ギルドの少年と山奥の鍛冶屋
ギィ…………と、木が軋む音と共に、扉が開く。
その音を聞いて、俺ことヴァン・レギンスは、そろそろ扉を替えた方がいいかな……と思いながら、小屋の中に入る。
まぁ、そんなこと考えてはいても、俺の家じゃないから意味ないんだけど。
「……………………いらっしゃい…………」
控えめな声で、この小屋の主が挨拶をする。
「…………また来たのね、ヴァン……」
「そう言うなよ。一ヶ月ぶりじゃないか」
「…………そうね。…………でも、あなた、必ず一ヶ月に一度はここに来るから…………」
「なんだ?客が何度も来るのは迷惑か?」
「…………そうじゃないけど…………我慢するのが…………」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもない…………」
ムスッとしながらも、彼女は椅子を出して俺に勧めるので、ありがたく使わせてもらう。
…………彼女の名前はウィナ。こんな山奥の小屋で、鍛冶屋をやっているという変わり者だ。
そして、俺はそんな彼女の作った武器を使っていて、定期的に武器のメンテナンスをしてもらっているのだ。
「…………で、今日も武器のメンテナンスなの……?」
「ああ。頼むよ」
やはり、付き合いが長いと話しが早くて助かる。
俺は腰に下げていた剣を鞘ごと抜いて、ウィナに渡す。
受け取ったウィナは、すぐに剣を抜いて、様子を見た。
「………………毎回思うんだけど、いったい、どんな使い方をすればこんなに刀身が削れるのかしら………………」
「いやぁ、俺、仕事熱心だからね。ギルドで結構な量の依頼こなしてるからな…………それも、金額のいい護衛ばっかだし」
「…………はぁ、一応研いではおくけど、そろそろ買い直した方がいいわ…………消耗が激しいから、いつ折れてもおかしくない…………」
「じゃあ、また新しいの頼んでいいか?お前の武器は丈夫だし、質がいいからな!!」
「いいけど…………時間がかかるわよ?」
「構わないさ。それまではこいつで頑張るから」
「……………………はぁ…………だからこれは消耗が激しいから…………」
「分かってる。でも俺はお前の武器でしか満足出来ないんだよ」
それほど、彼女の武器は質がいいのだ。
だから、ここには結構な数の人が訪れ、武器を買っていく。
…………まぁ、俺みたいにメンテナンスまで頼むやつは、俺以外にはいないらしいが。
「………………分かったわ…………努力はする………………狡いわよ…………そんなこと言われたら、他の使えなんて言えないじゃない………………」
「はっはっはー!!なんだ、照れてるのか?」
「…………うるさい…………」
顔を朱に染めながら、彼女は砥石を出して剣を研ぎ始める。
「…………で、店の調子はどうなんだ?」
「……別に、普通よ…………まぁ、最近はお客さんも増えてきてるけど…………」
「そっか。そりゃよかった」
シャッ、シャッと、金属の擦れる音を聞きながら、俺達は雑談し始める。
ウィナももう手馴れたもので、話しながらでも失敗することはまずない。
「………………でも、変…………私は宣伝なんてしてないのに、自然とお客さんは集まってきてる…………やっぱり、ヴァンが宣伝してる…………?」
「うんにゃ。やってねぇよ?ただ、やっぱりお前の武器が凄いからか、周りの奴らからこれが誰の作品か訊いてくるんだよ」
「…………そう。ちょっと嬉しい…………」
たしかに、鍛冶屋としては自分の武器を褒められて、名前が広がっていくのは嬉しいんだろうからな…………
うん。みんなに宣伝しといてよかった。
「そりゃよかったな。俺もお前の初めての客として嬉しく思うぜ」
「…………ありがとう…………」
そう、俺はこいつの初めての客なのだ。
たしか、初めて出会ったのは、1年前くらいだったろうか…………?
まだ駆け出しだった俺が、この山でヘタ打って倒れたところを、彼女が拾って助けてくれたのが俺達の出逢いだった。
その時に、俺は彼女の打った剣を見て、気に入り、売ってもらったのだ。
その剣が、今彼女が砥いでいる剣であり、俺の相棒である。
「…………ところでさ、お前、まだ結婚しないのか?」
「………………え………………?」
不意に俺が訊くと、ウィナは剣を研ぐ手を止めて、顔を上げた。
「…………なんで、そんなこと突然訊くの…………?」
「いや、店の方も安定してきてるし、するならそろそろかなぁ、と思ってな」
「…………私が結婚なんて、ありえないわよ…………」
「え?そうか?お前美人だし、告白とかされてんじゃないか?」
「…………告白?誰が私なんかに…………だって私、こんな姿なんだよ?…………醜いんだよ…………?」
そう言って彼女は自分を見る。
豊満な体。
一本の角。
青い肌。
一つだけの目。
そう、彼女は……サイクロプスだった。
…………たしかに、一つ目というのは普通の人であれば怖いかもしれない。
でも…………
「その姿のどこが醜いんだよ?少なくとも俺から見たらお前は十分美人だぜ?第一、醜いっつったら、人間の方がよっぽど醜いぜ?だから気にすんなよ」
「………………………………ありがとう…………」
「いやいや、本当のことを言ったまでだ。…………で、結局結婚はするんかい?」
「…………結婚…………したいけど、多分無理。好きな人いるんだけど、全く相手にされてないっぽいから…………」
「ほう…………そいつは驚きだな…………こいつを相手にしないなんて…………よし、どこのどいつだ?そいつの顔を拝んでやろう」
「…………………………馬鹿………………」
「ん?なんか言ったか?」
「…………なんでもない…………」
ムスッとして、ウィナは剣を研ぐ作業を再開した。
「ウィナ、どうしたんだ?」
「……………………………………」
「おーい、ウィナ〜?」
「……………………………………」
声をかけても全然反応してくれない。
何か機嫌悪くするようなこと言ったかな……?
まぁ、そんな感じで、何も喋らないままウィナは剣を研ぎ続けていた…………
××××××××××××××××××××××××××××××
「……………………終わったわ」
そう言って、ウィナは研ぎ終えた剣を俺に見せる。
それは、まるで新品のようにキラキラしていた。
…………流石…………俺が自分でやったんじゃ、こうはいかないな…………
「おう。サンキュー。じゃあ、これ代金な」
代金を渡し、俺は剣を受け取った。
不意に外を見てみると、すでに空は暗くなり始めていた。
「っと、もうこんなに時間になってるのか……やっぱり時間かかるからな…………」
「…………それはあなたがいつも午後に来るから。…………午前中に来てくれれば、もっと早くに終わる」
「いやだって午前には仕事を入れてるから…………」
「…………どうする?今日は…………泊まる?」
「いや、折角だが、遠慮するよ。もう宿取ってるから。そっち使わないともったいないだろ?」
「………………………………………………ほら、やっぱり………………いつもそう……………………」
そう小さく呟いて、彼女は俯いてしまった。
「………………………………悪いな。あとちっとだから、もうちっとだけ、我慢してくれ…………」
「え…………………………?」
「そんじゃ、またな!!」
驚いたように顔を上げた彼女に俺はそう言って小屋を出た。
××××××××××××××××××××××××××××××
三ヶ月後…………
××××××××××××××××××××××××××××××
「…………今日も、メンテナンスでいいのね?」
「ああ。頼んだぜ」
いつものように言って、俺は剣をウィナに渡し、ウィナはそれを研ぎ始めた。
いつもと同じ流れ。
ただし、今日はいつもとちょっと違う。
…………準備が、整ったのだ。
剣を砥いでいる彼女の顔を見ながら、俺は深呼吸をして、そして、言った。
「なぁ、ウィナ。お前、店を街に移す気ないか?」
「…………何を突然………………?」
訝しげな顔をしながら、彼女は俺の方を見た。
「いやさ、客も結構な数になってきてるみたいだし、そろそろ街とかそういう交流のいいところでやってもいいんじゃないかな、と思ってな」
「…………別に、今のままで構わない…………それに、街に店なんて開けない。土地がないから…………」
「それが、あるんだなぁ」
「…………え?」
俺の言葉に、ウィナはキョトンとした顔をした。
「いやな、頑張ってギルドで稼いで買ったんだ。結構人の通りもいいし、今より客も来やすそうだから、ウィナの新しい店にどうかな、と思ってさ」
「…………そんなの、余計なお世話…………」
「まぁな。でも、そこってギルドから近くて、毎日そこに通えるんだよ。俺もお前と一緒に住みたいから、そこで店をやってもらえると、嬉しいだがなぁ……?」
「え…………今、なんて…………?」
俺の言葉に、今度は驚いたような、期待しているような顔をした。
「ああ、そうだった。店の誘いはついでだったんだ。なぁ、ウィナ、これ、なんだと思う?」
そう言いながら、俺はポケットから小さな箱を出してウィナに渡した。
ウィナはそれを受け取って、開けていい?と訊いてきたので、どうぞどうぞ、と俺は促す。
「………………これは…………指…………輪……?」
「なぁ…………ウィナ…………」
中に入っていた指輪に驚いているウィナに、俺はニッコリと笑いながら告白する。
「俺と…………結婚してくれないか?」
…………ずっと、言いたかった。
でも、準備に時間がかかって、今まで言えなかった。
……ウィナの顔には………… 恐怖があった。
嘘かもしれない。冗談かもしれない。
そう思っていて、恐怖で動けないでいる。
そんな彼女を、俺はそっと抱きしめた。
「今まで、ゴメン。気付かない振りしたりして、ゴメン…………」
「…………嘘じゃない……?…………冗談じゃない………………?」
「ああ。俺は本気だ」
「…………夢じゃない…………?」
「それは………………分からない…………ってちょっと待った!!冗談だって!!夢じゃない!!夢じゃないよ!!」
そう答えた途端、ウィナが泣きそうになったので、慌てて言い直す。
そして、本当だと、夢じゃないと分かり、安心し、落ち着いたところで、俺は改めてウィナに訊く。
「それで、どうなんだ?俺と、結婚してくれるのか?」
「…………うん。する。むしろ、こっちからお願いする」
「ああ、よかった…………本当に…………よかった…………!!」
「…………ねぇ、ヴァン………………」
安心して脱力してると、頬を赤らめたウィナが、俺の服の袖を引っ張ってきた。
「うん?なんだ?」
「…………ゴメン…………もう…………我慢出来ないっ!!」
「へ?何が?ってのわっ!?」
………………そうだった。ウィナって、魔物だったっけ………………
………………どうやら、今日という日の夜は、長くなりそうだった………………
××××××××××××××××××××××××××××××
ある日突然、ラインと言う街に有名な鍛冶屋が出てきた。
そこの商品はみな品質が良く、わざわざ遠くから客が足を運んでくるほどだ。
そして、その鍛冶屋には夫婦と一人の娘がいて、とても幸せそうに暮らしているという………………
<TheEnd>
その音を聞いて、俺ことヴァン・レギンスは、そろそろ扉を替えた方がいいかな……と思いながら、小屋の中に入る。
まぁ、そんなこと考えてはいても、俺の家じゃないから意味ないんだけど。
「……………………いらっしゃい…………」
控えめな声で、この小屋の主が挨拶をする。
「…………また来たのね、ヴァン……」
「そう言うなよ。一ヶ月ぶりじゃないか」
「…………そうね。…………でも、あなた、必ず一ヶ月に一度はここに来るから…………」
「なんだ?客が何度も来るのは迷惑か?」
「…………そうじゃないけど…………我慢するのが…………」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもない…………」
ムスッとしながらも、彼女は椅子を出して俺に勧めるので、ありがたく使わせてもらう。
…………彼女の名前はウィナ。こんな山奥の小屋で、鍛冶屋をやっているという変わり者だ。
そして、俺はそんな彼女の作った武器を使っていて、定期的に武器のメンテナンスをしてもらっているのだ。
「…………で、今日も武器のメンテナンスなの……?」
「ああ。頼むよ」
やはり、付き合いが長いと話しが早くて助かる。
俺は腰に下げていた剣を鞘ごと抜いて、ウィナに渡す。
受け取ったウィナは、すぐに剣を抜いて、様子を見た。
「………………毎回思うんだけど、いったい、どんな使い方をすればこんなに刀身が削れるのかしら………………」
「いやぁ、俺、仕事熱心だからね。ギルドで結構な量の依頼こなしてるからな…………それも、金額のいい護衛ばっかだし」
「…………はぁ、一応研いではおくけど、そろそろ買い直した方がいいわ…………消耗が激しいから、いつ折れてもおかしくない…………」
「じゃあ、また新しいの頼んでいいか?お前の武器は丈夫だし、質がいいからな!!」
「いいけど…………時間がかかるわよ?」
「構わないさ。それまではこいつで頑張るから」
「……………………はぁ…………だからこれは消耗が激しいから…………」
「分かってる。でも俺はお前の武器でしか満足出来ないんだよ」
それほど、彼女の武器は質がいいのだ。
だから、ここには結構な数の人が訪れ、武器を買っていく。
…………まぁ、俺みたいにメンテナンスまで頼むやつは、俺以外にはいないらしいが。
「………………分かったわ…………努力はする………………狡いわよ…………そんなこと言われたら、他の使えなんて言えないじゃない………………」
「はっはっはー!!なんだ、照れてるのか?」
「…………うるさい…………」
顔を朱に染めながら、彼女は砥石を出して剣を研ぎ始める。
「…………で、店の調子はどうなんだ?」
「……別に、普通よ…………まぁ、最近はお客さんも増えてきてるけど…………」
「そっか。そりゃよかった」
シャッ、シャッと、金属の擦れる音を聞きながら、俺達は雑談し始める。
ウィナももう手馴れたもので、話しながらでも失敗することはまずない。
「………………でも、変…………私は宣伝なんてしてないのに、自然とお客さんは集まってきてる…………やっぱり、ヴァンが宣伝してる…………?」
「うんにゃ。やってねぇよ?ただ、やっぱりお前の武器が凄いからか、周りの奴らからこれが誰の作品か訊いてくるんだよ」
「…………そう。ちょっと嬉しい…………」
たしかに、鍛冶屋としては自分の武器を褒められて、名前が広がっていくのは嬉しいんだろうからな…………
うん。みんなに宣伝しといてよかった。
「そりゃよかったな。俺もお前の初めての客として嬉しく思うぜ」
「…………ありがとう…………」
そう、俺はこいつの初めての客なのだ。
たしか、初めて出会ったのは、1年前くらいだったろうか…………?
まだ駆け出しだった俺が、この山でヘタ打って倒れたところを、彼女が拾って助けてくれたのが俺達の出逢いだった。
その時に、俺は彼女の打った剣を見て、気に入り、売ってもらったのだ。
その剣が、今彼女が砥いでいる剣であり、俺の相棒である。
「…………ところでさ、お前、まだ結婚しないのか?」
「………………え………………?」
不意に俺が訊くと、ウィナは剣を研ぐ手を止めて、顔を上げた。
「…………なんで、そんなこと突然訊くの…………?」
「いや、店の方も安定してきてるし、するならそろそろかなぁ、と思ってな」
「…………私が結婚なんて、ありえないわよ…………」
「え?そうか?お前美人だし、告白とかされてんじゃないか?」
「…………告白?誰が私なんかに…………だって私、こんな姿なんだよ?…………醜いんだよ…………?」
そう言って彼女は自分を見る。
豊満な体。
一本の角。
青い肌。
一つだけの目。
そう、彼女は……サイクロプスだった。
…………たしかに、一つ目というのは普通の人であれば怖いかもしれない。
でも…………
「その姿のどこが醜いんだよ?少なくとも俺から見たらお前は十分美人だぜ?第一、醜いっつったら、人間の方がよっぽど醜いぜ?だから気にすんなよ」
「………………………………ありがとう…………」
「いやいや、本当のことを言ったまでだ。…………で、結局結婚はするんかい?」
「…………結婚…………したいけど、多分無理。好きな人いるんだけど、全く相手にされてないっぽいから…………」
「ほう…………そいつは驚きだな…………こいつを相手にしないなんて…………よし、どこのどいつだ?そいつの顔を拝んでやろう」
「…………………………馬鹿………………」
「ん?なんか言ったか?」
「…………なんでもない…………」
ムスッとして、ウィナは剣を研ぐ作業を再開した。
「ウィナ、どうしたんだ?」
「……………………………………」
「おーい、ウィナ〜?」
「……………………………………」
声をかけても全然反応してくれない。
何か機嫌悪くするようなこと言ったかな……?
まぁ、そんな感じで、何も喋らないままウィナは剣を研ぎ続けていた…………
××××××××××××××××××××××××××××××
「……………………終わったわ」
そう言って、ウィナは研ぎ終えた剣を俺に見せる。
それは、まるで新品のようにキラキラしていた。
…………流石…………俺が自分でやったんじゃ、こうはいかないな…………
「おう。サンキュー。じゃあ、これ代金な」
代金を渡し、俺は剣を受け取った。
不意に外を見てみると、すでに空は暗くなり始めていた。
「っと、もうこんなに時間になってるのか……やっぱり時間かかるからな…………」
「…………それはあなたがいつも午後に来るから。…………午前中に来てくれれば、もっと早くに終わる」
「いやだって午前には仕事を入れてるから…………」
「…………どうする?今日は…………泊まる?」
「いや、折角だが、遠慮するよ。もう宿取ってるから。そっち使わないともったいないだろ?」
「………………………………………………ほら、やっぱり………………いつもそう……………………」
そう小さく呟いて、彼女は俯いてしまった。
「………………………………悪いな。あとちっとだから、もうちっとだけ、我慢してくれ…………」
「え…………………………?」
「そんじゃ、またな!!」
驚いたように顔を上げた彼女に俺はそう言って小屋を出た。
××××××××××××××××××××××××××××××
三ヶ月後…………
××××××××××××××××××××××××××××××
「…………今日も、メンテナンスでいいのね?」
「ああ。頼んだぜ」
いつものように言って、俺は剣をウィナに渡し、ウィナはそれを研ぎ始めた。
いつもと同じ流れ。
ただし、今日はいつもとちょっと違う。
…………準備が、整ったのだ。
剣を砥いでいる彼女の顔を見ながら、俺は深呼吸をして、そして、言った。
「なぁ、ウィナ。お前、店を街に移す気ないか?」
「…………何を突然………………?」
訝しげな顔をしながら、彼女は俺の方を見た。
「いやさ、客も結構な数になってきてるみたいだし、そろそろ街とかそういう交流のいいところでやってもいいんじゃないかな、と思ってな」
「…………別に、今のままで構わない…………それに、街に店なんて開けない。土地がないから…………」
「それが、あるんだなぁ」
「…………え?」
俺の言葉に、ウィナはキョトンとした顔をした。
「いやな、頑張ってギルドで稼いで買ったんだ。結構人の通りもいいし、今より客も来やすそうだから、ウィナの新しい店にどうかな、と思ってさ」
「…………そんなの、余計なお世話…………」
「まぁな。でも、そこってギルドから近くて、毎日そこに通えるんだよ。俺もお前と一緒に住みたいから、そこで店をやってもらえると、嬉しいだがなぁ……?」
「え…………今、なんて…………?」
俺の言葉に、今度は驚いたような、期待しているような顔をした。
「ああ、そうだった。店の誘いはついでだったんだ。なぁ、ウィナ、これ、なんだと思う?」
そう言いながら、俺はポケットから小さな箱を出してウィナに渡した。
ウィナはそれを受け取って、開けていい?と訊いてきたので、どうぞどうぞ、と俺は促す。
「………………これは…………指…………輪……?」
「なぁ…………ウィナ…………」
中に入っていた指輪に驚いているウィナに、俺はニッコリと笑いながら告白する。
「俺と…………結婚してくれないか?」
…………ずっと、言いたかった。
でも、準備に時間がかかって、今まで言えなかった。
……ウィナの顔には………… 恐怖があった。
嘘かもしれない。冗談かもしれない。
そう思っていて、恐怖で動けないでいる。
そんな彼女を、俺はそっと抱きしめた。
「今まで、ゴメン。気付かない振りしたりして、ゴメン…………」
「…………嘘じゃない……?…………冗談じゃない………………?」
「ああ。俺は本気だ」
「…………夢じゃない…………?」
「それは………………分からない…………ってちょっと待った!!冗談だって!!夢じゃない!!夢じゃないよ!!」
そう答えた途端、ウィナが泣きそうになったので、慌てて言い直す。
そして、本当だと、夢じゃないと分かり、安心し、落ち着いたところで、俺は改めてウィナに訊く。
「それで、どうなんだ?俺と、結婚してくれるのか?」
「…………うん。する。むしろ、こっちからお願いする」
「ああ、よかった…………本当に…………よかった…………!!」
「…………ねぇ、ヴァン………………」
安心して脱力してると、頬を赤らめたウィナが、俺の服の袖を引っ張ってきた。
「うん?なんだ?」
「…………ゴメン…………もう…………我慢出来ないっ!!」
「へ?何が?ってのわっ!?」
………………そうだった。ウィナって、魔物だったっけ………………
………………どうやら、今日という日の夜は、長くなりそうだった………………
××××××××××××××××××××××××××××××
ある日突然、ラインと言う街に有名な鍛冶屋が出てきた。
そこの商品はみな品質が良く、わざわざ遠くから客が足を運んでくるほどだ。
そして、その鍛冶屋には夫婦と一人の娘がいて、とても幸せそうに暮らしているという………………
<TheEnd>
10/10/04 00:20更新 / 星村 空理