人形遣いと若き竜・下
「……ほいっと。これで完了だ。ったく、よくこんなになるまでもってたよな。もう魔力がすっからかんだよ……」
外に出てから、私は騎士の男の方に治癒魔術をかけてもらい、傷を治療してもらった。
その場には、寝ている智也と私の治療を行っている騎士の男、無表情の鉱夫みたいな男、中性的な男という先ほどの四人と、どう見てもサキュバスな女性と、寝てはいるが、可愛らしい、しかしどことなくなにかに似ている少女の二人がいる。
「すまない。まぁ、私はこれでもドラゴンだからな。生命力は高いんだ……流石に今回はかなり危険なところまで追い込まれたが……」
「それは仕方が無いですよ。あれは対魔物武装……魔力に干渉し、ほぼ無効化する教会の秘密兵器ですからね。最近は仮量産が始まって一部の騎士団に支給されてるみたいで、おそらくそれがあなたに回ったのでしょう」
「なるほどな。たしかに、我々の鱗などは魔力によって強化されている……とも言えなくもないな。だからあんなに攻撃が通らなかったり、逆に攻撃を防げなかったりしたのか。…………さて、そろそろ私の問いに答えてもらってもいいか?」
彼の考察にある程度納得してから、私はまだ自己紹介をされてないので、それを求めた。
「ああ、そうですね。そしたらまずは僕から。僕は鶴城 竜司(つるぎ・りゅうじ)。君と同じ智也の友人……であり、僕と智也たち三人を初期メンバーとするパーティー、“スート”の代表をさせてもらっています」
「……次は俺だな。小華月 治樹(さかずき・はるき)。スートのメンバーの一人で同じく智也の友人だ」
「そしたら次は……」
今度は騎士が自己紹介しようとして……後ろにいたサキュバスに割り込まれてしまった。
「私はレーナ・ミリオン。一応スートのメンバーで、この人……リオの恋人よ♪そしてそこで寝ている女の子はクー・リードロン。彼女は……まぁ、蓮杖君の助手みたいなものかな?」
「そして最後に……まぁ、説明の必要はないね。蓮杖 智也。一応言っておくと、スートのメンバーだね」
「おいちょっと待て。俺はどうした!?俺の紹介は!?」
「「ああ、いたんだ(のか)」」
「……おぃ、泣くぞ?本気で泣くぞ……?」
サキュバスのレーナが自分と寝ている少女の紹介をし、鶴城という中性的な男が最後にと智也を念のために紹介して、それで終えようとしたので、騎士の男……たしか、レーナにはリオ、と呼ばれていたか?は、終わらせるなと異議を唱え、そしてわざとらしくない、とても自然な流れで鶴城と小華月に居たんだと言われ、すごく落ち込んだ。
「泣かないでよ気持ち悪い」
「……あ、いじめられて泣いてるのに、気持ち悪いですませちゃうんだ……」
「……なんだか、若干彼が可哀想に思えてくるんだが……」
「気にするな。いつものことだ」
「まぁ、冗談はともかく、ほらリオ、自己紹介」
「あ、ああ。そうだったな。俺は富御 圭一(ふみ・けいいち)。スートのメンバーで、まぁ、一応レーナの恋人で、智也とは……言わなくてもいいと思うが友達だ」
「そうか、よろしくな」
と、手を差し伸べてきたのでとりあえず握手をして、ふと疑問に思うことがあった。
「そういえば、富御はそこの二人にリオと呼ばれているのはなぜだ?名にはリオの二文字は入ってないはずだが……?」
「あー、まぁリオは本当は富御圭一なんて名前じゃないからね」
「なに?」
ちょっとした疑問から衝撃発言がでてきた。
「……つまりは、偽名を使っているというわけか?」
「まぁ、そういうことだな」
「おいお前ら、余計なこというなよ……」
自分が偽名を使っていることをバラされたからか、富御……いや、それは偽名だったか?は、焦ったように二人を非難して、それからバツわるそうな顔をして、説明をする。
「一応言っておくと、事情があって偽名を名乗ってるんだからな。俺の真名は知られるのは構わないけど、調べられるとあとで厄介なことになるんだ。だから、わざわざ隠して偽名を名乗ってる。わかったか?」
「……なるほどな。まぁ、事情があるなら仕方が無いな」
親からもらった名をなんだと思っている、と思ったが、それが問題の種になるというならば仕方が無いだろう。
私だって堂々と街中を歩きたかったが、ドラゴンが街に出るとなるといろいろと問題であるから、人化の魔術を使っているしな。
さて、そしたら先ほども言ったが、改めて自己紹介をしようか。と、とりあえず私も自己紹介をする。
「私はナギ・ラミエル。ドラゴンで、智也の古い友人、と言ったところだ」
「ドラゴンかぁ……まぁ、一応見た目でわかったけど、なるほどなぁ……ん?というと、あの洞窟にはお宝なんかがあるのか?」
「というか、教会騎士団の狙いはそこだったんでしょね」
「いや、残念ながらそういうのは全て母のものだったからな。全部持っていってもらったよ。……まぁ、私には、あれがあったからな」
「……あれ、というのは、この人形のことですか?」
そういいながら鶴城が取り出したのは、斬られてボロボロになった、しかし見間違えようもない、私の、大切な宝物だった人形であった。
「……あの場から回収していたのか」
「ええ。しかし、智也の人形の中にはこれはなかったので、もしかしたら、と思ったのですが、やはりそうでしたか」
なるほどなるほど。
そしてお宝というとやっぱり……
そしたら……
と、ブツブツ独り言を呟いた後、鶴城はニッコリと、悪戯を思いついた子供のような、儲け話をもってきた商人のような笑みを浮かべた。
「……どうかしたのか、そんな笑みを浮かべて?」
「あ、いえ。なんでもありませんよ」
「あー、竜司がそんな笑顔してる時って、大抵誰かが厄介ごと抱え込むことになるんだよな。レーナ仲間にした時とか」
「リ・オ?」
「ごめんなさい冗談です助けてくださいいつも頑張ってるじゃないでsアーッ!?」
「……無茶しやがって……」
鶴城がなんでもないと言うと、たぶん余計なことを富御が言って、レーナに草むらに連れていかれてしまった。
そしてそれはいつものことなのか、鶴城も小華月も特段大袈裟な反応は示さず、またか、と呆れたようであった。
……ちなみにその時鶴城の漏らした、なんかレーナとリオって、段々父さんたちに似てきたなぁ。という言葉が非常に気になったことをここに記しておく。
まず魔物の基本知識として、魔物から生まれるこはすべて魔物、つまりは女性である。
そして彼は男であるから当然親は人間であるわけで……
実は鶴城は女?
それとも鶴城を産んでから母親が魔物化した?
……第三の可能性を考えたが、それは恐ろしいので真っ先に排除する。
と、そんな感じに鶴城の親のことを考えていると、さて、そしたら……と鶴城が私の方を向いた。
「ナギさん、すこし提案があるんですけど、聞いてもらえますか?」
「……?」
鶴城の示した提案、それは……
××××××××××××××××××××××××××××××
「……ん……」
「あ、起きたみたいだね」
目を覚ますと、目ざとい竜司がすぐに気がついてそう言う。
そして、そんな竜司の言葉に過剰に反応する人が一人。
「智也!大丈夫か!?」
「……ああ、ナギ。そっちこそ大丈夫?傷は?」
「大丈夫だ。富御が治療してくれた」
「そっか。それじゃあ大丈夫そうだね」
「……お前こそ、大丈夫なのか?」
「うん?僕は大丈夫だよ。別に怪我を負わされたわけじゃないし、ただ竜司に眠らされただけだからね」
「違う、そうじゃない。私が言いたいのは……」
ナギの心配そうな、というより、今にも崩れ落ちそうな橋をみているようなそんな感じの顔を見て、僕はなんとなく彼女の言いたいことがわかった気がした。
そうだよね。ナギはあの状態の僕を見てたんだもんね……
「……大丈夫だよ。ちょっと教会の人間が友人を傷つけようとしてるのを見て暴走しちゃっただけだから。だから、大丈夫。今は、ああならない」
「……そう、か……」
僕の言葉を聞いて、顔を見て、ナギは少し安心したように、よかった、と息をついた。
「……そういえば、騎士団の連中はどうしたの?」
「ああ、たしか鶴城が眠らせたな。というか、あれはどうやって眠らせたんだ?」
「まぁ、それはあとで説明するとして、“なにを見せた”の?」
「ん?普通に魔物を斬ることを躊躇するようになることだよ?」
「具体的には?」
「自分の大切な人が突然魔物になって、問答無用でその人が目の前で仲間に斬られてしまうって感じ」
「うわ……」
相変わらずエグいな……と、自分のことを棚に上げながら思うと、ナギが、何の話だ?と首を傾げた。
「あー、うん。竜司はね、そんな感じの技を持ってるんだよ」
「ナギさんは、魔法と言うものをご存知ですか?」
「……竜司?」
僕が誤魔化しながら教えようとしたことを、竜司があっさりと核心をバラして話したことに対して、僕は怪訝な顔をした。
僕たちスートのルール。
竜司と僕の能力や、圭一の名を、関係ないものには教えない。
それを破っているからだ。
「魔法……それは、私たちが普段から使ってるものでは……いや待てたしか一度だけ話を聞いたことがあるな。私たちの使うものとは違う……魔術、魔法、という風に分けられた正体不明のモノ。もしかして……」
「ええ、そのとおりです。僕はその魔法を使ってます」
「……竜司、いいのか?」
話を遮るように、僕は言葉を挟む。
スートのリーダーは竜司であるから、別に彼がいいと言うなら、話しても構わない。
しかし、とりあえずは彼に確かめておかなければならない。
僕の問いに、竜司は、ええ、彼女になら、まったく問題ないよ。と答えたので、まぁ、それならと僕は話に口出しするのをやめることにした。
そして竜司は説明を続ける。
「僕の魔法は“ヒュプノス”。眠りと夢を司る魔法です」
「なるほど、それであの騎士団たちを眠らせたのか。しかし、魔力を使った感覚はなかったんだが……?」
「それが当たり前なんですよ、魔法は。魔力を使わない術……いや、術ではないですね。技……これも違う。そう……ナニカ。ナニカなんですよ。正体不明の、なんにもわからない、ね……」
「ふむ、となると、確認なんだが、その魔法を使って騎士団を眠らせ、そして先ほど智也と話していたものを、夢として見せていた、と?」
「そういうことです」
「なるほどな……」
得心いった、という感じで頷いたあと、うん?となにかが引っかかったらしく、また首を傾げてから、そういえば……と再び口を開いた。
「智也も、魔法……とかなんとか言っていたな。たしか……“ゼペット”だったっけか?もしかして、あの人形劇の時だったり私を助けてくれた時だったりに使っていたのがそうか?」
「……智也君?」
「も、申し訳ありません……」
ナギの言葉に、竜司がニッコリと笑ってこちらを見てくる。
言外に、人の説明は止めようとしたのに自分はあっさり喋っちゃいましたねぇ?と言っているのがわかったので、僕は素直に謝ることにする。
い、いや、自我はあったとしてもタガが外れた状態だったから許して欲しい。
と、心の中で弁解の言葉を探していると、竜司は仕方がないなぁ、とため息をついてから、説明は僕がするように、と言った。
その言葉に、了解と承諾してから、僕はナギに説明する。
「まぁ、ナギの思ってる通り、僕も魔法を持ってる。そしてそれはあの時の人形劇だったり、騎士団を拘束した時に使ったやつだよ。名前は“ゼペット”。能力は“人形に自我を与える”、“人形を作製する”、“人形を操る”。大きく分けてその三つだね」
「……なるほど。となると、フィリも、あのヲードとかいう人形もそのゼペットとやらの能力で自立行動していたのか」
「そういうことです」
フィリというのは、おそらくあの人形の名前だろうな、と思いながら、僕は説明の手間が省けるため、ナギの理解の早さに少し感謝する。
そして、話に出たので、とりあえず確認。
「そういえば、そのフィリ……あの人形はどうしました?」
「あ、ああ、ここにある」
そう言って、ナギはどこから出したのかフィリを手に持って僕に見せる。
やはりフィリはボロボロで、無残にも中の綿が飛び出て、マリオネットとしての核であった木の骨組みも折れていた。
「これは……やっぱり、かなり傷が大きいね……」
「直せる……か?」
「そうだなぁ……マリオネットとしては、もう無理だけど……人形としてなら、大丈夫そうだね」
「そうか……」
よかった……と安堵の息をついて、ナギは、そしたら頼む、とフィリを僕に渡した。
まったく、なんというか……
「やっぱり、この子はナギが持ってた方がよさそうだね……」
「っ……そ、そうか?」
「うん」
だって、僕に一度返したのに、やっぱり自分のものみたいに扱ってるんだから。
それだけ、大事にしていたんだ。
僕が持ってるより、よっぽどこの子も嬉しいだろう。
「まぁとりあえずは、修理するために預かっておくよ」
「ああ、頼む」
そう言って、僕は一旦フィリをポケットの中にしまっておく。
それにしても……
「竜司、念のためにまた確認しておくけど、ナギに魔法のこと、教えて良かったのかい?」
「あ、うん。まったく問題ないよ。彼女、スートの一員になったから」
「……はい?」
竜司の言葉に、僕はキョトンとしてしまう。
いやこいつ、今なんて言った?
そんな僕のことをお構いなしに、ナギも、ああ、そういえばまだ智也には言ってなかったな。と今気がついたように言って、そして驚くべき事実を述べた。
「今日から“スート”の一員となったナギ・ラミエルだ。よろしくな、智也」
「……ということさ」
「……おい、竜司」
お前なにやってんだよという風に睨みつけてやると、竜司は父親に似たわざとらしい笑みを浮かべる。
「いやぁ、ドラゴンって種族はやっぱり戦力的に強力だから入れるべきだと思ってね〜」
「本音は?」
「一緒にいれば面白いことになりそうだから〜」
「おい」
「大丈夫だよ。彼女も大賛成だからね」
「……ナギ?」
「ああ。旅をするといっても、当てはないし、知り合いと旅、というのも、面白そうだったからな」
……いや、ドラゴンって普通はもっとこう……孤高を愛するというかそんな……
とは思ったものの、そういえば彼女は最初のころ……というか、僕の知ってる間は普通の女の子として育てられていたから、例外になる行動も取り得るのか。とそんな風に考え直す。
「……まぁ、ナギが納得してるなら、いっか」
フィリを直したらすぐ渡せるし。
個人的にも、嬉しいし……
いや、昔の友人と一緒に旅ができて、という意味でだけど。
ともかく僕は歓迎の意を示すために、改めてよろしくね。と手を差し伸べる。
と、ナギはその行動が意外だったのか、あ、ああ。と若干動揺したような感じで僕の手をとり、握手を交わした。
しかし、動揺するのもわかんないけど、なんで顔まで赤く……?
「ふふふふ……」
「おい竜司、なにをそんなに笑う?」
「いやー、早速面白いことになったなぁと思ってね」
「……よくわかんないけど、とりあえず僕をおもちゃにして楽しんでるのはわかった」
なんというか、こいつは本当に中身は父親似だな……
「と、ところで、ここにはどのくらい滞在するんだ?たしか、智也たちの故郷……隣のラインに帰る途中だったな?今日にでも向かうのか?」
「いやぁ、そうしたかったんだけど、ちょっとねぇ……」
「ん?なにかあったの?」
「ああ。さっきお前が寝ている間に納品するものが出来てな。アリュートに向かいたいんだ」
「アリュートっていうと、近いね。方角は……ここから南西だったよね」
「そうそう。と、いうことで、次の目的地は港町アリュート。出発は……明日からでいいや」
「アバウトだな……」
「あー、うん。これがいつものことだから」
「そ、そうなのか……」
少し竜司の適当な空気に困惑しているけど……まぁ、しばらくしたらこの空気にも慣れるだろう。
そんな感じで、次の目的地は港町アリュート。
新しくナギを仲間に加え、僕たちスートは目指すのだった。
「……ところで気になったんだけど、圭一は?」
「「いつものだ(だよ)」」
「そっか」
「ああ、あれはそっかで流されることなんだな……」
外に出てから、私は騎士の男の方に治癒魔術をかけてもらい、傷を治療してもらった。
その場には、寝ている智也と私の治療を行っている騎士の男、無表情の鉱夫みたいな男、中性的な男という先ほどの四人と、どう見てもサキュバスな女性と、寝てはいるが、可愛らしい、しかしどことなくなにかに似ている少女の二人がいる。
「すまない。まぁ、私はこれでもドラゴンだからな。生命力は高いんだ……流石に今回はかなり危険なところまで追い込まれたが……」
「それは仕方が無いですよ。あれは対魔物武装……魔力に干渉し、ほぼ無効化する教会の秘密兵器ですからね。最近は仮量産が始まって一部の騎士団に支給されてるみたいで、おそらくそれがあなたに回ったのでしょう」
「なるほどな。たしかに、我々の鱗などは魔力によって強化されている……とも言えなくもないな。だからあんなに攻撃が通らなかったり、逆に攻撃を防げなかったりしたのか。…………さて、そろそろ私の問いに答えてもらってもいいか?」
彼の考察にある程度納得してから、私はまだ自己紹介をされてないので、それを求めた。
「ああ、そうですね。そしたらまずは僕から。僕は鶴城 竜司(つるぎ・りゅうじ)。君と同じ智也の友人……であり、僕と智也たち三人を初期メンバーとするパーティー、“スート”の代表をさせてもらっています」
「……次は俺だな。小華月 治樹(さかずき・はるき)。スートのメンバーの一人で同じく智也の友人だ」
「そしたら次は……」
今度は騎士が自己紹介しようとして……後ろにいたサキュバスに割り込まれてしまった。
「私はレーナ・ミリオン。一応スートのメンバーで、この人……リオの恋人よ♪そしてそこで寝ている女の子はクー・リードロン。彼女は……まぁ、蓮杖君の助手みたいなものかな?」
「そして最後に……まぁ、説明の必要はないね。蓮杖 智也。一応言っておくと、スートのメンバーだね」
「おいちょっと待て。俺はどうした!?俺の紹介は!?」
「「ああ、いたんだ(のか)」」
「……おぃ、泣くぞ?本気で泣くぞ……?」
サキュバスのレーナが自分と寝ている少女の紹介をし、鶴城という中性的な男が最後にと智也を念のために紹介して、それで終えようとしたので、騎士の男……たしか、レーナにはリオ、と呼ばれていたか?は、終わらせるなと異議を唱え、そしてわざとらしくない、とても自然な流れで鶴城と小華月に居たんだと言われ、すごく落ち込んだ。
「泣かないでよ気持ち悪い」
「……あ、いじめられて泣いてるのに、気持ち悪いですませちゃうんだ……」
「……なんだか、若干彼が可哀想に思えてくるんだが……」
「気にするな。いつものことだ」
「まぁ、冗談はともかく、ほらリオ、自己紹介」
「あ、ああ。そうだったな。俺は富御 圭一(ふみ・けいいち)。スートのメンバーで、まぁ、一応レーナの恋人で、智也とは……言わなくてもいいと思うが友達だ」
「そうか、よろしくな」
と、手を差し伸べてきたのでとりあえず握手をして、ふと疑問に思うことがあった。
「そういえば、富御はそこの二人にリオと呼ばれているのはなぜだ?名にはリオの二文字は入ってないはずだが……?」
「あー、まぁリオは本当は富御圭一なんて名前じゃないからね」
「なに?」
ちょっとした疑問から衝撃発言がでてきた。
「……つまりは、偽名を使っているというわけか?」
「まぁ、そういうことだな」
「おいお前ら、余計なこというなよ……」
自分が偽名を使っていることをバラされたからか、富御……いや、それは偽名だったか?は、焦ったように二人を非難して、それからバツわるそうな顔をして、説明をする。
「一応言っておくと、事情があって偽名を名乗ってるんだからな。俺の真名は知られるのは構わないけど、調べられるとあとで厄介なことになるんだ。だから、わざわざ隠して偽名を名乗ってる。わかったか?」
「……なるほどな。まぁ、事情があるなら仕方が無いな」
親からもらった名をなんだと思っている、と思ったが、それが問題の種になるというならば仕方が無いだろう。
私だって堂々と街中を歩きたかったが、ドラゴンが街に出るとなるといろいろと問題であるから、人化の魔術を使っているしな。
さて、そしたら先ほども言ったが、改めて自己紹介をしようか。と、とりあえず私も自己紹介をする。
「私はナギ・ラミエル。ドラゴンで、智也の古い友人、と言ったところだ」
「ドラゴンかぁ……まぁ、一応見た目でわかったけど、なるほどなぁ……ん?というと、あの洞窟にはお宝なんかがあるのか?」
「というか、教会騎士団の狙いはそこだったんでしょね」
「いや、残念ながらそういうのは全て母のものだったからな。全部持っていってもらったよ。……まぁ、私には、あれがあったからな」
「……あれ、というのは、この人形のことですか?」
そういいながら鶴城が取り出したのは、斬られてボロボロになった、しかし見間違えようもない、私の、大切な宝物だった人形であった。
「……あの場から回収していたのか」
「ええ。しかし、智也の人形の中にはこれはなかったので、もしかしたら、と思ったのですが、やはりそうでしたか」
なるほどなるほど。
そしてお宝というとやっぱり……
そしたら……
と、ブツブツ独り言を呟いた後、鶴城はニッコリと、悪戯を思いついた子供のような、儲け話をもってきた商人のような笑みを浮かべた。
「……どうかしたのか、そんな笑みを浮かべて?」
「あ、いえ。なんでもありませんよ」
「あー、竜司がそんな笑顔してる時って、大抵誰かが厄介ごと抱え込むことになるんだよな。レーナ仲間にした時とか」
「リ・オ?」
「ごめんなさい冗談です助けてくださいいつも頑張ってるじゃないでsアーッ!?」
「……無茶しやがって……」
鶴城がなんでもないと言うと、たぶん余計なことを富御が言って、レーナに草むらに連れていかれてしまった。
そしてそれはいつものことなのか、鶴城も小華月も特段大袈裟な反応は示さず、またか、と呆れたようであった。
……ちなみにその時鶴城の漏らした、なんかレーナとリオって、段々父さんたちに似てきたなぁ。という言葉が非常に気になったことをここに記しておく。
まず魔物の基本知識として、魔物から生まれるこはすべて魔物、つまりは女性である。
そして彼は男であるから当然親は人間であるわけで……
実は鶴城は女?
それとも鶴城を産んでから母親が魔物化した?
……第三の可能性を考えたが、それは恐ろしいので真っ先に排除する。
と、そんな感じに鶴城の親のことを考えていると、さて、そしたら……と鶴城が私の方を向いた。
「ナギさん、すこし提案があるんですけど、聞いてもらえますか?」
「……?」
鶴城の示した提案、それは……
××××××××××××××××××××××××××××××
「……ん……」
「あ、起きたみたいだね」
目を覚ますと、目ざとい竜司がすぐに気がついてそう言う。
そして、そんな竜司の言葉に過剰に反応する人が一人。
「智也!大丈夫か!?」
「……ああ、ナギ。そっちこそ大丈夫?傷は?」
「大丈夫だ。富御が治療してくれた」
「そっか。それじゃあ大丈夫そうだね」
「……お前こそ、大丈夫なのか?」
「うん?僕は大丈夫だよ。別に怪我を負わされたわけじゃないし、ただ竜司に眠らされただけだからね」
「違う、そうじゃない。私が言いたいのは……」
ナギの心配そうな、というより、今にも崩れ落ちそうな橋をみているようなそんな感じの顔を見て、僕はなんとなく彼女の言いたいことがわかった気がした。
そうだよね。ナギはあの状態の僕を見てたんだもんね……
「……大丈夫だよ。ちょっと教会の人間が友人を傷つけようとしてるのを見て暴走しちゃっただけだから。だから、大丈夫。今は、ああならない」
「……そう、か……」
僕の言葉を聞いて、顔を見て、ナギは少し安心したように、よかった、と息をついた。
「……そういえば、騎士団の連中はどうしたの?」
「ああ、たしか鶴城が眠らせたな。というか、あれはどうやって眠らせたんだ?」
「まぁ、それはあとで説明するとして、“なにを見せた”の?」
「ん?普通に魔物を斬ることを躊躇するようになることだよ?」
「具体的には?」
「自分の大切な人が突然魔物になって、問答無用でその人が目の前で仲間に斬られてしまうって感じ」
「うわ……」
相変わらずエグいな……と、自分のことを棚に上げながら思うと、ナギが、何の話だ?と首を傾げた。
「あー、うん。竜司はね、そんな感じの技を持ってるんだよ」
「ナギさんは、魔法と言うものをご存知ですか?」
「……竜司?」
僕が誤魔化しながら教えようとしたことを、竜司があっさりと核心をバラして話したことに対して、僕は怪訝な顔をした。
僕たちスートのルール。
竜司と僕の能力や、圭一の名を、関係ないものには教えない。
それを破っているからだ。
「魔法……それは、私たちが普段から使ってるものでは……いや待てたしか一度だけ話を聞いたことがあるな。私たちの使うものとは違う……魔術、魔法、という風に分けられた正体不明のモノ。もしかして……」
「ええ、そのとおりです。僕はその魔法を使ってます」
「……竜司、いいのか?」
話を遮るように、僕は言葉を挟む。
スートのリーダーは竜司であるから、別に彼がいいと言うなら、話しても構わない。
しかし、とりあえずは彼に確かめておかなければならない。
僕の問いに、竜司は、ええ、彼女になら、まったく問題ないよ。と答えたので、まぁ、それならと僕は話に口出しするのをやめることにした。
そして竜司は説明を続ける。
「僕の魔法は“ヒュプノス”。眠りと夢を司る魔法です」
「なるほど、それであの騎士団たちを眠らせたのか。しかし、魔力を使った感覚はなかったんだが……?」
「それが当たり前なんですよ、魔法は。魔力を使わない術……いや、術ではないですね。技……これも違う。そう……ナニカ。ナニカなんですよ。正体不明の、なんにもわからない、ね……」
「ふむ、となると、確認なんだが、その魔法を使って騎士団を眠らせ、そして先ほど智也と話していたものを、夢として見せていた、と?」
「そういうことです」
「なるほどな……」
得心いった、という感じで頷いたあと、うん?となにかが引っかかったらしく、また首を傾げてから、そういえば……と再び口を開いた。
「智也も、魔法……とかなんとか言っていたな。たしか……“ゼペット”だったっけか?もしかして、あの人形劇の時だったり私を助けてくれた時だったりに使っていたのがそうか?」
「……智也君?」
「も、申し訳ありません……」
ナギの言葉に、竜司がニッコリと笑ってこちらを見てくる。
言外に、人の説明は止めようとしたのに自分はあっさり喋っちゃいましたねぇ?と言っているのがわかったので、僕は素直に謝ることにする。
い、いや、自我はあったとしてもタガが外れた状態だったから許して欲しい。
と、心の中で弁解の言葉を探していると、竜司は仕方がないなぁ、とため息をついてから、説明は僕がするように、と言った。
その言葉に、了解と承諾してから、僕はナギに説明する。
「まぁ、ナギの思ってる通り、僕も魔法を持ってる。そしてそれはあの時の人形劇だったり、騎士団を拘束した時に使ったやつだよ。名前は“ゼペット”。能力は“人形に自我を与える”、“人形を作製する”、“人形を操る”。大きく分けてその三つだね」
「……なるほど。となると、フィリも、あのヲードとかいう人形もそのゼペットとやらの能力で自立行動していたのか」
「そういうことです」
フィリというのは、おそらくあの人形の名前だろうな、と思いながら、僕は説明の手間が省けるため、ナギの理解の早さに少し感謝する。
そして、話に出たので、とりあえず確認。
「そういえば、そのフィリ……あの人形はどうしました?」
「あ、ああ、ここにある」
そう言って、ナギはどこから出したのかフィリを手に持って僕に見せる。
やはりフィリはボロボロで、無残にも中の綿が飛び出て、マリオネットとしての核であった木の骨組みも折れていた。
「これは……やっぱり、かなり傷が大きいね……」
「直せる……か?」
「そうだなぁ……マリオネットとしては、もう無理だけど……人形としてなら、大丈夫そうだね」
「そうか……」
よかった……と安堵の息をついて、ナギは、そしたら頼む、とフィリを僕に渡した。
まったく、なんというか……
「やっぱり、この子はナギが持ってた方がよさそうだね……」
「っ……そ、そうか?」
「うん」
だって、僕に一度返したのに、やっぱり自分のものみたいに扱ってるんだから。
それだけ、大事にしていたんだ。
僕が持ってるより、よっぽどこの子も嬉しいだろう。
「まぁとりあえずは、修理するために預かっておくよ」
「ああ、頼む」
そう言って、僕は一旦フィリをポケットの中にしまっておく。
それにしても……
「竜司、念のためにまた確認しておくけど、ナギに魔法のこと、教えて良かったのかい?」
「あ、うん。まったく問題ないよ。彼女、スートの一員になったから」
「……はい?」
竜司の言葉に、僕はキョトンとしてしまう。
いやこいつ、今なんて言った?
そんな僕のことをお構いなしに、ナギも、ああ、そういえばまだ智也には言ってなかったな。と今気がついたように言って、そして驚くべき事実を述べた。
「今日から“スート”の一員となったナギ・ラミエルだ。よろしくな、智也」
「……ということさ」
「……おい、竜司」
お前なにやってんだよという風に睨みつけてやると、竜司は父親に似たわざとらしい笑みを浮かべる。
「いやぁ、ドラゴンって種族はやっぱり戦力的に強力だから入れるべきだと思ってね〜」
「本音は?」
「一緒にいれば面白いことになりそうだから〜」
「おい」
「大丈夫だよ。彼女も大賛成だからね」
「……ナギ?」
「ああ。旅をするといっても、当てはないし、知り合いと旅、というのも、面白そうだったからな」
……いや、ドラゴンって普通はもっとこう……孤高を愛するというかそんな……
とは思ったものの、そういえば彼女は最初のころ……というか、僕の知ってる間は普通の女の子として育てられていたから、例外になる行動も取り得るのか。とそんな風に考え直す。
「……まぁ、ナギが納得してるなら、いっか」
フィリを直したらすぐ渡せるし。
個人的にも、嬉しいし……
いや、昔の友人と一緒に旅ができて、という意味でだけど。
ともかく僕は歓迎の意を示すために、改めてよろしくね。と手を差し伸べる。
と、ナギはその行動が意外だったのか、あ、ああ。と若干動揺したような感じで僕の手をとり、握手を交わした。
しかし、動揺するのもわかんないけど、なんで顔まで赤く……?
「ふふふふ……」
「おい竜司、なにをそんなに笑う?」
「いやー、早速面白いことになったなぁと思ってね」
「……よくわかんないけど、とりあえず僕をおもちゃにして楽しんでるのはわかった」
なんというか、こいつは本当に中身は父親似だな……
「と、ところで、ここにはどのくらい滞在するんだ?たしか、智也たちの故郷……隣のラインに帰る途中だったな?今日にでも向かうのか?」
「いやぁ、そうしたかったんだけど、ちょっとねぇ……」
「ん?なにかあったの?」
「ああ。さっきお前が寝ている間に納品するものが出来てな。アリュートに向かいたいんだ」
「アリュートっていうと、近いね。方角は……ここから南西だったよね」
「そうそう。と、いうことで、次の目的地は港町アリュート。出発は……明日からでいいや」
「アバウトだな……」
「あー、うん。これがいつものことだから」
「そ、そうなのか……」
少し竜司の適当な空気に困惑しているけど……まぁ、しばらくしたらこの空気にも慣れるだろう。
そんな感じで、次の目的地は港町アリュート。
新しくナギを仲間に加え、僕たちスートは目指すのだった。
「……ところで気になったんだけど、圭一は?」
「「いつものだ(だよ)」」
「そっか」
「ああ、あれはそっかで流されることなんだな……」
11/12/03 16:22更新 / 星村 空理
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