連載小説
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虎穴に入らば猛虎を
 ……じっとりとした熱が全身を包む。
 むせかえるような甘い薫りの中、ティエンの意識はゆっくりと覚醒していく。全身は痛み、まともに動かすことは叶わなかったが死には程遠い、それは確かに感じていた。
 (……また、情けをかけられたか……)
 魔物に敗れ、そして生かされる。今生二度目の、慈悲を受けティエンは深く感じ入る。
 (……妙に体が熱い、それにここは……)
 暗く、湿った場所。だが熱く、粘ついた薫気があたりに充満していた。不快ではないが、異様な空間。
 ティエンが様子を探ろうと、その身を起こそうとした時であった。暗闇に爛と両目が光る。
 「ッ!」
 その瞬間、己の上に“何者か”がのしかかっているということに気が付く。己よりも大きく重い、そして感じていた熱と薫りは眼前の存在が放っている。熱ばかりではない、じくじくと肌を焼くような湿り気、それすらも放っていることが伺えた。
 何者、そう問おうとした時。ねっとりとした、熱い舌がティエンの唇を舐める。
 じゅっと、焼き付くような痺れが唇を襲う。そのままその舌はティエンの頬を、額を、そして首を舐る。肉厚の、ざらざらとした舌が這うと同時に恐ろしく抗いがたい、痺れるような強烈な快感をティエンにもたらす。それと同時に、むわりとした吐息が顔を撫でる。
 目が徐々に暗闇に慣れ、少しずつではあるがティエンの上に覆いかぶさる何かの輪郭が見えてくる。それは美しく、そして力強い獣の似姿をしていた。そして、ティエンはその者を知っている。
 「タ、タオフー殿!」
 美しい銀虎が、艶めかしく牙を剥き……笑みを浮かべ、何かに憑かれたように深い執着を両眼にぎらつかせながらその長い舌を這わせている。いつもの凛とした姿はどこへ、嗜虐に満ちて恍惚とした表情は恐るべき淫婦そのものであり、己と武を競い合った姿とは似ても似つかないものであった。
 「ん! いけま、せん! タオフー殿、お戯れを! ん、ぐ」
 唇を割り、舌が入り込む。ねっとりと甘い唾液がティエンの口内を浸す。ティエンは再度確信する、まだタオフーは正気ではないと、そして正気でもない女子に対し、たとえ魔物といえどもこうした交わいを行うのは己が信ずる道に反するとティエンは何とか抵抗を試みる。
 (だ、だめだ! 体が!)
 しかし、当然というか、そもそもの力が違いすぎることに加えティエンの体は完全に疲労困憊しており、まったく動こうとはしなかった。そのうえ、体を動かそうとしたことが裏目に出てしまい、より己の感覚を鮮明にしていく。
 ふわりとしつつもさらさらとした、心地よい毛皮の感触。ティエンの体を包む、しっとりと熱く、そして力強く絡みつき、とくとくと脈打つ肢体。ただ触れているだけで、衝動が付きあがっていく。
 (まさか! ま、まずい!)
 そしてティエンは気づく。いまこの瞬間、己とタオフーを隔てるものが何もないということに。脳裏に浮かぶは、あの日焼きついた逞しくも艶めかしい美虎の裸体、それが今己の体に裸で組みついている。それを意識した瞬間、ティエンの体が熱くなる。その様子を見て取ったのか、もう待ちきれないとでもいうようにタオフーの体がより強くティエンに絡みつく。触れ合う肌と肌、合わさった瞬間燃え広がる野火のように熱が広がる。極限まで鍛え上げられた、うねる脈動からもたらされる情動、タオフーの逞しい両腕がティエンの体へと組みつく。
 甘い舌が、ずるりと口内から引きずりだされ。獣は美味そうに舌なめずりをすると、ねっとりとした息をティエンに吐きかける。
 「うっ! ぐっ!」
 それは舌と同じく、粘つくような甘い薫りを放ち、ティエンの理性に霞をかけていく。そのままタオフーは全身をくねらせて、ティエンの体を労わるかのように、しかし力強く愛撫する。じっとりと湿った張りつめるような肉体がこすり合わされ、つんと尖った慎ましやかな胸の果実がティエンの胸元をなぞる。
 「た、たおふー……どの いけま、せ……」
 ぼんやりと、だが体だけは熱く、燃え上がっていく。ティエンに跨った獣はもう待たぬ、とでもいうようにその股座を持ち上げると、まだ辛うじて寝ぼけたままであったティエンの分身へと押し付ける。
 「あ! ああ!」
 じゅっとりと熱くうねる肉口が半身を咥えこむ。それを感じた瞬間、何とか抑え込んでいた半身に血が巡っていく。タオフーが荒い息を吐きながら、腰を揺り動かすたびにじゅるじゅると粘ついた音を響かせながらぷりぷりとした淫肉が吸い付き、裏筋をなぞる。それと同時に、急かすように、甘えるようにタオフーが息を吐きティエンの口を舐める。
 熱と快楽、抗いがたい原始の本能を前にティエンの抑制も限界であった。急速に己の半身が持ち上がり、タオフーの肉口と同じく、もしくはそれ以上の熱を放ち始めるのを感じていた。
 まずい、とティエンが身をよじったその時であった。

 ぬるり

 ぽっと、広がる熱さ。己が愚息に感じる、狭く絡みつく蜜の感触。
 それと同時に、タオフーがその全身をびくびくと震わせ、感極まったように深く息を吐く。
不規則にタオフーの腰が跳ね、その身がうねる。その度にティエンの分身が強烈な熱とともに引き絞られ、全身を顫動する動きで扱かれるというまったくもって未知の快感を浴びせかけられていた。

 齢三十を前にして、ティエンは未だ女人の味を知らず

 そのティエンが今、あまりにも強い、強すぎるといってもいい快感を前に何とか持ちこたえていたのは、性的な快感を快感として受けとる感覚がまったくもって未発達だったからといってよかった。だが、その本能に根差した感覚はすぐに、混乱するティエンの全身を駆け巡りそれが“快感”であることを伝えていく。
 「あ! ああッ!」
 芯から突きあがる衝動。しかし、それだけはいけないとティエンはその身をさらに強張らわせ耐えようと拳を握りしめる。だが、タオフーの熱くぴったりと喰いついてくる肉壺は容赦なく、ただそこに納まっているだけであっても抗いがたい快感をティエンに与えていた。
 荒い息が、暗い洞窟の中に木霊する。
 吐く息の音に重なるように、タオフーの胸の中で跳ねる心臓の音がティエンに伝わる。掻き抱くように包み込まれ、密着したタオフーの胸から熱とともに、高鳴る心臓の音が。その音は不思議と大きく感じられ、重ね合った体から響いてくるようであった。

 互いに、未知の感覚と快楽に支配されているのであろう。ティエンを迎え入れて暫く、タオフーはその身を震わすばかりで一向にその身を動かそうとはしなかった。
 しかし、咥えこまれたティエンの半身はしっかりと強く包まれ、時折ぴくんと震えちゅうっと胎内でしゃぶられる感触はただそれだけでも強い性感となってティエンを襲う。タオフーがすぐに動き出さなかったのは、ティエンにとって幸いであった。ティエンの昂りは後一歩のところまで来ており、少しでも強い刺激が加われば容易に決壊し己の精を溢れ出させていたに違いなかったからである。とはいえ、虎の牙にかかった今のままでは、動きだされさえすれば再びあっという間に決壊寸前まで追い込まれてしまうのは目に見えていた。
 (な、なんとか……タオフー殿から、離れ……ねば)
 初めての交合。その感動も、心地よさも感じる暇はなかった。このままではタオフーを穢してしまう。それだけはあってはならない、これ以上の狼藉は働けないとティエンは己の意識の全てを以て何とか抜け出そうと力を籠める。
 息を吸い、ぐっと体に力を入れ起き上がろうと試みる。

 むくっと、息子に力が入りタオフーの胎を押し上げる。当然である。

 虎の艶叫とともに、ぶるぶると肉が震えて泉が噴き出す音とともに粘ついた熱がティエンの股をより濡らす。引き絞られた肉巾着が、亀頭を包む。
 「ううっ!」
 ぴゅるりと、少し漏れる。
 (! だめだ! 力を入れては!)
 とはいえ、緩めようものならばより盛大に漏らしてしまう。引くも進むも難い、しかし抜け出すには一気に力を籠め進むしかなかった。だが、この一瞬の迷いがいけなかった。
 「ティエン! ティエン!」
 甘い、虎の鳴声。強く抱きしめると同時に深く腰が落とされ、より強くその肉壺をうねらせ喰いつく。にゅぐにゅぐとうねる肉襞と鈴口に吸い付く肉の感触。
 「あ! ああ!」
 漏れる。
 そう思った時には遅かった。
 「あうんっ」
 勢いよく、虎の中に迸る。生まれてこの方、自慰すらまともにしたことのない男の精が、初陣とは思えぬ勢いと力強さで猛虎の砦へと突撃していく。
 「ああ……」
 「あはぁ……」
 (……申し訳ありませぬ……ライフー殿 ティエンは、穢してしまいました……)
 貴方の妹君を。心地よすぎる解放感を感じながら、ティエンは己の宿敵に心の底から懺悔する。そんなティエンを横目に、当の本人……タオフーは初めて感じる胎の内で精を受けるという感触、ねっとりと重く熱いものが胎の中に満ちる満足感に感じ入るように甘くしっとりとした息を吐きながらより強く、己のものであると示すように強く抱きしめ、肌を、毛皮をこすりつけながら匂いをティエンに刷り込んでいく。



 ……暫く、稚児の戯れの如き交わりを許していたティエンだったが、いよいよこれ以上はと強く心に決めタオフーから離れようとその両手を腰元に当てる。
 ティエンに触られたことが嬉しかったのか、タオフーはその腰をくねらせ尾を振る。そんな様子を、ティエンは不思議と心苦しく思いながらいまだに熱く硬い己の一物を引き抜かんと力を入れたその瞬間であった。
 「ぐ!」
 ゆるゆるふわふわと愚息を包み込んでいた柔肉が突如、万力の如き力強さで愚息を締め上げる。それによって深くぎっちりと咥えこまれた愚息を引き抜くことは叶わず、同時に強烈な痛みにティエンは息を漏らす。
 「あっ! がっ! た、たおふー殿!?」
 己が内から逃げようとした、その思惑を僅かな一瞬で見抜いたのであろう。そしてそれは、どうやらタオフーにとっては極めて不愉快なことでもあった。のっそりと、身を起こしたタオフーの表情は険しく、不機嫌そうに唸り声をあげ、その両目は爛々と怒りに満ちていた。
 「うっ! うぐ、タオフー殿 これ以上は、なりません! どうか、どうか……うっ!」
 ぐりっと、腰を捻りティエンを黙らせる。万力に絞められたまま、愚息を捻られる激痛にティエンは呻くも、同時にその激烈ともいえる痛みの中にじんわりと熱が灯る。
 その様子を、せせら笑うように眺めると再びその身をゆっくりとティエンの上に重ねていく。そして口を重ねると、ずるりと長い舌を差し込み、先ほどと同じようにじっくりとその体をゆすりティエンの理性と精神を削り侵そうとその身を捧げていく。
 だが、もう逃しはしない。そう告げるかのようにタオフーの肉口は強くティエンの半身に噛み付き、しゃぶり舐り上げていく。ずっしりと重く熱く、そして湿った体に押しつぶされたティエンは文字通り“喰われ”ながら長い時を過ごすことになるのである。


22/07/09 08:21更新 / 御茶梟
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