海色のお姫様
俺、『村上 賢吾(むらかみ けんご)』はしがないおっさんだ。
いや、年齢的には28なのでおっさんと言うと職場の先輩方から非常に嫌な視線を向けられるのだが。
とはいえ実際若いとは言えない年齢だし、おっさんとの中間をなんて言ったらいいか分からないので、アラサーだしもうおっさんですよ、で通している。
住んでいるのは寂れた港町。
昭和の頃は漁業でかなり栄えたらしいが、今となっては見る影もなく、一応は日本でもそれなりに名の知れた港町ではあるものの、寂れた田舎という印象は拭いきれない。
全国チェーンのスーパーやコンビニはそこそこあるものの、商店街だったところはシャッターが閉まっている店が多いし、開いている店も買い物に来ているんだか雑談に来ているんだかわからない常連さんによってなんとか生きながらえているというのが実際のところだろう。
それでも、俺はこの町が嫌いではなかった。
一度都会に出てはみたものの、あの人の多さや体感時間の過密さは正直相容れない。
時間がゆっくり流れる、なんて言えるほど田舎というわけではないが、山があり、海があり、夜になれば月が昇り星が広がる、そんな当たり前の光景があるというのが、俺にとっては大事だったらしい。
それに、言ってしまえばこのご時世、田舎だから手に入らない物なんて殆ど無い。
欲しい物があるなら通販で買えるわけだし、文化だってテレビやインターネットですぐに伝わる。
魔物娘の事もいい例だ。少し前までは遠く離れた都会の話だったのは否めない、だというのに今やこんな田舎でも偏見は少なくなってきている。
都会ほど多くはないが、魔物娘と付き合っているとか結婚したとか、そんな話も最近は聞こえるようになってきた。
まあ、未だに地方新聞で取り上げられる程の珍しさではあるのだが。
さて、そんな田舎者の俺には変な趣味がある。
ネットを見ているとそこまで変ではないのかもしれない、と思うのだが、世間一般的に変だと思われるであろうことは自覚している。
いわゆる、深夜徘徊と言うやつである。
深夜も0時を回ると、この町では開いている店はコンビニくらいのものになる。
一応開いているスナックなんかもあるにはあるが、そういうのはある程度決まった場所に集まっているので、そっちに行かなければこの時間はほぼほぼ暗い闇に包まれる。
そんな闇の中を時にゆっくりと歩く。誰もいない、蛙や虫の声が聞えることはあるが、あとはなにもない。
上を見れば星の海。そしてそこに浮かぶ月。
今日は満月。やけに大きく見える満月の光は結構明るさがあり、月の近くにある星はかなり見難いか、もはや見えなくなってしまっている。
今日はなんとなしに海の方へ向けて歩いてきてしまった。
普段は夜の海には近づかない、万が一何かがあった時に取り返しがつかないからだ。だというのにふらふらと、まるで何かに導かれるかのように、しかしその自覚なく、俺の足は小さな漁港になっているところへと向かっていた。
湾になっているから波は穏やかなものだ、ちゃぷんちゃぷん、と緩やかな波の音が耳に届く。
月光のおかげで足元が見えないなんてことはなく、海に落ちたらそんときゃそんとき、なんてわけの分からない開き直りの心持ちで、漁港の防波堤を先に向かって歩いて行く。
昼間であれば数人釣り人もいたのかもしれない。打ち捨てられ、干からびたヒトデが防波堤の端の方で地上の星と化している。
その星を不敬にもつま先で蹴飛ばして海へと意味なく戻してやった時、俺は防波堤の一番先に立つそれに気づいた。
それを一目見た時に思ったのは、空と海だった。
ヒラヒラとしたドレスのようなヒレ?は深い青色、そしてその縁を始めとして彩る黄色い筋や丸い模様。
その青色はまるで夜明け前の少しだけ明るくなった空のようで、であればそれを彩る黄色は取り残され消え行く星か、はたまた明けの明星の輝きか。
そしてその夜明け空のドレスの内側に湛えられているのは、ドレスよりも幾分か淡い蒼色をした半分人型の、しかし人ではない姿。
月光を受けてぬらりと光るその蒼色はまさに海のようで、女性の姿をしていることもあって、母なる海という言葉を連想させた。
彼女はこちらに向かって立っていて、明らかに俺を認識している風だった。
だというのに特にアクションを起こさず、こちらを見据えたままなことに、思わず困惑してしまう。
魔物娘というのは非常に積極的で、魔物娘側から襲い掛かってくるのが常だと聞いていたからだ。
「……大人しい、んだな」
何かを言おうとして、なんとかそれだけを口にする。
神秘的にも思えるその雰囲気に、なんだか言葉を発することが躊躇われたからだ。
それでも、胸の奥、これが本能というものなのだろうか。抗いようのない何かが、確かに彼女を求めていた。
「……」
彼女は俺の声が聞こえてるのか聞こえていないのか、ただ頭の触覚をピコピコと動かしながら俺の方を見つめているだけ。
それでも前髪に隠れて見えないその瞳に見つめられているだけで、体の奥から熱が湧いてくるようだった。
「……おいで♥」
どこかぼおっとした表情だった彼女の顔が、柔らかな笑みに変わると同時、そんな言葉をかけられた。
なんのアクションも起こしていなかった彼女がゆっくりと腕を広げる。
もちろん、俺を迎え入れるために、だ。
頭の片隅で、理性と常識が警鐘を鳴らしていた。
このまま誘いに乗ってしまえば、もはや逃げることはできないのだ、と。
――右足が、前に
一時の快楽を求めて、今後のことは考えているのか、と。
――左足が、前に
結ばれたとして、今の安月給な仕事でどうするのだ、と。
――右足を、前に。
知ったことか、と本能が警鐘を殴り飛ばす頃には、彼女の姿はもう目の前だった。
空色のドレスと、海色の彼女。そんなアオ色に飛び込んだ俺の行動は果たして、投身だったのか、入水だったのか。
そんな問いはもう、彼女に包まれる感触で全て上書きされてしまったのだった。
全身が彼女に包まれている。
ゼリーとも綿菓子ともつかない柔らかな感触、少しだけひんやりとした感覚、比喩的表現ではなく、文字通り彼女そのものに沈み込み、包み込まれている。
それはもはや抗えぬ安堵であり、忘れ得ぬ快楽に他ならない。
そうやって彼女に包まれたまま、ゆっくりと防波堤に体を横たえられた。
もちろん俺と彼女は一瞬たりとも離れることはない。
その動きの中で、前髪の隙間から彼女の瞳が少しだけ見えた。今日の満月と同じ、黄金色の瞳が。
しかしながらその瞳にはまだ少しだけ、迷いのようなものがあるようにも見えた。
さっきまでの態度といい、きっと彼女は魔物娘の中でも大人しい部類なんだろうと思う。あとで調べてみないと。
だから今度は俺が、彼女を受け入れることにした。
受け入れてもらっておいて受け入れないなどと、そんな馬鹿な話はないのだから。
「おいで」
腕は広げるまでもなく密着していたので、その片方を少し上げて、彼女の頬に手を添えた。
自然と笑みがこぼれた。それは受け入れてくれてありがとう、でもあり、君は俺が受け入れるよ、でもあり。
それが呼び水になったように、彼女は今度こそ満面の笑みを浮かべて、飛び込むようにキスをしてくれた。
言葉を発するのはおろか、呼吸さえも煩わしい気持ちだった。
最初は触れる程度に彼女のプルプルとした唇を味わおうかと思っていたのだが、唇が触れるやいなや彼女の舌が俺の口内に伸びてきた。
となれば負けてはいられない。すぐに応戦とばかりに彼女の舌に舌を絡め合う。
俺を包み込む体表よりも少し熱を持ったその舌を、舐め、ねぶり、蹂躙するように。
彼女が俺の歯列を舌でなぞれば、俺も同じことを返した。
俺が彼女の舌を小刻みに吸えば、彼女も同じことを返した。
もうどれくらいディープキスだけで時間が過ぎたのか分からなくなる頃には、俺のモノはズボンの下でギチギチに膨らんでいた。
全身を沈み込ませている彼女がそれに気づかないはずもなく、キスを続けながら、いつの間にか俺のモノは彼女の手によって開放されていた。
キスをしながら、彼女が体をゆっくりと擦り付けるように動かし始めた。
ぬるりとした感触とともに、彼女の豊かな胸が俺の胸で押しつぶされ、擦り付けられる。その先端だけが、コリコリと硬い。
俺のモノに擦り付けられているのは、おそらく彼女の脚に当たる部分なのだろう。こっちもぬるぬるとした感触で、まるでソープでマットプレイをされているかのようだ。
「っ、ぐ」
「っは、ぁん♥」
二人のくぐもった声が脳に響く。
キスを続けたままだから、お互いの声がまるで口内で反響して脳に響くような、そんな不思議な感覚だ。
「っく、ごめん。これ以上は、結構……」
脚にこすりつけているだけだというのに、モノの根本、深いところに何かが集まるような、いわゆる射精感が高まってきた。
さすがに魔物娘相手とは言えこのまま出してしまうというのは、俺も、そして彼女も不本意だろう。
「わかっ、た」
彼女はそれだけ言うと、もぞもぞと体をくねらせ始める。
きっと俺のモノに彼女のアソコを合わせようとしているのだろうが、そんな動き一つにしても、出来る限り俺と密着する面積を減らしたくない、という思いが伝わってくるようだ。
やがて、くちゅり、という音が聞こえそうなくらい、濡れそぼった感触がモノに伝わってくる。
見なくても分かる、彼女のアソコだろう。
「じゃあ、いれ」
彼女が言いながら、モノの先を入り口にあてがう。
いれるね、と言いかけたその途中で、ちょっとした悪戯心が発露した俺は、ズン、と腰を突き上げた。
「る、ひぁっ!!♥♥」
高く澄んだ声が、夜の港に響く。
いきなり根本まで突っ込まれた彼女は、思わず上半身が離れてしまうほどに、体を逸らして快楽を噛み締めていた。
数瞬経って少しだけ恨みがましく俺を見つめるその瞳には、しかし抑えきれない情欲の色が浮かんでいる。
「……好きにして、いいよ?」
彼女はそれだけ言って、また俺の方へ体を預けてきた。
包み込まれながらのディープキスを再開した俺だったが、こんなことを言われて奮い立たないわけがない。
「んんっっっ!♥」
彼女の腰に腕を回し、尻に手を置く。
その手に力を込めて俺の方へ押さえつけるようにしながら、腰を突き上げる。
彼女の膣内はその体表からすれば驚くほどに熱く、そして体表以上に愛液でぬるぬるだった。
「んっ♥ んんっ♥」
狭い膣内をかき分けるように、一番奥めがけて突き上げる。
ディープキスをしながらそんな激しく動けば酸素が尽きるのは当然ではあるのだが、今はそんなことどうでも良かった。
只々彼女を味わいたかったし、彼女にも俺を味わってほしかった。
何重もの膣内の襞がモノを離すまいと吸いつくように擦り上げる。
特にカリに引っかかる時なんて、その一つ一つがしびれるほどの快感を脳に叩きつけてくる様だった。
そんなもの、長くもつわけがない。
「んっ♥ はっ、んっ、んん〜〜〜っっ♥♥」
もはや我慢はできないと自覚して、ラストスパートで更に激しく彼女の膣内を突き上げる。
彼女の喘ぎ声も呼応するように激しくなり、それが俺の脳を揺らして、目がチカチカするくらいの快感が襲ってくる。
彼女もそれで察したのだろう、物欲しそうな視線が、俺の視線と交錯した。
それを合図にしたかのように、俺は彼女の一番奥までモノを突き上げ、同時に自分でも驚くほどの精液を子宮に注ぎ込んだ。
「〜〜〜〜〜っっ♥♥♥」
彼女の方はと言えば、それと同時に自分もイったみたいで、軽くわけが分からなくなっていたのかもしれない。
絡めていた俺の舌は、それなりの力で彼女に噛まれてしまっていた。
もちろん痛い。痛いのだが、彼女がくれた痛みと思えば、それはもはや甘露と同義に思えた。
タンクが空っぽになるほど精液を出し尽くした頃、彼女もようやく我に返ったようで、オロオロした様子で俺を覗き込んでいた。
多分舌を噛んでしまったことに気づいたのだけど、かといって離れたくもなく、怒っていないかどうか探っている、といったところだろうか。
正直軽く口内に鉄の味がするあたり、小さく傷がついていると思われる。
なのでこの青いお姫様には、罰を受けてもらわなければならない。
「許して欲しい?」
「っ! っ!」
ブンブンと、ヘッドバンギングもかくやとばかりに首を縦に降る彼女の姿が、ひどく可愛い。
魔物娘を嫁にもらった人が総じて幸せそうにしている気持ちが、分かった気がした。
「じゃあそうだな。このまま朝まで、君に包まれて過ごしたい」
「え、ぁ、うんっ、もちろん♪」
跳ねるような楽しい声でそう答えた彼女を見て、安心やら疲れやらで俺の意識は眠りに落ちていった。
目が覚めれば色々と大変なことになりそうだが、まあなんとかなるだろう。
彼女に包まれているこの安らぎのためなら、なんだって頑張れる気がするのだから。
いや、年齢的には28なのでおっさんと言うと職場の先輩方から非常に嫌な視線を向けられるのだが。
とはいえ実際若いとは言えない年齢だし、おっさんとの中間をなんて言ったらいいか分からないので、アラサーだしもうおっさんですよ、で通している。
住んでいるのは寂れた港町。
昭和の頃は漁業でかなり栄えたらしいが、今となっては見る影もなく、一応は日本でもそれなりに名の知れた港町ではあるものの、寂れた田舎という印象は拭いきれない。
全国チェーンのスーパーやコンビニはそこそこあるものの、商店街だったところはシャッターが閉まっている店が多いし、開いている店も買い物に来ているんだか雑談に来ているんだかわからない常連さんによってなんとか生きながらえているというのが実際のところだろう。
それでも、俺はこの町が嫌いではなかった。
一度都会に出てはみたものの、あの人の多さや体感時間の過密さは正直相容れない。
時間がゆっくり流れる、なんて言えるほど田舎というわけではないが、山があり、海があり、夜になれば月が昇り星が広がる、そんな当たり前の光景があるというのが、俺にとっては大事だったらしい。
それに、言ってしまえばこのご時世、田舎だから手に入らない物なんて殆ど無い。
欲しい物があるなら通販で買えるわけだし、文化だってテレビやインターネットですぐに伝わる。
魔物娘の事もいい例だ。少し前までは遠く離れた都会の話だったのは否めない、だというのに今やこんな田舎でも偏見は少なくなってきている。
都会ほど多くはないが、魔物娘と付き合っているとか結婚したとか、そんな話も最近は聞こえるようになってきた。
まあ、未だに地方新聞で取り上げられる程の珍しさではあるのだが。
さて、そんな田舎者の俺には変な趣味がある。
ネットを見ているとそこまで変ではないのかもしれない、と思うのだが、世間一般的に変だと思われるであろうことは自覚している。
いわゆる、深夜徘徊と言うやつである。
深夜も0時を回ると、この町では開いている店はコンビニくらいのものになる。
一応開いているスナックなんかもあるにはあるが、そういうのはある程度決まった場所に集まっているので、そっちに行かなければこの時間はほぼほぼ暗い闇に包まれる。
そんな闇の中を時にゆっくりと歩く。誰もいない、蛙や虫の声が聞えることはあるが、あとはなにもない。
上を見れば星の海。そしてそこに浮かぶ月。
今日は満月。やけに大きく見える満月の光は結構明るさがあり、月の近くにある星はかなり見難いか、もはや見えなくなってしまっている。
今日はなんとなしに海の方へ向けて歩いてきてしまった。
普段は夜の海には近づかない、万が一何かがあった時に取り返しがつかないからだ。だというのにふらふらと、まるで何かに導かれるかのように、しかしその自覚なく、俺の足は小さな漁港になっているところへと向かっていた。
湾になっているから波は穏やかなものだ、ちゃぷんちゃぷん、と緩やかな波の音が耳に届く。
月光のおかげで足元が見えないなんてことはなく、海に落ちたらそんときゃそんとき、なんてわけの分からない開き直りの心持ちで、漁港の防波堤を先に向かって歩いて行く。
昼間であれば数人釣り人もいたのかもしれない。打ち捨てられ、干からびたヒトデが防波堤の端の方で地上の星と化している。
その星を不敬にもつま先で蹴飛ばして海へと意味なく戻してやった時、俺は防波堤の一番先に立つそれに気づいた。
それを一目見た時に思ったのは、空と海だった。
ヒラヒラとしたドレスのようなヒレ?は深い青色、そしてその縁を始めとして彩る黄色い筋や丸い模様。
その青色はまるで夜明け前の少しだけ明るくなった空のようで、であればそれを彩る黄色は取り残され消え行く星か、はたまた明けの明星の輝きか。
そしてその夜明け空のドレスの内側に湛えられているのは、ドレスよりも幾分か淡い蒼色をした半分人型の、しかし人ではない姿。
月光を受けてぬらりと光るその蒼色はまさに海のようで、女性の姿をしていることもあって、母なる海という言葉を連想させた。
彼女はこちらに向かって立っていて、明らかに俺を認識している風だった。
だというのに特にアクションを起こさず、こちらを見据えたままなことに、思わず困惑してしまう。
魔物娘というのは非常に積極的で、魔物娘側から襲い掛かってくるのが常だと聞いていたからだ。
「……大人しい、んだな」
何かを言おうとして、なんとかそれだけを口にする。
神秘的にも思えるその雰囲気に、なんだか言葉を発することが躊躇われたからだ。
それでも、胸の奥、これが本能というものなのだろうか。抗いようのない何かが、確かに彼女を求めていた。
「……」
彼女は俺の声が聞こえてるのか聞こえていないのか、ただ頭の触覚をピコピコと動かしながら俺の方を見つめているだけ。
それでも前髪に隠れて見えないその瞳に見つめられているだけで、体の奥から熱が湧いてくるようだった。
「……おいで♥」
どこかぼおっとした表情だった彼女の顔が、柔らかな笑みに変わると同時、そんな言葉をかけられた。
なんのアクションも起こしていなかった彼女がゆっくりと腕を広げる。
もちろん、俺を迎え入れるために、だ。
頭の片隅で、理性と常識が警鐘を鳴らしていた。
このまま誘いに乗ってしまえば、もはや逃げることはできないのだ、と。
――右足が、前に
一時の快楽を求めて、今後のことは考えているのか、と。
――左足が、前に
結ばれたとして、今の安月給な仕事でどうするのだ、と。
――右足を、前に。
知ったことか、と本能が警鐘を殴り飛ばす頃には、彼女の姿はもう目の前だった。
空色のドレスと、海色の彼女。そんなアオ色に飛び込んだ俺の行動は果たして、投身だったのか、入水だったのか。
そんな問いはもう、彼女に包まれる感触で全て上書きされてしまったのだった。
全身が彼女に包まれている。
ゼリーとも綿菓子ともつかない柔らかな感触、少しだけひんやりとした感覚、比喩的表現ではなく、文字通り彼女そのものに沈み込み、包み込まれている。
それはもはや抗えぬ安堵であり、忘れ得ぬ快楽に他ならない。
そうやって彼女に包まれたまま、ゆっくりと防波堤に体を横たえられた。
もちろん俺と彼女は一瞬たりとも離れることはない。
その動きの中で、前髪の隙間から彼女の瞳が少しだけ見えた。今日の満月と同じ、黄金色の瞳が。
しかしながらその瞳にはまだ少しだけ、迷いのようなものがあるようにも見えた。
さっきまでの態度といい、きっと彼女は魔物娘の中でも大人しい部類なんだろうと思う。あとで調べてみないと。
だから今度は俺が、彼女を受け入れることにした。
受け入れてもらっておいて受け入れないなどと、そんな馬鹿な話はないのだから。
「おいで」
腕は広げるまでもなく密着していたので、その片方を少し上げて、彼女の頬に手を添えた。
自然と笑みがこぼれた。それは受け入れてくれてありがとう、でもあり、君は俺が受け入れるよ、でもあり。
それが呼び水になったように、彼女は今度こそ満面の笑みを浮かべて、飛び込むようにキスをしてくれた。
言葉を発するのはおろか、呼吸さえも煩わしい気持ちだった。
最初は触れる程度に彼女のプルプルとした唇を味わおうかと思っていたのだが、唇が触れるやいなや彼女の舌が俺の口内に伸びてきた。
となれば負けてはいられない。すぐに応戦とばかりに彼女の舌に舌を絡め合う。
俺を包み込む体表よりも少し熱を持ったその舌を、舐め、ねぶり、蹂躙するように。
彼女が俺の歯列を舌でなぞれば、俺も同じことを返した。
俺が彼女の舌を小刻みに吸えば、彼女も同じことを返した。
もうどれくらいディープキスだけで時間が過ぎたのか分からなくなる頃には、俺のモノはズボンの下でギチギチに膨らんでいた。
全身を沈み込ませている彼女がそれに気づかないはずもなく、キスを続けながら、いつの間にか俺のモノは彼女の手によって開放されていた。
キスをしながら、彼女が体をゆっくりと擦り付けるように動かし始めた。
ぬるりとした感触とともに、彼女の豊かな胸が俺の胸で押しつぶされ、擦り付けられる。その先端だけが、コリコリと硬い。
俺のモノに擦り付けられているのは、おそらく彼女の脚に当たる部分なのだろう。こっちもぬるぬるとした感触で、まるでソープでマットプレイをされているかのようだ。
「っ、ぐ」
「っは、ぁん♥」
二人のくぐもった声が脳に響く。
キスを続けたままだから、お互いの声がまるで口内で反響して脳に響くような、そんな不思議な感覚だ。
「っく、ごめん。これ以上は、結構……」
脚にこすりつけているだけだというのに、モノの根本、深いところに何かが集まるような、いわゆる射精感が高まってきた。
さすがに魔物娘相手とは言えこのまま出してしまうというのは、俺も、そして彼女も不本意だろう。
「わかっ、た」
彼女はそれだけ言うと、もぞもぞと体をくねらせ始める。
きっと俺のモノに彼女のアソコを合わせようとしているのだろうが、そんな動き一つにしても、出来る限り俺と密着する面積を減らしたくない、という思いが伝わってくるようだ。
やがて、くちゅり、という音が聞こえそうなくらい、濡れそぼった感触がモノに伝わってくる。
見なくても分かる、彼女のアソコだろう。
「じゃあ、いれ」
彼女が言いながら、モノの先を入り口にあてがう。
いれるね、と言いかけたその途中で、ちょっとした悪戯心が発露した俺は、ズン、と腰を突き上げた。
「る、ひぁっ!!♥♥」
高く澄んだ声が、夜の港に響く。
いきなり根本まで突っ込まれた彼女は、思わず上半身が離れてしまうほどに、体を逸らして快楽を噛み締めていた。
数瞬経って少しだけ恨みがましく俺を見つめるその瞳には、しかし抑えきれない情欲の色が浮かんでいる。
「……好きにして、いいよ?」
彼女はそれだけ言って、また俺の方へ体を預けてきた。
包み込まれながらのディープキスを再開した俺だったが、こんなことを言われて奮い立たないわけがない。
「んんっっっ!♥」
彼女の腰に腕を回し、尻に手を置く。
その手に力を込めて俺の方へ押さえつけるようにしながら、腰を突き上げる。
彼女の膣内はその体表からすれば驚くほどに熱く、そして体表以上に愛液でぬるぬるだった。
「んっ♥ んんっ♥」
狭い膣内をかき分けるように、一番奥めがけて突き上げる。
ディープキスをしながらそんな激しく動けば酸素が尽きるのは当然ではあるのだが、今はそんなことどうでも良かった。
只々彼女を味わいたかったし、彼女にも俺を味わってほしかった。
何重もの膣内の襞がモノを離すまいと吸いつくように擦り上げる。
特にカリに引っかかる時なんて、その一つ一つがしびれるほどの快感を脳に叩きつけてくる様だった。
そんなもの、長くもつわけがない。
「んっ♥ はっ、んっ、んん〜〜〜っっ♥♥」
もはや我慢はできないと自覚して、ラストスパートで更に激しく彼女の膣内を突き上げる。
彼女の喘ぎ声も呼応するように激しくなり、それが俺の脳を揺らして、目がチカチカするくらいの快感が襲ってくる。
彼女もそれで察したのだろう、物欲しそうな視線が、俺の視線と交錯した。
それを合図にしたかのように、俺は彼女の一番奥までモノを突き上げ、同時に自分でも驚くほどの精液を子宮に注ぎ込んだ。
「〜〜〜〜〜っっ♥♥♥」
彼女の方はと言えば、それと同時に自分もイったみたいで、軽くわけが分からなくなっていたのかもしれない。
絡めていた俺の舌は、それなりの力で彼女に噛まれてしまっていた。
もちろん痛い。痛いのだが、彼女がくれた痛みと思えば、それはもはや甘露と同義に思えた。
タンクが空っぽになるほど精液を出し尽くした頃、彼女もようやく我に返ったようで、オロオロした様子で俺を覗き込んでいた。
多分舌を噛んでしまったことに気づいたのだけど、かといって離れたくもなく、怒っていないかどうか探っている、といったところだろうか。
正直軽く口内に鉄の味がするあたり、小さく傷がついていると思われる。
なのでこの青いお姫様には、罰を受けてもらわなければならない。
「許して欲しい?」
「っ! っ!」
ブンブンと、ヘッドバンギングもかくやとばかりに首を縦に降る彼女の姿が、ひどく可愛い。
魔物娘を嫁にもらった人が総じて幸せそうにしている気持ちが、分かった気がした。
「じゃあそうだな。このまま朝まで、君に包まれて過ごしたい」
「え、ぁ、うんっ、もちろん♪」
跳ねるような楽しい声でそう答えた彼女を見て、安心やら疲れやらで俺の意識は眠りに落ちていった。
目が覚めれば色々と大変なことになりそうだが、まあなんとかなるだろう。
彼女に包まれているこの安らぎのためなら、なんだって頑張れる気がするのだから。
18/04/12 22:58更新 / 紅雪