チーズケーキ
朝起きる。
また叔父にいびられる
___どうでもいい___
朝食を食べる。
そういえば、今日から高校生になるのか
___どうでもいい___
一時間かけて学校に登校する。
___どうでもいい___
入学式、大人しく終了を待つ。
___どうでもいい___
クラスの自己紹介。
___どうでもいい___
友人ができる。
___どうでもいい___
学校が終わる。
___どうでもいい___
また一時間かけて家に帰る。
___どうでも…………
「お〜い、そこの君〜!」
……いい___
××××××××××××××××××××××××××××××
「うえっ、おぇっ!」
「だから言ったじゃないですか。読まない方がいいと」
壁に本棚がギッシリと詰まった、円形の無機質な部屋の一角で、私は吐きそうになって口を手で抑え、開いていた本を落としてしまった。
そんな私の様子を見て、隣に立っている男が、無表情なままため息をつく。
「なぜあなたはそんなにもそれを知りたがるのですか」
「そんなもの、決まってるわよ。私はなにも知らないまま終わらせたくないだけ」
「……そうですか」
私の答えを聞いて、また男は表情を変えずにため息をつく。
「……まったく、“彼”が気づいてないからいいとはいえ、無茶をする方ですね……っと、そろそろ“時間”です」
「そう。邪魔したわね」
「全くです。……が、別に構いませんよ」
そろそろここにい続けることが危険になってきたことを男が教えてくれたため、私は出口へと向かう。
そんな私を見ながら、男は私がここにきてから始めて表情を変えて、ポツリとつぶやいた。
「……“彼”と“あいつ”以外のここの住人は皆、あなたがくることを歓迎しているのですから」
××××××××××××××××××××××××××××××
「……なるほど、とするとあなたも僕と同じ考えですか」
「そうですね、愛した者の死というのは、あまりにも深い傷になり得ますからね……っと、そろそろ時間のようですね」
「そうですか。そしたらお会計は……340円ですね」
「はい、これでお願いします」
「340円ちょうど、お預かりします。ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
年も明けて、現在は1月8日。
店のお客さんの出入り、年末年始から元に戻り始めてきた。
とはいっても、やはり午前の人の入りは少ない。
特に仕事のない僕は、珍しいお客さんと魔物に関する考察を交換していた。
が、そのお客さんももう戻る時間になったようで、コーヒーなどの代金を払って店を出てしまった。
にしても、あの人は面白かったな……
たしか、故郷は僕と同じ日本だったな……
よくここにこれたものだ。
……いや、本来ここはそういうところだったな……
……帰れるのか……
羨ましい限りだよ……
と、そんなことを考えていると、新しいお客さんがやってきた。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「えと……二人、です……」
「テーブル席とカウンター席がございますが、どちらにいたしますか?」
「テーブルでお願いします……」
今回のお客さんは二人。
一人はぼぉーっとしたような感じの、髪、コート、インナーシャツ、カーゴパンツ、ブーツ、ほとんどが黒色の青年。
もう一人は、……ほほぅ、珍しい。
こちらもまた、片方と同じように、ほとんどが黒色の少女であった。
黒色のワンピースを来ており、顔立ちは可愛らしい……のだが、はたから見れば地味だと思われるタイプだ。
肩にカバンをかけており、頭には教会のシスターがつけるような……なんていったっけ……そうそう、たしか、ウィンプルってやつ……だったはずだ。
二人を観察しながらも、僕はテーブル席へと案内する。
そして、仕事もないため、離れた場所から観察していると……
「…………」
「……ん?ナナイ、どうしたの?」
「いや、さっきからあの男がこっちを見ているのが気になって……」
あ、バレた。
何かに気がついたように男性の方が僕を見てきて、その様子に気がついた女性の方が気になって男性に訊き、彼女もこちらを見てきた。
おかしいなぁ……気にならないように視線をおくってたはずなんだけどなぁ……
まぁ、気づかれたのは仕方がない。
とりあえず僕は、二人のもとに行って注文を聞くことにした。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「え、あ、えと……」
「それよりあんた、ずっと僕達のことを見てたよな……?」
突然……かどうかは置いといて、話しかけられた女性の方は、びくっとなって口をモゴモゴさせる。
そんな彼女に注文を聞こうとすると、男性の方が、僕のことを睨みながら手に持っている刀をカチャッと鳴らして威嚇してきたため、僕は驚いて二歩ほど後ずさった。
「え、えと、まぁそうなんですが……お、お客様、その物騒なものを構えないでくださいませんか……?」
「な、ナナイ!駄目よ暴れちゃ!」
「……わかってるよゲヘナ。……それに、今のままじゃ刀は振れない……」
「え?何か言った?」
「ううん。なにも」
威嚇してきた男性は、女性が止めることで刀を構えるのをやめて、一応の警戒は解いた。
まぁ、刀は仕舞わざるを得ないだろう。
だって、そのまま振ってたらどうやったって女性に刀が当たるような場所に移動したんだから。
ま、それはともかく……
「すみません、驚かせてしまって……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。……ところで、ご注文の方はお決まりでしょうか?」
「あ、えと……まだ、です……」
「そうですか。失礼いたしました」
まぁ、決まってないですよね。わかってて訊いたんだから。
とりあえず、誤魔化せたってことにして、また離れて観察を……
「おい、また遠くから見られるのは不快だから、こっちにいてくれ」
「こら、ナナイ!」
「……ええ、いいですよ」
……と、思っていると、男性の方に止められたため、僕は足を止め、二人の近くに留まった。
まぁ、警戒してるなら、遠くにいさせるよりは近くにいさせた方がいいよね。
近くにいるなら、折角だし、と、僕は二人に自己紹介をすることにした。
「本当にすみません!」
「いえいえ。ところで、お二人のお名前は?あ、僕は星村 空理といいます」
「あ、私はゲヘナ・クレッセントと申します!」
「……僕は……ナナイ・クレッセント、です」
「同じファミリーネーム……ということは、兄妹かなにかなんですか?」
「え、えと、恋人……です!」
「ああ、やっぱりそうですよね。ゲヘナさん、ドッペルゲンガーなのに兄妹はないですよね」
「えっ?」
「……あんた、いったいなんなんだ?」
あ、あれ?
自己紹介して、ゲヘナさんの種族を指摘しただけなんだけどな……?
な、なんか、空気がピチッと張り詰めて、る……?
おかしいな、警戒されるようなこと、言ったかな……?
「え、えと……いったいなにを警戒してるんですか?」
「あ、いえ。警戒してる、というよりも、驚いているんです。まさか、一目で私の種族がわかる人がいるなんて……」
「僕もゲヘナと少し調べたけど、ドッペルゲンガーは珍しい種族であまり知られていない。なのに、なんでそんなにも正確に当てられた……んですか?」
「あ〜、警戒してるから敬語使ってるみたいだけど、あんまし使わないほうがいいよ。とくに僕には。僕、そういう距離の置き方効かないし。……んで、なんでゲヘナさんの種族が一発でわかったのか、だよね。簡単だよ。ゲヘナさん、ある程度違う部分があるとはいえ、図鑑のドッペルゲンガーにそっくりだからだよ」
それに、ちょっと前まで話していた魔物だったし、ね。
そう付け加えながら、僕は適当に魔物図鑑を取り出してドッペルゲンガーの項目を開き、二人に挿絵を見せる。
……ナナイ君が、いったいどこから取り出したんだというツッコミをしてきたが、説明が面倒なためあえてスルー。
ま、自分の知識くらいは簡単に本化出来ないとね。
「へぇ……私も挿絵付きの図鑑は見せてもらったことがあるけど、ナナイはとくになにも言わなかったよね?」
「別に……ゲヘナはゲヘナだから。…………それにしてもこいつはなんなんだ?こいつの言ってるとおり、距離をあけようとしても離れてる感覚はないし、近づかれてる感覚もない。まるでなにもいないような心の……」
「ナ、ナナイ!」
「どうかした、ゲヘナ?」
ゲヘナさんの質問に、ナナイ君はなにか間違ってることある?といったような感じに答え……てからなにやら不穏な独り言を呟いたので、ゲヘナさんは慌ててナナイ君を注意する。
あぁ、あるある。
なんか考えてることって、ポロっと口に出ちゃう時あるよね。
僕も美核に会うまではそうだったからなぁ……
治すのは苦労したよ、あれは。
「ナナイ君、なんか考えてることが口に出てたみたいだよ?」
「え、本当ですか?」
「うん、本当に。……ところで、お二人はどちrだっ!?」
少し驚いたようなナナイ君に苦笑しながら指摘して、それから二人がどこから来たのか訊こうと思ったところで、ガンッ!と頭頂部ど真ん中にキツめの衝撃が走った。
いたい、いたい。あたまわれる。
「空理!まぁた君は注文も取らずにお客さんと話してる!いくらお客さんと話すのが楽しくても、自分の仕事くらいちゃんとやりなさいよ!」
「うん、ごめんよ。でも、とれーはひどい。せめてちょっぷがよかった……あたまじんじんする……」
叩いた人物は、美核だった。
仕事をしろと注意する美核に、僕は少し涙目になりながらもトレーの使用に抗議した。
と、頭を抑えて涙目になる僕の様子を見て、少し悪いと思ったのか、あ、あんたがサボるから悪いのよ……と、少し弱めに抗議をつっかえし、厨房の方へ引っ込んでしまった。
……ああもう可愛いなぁ……
「……あの、大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。まぁ、仕事をしなかった自分が悪いですしね。なんで、先に仕事をさせていただきましょう。さて、御注文はお決まりでしょうか?」
「あ、じゃあ私は……カステラに、チーズケーキ、と……そういえば、もうすぐお昼だったよね。そしたらあと……サンドイッチと、ミルクティーをお願いします。ナナイはどうする?」
「僕もゲヘナと同じものでいい」
「じゃあ、それを二つずつお願いします」
「わかりました。それでは、失礼いたします」
とりあえず僕は自分の仕事に戻って二人の注文をきき、マスターに注文をしにいく。
そして、少しして完成したサンドイッチと、それができるまえに準備していたミルクティーをトレーに乗せて、ナナイ君とゲヘナさんのところに戻った。
ちなみにサンドイッチはBLTとエッグの二種類を一つずつで出している。
「お待たせしました。サンドイッチとミルクティーでございます。……ちなみにカステラとチーズケーキはデザートということで後にさせていただきました」
「あ、ありがとうございます。そしたら、食べよっか?」
「そうだね。いただきます」
「いただきます」
僕がサンドイッチを運んでテーブルに置くと、二人は早速食べ始めてくれたため、僕は黙って二人をみている。
いや、デザートをゆっくり食べてる時はともかくとして、昼食を食べてる人の邪魔はしないよ?
なぜか誰かから、いや、お前、いつもは食べてるひとでも普通に話しかけてるだろ?というツッコミが聞こえたような気がしたので、とりあえず僕は心の中でそう呟いた。
「うん、美味しい。素材もいいし、量も適切だ……」
「うん、美味しいね。あでも、ナナイの作った料理も美味しいからね?」
「うん、ありがとう」
「…………」
くそぅ、惚気か?惚気てるのかこいつら!?
「あ、ナナイ、口元が油で汚れてる」
「え?どこに?」
「ちょっと待ってね。今拭くから……はい、大丈夫だよ」
「ありがとうゲヘナ」
「どういたしまして」
血涙した。
そしてちょっとイラッ☆ときた。
ちくしょう、イチャイチャしてくれちゃって……
……原因は自業自得だけど……恋人のいない僕への当てつけか!?
……ま、そんなことはどうでもいいや。
とりあえず僕は二人が惚気ながら昼食を食べ終えるのを待ち、タイミングを見計らって会話に参加した。
「そういえば、お二人はどんなことをなさってるんですか?」
「僕は……山地の警備なんかを手伝っている」
「私は教会のお手伝いと……あと、本当の聖書の教えを近くの街や村で説いてまわっています。……今回は、ちょっと遠出ですけどね」
「本当の聖書の教え……ですか。そのニュアンスだと、教団のものとは違うようですね。いったいどんなものなんですか?」
「よくぞ訊いてくださいました!それではご説明させていただきます!そもそも教団の教えは……」
僕が本当の聖書の教え、というものについて訊くと、ゲヘナさんは目をキラキラさせながら、近くにおいていた肩掛けカバンから分厚い本……おそらく本当の聖書とやらだろう……を取り出して、説明を始めた。
あ、もしかしてなんかスイッチ入れちゃったかな?
うーん、なんか長くなりそう、と思い、ナナイ君に、これ止まる?と視線を送ったところ、多分無理、と首を横に振られたので、まぁ、止まらないならいっか。と話を聞くことにした。
……彼女の話には、確かな信憑性と、人を惹きつける何かがあった。
現在の教団の教えと、本来の聖書の教えを比較して違和感のある部分を指摘して、自分なりの考察を話し、そのうえで誰もが共感出来るような解釈を教える、といった方法で、彼女は聖書の教えを説いていく。
こんなこと、汚ない教団の上の連中なんかじゃ出来ない、綺麗な教え方だな……
これは、あれかな、信仰心の賜物ってやつなのかな?
しかし、その信仰心とやらはとてもとても強いらしい。
一向に、話が、止まらない。
途中何度か、ナナイ君が、ゲヘナ、ちょっと暴走しすぎ。と声をかけるが、聞こえないようで、話は続けられていく。
流石にこの様子にはナナイ君も困り顔をしていた。
……ああもう、この二人は可愛いなぁ……
「……なので、“汝隣人を……”」
「お待たせしました、カステラとチーズケーキです」
「ゲヘナ、デザートが来たよ」
「つまり、魔物……え?デザート?あ、本当だ。じゃあ、ちょっと休憩して食べよっか」
「ええ、そうですね、それがいいと思います」
もう終わるまで付き合うしかなさそうだなぁ、と覚悟したところで、タイミング良く美核がデザートを運んで来てくれ、ナナイ君が教えたことでゲヘナさんは説法を中止し、デザートを食べ始めた。
「美味しいね、ナナイ」
「うん。ゲヘナの好きな甘さだね」
「……美核、助かった。もしかしたら終わるまで聞き続けるかもしれなかった……」
「なにいってるかわからないけど……まぁ、うん、助かったんなら、よかったわ」
デザートを食べてる二人の傍で、僕は美核に割と本気でお礼をいう。
いや、話を聞くのは好きなんだけど、長い説法はちょっと……ね……
それに僕、神様とか、あまり信じてないし。
まぁ、そういう考えは、嫌いじゃないけど。
「にしても、ゲヘナさんの教えてくれた本当の聖書の教えっていうのは凄いですね。僕も暇潰しに教団の聖書を読んだことがあるんですが、それとはまた似て非なるもの。まさか、あそこまで解釈の違いがあるとは……」
「え、えと……暇潰しに聖書を読む、というのはちょっとあれですけど、まぁ、そうですね。教団の教えは、読めば読むほど、矛盾が生じてしまいます。その矛盾が、やっぱり本来とは違うところになってしまうんですよね……でも、なんでこんなに教団の教えは歪んでしまったんでしょう……」
「神の教えを説くものが己の利益にはしって故意的に歪めた、どうせそんなところでしょう。いつの世も、腐っていくのはそういう個人的な理由のせいなんですから。または、その信仰すべき神そのものが歪んだか、ですかね?」
「…………」
「……?どうかしましたか、ゲヘナさん?」
カステラを食べ終え、チーズケーキをフォークで切りながら食べてたゲヘナさんが、不意に動きを止めて、不思議そうにこちらを見た。
どうしたんだろう、と疑問に思い、僕はゲヘナさんに声をかける。
「あ、いえ。なんというか、星村さんの口ぶりが、まるでそうなった世界を見たことあるようなものだったので……えと、ここ一帯の主な教えって、教団のものだけ……ですよね?」
「…………」
あー、なんか口滑らせちゃったっぽいな……
失敗失敗。
楽しくてつい話しすぎちゃったな。
まぁ、ここで無理に誤魔化したら怪しまれるだろうし、ここは素直に言った方がいいね。
「ええまぁ。でも、僕の故郷はここじゃなくてもっと離れた場所でしてね。そこでは教団ではない、でもそんな腐った教えが広まっていたんですよ」
「そう、なんですか……」
「ええ。……今はどうなってるのかわかりませんが、もしあそこがあのままだったのなら、きっと、ゲヘナさんの本当の聖書の教えがあれば、たくさんの人を救えるんでしょうね……あそこは、教団なんて比にならないくらいの人の悪意が充満してましたからね……」
「……星村さん、あなたはいったいどんな場所で……」
「っとと、すみません、お客さんが増えてきたんで、仕事に戻りますね」
不安な顔でゲヘナさんが見つめてくるが僕はお客さんが増えてきたことを理由にその場を離れる。
うーん、おかしいな、注意してたはずなのに、つい余計なことまで口走っちゃう。
まぁ、この程度のことを口走ったところで、なにも問題はないか。
ということで、僕はナナイ君とゲヘナさんに様子を見られながらも、いつものように仕事に励むのであった。
××××××××××××××××××××××××××××××
……仕事を始めて、だいたい30分くらい経ってからだろうか。
また人の出入りがまばらになってきて、暇になり、また二人のところにいこうかなぁ、なんて考えていると、ゲヘナさんがすみません、お会計お願いします!とレジの前で頼んでいたので、僕は会計に向かおうとレジに向かう。
しかし、僕よりも先に美核がレジの前に立ち、会計を始めてしまう。
美核に仕事は奪われてしまったが、二人はさっきまで話していた人たちだ。見送りぐらいはしたい。
そう思って、僕は財布を探しているゲヘナさんのところへいき、話しかけることにした。
「もうお帰りになるんですか、ゲヘナさん?」
「あ、星村さん。いえ、このあとは教会や孤児院の方でお話をさせていただけることになっているので、そこに向かいます」
「そうですか。僕も時間があったらいきたいのですが……なにぶん、午後は忙しいもので、いけそうにありません……」
「そうですか、それは残念です。もっと本来の教えについて星村さんに聞いてもらいたかったのですが……あ、これでお願いします」
「はい、3240円ちょうどお預かりします。ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」
「そうですね、僕ももっと話したかったですよ。なんで、また来てくださいね?」
「ええ、機会があればまた。……ああ、そうでした。星村さんに……えと、たしか、美核さん……でしたっけ?」
「え?なんですか?」
「はい、なんでしょう?」
会計も終わり、ナナイ君と一緒に外に出ようとしたところで、ゲヘナさんはふと立ち止まって僕達に話しかける。
「その、お二人のことを見ていて思ったんですけど、一言、よろしいですか?」
「あ、はい。なんですか?」
「えと、なにかしら……?」
「えと、なんというか、美核さんは少し昔の私と似た感じなので言わせてもらうんですけど……あなたは恐れないで、もう少し自分の気持ちに素直になった方がいいと思いますよ?」
「へ?え?」
「そして、星村さん、一定の距離を保つのはいいんですけど、全部知った上で本心を隠すのは、相手に失礼だとおもいますよ?」
「……………………」
そう言ってゲヘナさんは、ニコッ!と、誰もが可愛いと思うような笑みを浮かべ、店を出ていった。
突然の一言に、美核は疑問符を浮かべるばかり。
対して僕は、苦笑のまま顔の形を保っている。
……いやはや、驚いた。
まさか、あってすぐに僕の本性を見破られるなんてね……
まぁ、さすがは“黒衣の影騎士”の生きる意味になった人だってことかな?
「ねぇ、空理、あれって、どういう意味に言葉だったの?」
「ん?いや、知らない方がいいことだよ」
「なにそれ!逆に気になるわよ!」
「ほらほら、それよりも新しいお客さんが来たよ」
「むぅ、あとでどういう意味だったのか聞かせてもらうからね!」
「はいはい。早く仕事に戻ろうね」
僕の本性に気づかれたことを、僕は半分恐ろしく、半分嬉しく思いながら微笑み、美核を誤魔化して仕事に戻るのであった。
また叔父にいびられる
___どうでもいい___
朝食を食べる。
そういえば、今日から高校生になるのか
___どうでもいい___
一時間かけて学校に登校する。
___どうでもいい___
入学式、大人しく終了を待つ。
___どうでもいい___
クラスの自己紹介。
___どうでもいい___
友人ができる。
___どうでもいい___
学校が終わる。
___どうでもいい___
また一時間かけて家に帰る。
___どうでも…………
「お〜い、そこの君〜!」
……いい___
××××××××××××××××××××××××××××××
「うえっ、おぇっ!」
「だから言ったじゃないですか。読まない方がいいと」
壁に本棚がギッシリと詰まった、円形の無機質な部屋の一角で、私は吐きそうになって口を手で抑え、開いていた本を落としてしまった。
そんな私の様子を見て、隣に立っている男が、無表情なままため息をつく。
「なぜあなたはそんなにもそれを知りたがるのですか」
「そんなもの、決まってるわよ。私はなにも知らないまま終わらせたくないだけ」
「……そうですか」
私の答えを聞いて、また男は表情を変えずにため息をつく。
「……まったく、“彼”が気づいてないからいいとはいえ、無茶をする方ですね……っと、そろそろ“時間”です」
「そう。邪魔したわね」
「全くです。……が、別に構いませんよ」
そろそろここにい続けることが危険になってきたことを男が教えてくれたため、私は出口へと向かう。
そんな私を見ながら、男は私がここにきてから始めて表情を変えて、ポツリとつぶやいた。
「……“彼”と“あいつ”以外のここの住人は皆、あなたがくることを歓迎しているのですから」
××××××××××××××××××××××××××××××
「……なるほど、とするとあなたも僕と同じ考えですか」
「そうですね、愛した者の死というのは、あまりにも深い傷になり得ますからね……っと、そろそろ時間のようですね」
「そうですか。そしたらお会計は……340円ですね」
「はい、これでお願いします」
「340円ちょうど、お預かりします。ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
年も明けて、現在は1月8日。
店のお客さんの出入り、年末年始から元に戻り始めてきた。
とはいっても、やはり午前の人の入りは少ない。
特に仕事のない僕は、珍しいお客さんと魔物に関する考察を交換していた。
が、そのお客さんももう戻る時間になったようで、コーヒーなどの代金を払って店を出てしまった。
にしても、あの人は面白かったな……
たしか、故郷は僕と同じ日本だったな……
よくここにこれたものだ。
……いや、本来ここはそういうところだったな……
……帰れるのか……
羨ましい限りだよ……
と、そんなことを考えていると、新しいお客さんがやってきた。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「えと……二人、です……」
「テーブル席とカウンター席がございますが、どちらにいたしますか?」
「テーブルでお願いします……」
今回のお客さんは二人。
一人はぼぉーっとしたような感じの、髪、コート、インナーシャツ、カーゴパンツ、ブーツ、ほとんどが黒色の青年。
もう一人は、……ほほぅ、珍しい。
こちらもまた、片方と同じように、ほとんどが黒色の少女であった。
黒色のワンピースを来ており、顔立ちは可愛らしい……のだが、はたから見れば地味だと思われるタイプだ。
肩にカバンをかけており、頭には教会のシスターがつけるような……なんていったっけ……そうそう、たしか、ウィンプルってやつ……だったはずだ。
二人を観察しながらも、僕はテーブル席へと案内する。
そして、仕事もないため、離れた場所から観察していると……
「…………」
「……ん?ナナイ、どうしたの?」
「いや、さっきからあの男がこっちを見ているのが気になって……」
あ、バレた。
何かに気がついたように男性の方が僕を見てきて、その様子に気がついた女性の方が気になって男性に訊き、彼女もこちらを見てきた。
おかしいなぁ……気にならないように視線をおくってたはずなんだけどなぁ……
まぁ、気づかれたのは仕方がない。
とりあえず僕は、二人のもとに行って注文を聞くことにした。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「え、あ、えと……」
「それよりあんた、ずっと僕達のことを見てたよな……?」
突然……かどうかは置いといて、話しかけられた女性の方は、びくっとなって口をモゴモゴさせる。
そんな彼女に注文を聞こうとすると、男性の方が、僕のことを睨みながら手に持っている刀をカチャッと鳴らして威嚇してきたため、僕は驚いて二歩ほど後ずさった。
「え、えと、まぁそうなんですが……お、お客様、その物騒なものを構えないでくださいませんか……?」
「な、ナナイ!駄目よ暴れちゃ!」
「……わかってるよゲヘナ。……それに、今のままじゃ刀は振れない……」
「え?何か言った?」
「ううん。なにも」
威嚇してきた男性は、女性が止めることで刀を構えるのをやめて、一応の警戒は解いた。
まぁ、刀は仕舞わざるを得ないだろう。
だって、そのまま振ってたらどうやったって女性に刀が当たるような場所に移動したんだから。
ま、それはともかく……
「すみません、驚かせてしまって……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。……ところで、ご注文の方はお決まりでしょうか?」
「あ、えと……まだ、です……」
「そうですか。失礼いたしました」
まぁ、決まってないですよね。わかってて訊いたんだから。
とりあえず、誤魔化せたってことにして、また離れて観察を……
「おい、また遠くから見られるのは不快だから、こっちにいてくれ」
「こら、ナナイ!」
「……ええ、いいですよ」
……と、思っていると、男性の方に止められたため、僕は足を止め、二人の近くに留まった。
まぁ、警戒してるなら、遠くにいさせるよりは近くにいさせた方がいいよね。
近くにいるなら、折角だし、と、僕は二人に自己紹介をすることにした。
「本当にすみません!」
「いえいえ。ところで、お二人のお名前は?あ、僕は星村 空理といいます」
「あ、私はゲヘナ・クレッセントと申します!」
「……僕は……ナナイ・クレッセント、です」
「同じファミリーネーム……ということは、兄妹かなにかなんですか?」
「え、えと、恋人……です!」
「ああ、やっぱりそうですよね。ゲヘナさん、ドッペルゲンガーなのに兄妹はないですよね」
「えっ?」
「……あんた、いったいなんなんだ?」
あ、あれ?
自己紹介して、ゲヘナさんの種族を指摘しただけなんだけどな……?
な、なんか、空気がピチッと張り詰めて、る……?
おかしいな、警戒されるようなこと、言ったかな……?
「え、えと……いったいなにを警戒してるんですか?」
「あ、いえ。警戒してる、というよりも、驚いているんです。まさか、一目で私の種族がわかる人がいるなんて……」
「僕もゲヘナと少し調べたけど、ドッペルゲンガーは珍しい種族であまり知られていない。なのに、なんでそんなにも正確に当てられた……んですか?」
「あ〜、警戒してるから敬語使ってるみたいだけど、あんまし使わないほうがいいよ。とくに僕には。僕、そういう距離の置き方効かないし。……んで、なんでゲヘナさんの種族が一発でわかったのか、だよね。簡単だよ。ゲヘナさん、ある程度違う部分があるとはいえ、図鑑のドッペルゲンガーにそっくりだからだよ」
それに、ちょっと前まで話していた魔物だったし、ね。
そう付け加えながら、僕は適当に魔物図鑑を取り出してドッペルゲンガーの項目を開き、二人に挿絵を見せる。
……ナナイ君が、いったいどこから取り出したんだというツッコミをしてきたが、説明が面倒なためあえてスルー。
ま、自分の知識くらいは簡単に本化出来ないとね。
「へぇ……私も挿絵付きの図鑑は見せてもらったことがあるけど、ナナイはとくになにも言わなかったよね?」
「別に……ゲヘナはゲヘナだから。…………それにしてもこいつはなんなんだ?こいつの言ってるとおり、距離をあけようとしても離れてる感覚はないし、近づかれてる感覚もない。まるでなにもいないような心の……」
「ナ、ナナイ!」
「どうかした、ゲヘナ?」
ゲヘナさんの質問に、ナナイ君はなにか間違ってることある?といったような感じに答え……てからなにやら不穏な独り言を呟いたので、ゲヘナさんは慌ててナナイ君を注意する。
あぁ、あるある。
なんか考えてることって、ポロっと口に出ちゃう時あるよね。
僕も美核に会うまではそうだったからなぁ……
治すのは苦労したよ、あれは。
「ナナイ君、なんか考えてることが口に出てたみたいだよ?」
「え、本当ですか?」
「うん、本当に。……ところで、お二人はどちrだっ!?」
少し驚いたようなナナイ君に苦笑しながら指摘して、それから二人がどこから来たのか訊こうと思ったところで、ガンッ!と頭頂部ど真ん中にキツめの衝撃が走った。
いたい、いたい。あたまわれる。
「空理!まぁた君は注文も取らずにお客さんと話してる!いくらお客さんと話すのが楽しくても、自分の仕事くらいちゃんとやりなさいよ!」
「うん、ごめんよ。でも、とれーはひどい。せめてちょっぷがよかった……あたまじんじんする……」
叩いた人物は、美核だった。
仕事をしろと注意する美核に、僕は少し涙目になりながらもトレーの使用に抗議した。
と、頭を抑えて涙目になる僕の様子を見て、少し悪いと思ったのか、あ、あんたがサボるから悪いのよ……と、少し弱めに抗議をつっかえし、厨房の方へ引っ込んでしまった。
……ああもう可愛いなぁ……
「……あの、大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。まぁ、仕事をしなかった自分が悪いですしね。なんで、先に仕事をさせていただきましょう。さて、御注文はお決まりでしょうか?」
「あ、じゃあ私は……カステラに、チーズケーキ、と……そういえば、もうすぐお昼だったよね。そしたらあと……サンドイッチと、ミルクティーをお願いします。ナナイはどうする?」
「僕もゲヘナと同じものでいい」
「じゃあ、それを二つずつお願いします」
「わかりました。それでは、失礼いたします」
とりあえず僕は自分の仕事に戻って二人の注文をきき、マスターに注文をしにいく。
そして、少しして完成したサンドイッチと、それができるまえに準備していたミルクティーをトレーに乗せて、ナナイ君とゲヘナさんのところに戻った。
ちなみにサンドイッチはBLTとエッグの二種類を一つずつで出している。
「お待たせしました。サンドイッチとミルクティーでございます。……ちなみにカステラとチーズケーキはデザートということで後にさせていただきました」
「あ、ありがとうございます。そしたら、食べよっか?」
「そうだね。いただきます」
「いただきます」
僕がサンドイッチを運んでテーブルに置くと、二人は早速食べ始めてくれたため、僕は黙って二人をみている。
いや、デザートをゆっくり食べてる時はともかくとして、昼食を食べてる人の邪魔はしないよ?
なぜか誰かから、いや、お前、いつもは食べてるひとでも普通に話しかけてるだろ?というツッコミが聞こえたような気がしたので、とりあえず僕は心の中でそう呟いた。
「うん、美味しい。素材もいいし、量も適切だ……」
「うん、美味しいね。あでも、ナナイの作った料理も美味しいからね?」
「うん、ありがとう」
「…………」
くそぅ、惚気か?惚気てるのかこいつら!?
「あ、ナナイ、口元が油で汚れてる」
「え?どこに?」
「ちょっと待ってね。今拭くから……はい、大丈夫だよ」
「ありがとうゲヘナ」
「どういたしまして」
血涙した。
そしてちょっとイラッ☆ときた。
ちくしょう、イチャイチャしてくれちゃって……
……原因は自業自得だけど……恋人のいない僕への当てつけか!?
……ま、そんなことはどうでもいいや。
とりあえず僕は二人が惚気ながら昼食を食べ終えるのを待ち、タイミングを見計らって会話に参加した。
「そういえば、お二人はどんなことをなさってるんですか?」
「僕は……山地の警備なんかを手伝っている」
「私は教会のお手伝いと……あと、本当の聖書の教えを近くの街や村で説いてまわっています。……今回は、ちょっと遠出ですけどね」
「本当の聖書の教え……ですか。そのニュアンスだと、教団のものとは違うようですね。いったいどんなものなんですか?」
「よくぞ訊いてくださいました!それではご説明させていただきます!そもそも教団の教えは……」
僕が本当の聖書の教え、というものについて訊くと、ゲヘナさんは目をキラキラさせながら、近くにおいていた肩掛けカバンから分厚い本……おそらく本当の聖書とやらだろう……を取り出して、説明を始めた。
あ、もしかしてなんかスイッチ入れちゃったかな?
うーん、なんか長くなりそう、と思い、ナナイ君に、これ止まる?と視線を送ったところ、多分無理、と首を横に振られたので、まぁ、止まらないならいっか。と話を聞くことにした。
……彼女の話には、確かな信憑性と、人を惹きつける何かがあった。
現在の教団の教えと、本来の聖書の教えを比較して違和感のある部分を指摘して、自分なりの考察を話し、そのうえで誰もが共感出来るような解釈を教える、といった方法で、彼女は聖書の教えを説いていく。
こんなこと、汚ない教団の上の連中なんかじゃ出来ない、綺麗な教え方だな……
これは、あれかな、信仰心の賜物ってやつなのかな?
しかし、その信仰心とやらはとてもとても強いらしい。
一向に、話が、止まらない。
途中何度か、ナナイ君が、ゲヘナ、ちょっと暴走しすぎ。と声をかけるが、聞こえないようで、話は続けられていく。
流石にこの様子にはナナイ君も困り顔をしていた。
……ああもう、この二人は可愛いなぁ……
「……なので、“汝隣人を……”」
「お待たせしました、カステラとチーズケーキです」
「ゲヘナ、デザートが来たよ」
「つまり、魔物……え?デザート?あ、本当だ。じゃあ、ちょっと休憩して食べよっか」
「ええ、そうですね、それがいいと思います」
もう終わるまで付き合うしかなさそうだなぁ、と覚悟したところで、タイミング良く美核がデザートを運んで来てくれ、ナナイ君が教えたことでゲヘナさんは説法を中止し、デザートを食べ始めた。
「美味しいね、ナナイ」
「うん。ゲヘナの好きな甘さだね」
「……美核、助かった。もしかしたら終わるまで聞き続けるかもしれなかった……」
「なにいってるかわからないけど……まぁ、うん、助かったんなら、よかったわ」
デザートを食べてる二人の傍で、僕は美核に割と本気でお礼をいう。
いや、話を聞くのは好きなんだけど、長い説法はちょっと……ね……
それに僕、神様とか、あまり信じてないし。
まぁ、そういう考えは、嫌いじゃないけど。
「にしても、ゲヘナさんの教えてくれた本当の聖書の教えっていうのは凄いですね。僕も暇潰しに教団の聖書を読んだことがあるんですが、それとはまた似て非なるもの。まさか、あそこまで解釈の違いがあるとは……」
「え、えと……暇潰しに聖書を読む、というのはちょっとあれですけど、まぁ、そうですね。教団の教えは、読めば読むほど、矛盾が生じてしまいます。その矛盾が、やっぱり本来とは違うところになってしまうんですよね……でも、なんでこんなに教団の教えは歪んでしまったんでしょう……」
「神の教えを説くものが己の利益にはしって故意的に歪めた、どうせそんなところでしょう。いつの世も、腐っていくのはそういう個人的な理由のせいなんですから。または、その信仰すべき神そのものが歪んだか、ですかね?」
「…………」
「……?どうかしましたか、ゲヘナさん?」
カステラを食べ終え、チーズケーキをフォークで切りながら食べてたゲヘナさんが、不意に動きを止めて、不思議そうにこちらを見た。
どうしたんだろう、と疑問に思い、僕はゲヘナさんに声をかける。
「あ、いえ。なんというか、星村さんの口ぶりが、まるでそうなった世界を見たことあるようなものだったので……えと、ここ一帯の主な教えって、教団のものだけ……ですよね?」
「…………」
あー、なんか口滑らせちゃったっぽいな……
失敗失敗。
楽しくてつい話しすぎちゃったな。
まぁ、ここで無理に誤魔化したら怪しまれるだろうし、ここは素直に言った方がいいね。
「ええまぁ。でも、僕の故郷はここじゃなくてもっと離れた場所でしてね。そこでは教団ではない、でもそんな腐った教えが広まっていたんですよ」
「そう、なんですか……」
「ええ。……今はどうなってるのかわかりませんが、もしあそこがあのままだったのなら、きっと、ゲヘナさんの本当の聖書の教えがあれば、たくさんの人を救えるんでしょうね……あそこは、教団なんて比にならないくらいの人の悪意が充満してましたからね……」
「……星村さん、あなたはいったいどんな場所で……」
「っとと、すみません、お客さんが増えてきたんで、仕事に戻りますね」
不安な顔でゲヘナさんが見つめてくるが僕はお客さんが増えてきたことを理由にその場を離れる。
うーん、おかしいな、注意してたはずなのに、つい余計なことまで口走っちゃう。
まぁ、この程度のことを口走ったところで、なにも問題はないか。
ということで、僕はナナイ君とゲヘナさんに様子を見られながらも、いつものように仕事に励むのであった。
××××××××××××××××××××××××××××××
……仕事を始めて、だいたい30分くらい経ってからだろうか。
また人の出入りがまばらになってきて、暇になり、また二人のところにいこうかなぁ、なんて考えていると、ゲヘナさんがすみません、お会計お願いします!とレジの前で頼んでいたので、僕は会計に向かおうとレジに向かう。
しかし、僕よりも先に美核がレジの前に立ち、会計を始めてしまう。
美核に仕事は奪われてしまったが、二人はさっきまで話していた人たちだ。見送りぐらいはしたい。
そう思って、僕は財布を探しているゲヘナさんのところへいき、話しかけることにした。
「もうお帰りになるんですか、ゲヘナさん?」
「あ、星村さん。いえ、このあとは教会や孤児院の方でお話をさせていただけることになっているので、そこに向かいます」
「そうですか。僕も時間があったらいきたいのですが……なにぶん、午後は忙しいもので、いけそうにありません……」
「そうですか、それは残念です。もっと本来の教えについて星村さんに聞いてもらいたかったのですが……あ、これでお願いします」
「はい、3240円ちょうどお預かりします。ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております」
「そうですね、僕ももっと話したかったですよ。なんで、また来てくださいね?」
「ええ、機会があればまた。……ああ、そうでした。星村さんに……えと、たしか、美核さん……でしたっけ?」
「え?なんですか?」
「はい、なんでしょう?」
会計も終わり、ナナイ君と一緒に外に出ようとしたところで、ゲヘナさんはふと立ち止まって僕達に話しかける。
「その、お二人のことを見ていて思ったんですけど、一言、よろしいですか?」
「あ、はい。なんですか?」
「えと、なにかしら……?」
「えと、なんというか、美核さんは少し昔の私と似た感じなので言わせてもらうんですけど……あなたは恐れないで、もう少し自分の気持ちに素直になった方がいいと思いますよ?」
「へ?え?」
「そして、星村さん、一定の距離を保つのはいいんですけど、全部知った上で本心を隠すのは、相手に失礼だとおもいますよ?」
「……………………」
そう言ってゲヘナさんは、ニコッ!と、誰もが可愛いと思うような笑みを浮かべ、店を出ていった。
突然の一言に、美核は疑問符を浮かべるばかり。
対して僕は、苦笑のまま顔の形を保っている。
……いやはや、驚いた。
まさか、あってすぐに僕の本性を見破られるなんてね……
まぁ、さすがは“黒衣の影騎士”の生きる意味になった人だってことかな?
「ねぇ、空理、あれって、どういう意味に言葉だったの?」
「ん?いや、知らない方がいいことだよ」
「なにそれ!逆に気になるわよ!」
「ほらほら、それよりも新しいお客さんが来たよ」
「むぅ、あとでどういう意味だったのか聞かせてもらうからね!」
「はいはい。早く仕事に戻ろうね」
僕の本性に気づかれたことを、僕は半分恐ろしく、半分嬉しく思いながら微笑み、美核を誤魔化して仕事に戻るのであった。
11/06/28 23:00更新 / 星村 空理
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