連載小説
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サンドイッチ
目が覚める。
着替える。
下に降りる。
朝食が出来る前に店のテーブルを……

「あ……」

拭こうとして、僕は今日が休みであることに気がついた。
そういえば、マスターがいないから、約一週間は休みなんだよな……
しかし、平日に仕事がないと調子が狂うな……
ということで、僕はそのままテーブルを拭くことにしたのだった。
……?
テーブルを拭きながら、僕はふと気がつく。
テーブルが二台ほど、他のものより綺麗な気がしたのだ。
そう、まるで誰かが先に拭いたように……

「あ、空理。おはよう」

?と疑問符を浮かべながらテーブルを見ていると、店のキッチン兼ダイニングである部屋から、美核が出て来て挨拶をした。
そして、それを見て僕はすぐにテーブルが綺麗だった理由を悟った。

「おはよう美核。……君も、癖で拭いちゃったんだね……」
「あ〜、うん。どうも平日はねぇ……定休日じゃないから、無意識でやっちゃったのよ……」
「僕も同じようなもんだよ」

二人とも同じような行動をしていたらしく、同時に苦笑いをした。

「……あ、そうだ。朝食まだなんだけど、何がいい?」
「そうだね……じゃあ、いつもの卵で。その間に僕は掃除して、紅茶でも淹れようかな?」
「うん。お願い」

そう言って、美核はキッチンに戻る。
ちなみに、ここの朝食は基本的にサンドイッチにしている。
BLTや卵など、そこそこなバリエーションがあり、店でも販売している。
ちなみに、お昼に食べる人も少なくない。
そこそこの人気商品だ。
僕が好きなのは卵。
茹で卵を潰し、少なめのマヨネーズで和えて塩胡椒で軽く味付けしたものを食パンで挟めば完成するので、お手軽で美味しい。
ちなみに、この店でサンドイッチに使うパンは、食パンとフランスパンの二種類だ。
……そういえば、この世界ではフランスパンって言わなかったっけな……
なんて言ったっけ……?最初に僕がフランスパンと言ったら、何それとか言われて、名前教えてもらったんだけどな……
なんだっけかなぁ……

「……あら、星村。おはよう」
「あ、おはようございます、リースさん。今日は早いですね何かあるんですか?」

名前を思い出そうと四苦八苦していたところに、リースさんがやってきた。
いつもならもっと遅くに、時間でいうならあと一時間くらい後に起きてくるのだが、今日は一時間も早く起きている。
不思議に思った僕は、もちろんなぜか訊く。

「ええまぁ、今日はお客さんがね」
「……ああ、ジルさんですか。なら納得ですね……あ、美核が朝食作ってるんですけど、食べます?」
「いただくわ。……それと、お客さんはジルじゃないわ。……といっても、ジルがこないわけでもないけど」
「??どういうことですか?」
「まぁ、あの子が来たら分かるわよ」

と、リースさんが言ったちょうどその時に、トントンッ、と、店の扉がノックされた。
誰だろう、と思って扉の前まで行くと、そこにはジルさんが立っていた。

「ああ、ジルさん。いらっしゃい。リースさんは今さっき起きたところですよ。……どうぞ」
「……すまないな。邪魔する」
「……お、お邪魔するわ……」

ジルさんに挨拶をしながら扉を開けると、一緒に女の子まで入ってきた。
色の抜けた白髪に、毒々しい、しかし蠱惑的に人の欲情を誘う肌、瞳の色は朱色で、体型は小さいが、バランスが取れている。
黒い翼を持ち、肌の色と同じ、天使のような輪を頭の上に浮かばせている。
もちろん、顔は可愛らしいことこの上ない。
……なるほど、Dエンジェルか……

「おや?彼女はジルさんの……」
「……違うぞ。彼女はリースの客……友人だ」
「おや、そうでしたか。それは失礼」

わかっていながらも、僕はそう言ってジルさん達をからかう。
しかし、ジルさんは全く動じず、Dエンさんの方が、え、いや違……と、あたふたしている。

「初めましてお嬢さん。僕は星村 空理。よろしくね」
「え、ええ。私はジェミニ。ポルクス・ジェミニよ。よ、よろしく……」

ジェミニ……確か、双子座を示す名前、だったっけな……
というか、魔物、特にDエンと言うには……

「?意外に人見知りだね?」
「……ああ、星村、彼女はあまり人に慣れていないんだ」
「なるほど……あ、そうだ。今から朝食なんだけど、食べる?」
「……ああ、いただこう。……そういえば、今日は店が休みなんだな?」
「うん。マスターがいないからね……あ、美核〜、朝食は5人分でね〜!!」
「分かってるわよ!」

僕がキッチンに向かってそう言うと、まぁ、部屋が近いから当然であるが、三人が来たことを知っていたようで、美核はすぐに返事をした。
……にしても、なぜか聞こえてきた美核の声は不機嫌そうだった。
まぁ、だいたい理由は分かるけど。
……ともかく、掃除は終わったし、紅茶でも淹れますか……

「ほら、三人とも奥に入って。美核が朝食作ってくれてるから」
「わかったわ」
「了解した」
「ええ、お邪魔するわね……」

三人をダイニングに通しながら、僕は美核の隣に行って紅茶の準備をする。

「……あ、空理。それ取って」
「ん。了解。これだね?」
「……ねぇ、リース。あの二人って、夫婦かなにかなの?」
「「なっ!?」」

ジェミニさんのその一言のせいで、僕と美核は大いに動揺した。

「ちっ、違う違う!!空理とはそんなんじゃないって。ただの仕事仲間!」
「そうだよ、ジェミニさん失礼じゃないか」
「あら、星村、それはどちらに、かしら?」
「魔法の言葉、“黙秘権”!!」
「「「「なにそれ?」」」」
「………………」

そうだった、ここ、日本じゃなかった……
どうしよう、どうリースさんに答えれば……
と、思ってると、美核が上手くこの質問をないことにした。

「と、ともかく、朝食が出来たわよ。食べましょう」
「そ、そうだね。早く食べよう!三人もお腹減ってるでしょ?」
「……まぁ、そうだが……」
「……誤魔化したわね」
「うん。私もそう思うわ」

三人がジト目でこちらを見てくるので、僕達は苦笑いしながらサンドイッチと紅茶をテーブルの上に並べる。

「じゃあ、いただきます」
「「「「いただきます」」」」

とりあえず、魔女と天使の二人がいろいろと訊きたそうだけどそれを無視して僕達は朝食を食べ始めた。

「む……これは……店のメニューにあるサンドイッチか?」
「うん。そうそう。だいたいのここの食事はメニューと同じものよ。朝だけはほとんどがサンドイッチね。昼と夜は時によって違うけど」
「うん。ちなみに、食事はたいていマスターに教わりながら美核が作るよ。料理スキルの向上が理由ね」
「……それよりも、リース、その子……ジェミニさんはあなたのお客人らしいけど、いったいどんな用事でここに?」
「うーん、なんて言うか……健康診断……みたいなものかしら?または、経過観察ね」
「?どういうことですか?」
「この子、じつは私が無理矢理ダークエンジェルに堕としたのよ。ちょっと魔力を定着させる薬を飲ませてね。予想なら、エンジェルのまま魔力が安定したはずなんだけど、思ったより薬の効果が大きくて……なにか問題はないか、月一で検診するようにしたのよ。今後の参考のためにもね」
「なるほど」

たしかに、もとがエンジェルで、無理にDエンに堕とされたのなら、あの性格も少しは納得いくようになる。
たぶん、体の変化だけが先行してしまって、精神的な変化が追いついていないのだろう。
というか、リースさん、あんた、なんて危険な薬をこの子に使ってるんだよ……
まぁ、事情があるんだろうけどさ……

「まぁ、いつ訊いても同じだし、今訊いちゃいましょう。で、どうかしら、ジェミニ。なにか問題はない?」
「そうね……体の方は大丈夫ね。なんの異変もないわ。精神面も……大丈夫なんだけど、ただ、この年中お花畑状態は嫌になるわね……」
「それはダークエンジェルなら仕方がないことよ。いつかは慣れるわ」
「……これを慣れる、というのも、恐ろしいわね……」
「……?なんなんですか?そのお花畑状態って……?」

妙に気になって訊いてみると、周りの空気が凍ったような感覚がした。
え?なにか変なことを訊いちゃった?

「……星村さん、流石にそれは恥ずかしくて答えられませんよ……」
「……流石に、そこは察しなさいよ、星村……」
「……今の質問は、するべきではなかったな……」
「…………バカ……」

え?え?本当になに?
なぜか、みんなが僕のことを残念な子を見るかのような顔をして見てくる。
……なんだろう、悲しくなってきたよ……

「……まぁいいわ。空理、紅茶お代わり頂戴」
「……了解しました……皆さんはどうですか?」
「そうね、いただくわ」
「……俺もいただこう」
「じゃ、じゃあ、私も……」

美核が紅茶のお代わりを頼んだので、僕はポットを持ち、全員にお代わりはどうか訊く。
全員カップの中は空だったので、お代わりを頼まれて、僕は自分のを含めた全てのカップに紅茶のお代わりを入れる。
そして、さっきの空気を払拭するために、話題を変えることにした。

「そういえば、ジェミニさんはいつからここに?」
「えと……二週間くらい前ですね。今は孤児院の方で働いていて、住む場所なんかはそこでお世話になってます」
「へぇ、孤児院っていうと、昨日来た……名前は……そうそう、ククリスさん。彼のところ?」
「はい。というより、ここにはククリスさんのところしか、孤児院はないです」
「そうなんですか……そういえば、ククリスさんとあなた以外に孤児院にいるのは?」
「あとは……子供達だけです。孤児院にいる大人は、実質私とククリスさんだけですからね……」
「ほうほう……それは大変ですね……」

ふむふむ……となると、ククリスさんは墓参りにいってるから、孤児院にはジェミニさんしか大人はいないのか……
そしたら……

「ねぇ、美核。この後さ、ジェミニさんのところを手伝いにいかない?」
「いいわね、それ。ジェミニさん、いいかしら?」
「え?ええ。大丈夫ですが……お店の方はいいんですか?」
「うん。平気。今日は休みだし、特にやることもないから」
「そうなんですか……じゃあ、お願いします」
「「任せて!!」」

ジェミニさんの言葉に、僕と美核は同時に答えた。

「……ふむ、ククの孤児院か……俺もついていこう。“鬼ごっこ”もやるんだろう?」
「ええ。やるわ。……そういえば、ジルさんはククリスさんと知り合いなのかしら?」
「……ああ。あいつは同じ孤児院で過ごした……そう、家族だな。あいつのやってる……いや、この場合は継いだ、だな……孤児院なら、あの時と同じようなシステムでも不思議じゃない」
「……?どういう意味?」
「……いや、気にするな。それより、明日は楽しみだな。久しぶりにあの雰囲気を感じることが出来るのか……」
「…………?」

ジルさんは、子供とか好きなのかな?
などと思いながら皿に手を伸ばしてみると、もうサンドイッチがないことに気がついた。
僕の様子を見て、美核もそれに気がつく。

「あ、もうなくなっちゃったんだ?どうする?追加したいならまた作るけど?」
「僕はいいや。結構食べたし。ジルさん達は?」
「俺ももういいな。十分食べた」
「私も、お腹いっぱいよ」
「私も。これ以上は食べられないわ」
「そう。じゃあ、片付けましょうか」
「ん。じゃあ手伝うよ」

僕と美核が、皿を集めて流しまで運び、洗い始める。
まぁ、流石に皿洗いは店の仕事で慣れているため、すぐにそれは終わった。

「さて、お待たせ。じゃあ、行こっか」
「そうね。案内、お願いしてもいい、ジェミニさん?」
「ええ。大丈夫ですよ」
「……ところで、リース、お前はどうするんだ?」
「私も行くわ。それより、ジル。明日は……分かってるわね?」
「……ああ。分かってる。明日から、だろ?」

僕達三人が店を出た時に、ジルさんとリースさんがそんな会話をしたのだが、そんなこと、僕と美核、そしてジェミニさんも、知る由は無かった。

……ちなみに、孤児院で過ごした次の日、疲れと筋肉痛で外に出ることが出来なかったことを、ここに記したいと思う。
11/01/26 21:51更新 / 星村 空理
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■作者メッセージ
さて、いかがだったでしょうか?
楽しんで読んでいただけたら幸いです。
やっとこちらを更新することが出来ました。
今回は、ジルとリースと、ジェミニのその後の話です。
そして、ちょっとだけフラグを立ててみました。
ええ。あの依頼のフラグです。
ちなみに、今回出てきた“鬼ごっこ”、ただの鬼ごっこじゃありません。
レベルで言うなら、普通の鬼ごっこよりも本気で、リアル鬼ごっこほどは酷くない、と言ったところでしょうか?
あ、読んでみたい方がいらっしゃるならば、言ってください。
拙い文章でもよろしければ、書かせてもらいます。
さて、次回は今回から二日後の話。タイトルはダージリン、です。
米粒一つよりも小さいエロを入れます。
そして、次回はこの街の領主の野郎も出したいと思います。
次回、星村の貞操はいかに?
楽しみに待っていただけたら、嬉しいです。
では、今回はここで。
以上、星村でした。

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