける。むわりと、暖かなフオインの体温によって燻された甘瓜の甘い薫りが立ち昇り、ティエンの肺を満たす。息を吸うたびに脳にまで浸透するかのような心地よい薫りを前に、ティエンの欲望は早くもいきり立つかのように存在を主張し始めていた。
 もしも、ティエンが意思弱きものであったならば、すでにこの時点で目の前の少女を押し倒し、思う存分貪ろうとしたに違いなかった。
 だが、あくまで確認するだけ、そう意志強く言い聞かせながらティエンはフオインの乳房を……ぽってりとしたふくらみを見る。
 きめ細やかな絹肌は淡く輝くようであり、火傷か興奮か……ほんのりと朱色が浮かび頂の桜はつんと既に突き出しており、その先からもまた瓜とはまた違った甘い薫りが漂っているかのようであった。ゆっくりと、その頂を眺め、そしてまんまるの丘と谷間を上から下に……小さな両手に支えられた谷下へと至る。実りの下は、普段は外気に晒されることも少ないのであろう、籠ったフオインの薫りと甘い瓜の薫りが混じり、まるで媚薬の如くティエンの肺と肌を撫でる。既にフオインの体は熱く火照り、少しティエンが視線を下にそらせば、少し内股気味に……そして薄布越しにほんのりと湿ったフオインの姫花を見たことだろう。
 「……ど、どう 兄ちゃん……」
 うつくしい
 息を呑み、言葉を呑む。
 「大丈夫…… 火傷は、ない」
 まだ、まだ理性はある。強く意志を持たせ、ティエンは視線を上げようと腰に力を入れる。
 「……その、あの……すこし……ひりひり、するんだ 兄ちゃん……そのぉ なめてくれないかな」
 一際、纏う空気が熱くなる。甘えるような、火照った声に思考が燻ぶる。
 「それは」
 「兄ちゃん、お願い……ほら、ちょっとひりひりするだけだから……唾つけてくれれば、きっとよくなる気が……するんだ」
 くっと、寄せた二つの桜、ティエンの眼前に迫る。妹の熱い火照りが湯気のようにティエンの顔にくゆり、一瞬、ぽっと桃色に染まったかのようであった。

 あっ

 微かな、甘い囁き。
 気が付けば、ティエンはその乳房を口に含んでいた。

 あまい

 しっとりとした、瓜の甘さが口の中に広がる。切ったばかりの生瓜とは違う、もっとねっとりと絡むような甘さ。しかしてくどくはなく、かろやかな甘味が舌の上にじんわりと染みるようであった。何より、もちもちとした甘餅の如き暖かな柔肌を舌の上で滑らかに撫でるという風味は言葉にし難い感覚と旨味があった。
 そのまま、思考の全てを口に支配されてしまったかのように、餓えた赤子のようにちうちうと少女の乳房をしゃぶる。甘みが薄まれば、求めるように舌を乳房に這わせ、朱に染まった餅肌を舐める。舌に押されるたびに、むにりと跳ね返す弾力に衰えることのない若さを、熟れる寸前の果実の味わいを感じより貪るように……フオインの二の腕を両手でつかみ豊かなる谷間へと口を、顔を埋めるようにして薫りを味わう。
 甘い瓜の薫り、少しばかり灰が混じるフオインの薫り、それらが混じり合った薫陶の如き狭間はたとえようのない、強烈な興奮をティエンにもたらしていた。
 いきり立つ欲望は服の中で隠しようもないほどに隆起しており、既に興奮がにじみ出てさえいる様子であった。それに応じるように、フオインもまた強い興奮を覚えていたのであろう、その体は既に炎の如く熱く火照り、熱気をまといながら甘い雌の薫りを放っていた。
 そんなフオインのなめしゃぶられた豊かな丘の先立ちは既に淡い朱に染まって膨らみ、抓まれようものならば硬い蕾のようにしっかりとその存在を主張していた。ティエンの両手は既に二の腕から離れ、燃え立つ柔毛を撫でるようにフオインの髪、そして耳へと至っていた。そのまま、呆けたフオインの口を塞ぐようにティエンは自らの口を重ね、瓜のように甘い舌と、柔く締まった身を味わう。薄桃色の唇に、ティエンの舌が絡み、歯が当たる。幾度となく重ね合わせてもなお、飽くことのないその味にほんのりとした甘さが合わさりより深く多く味わおうと貪っていく。

 欲に溺れるなかれ

 かつて、そう誓った道の教え、それをよりにもよって魔物に、魔物の娘に溺れてしまう罪深さ。無邪気な年端もいかぬような若い精神と肉体、しかして成熟した“女”を感じさせる豊穣たる肉を併せ持つフオインはあまりにも蠱惑的であり、破滅的なまでに男を狂わせる魅力、魔力に満ちていた。
 それは成熟した魅力を持つタオフー、ヘイランには決して持ち得ぬものであり、いわばフオインだけの……そして一番の魔性ともいえる部分であった。

 熟れる前の、青い果実
 一度口にすれば、その味に狂わぬ者はなし

 ティエンの片手が、大きく膨らんだ太ももを撫でる。そのまま、肉の詰まった臀部へと至り掴むように指を埋める。薄布越しにはっきりとわかる熱、そして指を押し返す若さ、その全てがティエンの獣欲を煽り立て、この若く未成熟な……否、若いが故に“最も”、己が種を……その健全たる肉体に託すに相応しいと感じてしまう。

 妹の口から、甘く兄を呼ぶ声が漏れる

 その口を再び塞ぎ、そして己のものにせんとするように小柄な……柔くしっかりとした……肉体を抱く。いつの間にか、フオインの体に巻き付いていた薄布は解れ、ほとんどすべてが地に落ちていた。生まれたばかりの姿で、ふわりと紅い柔毛に包まれたフオインの両腕と両足がティエンに絡みつく。揺らぐ火のように熱く、そして陽光の如く暖かい火の毛。これのおかげで、たとえうすら寒い霧の中でさえ陽の光を浴びているかのようであり、むしろ熱いくらいであった。
 何より……フオインを抱くとき、まるで体の奥から炉のように燃え盛る火照りが己の、ティエン自身の体を熱し決して冷やそうとしなかった。この不可思議な火照りもまた、タオフーやヘイランとの交わりには決してないものであった。まさしく、理性を焼き尽くす大欲の業火であり、禁忌を冒すにあたり最後のひと押しとなるものであった。

 勢いのまま抱き上げるように、フオインを抱えると、ゆさりと揺れる重みを支えんと片手で下より持ち握る。心地よく張り詰めた弾力でぷるんと跳ねる感触、焼け付くように熱い肌、湿った汗と少しばかりべたつく甘瓜の薫り、それらを指先でなめとるように撫していく。白玉の肌にざらつきはなく、滑らかにティエンを受け入れると同時に少しばかり生意気なまでに押し返してくる。そんな肌を、己のささくれだった指が無遠慮に触れるにあたり、まるで極上の絹を爪で裂くかのような倒錯した快感さえ覚えてしまう。しかし、そう感じつつもフオインの乳房を、肌を揉みしだく手の動きが止まるわけではなく、より強く求めてしまう獣の性にティエンは振り回されていくばかりであった。

 暫く、口を重ね合わせ互いの熱を舐っていたティエンとフオインであったが、その熱を吐き出すようにフオインは口を放すと、僅かに光る銀糸を滴らせながら……このような火照りの中でなければ、決して鳴かぬような甘声で……兄を、男を、愛するものを求める。

 応じるまでもなかった

 ティエンは返事代わりに再び口を貪り、そして押し倒すように木材の上にフオインを寝かすとその両足を開かせる。すらりと、それでいて根元は太く……若木の如き見事な足。鞭の如き蹴りを放つしなやかな肉は、今は愛する男に絡み締め付ける根の如く。枝葉に移る燃え火のように、音を立てて欲望が広がっていく。
 しなやかで、悪戯なフオインの手と足、そして破り捨てるように己が“欲望”を露わにしたティエンによって獣の如きものが晒される。幾度となく、獣仙と交わったそれは硬く太く、獣を穿つ槍そのものであり、到底目の前の少女に納めて良いようなものには見えなかった。

 貪る口を放し、身を起こす

 絡みついた、燃え根が放すことはない。だが、男はぐっと飲むように口を噛み締め、身を起こすと先ほど己が押し倒した少女を見る。
 己が腰より突き出してしまった、暴虐を見せつけるように。
 たとえ色を知る身であろうと、この暴虐さには恐怖を覚えるものもいよう。故に男は求めるのだ、最後の赦しを、たとえその答えがわかっていようとも、赦されずにはいられない。それがティエンと呼ばれた獣の、最後にひとかけら残った理であった。

 燻ぶるような薫り、耳を浸す甘い囁き、蜜がぬめり滴る音

 少女は、その紅い耳を震わせ、潤んだ瞳で獣を赦す
 心の臓、胸元をはだけ、両手を広げ、足を絡めて腰を浮かし槍先を熱い根の奥へと導く

 ―きて―

 視界が焼ける
 ぬめりと呑み込まれる槍先
 “かえし”が熱く溶かされるように締め付けられ、最奥へと肉の沼を掻き分ける

 燃える

 肉が、心が、溶けていく
 あまりに心地よい、火刑の如き熱の痛み

 ぐっと、奥に当たる感触。それと同時にフオインの胎がきゅうっと窄まるように収縮し、ティエンの欲望を噛む。たった、一突き。時にしてほんの数秒にも満たない瞬間であったが、ぴゅるりと……欲望が漏れ出る。
 幾度突き入れてもなお、煮え立つような興奮と快感をもたらすフオインの魔性。だが、快感に慣れぬとて重ね続けた修練は……それが情交であったとしても……裏切らぬもの。ティエンは一息腰奥に力を溜めると、力強く腰を引き……そして落とすように突き入れる。引きずりだされる剛直をねぶる音、そして突き入れられると同時に響く肉と肉、そして胎奥から吐き出されるフオインの嬌叫、媚びるようなそれでいて品のない叫びが可愛らしく歪んだ顔から響くという倒錯にティエンは燃え立つ。
 一見すれば大の男が、少女を犯しているようにも見えたであろう。しかして実態は男の方が“喰われている”と言ってもよかった。突き入れるたびに少女の底は締まり、喰いつき、愛する兄の精を飲まんとうねり蠢く。抜かんと引けば返しに噛むように多数の肉芽が逆立ち、ぴったりと巾着の如く吸い付いた肉袋が突き入れる以上の刺激を与えていく。
 一突き、一突き繰り返すごとにティエンの精嚢はぐつぐつと沸騰を繰り返し、疾く疾く解放をせよと叫ぶ。しかして、未だ突き入れ始めてほんの少しの時間もたっていなかった。だというのに既に全身からは汗と湯気が炎のように噴き出し……否、フオインが背にした木材から実際にぱちぱちと焦げるような薫りが……すでに限界を迎えんと脈動してしまっていた。熱く燃え立つフオインの花弁もまた、じゅうじゅうと音を立てて吸い付く錯覚を起こすほどに引き絞られ、今か今かとその奥口を開けている。
 「はっあっ! フオイン!」
 限界を知らせる、情のない声をティエンは空に叫ぶ。既に視界は明滅しはじめ、快感の炎に焼かれてしまっていた。
 「奥に! 奥にィッ!」
 ぐうっと、腰をさらに浮かせフオインは兄と慕う男の欲を受け入れる。殆ど持ち上げられた半身に、無遠慮に叩きつけられる獣欲。幾度、ひと際強く突き入れていく中、それは突然であった。
 引き絞るような男の叫び、それと同時に震え決壊するかのように欲の先から迸る白濁がフオインの肉炉を叩く。爆ぜるように叩きつけられる熱い飛沫の感触に、フオインはたまらず叫び、逃げるようにのけぞるも、絡みつかせた己の足とその腰をがっしりと掴んだティエンの手によって逃げられず、ただより強いうねりを咥えこんだものに与えて一滴残らず絞らんとする有様であった。引きねじられ、最後の一滴まで鈴口から絞り出される快楽。沸き立つ泉の如く、流れ出ていく精を感じながらもティエンの欲望は萎えることなくフオインの中で震える。

 藁束が燃え立ち炭となるような、短い交わり。だが、その興奮は激烈なものがあったようで、フオインの背から滲む熱気で木材に焦げ目が広がってしまうほどであった。だが、それほどの熱量をもってしても、ティエンに痛みや苦しみはなく、むしろ火に焼べた薪の如く心身が欲に燃え立つようですらあった。
 「うっ」
 果ててなお……ぎゅっと、握るように締め付けるフオインの中に一絞りの精を捧げるティエン。そのまま腰が砕けたようにどっとフオインの方へと覆いかぶさるように倒れこむ。剛直は未だフオインの中に埋まり、無意識のうちに腰が跳ねるように動くたびに小突かれた胎が喜ぶように収縮し、そのたびにままならぬ己の体を恨み喜ぶようにフオインが淡く鳴き声を上げる。
 一回りも小さい、少女の姿。しかして豊かな尻はしっかりと“母胎”足りえる資格を有し、同じく大なる双丘は十二分に“雌”であることを主張していた。今もティエンの胸に押し付けられた柔肉が呼吸に合わせてむにむにと動き、形を変えながらティエンに押し付けられており、心地よい疲労の中に芽生えた理性を崩さんと煽情していたのである。
 ティエンが何とか体を起こそうと、息を整えるように数度大きく呼吸をしていると、鎖骨のあたりに熱い吐息と微かな痛みが走る。何事かと思えば、押しつぶされる形になっていたフオインが抗議のつもりかそれとも悪戯心か、首回り、鎖骨のほどを甘えるように舐り噛みついていたのである。ちうちうと舌を這わせ舐めしゃぶる音が響きながら、己が肌を汗を愛おし気になめとるその様はあまりに淫らであり、そして言いようのない蠱惑的な愛情をティエンに抱かせるものであった。

 ずぐんと、槍が震え伸びる

 腰奥に、響くような熱が籠る。
 それに驚いたようにフオインの口が放され、仰ぐように上に……ティエンの顔の方へとフオインの顔が向き、その眼と眼が合う。
 朱色の瞳は無垢に輝き、染まった肌は朱く、潤んだ汗が紅髪に絡み輝く。それは、魔性であった。妙齢の娘しか持ち合わせぬ、無垢と艶、それらが合わさった妙なる美……いや、美と呼ぶことすら疑わしい恋焦がれ欲してやまないほどの渇望、それを喚起する欲を何と呼べばよいのだろうか。

 最早止まらぬ

 ずっずっ、と抱きしめたまま再びティエンの腰に力が灯る。小さき妹に覆いかぶさり欲のままに貪る甘美さ、止むことのない火照り、いくら味わおうと飽くことのできない未熟と成熟が入り混じった肢体、そして何より甘えほころぶその紅髪の愛い顔、全てがティエンを狂わせ欲望を燃え上がらせる。

 耳元で甘い叫びが小さく響き、ティエンはフオインの頭に、その耳に顔を埋めるように強く抱く。少しばかり焦げた匂いと共に、フオインの薫りが内を満たす。ちりちりと燃え火が広がるように、下半身の熱と混じり体を燃やす。
 先ほどよりも遅くとも、突き上げる力は力強く、ぐぅっと胎が浮くたびにフオインはその小さな姫花を窄ませ、しゃぶるように顫動させていく。うねり、しぼり、渦巻く熱い肉襞によってティエンの欲望は鋳造され、その熱と鋭さを炉に突き入れる。


 ぎしぎしと、木材が軋む音と火鼠の甘声、籠る熱と共に漏れる吐息だけが霧の中に響く。


 熱くねっとりとした膣肉。浸しているだけでも心地よく、何時までも突き入れておきたくなる蠱惑的な快楽。確実に高まっていく性感と熱はじりじりと腰奥を焦がすようにティエンとフオインを炙り、お互いの動きを重ね合わせていく。フオインは腰を浮かせながら、上下左右に振り、己の中に埋まる愛しき兄をその肉花で包む。熱く湿った花弁はきゅうきゅうと切なげに蜜を滴らせながら徐々にその震えを抑えきれぬようにより強く、細かく絞り上げていく。
 当然、そのような快楽に耐えられるほどティエンの守りは固くなかった。

 にちにちとお互いの蜜が混じり合う中、ティエンの精油は再び練り上げられ、暖かな火鼠の炉にくべられるのを待ち望むかのようにくつくつと煮え立つ。それに合わせて、腰の動きは大きくなり、より強く深く打ち付けていく。馴染んだ蜜は粘つくように薄く張り付き、抽挿が繰り返されるたびにねちゃねちゃと湿った音を立てながら汗のようにフオインの尻肉の合間……窄まりへと零れていく。結合しているかのように、肉と肉の合わせ目があやふやになり、ただ心地よい熱だけが混じり合う。

 穏やかな霧の中で、ただ二人だけに浸る。

 そんな心地よい忘我の時の中で、ひときわ大きな息が、終わりを告げるように……そしてそれを惜しむように吐き出される。
 それに合わせ、少女の体が震え、ぎゅっと両手と太ももを兄の体に抱き回す。

 その後、落ち着き止まぬ様子で……見つめ合い、荒い息を吐きながら互いの口を塞ぎ合わせていく。

 ……この瞬間だけは、この世界に二人だけしかいない、そう感じられるだけの静かな時が過ぎてゆく……



 ……日が傾き、霧深く周囲が曇り、少しばかり肌寒くなってきた頃合い。
 切り揃えられた木材のそばで焚き火がぱちりと音を立てて燃え立つ。ティエンとフオインは少しばかり焦げ付いた木材に座り、その火を眺めていた。二人の手の中には瓜が握られており、お互いの顔を見やりながら……時折恥ずかし気にうつむきつつ……しゃくしゃくと瓜を齧る。
 未だ情交の熱気が冷めやらぬ火照った体に瓜の瑞々しさがありがたく、そのすぅっと染み渡るような甘さを楽しみながら声を交わすでもなくただそっと寄り添いつつ焼け落ちる薪を見る。

 結局、今日の仕事も思うようには進まなかったが、最近はそれでも良いとティエンは思うようになりつつあった。
 タオフー、フオイン、ヘイラン……数奇な縁ではあったが、そんな彼女たちと過ごす日々は楽しく、こうした交わりで与えられる肉体的な快楽とは別に、家族のように感じられる心の温もりが何よりも心地よかった。

 霧が山野を舐めるように覆い始める。

 しゃくりと、咀嚼を終え呑み込む音が静かに響く。
 そのまま瓜の薄皮を火の中に投げ、ティエンは冷えた白湯と一緒に口の中の瓜を流し込むと夕餉の支度をしようと立ち上がる。
 立ち上がったことに気が付いたフオインが、次は何をするのかと無邪気に顔を上げてティエンの方をみる。まだフオインのそばには瓜が数個転がっていた。
 「夕餉を作りに行きます」
 夕餉、その言葉にぱっと顔を輝かせるフオイン。それに微笑み返すと、ティエンは辺りをさっと片付け始める。するとフオインも同じようにティエンの片づけを手伝い始める。そのまま他愛のない会話を交わしながら、お互いに笑い合う。

 片づけはすぐに終わり、ティエンは厨房の方へと向かわんと歩き始めたその時であった。
 「えへへっ 兄ちゃんっ」
 むにゅんと、柔らかな大福の感触がティエンの肘辺りに当たる。暖かくふかふかとした紅毛の感触と同時にしゅるりとティエンの腕にフオインの細腕が絡みつく。その様子はどこか蠱惑的ではあったが、純粋に兄に甘える妹のようでもあった。そうしつつ、片手にはしっかりと先ほどの瓜を握り、肩からぶら下げているのは愛嬌でもあっただろう。
 そんなフオインの頭と鼠の耳を、優しく愛おし気にティエンは撫でると、そのまま特に何も言わず、変わることなく微笑みながら一緒に歩き始めるのであった。

 山霧深く、静かな一日のことであった






 ……ってわけよ
 いや〜懐かしいねえ……こう見えてあっしは仙女様たちとちょいとばかしお付き合いがあるのさぁ この話をしてくださった仙女様はそれはそれは可愛らしいお方でねぇ……
 背もあっしと同じくらいで、そんなに高くないのに胸やお尻がたわわってねぇ……ん〜? 旦那はそっちの方が好みかい? ほぉう? 

 またまたぁ……そう言うわりにぃ……あっしが……こう、やって……んふ……ほぅら…… あっ! こらっ!
 はぁ〜……まったく、旦那も身持ちが硬いねぇ ま、そこが良いところなんだけどねえ

 ……さてさて  話も終わったし、喉も潤ったろう……そろそろ行こうじゃないか えぇ? どこに? はぁ……やれやれ、そんなにいやかね

 ……ふむぅ

 ……ほうほう

 ……なるほどぉ?

 へぇ……ふぅん……そこまでぇ?
 ちょいとばかし、傷ついちゃうねぇ うん? そんな風には見えない? そりゃあそうでさあ、この程度の言葉攻めで泣いちまうようじゃあ商売人なんかやってられませんて そ、れ、に……ある程度年を食うとねえ、詰られても感じちまうような相手もそんなにいなくてねぇ……で、も……あっし、先ほどの旦那の舌鋒で……ふふ どうだい、仙女様ほどふっくらとはしてないけど、下の方は技にちょいと自信あるんだよ 旦那の舌でちょっぴり咲いた狸の濡れ花をいっちょ御開ちょ…… なに やめろ? 色気も何もないって?

 はぁ〜 ははぁ〜ぅん……なに遠慮しているんかねぇ 色気もくそもないなら、どこであっしの花びら見せようが気にもしないだろう?

 品が無いってぇ? この程度じゃあ、この街じゃあ下の品にもなりはしないってことは、旦那はよくわかってるんじゃあないかい ほうら、あっちの暗がり こっちの暗がり 艶花、恋花、徒花……選り取り見取りさ ま、徒花なんてものはこの街にはないけどね あっしたち魔物彩る色町だよ、この街に咲く花はみんな実を結ぶのさ……あっしと旦那のようにねぇ……

 ……そんな顔したって無駄だよ

 さあさ、無駄話が過ぎたね、時は金なり、姐は早漏を尊ぶ 今度こそ、あっしの店にぃ 来てぇ、もらいましょうかねぇ……
 なあに、悪いようにはしやせんて ささ、腕組み足組み……ふへへ 良いねぇ、暖かいねぇ……やっぱりちょいとそこの暗がりであっしの花びら一つ拝んで……わかったわかった

 さあ、いきましょう 今度こそ、あっしから逃げないでくださいねぇ……

 もしもにげたらぁ……くふふ……


24/10/20 09:58更新 / 御茶梟
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■作者メッセージ
天崙山名産紹介その二です
瓜って言うと少し安っぽいというか、田舎っぽい感じになりますがメロンみたいなもので、天崙山の果実の中では食べにくさもあって高級品のイメージです

楽しんでいただけたのであれば幸いです

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