連載小説
[TOP][目次]
7:00〜8:30
「んじゃあな、星村!」
「うん、お疲れ様。頑張れ」

放課後になり、友人の一人が別れの挨拶を言いながら、部活に向かう。
僕も部活に所属しているため、早めに部室に向かわなきゃな。
途中で何人か友人に出会い、挨拶をしながら、部室である図書室に到着した。
僕の所属している部活は、文芸部。
なぜ部室が図書室なのかは……まぁ、本が読みやすいという部長の勝手な理由で交渉したからである。
なぜ、意見が通ったのかはわからない。
でも多分、部長お得意の脅……交渉手段のお陰なんだろう。

「おやおや?ほっしぃじゃないか。早いね!」
「ああ、部長。こんにちは」

部室に入ると、すでに我が部の部長様が原稿用紙に何か作品を書いていた。

「お疲れ様です。何か淹れてきましょうか?」
「うーん、そうだね。じゃあ紅茶お願い。いつものようにダージリンだよ?」
「わかってますよ。部長、好きですもんね」

部屋の隅っこの方に設置されている食器棚なんかがある場所(これも部長の交渉によって許可を得た)に行き、湯沸かし器のスイッチを入れ、紅茶を淹れる準備をする。

「そういえば、部長は今どんな作品を書いているんですか?」

お湯を沸かしてる間は暇なので、先程から先輩が書いている原稿用紙の内容について訪ねてみた。

「うーんとねぇ、沢山の物語が集まる話……かな?」
「なんなんですかそれ」

いつものように理解の難しい部長のテーマが出てきたため、僕は部長に説明を求める。

「例えばさ、ほっしぃが作った物語があるじゃん?あの物語の登場人物が、その物語に組み込まれて、また出てくる……みたいな感じかな?」
「……ようするに、○撃学園RPGみたいなものですか」
「それよりももっと凄いよ〜。その子達の物語だけじゃない。未来だって書けるんだからね」

ニコニコしながら、部長は言う。
ほんと、この先輩は物語について話したりするのが好きだよな……

「違うよ〜。ほっしぃと話すのが楽しいんだよ〜」
「そうですか」

この人の読心術に関してはいつものことなのでスルー。
そして、お湯が湧いたため、話を続けながら紅茶を淹れる。
どんな人物が出るのか、どんな場所が舞台なのか、どんな世界なのか……
様々な話をしているうちに、紅茶が出来たため、僕と部長、二人分カップに注ぐ。

「ん〜美味しい!さっすがほっしぃ!普通の喫茶店で飲むものよりも美味しいよ!」
「ははは……ありがとうございます」
「お、星村か。今日も早いな」
「やほー。お、星村君に部長。やっぱ二人が先だったか」

紅茶を飲み始めてすぐに、他の部員達も徐々に集まってきた。
部長は、けい○ん!よろしくお茶でも飲もう!と言い出したので、僕は皆に紅茶を振る舞い、誰かが持ってきたお菓子を皆で食べる。
ああ、ここは、とても幸せだ。
でも、僕は知ってる。
今僕は、ここにはいない。
いないどころか、もう、戻れない。
もう二度と、こんな日は、こない……


××××××××××××××××××××××××××××××


「……ん……?……夢、か……」

目を覚まして、僕はさっきの記憶が夢であったことを知った。
まぁ、あれは過去の記憶だったし、夢なのははじめの方から気がついていたけど……
なんて、そんなことを考えながら周りを見てみると、ベットに美核が上半身を乗せて寝ていることに気がついた。
どうやら、僕の様子を見に来て、そのまま寝てしまったらしい。

「………………」

これは……滅多にない機会かもしれない。
美核は基本、僕より早く起きている。
そのため、こんなふうに美核が寝ている姿を見たのは初めてだ。
気になって、前に垂れて顔を隠していた髪をどかして、僕は美核の寝顔を見る。
すやすやと、無防備な寝顔が可愛くて、くすりと笑いながら、僕はそっと美核の頭の上に手を置き、撫で始めた。
キスとか、抱きついたりとか、そういうのは、まだ僕からは怖くて出来ないけど……
せめてこれくらいは、僕を好きになってくれた彼女に、してあげたかった。
恋人とか、そんな風には見えないだろうけど、それが今の僕の、精一杯表せる愛情表現だ。

「……う、ん……?」
「あ、美核、起きた?」

しばらく撫で続けていると、ピクリ、と耳が動いて、美核が起き始めたことが分かった。
未だに頭の上に手を置きながら、僕は寝たままボンヤリと目を開けた美核に話しかける。

「あ……れ……くうり……?」
「おはよう、美核。ありがとね、ずっと診てくれてて」
「うん……だいじょうぶだよ……」

もそり、と美核が体を起こし始めたため、僕はスッ、と頭から手を引く。
と、寝ぼけ眼なままで、美核はさっき僕が手を乗せてた部分をさすり始めた。

「ぁ……くうり、てぇ、おいてた?」
「あ、嫌だったかな?」
「ん……きもちよかったから、なんだったかとおもった……」
「そっか」

……どうやら、まだ夢の中だとおもっているか、まともに状況を認識していないらしい。
でなければ、こんな別方向に可愛いリアクションを美核がするはずがない。

「さて、じゃあ僕は先に下に降りているよ。……今日は僕が朝食作るから、美核もなるべく早く降りて来てね」
「ぅん。わかった……」

そう言って、僕は少し美核をどかしてベットから出て、ドアへ向かい、部屋を出る。
そして、扉を閉める前に美核の様子を見てみると、またポテッ、と頭を布団の上に乗せて、寝始めてしまっていた。
かわいいな、と思いながら僕はくすりと小さく笑って、扉を閉める。
さてと、じゃあ、美核が起きて来る前に、何か朝食、作っちゃおうか。
……ちなみにその後、美核が僕の部屋でうにゃー!という正体不明の叫びをあげたことは……まぁ、言うまでもないかな?


××××××××××××××××××××××××××××××


「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」

朝食を食べ終えて、僕は食器を洗い始める。
と、あんなことがあったからか、まだ顔が赤いままの美核が話しかけてくる。

「……にしても、珍しいわね、空理が朝食を作るなんて……」
「まぁ、昨日は看病してもらったからね。美核、疲れたかなって思って、下手なりに頑張って作ってみたんだよ。うーん、言うなら、看病のお礼……ってところかな?いや、あんまり上手じゃないからお礼になってないかもしれないけど……」
「いやまぁ、そこそこ美味しかったから、十分よ。……それに、朝のアレがもう十分過ぎるくらいのお礼だし……」
「ん?なんか言った?」
「う、ううん!!なにも言ってない!」
「そか」

ピッピッ!と食器を洗い終わった僕は手についた水を切ってから、タオルで拭いて、美核と対面する形で椅子に座る。

「で、なんだけど、このあと一緒に出掛けない?朝食じゃあ足りないだろうから、看病のお礼に何か好きなものを買ってあげるよ」
「行く!!」

誘うと、ガタッ!と立ち上がりながら、美核は勢いよく答える。
……いや、嬉しそうに答えるのはわかってたけど、まさかここまでとは……
……うん。ちょいちょい出かけに誘ってあげようかな、と、自分がいかに美核になにもしていなかったか反省しながら、僕は着替えをしに自室に戻った。
着替え終わって、下に降りると、僕の姿を見た美核が、驚愕の表情を浮かべていた。

「……どうしたの?」
「……空理が、店の制服以外の服をきてる……!?」
「いや、僕だって私服くらい着るよ……」
「だ、だって、休みでも、どこに行くにしても、ずっと制服着てたし……まさか私服持ってたなんて……気がつきもしなかったわよ……」
「あー、そういえば、そうだったね」
「あ、ちょっと待ってて!私も着替えて来る!!」
「そんなに急がなくても大丈夫だよ〜」

そういえば、楽だから制服着て、ほとんど私服着たことないよな……
などと気づくと、美核も大急ぎで私室に着替えに戻っていくので、急がなくてもいいと伝えた。
……けど、たぶん焦ってて聞こえてないだろうな……
一緒に出かけるだけなのに、あんなに慌てる美核に苦笑をしながら僕は内心、かわいいなぁ、なんて思うのだった。
やっぱり、好きな人と一緒に出かけられて、かつその人が喜んでくれるというのは、嬉しいものだ。
……そしてその後、気合の入った柄の着物を着た美核が出てきて、僕達は一緒に街をブラブラと回るのだった……
11/05/10 18:09更新 / 星村 空理
戻る 次へ

■作者メッセージ
さて、始まりました、アーネンエルベ番外編!
星村×美核!
デート回!
ひゃっほう!
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
……じつはこの作品、読み切りで書こうと思ったのですが、書き終わるのが少し遅くなりそうなので連載にさせていただきました。
今回はまだ始まりだけの話となっております。
これからどうなっていくのか、楽しみに思っていただけたらなぁ、と思っております。
次回は美核の寄りたいお店の話をやります。
完成はしているので、仕上げて明日に投稿させていただきます。
では、今回はここで。
感想を下さると嬉しいです。
星村でした。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33