ブラコンの姉、シスコンの弟
朝の六時半、僕、ローラン・ダランは、朝食を作るために、立っている。
……立っている、のだが……
「……姉さん、何度も言うけど、朝起きてすぐに僕に抱きつかないで」
「え〜やだよ〜。ローランの体、あったかくて気持ちいいんだも〜ん♪」
と言い張る姉、デューナ・ダランが腰に抱きついていて、思うように体が動かない。
離れさせようとしても、自分の力ではこの人を退かすことはできないため、諦めてそのまま朝食を作ることにした。
「あ、そういえばローラン、今日は何時まで学校なの?」
「教えません。どうせ仕事を早く切り上げて、迎えにくるつもりなんでしょ?」
「え〜?意地悪〜!いいもん。だったらお昼頃に仕事切り上げてずっと学校にいるから」
「いやいやそれは……勘弁してください。4時には終わります」
いや、それはないだろ……と、言いかけて、しかしこの姉ならやりかねないと判断して、僕は仕方がなく教えることにする。
時刻を聞くと、姉さんは、ん、よろしい♪と言いながら、羽をパタパタと揺らした。
そう、羽だ。
僕の姉は、エンジェルという種族であり、必然的に白い翼を持ち、頭上には輪が浮いているのである。
……いや、姉、いうより、義姉と呼んだ方が正しい。
姉さんは、僕が四歳の時に僕を拾ってくれ、以降一緒に暮らしてくれている、姉というより、保護者といった方が正しい存在だ。
……まぁ、そのはずなんだが、僕が普通にいろいろと出来るようになると、段々今のような甘える姉の状態となり、今ではほとんど家事は僕だよりとなっている。
……姉さんの仕事を考えると仕方が無いとは思うが、とりあえず、家事の邪魔はしないで欲しい……
「ほら姉さん、朝食が出来たからちゃんと椅子に座って!」
「はぁい。今日は〜、ん、いつものトーストね!」
「はいはい。匂い嗅いで朝食が何か当てるのはいいから、さっさと座ってね」
「ローランの意地悪〜!褒めてくれたっていーじゃない!」
プクゥッと頬を膨らませている姉さんを引きずりながら、僕は二人分の朝食を持ってテーブルに向かう。
テーブルまで引きずられれば、仕方がなく姉さんは席に着く。
そしてテーブルに朝食を並べて僕も座り、挨拶をして朝食を食べ始めた。
「いただきます」
「いただきまーす!……ん〜、美味し!やっぱりローランの料理が一番ね!」
「姉さん、毎度毎度そう言うよね。ちなみにパンが美味しいのは“ファミリエ”さんのおかげだからね?」
「そんなことないわよ〜。ローランが、私のために作ってくれたから美味しいの!」
「はいはい……」
そう言ってもらえるのは嬉しいけど、そういう行動のために周囲からお前らもう結婚しちゃえよと言われていることを姉さんは知らない。
一応僕まだ若いんで、そういうのは慎重に考えたいです。
でもまぁ姉さんと結婚するのは……うん、いいと思うな。
そう考えるあたり、僕も少々危ないと自覚してきているが、この姉あってこの弟あり。と半分諦めている。
「……んー、にしてもあれね。ちょっと空の動きが怪しいわね。もしかしたら午後は雨降るかも……」
「そうかな?まだ晴れてるけど……」
「それでも、雲の動きが早いでしょ?こういう時って、天気が崩れやすいのよ……」
「へぇ、そうなんだ……」
「あ、雨降ってきたら傘持っていくからね♪」
「……降らなくても姉さんは来るでしょうが……」
「テヘッ☆」
まったく、凄いなぁと感心してたらすぐこれだ。
はぁ、少しは抑えてはくれないものだろうか……
……いや、姉さんの場合、分かっててやってる可能性が高いな……
まったく、この姉は本当に……しょうがない。
「っと、姉さん、早く食べないと食器片付けられないから、急いで」
「え〜?ローランの作ってくれた料理なのに〜!」
「姉さんが片付けてくれるなら急がなくてもいいけど、どうせこの後すぐに自警団さんのところに行くんでしょ?」
「むぅ、弟の料理のためなら仕事の1つ2つ……!」
「サボるのはいいけど、あとで謝りに行くのは僕だからね?姉さんは行かないだろうから」
「………………」
…………とりあえずは急いで食べ始めてくれたため、学校には間に合いそうである。
××××××××××××××××××××××××××××××
「あ、方丈君達、おはよう」
「ローラン君、おはよう」
「おう、おはようローラン!」
「おはよっ!」
「おはよー」
「おはよう、ローラン君」
「おはようございます、ローランさん」
校門近くで僕は友人である方丈君達を見つけ、挨拶をする。
……ここに来てまだ二週間ほどなんだけど、やっぱり方丈君達と挨拶するとすごいことになるなぁ……
僕に挨拶を返してくれた6人の関係を端的に言うと、方丈君・逆井さん・木島さん・江村さん・村紗さん・中月さんの順に、旦那・嫁・嫁・嫁・嫁・嫁。
すごいわかりやすいけど、考えると恐ろしい。
そして、そんな関係からか、学校ではほとんど一緒にいるので、彼らに挨拶をすると、必然的に6回連続で挨拶を返されることになる。
お昼以外に自然に集まっている人の平均は3人(学校の課題・僕調べ)。にも関わらず、この集団の人数はその二倍。
さすがにお昼になったら彼女なしの連中に方丈君は隔離……もといお昼を一緒に食べているため彼女達は一緒にいないが、それ以外の時は確実に一緒にいるため、結構声をかけるのに勇気がいる。
「……にしても、最近はあれですね。教会騎士団の姿がちらほら見えるという噂が多いです」
「たしかに。まぁでも、そういう話が出回る気持ちはわかる……かな?僕達の世界では少なかったけど、それでも反魔物組織……あっちでは教団、だったかな?が魔物を殺して回っていたからね」
「というか、こっちの教会騎士団って、教団のやつらとなにが違うの?」
「いや、あながち間違ってはいないんだ。こっちの世界でも、反魔物の集団は教団って呼ばれてるし。なんで教会騎士団って呼ばれているかっていうと、騎士団は教団が直に訓練してるわけじゃなくて、各教会ごとに訓練してるからってだけ。姉さんが言ってたけど、教団が直に訓練した虎の子戦力は、“教団師団”って呼ばれてるらしいよ」
「いったいなにが違うの?」
「教会騎士団の50人編成と違って、本格的な戦争まで行えるってこと。たしか師団は……一万人くらい?」
「なにそれ多っ!?」
「んで、結局騎士団の連中はこの街にいるのか?」
「そういうのは、実際に自警団で働いている木島さんがよく知っていると思うよ?」
「ん?ああ、どうやら事実のようだな。私と一緒に働いている人が、また教会のやつらが来たとぼやいていたからな」
「……そしたら、注意しないとね。ないとは思うけど、また十年前みたいなことになるかもしれないし……」
「十年前……?なにかあったのですか?」
「ん、まぁ、この街、ちょっと教団とのいざこざがあってね。詳しい話は……とりあえず、歴史の先生かテベルナイト先生に訊くといいよ」
にしても教会関係か……
うーん、姉さん、あまり関わらないといいなぁ……
たしか姉さんって……
「どうしたのローラン君、なにか心配事?」
「え?あいや、なんでもないよ」
「そう?なら、いいけど……」
方丈君に声をかけられたので、僕は考えを止めて、それから時計を確認する。
「あ、ヤバそろそろ時間だ……」
『えっ?』
時計の針がそろそろ授業開始の時刻を示しているので、僕達は急いで教室へ走るのだった。
……立っている、のだが……
「……姉さん、何度も言うけど、朝起きてすぐに僕に抱きつかないで」
「え〜やだよ〜。ローランの体、あったかくて気持ちいいんだも〜ん♪」
と言い張る姉、デューナ・ダランが腰に抱きついていて、思うように体が動かない。
離れさせようとしても、自分の力ではこの人を退かすことはできないため、諦めてそのまま朝食を作ることにした。
「あ、そういえばローラン、今日は何時まで学校なの?」
「教えません。どうせ仕事を早く切り上げて、迎えにくるつもりなんでしょ?」
「え〜?意地悪〜!いいもん。だったらお昼頃に仕事切り上げてずっと学校にいるから」
「いやいやそれは……勘弁してください。4時には終わります」
いや、それはないだろ……と、言いかけて、しかしこの姉ならやりかねないと判断して、僕は仕方がなく教えることにする。
時刻を聞くと、姉さんは、ん、よろしい♪と言いながら、羽をパタパタと揺らした。
そう、羽だ。
僕の姉は、エンジェルという種族であり、必然的に白い翼を持ち、頭上には輪が浮いているのである。
……いや、姉、いうより、義姉と呼んだ方が正しい。
姉さんは、僕が四歳の時に僕を拾ってくれ、以降一緒に暮らしてくれている、姉というより、保護者といった方が正しい存在だ。
……まぁ、そのはずなんだが、僕が普通にいろいろと出来るようになると、段々今のような甘える姉の状態となり、今ではほとんど家事は僕だよりとなっている。
……姉さんの仕事を考えると仕方が無いとは思うが、とりあえず、家事の邪魔はしないで欲しい……
「ほら姉さん、朝食が出来たからちゃんと椅子に座って!」
「はぁい。今日は〜、ん、いつものトーストね!」
「はいはい。匂い嗅いで朝食が何か当てるのはいいから、さっさと座ってね」
「ローランの意地悪〜!褒めてくれたっていーじゃない!」
プクゥッと頬を膨らませている姉さんを引きずりながら、僕は二人分の朝食を持ってテーブルに向かう。
テーブルまで引きずられれば、仕方がなく姉さんは席に着く。
そしてテーブルに朝食を並べて僕も座り、挨拶をして朝食を食べ始めた。
「いただきます」
「いただきまーす!……ん〜、美味し!やっぱりローランの料理が一番ね!」
「姉さん、毎度毎度そう言うよね。ちなみにパンが美味しいのは“ファミリエ”さんのおかげだからね?」
「そんなことないわよ〜。ローランが、私のために作ってくれたから美味しいの!」
「はいはい……」
そう言ってもらえるのは嬉しいけど、そういう行動のために周囲からお前らもう結婚しちゃえよと言われていることを姉さんは知らない。
一応僕まだ若いんで、そういうのは慎重に考えたいです。
でもまぁ姉さんと結婚するのは……うん、いいと思うな。
そう考えるあたり、僕も少々危ないと自覚してきているが、この姉あってこの弟あり。と半分諦めている。
「……んー、にしてもあれね。ちょっと空の動きが怪しいわね。もしかしたら午後は雨降るかも……」
「そうかな?まだ晴れてるけど……」
「それでも、雲の動きが早いでしょ?こういう時って、天気が崩れやすいのよ……」
「へぇ、そうなんだ……」
「あ、雨降ってきたら傘持っていくからね♪」
「……降らなくても姉さんは来るでしょうが……」
「テヘッ☆」
まったく、凄いなぁと感心してたらすぐこれだ。
はぁ、少しは抑えてはくれないものだろうか……
……いや、姉さんの場合、分かっててやってる可能性が高いな……
まったく、この姉は本当に……しょうがない。
「っと、姉さん、早く食べないと食器片付けられないから、急いで」
「え〜?ローランの作ってくれた料理なのに〜!」
「姉さんが片付けてくれるなら急がなくてもいいけど、どうせこの後すぐに自警団さんのところに行くんでしょ?」
「むぅ、弟の料理のためなら仕事の1つ2つ……!」
「サボるのはいいけど、あとで謝りに行くのは僕だからね?姉さんは行かないだろうから」
「………………」
…………とりあえずは急いで食べ始めてくれたため、学校には間に合いそうである。
××××××××××××××××××××××××××××××
「あ、方丈君達、おはよう」
「ローラン君、おはよう」
「おう、おはようローラン!」
「おはよっ!」
「おはよー」
「おはよう、ローラン君」
「おはようございます、ローランさん」
校門近くで僕は友人である方丈君達を見つけ、挨拶をする。
……ここに来てまだ二週間ほどなんだけど、やっぱり方丈君達と挨拶するとすごいことになるなぁ……
僕に挨拶を返してくれた6人の関係を端的に言うと、方丈君・逆井さん・木島さん・江村さん・村紗さん・中月さんの順に、旦那・嫁・嫁・嫁・嫁・嫁。
すごいわかりやすいけど、考えると恐ろしい。
そして、そんな関係からか、学校ではほとんど一緒にいるので、彼らに挨拶をすると、必然的に6回連続で挨拶を返されることになる。
お昼以外に自然に集まっている人の平均は3人(学校の課題・僕調べ)。にも関わらず、この集団の人数はその二倍。
さすがにお昼になったら彼女なしの連中に方丈君は隔離……もといお昼を一緒に食べているため彼女達は一緒にいないが、それ以外の時は確実に一緒にいるため、結構声をかけるのに勇気がいる。
「……にしても、最近はあれですね。教会騎士団の姿がちらほら見えるという噂が多いです」
「たしかに。まぁでも、そういう話が出回る気持ちはわかる……かな?僕達の世界では少なかったけど、それでも反魔物組織……あっちでは教団、だったかな?が魔物を殺して回っていたからね」
「というか、こっちの教会騎士団って、教団のやつらとなにが違うの?」
「いや、あながち間違ってはいないんだ。こっちの世界でも、反魔物の集団は教団って呼ばれてるし。なんで教会騎士団って呼ばれているかっていうと、騎士団は教団が直に訓練してるわけじゃなくて、各教会ごとに訓練してるからってだけ。姉さんが言ってたけど、教団が直に訓練した虎の子戦力は、“教団師団”って呼ばれてるらしいよ」
「いったいなにが違うの?」
「教会騎士団の50人編成と違って、本格的な戦争まで行えるってこと。たしか師団は……一万人くらい?」
「なにそれ多っ!?」
「んで、結局騎士団の連中はこの街にいるのか?」
「そういうのは、実際に自警団で働いている木島さんがよく知っていると思うよ?」
「ん?ああ、どうやら事実のようだな。私と一緒に働いている人が、また教会のやつらが来たとぼやいていたからな」
「……そしたら、注意しないとね。ないとは思うけど、また十年前みたいなことになるかもしれないし……」
「十年前……?なにかあったのですか?」
「ん、まぁ、この街、ちょっと教団とのいざこざがあってね。詳しい話は……とりあえず、歴史の先生かテベルナイト先生に訊くといいよ」
にしても教会関係か……
うーん、姉さん、あまり関わらないといいなぁ……
たしか姉さんって……
「どうしたのローラン君、なにか心配事?」
「え?あいや、なんでもないよ」
「そう?なら、いいけど……」
方丈君に声をかけられたので、僕は考えを止めて、それから時計を確認する。
「あ、ヤバそろそろ時間だ……」
『えっ?』
時計の針がそろそろ授業開始の時刻を示しているので、僕達は急いで教室へ走るのだった。
11/07/05 17:41更新 / 星村 空理
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