『ミノス城』

コンコン。

私はある部屋の前で立ち止まりその豪華に施された扉をノックした。
あまりここへは来たくなかった、いや最近の城の者なら好き好んで入る場所ではない。
だが私にはここに居る人物にどうしても用があった。

「…鍵なら開いてるぜ？」

扉の向こうからぶっきらぼうな声がしたのを聞いて私は扉を開けて中へと入っていった。

「失礼します。」

部屋に入ると椅子の背もたれにだらしなくかける青年の姿を見つけた。
背中にマントを下げ、簡易な鎧を着けている辺りは剣士に見えなくもない。

「なんだ、飯ならさっき食ったぜ？」

めんどくさそうに青年が目も合わせずに鏡の様に磨かれた大剣を手で弄びながら言った。
私は気にせずに話をする。

「いえ、少しお話がありまして、お時間を少々…。」
「あぁ？今日俺は野郎と話す約束なんかしてないぜ。…気分が乗らねえから後にしろ。」

とりつくしまもなく、青年は犬でも追い払うように手を払う仕草をした。
…この男が勇者と呼ばれていなければ私は今腰に差している剣を抜いて切り捨てているところだろう。
そんな気持ちを堪えて、私は少し声の調子を変えて言った。

「…この間の作戦の話だと言ってもですか？」

私の言葉を聞いて勇者が弄んでいた手を止めた。
そのまま目だけをこちらに向けて勇者は私を睨みつける。

「なんだ…俺の仕事に文句でもつけに来たか？それとも”意見”しにきたか？」
「いえ、どうしても確認したいことがございまして…少しお話してもよろしいですか？」
「確認…？」
「はい、私にとっては重要なことなのです。」
「ふん…。」

すこし考えるように顎に手をやった後、勇者はだらしない姿勢のままこちらへとむいて笑いかけた。

「おもしろい…少し気が変わったぜ、話してみろよ。」
「ありがとうございます…、ではまず始めから確認していきましょうか…。」

私は鮮明に思い出しながら勇者に聞かせた。

「そう…あれは、司祭様の指令によりある村を浄化する作戦でした。」



…。



「ではこれより、魔物に支配された村を浄化するべく…作戦を開始する!!」

標的の村が見下ろせる丘の上。
そこで一個中隊ほどの武器を掲げた教団の騎士達が集まり、その前では指揮官らしき人物が全員を見渡し語り始める。

「下に見えるあの村には多数の魔物と魔に魅入られた哀れな者たちが住み着いており、あまつさえ無垢な民を襲い、その規模を大きくしているとのことだ。我ら神に使えし教団はこの行為を許すわけにはいかない。」
「知っての通り、村には腕の立つ魔物が数匹…さらには元戦士であった魔に魅入られし者共が守っており、いままでの浄化作戦は難攻を極めていた。」
「そこで事態を重く見た司祭様はこの作戦に多大な戦力を注ぎ込んでくださった、諸君らは教団の中でも選りすぐりの戦士達と聞いている、この戦いで一気に攻め落とすのだ!!」
「オォーッ!!」

「あぁくそ…うるせーな。」

指揮官が武器を高く掲げたと同時に騎士達は揃えて雄叫びを上げる。
その脇で五月蝿そうに耳を塞ぐ青年が立っていた。

「おおそうだ、諸君らに朗報がある…ミノス王国の大臣ゼネラル様の御計らいにより、あの魔王を討ち取ったとして知られる伝説の勇者様が我らの加勢に来てくださったのだ!!」
「おぉ…!!!」

その言葉にそこに居た全員がざわめいた。
至るところで『あの勇者様が…？』と声を上げ辺りを見回す。
すると、さきほど耳を塞いでいた青年がいつの間にか指揮官の隣へと来ていた。

「さぁ、勇者様…彼らに何かお言葉を…。」
「あーはいはい…。」

少し気だるそうに勇者と呼ばれた青年が少し前へと出る。
皆の注目が集まる中、勇者は語り始める。

「あぁー、俺は長ったらしい説明やらは嫌いなんだ、だからお前らにわかりやすく言っておく…。」

勇者は見下すような目付きで見渡しながら言った。

「俺の前に立つな、以上。」

「…。」

突拍子の勇者の言葉に一瞬、ざわついていた周囲が一斉に静まり返った。
その後、誰もが顔を見合わせ口々にざわめき始め、当の本人は上の空だった。

(なんなんだあの態度は？！我らは教団から選ばれたエリートなのだぞ?!)
(本当にあれがあの魔王を討ち取った勇者なのか…？)
(きっとどこぞの馬の骨が成りすましておるのだろう…すぐにボロを見せるさ。)

「あ、あぁ…コホン、さすが勇者様!!」

指揮官も最初はあっけにとられていたがすぐに気を取り直して皆に向き直った。

「ではこれより作戦の概要を説明する、各隊長は速やかに集まるように…勇者様もご一緒に―」
「いらねぇ。」
「…は？」

またもや突拍子なことを言い、皆の注目を浴びる勇者。

「俺はそういうめんどくせぇことはしないことに決めてるんだ、お前らはただ俺の後ろで死にかかってる奴を始末してればいい、時間がねぇから先に行くぞ。」
「あ、勇者様!!お待ちください!!」

そう言って勇者は愛用の剣を持ち、指揮官の制止も聞かぬままそそくさと丘を降りていってしまった。

「なんと勇ましい…ならば仕方ない、全員勇者様に続け!!勇者様の前には絶対に出るなよ!!」
「オ、オォッ!!!!」

騎士達の不満が募る一方で勇者はまっすぐに目的の村へと侵攻していった。




『メイル村』

「敵襲、敵襲っ!!」

見張り台にいたセイレーンにより、けたたましく警報の音が村全体へと鳴り響く。
穏やかであった村が一変し、ほとんどの魔物は鎧を身に付け各自武器を持った。
男性の方も装備を身に付け、戦えない者たちを村の後方へと避難させた。

「急げっ、戦える者は武器を持って正面ゲートへ集まれ!!」

村のリーダーのケンタウロス『シャノン』はゲートの高台へと上り皆に指示を飛ばす。
そこに彼女の親友であるミノタウロスの『ブレア』が隣りへと付いた。

「シャノン、敵は何人だ?!」
「前回よりは多くはない、ただ統率が取れている分かなりの手練だ…装備も充実している。」
「なんだ、奴さんやっと本気になったわけか…これは楽しめそうだな。」
「ただそれよりも厄介なのが一人いる…一番前にいる奴が見えるか？」
「うん？…なんだあの野郎は、はぐれて突っ込んで来やがるぞ？あいつがなんかあるのか？」
「殺気でわかるんだ、奴はかなり強い…いや強いなんてもんじゃない…。」

シャノンは必死で落ち着いてはいるがその身体は震えていた。
魔王軍で元副隊長であった彼女は村の中でも抜群の統率力と武力を持っていたためにリーダーとして選ばれた。
その彼女がここまで恐るという人物…それだけでもブレアはこの戦いが激戦になることを予期した。

「…今回はなりふり構ってられねぇようだな。」
「だが勝機はまだある…あの男さえなんとかすれば向こうの士気は落ちるはずだ、私たちは勝てなくても皆を守れればそれでいい。」
「よし、全員に伝えろ!!標的をあの男にだけ絞るんだ、雑魚には目もくれるなよ!!」

ブレアは作戦を立てるために高台を降りていった。
最後にシャノンは向かってくる男を見ながら呟いた。

「まさか…な。」

シャノンは一瞬、確信とも思える彼の正体を思い浮かんだが頭を振って取り消した。
…それを認めてしまえば自分たちは勝てないと思ったからだ。


…。


「皆、早く急いで…こっちだ!!」

戦えない子供や老人を避難させるべく、リザードマンの『シビル』は何人かと協力して避難を誘導していた。
向こうでは戦いが始まっているらしく、戦火の音や断末魔が聞こえてきた。
どちらが勝っているかなんて分からないが少なくとも死人が出ていることは戦士である彼女には嫌でも分かってしまう。

「よし、後少しだ…お前たちは先に皆の援軍に向かってくれ!!」
「わかった!!…シビルも後で来いよ?!」
「わかっている、皆死ぬなよ？」

協力してくれた男たちは皆の援軍へと向かうべく去っていった。
もうすぐ避難も終えようかと言うときに一人の少女が彼女へと駆け寄っていった。

「母さん!!」
「エルザ?!」

それは少女は紛れも無く実の娘であるエルザだった。
彼女は訓練で使う愛用の剣を持ってシビルの前へと立つ。

「何をしているんだエルザ?!早く逃げろ!!」
「母さん、私も一緒に戦うよ、皆で村を守るんだ!!」
「駄目だ、お前はまだ戦える歳じゃない!!すぐに引き返せ。」
「でも…。」
「大丈夫…母さんは負けたりはしない、お前は私たちの帰りを待っていてくれ。」
「…。」
「わかったな？」
「…はい。」

自分の無力さに目を伏せるエルザをシビルは抱きしめ、優しく後ろ髪を撫でた。
もう一度、ここに帰って娘を抱きしめられるようにと自分に言い聞かせながら…。

「じゃあ行ってくる、…ちゃんと生き抜くんだぞ。」
「はい!!」

シビルは最後に振り返りそうエルザに言葉を残し戦地へと走った。

そして、戦っているであろうその場所へとシビルが着いたとき、彼女は愕然とした。

「…何が…起きて…？」

そこは…地獄のような光景だった。





―――――シビル到着の30分程前。


「くそっ、なんなんだよこいつは?!」
「なぜだ…何故こっちの攻撃が効いてないんだ?」
「怯むなっ、体制を崩したら終わりだぞ!!」

シャロンをしんがりにメイル村の戦士達は後方の方へと追い詰められていた。
誰もが傷を負い、負傷者ですら助けることもできない、彼女たちにとって絶望的な状況だった。

「…この…化け物め!!」

シャロンは忌々しく苛立ちながら目の前の男にそう言った。

「てめえらに言われたかねぇな…ま、悪い気はしねえけど。」

男は肩を軽く慣らしながらうすら笑いを浮かべ答えた。

わずか数分の出来事であった。
木材とはいえ太い丸太を何本も重ねた分厚い正面ゲートはいとも簡単に突破され、屈強の戦士であった仲間達も今では半分ほどに減っていた。
そしてそれは驚くことに、目の前のたった一人の男がしたことだった。
シャロンはこの時、自分の最悪の予想が的中してしまったことを嘆いた。

「やはり貴様…伝説の勇者だったか。」
「勇者…魔王様を討ち取ったあの勇者かよ?!」

その言葉を発したとき、全員に電流が走ったかのようにびくついた。
この世界であれば誰もが知っている伝説の勇者、それは魔王を討ち取ったとして知られ魔物からは恐れられる存在になっていた。

勇者はそれを聞いてうんざりしたように言う。

「バレたか…だが知っても逃げんなよ？…いちいち追いかけるのめんどくせぇんだから。」
「どの道ここから先は何もない、我らとてこれ以上後退する気はない!!」
「そりゃよかった、じゃあそろそろ再開しようぜ？」

勇者が待っていましたと言わんばかりに大剣(自称バスターソード)を抜き、前へと歩きだした。

先程のシャロンの言葉は戦えない者を逃がすための嘘であり、本来は後ろに逃げれば山道へと逃げられるようになっていた。
だがもし彼女たちがここで逃げればすぐに追いつかれてしまい、最悪の場合戦えない者たちまで見つかる危険性があった。
だから彼女たちは勝てないと分かっていてもここを死守すると暗黙に決めていた。

彼女たちは勇者が進む度に少しずつ後退し、間に微妙な間隔を空ける。

(もう少しだ…あともう少し…。)

悟られないようにゆっくりと後退する。
勇者は痺れを切らしたのか少し苛立った風に怒鳴った。

「なんだっ、いちいちムカツクこと―!」
「今だっ!!」

シャロンが合図すると周りの建物や瓦礫から一斉に仲間達が現れた、エルフが率いる弓兵隊だ。

「放て!!」

リーダーのエルフの掛け声と共に無数の矢が一斉に勇者へと放たれた。
勇者は驚くこともなく左手の甲を…まるで見えない盾でも構えるように前へと掲げた。
各矢はまっすぐに飛んでいき―

カシャッ!!
パキンッ!!
クシャッ!!

…そこに壁があるかのように勇者の目前で弾かれてしまった。

「―してんじゃねぇ!!」

勇者は身体を軸にして大剣を軽々しく水平になぎ払った。
剣が一瞬光ったかと思うと、それは真空波となってその場にいた者たちを切り裂いた。

「くっ?!」
「ぎゃぁ!!」
「いやぁ!!」
「ぐえぇ?!」

何人かはまともに受けてしまい絶命してしまったが、運良く避け切れたエルフがシャロンの元へと後退する。

「やっぱり駄目だっ、あいつには矢が効かない!!」
「なんで弾かれるんだ…魔法障壁か何かか?!」
「そんな…あれは無機物に対しては効果は発揮しないはずだろ?!」
「ならこいつならどうだぁ!!」

後ろから叫び声がしたかと思うとゴブリンの姉妹が荷車を押して走ってきた。
その荷車には大砲が積まれており、砲身が勇者へと向けられる。

「これは…まずいか？」
「撃てぇぇ!!」

ゴブリンが大砲の上部に火を灯すと轟音を鳴らし、砲弾が打ち込まれた。

「ぐっ?!」

流石に慌てた勇者が左手をかざすと砲弾はまたしても見えない壁に弾かれ明後日の方向に飛んでいってしまった。
しかし衝撃が大きかったために勇者は体制を崩し、膝を付いてしまった。
しかもそのせいで攻撃を受け付けなかった勇者の左手のトリックが見破られてしまう。

「おい見ろっ、奴の左の手の甲に何かあるぞ?!」
「あれは、盾？…そうか?!奴の篭手から形成された光属性の盾だ、そのせいで見えなかったんだ!!」
「見えない光の盾だぁ?!通りで攻撃が効かないわけだぜ、だが見破りゃどうってことねぇ!!」
「奴は怯んでるぞ!!盾が防ぎきれない部分を狙え、行くぞ!!」

シャロンは好機と捉え、動ける者全員で勇者を取り囲こもうと飛びかかった。

「…図に乗ってんじゃねぇぞ、糞が。」

勇者はゆらりと立ち上がると持っていた剣を地面へと突き刺し、全員を睨みつけた。
…それはまるで獲物を捉えるような猛獣の目だった。

「…GreedEatIng(グリードイーティング)」

そう呟いた瞬間、勇者に変化が訪れた。

「おおぉぉぉぉ…!!!!」
「なんだ?」

疼くまった勇者の身体の至る所から血管が浮き始め、付けていた鎧が軋む程に筋肉が膨張していく。
髪は怒髪天のごとく逆立ち、剣をとる姿は恐怖を思わせる。
血走ったその目は黒と赤に染まり…人とは思えないほどの殺気を周囲に放った。

「ひっ?!」
「これは…まずい?!全員、退避―」
「俺を…俺を満たせぇぇっ!!!!!!」

シャロンが号令を放つ時にはもう遅かった。
勇者は叫びとも怒声とも分からない声を発しながら近くにいた五人を一斉に切り裂いた。
シャロンとブレアは離れていたにも関わらず衝撃で吹き飛ばされてしまった。

「ぐっ…。」
「シャロン?!この野郎よくも!!」
「援護しろ、一斉に掛かれ!!」
「駄目だっ、逃げろ!!」
「ははっ、そうだ!!もっと俺を楽しませろっ!!!」

彼女の叫びもむなしく三人同時に飛びかかっていった男達は無残にも虐殺された。
一人は素手で顔を握り潰され、残りの二人は同時に切り捨てられ、膝をついたところを蹴り飛ばされてしまう。

「なんて…強さだ…。」
「次弾装填よしっ!!」
「とどめだ、撃てっ!!」

戦意喪失し、腰を抜かすシャロンの頭上を砲弾が通り過ぎた。
砲弾はまっすぐに勇者に向かっていったが―

「おっとぉ？！」

剣を捨て砲弾を右手で受け止めようとし、衝撃で腕が鈍い音を立てて真後ろに行ってしまったが砲弾は掴んだままだった。
そして更にその腕を無理やりにゴキリッと元に戻した。

「「マ、マジで…？」」
「ほら、返すぜ?」

勇者はそのまま砲弾を軽いボールのように二人に投げ返した。
その速度は大砲と何ら変わりなく、シャロンの後ろで大砲と共に二人は吹き飛んだ。

「ほんとに…人間か？」
「はっ!!!」

剣を拾い上げ勇者がシャロンの元へと向かっていく途中、隠れていたエルフが飛び出し、すかさず矢を放った。
矢は肩に刺さったものの勇者は気にせず歩き続ける。

「この、化け物!!」

次の矢を放とうと背中に手を伸ばそうとしたとき、勇者がこちらを見た。
その勇者の顔は…不気味なほどに笑っていた。

「ひっ?!」

背筋が凍りつき、彼女は一瞬戦う意欲を無くしてしまった。
気づけば彼女は後ろにまだ辛うじて建っている建物へと逃げてしまっていた、…それが愚の骨頂だと分かっていたとしても。

「おい、何処へ行くんだ?」

勇者は足元に転がっていた瓦礫の中から数メートルはある柱を掴みあげ、建物へと投げ飛ばした。
柱が深く突き刺さり、建物はまたたく間に瓦礫へと変えていった。

「こんなの…勝てない。」

壊れてしまったかのように呟き続けるシャロンの前にようやく勇者がたどり着いた。
勇者は不機嫌そうにシャロンを見下す。

「おいお前、大した怪我してねえじゃねえか…だったら早く立ち向かってこいよ？」
「狂ってる…こんなこと…。」
「聞いてんのか、立てよ!!」

勇者はシャロンの首を掴みそのまま上へと持ち上げた。
苦しそうにシャロンが悶え、手を振り解こうとするがびくともしない。

「ク…カハッ…。」
「つまらねぇ…戦う気がないんならこのまま死ね。」

勇者が一層強く手に力を加えようとした時だった。

ジャラジャラジャラ!!!!

「アガッ?!」
「…ケホッ…ケホッ!!」

勇者の首に突如、鎖が巻き付き締め上げた。
シャロンは開放されたものの、きつく締め上げられていたせいで動けずに蹲っていた。

「シャロン、早く逃げろ!!」

見るとブレアが後ろから勇者を鎖で吊し上げていた。
勇者は宙吊りになったままもがき続ける。
それを見てようやくシャロンの意識が戻り始めた。

「ブレア!!」
「いいから行けっ、お前だけでも生き残れ!!」
「…すまない!!」

下唇を噛み締め、涙を堪えながらシャロンは走り去った。
勇者を締め上げながらブレアは余裕の笑みを浮かべる。

「お前だけでも道連れだ、このまま落として―」

パキンっ!!

「?!」

締め上げていたはずの鎖が音を立てて切れてしまった、みると勇者は手の力だけで鎖を引きちぎり、何事もなかったかのように立ち上がった。

「こうしたほうが早かったな、楽しすぎて忘れてたぜ…。」

振り向いてケタケタと笑う勇者を見て、ブレアは確信した。
今ここにいる男は…この世界に存在してはならないハズのものだったと。

「この…糞がぁぁぁ!!!」
「遅ぇ。」

ブレアが殴りかかる前に勇者はブレアを地面へと叩き伏せた。
そして彼女が最後に見たものは…。

顔に容赦なく踏み付けようとする勇者の恐ろしい笑みだった。

■作者メッセージ

はい…お待たせいたしました!!
かなり長くなってしまったので更に分割させていただきました…申し訳ないです。

なかなか各時間がないので難しいですがなるべく早く上げて行きたいですね。

ここまで見ていただいてありがとうございました!!